本章では,第 1 章で示した主要な研究目的「①樹林化による高速道路樹林の整備効果を 明らかにすること」に対応するため,第 2 章で設定した研究方法に基づき,長崎自動車道 における樹林化による高速道路樹林の整備効果を明らかにした。この整備効果の把握は,
樹林作業を行っていない高速道路樹林の整備効果の把握によって,第 4 章で検討する「樹 林作業による高速道路樹林の植生回復特性」を把握するための前提条件となるとともに,
高速道路樹林の生物多様性に配慮した管理計画を検討するうえで,第6章の管理計画パター ンの検討の前提となるものである。
3-1 調査対象の高速道路樹林の建設・管理に関する履歴の整理
高速道路建設時に作成する完成図等 90),管理計画策定に使用する管理台帳 91),並びに 高速道路会社へのヒアリングにより,樹林化の実施時期,管理履歴を確認し整理した。
樹林化の実施時期は,高速道路供用時の植栽(以下,「当初植栽」という)と,高速道 路供用から約15年後の2001~2002年度に,当初植栽した箇所への補植や,当初植栽を していない箇所への植栽(以下,「追加植栽」という)があった(表-3-1-1)。樹林化の実 施方法は,樹林化の実施時期や周辺環境の違いによって,植物種の規格,植栽密度及び種 組成の異なる4パターンを確認した(表-3-1-2)。
管理履歴は高速道路会社にヒアリングを行い,過去2年間(2010年度,2011年度)の 作業状況を調査した(表-3-1-3)。のり肩部分は高速道路の走行に必要な視距を確保する場 合,それ以外は苦情対応を行う場合に,作業を実施したものであった。作業内容は草刈主 体で,作業頻度は一定ではなかった。調査地No.1はクズ(Pueraria lobata (Willd.) Ohwi)
等のツル性植物やその他草本植物の繁茂により全面的な駆除要望が生じ,林床全面を作業 範囲としていた。その他は,のり尻の駆除要望や,のり肩の視距確保などのため選択的に 作業していた。のり肩を除く林床管理の実施判断は,要望に基づくことが基本であり,樹 林育成のための計画的な作業ではないことを課題として把握できた。
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表-3-1-1 高速道路樹林調査地の樹林化実施時期と調査地数*
Table3-1-1 Number of investigation areas and time of planting ligneous species
樹林化実施時期 常緑広葉樹林タイプ 混交林タイプ
当初植栽のみ 追加植栽のみ 当初植栽・追加植栽
樹林化なし(自然遷移樹林)
6(2,5,7,8,15,17)
3(1,3,4)
1(6)
2(9,11)
2(12,13)
1(10)
合計 10 5
表-3-1-2 樹林化に用いた植栽木の規格及び種組成
Table3-1-2 Standard and composition of planted ligneous species 植栽樹高
(㎝)
植栽密度
(本/ha)
種組成 当初植栽
追加植栽
300-350 250 80 150
800 1,600 3,333 1,684
タラヨウ,ヤマモモ,ケヤキ,ネムノキ
アラカシ,タラヨウ,マテバシイ,ヤマモモ,コナラ アラカシ,タブノキ,マテバシイ,ヤマモモ,コナラ
アラカシ,ウバメガシ,クロガネモチ,サザンカ,シラカシ,ス ダジイ,マテバシイ,ヤマモモ,イロハモミジ,クヌギ,ケヤキ,
コナラ,ハナカイドウ,ムクゲ,ヤマザクラ,ヤマボウシ,ヤマ ボウシ,ヤマモミジ
*1 下線実線は「常緑広葉樹林タイプ」のみ,下線点線は「混交林タイプ」のみに出現。取消線は,植栽記 録はあったが植生調査で未確認の種。
*2落葉広葉樹はのり尻等に部分的に植栽。配植は調査地により異なる。
*3常緑広葉樹と落葉広葉樹は本数比率2:1。配植は調査地により異なる。
表-3-1-3 高速道路樹林調査地の管理状況
Table3-1-3 State of management work in investigation areas on expressway
*2
*3
*( )内は調査地No
*1
No. 平成22年 平成23年 草刈範囲
1 草刈・笹駆除草刈 のり腹14m
2 草刈 無し 不明
3 笹駆除 無し 不明
4 草刈 草刈 のり肩側9.0m
のり尻側1.5m
5 無し 無し ―
6 草刈 無し 不明
7 草刈 草刈 のり肩側1.0m
のり尻側0.5m
8 笹駆除 草刈 のり肩側5.5m
のり尻側2.5m
No. 平成22年 平成23年 草刈範囲
9 無し 無し ―
10 笹駆除 無し 不明
11 笹駆除 草刈 不明
12 草刈・笹駆除草刈 のり肩側1.0m
13 草刈・笹駆除無し のり肩側1.0m
15 不明 不明 17 不明 不明
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3-2 高速道路樹林と周辺林の樹林タイプの区分整理
樹林化による高速道路樹林の整備効果を把握するために,調査地は,高木性の常緑広葉 樹と落葉広葉樹が生育し,間伐等の大規模な管理作業の行っていない,高速道路の盛土 のり面の高速道路樹林を対象とした。林冠部の樹高は6.0~10.0 mであった。この高速 道路樹林を調査員2名の目視調査により,常緑広葉樹が 7割以上優先する樹林を常緑広 葉樹林タイプ,それ以外を混交林タイプに区分した。調査路線内に落葉広葉樹が7 割以 上優先する樹林はなかった。
対照調査地(以下,「周辺林」という)は,高速道路建設前に成立していた二次林の樹林 地を想定した。そこで,高速道路の造園設計に適用する景観調査手法を準用し,調査路
線から6.0 km以内で周辺林を選定した。この範囲の代表的な植生は,シイ・カシ類を主
体とした常緑広葉樹林(以下,「自然林」という)と,高速道路樹林と同様に,人為的な 植栽を行なったスギ・ヒノキ等針葉樹の植林地(以下,「人工林」という)があった。自 然林の調査地は,自治体によって公園として指定され,人為的な植栽や管理作業を行っ ていない樹林とした。人工林の調査地は,枝打ち・間伐等が実施され,下層植生が成立 し,うっ閉した樹林とした。林冠部の樹高は15.0~18.0 mであった。
また,高速道路樹林の植生回復状況が周辺林の外縁部と中央部のどちらの植生環境に 近いかを把握するため,各調査地を斜面下端から斜面上方に向かう調査地までの距離に よって,10.0 m以内(以下,「林縁タイプ」という)と,10.0 mより奥(以下,「林内タ イプ」という)の 2つに区分した。以上により周辺林は,自然林と人工林の調査地に林 内タイプと林縁タイプを各々設定し,特性の異なる4つの樹林タイプに区分した。
68 3-3 樹林タイプ毎の植生と光環境の調査結果 3-3-1 出現種数と出現種数比率
4回の植生調査による周辺林を含む総出現種数は,全体で47目113科436種を確認し た(表-3-3-1-1)。
樹林タイプ別の種数は,総出現種数は高速道路樹林が周辺林より多く,高速道路樹林の 常緑広葉樹林タイプが最も多くなった。しかし,単位面積(1,000 m2)当たり種数は,林 縁タイプが最も多く,高速道路樹林は林内タイプに近かった。
調査地に出現した植物種の特性を比較するため,出現植物種を木本類,草本類,ツル性 植物,シダ類,タケ類,ヤシ類に分類し,樹林タイプ別の単位面積(1,000 m2)当たり平 均出現種数の比率を整理した(図-3-3-1-1)。
樹林の外観を構成し, 樹林化の主たる緑化資材でもある木本類は,林内タイプは約6割 であるのに対し,高速道路樹林は林縁タイプと同程度の約4割であった。
69
表-3-3-1-1 樹林タイプ別の全出現種数
Table3-3-1-1 Number of each species per classification in each forest type
林内タイプ 林縁タイプ 林内タイプ 林縁タイプ 全体
木本類 83 85 45 53 71 60 147
草本類 121 106 13 69 18 79 182
ツル性植物 32 31 15 25 19 24 43
シダ類 26 21 10 20 41 31 58
タケ類 3 2 3 5 2 2 5
ヤシ類 1 1 0 0 0 0 1
種数計 266 246 86 172 151 196 436
調査地数 10 5 3 3 3 3 27
調査地面積
合計(㎡) 12,378 8,760 4,025 1,660 3,775 1,900 32,498
出現種数/
調査地数 26.60 49.20 28.67 57.33 50.33 65.33 16.15
出現種数
/1,000㎡ 21.49 28.08 21.37 103.61 40.00 103.16 13.42
高速道路樹林 常緑広葉樹
林タイプ
混交林 タイプ
人工林 自然林
周辺林
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図-3-3-1-1 樹林タイプ別及び類別単位面積出現種数比率 Fig.3-3-1-1 Rate of classified species by unit area in each forest type
木本類 草本類 ツル性植物 シダ類 タケ類 ヤシ類
出現種数比率
自然林 人工林
林縁タイプ 林内タイプ
林縁タイプ 林内タイプ
混交林 タイプ 常緑広葉樹
林タイプ
【林内】
・下層にアオキ,イヌビワ,
フユイチゴ等
・シダ類(ウラジロ,フモ トシダ,ミヤマノコギリシ ダ)密生
・テイカカズラ 樹林
タイプ
高速道路樹林
【常緑広葉樹林】
・主体は植栽種
・林床に植栽種のマテバシ イ稚苗
・木本類の侵入種はイヌビ ワ,ヒサカキ,タブノキ,
ハゼノキ,クサイチゴ,
フユイチゴ等
・その他,カラスウリ,ク ズ,テイカカズラ,ノイ バラ,ノブドウ,スギナ,
ベニシダ,メダケ等
【林内】
・クスノキ,スダジイ,タ ブノキ等の萌芽林が優占
・下層にヒサカキ,テイカ カズラ
・一部マダケ密生
主な種組成
【林縁】
・アカメガシワ,ハゼノキ,
ヒサカキ等
・一部クズ,スイカズラ,
メダケ等
【混交林】
・主体は植栽種
・侵入種はアカメガシワ,
イヌビワ,ハゼノキ,ヒ サカキ,フユイチゴ等
・その他,カラスウリ,キ ヅタ,クズ,テイカカズ ラ,ノイバラ,ミツバア ケビ,メダケ等
・林床に植栽種のタラヨウ や侵入種の稚苗・草本類 密生
【林縁】
・アカメガシワ,アラカシ,
イヌビワ,クズ,スイカ ズラ等
・一部タケ類,シダ類(ネ ザサ,マダケ,メダケ)が 密生
周辺林
*
*草本類を除く最大被度2以上の主な出現種を記載
71 3-3-2 帯状調査区のコドラート内種数
高速道路樹林の帯状調査区は,盛土のり面の長さに10.0~35.0 mの幅があり,各帯状 調査区のコドラート数は2~7区画となった(表-3-3-2-1)。周辺林の帯状調査区も,調査 地の地形によってのり面の長さに10.0~30.0 mの幅があり,各帯状調査区のコドラート 数は 2~6 区画となった。コドラート当たり平均種数は,コドラート数の多い帯状調査区 ほど増加する大まかな傾向はみられたが,一元配置分散分析による有意差はなかった(図 -3-3-2-1,図-3-3-2-2)。
各帯状調査区内で出現種数の最大となるコドラートは,調査地No.15を除く高速道路樹 林は,のり尻側から10.0 m以内のコドラートに表れた(図-3-3-2-3)。周辺林は,林内タ イプと林縁タイプが互いに隣接する調査地の組合せにおいて,No.20,No.21 の組合せ以 外は,林縁タイプのコドラートの出現種数が多かった(図-3-3-2-4)。