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生物多様性保全を踏まえた高速道路樹林の管理計画

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 143-200)

本章では,第 1章で示した3つの研究目的「①樹林化による高速道路樹林の整備効果」,

「②樹林作業による高速道路樹林の植生回復特性」,「③地域住民の高速道路樹林に対する 認識特性」を明らかにした第3章,第4章および第5章の結果を踏まえて,生物多様性と 沿道環境の調和の図られた高速道路樹林を整備・維持するための,新たな管理計画の枠組 みの構築可能性を示した。

6-1 生物多様性に関する評価対象の整理

生物多様性に関する評価指標は,「生態系の多様性」「種間(種)の多様性」「種内(遺伝 子)の多様性」の3つに分類されるといわれる14)。「種の多様性」は,種数および出現種の 属性によって評価可能であり,出現種数の増減は指標の一つとなる。

盛土のり面内を生活の場とする生物種は,植物界から動物界まで幅広く生息すると考え られるが,動物(哺乳類・爬虫類・両生類)・鳥類・昆虫類,土壌微生物(ムカデ類・クモ 類(ダニ等))に対して,植物種は定着後に移動することなく,基本的には地上部に姿を表 すため,種数把握が容易である(表-6-1-1)。そこで,本論文では植物相を評価対象に生物 多様性に配慮した管理計画を検討した。植物相の評価にあたっては,第 3章および第4章 から得られた結果を活用するため説明変数を整理した(表-6-1-2)。

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表-6-1-1 生物多様性に関する評価対象の特性

Table6-1-1 Characteristics of objects to be evaluated for biodiversity

評価対象 評価対象の生活史の特性

動物界 哺乳類・爬虫類・鳥類・昆 虫類

盛土のり面内で閉鎖的に生活史を完結 する生物は少ない

土壌動物(ミミズ・ヤスデ 類・クモ類など)

数 m2単位でコロニーを形成する場合 がある。

植物界 植物(木本・草本) 外部からの侵入及び繁殖方法は,風散 布,鳥散布,重力散布などの違いはあ るが,侵入個体は同一個所で生活史を 終える。

表-6-1-2 高速道路樹林の主な説明変数

Table6-1-2 Main explanatory variables for expressway forest

分野 説明変数 応答変数 応答内容

階層 階層(1,2,3,4) 種 種数 被度(優占度)

相対照度

階層ごとの植生

樹林タイプ 林縁タイプ 林内タイプ

各樹林タイプの植生

常緑広葉林,落葉広葉 樹林,混交林など 整備方法

(樹林化時期)

当初植栽・追加植栽・

自然遷移

樹林化実施時期によ る植生の特性

樹林作業方法 間伐率,高伐方針 樹林作業方針による

植生

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6-2 高速道路樹林の特性を踏まえた管理計画の条件整理

本節では,生物多様性に配慮した高速道路樹林の視点から,第 3 章「樹林化による高速 道路樹林の整備効果」および第 4 章「樹林作業による高速道路樹林の植生回復特性」の結 果と考察を踏まえて,管理計画の策定条件を整理した。

6-2-1 樹林整備方法による管理計画の条件の整理

第 3 章の樹林化による高速道路樹林の整備効果において示した各樹林タイプの特性を踏 まえ,樹林整備の手法(以下,「整備タイプ」という)を類型化し整理検討した。はじめに,

一般的に高速道路建設に合せて実施する樹林化を「当初植栽型」とし,これに高速道路の 供用から約10年以上経過したのち補植を行う樹林化を「複合植栽型」とした。次に,高速 道路の供用から約10年以上経過したのちにのみ行う樹林化を「追加植栽型」とし,続いて,

樹林化せず植生工後の植生遷移だけで樹林化を「自然遷移型」とすることで,4つの整備タ イプに類型区分した(表-6-2-1-1)。

当初植栽型と複合植栽型は,樹林化後は植栽種主体の樹林を目標とする整備タイプであ る。特に,当初植栽型の高速道路樹林は,樹林化の実施時期が早いため,樹林化後25~30 年目には第 2 階層の植栽種の優占度が高まり,植栽種により樹冠がうっ閉した群落形成を 期待できる。樹林タイプの目標設定は,「常緑広葉樹林型」,「混交林型」,「落葉広葉樹型」

など考えられるが,樹林化を行う場合は,生育環境の適応範囲で,自由な植栽種の設定が 可能であると考えられる(表-6-2-1-2)。なお,第 3 章で示唆した平均相対照度とツル性植 物の優占度の関係において,混交林はツル性植物の優占度が高まる傾向にあるため,落葉 広葉樹の混入率を高める場合は林床管理において,ツル性植物に対する管理計画が必要で あるといえる。

追加植栽型は,樹林化時に目標とする樹林に有益な自然侵入種を残すことによって,自 然遷移型のように,自然侵入種の優占を期待することが可能である。

第 3 章の結果において,高速道路樹林の類別植物種による出現種数の比率は,周辺林の

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林縁タイプと同程度であることを示唆した(図-3-3-1-1)。また,第 4 章の結果において,

高速道路樹林の総出現種数は,整備タイプ,樹林タイプ,樹林作業種別によらず調査対象 面積との相関関係を示し,第 3 章で調査した周辺林の林縁タイプと相関があった(図 -4-4-2-1)。したがって,生物多様性の視点において,高速道路樹林は,植栽種を主体とし た場合も,下層植生は林縁的タイプな植生で調和を図ることが可能である考えられる。

なお,生物多様性への配慮が重要となる地域は,樹林化の実施時期が遅い追加植栽型,

または自然遷移型の整備タイプの採用によって,自然侵入種主体の高速道路樹林に導くこ とが可能と考えられる。さらに,植栽種に地域性苗木を導入すると,種内の生物多様性保 全にも配慮した高速道路樹林の整備が可能となる。

ただし,追加植栽型・自然遷移型の整備タイプは,高速道路の供用から高木性の木本類 によって高速道路樹林がうっ閉するまでの期間は,当初植栽型や追加植栽型より要する。

特に自然植栽型は30年近く経過した高速道路樹林でも,一般的に低木層や草本層といわれ る第3階層・第4階層の優占度も高く,所謂「藪」状態を形成することを示した(図-3-3-4-1)。

したがって,居住地域が近接するような生活環境保全を目的とした高速道路樹林には適用 しにくい整備タイプといえる。

また,本研究の対象調査地は,いずれも樹冠がうっ閉し林冠を形成した高速道路樹林を 条件に選定した。星子は「名神高速道路のり面の植生遷移模式図」において,自然遷移に 委ねる過程において,クズやニセアカシア等の侵入により偏向遷移となる可能性を指摘し た。したがって,自然侵入種の導入を目的とする場合も,目標設定に適応した植物種の出 現状況であるか植生を適宜把握し,草刈,除草剤等の薬剤散布,ツル切など綿密な管理計 画を行う必要であるといえる。

つまり,樹林化実施時期の遅い整備タイプほど,管理計画において目標とする樹林タイ プを明確に定め,管理を行う必要があると考えられる。以上の各整備タイプの特性を踏ま えると,整備タイプの選定は,整備段階と管理計画のそれぞれの視点において,コストと 労力も含めた検討が重要であるといえる。

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表-6-2-1-1 高速道路樹林の樹林化実施時期による整備方法の条件整理

Table6-2-1-1 Conditions of planting methods for each construction period of expressway forests

No 整備タイプ 整備方法 整備特性 生物多様性への配慮条件

1. 当初植栽型 道路建設時に全 面樹林化

植栽種による一斉林を整備。最も早 期に樹林植生を回復。下層植生は植 栽種の実生苗が出現。意図した樹種 による樹林を維持可能。

周辺環境と調和した植栽 種とする。地域性苗木で あ れ ば 遺 伝 的 配 慮 も 可 能。

2 複合植栽化型

(当初植栽

+追加植栽)

道路建設時と供 用後(約 10 年以 上経過時)に樹 林化

植栽種による複層林的な樹林整備。

樹林作業・更新を段階的に実施可能。

苗木育成のための下草刈期間は長い

(各樹林化実施後 5 年程度)

周辺環境と調和した植栽 種とする。地域性苗木で あ れ ば 遺 伝 的 配 慮 も 可 能。

3 追加植栽型 供用後(約 10 年 以上経過時)に 樹林化

植栽種と侵入種の混在した樹林整 備。自然侵入種を取り込んだ樹林を 整備可能。

沿道環境に適応する植物 種の選定技術が必要。地 域性苗木であれば遺伝的 配慮も可能。

4 自然遷移型 自然侵入種のみ で管理

自然侵入種のみの樹林を構築。初期 投資不要。樹林形成までに時間を要 する。樹林形成過程において「藪」

状態になる。

沿道環境に適応する植物 種の選定技術が必要。

表-6-2-1-2 高速道路樹林の樹林タイプによる整備方法の条件整理 Table6-2-1-2 Conditions of planting methods for each expressway forest type

No 樹林タイプ 整備方法 整備特性 生物多様性への配慮条件

1 常緑広葉 樹林型

高木性木本類の 7 割以上を常緑 広葉樹とする

類別植物種(木本類・草本類・ツル 性植物・シダ類・タケ類・ヤシ類)

の構成比率はいずれも,周辺林の林 縁環境に類似した構成となる。

周辺林の林縁環境に類似 した樹種構成を目標に植 栽種,及び侵入種を選定。

2 混交林型 高木性木本類の 常緑広葉樹と落 葉広葉樹を各々

7 割未満とする 同上

周辺林の林縁環境に類似 した樹種構成を目標に植 栽種,及び侵入種を選定。

明るい樹林になりやすい ため,ツル性植物に対す る管理計画が必要。

3 落葉広葉樹 林型*1

高木性木本類の 7 割以上を落葉 広葉樹とする

同上 同上

*1.落葉広葉樹林は,データ不足のため今後の検証を要する

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