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学位論文題名Molecular population genetics of chum salmon based on mitochondrial and nuclear DNA analyses

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 科 学 ) 尹   波 根

     学位論文題名

Molecular population genetics of chum salmon based     on mitochondrial and nuclear DNA analyses

(ミ ト コン ドリ アおよび核DNA分析に 基づくシロ ザケの     分 子 集 団遺 伝 学的 研 究)

学位論文内容の要旨

水産生物の遺伝的多様性や集団構造を把握することは、その資源保護と持続的な利用 を図る上で不可欠である。北半球の冷水域に分布するサケ・マスの資源保護は、日本を含 む環太平洋諸国に共通の課題である。シロザケ(Oncorhynchus keta)は、極東アジアから 北米まで広い分布域を持ち、漁業資源としても重要であるが、その環太平洋集団におけ る遺伝的多様性や集団構造に関する知見は依然として乏しい。それらの遺伝的知見は、

沖合シロザケ混合集団における系群識別にも役立っが、基盤となる基準データはまだ確 立されていない。そこで本研究では、系群識別をはじめ天然集団の多様性の保全や養殖 集団による天然集団の遺伝的な撹乱を防ぎ、シロザケ資源の再生産と持続的な利用に資 するため、環太平洋シロザケ集団の遺伝的多様性と遺伝構造を解析するミトコンドリア DNA (mtDNA)船 よ び 核 の マ イ ク ロ サ テ ラ イ トDNA (msDNA)マ ー カ ー の開 発 を試 みた。次いで、得られた集団の遺伝情報を統合して基準データとし、これをもとにベリ ング海および北太平洋におけるシロザケ集団の系群構成解析を試み、両DNAマーカーの 遺伝的系群識別における有用性を評価した。

  主 論文 は 英文 で 書か れ 、GENERALINTRODUCTIONの ほか 、5章か ら なる 。 まず 、 第1章で は、シロザ ケmtDNA調節 領域における塩基配列を解読し、観察された変異を も とに環太平洋集団の遺伝的多様性と遺伝構造を解析した。この領域はmtDNAの複製 を司り、遺伝子を含まず配列の変異が蓄積しやすいため多型性が高く、種以下の系統や 集団の解析に適している。シロザケでは、本研究で分析したmtDNA調節領域の5 側前 半 部 の 約 500塩 基 対 に 変 異 が 集 中 し て い る こ と が 分 か っ て い る 。   日本、韓国、ロシア、アメリカ、カナダの母川に回帰したシロザケ96集団、4,200以

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上の個体のmtDNA調節領域の塩基配列解読から22箇所の変異サイトが明らかになり、

A、B、C3つの系統的クレードに含まれる32個のハプロタイプが認められた。しかし、

クレード間における純塩基多様度が0.00193から0.003 51と低いこと、さらにコアハプロ タイプを中心とした星形のハプロタイプ系統関係などから、シロザケ集団が過去に急速 に増大し環太平洋地域に分布を広げたことが示唆された。観察されたハプロタイプは地 域と密接に結びついており、クレードA、Cのハプロタイプは日本、ロシアなどアジア の集団を、クレードBのハプロタイプは北米の集団を特徴づけていた。ハプロタイプ多 様度の比較から、遺伝的変異は日本集団で最も高いことが示唆された。mtDNAデータ に基づく分子分散分析(AMOVA)、FST値計測などによる集団遺伝学的解析から、日本、

ロシアおよび北米の集団間における明瞭な遺伝的分化のほか各地域内の集団の分化が認 められ、日本では3つ、ロシアでは5つ、北米では6つの地域グループの存在が示唆さ れた。さらに、FST値に基づく遺伝的分化レベルからみた場合、環日本海、環オホーツク 海、環べーリング海、環アラスカ湾がそれぞれ緩やかな地域集団グループを作ることが 分かり、ロシアでは沿海州とその他の地域、北米では北西アラスカとその他の地域が遺 伝的に分化していることが示唆された。

  第2章 では、mtDNA分 析を 行っ た前 述の96集団 のう ち、日 本、 ロシ ア、北米の76 集 団、3,300個 体以上 を用 いて4座 のmsDNA (OKM4、5、7、8)の対立遺伝子頻度に 基づき、環太平洋シロザケ集団の遺伝的多様性と遺伝構造を分析した。これらの集団で 観 察 さ れ た 対 立 遺 伝 子 数 は 、OKM7に お け る19か らOKM8におけ る31と幅 があ った が 、4座 で合計90で あっ た。ヘ テロ 接合 度の 観察値 は、OKM7の0.209.からOKM8の 0.689で 、期待 値は それ ぞれの 座で0.171と0.689であった。分析した集団において OKM5ま た はOKM8で 時 に へ テロ 接 合 性 過 剰 が 認 め ら れ たが 、4座 を と お し て 概 ね Hardy‑Weinberg平衡にあることが示された。ヘテロ接合度不足による同平衡からの逸脱 はわずかにロシアの1集団と北米の3集団のみであった。これらの結果は、分析したほ と ん ど の シ ロ ザ ケ 集 団 に お い て 任 意 交 配 が 行 わ れ て いる こ と を 示 し て い る 。   msDNA分析により、日本、ロシア、北米の集団聞と集団内の対立遺伝子頻度に有意 な異質性が示され、遺伝的変異は日本集団において最も高いことが示唆された。さらに AMOVAお よびFST値から日本、ロシア、北米の集団間とそれぞれの地域内集団間にお ける遺伝的分化が明らかになったが、日本の地域内集団問の分化は比較的弱く、緩やか で ある ことが示唆された。msDNA分析から得られたこれら3地域における遺伝的分化 と 遺伝 構造 のパ ターン は、 前述 のmtDNA分析により得られた結果と概ね一致した。

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  第3章で は、mtDNAとmsDNAによる 環太平洋シ ロザケ集団 の分析の結果を比較し、

両者の集団遺伝学的分析における有効性を評価した。mtDNAのハプロタイプ多様度と msDNAの 遺伝 子 多 様度の間に は明瞭な相 関が見られ 、このこと は1章と2章でmtDNA とmsDNAによってそれぞれ推定されたシロザケ集団の遺伝的多様性や遺伝構造のパタ ーンが日本、ロシア、北米において概ね一致したことと矛盾しない。一方、これら3地 域に お ける 集 団間 の遺伝的 距離と地理 的距離との 相関は、北 米ではmtDNAとmsDNA の両者で認められたが、日本とロシアではmtDNAによってのみ認められた。このよう な3地域における違いから、地理的距離の増大による遺伝的交流の制限のほか、異なる 人口統計学的要因が環太平洋の各地域集団の形成に関与したことが示唆された。また、

この よ うな 違 いは 、母系遺 伝のmtDNAと 両性遺伝のmsDNAの特性 の違いを反 映して いる可能性もあり、両者を合わせて分析することで集団形成における雌雄の貢献の違い を評価できることも示唆された。

    第4章 では 、 沖合 の シロ ザ ケ 混合 集 団に お ける 系 群構 成 を2章 から 得 られ た msDNAの 情 報を 基 準デ ー タと し て 分析 し 、既 報 のmtDNA分 析に よ る結 果 と比 較 し た。2003年8月から9月にかけて べーリング海と北太平洋の14定点において採捕され た800個体余りの分析から、アジアと北米の系群がこれらの海域でノンランダムに分布 していることが分かった。べーリング海の中央部から北側と北西側では日本とロシアの 系群が優占し、アリューシャン列島付近とべーリング海の東側では北米の系群が優占し ていた。これらの結果は、mtDNA分析による結果とよく一致した。精密な分析にはよ り 多 く のmsDNAの 遺 伝 子 座 が 必 要 で あ る が、 本 研究 の 結果 はmtDNAと 並 びmsDNA も沖合のシロザケ混合集団.の系群を識別するための高い能カをもっことが示唆された。

  第5章 で は 、GENERAL CONCLUSIONSと し て1章 か ら4章 で 得 ら れ た 結 果 につ い て総合的考察を加えた。まず、mtDNA調節領域の配列解読から明らかにたった変異は、

日本、ロシア、北米のシロザケ集団の遺伝的多様性と遺伝構造の解析のための十分な多 型を与え、環太平洋における地域問および地域内集団の間の遺伝的分化のほか、従来明 らかではなかった環日本海、環オホーツク海、環べーリング海などの地域グループのま とまりを示唆した。これらの知見は、従来、国別に立てられているシロザケ資源の保護 管理対策に 新たな視点 を与えるも のとして注目される。また、用いた4座のmsDNAも 環太平洋シロザケ集団の遺伝的多様性と遺伝構造解析に十分な多型を示し、得られた分 析結果も沖 合混合集団 における系 群判別を含 めmtDNA分析 による結果とよく一致し た 。 本 研 究 か ら 明 ら か に な っ たmtDNAとmsDNAの 多 型 は 、 酵 素 タ ン パ ク多 型 や

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mtDNA制限酵素断片長多型などに比べ遺伝的変異検出の感度が高く、両者はシロザケ 資 源 の 遺伝 的 管 理 の た め の 有 用 な 分子 遺 伝 マ ー カ ー に な る こ と が分 か っ た 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査    教 授    阿 部 周 一 副 査    教 授    荒 井 克 俊 副 査    教 授    帰 山 雅 秀 副 査    教 授    都 木 靖 彰

     学位論文題名

Molecular population genetics of chum salmon based     on mitochondrial and nuclear DNA analyses      (ミトコンドリアおよぴ核DNA 分析に基づくシロザケの      分子集団遺伝学的研究)

水産生物の遺伝的多様性や集団構造を把握することは、その資源保護と持続的な利用を 図る 上で不 可欠 であ る。北 半球 の冷 水域に分布するサケ・マスのなかでもシロザケ (Oncorhynchusね脚は漁業資源として重要であるが、その環太平洋集団における遺伝的 多様性や集団構造に関する知見は依然として乏しい。そこで本研究では、シロザケ資源の 再生産と持続的な利用に資するため、環太平洋シロザケ集団の遺伝的多様性と遺伝構造を 解 析す る ミ ト コ ン ドリ アDNA (mtDNA)お よび 核のマ イク ロサ テラ イトDNA (msDNA) マーカーの開発を試みた。次いで、得られた集団の遺伝情報を統合して基準データとし、

これをもとにべーリング海およぴ北太平洋におけるシロザケ集団の系群構成解析を試み、

両DNAマーカーの遺伝的系群識別における有用性を評価した。

  主 論 文 は 英 文 で 書 か れ、GENERAL INTRODUCTIONの ほか 、5章 か ら な る 。 第1章 では、日本、韓国、ロシア、アメリカ、カナダの母川に回帰したシロザケ96標本集団、

4,200以上の個体のmtDNA調節領域の5 側前半部の高変異部位約500塩基対塩基配列の 解読から22箇所の変異サイトを明らかにし、A、B、C3っの系統的クレードに含まれる 32個のハプロタイプを同定した。観察されたハプロタイプは地域と密接に結びついてお り、クレードA、Cのハプロタイプは日本、ロシアなどアジアの集団を、クレードBのハ プロタイプは北米の集団を特徴づけていた。ハプロタイプ多様度の比較から、遺伝的変異 は日 本集団 で最 も高 いこと が示 唆さ れた。分子分散分析(AMOVA)やFST値などによる

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集団遺伝学的解析から、日本、ロシアおよぴ北米の集団間における明瞭な遺伝的分化のほ か日本では3つ、ロシアでは5つ、北米では6つの地域グループの存在を明らかにした。

さらに、環日本海、環オホーツク海、環べーリング海、環アラスカ湾がそれぞれ地域集団 グループを作ることが分かり、ロシアでは沿海州とその他の地域、北米では北西アラスカ とその他の地域が遺伝的に分化していることを明らかにした。

  第2章では、mtDNA分析を 行った前述 の96集団のう ち、日本、 ロシア、北 米の76集 団、3,300個体以上を 用いた4座の多型msDNAの分析から、遺伝的変異が日本集団に鶉 いて最も高いこと、日本、ロシア、北米の3地域間とそれぞれの地域内の集団グループ間 にお ける遺伝的 分化を明ら かにした。msDNA分析から得られたこれら3地域における遺 伝的分化と遺伝構造のパターンは、前述のmtDNA分析により得られた結果と概ね一致し た。

  第3章 では 、mtDNAとmsDNAによ る 環太平洋 シロザケ集 団の分析の 結果を比較 し、

mtDNAのハプロタ イプ多様度 とmsDNAの遺 伝子多様度 の間には明 瞭な相関が 見られる こと を明らかに した。ー方 、集団間の遺伝的距離と地理的距離との相関は、北米では mtDNAとm8DNAの 両 者 で 認 めら れ たが 、 日本 と ロシ ア ではmtDNAによ っ ての み 認め られた。このような3地域における違いから、地理的距離の増大による遺伝的交流の制限 のほか、異なる人口統計学的要因が環太平洋の各地域集団の形成に関与したことが示唆さ れた。

  第4章では、 沖合のシロ ザケ混合集 団における 系群構成を2章から得られたmsDNAの 情 報 を基準デー タとして分 析し、既報 のmtDNA分析 による結果 と比較した 。2003年8 月か ら9月に かけてべー リング海と北太畢洋の14定点において採捕された800個体余り の分析から、アジアと北米の系群がこれらの海域でノンランダムに分布していることが分 かった。ベーリング海の中央部から北側と北西側では日本とロシアの系群が優占し、ア、リ ユーシヤン列島付近とべーリング海の東側では北米の系群が優占していた。これらの結果 は 、mtDNA分 析 に よ る 結果 と よく 一 致し て おり 、msDNAはmtDNAと並 ぴ 沖合 の シロ ザ ケ 混 合 集 団 の 系 群 を 識 別 す る た め の 高 い 能 カ を も つ こ と が 示 唆 さ れ た 。   第5章では、1章から4章で得られた結果について総合的考察を加えた。まず、mtDNA 調節領域の配列解読から明らかになった変異は、環太平洋に茄ける地域問および地域内に おける集団の遺伝的分化のほか、従来明らかではなかった環日本海、環オホーツク海、環 ベーリング海などの地域グループのまとまりを示唆した。これらの知見は、従来、国別に 立てられているシロザケ資源の保護管理対策に新たな視点を与えるものとして注目され

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る。また、用いた4座のmsDNAも環太平洋シロザケ集団の遺伝的多様性と遺伝構造解析 に十分な多型を示し、得られた分析結果も沖合混合集団における系群判別を含めmtDNA 分析による結果とよく一致した。本研究から明らかになったmtDNAとmsDNAの多型は、

酵素 タンパク多型やmtDNA制限酵素断片長多型などに比ベ遺伝的変異検出の感度が高 く、両者はシロザケ資源の遺伝的管理のための有用な分子遺伝マーカーになることが分か った。

  申請者による以上の成果は、シロザケの遺伝的多様性の現状と遺伝構造をDNAマーカ ーにより体系的に明らかにしたもので、我国を含む環太平洋地域における本種の保全と資 源の維持管理に大きく寄与するものである。よって審査員一同は、申請者が博士(水産科 学)の学位を授与される資格のあるものと判定した。

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