九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
機械的刺激に対する骨および骨系細胞の応答に関す る実験的研究
蔵田, 耕作
Graduate School of Engineering, Kyushu University
https://doi.org/10.11501/3180274
出版情報:Kyushu University, 2000, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
第3章
ラット尾椎形態リモデリングの 非侵襲計測と二次元応力解析
3.1 緒言
第1 .2.4項で概説したように,機械的ストレス環境と骨形態との関係に関する研究は 骨構造に対して力学的な解釈を与えることに始まり, 近年では, 実験動物に対して定 量的な機械的刺激を与えたときの骨応答を評価するというアフ。ローチで続けられてい る. 対象とする骨に皮膚を貫いてピンを挿入し, このピンを介して機械的刺激を負荷 するモデル(Rubin and Larり'on 1984; Chambers et a1. 1993)や, 軟らかいパッドを用いて 皮膚の上から非観血的に刺激を与えるモデル(Tumer et a1. 1991; Torrance et a1. 1994)が 開発された. このような動物モデルにおいて, 静荷重・動荷重, 圧縮・引張り・ねじ り等の荷重負荷形態, 荷重の大きさ・周期・回数, 骨に生じるピークひずみ量・ひず み速度, ひずみ分布等の力学パラメータと骨形成・吸収による形態変化, サイトカイ ン産生, 遺伝子発現等との関係が調べられている. これらの多くは長管骨の外周を形 成する皮質骨を対象とした研究である. 一方, 三次元的な網目構造を有する海綿骨は 非常に活発な骨代謝回転を示し, 皮質骨と同様に外部からの力に対して合理的な形態 をなすように構造のリモデリングを行う. 荷重支持や衝撃的荷重の分散等の重要な力 学的機能を担っているにもかかわらず, 動物モデルを用いた海綿骨の力学応答に関し てはあまり報告がない. これは, 実験動物を用いたin νivo実験では, 機械的刺激を与 えることが可能な海綿骨の部位や負荷方法が限定されてしまうことによる. Chambers et a1.( 1993) によって開発されたラット尾椎に圧縮荷重を与える動物モデル, より定量 的な荷重をイヌ大腿骨遠位の海綿骨に対して与えるGoldstein et al.(1991)のモデ、ルが散 見されるのみである.
海綿骨骨梁の代謝動態を評価するためには, 骨梁幅・骨梁間隙等の構造指標や骨形 成速度・石灰化速度等の動的指標を算出する骨形態計測が行われる. この骨形態計測 は, 従来より, 脱灰薄切切片や非脱灰研磨標本を作製して行われている. しかしなが ら, このような組織切片に対する計測は二次元的であり, もっとも興味深い骨梁の三 次元構造を知ることは困難である. さらに, 組織切片の作製には, 実験動物を屠殺す る必要がある. そのため, 生体骨の力学応答に関する研究においても, 実験後に屠殺 して摘出した骨に対して形態計測が行われている. 骨形態の変化については, 多くの
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動物を一定期間毎に経時的に屠殺し, 組織切片を形態計測した後に統計的な処理を施 すことによって評価されている.
近年, CT(Computed tomography)やMRl(Magnetic resonance imaging)等の非侵襲計測 機器の開発・発達が目覚ましい. なかでも, 骨梁構造の抽出が可能なくらいに高分解 能なpQCT(Periphera1 quantitative computed tomography), X線マイク口CT(X-ray microcomputed tomography)は, 加齢によるヒト海綿骨骨梁の形態変化の評価や骨の機 械的強度と関連づけて構造指標の定量化を行うために数多く利用されてきた(Feidkamp et al.1989; Kuhn et a1. 1990; Ciarelli et al. 199 1; Majumdar et a1. 1995; Rüegsegger et al. 1996;
Odgaard 1997). さらに, 平均幅100μm と言われるラット等の小動物の骨梁を描出する に十分な空間分解能を有したマイク口CT やシンク口トロンCT(Synchrotron computed tomography)は,骨粗軽症モデルラット等の骨疾患モデル動物に対する骨形態計測に利
用されている(Kinney et al. 1995; Barbier et al. 1999; Mawatari et a1. 1999). しかしなが ら, ほとんどの研究で行われているのは, 屠殺後に摘出した骨に対する以内voの計測 である. 卵巣摘出によって骨粗索化を引き起こしたラット腔骨近位部において, 卵巣 摘出術前と施術5週間後の計誤IJから骨梁の連結性消失を可視化したKinney et a1.( 1995 ) による報告を除いて, 非侵襲計測機器の利点を活かして同一個体の骨形態変化を計測 したという研究は見受けられない.
本実験では,軸荷重や偏荷重をラット尾椎に対して与えたときの骨形態変化を同一 個体・同一部位において評価するために 麻酔下におかれたラットをマイクロCTに よって非侵襲かつ経時的に計測する手法を確立した. 荷重負荷に対する骨形態の変化 をin vivoで計測したという報告は 渉猟し得た限り他に認められない. 尾椎は, 負荷 荷重に対して力学的に適応するように形態のリモデリングを行っているものと考えら れる. そこで, このようなリモデリング過程にある骨の応力分布を, 剛体バネモデル (Rigid-body spring model, RBSM)と有限要素解析(Finite e1ement analysis, FEA)とを併用 した方法によって計算した. 尾椎正中断面のマイクロCT画像をもとにして二次元の RBSM およびFEモデルを構築し,軸荷重・偏荷重を境界条件としたときのミゼス相当
応力(Von Mises equivalent stress)分布をそれぞれ算出した. 応力計算の結果から, ラッ ト尾椎がいかにして負荷荷重に対する適応を進行させたのかを考察した.
3.2 対象および方法
3.2.1 対象
対象は18週齢のSprague-Daw ley雌性ラットで(1)軸荷重負荷, (ID偏荷重負荷, (I!D 無負荷のコントロールの各l 匹計3匹を実験に供した. 実験に先立ち, X線透過像を
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Caudal vertebrae
Fig.3.1 Radiographic image and diagram of stainless steel pins inserted into rat caudal vertebrae.
参照しながら, 第4尾椎(C4) および第6尾椎(C6) の冠状 面 (Coronal plane)に対して水 平に内外側(Lateral-medial)方向へ直径1.2mmの ステンレス鋼製ピンを挿入した(図3.1)・
ピン 挿入 は, ペントバルビタールナトリウム(Pentbarbital sodium)溶液の腹腔内投与 (30mg/body weight kg)による全身麻酔下 にて行った.
3.2.2 マイク口CTによる骨形態の経時計測と機械的刺激の負荷
ピン挿入の翌日, 麻酔下のラットにおいて第5尾椎(C5) 正中断面をX線 マイクロ CT(MCT-12505MF, Hitachi M edico, Tokyo)を用いて非侵襲的に計測した. ラット尾部は
自作治具によってマイクロCT回転テーブル上に固定した( 図3.2)・ X線透過像を見な がら,ラットC5の正中断面が撮影領域に一致するように位置決めした後,断面 計測を
行った(図3.3)・ 尾椎背側にある2 つの赫 状突起に着目し, 正中断面 は両突起 の谷 を横断する面と考えた. 計測には約9分 間を要したが, このうちX線被曝時間 は
約2分間であり, 実験動物に対する放射 線の影響は小さいと思われる. 計測 は,
空間分解能 167μm/pixel,管電圧45kV,管 電流O.04mAの条件で行った.
計測後, ラット を機械的刺激 負荷装置 に取り付けた(図3.4)・ この装置は一軸リ
ニアアクチュエータ, ひずみゲージ,
ゲージアンプ, モータドライパ, パーソ
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Fig.3.2 Photo of a rat se伐led on the rotating platfoロn of the micro-CT.
ナルコンビュータから構成され ており,
各荷重負荷サイクルにおいて尾椎に与え られる最大荷重および負荷周期が一定と なるように, フィードバック制御を行う ことが可能である( 図3.5). C4 およびC6 に挿入しておいたステンレス銅製ピンを 介して, 荷重5N, 周期l秒, 3600cycles/
dayの正弦波形状の機械的刺激を(I)(II)の ラット C5に負荷した. (1)ではピンを同一 平面上で往復動させて軸荷重負荷を行 い,
(II) では尾側の ピンを矢状軸方向に4mm
Fig.3.3 Radiographic image (Top) and cross- 移動させた平面上で往復動させて偏荷重 sectional image of median plane measured
負荷を行った(図3.6) . 負荷時以外の時間 with the micro-CT (Bottom).
は, ピンを特別に固定するとと はなく,
自由な運動を許容した.
これらの マイクロCT断面計測と機械 的刺激の 負荷とを 24 時間間隔で14日間 繰り返した. 経時的にin νivo計測したマ イクロCT断面画像に対して,エッジ強調 平滑化フィルタ処理 および一定関値によ る二値化処理を施し, 皮質骨断面像を抽 出した. これをもとに, (I)(II)(III)それぞ れのラットにつ いて, 皮質骨正中断面の
面積を算出した.
d... __ ... ‘
『司 --
Fig.3.4 Photo of a rat subjected to daily mechanical Joading.
Clamps
Fig.3.5 Schmatic representation of a Joading appratus.
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Dorsal
(I)
AxialloadFig.3.6 Schematic dia gram ofthe mechanical stimuli applied extemally to rat ca u dal vertebrae.
3.2.3 剛体バネモテソレおよび、二次元有限要素モデルによる応力解析
実験期間終了後,ペントパルビタール溶液の過量投与によってラットを安楽死させ,
C4�C6をそれぞれ摘出した. これらの正中断面に対して, マイクロCTによるmνivo 計測を行った. この計測では, 空間分解能を35μm/p ix elに設定した. 先述の画像処理 により皮質骨および骨梁形状を抽出し, ペン入力タイプのデジタイザ(MI TABLE下I I KD3030, Graphtec, Yokohama)を用いてそれぞ、れの外形状をデ、ジタイズした. 得られた C4, C5の皮質骨外形状をもとに, 二次元RBSMを作成した (三浦ら19 98)(図3.7)・ こ のRBSMでは, 尾椎の接触面聞に, 尾椎間関節に相当する単位面積当たりバネ定数
lOOON/mmの圧縮バネを法線方向に配置, lN/mmのせん断バネを接線方向に配置, さ らに,腹背側に靭帯および関節包に相当する単位面積当たりバネ定数lOOOON/mmの引 張りバネを配置した. このモデルを用いて, C4に荷重を負荷した計算を行ったところ 引張りバネには張力が発生しなかった. したがって, 以降の計算では, 圧縮バネとせ ん断バネのみを配置したモデルを使用した. C4の骨長軸上の重心に単位荷重を与えた ときに, C4, C5聞のバネに作用する力を計算した. パネに作用する力と 14日間繰り 返し負荷した荷重 5.0Nとの積をとり, これをC5の接触面に与える面圧に換算した.軸 荷重負荷と偏荷重負荷を想定して, C4および、C5の骨長軸を一致させて軸荷重を与え る計算と, C4 の骨長軸を矢状軸方向に2mmだけ平行移動させて偏荷重を与える計算 を, (I)(II)(II1)それぞれについて行った.
さらに, デジタイズした C5の皮質骨, 骨梁の外形状(図3.8)から, 皮質骨と骨梁の 両者を含むFEモデルおよび皮質骨のみのFEモデルを作成した. RBSMによって計算
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(1) Axialload
c冶誌三v e and
snear spnngs Extension springs
(II) Offset load Fig.3.7 Schematic representation of rigid-body spring models.
Fig.3.8 Binary image of rat caudal vertebra.
された軸荷重および偏荷重に対する接触面圧を境界条件として与えたとき, ミゼス相 当応力を計算し 機械的刺激後の骨形態の相違が応力状態に与える影響について検討 した. 背側の皮質骨下端を完全拘束し, 腹側の皮質骨下端は腹背方向, 頭尾方向の変 位を許した. FE解析には汎用有限要素法解析プログラムCOSMOS!M(ver.1.65, Struc
同ralResearch and Analysis Corp., Santa Monica, CA)を用いた. 骨組織は等方線形材料と 仮定し, ヤング率11.0GPa, ポアソン比0.3とした (Moyle a nd Walker 1986; Rice et a1.
1988).
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3.3 結果
本実験では,機械的刺激を与えたラット尾椎の形態変化をマイクロCTによって非侵 襲かつ経時的に計測することが可能となった.図3.9は機械的刺激負荷前後の尾椎正中 断面像である. 無負荷のコントロールラットでは実験前後で皮質骨形態の変化は認め られなかった. 一方, 軸荷重および偏荷重負荷ラットでは, 皮質骨の変形が認められ た.特に,偏荷重負荷ラットにおいては偏荷重に抗するような形態変化が見られた. こ のような変形は, 荷重負荷開始5日目より 肉眼的に顕著になった.
�..o-. Pin Force
.�ト四 臨 Axial-loaded rat
Offset-loaded rat
l Control rat
Before After
Fig.3.9 Loading directions and morpbological alteration in cross section ofC5.
-値化処理後の正中断面像から算
出した皮質骨断面積の経時変化を図 3.10に示す. コントロールラットで は, 皮質骨断面積の増加率が6.5%で あったのに対し 軸荷重,偏荷重負荷 ラットではそれぞれ22.5%, 20.0%に 及んだ. 実験終了後にex vivo計測し たC5の正中断面像(図3.11)から, 軸 荷重および偏荷重負荷ラットでは腹 背側の骨膜表面においてCT濃度値の 低い領域が認められた(図3.l1矢印).これは, 石灰化度が低く 幼若なwoven
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-5 -1 00
一←Axial-loaded rat
→ーOffset-loaded rat ー骨ーCon仕01 rat
2 4
6 8Day
10 12 14
Fig.3.10 Changes in cross-sectional area of cortex through the experiment.
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bon e
であると考えられる. これは 機械的刺激の負荷が皮質骨において増殖性のモデリングを誘導したことを意味する. 応力解析のためのFEモデルを作成するにあたり, こ れらの幼若な骨組織は除外した.
皮質骨および、骨梁を含むFEモテ、ルを用いてミゼス相当応)Jを計算した結果を図3.12 に示す. 軸荷重を境界条件に与えて計算した場合, コントロールラットおよび軸荷 負荷ラットでは骨梁部分で応力集中が認められるものの, 皮質骨部分では応力 レベル は低く, 応力分布は一様に近かった(図3.12(a) (c)). 一方, 偏荷重負荷ラットでは皮質 骨, 骨梁ともに高い応力レベルを示した(図3.12(e)). 偏荷重を境界条件に与えて計算 した場合, コントロールラットおよび軸荷重負荷ラットでは腹背方向の応力分布の強 い非対称性を認めた(図3.12(b)(d)) . 腹側に偏った偏荷重が与えられているために, 腹 側の応力レベルが高かった. 一方, 偏荷重負荷ラットではこの非対称性が小さく, ほ
ぼ一様な応力分布を示した(図3.12(η)・
図3.13 は皮質骨のみのFEモデルを用いた計算結果である. 皮質骨および骨梁を含む FEモデルにおける結果と比較すると, 骨梁による荷重支持機構が失われたために, い ずれのモデルも高い応力レベルを示した. 軸荷重を境界条件にした計算では,車f8荷 負荷ラット(図3.13(c)) および コントロールラット(図3.13(a)) と比較して, 偏何重負荷 ラット(図3.l3(e)) の応力レベルは高かった. 偏荷重を境界条件にした計算では,車由待 重(図3.13(d)), 偏荷重(図3.13(η), コントロールラット(図3.13( b))のいずれの場合も 腹背方向の強い応力分布非対称性を認めた.
Fig.3.11 Micro-CT images of median plane of C5 measured exνivo after experiment.
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(a) Contr ol rat under axialload
(c) Axial-loaded rat under axialload
(e) 0百set-loaded rat under axialload
(b) Contr ol rat under offset load
(d) Axial-loaded rat under offset load
(f)
Offset -loaded rat under offset loadVon Mises stress [MPaJ
6.00
5.38 ー 4.75
4.12 3.50 2.88 2.25
1.62 l.00
Fig.3 .12 Von Mises stress distributi ons as resu]ts of FE白lalyses containing cortex and trabecular b one.
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(a) Contr ol rat under axialload
(c) Axial-loaded rat under axialload
(e) Offset -loaded rat under axial load
(b ) Contr ol rat under offset load
(d) Axial-Ioaded rat under offset load
(f) 0仔set -Ioaded rat under offset load
Von Mises stress [MPa]
6.00 5.38 4.75 4.12 3.50 2.88
2.25
1.62 卜00
Fig.3.13 Von Mises stress distributi ons as results of FE analyses without trabecular b one.
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3.4 考察
本実験では,高分解能マイクロCT を用いて,麻酔下におかれたラット尾椎を経時的 に形態計測する手法を確立した. 機械的刺激によるリモデリング過程にある骨の形態 変化を, このような手法によって経時計測したという報告は見受けられない. 形態リ モデリングや骨代謝研究において骨動態を知るためには, 従来, 蛍光ラベルを経時的 に投与し二重標識を行う方法が一般的に使われてきた. これによって, ある期間内に 形成された骨量やその形成部位が明らかになる. しかしながら, 骨吸収量に関する情 報は, 最初に標識されたラベルが吸収によって消失してしまうために得ることができ ない.マイクロCTを用いた経時計測で、は骨形成・骨吸収のいずれをも観察するととが pl能であり, 近年の非侵襲計測機器の進歩と普及を考えると本実験系の確立は次世代 への飛躍が期待される.
本実験で用いた動物モデルは,Chambers et al.(1993)によって最初に開発されたもの であり, 計測対象骨の両隣に位置する尾椎にピンを挿入し, とれらのピンを介して機 械的刺激を付与している. 計測対象骨はピン挿入の外科処置を直接受けることがない ために, 機械的刺激以外のじよう乱が骨の応答に与える影響 は小さい. Chambers et al.(1993)は, ラット尾椎に対して機械的刺激を与えた後, 次の刺激までの間, ピンを 冶具によって固定した. 刺激時以外にピンの拘束を行えば, 骨の形態変化は負荷され た機械的刺激だけによるものと考えることができる. しかしながら, 実際には, ピン の固定に伴って骨に曲げやねじりが生じることは避けられず, これは非生理的あるい は病態的な力学状態を引き起こす恐れがある. このような理由により, 本実験では機 械的刺激時以外の時間はピンの拘束を行っていない.
第1.2.4項で概説したが, ラット尾椎を用いた動物モデル以外にも, 骨の力学応答を 評価するための動物モデルがいくつか報告されている.Rubin and Lanyon(l984)は, 七 面鳥(Turkey ) や鶏(Rooster, Avian )の尺骨の骨幹部を外科的に切離し, この骨幹部両端 をエンドキャッフ。で覆った上でピンを挿入するというモデルを開発した. このモデル によれば, 尺骨骨幹部は日常動作に伴う機械的刺激から完全に孤立させられ, ピンを 介した定量的な荷重負荷を行うことが可能である. 静荷重と動荷重による骨応答の差 違(Lanyon and Rubin 1984), 圧縮, ねじり等の荷重形態の影響 (Rubin et al. 1996), 荷 重の大きさ・回数・周期等のパラメータの影響(Rubin and Lanyon 1984; Rubin and Lanyon 1987)が定量的に報告された.しかしながら,骨幹部を切離するという外科手術や観察 の対象としている骨それ自体にピンを挿入するという処置が骨に与える影響 は大きく,
機械的刺激以外のじょう乱を多く含んでいると思われる. Turner et al.(1991 )はラット 腔骨を軟らかいパッドで四点曲げするというモデル, 一方,Toπance et al.(l9 94)はラッ ト尺骨の両端をパッドで軸圧縮するというモデルを報告している. いずれも外科処置
を一切行わずに機械的刺激を与えることが可能で, しかも刺激時以外の時間はなんら 拘束することなく日常動作を許容する, しかしながら, 個体差の大きい軟部組織を介 しての荷重負荷であるために, 実際に骨に与えられる機能的な機械的刺激には大きな ばらつきが生じるものと想像される. 以上の代表的な3種類の動物モデルは, いずれ も皮質骨を対象とした実験系であり, 海綿骨を含んでいない. 海綿骨は機械的刺激に 応じて骨梁構造, 配向を変化させることが知られており 両者の関係を検討すること は興味深いテーマである. 本実験で用いた動物モデルでは, 皮質骨および海綿骨の両 方を対象として力学応答について評価を行うことが可能である.
骨リモデリングが骨に生じるひずみレベルやひずみ分布に影響されているという考 え方から, ひずみゲージを骨表面に貼付してin vivoでひずみ計測を行い, このひずみ パラメータとリモデリング現象とを対応付けた研究が多い. 本実験と同様の動物モデ ルを用いたChambers et al.(1993) は, 150Nの軸荷重負荷によって700μ程度のひずみ が生じ, このとき骨体積の有意な増加を認めたと報告している. さらに, 荷重25N "-' 150Nの範囲におけるひずみ計測から 荷重と骨表面ひずみに線形関係が成立していた ことを示した. 本実験では,C5に対して5Nの軸荷重を与えたときに, 骨表面の長軸 方向に25μεのひずみを計測した. このひずみ計測は,尾椎表面にひずみゲージを直接 貼付して行った.Chambers et al. が示した荷重とひずみの関係に対して外挿が可能であ るならば, 荷重5Nによって生じたひずみ25μという計測値は妥当である. しかしな がら, Chambers et al. は30N の負荷( ひずみ140με)では骨体積に有意な増加は見られ なかったと報告している. 一方 本実験では 非常に小さなひずみにも関わらず骨断 面積の増加を認めた. これは Chambers et al.のモデルでは外部固定器によって刺激時 以外のピンの固定を行っているのに対して本実験ではピンの非生理的な固定を行わな かったという差違, 負荷周期・回数 ・ ひずみ速度等の機械的刺激パラメータの差違に よるものだと考えられる. ラットの尺骨を軸圧縮するMosley et al.(l997) の実験では,
500με のひずみでは骨形成は認められず, 生理的な範囲内にある1000μあるいは 2 000μεのひずみ負荷によっても新生骨の形成が抑制された. さらに, 七面鳥の尺骨に 対しては,1000μのひずみ負荷で皮質骨断面積が維持され, それ以下のひずみでは断 面積は減少した(Rubin and Lanyon 1987). これらの結果と比較して, ラット尾椎を用 いた本実験やChambers et al.の報告では, 非常に小さなひずみによって骨形成が活性 化されている. この違いを説明する理由のひとつに, 尾椎は尺骨のような荷重支持骨 (Weight-bearing bone )ではないため,日常活動において大きな荷重を受けることがなく,
機械的刺激に対する応答が異なるということが考えられる. ラット尾椎は日常的な動 作において5Nという大きな荷重を受けることはないと惣像される.これは実験に用い たラットの体重の約2倍に相当する負荷である. 骨表面に生じるひずみの絶対値に関 わらず, 尾椎にとっては非生理的に大きな負荷であり, このために骨形成が活性化さ
せられた可能性は大きいと思われる.
機械的刺激による骨形態変化が皮質骨や骨梁の応力状態にどのように影響を与えた のか,RBSMとFEAを組み合わせた応力解析によって検討した. 皮質骨および骨梁を 含むFEモデルにおいて偏荷重を条件に与えた計算では, 偏荷重負荷ラット(図3.12(η) の尾椎だけが応力分布の一様性を示した. 軸荷重負荷ラット(図3.12( d)), コントロー ルラット(図3.l2(b))の応力分布は腹背側で非対称であった. このモデルから骨梁部分 を取り除いて作成した皮質骨のみのモデルに対して偏荷重条件を与えると,軸荷重負 荷ラット(図3.13(d)), 偏荷重負荷ラット(図3.13(り), コントロールラット(図3.13(b)) のいずれも同様に非対称性の強い応力状態であった. このことは, 偏荷重に対する適 応が主に骨梁部分で行われていることを示唆する.皮質骨および骨梁を含むFEモデル に軸荷重を条件として与えた計算では, 軸荷重負荷ラット(図3.12(c)), コントロール ラット(図3.12( a)) の応力分布がほぼ一様であるのに対して, 偏荷重負荷ラット(図 3.l2( e))では骨梁部分に高い応力集中が認められた.骨梁部分によって適応が進行して いるという証拠はこの計算からも示された. 以上の考察から, 偏荷重負荷に対する適 応は,一般に代謝回転が速いといわれる骨梁部分によって担われていると推察された.
第2.4節でも考察したように,ラットは皮質骨においてハパース管が認められないた めにモデリング動物であると言われている(Frost and Jee 1992 )・ つまり, 骨吸収から骨 形成へのカップリングが行われず, ある部位では骨吸収のみ, 別のある部位では骨形 成のみがなされる. さらに, ラットの皮質骨骨膜での骨形成は皮質骨内膜での骨形成 よりも常に大きく, この結果皮質骨外径の増大および髄腔の拡大が生じる. ラット皮 質骨に認められるこのような代謝様式をドリフト (Dr ift) と呼ぶ. しかしながら, 皮質 骨内骨の海綿骨でのリモデリング活動の有無をめぐっては議論がなされてきた(Frost and Jee 1992)・ B aron et al.( 1984) はラット尾椎海綿骨の組織学的な検討から, 海綿骨に おいてリモデリングが存在することを指摘している. さらに, Erben( 1996) は, 性成熟 した若齢ラットの腰椎骨梁においてリモデリングが骨代謝回転を主に担っているとい うことを指摘した. これらのリモデリング活動の存在は, 骨形成に先行する骨吸収の 発生を表す貝殻形状の石灰化線(Scal loped r ever sal cement l ine)を認めたことから示され た. 本研究では, 偏荷重負荷後のりは偏荷重に対して適応を行い,皮質骨と骨梁を含 むFEAによれば一様な応力分布を示した(図3.12(η)・ これは,骨梁構造のモデリング,
リモデリングのいずれによっても実現される可能性を 有する. しかしながら, 偏荷重 負荷ラットの皮質骨では,断面積が大きく増加し骨強化が行われていると思われるに もかかわらず,FEAの結果によると軸荷重に対して極めて高い応力レベルを示してい る(図3.12( e))・ このことから,偏荷重負荷後の尾椎が付与的な骨モデリングではなく,
骨吸収を伴うリモデリングを行うことによって偏荷重への適応を実現した可能性が示 唆される.
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機械的刺激を与えたラット尾椎の形態変化を非侵襲計測し,さらに有限要素法(Finite element method, FEM)による応力解析を行った本実験では,実験に際していくつかの単 純化と仮定を行った. 第ーに, 軸荷重, 偏荷重負荷およびコントロールのそれぞれに 対し, 実験対象が1匹に限られている. 本実験では, 同一個体の同一部位を経時的に 非侵襲計測することによって, 個々の尾椎の絶対的な変化を評価するととが可能で あった. このような実験系を用いることによって実験に必要な動物の数を減らすこと ができ, これは人道的立場からも利点が大きい. しかしながら, 個々の尾椎の力学応 答に関しての再現性を検討するためには,個体数を増やして統計的処理を行う必要が ある. 第二に, 骨梁構造を反映したFEモデルを作成して応力解析を行ったものの,二 次元モデルにとどまっている. 骨梁は三次元的に複雑に連結した構造をなしているこ とを考慮すれば, 尾椎の応力状態を評価するために二次元モデルを使用するのは, 過 度な単純化かもしれない. 近年,マイクロCT画像をもとに三次元FEモデルを作成し,
骨内の荷重伝達の様子や応力・ひずみ分布を計算した研究が散見される(Van Rietbergen et al. 1999; Ul rich et al. 1999). しかしながら, 骨体の三次元応力解析には, モデル構築 や境界条件設定の困難が伴う. 本実験では, 二次元モデルからの知見ではあるが, 荷 重を負荷した尾椎では機能的な適応が行われ,応力分布が一様化される傾向にあるこ とが示唆された. 第三に,本実験では,バネ定数を仮定した二次元RBSMの結果をFEA に利用し, 尾椎の応力計算を行った. この方法は, FEMを用いた二体間接触問題と比 較して, モデリングが容易であり, 収束性がよくて計算が短時間で済むという利点を 持つ. 三浦ら(1998 ) によれば, 接触面に軟骨層に相当する低ヤング率の組織が介在す る場合, RBSM-FEM 併用法による解は, 従来のFEM単独法による解とよく一致する.
本実験では軟骨層を介した尾椎間関節を対象としており,RBSM-FEM併用法の適用は 妥当である. しかしながら, 二次元RBSMでは, in νivoにおいて生じている関節面圧 を正確に計算することは不可能である. このため, 尾椎の応力分布については, 定性 的な傾向が示唆されたのみである.
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3.5 結言
本実験では,ラット尾推の骨形態を高分解能マイクロCT を用いて非侵襲かつ経時的 に計測する手法を確立した. これによって, 同一個体の同一部位において, 骨形態変 化を評価することが可能になった.
皮質骨正中断面の経時計測により, 機械的刺激を与えられた尾椎では皮質骨断面積 の増加が認められた. これは機械的刺激の負荷が皮質骨において増殖性のモデリング を誘導したことを示唆している. さらに 実験終了後の尾椎では, 腹側および背側の 骨膜面でwoven boneの形成が観察された. 機械的強度が低く幼若ではあるが急速な形 成を行うことが可能なwoven boneによって, 骨は力学的ストレス環境の急変に対する 適応を行っていることが示唆された.
機械的刺激による骨形態変化が皮質骨や骨梁の応力状態にどのように影響を与えた のか,剛体バネモデルと有限要素法を併用した応力解析によって検討した.その結果,
荷重負荷ラットでは 与えられた荷重に対して応力分布を一様にするような適応が進 行していること, この適応が主に骨梁部分で行われていることが示唆された.
ー56 -
第4章
ラット尾椎形態リモデリングの 三次元応力解析
4.1 緒言
臨床で問題となる骨折頻発部位の力学状態の検討, 骨切りやインプラント等によっ て変化する骨の力学的環境の予測, 骨の機械的物性や安全率の算出, ウルフの法則や 骨リモデリング現象を表現した数学モデルの妥当性評価等の目的のために, 有限要素 モデル(Finite element model, FE model)を用いた骨体の応力解析が行われてきた. 骨外 形状を簡単にモデ、ル化して行った応力解析に始まり, 近年では骨形態計測技術の進歩 や計算機の能力向上にともなって,骨内部の微細構造を忠実に構築したFEモデル,大 規模な FE モデルが用いられるようになった.
骨内部の微細な構造を均質な連続体としてモデル化した連続体モデル(C ontinuum model)では, 三次元FEモデル(Three-dimensional FE model, 3-D FE model)の構築や非 線形材料モデルの作成を比較的容易に行うことが可能である. このため,FE応力解析 が整形外科領域の問題に対して適用されるようになった当初, 骨体に生じる応力・ひ ずみの概算や人工関節等をインプラントした際に骨内のステムに生じる応力の解析等 に多く用いられた(Huiskes and Chao 1983)・しかしながら,このようなFEモデルによっ て個々の骨梁に生じる応力・ひずみを得ることは不可能である. 骨折は1本の骨梁の 破断から生じるというととを考えると,骨梁構造を有するFEモデルを用いた応力解析 が望まれる.Williams and Lewis(1982)は,組織切片の観察像をもとに骨梁構造をトレー
スして
FEモデルを作成し, 応力解析を行った. 骨梁にはプレート様構造(Plate-like
struc知的のものとロッド様構造(Rod-like structure)のものとが認められ, 海綿骨はプ レート, ロッド, その混合の3型から構成されている. 彼らは, ヒト腔骨海綿骨ブロッ クの3方向の形態をデジタイズし, 3型に分類した上でFEモデルを作成した. 第3章 で述べたラット尾椎のFEモデルについても,骨形態のデジタイズデータをもとに作成 された. しかしながら, このような方法では二次元の骨梁構造はモデル化できるもの の,3-D FEモデルの作成は極めて困難である. 骨梁構造を有する3-D FEモデルを作成 する試みとして, 海綿骨を単純な梁構造(Unit cell)の繰り返しで表現したモデル(Syn
tactic form model, Open-celled model)がある(Beaupré and Hayes 1985)・ さらに, マイク 口CT(Microcomputed tomography)等の非侵襲計測機器によって骨体の三次元構造が容
-57 -
易に得られるようになると ,ボクセル(Voxel)データをそのま ま要素に変換すると いう 方法(Voxel-to-element method)を用いて骨全体(Whole bone)を立方体要素の積層で表現 したFEモデルが作成されるようになった(Keyak et al. 1990; 1998)・ との方法は骨梁構 造のモデル化に対しても利用され, 海綿骨骨梁の連続ス ライス画像データ から作成し た3 -D FE モデルを用いた応力解析が行われた(Müller and Rüegsegger 1995; Mul1ender et al. 1998)・ このよう な研究ではブロック状の海綿骨を対象に用いたものが多く, この ために応力解析 の対象 領域も限定され, さらに, 境界条件の設定が困難であった. そ こで, 小さ な領域 で詳細にモデル化した骨構造を, 巨視的に均質なモデルと して作成
したwhole boneに組み込んで計算を行う方法(Homogenization sampling procedure) 等が 検討された(Hollister et al. 1991; 1994).
最近では, マイクロ CT やpQCT(Peripheral quantitative computed tomography)等の非 侵襲計測機器によって広範囲におよぶ皮質骨 , 海綿骨骨梁構造を撮影し, 撮影画像を もとにして作成した大規模なイメージベース FEモデル (Large-scale image-based finite element model)によってwhole boneにおける力学状態を検討する研究が行われている.
Van Rietbergen et al.(1999)は, マイクロCT を用いたανivo計測によって, イヌ大腿骨 の遠位端から27mmの範囲 にわたる大規模なFEモデル(要素数730万)を作成した. こ のFEモデ、ルの骨頭部分に生理的 範囲の荷重を与えた場合に骨体の応力・ひずみを計算 し, 骨梁を伝達する荷重の定量, 骨の安全率の見積もり, イヌ大腿骨においてウルフ の法則が成立しているのかどう かの検討を行った. さらに, Ulrich et al.(1999)は, pQCT によってヒト手根関節部をin vivo計測 し, 榛骨(Radius), 舟状骨 (Scaphoid), 月状骨 (Lunate) から なるFEモデルを作成した. 舟状骨 , 月状骨に対して荷重を与えたときに
榛骨に生じるミゼス相当応力やひずみ エネルギを計算し,応力解析で示される高応力・
高ひずみ部位と臨床で 見られる骨折頻発部位との比較を行った. このように, 非侵襲 計測によって撮影された連続スライス画像をもとにイメージベースのモデル構築を行 えば,複雑な骨 梁微細構造を有するwhole boneの3・DFEモデ、ルを比較的容易に得るこ
とが可能と なる. しか しながら, 無 処置(Intact)の骨について解析を行い, 力学状態を in situで 検討した報告は散見 されるものの, 力学環境の変化に対して 適応リモデリン
グを進行させた骨を対象と して, 3-D FE応力解析によって形態 変化と力学状態の変化 との関係について検討した研究は見受けられない.
本実験では, 機械的刺激を与えたラット尾椎における骨梁構造の変化 および、皮質骨 骨膜面に認められたwoven boneの形成が骨の応力状態に対して与える影響を明らかに するこ とを目的と して, 3心FEモデルを用いた応力解析を行った. 尾椎のマイクロCT 計測によって横断面の連続スライス画像を得 て, これをもとにして3-DFEモデ、ルを作 成した. ミゼス相当応力の計算か ら, 骨形態変化と 応力状態 変化との関係 および機械 的刺激に対する適応のメカニズムについて考察した.
- 58 -
4.2 対象および方法
4.2.1 対象
対象は13週齢の Sprague心awley雌性ラットで(I) 軸荷重負荷 2 匹, (II)偏荷重負荷 2 匹, (III)無負荷のコントロール1匹の計5匹を実験に供した. 第3章と同様に, 全身麻 酔を施したラット第 4 尾椎(C4) および第6尾椎(C6)の冠状面(C oronal plane)に対して 水平に内外側(Lateral-medial)方向へ直径1.2 mmのステンレス鋼製ピンを挿入した(図
3.1).
4.2.2 機械的刺激の負荷
ピン 挿入の翌日から, 第3章と同様の機械的刺激負荷装置(図3 .5)によって, ラット 第5 尾椎(C5)に対して荷重 30N, 周期1秒の正弦波形状の機械的刺激を負荷した.
(1)
ではピンを同一平面上で往復動させて軸荷重負荷を行い,(II)では尾側のピンを矢状軸 方向に4mm移動させた平面上で往復動させて偏荷重負荷を行った(凶3.6)・ 刺激回数 は(I)(II)の2匹それぞれに対して3 00, 3600cycles/day と し, 24 時間間隔で15日間繰り返した. なお, 負荷 時以外の時間はピンを特別に固定することはなく, 自由な運動を 許容した.
4.2.3 形態計測と応力解析
15日間の機械的刺激負荷後, C5をそれぞれ摘出し,X線マイク口CT(MC下12505MF,
Hitachi Medico, Tokyo)によって尾椎全長にわたる横断面をex vivo計測した(図4.1)・ 計 測は, 空間分解能26μm1 pixel, スライス幅50μm, 管電圧40kV, 管電流0. 04mAの条件 で行った. 連続スライス画像に対してエッジ強調平滑化フィルタ処理および閥値 処理 を行うことによって, 皮質および海綿骨, 荷重負荷ラットの皮質骨周囲に観察された CT濃度値の低いwoven bone,バック
グラウンドの領域を区別 し, 三値 化
画像を得た(図4.2).
一一一 -
これらの処理画像をもとに, 尾椎
: 〆組膨 t 円・�
体の頭側112の領域について,要素サ イズ26 x 26 x 25μmの3-D FEモデ ル(要素数1 80万'"'-' 310万)を作成し た尾椎 関節面には,線維輪(Annulus fí b r o s u s ) および髄核( N u c l e u s pulposus)に相当する要素を配置 し
26μrnIpíxels 50μm pítch
Fig. 4.1 Schematic representation of micro-CT η1easurements.
ー59 -
た. 尾椎問で切離したラット尾部の実体顕 微鏡観察像(図4.3)より,線維輪内径2.4mm,
外径3.8mmとした. さらに, 尾部のX線透 過像(図4.4)によって尾椎間距離が1.2mmと 計測さ れ た こと か ら , 線 維 輪の厚さを
Fig.4.2 Transverse images before and after
O.6mmとしてモデル化した. 第3章におい bth民sholding processes.
て, 二次元剛体バネモデルを用いてC4の重
心に軸荷重および偏荷重を与えたとき,C5の関節面に生じる接触面圧について計算し た. これによると, 軸荷重負荷ではほぼ一様 な面圧分布, 偏荷重負荷では尾椎腹側か ら背側へ向かつて面圧 が減少する 傾斜分布であった. 3-D FEモデ、ルの境界条件につい てもこれを参考にし,軸荷重の計算では一様分布,偏荷重の計算では傾斜分布として,
合計30N の圧縮荷重を線維輪・髄核に与えた(図4.5)・尾椎骨幹側の端面を完全拘束し たとき, 尾椎体に生じるミゼス相当応力を計算した. 文献を参考に, 皮質および海綿 骨(Kenney et al. 1994), 線維輪(Zimmerman et al. 1992; Acaroglu et al. 1995 ), 髄核(田中
Fig.4.3 Stereoscopic micrograph of the intervertebral joint surface.
Fig.4.4 Radiographic image of rat tail.
Total 30N of axial load Nucleus pulposus
Total 30N of offset load
Cranial
w!
Fig.4.5 3-D FE-model based on micro-CT images and boundary conditions.
-60-
ら1996) の物性を決定した(表 4.1). さらに, 荷重負荷ラットの 皮質骨周囲に形成され ていたwoven boneが尾椎体の力学状態、に与える影響を検討するために,woven boneの ヤング率を他の骨組織(皮質および海綿骨 ) の 1/10と仮定した場合の計算と, woven boneを除外した場合の計算とを行った. なお, 3-D FEモデ、ルの作成および、応力計算に は, イメージベース構造解析システムVOXELCON(Quint Co早, Tokyo) を用いた.
Table 4.1 Material properties used in the FE-models.
Material Elastic modulus, MPa Poisson's ratio Cortical bone
Cancellous bone 1600 0.3
Woven bone 160 0.3
Annulus fibrosus 20 0.45
Nucleus pulposus 0.013 0.49
4.3 結果
機械的刺激負荷後のマイクロCT計測画像より, 頭側 112の領域について算出した尾 椎体積を 図4.6に示す. コントロールラットと比較して, 3600cycles/day負荷の尾推で は皮質骨・海綿骨体積の減少を認めた. 一方,woven bone形成は劇的に允進していた.
その結果, 軸荷重および、偏荷重負荷ラットの組織全体の体積はコントロールラットの 1.26倍, 1.15 倍であった. 300cycles/day負荷の尾椎では, 皮質骨・ 海綿骨体積はコン トロールラットと差違がなく, 一方 woven boneの形成は 3600cycles/day負荷の尾椎と 比較して少なかった.
連続スライス画像を三次元再構築 し, 正中断面で切断 表示したものを 図4.7に示す. コントロールラットで はwoven boneの形成が認め ら れな かった.一方,荷重負荷ラットの尾椎 皮質骨ではwoven boneに相当するCT 濃度値の低い領域 が広範囲に認めら れた(図4.7矢頭). さらに, 三値化画 像を三次元レンダリングソフト(AVS Medical Viewer, KGT, Tokyo)によって 再構築した(図4.8)・3600cycles/day負 荷の尾椎ではwoven bone形成によっ
11:1::1 Woven bone
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CorticaJ and cancellous bone3。
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2010
。 Con仕01 AxiaJ Offset
3600 3600 AxiaJ Offset
300 300
て骨断面積が増加した一方, 皮質骨 Fig.4.6 Tissue voJume of the caudal vertebrae after 内部の海綿骨が減少していた. the loading regime of 15 days.
ー61 -
Axial-loaded rat with 300cycles/day
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Av t也1J出引任ho州
Axial-loaded rat with 300cycles/day
Offset-loaded rat with 300cycles/day
Axial-loaded rat with 3600cycles/day
0仔'set-loaded rat with 3600cycles/day
3600cycles/day負荷の尾椎についての計算結果を図4.9 に示す. ミゼス相当応力の分 布を尾椎正中断面にて切断表示した. 軸荷重を境界条件に与えた場合, コントロール ラット (図4.9(a))では骨全体, 特に関節面下において高い応力を認めたが, 軸荷重負 荷ラット(図4.9(c))では応力レベルが低下していた. 一方, 偏荷電を境界条件に与え た場合, コントロールラット(図4.9(b))および軸荷重負荷ラット(図4.9(d) )において応 力分布の強い非対称性が認められたのに対し,偏荷重負荷ラット(図4.9(り)では応力が 分散される傾向を示した. 同様に, 300cycles/day負荷の尾稚についての計算結果を図 4.10に示す. 軸荷重を境界条件として計算した場合, コントロールラット (図4.10(a) ) と比較して軸荷重負荷ラット(図4.10(c) )では応力レベルの低下が認められた. 一方,
偏荷重を境界条件とした場合,コントロールラット(図4.10(b))では腹側の応力が高く,
応力分布に非対称性が認められた. 偏荷重負荷ラット (図4.10(η)ではこの非対称性が やや緩和され, 背側で=の荷重支持が増加する傾向が見られた.
図4.11は軸荷重負荷およびコントロールラットに対して軸荷重を境界条件にした計 算を行ったとき, 図4.12は偏荷重負荷および、コントロールラットに対して偏荷重を境 界条件にした計算を行ったときのそれぞれのミゼス相当応力のヒストグラムである . コントロールラットでは応力が低い要素, つまり荷重を分担していない骨組織の割合 が大きかった. 一方, 3600cycles/day負荷の軸荷重負待ラットおよび偏荷重負街ラット では, ヒストグラムのピークは小さくなり, 荷重分担に寄与する骨組織の割合が増加
した.
図4.13は軸荷重負荷およびコントロールラットに対して軸荷重を境界条件にした言十 算を行ったとき, 図4.14は偏荷重負荷およびコントロールラットに対して偏荷重を境 界条件にした計算を行ったとき, それぞれの横断面においてミゼス相当応力の平均値 を算出した結果である. 軸荷重, 偏荷重のいずれの条件でも, コントロールラットは 関節面下の領域において高い応力レベルを示した. さらに,標準偏差の値が大きく,こ れは応力値のばらつきが大きいことを意味した. 一方, コントロールラットと比較し て荷重負荷ラットでは, 関節面近傍において も平均応力の上昇は小さく, 標準偏差も 低値であった3OOcycles/ day負荷の尾椎と3600cycles/ day負荷の尾椎とを比較した場 合, 負荷回数の少ない前者の方が平均応力が小さかった.
woven boneのヤング率を他の骨組織(皮質および海綿骨)の1110と仮定した場合の 計算とwoven boneを除外した場合の計算を, 3600cycles/day負荷の軸荷重および偏荷 重負荷ラットそれぞれについて行った. 軸荷重負荷ラット(図4.15)では差違が認めら れなかったが, 偏荷重負荷ラット(図4.16)ではwoven boneの形成に伴って, 関節面下 付近で見られた応力レベルの上昇が低減されていた.さらに,各横断面においてwoven boneの面積を定量したところ,woven boneは関節面から遠位約lmmまでの領域では認 められず, 骨幹寄りの皮質骨表面で豊富に形成されていることが明らかになった.
Con仕01 rat
Cranial
Vent
斗 m m
Fíg.4.7 The cross sections of
median plane obtained企om出e reconstructed micro-CT images.
Axial-loaded rat Control rat with 3600cycles/day
Fig.4.8 3-D recons廿ucted
Offset-loaded rat images represented by with 3600cycles/day suface rendering.
-62 -
Ve附
斗
- 63 -
(a) Control rat under axial load
(c)
Axial-Ioaded rat under axial load(e) Offsct-loaded rat under axial \oad
(b) Control rat under offset load
(d) Axial-loaded rat under offset load
(f)
Offset-loaded rat under offset loadfMPa]
60.0 54.0 48.0 42.0
30.0 24.0 18.0 12.0 6.00 0.00
Cranial
Fig.4.9 Von Mises stress distributions of the control、axial-加ld offset-loaded rat with loading regime o[ 3600 cycles/day.
- 64 -
(a) Control rat under axial load
(c) Axial-loaded rat under axial load
(e) Offset -loaded rat under axial load
(b) Control rat under offset load
(d) Axial-Ioaded rat under offset load
(f)
Offset-Ioaded rat under offset loadVon Mises stress fMPa]
60.0 54.0 48.0 42.0
36.0 30.0 24.0 18.0 12.0 6.00 0.00
Cranial
Fig.4.10 Von Mises stress distributions of the control、axial- and offset-Ioaded rat with loading regime of 300 cycles/day.
- 65 -
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Fig.4. 1 6 Influence ofwoven bone formatlon on Von Mises stress in the offset-loaded rat.
Fig.4. 15 Influence of woven bone formation on Von Mises stress in the axial-Ioaded rat.
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10 15 20 25 30
Von Mises stress,恥1Pa
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Fig.4.12 Histograms ofVon Mises stress under offset load.
15
Von Mises stress, MPa
Fig. 4.1 1 Histograms of Von Mises stress under axial load.
5 10
さらに横断面で 4等分した合計32領域において,
ミゼス相当応力の平均値を算出した (図4.17(a) "-'図4.17(f))・ コントロールラット(図 4.17(a)および図4.l7(b))では関節面寄りの領域で高い平均応力を示した. さらに,偏荷
尾椎体を8等分して八分円とし,
重を境界条件とした場合(図4.1 7(b)), 腹側領域における応力レベルが非常に高く, 偏 りの大きな応力分布であった. 3600cycles!dayの軸荷重負荷ラット(図4.17(c))ではコン トロールラットにおいて認められた関節面寄りの高い平均応力は緩和されていた.偏 荷重負荷ラット(図4.17(d))では依然として腹側の応力レベルの方が高いが, 両体幹側 (Right, Leめでもよく荷重を分担していた. さらに, コントロールラット(図4.17(b))の 関節面直下(Region 1 )で認められた高い応力は, 偏荷重負荷ラット(図4.l7(d))では緩 和されていた. 300cycles!day負荷の尾
椎では,軸
荷重(図4.17(e)),偏荷重負荷(図4.17(f)) のいずれにおいても3600cycles!day負荷の尾椎よりも応力レベルは低かった.しかしな がら, 偏荷重負荷ラット(図4.l7(り)においては, 応力レベルは低いものの分布の非対 称性は強く現れていた. 両体幹側(Right, Left)での荷重分担は3600cycles!day負荷の尾 椎 (図4.l7(d)) よりも小さく, 部位による応力レベルの差が大きかった.一一一
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Control Mean Control SO
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Fig.4.1 4 Avcrage Von Mises values calculated for one-element thick slices under 0百set load.
-66 -
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Fig.4.17(b) Average Von Mises values and tissue volume ofthe control rat under offset
loading analyses.
Left
Fig.4.17(a) Average Von Mises values and tissue volume ofthe control rat under axial-loading analyses.
Left
- 69 - - 68-
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