治療意欲継続支援に関する研究

VR 鏡療法システムにおける 遠隔情報共有および

治療意欲継続支援に関する研究

岡 山 大 学 大 学 院 自 然 科 学 研 究 科 博 士 後 期 課 程 産 業 創 成 工 学 専 攻

（ 平 成 28 年 度 ）

51426305 ^{三宅 貫 太 郎}

VR鏡 療 法 シ ス テ ム に お け る 遠 隔 情 報 共 有 お よ び 治 療 意 欲 継 続 支 援 に 関 す る 研 究

三 宅   貫 太 郎 論 文 要 旨 :

複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群 や 幻 肢 痛 と いった 四 肢 に 発 症 し 日 常 的 な 激 し い 痛 み と 運 動 障 碍 を 伴 う 慢 性 疼 痛 に 対 し ，鏡 療 法 や バ ー チャル リ ア リ ティ鏡 療 法（Virtual Reality based Mirror Visual Feedback: VR-MVF）な ど の 視 覚 的 フィー ド バック を 用 い た 治 療 の 効 果 が 確 認 さ れ て い る ．こ の 治 療 効 果 を 得 る た め に は 継 続 的 な 実 施 が 必 要 と さ れ て お り，自 発 的・継 続 的 な 治 療 を 容 易 に す る た め に は 医 師 の 指 導 の 下 で 患 者 が 在 宅 で 治 療 タ ス ク を 実 施 可 能 で あ る こ と が 望 ま し い ．こ こ で ，在 宅 で の 治 療 タ ス ク の 実 施 で は 医 師 や 看 護 師 か ら の 支 援 を 受 け る こ と が で き な い た め ，患 者 は 適 切 で な い 手 順 や 内 容 で 治 療 タ ス ク を 行って し ま う 可 能 性 が あ る ．加 え て ，慢 性 疼 痛 の 発 生 機 序 や 鏡 療 法 で 治 療 効 果 が 得 ら れ る 要 因 に つ い て は 未 解 明 の 点 が 多 い ．患 者 の 治 療 に 関 す る 情 報 を 遠 隔 で 収 集・共 有 可 能 な 環 境 を 構 築 す る こ と で ，実 際 の 治 療 状 況 に 応 じ た 適 切 な 医 療 従 事 者 に よ る 指 示 を 可 能 と す る の み な ら ず，将 来 的 に は 得 ら れ た 情 報 を 分 析 す る こ と で 治 療 効 果 要 因 の 発 見 に 貢 献 で き る と 期 待 さ れ る ．

一 方 で ，患 者 は 日 常 的 な 痛 み や 治 療 に 対 す る 不 安 を 抱 え た ま ま 長 期 的 な 治 療 や リ ハ ビ リ テ ー ション に 直 面 し な け れ ば な ら ず，治 療 の 動 機 づ け が 困 難 な た め に 治 療 を 中 断 し て し ま う こ と が 問 題 と なって い る ．こ の よ う な 状 況 に お い て ，ユ ー ザ に 対 し て 行 動 変 容 を 促 す よ う に い つ で も 働 き か け 続 け る こ と が で き る と い う コ ン ピュー タ の 特 長 が 治 療 の 動 機 づ け に 貢 献 で き る ．コ ン ピュー タ に よ る 説 得 の 概 念 で あ るCaptology^{が 提 案} さ れ て い る ．Captologyに お い て 定 義 さ れ て い る 説 得 の た め の 諸 原 理 を シ ス テ ム に 適 用 す る こ と で ，患 者 の 治 療 意 欲 を 継 続 可 能 と す る こ と が 期 待 で き る ．し か し な が ら ， 該 当 領 域 に お け る 従 来 研 究 で は 慢 性 疼 痛 の よ う に 難 治 性 で 治 療 意 欲 維 持 が 困 難 な 病 状 に お い て ，ど の よ う に 治 療 継 続 支 援 に 貢 献 で き る か は 未 検 討 で あった ．

そ こ で 本 研 究 は ，在 宅 で の 慢 性 疼 痛 治 療 に 関 す る 医 療 従 事 者 − 患 者 間 情 報 共 有 お よ び 治 療 継 続 支 援 を 目 的 と し て ，VR-MVFシ ス テ ム を 対 象 と し た 遠 隔 情 報 共 有 機 能 の 実 装 お よ びCaptology諸 原 理 の 適 用 可 能 性 の 検 証 を 行 う．

本 論 文 は 全8章 で 構 成 さ れ る ．第1章 で は ，本 研 究 で の 背 景 で あ る 複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群 や 幻 肢 痛 の 概 要 お よ び そ の 治 療 に お い て 存 在 す る 問 題 点 に つ い て 述 べ る ．ま た ，第2章 で は 慢 性 疼 痛 と そ の 治 療 法 の 一 つ で あ る 鏡 療 法 お よ びVR-MVF^{の 詳 細 を 述} べ る ．こ の と き ，慢 性 疼 痛 の 発 生 機 序 や 鏡 療 法 に よ る 治 療 効 果 の 生 起 要 因 に つ い て ， こ れ ま で の 知 見 に 基 づ い て 考 察 す る ．

第3章 で は 患 者 の 自 宅 等 で の 患 者 の 治 療 状 況 に 関 す る 各 種 情 報 を 医 療 従 事 者 と 共 有

す る た め の 仕 組 み に つ い て 検 討 し て い る ．ま ず，在 宅 で のVR-MVF治 療 に お い て 収 集 す べ き 情 報 と し て 慢 性 疼 痛 に 特 徴 的 な 症 状 で あ る 痛 み や 運 動 障 碍 に 着 目 し ，各 種 痛 み に 関 す る 質 問 票 やVR-MVFタ ス ク 実 施 中 の 患 者 の 運 動 を 記 録 対 象 と し た ．自 宅 に 設 置 す る 治 療 シ ス テ ム（ 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム ）に お い て ，こ れ ら の デ ー タ を 記 録 す る シ ス テ ム の 構 築 お よ び 遠 隔 地 の デ ー タ ベ ー ス サ ー バ へ デ ー タ を 転 送 す る 機 能 の 実 装 を 行った ．

第4章 で は ，慢 性 疼 痛 患 者 が 治 療 意 欲 を 維 持 で き な い 問 題 に 対 し ，Captologyで 定 義 さ れ て い る 説 得 の た め の 諸 原 理 を 援 用 し た 問 題 解 決 の た め の 仕 組 み を 提 案 し て い る ． ま ず，慢 性 疼 痛 患 者 の 治 療 意 欲 を 阻 害 す る 要 因 を 整 理 す る た め ，慢 性 疼 痛 治 療 に 携 わ る 医 療 従 事 者4名 へ の イ ン タ ビュー を 実 施 し た ．従 来 報 告 さ れ て い た 患 者 特 性 と イ ン タ ビュー 結 果 か ら ，患 者 の 治 療 意 欲 を 阻 害 す る 要 因 を 治 療 プ ロ セ ス 上 の 患 者 の 負 担 が 大 き い こ と ，患 者 が 治 療 の 効 果 を 実 感 し づ ら い こ と ，痛 み や そ れ に 伴 う 障 碍 に よ る 気 分 的 落 ち 込 み の3つ に 分 類 し た ．プ ロ セ ス 実 施 の 負 担 に 対 し て は ，Captology^{に お け る} 手 順 の 省 略 の 原 理 お よ び ト ン ネ リ ン グ の 原 理 の 適 用 を 検 討 し た ．こ こ で ，患 者 が 手 順 を 覚 え る 必 要 な く，独 力 で も 容 易 に 一 連 の 治 療 プ ロ セ ス を 完 了 で き る よ う に ，患 者 が 行 う べ き 治 療 手 順 を 提 示 し 操 作 を 誘 導 す る 手 順 支 援 機 能 をGraphical User Interface

（GUI）と し て 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム に 実 装 し た ．ま た ，治 療 効 果 を 実 感 し づ ら い こ と に 対 し て は セ ル フ モ ニ タ リ ン グ の 原 理 を 適 用 し ，患 者 に 対 し て 治 療 効 果 の 目 安 と な る 情 報 を 記 録 し 提 示 す る こ と を 検 討 し た ．

第5章 で は ，第3章 で 述 べ る 遠 隔 情 報 共 有 機 能 と 第4章 で 述 べ る 手 順 支 援 用GUIを 実 装 し た 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム を ，テ ス ト ケ ー ス と し て 実 際 に 慢 性 疼 痛 患 者 が 自 宅 で 使 用 し た 結 果 に つ い て 述 べ る ．約3ヶ月 間 の 使 用 結 果 よ り，構 築 し た シ ス テ ム が 各 種 デ ー タ の 記 録 と 転 送 ，患 者 に よ る 継 続 的 な 治 療 実 施 支 援 が 可 能 で あ る こ と が 確 認 さ れ た ．ま た ，シ ス テ ム を 用 い た 治 療 に よ る 痛 み と 運 動 能 力 の 変 化 お よ び シ ス テ ム へ の セ ル フ モ ニ タ リ ン グ の 導 入 可 能 性 を 検 討 す る た め ，収 集 さ れ た デ ー タ を 分 析 し た ．そ の 結 果 ，疼 痛 軽 減 や 腕 動 作 範 囲 の 拡 大 と いった 傾 向 が 確 認 さ れ ，長 期 的 に は 痛 み や 運 動 に 変 化 が 起 こ る 可 能 性 を 見 出 し た ．一 方 で ，患 者 に よって は 気 分 的 落 ち 込 み が 原 因 で 変 化 が 見 ら れ る ま で に 治 療 を 中 断 し て し ま う こ と や 過 度 に 長 時 間 治 療 タ ス ク を 実 施 す る こ と も 課 題 と し て 挙 げ ら れ た ．

第6章 で は ，第5章 で 挙 げ ら れ た 課 題 を 解 決 す る 要 素 を 見 出 す た め ，岡 山 大 学 病 院 で 勤 務 す る 医 療 従 事 者 と 慢 性 疼 痛 患 者 が 診 察 中 に 行 う 会 話 を 調 査 し た ．会 話 分 析 の 結 果 ，患 者 の 気 分 を 高 め る 称 賛 と と も に ，不 適 切 な 行 為 の 指 摘 と 適 切 な 行 為 の 説 明 を 行 う こ と で 患 者 の 気 分 を 害 さ ず に 行 動 を 改 め る よ う 促 す 説 諭 が 行 わ れ て い る こ と が 明 ら か に なった ．コ ン ピュー タ が 行 う 説 諭 が ユ ー ザ に 与 え る 影 響 はCaptologyの 領 域 で

も 未 検 討 で あ り，説 諭 の よ う な 望 ま し く な い 行 動 へ の フィー ド バック の あ り 方 を 検 討 す る こ と はCaptologyの 概 念 拡 張 に 貢 献 で き る と 考 え ら れ る ．

第7章 で は ，称 賛 や 説 諭 の 効 果 を 実 験 的 に 検 討 し た ．す な わ ち ，治 療 へ の 取 り 組 み と 類 似 性 の あ る 情 報 技 術 学 習 タ ス ク を 対 象 と し て ，タ ス ク 実 行 に 対 す るGUI^{か ら の 称} 賛 と 説 諭 が ユ ー ザ の 自 己 効 力 感 ，自 律 性 ，行 動 継 続 お よ び イ ン タ フェー ス の 印 象 に 与 え る 影 響 を 実 験 的 に 調 査 し た ．実 験 結 果 か ら ，称 賛 と 説 諭 そ れ ぞ れ に 自 己 効 力 感・自 律 性・イ ン タ フェー ス の 印 象 と いった 継 続 に 影 響 す る 要 因 を 一 部 向 上 さ せ る こ と ，特 に 説 諭 は 批 判 な ど と 異 な り 自 己 効 力 感 や 自 律 性 の 低 下 に 影 響 し な い こ と が 確 認 さ れ た ． こ れ ら か ら ，長 期 的 に は 称 賛 や 説 諭 が 行 動 の 継 続・変 容 に 資 す る 可 能 性 を 確 認 し た ．

最 後 に 第8章 で ，各 章 で 述 べ た 内 容 を 総 括 し 今 後 の 展 望 を 述 べ ，本 論 文 の ま と め を 行って い る ．

i

目 次

1 ^{序 論} 1

1.1 研 究 背 景 . . . . 1

1.2 ^{研 究 目 的} . . . . 3

1.3 本 論 文 の 構 成 . . . . 3

2 慢 性 疼 痛 患 者 の 背 景 5 2.1 慢 性 疼 痛 . . . . 5

2.1.1 複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群 . . . . 6

2.1.2 ^{幻 肢 痛} . . . . 9

2.2 慢 性 疼 痛 の 発 生 要 因 に 関 す る 一 考 察 . . . . 10

2.3 ^{鏡 療 法}. . . . 11

2.3.1 鏡 療 法 の 概 要 . . . . 11

2.3.2 リ ハ ビ リ テ ー ション . . . . 14

2.3.3 治 療 過 程 に お け る 問 題 点 . . . . 15

2.4 バ ー チャル リ ア リ ティを 利 用 し た 鏡 療 法 . . . . 16

2.4.1 バ ー チャル リ ア リ ティ . . . . 16

2.4.2 バ ー チャル リ ア リ ティを 利 用 し た 鏡 療 法 装 置 . . . . 17

2.4.3 ヘッド マ ウ ン ト ディス プ レ イ を 用 い た バ ー チャル リ ア リ ティ鏡 療 法 装 置 . . . . 18

2.4.4 在 宅 用 簡 易 型 バ ー チャル リ ア リ ティ鏡 療 法 装 置 . . . . 22

2.4.5 ^{ま と め} . . . . 24

3 遠 隔 情 報 共 有 機 能 の 検 討 25 3.1 ^{本 章 の 概 要} . . . . 25

3.2 遠 隔 医 療 . . . . 25

3.3 収 集 す る 情 報 の 考 察 . . . . 27

3.3.1 痛 み に 関 す る 情 報 . . . . 27

3.3.2 運 動 に 関 す る 情 報 . . . . 28

3.4 ^{在 宅 用}VR-MVF^{シ ス テ ム} . . . . 29

3.4.1 VR-MVFシ ス テ ム に 使 用 す る コ ン ピュー タ に 望 ま れ る 能 力 . . . . . 29

3.4.2 VR-MVFシ ス テ ム に 使 用 す る ディス プ レ イ . . . . 30

3.4.3 Kinect for Windows^{の 仕 様} . . . . 30

3.4.4 在 宅 用VR-MVF治 療 装 置 の 配 置 . . . . 33

3.4.5 VR^{表 示 処 理} . . . . 34

3.5 デ ー タ 記 録 機 能 の 実 装 . . . . 36

3.5.1 治 療 タ ス ク 実 行 中 の デ ー タ 記 録 処 理 . . . . 42

3.6 デ ー タ 共 有 機 能 の 実 装 . . . . 45

3.6.1 サ ー バ 構 成 の 概 要 . . . . 45

3.6.2 デ ー タ 通 信 用WebAPI^{の 概 要} . . . . 46

3.6.3 通 信・デ ー タ 記 録 プ ロ セ ス . . . . 47

3.7 ^{ま と め}. . . . 48

4 Captologyを 援 用 し た 外 装 的 グ ラ フィカ ル ユ ー ザ イ ン タ フェー ス 49 4.1 治 療 意 欲 阻 害 要 因 の 検 討 . . . . 49

4.1.1 慢 性 疼 痛 患 者 の 状 態 の 考 察 . . . . 49

4.1.2 医 療 従 事 者 へ の 聞 き 取 り 調 査 . . . . 51

4.2 治 療 意 欲 阻 害 要 因 の 検 討 . . . . 57

4.3 Captology . . . . 58

4.4 導 入 す る 説 得 原 理 の 検 討 . . . . 61

4.4.1 手 順 の 省 略 と ト ン ネ リ ン グ . . . . 61

4.4.2 セ ル フ モ ニ タ リ ン グ . . . . 62

4.4.3 称 賛 と フィー ド バック . . . . 62

4.5 VR-MVFシ ス テ ム へ の 機 能 導 入 例 . . . . 63

4.5.1 GUIに よ る 治 療 手 順 の 誘 導 . . . . 63

4.5.2 治 療 に 関 す る 情 報 の 提 示 . . . . 67

4.5.3 称 賛 メッセ ー ジ の 提 示 . . . . 67

4.6 ^{ま と め}. . . . 68

5 構 成 し た シ ス テ ム の 治 療 へ の 使 用 実 績 69 5.1 患 者 自 宅 へ の 導 入 . . . . 69

5.1.1 倫 理 的 配 慮. . . . 69

5.1.2 ^{協 力 患 者} . . . . 69

5.1.3 患 者 に よ る シ ス テ ム 使 用 結 果 . . . . 70

5.1.4 ^{考 察} . . . . 73

5.2 痛 み デ ー タ の 分 析 . . . . 74

5.3 運 動 デ ー タ の 分 析 . . . . 74

5.3.1 健 常 者 の 運 動 デ ー タ の 収 集 . . . . 75

5.3.2 分 析 結 果 . . . . 75

5.3.3 限 界 と 今 後 の 課 題 . . . . 77

5.4 ま と め. . . . 78

6 情 緒 的 支 援 機 能 の 検 討 79 6.1 本 章 の 概 要 . . . . 79

6.2 医 療 従 事 者 の コ ミュニ ケ ー ション ス キ ル . . . . 79

6.3 医 療 従 事 者 ー 患 者 間 の 会 話 に 見 ら れ る 医 療 従 事 者 の 声 掛 け・指 導 の 調 査 81 6.3.1 ^{倫 理 的 配 慮}. . . . 81

6.3.2 調 査 対 象 . . . . 81

6.3.3 ^{調 査 方 法} . . . . 82

6.3.4 ^{分 析 手 法} . . . . 85

6.4 診 察 中 の 会 話 の 分 析 . . . . 86

6.4.1 ^{発 言 の 整 理}. . . . 87

6.4.2 称 賛・ポ ジ ティブ な 評 価 . . . . 88

6.4.3 ^{注 意・叱 咤} . . . . 90

6.4.4 医 師 と 患 者 の 位 置 関 係 に 関 す る 結 果 と 考 察 . . . . 91

6.5 考 察 . . . . 92

6.5.1 患 者 の 精 神 状 態 . . . . 92

6.5.2 フィー ド バック に 関 す る 考 察 . . . . 92

6.5.3 位 置 関 係 に 関 す る 考 察 . . . . 95

6.6 ^{ま と め}. . . . 95

7 情 緒 的 支 援 機 能 の 検 討 96 7.1 仮 説 設 定 . . . . 96

7.1.1 称 賛 . . . . 96

7.1.2 ^{説 諭} . . . . 97

7.1.3 Persuasive Technologyに お け る 称 賛 と 説 諭 . . . . 97

7.1.4 ^{仮 説 設 定} . . . . 98

7.2 称 賛 と 説 諭 を 行 う 情 緒 的 支 援 機 能 を 有 す る イ ン タ フェー ス . . . . 99

7.2.1 要 件 設 定 . . . . 99

7.2.2 ^{実 装} . . . . 99

7.3 効 果 検 証 実 験 . . . . 100

7.3.1 ^{倫 理 的 配 慮}. . . . 100

7.3.2 参 加 者 . . . . 101

7.3.3 ^{独 立 変 数} . . . . 101

7.3.4 実 験 プ ロ セ ス . . . . 101

7.3.5 測 定 対 象 . . . . 104

7.3.6 ^{実 験 結 果} . . . . 105

7.4 考 察 . . . . 111

7.4.1 称 賛 と 説 諭 の 効 果 . . . . 111

7.4.2 実 験 の 限 界. . . . 113

7.5 ^{ま と め}. . . . 113

8 結 言 115 8.1 ^{ま と め}. . . . 115

8.2 今 後 の 展 望 . . . . 115

謝 辞 118 参 考 文 献 120 論 文 リ ス ト 134 A 医 療 施 設 用VR-MVFシ ス テ ム 136 A.1 シ ス テ ム の 構 成 装 置 . . . . 136

A.1.1 磁 気 セ ン サ の 仕 様 . . . . 136

A.1.2 デ ー タ グ ロ ー ブ の 仕 様 . . . . 139

A.1.3 ディス プ レ イ の 仕 様 . . . . 140

A.2 運 用 時 に お け る 構 成 装 置 の 組 み 合 わ せ . . . . 141

B ^{調 査 票} 142 B.1 Sense of Agencyに 関 す る ア ン ケ ー ト. . . . 142

B.2 自 己 効 力 感 に 関 す る 質 問 票. . . . 142

B.3 自 律 性 に 関 す る 質 問 票 . . . . 142

B.4 イ ン タ フェー ス の 印 象 に 関 す る 質 問 票 . . . . 145

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図 目 次

2.1 Penfieldの 体 性 感 覚 地 図 . . . . 11

2.2 McCabeら の 知 覚 − 運 動 ル ー プ. . . . 12

2.3 鏡 療 法 で 用 い ら れ るmirror box. . . . 13

2.4 Murrayら の バ ー チャル リ ア リ ティ鏡 療 法 装 置 に お け る セ ン サ 装 着 方 法 . . 18

2.5 Murrayら の バ ー チャル リ ア リ ティ鏡 療 法 装 置 で 提 示 さ れ る 仮 想 環 境 の 様 子 19 2.6 ^{飯 田 ら の}VRを 用 い た 幻 肢 リ ハ ビ リ テ ー ション シ ス テ ム . . . . 20

2.7 佐 藤 ら の バ ー チャル リ ア リ ティ鏡 療 法 装 置 に お け る セ ン サ 装 着 方 法. . . . 21

2.8 佐 藤 ら の バ ー チャル リ ア リ ティ鏡 療 法 装 置 を 使 用 し た 治 療 の 様 子 . . . . . 21

2.9 五 福 ら の 簡 易 型VR-MVF治 療 装 置 . . . . 23

2.10 福 森 ら の 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム の 構 成 と 使 用 中 の 様 子 . . . . 24

3.1 遠 隔 情 報 共 有 を 行 うVR-MVFシ ス テ ム の 構 想 図 . . . . 26

3.2 Kinect for Windowsセ ン サ の 構 成 . . . . 30

3.3 Kinect for Windows^{の 計 測 範 囲} . . . . 31

3.4 モ ー ション セ ン サ の キャリ ブ レ ー ション 中 画 面 . . . . 33

3.5 簡 易 型VR/MVFシ ス テ ム の 構 成 物 の 配 置 . . . . 33

3.6 VR-MVFタ ス ク 中 の 仮 想 空 間 . . . . 35

3.7 仮 想 の 手 の 関 節 . . . . 36

3.8 質 問 表 へ の 回 答 し 忘 れ の 場 合 . . . . 37

3.9 回 答 未 完 了 時 に 終 了 し よ う と し た 場 合 . . . . 37

3.10 痛 み に 関 す るVAS画 面 . . . . 38

3.11 簡 略 版 マ ク ギ ル 疼 痛 質 問 票. . . . 39

3.12 Sense of Agencyに 関 す る ア ン ケ ー ト. . . . 39

3.13 SF-36v2 . . . . 40

3.14 EuroQoL 5 Dimension日 本 語 版 . . . . 41

3.15 簡 易 疼 痛 調 査 票 . . . . 42

3.16 疼 痛 生 活 障 害 評 価 尺 度 . . . . 43

3.17 HADS日 本 語 版 . . . . 43

3.18 疼 痛 生 活 障 害 評 価 尺 度 . . . . 44

3.19 治 療 タ ス ク 実 施 中 の デ ー タ 保 存 処 理 手 法 . . . . 45

3.20 患 者 コ ン ピュー タ − サ ー バ 間 デ ー タ 通 信 プ ロ セ ス . . . . 48

4.1 Fear-Avoidance Model^（[99]を 翻 訳 ，一 部 改 変 ） . . . . 51

4.2 Captologyの 領 域 . . . . 59

4.3 GUIア プ リ ケ ー ション を 開 始 す る た め の デ ス ク トップ ア イ コ ン. . . . 64

4.4 ロ グ イ ン 画 面 . . . . 64

4.5 実 施 す る 調 査 票 が あ る こ と の 告 知 画 面 . . . . 65

4.6 GUIア プ リ ケ ー ション の メ イ ン 画 面 . . . . 65

4.7 調 査 票 実 施 の 選 択 画 面 . . . . 66

4.8 治 療 タ ス ク 開 始 方 法 説 明 画 面 . . . . 67

4.9 治 療 結 果 表 示 画 面 . . . . 68

5.1 患 者 自 宅 で の 治 療 イ メ ー ジ. . . . 70

5.2 一 日 あ た り の 治 療 頻 度 . . . . 71

5.3 治 療 開 始 時 間 ご と の 治 療 頻 度 . . . . 71

5.4 一 日 あ た り の 実 施 タ ス ク 実 施 時 間 . . . . 72

5.5 時 間 ご と の 治 療 頻 度 . . . . 72

5.6 Pain value before and after the treatment . . . . 73

5.7 健 常 者 と 患 者Aの 各 運 動 指 標 量 . . . . 76

5.8 患 者Aの リ ー チ ン グ 動 作 に お け る 手 と 肘 の 移 動 距 離 差 の 変 動 . . . . 77

6.1 診 察 中 の 医 師 と 患 者 の 配 置 例 . . . . 92

7.1 情 緒 的 支 援 イ ン タ フェー ス 画 面 例 . . . . 100

7.2 情 緒 的 支 援 イ ン タ フェー ス で 提 示 さ れ る キャラ ク タ 画 像 . . . . 100

7.3 情 報 技 術 に 関 す る テ ス ト 画 面 例 . . . . 102

7.4 情 緒 的 支 援 イ ン タ フェー ス か ら 提 示 さ れ る メッセ ー ジ 例 . . . . 103

7.5 実 験 前 の 自 己 効 力 感 ス コ ア. . . . 107

7.6 実 験 前 後 の 自 己 効 力 感 ス コ ア の 変 動 . . . . 107

7.7 実 験 前 の 自 律 性 ス コ ア . . . . 108

7.8 実 験 前 後 の 自 律 性 ス コ ア の 変 動 . . . . 109

7.9 実 験 前 後 の 自 律 性 ス コ ア の 変 動 . . . . 110

A.1 ^{医 療 施 設 用}VR-MVFシ ス テ ム の 構 成 図 . . . . 137

A.2 ^{磁 気 セ ン サ}FASTRAKの 概 観 と 各 部 品 名. . . . 137

A.3 FASTRAKに お け る 座 標 軸 の 定 義 . . . . 139

A.4 FASTRAKレ シ ー バ を 取 り 付 け た 様 子 の 概 観 . . . . 139

A.5 デ ー タ グ ロ ー ブ5DT Data Glove 14 Ultraの 概 観 . . . . 140

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表 目 次

2.1 The diagnosis criteria for CRPS^（Budapest Criteria^） . . . . 7

2.2 厚 生 労 働 省CRPS研 究 班 か ら 提 唱 さ れ た 本 邦 版CRPS判 定 指 標 . . . . 8

3.1 ^{在 宅 用}VR-MVFシ ス テ ム の 代 表 的 構 成 . . . . 29

3.2 Kinect for Windows^{の ス ペック} . . . . 31

3.3 Kinect for Windowsを 動 作 さ せ る た め の コ ン ピュー タ の 要 求 仕 様 . . . . 31

3.4 サ ー バ の ハ ー ド ウェア ス ペック. . . . 46

3.5 サ ー バ の ソ フ ト ウェア ス ペック. . . . 46

4.1 Cohn^，Fink，上 田 の 危 機 モ デ ル . . . . 50

4.2 Captologyに お い て 定 義 さ れ て い る 説 得 原 理 . . . . 60

5.1 導 入 し た 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム の 構 成 . . . . 70

6.1 観 察 協 力 患 者 リ ス ト . . . . 83

6.2 医 療 従 事 者 の 発 言・振 る 舞 い に 関 す る 記 録 対 象 項 目 . . . . 84

6.3 患 者 の 発 言・振 る 舞 い に 関 す る 記 録 対 象 項 目. . . . 85

6.4 医 師 ― 慢 性 疼 痛 患 者 間 の 診 察 観 察 回 数 と 観 察 一 回 あ た り の 平 均 時 間 . . . 86

6.5 医 療 従 事 者 ― 慢 性 疼 痛 患 者 間 の 診 察 中 の 各 発 言 の 合 計 . . . . 87

6.6 急 性 期 の プ ラ イ マ リ・ケ ア 診 療 の 全 体 的 な 組 織 構 造（ 参 考 文 献[117]^{邦 訳} 版 よ り 引 用 ） . . . . 88

7.1 実 験 前 の 参 加 者 の 情 報 技 術 学 習 に 対 す る 意 欲 と 自 信 . . . . 106

7.2 参 加 者 の テ ス ト 継 続 数 お よ び テ ス ト 回 答 数 の 変 動 . . . . 110

A.1 医 療 施 設 用VR-MVFシ ス テ ム お よ び 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム の 代 表 的 な 装 置 構 成 . . . . 138

A.2 ^{磁 気 セ ン サ}FASTRAK^{の ス ペック} . . . . 138

A.3 5DT Data Glove 14 Ultraの ス ペック . . . . 141

B.1 Sense of Agencyに 関 す る ア ン ケ ー ト(例：右 手 が 患 部 の 場 合). . . . . 143

B.2 自 己 効 力 感 に 関 す る 質 問 票. . . . 143

B.3 自 律 性 に 関 す る 質 問 票 . . . . 144

B.4 イ ン タ フェー ス の 印 象 に 関 す る 質 問 票 . . . . 145

第 1 ^章

序論

1.1 ^{研 究 背 景}

身 体 の 損 傷・喪 失 に 伴 い 発 生 す る 幻 肢 痛 や 複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群(Complex Regional Pain Syndrome: CRPS)と いった 慢 性 疼 痛 に 苦 し む 患 者 は 少 な く な い ．慢 性 疼 痛 は 生 活 に 支 障 を 来 た す ほ ど 激 し い 痛 み が 特 徴 で あ る ．幻 肢 痛 は す で に 痛 み を 感 じ る 部 位 が 存 在 し な い が ，存 在 し な い は ず の 部 位 が そ の 場 に 存 在 す る よ う に 感 じ ，そ の 部 位 に 痛 み を 感 じ て い る ．ま た ，CRPSで は 通 常 痛 み と し て 感 じ る こ と の な い 刺 激 で も 痛 み を 感 じ る 痛 覚 過 敏 や ，患 部 の 運 動 障 害 が 発 生 す る ．慢 性 疼 痛 は 未 だ に 発 生 機 序 が 判 明 し て お ら ず，そ れ に 基 づ い た 治 療 方 法 が 未 確 立 で あ る た め ，治 療 は 困 難 と なって い る ． こ れ ら の 慢 性 疼 痛 に 対 し て は 主 に 薬 に よ る 治 療 が 行 わ れ て い る ．し か し ，薬 剤 治 療 は 体 調 に よって は 薬 を 投 与 で き な い こ と ，薬 の 投 与 に よ る 副 作 用 の 存 在 ，薬 の 反 復 使 用 に 伴 う 抵 抗 性 の 獲 得 に よ る 効 力 の 低 下 ，特 に 幻 肢 痛 の 場 合 は 投 与 す る 部 位 が 存 在 し な い な ど の 問 題 が あ る ．

慢 性 疼 痛 へ の 非 侵 襲・非 投 薬 の 治 療 法 と し て ，Ramachandoranら に よ る 鏡 療 法 が 提 案 さ れ て い る[1, 2]．こ の 治 療 で は 四 肢 の 慢 性 疼 痛 に 対 し ，存 在 し な い ，ま た は 動 か す こ と が で き な い 患 部 が 運 動 し て い る 様 子 を ，鏡 を 用 い て 視 覚 的 に 提 示 す る ．鏡 療 法 は 幻 肢 痛 や ，身 体 の 喪 失 を 伴 わ な いCRPS患 者 へ の 治 療 効 果 を あ げ て い る こ と が 報 告 さ れ て い る[3]．鏡 療 法 は ，限 ら れ た 空 間 で 治 療 を 行 う た め に 姿 勢 や 運 動 に 制 限 を 生 じ る こ と や ，単 調 な 治 療 に 飽 き や す い こ と が 問 題 と なって い る ．そ こ で ， 鏡 療 法 を バ ー チャ ル リ ア リ ティを 利 用 し て 構 築 し たVirtual Reality-based Mirror Visual Feedback (VR-MVF) と い う 四 肢 の 仮 想 現 実・擬 似 訓 練 が 行 わ れ て い る ．従 来 ま で に 構 築 さ れ た い く つ か の VR-MVFに よ り，慢 性 疼 痛 患 者 へ の 疼 痛 軽 減 効 果 が 得 ら れ て い る こ と が 報 告 さ れ て い る[4, 5, 6]．し か し な が ら ，鏡 療 法 お よ びVR-MVFで の 治 療 効 果 は 即 時 的 に 得 ら れ る も の で は な く，治 療 の 中 断 に よ り 減 少 ，消 失 す る ケ ー ス が 報 告 さ れ て お り，治 療 効 果 持 続 の た め に 継 続 的 治 療 が 必 要 と さ れ る ．そ こ で ，患 者 の 治 療 機 会 の 増 加 の た め に ，家 庭 内 でVR-MVFを 行 う こ と が 可 能 に な る 簡 易 型 の 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム が 開 発 さ れ て い る[7, 8]^．

こ こ で ，鏡 療 法 やVR-MVFを 用 い る 治 療 に お い て 大 き く 二 つ の 問 題 が 存 在 す る ．一 つ は ，そ れ ら の 治 療 が な ぜ 疼 痛 軽 減 や 運 動 機 能 改 善 な ど の 効 果 が 得 ら れ る の か が 未 解 明 な こ と で あ る ．幾 つ か の 研 究 は 鏡 療 法 やVR-MVFを 用 い て 治 療 効 果 が 得 ら れ る 要

因 に つ い て 考 察 し て い る[9, 10]が ，症 状 の 多 様 さ な ど が 理 由 で 特 定 に は 至って い な い ． こ こ で ，治 療 効 果 に 起 因 す る 要 因 の 特 定 ，慢 性 疼 痛 の 痛 み の メ カ ニ ズ ム の 解 明 の た め に ，数 多 く の 治 療 に 関 す る 情 報 を 収 集 し た い 医 療 の ニ ー ズ が 存 在 す る ．鏡 療 法 は 患 者 が 独 力 で 実 施 可 能 で あ る が ，患 者 が ど の よ う な 動 き を 行った の か な ど の 客 観 的 な 情 報 は 得 ら れ な い ．一 方 で ，VR-MVF実 施 の た め に は シ ス テ ム を 設 置 し て あ る 医 療 施 設 へ の 通 院 が 必 要 で あ る ．そ の 通 院 は 患 者 に とって 肉 体 的・時 間 的 に 負 担 で あ り，ま た 医 療 施 設 で の 治 療 は 患 者 が 自 由 な 時 間 に 自 発 的 に 実 施 を す る こ と は 困 難 で あ る ．患 者 が 自 宅 で 治 療 を 実 施 可 能 な 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム を 導 入 す る こ と で ，患 者 の 自 発 的 治 療 を 支 援 す る こ と が 考 え ら れ る ．し か し な が ら ，患 者 が 医 療 従 事 者 が 監 視 で き な い 自 宅 で は ，不 適 切 で な い 手 順 や 内 容 で 治 療 を 行って し ま う 可 能 性 が 存 在 す る ．

こ の 問 題 に 対 し ，治 療 に 関 す る 情 報 を 遠 隔 で 記 録・収 集 す る こ と で 医 師 や 看 護 師 と 患 者 間 で の コ ミュニ ケ ー ション を 容 易 に す る 仕 組 み が 望 ま れ る ．医 師 や 看 護 師 が 離 れ た 場 所 に い る 患 者 の 状 態 を 簡 単 に 把 握 可 能 で ，簡 単 に 患 者 か ら も 医 師 や 看 護 師 に 連 絡 す る こ と が で き れ ば ，よ り 効 果 的 な 治 療 を 行 え る よ う に な る こ と が 期 待 で き る ．ま た ，治 療 に 関 す る 情 報 を 集 め て 解 析 す る こ と で ，VR-MVF実 施 で 得 ら れ る 治 療 効 果 が 得 ら れ て い る 理 由 の 特 定 や ，治 療 効 果 に 起 因 す る 要 因 の 特 定 ，慢 性 疼 痛 の 痛 み の メ カ ニ ズ ム の 解 明 に 貢 献 す る 可 能 性 が あ る ．し か し な が ら ，ど の よ う な 情 報 が 患 者 の 治 療 過 程 に お い て 有 益 な も の で あ る か は 検 討 さ れ て い な い ．

も う 一 つ の 問 題 は ，患 者 が 様々な 理 由 か ら 治 療 を 続 け る 意 欲 を 維 持 す る こ と が で き な い こ と で あ る ．患 者 の 自 宅 に 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム を 導 入 し て も ，患 者 が 独 力 で は 治 療 手 順 を 実 施 で き な い 場 合 が 存 在 す る ．ま た ，日々痛 み に 対 し 苦 悩 す る 患 者 は ， 終 わ り の 見 え な い 単 調 な 治 療 に 対 し て 意 欲 を 維 持 で き ず，治 療 を 中 断 し て し ま う．こ こ で 患 者 の ニ ー ズ と し て ，患 者 が 日々の 治 療 を 可 能 に し つ つ ，治 療 に 対 し 動 機 づ け る こ と へ の 支 援 が 望 ま れ る ．医 療 施 設 で あ れ ば ，医 師 や 看 護 師 を は じ め と す る 医 療 従 事 者 が 患 者 の 治 療 手 順 を 支 援 し ，治 療 意 欲 向 上 に 働 き か け る こ と が で き る ．し か し な が ら ，医 療 従 事 者 は 日 常 業 務 で 多 忙 で あ る た め ，治 療 を 行 う 患 者 を 医 療 従 事 者 が 支 援 し 続 け る こ と は 難 し い ．患 者 の 家 族 や 友 人 で あって も ，時 間 や 期 間 を 問 わ ず 患 者 に 働 き か け 続 け る こ と は 困 難 で あ る ．

こ こ で ，コ ン ピュー タ を 人 間 の 行 動 変 容 の た め の 技 術 と し て 扱 う 研 究 領 域 と し て Fogg^{の 提 唱 す る}Captology[11]が 存 在 す る ．Captologyの 概 念 に 基 づ く の で あ れ ば ，コ ン ピュー タ は 時 間 を 問 わ ず 生 活 に 介 入 し ，ユ ー ザ の 態 度 や 行 動 を 変 え る た め に 働 き 続 け る こ と が で き る ．今 日 で は ，人 の 行 動 変 容 を 引 き 起 こ す た め に 生 み 出 さ れ た 様々な コ ン ピュー タ 技 術 や 製 品 が 存 在 す る ．特 に 健 康 に 関 す る 行 動 変 容 の た め 技 術 例 と し て は ，Chick Clique[12]，Fish’n steps[13]，Ubifit Garden[14]，Flowei[15]な ど が 挙 げ ら れ る ． Captology研 究 領 域 で は ，人 − コ ン ピュー タ 間 イ ン タ ラ ク ション に お い て 人 の 行 動 を 変 え る こ と が 明 ら か に なって い る も の は 説 得 原 理 と し て 整 理 さ れ て い る ．患 者 を 治 療 に

対 し 動 機 づ け る 仕 組 み を 検 討 す る 際 に ，い く つ か の 説 得 原 理 を 援 用 す る こ と で ，い つ で も 適 切 に 患 者 の 治 療 に 対 す る 意 識 や 行 動 を 変 え る よ う 促 す こ と が 期 待 で き る ．し か し な が ら ，慢 性 疼 痛 の よ う な 日 常 的 に 痛 み を 有 す る 患 者 を 治 療 に 動 機 づ け る た め にCaptologyの 概 念 が ど の よ う に 貢 献 で き る か は 従 来 考 慮 さ れ て い な い ．

1.2 研 究 目 的

本 研 究 の 目 的 は ，患 者 がVR-MVFシ ス テ ム を 用 い て 行 う 治 療 に 関 す る 情 報 を 医 療 従 事 者 と 共 有 可 能 と し ，か つ 患 者 を シ ス テ ム を 用 い た 治 療 継 続 に 動 機 づ け る た め の 仕 組 み を 提 案 す る こ と で あ る ．そ の た め に ，ま ず 患 者 の 治 療 に 関 係 す る 情 報 を 整 理 す る ．そ の 後 ，整 理 さ れ た 情 報 を 記 録 す る 手 法 を 考 案 し ，遠 隔 地 の 医 療 従 事 者 が 確 認 で き る よ う に 情 報 を 収 集 す る 機 能 を 実 装 す る ．

ま た ，本 研 究 で は 慢 性 疼 痛 患 者 の 治 療 意 欲 を 阻 害 す る 要 因 を 検 討 し た 上 で ，Captology で 定 義 さ れ て い る 説 得 の た め の 原 理 を 適 用 し て 解 決 を 目 指 す．加 え て ，治 療 に お い て は 患 者 を 意 欲 的 に す る だ け で な く，効 果 的 に 治 療 を 行 う た め の 指 導 が 重 要 に な る ．そ の よ う な 指 導 を コ ン ピュー タ が 行 う 手 法 はCaptologyの 領 域 で も 未 検 討 で あ る ．本 研 究 は ，医 療 従 事 者 と 慢 性 疼 痛 患 者 の 会 話 か ら 適 切 な 指 導 の 方 法 を 検 討 す る ．さ ら に ，検 討 し た 指 導 の メッセ ー ジ を 提 示 す る イ ン タ フェー ス が ユ ー ザ に 与 え る 影 響 を 実 験 的 に 検 証 す る ．

1.3 本 論 文 の 構 成

本 論 文 は 全8章 で 構 成 さ れ て お り，各 章 の 内 容 は 次 の 通 り で あ る ．ま ず 第1^{章 で は 本} 研 究 で の 背 景 で あ る 複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群 や 幻 肢 痛 の 概 要 お よ び そ の 治 療 に お い て 存 在 す る 問 題 点 に つ い て 述 べ ，本 研 究 の 目 的 を 述 べ た ．

第2章 で は 慢 性 疼 痛 と そ の 治 療 法 の 一 つ で あ る 鏡 療 法 ，お よ び 鏡 療 法 を バ ー チャル リ ア リ ティ技 術 を 用 い て 拡 張 し た バ ー チャル リ ア リ ティ鏡 療 法 の 詳 細 を 述 べ る ．こ こ で ，慢 性 疼 痛 の 発 生 機 序 や ，鏡 療 法 に よ る 治 療 効 果 の 生 起 要 因 に つ い て 考 察 す る ．こ の と き ，そ れ ら に 影 響 す る と 考 え ら れ る 運 動 − 知 覚 ル ー プ や 運 動 主 体 感 に つ い て 説 明 す る ．

第3章 で は 患 者 の 自 宅 等 で の 患 者 の 治 療 状 況 に 関 す る 各 種 情 報 を 医 療 従 事 者 と 共 有 す る た め の 仕 組 み に つ い て 検 討 し て い る ．ま ず 痛 み や 運 動 障 が い が 慢 性 疼 痛 患 者 の 特 徴 で あ る こ と を 踏 ま え ，患 者 の 治 療 過 程 に お い て 収 集 さ れ る べ き 情 報 を 検 討 し た ． 痛 み に 関 す る 情 報 は 痛 み の 程 度 や 痛 み の 状 態 に 伴って 変 化 す る 心 理 状 態 を 確 認 可 能 と す る た め ，簡 略 版McGill疼 痛 質 問 票 や 疼 痛 生 活 障 害 尺 度 な ど の 各 種 調 査 票 を 選 定 し た ．こ れ ら の 調 査 票 は コ ン ピュー タ 上 で 実 施 可 能 と す る た め ，ま た デ ー タ の 転 送 を 容

易 に す る た め に グ ラ フィカ ル ユ ー ザ イ ン タ ー フェー ス（GUI）と し て 電 子 化 さ れ た ．運 動 に 関 す る 情 報 はVR-MVFタ ス ク 実 施 中 に セ ン サ か ら 取 得 さ れ る 患 者 の 姿 勢 や ，患 者 が 操 作 す る 仮 想 空 間 上 の 仮 想 の 手 に よ る 仮 想 物 体 把 持 状 況 が 記 録 対 象 と なった ．最 後 に ，記 録 さ れ た デ ー タ を イ ン タ ー ネット 経 由 で 医 療 従 事 者 が 閲 覧 可 能 な デ ー タ ベ ー ス サ ー バ に 転 送 す る 情 報 共 有 機 能 の 在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム へ の 実 装 に つ い て 説 明 し て い る ．

第4章 で は 慢 性 疼 痛 患 者 が 治 療 継 続 に 動 機 づ け ら れ な い 問 題 に 対 し ，コ ン ピュー タ に よ る 説 得 概 念 で あ るCaptologyを 援 用 し た 問 題 解 決 の た め の 仕 組 み を 提 案 す る ．ま ず，慢 性 疼 痛 患 者 がVR-MVFな ど の 治 療 シ ス テ ム を 用 い て 治 療 を 行 う 上 で 生 じ る ，治 療 意 欲 を 阻 害 す る 要 因 を 考 察 し た ．こ こ で ，Captologyの 概 要 や ，定 義 さ れ て い る 説 得 の た め の 諸 原 理 に つ い て 説 明 す る ．そ し て 治 療 意 欲 阻 害 要 因 に 対 し ，そ れ ぞ れ の 要 因 の 解 消 に 貢 献 す るCaptologyで 定 義 さ れ た 説 得 の た め の 原 理 ，お よ び そ れ ら を 取 り 入 れ た 仕 組 み に つ い て 検 討 す る ．さ ら に 実 装 例 と し て ，在 宅 用VR-MVFシ ス テ ム に 各 説 得 原 理 を 適 用 し て 実 装 し た 機 能 を 提 示 す る ．

第5^{章 で は ，第}3^{章 と 第}4章 で 述 べ る 情 報 共 有 機 能 とGUIを 実 装 し た 在 宅 用VR-MVF シ ス テ ム を 用 い て ，実 際 に 慢 性 疼 痛 患 者 が 自 宅 で 使 用 し た 一 例 に つ い て 述 べ る ．約 3ヶ月 間 の 使 用 結 果 か ら ，構 築 し た シ ス テ ム が 各 種 デ ー タ の 記 録 と 転 送 ，患 者 に よ る 継 続 的 な 治 療 実 施 支 援 が 可 能 で あ る か を 確 認 す る ．ま た ，シ ス テ ム を 用 い た 治 療 に よ る 痛 み と 運 動 能 力 の 変 化 お よ び シ ス テ ム へ の セ ル フ モ ニ タ リ ン グ の 導 入 可 能 性 を 検 討 す る た め に 実 施 し た ，収 集 さ れ た デ ー タ の 分 析 結 果 に つ い て 説 明 す る ．さ ら に ，実 地 調 査 の 結 果 か ら 患 者 が 実 際 に 使 用 す る 環 境 で 発 生 す る 課 題 に つ い て 整 理 す る ．

第6章 で は ，慢 性 疼 痛 患 者 の 治 療 継 続 に 繋 が る 要 素 を 見 出 す た め に 行った 医 療 従 事 者 と 慢 性 疼 痛 患 者 の 診 察 中 の 会 話 の 調 査 に つ い て 述 べ る ．調 査 は 慢 性 疼 痛 患 者 の 診 察 を 行 う 岡 山 大 学 病 院 麻 酔 科 蘇 生 科 ペ イ ン セ ン タ ー で 行った ．こ の 調 査 か ら ，患 者 の 治 療 意 欲 に 影 響 す る と 考 え ら れ る 要 素 を 整 理 す る ．こ の と き ，本 研 究 で 気 分 を 落 ち 込 ま せ な い よ う に 不 適 切 な 振 る 舞 い の 指 摘 と 適 切 な 振 る 舞 い の 指 導 を 行 う フィー ド バッ ク を 説 諭 と し て 定 義 す る ．

第7章 で は ，治 療 へ の 取 り 組 み と 類 似 性 の あ る 情 報 技 術 学 習 を 対 象 と し て ，GUI^か ら の 称 賛 や 説 諭 の メッセ ー ジ が タ ス ク を 行 う ユ ー ザ に 与 え る 影 響 を 実 験 的 に 検 討 す る ．こ こ で は ，称 賛 お よ び 説 諭 が 実 験 参 加 者 の 自 己 効 力 感 ，自 律 性 ，イ ン タ フェー ス の 印 象 ，タ ス ク の 実 行 へ 与 え る 影 響 に つ い て 仮 説 を 立 て ，検 証 し た 結 果 を 述 べ る ．

最 後 に 第8章 で 各 章 で 述 べ た 内 容 を 総 括 し 今 後 の 展 望 を 述 べ て ，本 論 文 の ま と め を 行 う．

第 2 ^章

慢性疼痛患者の背景

本 章 で は ま ず，難 治 性 慢 性 疼 痛 の 概 要 を 述 べ る ．続 い て ，主 な 対 象 と す る 四 肢 複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群 や 幻 肢 痛 の 症 状 に つ い て 述 べ る ．次 に ，そ れ ら の 症 状 に 対 し て 現 在 ま で に 論 ぜ ら れ て い る 発 生 要 因 に 関 し て 述 べ る ．さ ら に ，四 肢 の 難 治 性 慢 性 疼 痛 に 対 す る 治 療 手 法 の 一 つ で あ る 鏡 療 法 に つ い て 述 べ る ．そ の 後 ，現 在 ま で に 行 わ れ て い る バ ー チャル リ ア リ ティを 用 い た 鏡 療 法 の 治 療 装 置 に つ い て 触 れ る ．

2.1 慢 性 疼 痛

慢 性 疼 痛 と は ，疼 痛 の 原 因 が 治 癒 し た に か か わ ら ず 長 期 間 に わ た り 訴 え 続 け る 痛 み で あ る[16]．世 界 保 健 機 関 に よ り 公 表 さ れ て い る 国 際 疾 病 分 類（the International Classification of Diseases: ICD）の 最 新 版 で あ る 第11^版（ISD-11^{）で は ，}3ヶ月 以 上 持 続 ま た は 再 発 す る 痛 み が 慢 性 疼 痛 と し て 定 義 さ れ て い る[17]．こ こ で ，痛 み は 国 際 疼 痛 学 会（Internationl Association of the Study of Pain: IASP）に よ り「 実 際 に 何 ら か の 組 織 損 傷 が 起 こった と き ，ま た は 組 織 損 傷 を 起 こ す 可 能 性 が あ る と き ，あ る い は そ の よ う な 損 傷 の 際 に 表 現 さ れ る ，不 快 な 感 覚 や 不 快 な 情 動 体 験 」と 定 義 さ れ て い る[18]．

慢 性 疼 痛 の 症 状 ，発 症 部 位 は 患 者 に よ り 異 な り 多 種 多 様 で あ る ．ま た ，そ の 症 状 が 頻 繁 に 変 化 す る ．原 因 が 明 確 で な い た め 治 療 が 長 引 く こ と が 多 い ．治 療 は 投 薬 と リ ハ ビ リ テ ー ション な ど の 運 動 を 組 み 合 わ せ て 行 う こ と が 多 い ．ま た ，心 理 的 な 要 因 が 関 係 す る 場 合 も あ る ．

伊 豫 は 慢 性 疼 痛 を 有 す る 者 や 診 療 に 関 わ る 人 ，家 族 な ど の 支 援 者 が 共 通 し て 理 解 す べ き こ と と し て ，下 記4項 目 を 挙 げ て い る[19]^．

(1) 本 人 は 疼 痛 を 実 際 に 感 じ て い る

(2) 現 在 の 医 学 的 検 査 で は 異 常 が 明 ら か に な ら な い こ と が あ る

(3) 疼 痛 に 関 す る 過 剰 な 心 配 が ，思 考 や 気 分 ，感 情 ，行 動 に 重 大 な 影 響 を 及 ぼ し て い る (4) 疼 痛 を 増 強 さ せ る 因 子 と 減 弱 さ せ る 因 子 が あ る

特 に(1)に つ い て は 客 観 的 に は 判 断 す る こ と が 難 し く，多 く の 慢 性 疼 痛 患 者 は そ の 痛 み を 他 者 に 理 解 し て も ら え な い た め 孤 独 で ，心 理 的 に 傷 つ き や す い[20][21]^{．ま た ，}(3)^に つ い て は ，慢 性 疼 痛 患 者 は 痛 み や そ れ に 伴 う 自 己 制 御 感 の 低 下 に よって ，う つ 病 を 発 症 し た り 生 活 満 足 度 が 低 下 す る と いった 感 情 障 害 を 引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る[22, 23]．

本 研 究 で は 四 肢 ，特 に 上 肢 に 発 生 す る 慢 性 疼 痛 と し て ，主 に 複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群 や 幻 肢 痛 を 対 象 と す る ．

2.1.1 複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群

複 合 性 局 所 疼 痛 症 候 群(Complex regional pain syndrome: CRPS)は ，骨 折 や 外 傷 を 発 端 と し て 生 じ る 慢 性 的 な 痛 み を 伴 う 症 状 の 一 種 で あ る[24]．慢 性 疼 痛 は そ の 原 因 か ら 侵 害 受 容 性 疼 痛 ，神 経 障 害 性 疼 痛 ，心 因 性 疼 痛 に 分 類 さ れ る ．CRPSは そ の う ち の 神 経 障 害 性 疼 痛 に 該 当 す る ．CRPSの 痛 み は 疼 痛 の 伝 達・抑 制 機 構 に 関 わ る 神 経 線 維 の 働 き の 異 常 に よって 生 じ る と 考 え ら れ て い る ．そ の 一 方 で ，病 因 が 多 元 的 で あ り，神 経 系 の 機 能 的 か つ 可 塑 的 変 化 が 複 雑 に 絡 み 合って 生 じ る と も さ れ て い る ．文 献[4]で は ，

「 神 経 や 軟 部 組 織 へ の 外 傷（ た と え ば 骨 折 ）に 関 し て 通 常 の 治 癒 過 程 に 従 わ な い 疾 患 で あ る 」と 述 べ て い る ．つ ま り，外 傷 や そ の 治 癒 過 程 で の 痛 み と は 乖 離 し た 痛 み で ， 治 癒 後 も 痛 み が 持 続 す る こ と で あ る と 考 え ら れ る ．

さ ら に そ の 症 状 に つ い て ，「 疼 痛 と 運 動 障 害 で あ るCRPSは ，初 め の 外 傷 か ら 予 想 さ れ る 症 状 の 割 合 を 超 え る も の で あ る ．一 つ ま た は 複 数 の 四 肢 に 発 生 し た 初 め の 主 要 な 病 状 は ，激 し く，持 続 す る ，灼 熱 の ，そ し て ，深 く 疼 く 痛 み と 表 現 さ れ る ．」と 述 べ ら れ て い る[25]^{．こ の よ う に}CRPSで の 痛 み は 非 常 に 不 快 な も の で あ り，患 者 に とって は 痛 み の 除 去 や 緩 和 が 望 ま れ る 症 状 で あ る ．こ の 慢 性 的 な 痛 み を 訴 え る 患 者 は ，痛 み が あ る た め に う ま く 動 か せ ず，日 常 生 活 に 支 障 を き た す ケ ー ス さ え あ る ．例 え ば ，足 の 痛 み が ひ ど い た め 松 葉 杖 を 使って 移 動 し な け れ ば な ら な い ，と いった こ と が あ る ． こ れ ら の 疼 痛 は 疼 痛 個 所 の 違 い や 痛 み の 程 度 だ け で な く，患 者 に よ り 痛 み の 感 じ 方 が 異 な る ．慢 性 的 に 痛 み が 続 く，慢 性 的 で は な く 時 折 激 し い 痛 み を 生 じ る な ど 痛 み の 周 期 自 体 も 様々で あ る ．

CRPS^は1994年 に 国 際 疼 痛 学 会 に よ る 慢 性 疼 痛 の 分 類 で 定 め ら れ た ．CRPS^{の う ち ，} 神 経 損 傷 の な い 組 織 損 傷 に 関 連 す る も の をtype 1，神 経 も 巻 き 込 ん だ 損 傷 に 関 連 す る も の をtype 2と し て 分 類 し て い る ．従 来 ，Evansに よ り 反 射 性 交 感 神 経 性 ジ ス ト ロ フィー(Reflex Sympathetic Dystrophy: RSD^）[26]と 呼 ば れ て い た も の をtype 1^{，同 じ く} Mitchellに よ り カ ウ ザ ル ギ ー（causalgia）[27]と 呼 ば れ て い た も の をtype 2と し て ま と め ら れ て い る ．Hardenら に よって 提 案 さ れ ，2005^{年 に}IASPに よ り 提 唱 さ れ たCRPS^{の 診} 断 基 準（Budapest Criteria）を 表 4.2に 示 す[28]．表 4.2の 診 断 基 準 は 妥 当 性 が 確 認 さ れ て お り，現 在 ，世 界 的 に 広 く 表4.2の 診 断 基 準 が 用 い ら れ て い る[29]^{．日 本 で は}2010^年 に 厚 生 労 働 省CRPS研 究 班 に よ り 新 た なCRPSの 判 定 指 標 が 提 示 さ れ て い る[30]^{．厚 生} 労 働 省CRPS研 究 班 の 提 示 し たCRPS判 定 指 標 を 表 2.2に 示 す．日 本 で はCRPSは「 難 病 」「 特 定 疾 患 」に 未 認 定 で あ り，社 会 的 認 知 度 が 低 い ．女 性 の ほ う が 発 症 率 が 高 い と 考 え ら れ て い る が ，性 差 は 無 い と さ れ て い る こ と も 多 い[31, 32]．

表2.1: The diagnosis criteria for CRPS（Budapest Criteria） General definition of the syndrome:

CRPS describes an array of painful conditions that are characterized by a continuing (spontaneous and/or evoked) regional pain that is seemingly disproportionate in time or degree to the usual course of any known trauma or other lesion. The pain is regional (not in a specific nerve territory or dermatome) and usually has a distal predominance of abnormal sensory, motor, sudomotor, vasomotor, and/or trophic findings. The syndrome shows variable progression over time

To make the clinical diagnosis, the following criteria must be met:

1． Continuing pain, which is disproportionate to any inciting event

2． Must report at least one symptom inthree of the four following categories:

Sensory: Reports of hyperesthesia and/or allodynia

Vasomotor: Reports of temperature asymmetry and/or skin color changes and/or skin color asymmetry

Sudomotor/Edema: Reports of edema and/or sweating changes and/or sweating asymmetry

Motor/Trophic: Reports of decreased range of motion and/or motor dysfunction (weak- ness, tremor, dystonia) and/or trophic changes (hair, nail, skin)

3． Must display at least one signat time of evaluationintwo or more of the following categories:

Sensory: Evidence of hyperalgesia (to pinprick) and/or allodynia (to light touch and/or temperature sensation and/or deep somatic pressure and/or joint movement)

Vasomotor: Evidence of temperature asymmetry (>1^℃) and/or skin color changes and/or asymmetry

Sudomotor/Edema: Evidence of edema and/or sweating changes and/or sweating asymmetry

Motor/Trophic: Evidence of decreased range of motion and/or motor dysfunction (weak- ness, tremor, dystonia) and/or trophic changes (hair, nail, skin)

4． There is no other diagnosis that better explains the signs and symptoms

For research purposes, diagnostic decision rule should be at least one symptomin all foursymp- tom categories and at least one sign (observed at evaluation) in two or more sign categories.

表2.2: ^{厚 生 労 働 省}CRPS研 究 班 か ら 提 唱 さ れ た 本 邦 版CRPS^{判 定 指 標} 臨 床 用CRPS^{判 定 指 標}

A 病 期 の い ず れ か の 時 期 に ，以 下 の自 覚 症 状 の う ち2項 目 以 上該 当 す る こ と ．た だ し ，そ れ ぞ れ の 項 目 内 の い ず れ か の 症 状 を 満 た せ ば よ い ．

1. 皮 膚・爪・毛 の う ち い ず れ か に 萎 縮 性 変 化 2. 関 節 可 動 域 制 限

3. 持 続 性 な い し 不 釣 り 合 い な 痛 み ，し び れ た よ う な 針 で 刺 す よ う な 痛 み（ 患 者 が 自 発 的 に 述 べ る ），知 覚 過 敏

4. 発 汗 の 亢 進 な い し 低 下 5. ^{浮 腫}

B 診 察 時 に お い て ，以 下 の他 覚 症 状 の 項 目 を2項 目 以 上該 当 す る こ と ． 1. 皮 膚・爪・毛 の う ち い ず れ か に 萎 縮 性 変 化

2. 関 節 可 動 域 制 限

3. ア ロ ディニ ア（ 触 刺 激 な い し 熱 刺 激 に よ る ）な い し ，痛 覚 過 敏（ ピ ン ブ リック ） 4. 発 汗 の 亢 進 な い し 低 下

5. 浮 腫

研 究 用CRPS判 定 指 標

A 病 期 の い ず れ か の 時 期 に ，以 下 の自 覚 症 状 の う ち3項 目 以 上該 当 す る こ と ． た だ し ，そ れ ぞ れ の 項 目 内 の い ず れ か の 症 状 を 満 た せ ば よ い ．

1. 皮 膚・爪・毛 の う ち い ず れ か に 萎 縮 性 変 化 2. 関 節 可 動 域 制 限

3. 持 続 性 な い し 不 釣 り 合 い な 痛 み ，し び れ た よ う な 針 で 刺 す よ う な 痛 み（ 患 者 が 自 発 的 に 述 べ る ），知 覚 過 敏

4. 発 汗 の 亢 進 な い し 低 下 5. 浮 腫

B 診 察 時 に お い て ，以 下 の他 覚 症 状 の 項 目 を3項 目 以 上該 当 す る こ と ． 1. 皮 膚・爪・毛 の う ち い ず れ か に 萎 縮 性 変 化

2. 関 節 可 動 域 制 限

3. ア ロ ディニ ア（ 触 刺 激 な い し 熱 刺 激 に よ る ）な い し ，痛 覚 過 敏（ ピ ン ブ リック ） 4. 発 汗 の 亢 進 な い し 低 下

5. 浮 腫

※ 但 し 書 き1

1994年 のIASP（ 国 際 疼 痛 学 会 ）のCRPS診 断 基 準 を 満 た し ，複 数 の 専 門 医 がCRPSと 分 類 す る こ と を 妥 当 と 判 断 し た 患 者 群 と 四 肢 の 痛 み を 有 す るCRPS以 外 の 患 者 と を 弁 別 す る 指 標 で あ る ．臨 床 用 判 定 指 標 を 用 い る こ と に よ り 感 度82.6%，特 異 度78.8%で 判 定 で き ，研 究 用 判 定 指 標 に よ り 感 度59%，

特 異 度91.8%で 判 定 で き る ．

※ 但 し 書 き2

臨 床 用 判 定 指 標 は ，治 療 方 針 の 決 定 ，専 門 施 設 へ の 紹 介 判 断 な ど に 使 用 さ れ る こ と を 目 的 と し て 作 成 し た ．治 療 法 の 有 効 性 の 評 価 な ど ，均 一 な 患 者 群 を 対 象 と す る こ と が 望 ま れ る 場 合 に は ，研 究 用 判 定 指 標 を 採 用 さ れ た い ．

外 傷 歴 が あ る 患 者 の 遷 延 す る 症 状 がCRPSに よ る も の で あ る か を 判 断 す る 状 況（ 補 償 や 訴 訟 な ど ） で 使 用 す る べ き で は な い ．ま た ，重 症 度・後 遺 障 害 の 有 無 の 判 定 指 標 で は な い ．

米 国 か ら 提 唱 さ れ た 判 定 指 標 に な ら い ，本 邦 版CRPS判 定 指 標 で も 臨 床 用 指 標 と 研 究 用 指 標 の2種 類 を 作 成 し た ．本 邦 版CRPS判 定 指 標 の 使 用 に あ たって は ，但 し 書 き1，2を 十 分 に 理 解 し て 使 用 す る こ と ．

※ 文 献[30]よ り 引 用

患 者 は そ の 痛 み に よって 逃 避 的 反 応 が 優 位 に なって お り，例 え ば 上 肢 のCRPS^{で あ} れ ば ，体 幹 に 上 肢 を 近 づ け て 屈 曲・内 転 し た 状 態 で 固 定 す る 状 態 に な る こ と が 多 い [33, 34]^{．下 肢 の}CRPSで は 患 肢 へ 荷 重 を か け る こ と を 避 け る よ う に な る ．そ の こ と が 体 幹 に 影 響 し ，姿 勢 が 非 羅 患 肢（ 健 常 肢 ）へ と 逃 げ る よ う に 非 対 称 な も の と な る ．こ れ ら は 全 身 の 筋 の 活 動 異 常 が 原 因 で あ り，定 型 的 姿 勢 運 動 パ タ ー ン を 形 成 し た 結 果 だ と 言 え る ．ま た ，こ の た め に 日 常 生 活 動 作 で 必 要 な 体 幹 や 四 肢 の 多 様 な 姿 勢 や 運 動 を 作 る こ と が で き ず，機 能 的 動 作 能 力 の 低 下 に 繋 が る ．機 能 的 動 作 能 力 低 下 に 伴 う 不 動 が 長 期 化 す る と ，非 可 逆 的 な 拘 縮 や 廃 用 に 繋 が る 恐 れ が あ る ．

Maih¨ofnerはCRPS患 者 の 運 動 機 能 の 障 害 に つ い て 検 証 し て い る ．実 験 で は ，あ る 特 定 の 場 所 に あ る 物 体 を ，決 め ら れ た 姿 勢 か ら 物 体 に 向 かって 腕 を 伸 ば し て 掴 む と い う タ ス ク を 行 う．こ の タ ス ク を 健 常 者 とCRPS患 者 に 対 し て 実 施 し て も ら い ，そ の 運 動 軌 跡 や 速 度 に 関 す る 結 果 を 比 較 し て い る ．CRPS患 者 は 健 常 者 に 比 べ て の 物 体 ま で の ア プ ロ ー チ の 際 の 軌 道 の ば ら つ き が 多 く 運 動 機 能 が 阻 害 さ れ て い る と 報 告 し て い る [35]．ま た 身 体 認 知 に 関 し て ，MoseleyはCRPS患 者 の 症 状 持 続 期 間 や 運 動 実 行 に 伴 う 痛 み が ，患 側 の 手 の 面 を 認 識 す る 速 度 の 遅 延 に 影 響 す る こ と を 示 唆 し て い る[36]^．

現 在 ，CRPSの 治 療 は 主 に 薬 に よ る 治 療 が 行 わ れ て い る ．あ る 一 定 期 間 に わ たって 薬 を 複 数 回 投 与 す る こ と に よって 慢 性 的 な 痛 み を 取 り 除 く こ と が で き る ．し か し な が ら ，薬 剤 治 療 は 体 調 に よって 薬 を 投 与 で き な い 場 合 や ，患 者 に よって は 薬 の 反 復 使 用 に よ り 身 体 の 薬 へ の 抵 抗 性 が 生 ま れ 薬 の 効 力 が 低 下 す る 場 合 が あ る ．こ の た め に 治 療 効 果 が 得 ら れ な い ケ ー ス も あ り 治 療 は 容 易 で は な い ．リ ハ ビ リ テ ー ション な ど の 運 動 療 法 と し て は ，痛 み に よ る 不 動 が 原 因 の 関 節 可 動 域 制 限 に 対 し て 自 動 運 動 や 疼 痛 に 耐 え う る 範 囲 で の 他 動 運 動 が 主 に 行 わ れ る ．

2.1.2 幻 肢 痛

幻 肢 痛 は ，CRPSと 同 じ く，慢 性 疼 痛 の1つ で あ る ．人 間 は ，神 経 の 損 傷 や 体 肢 の 切 断 後 に ，し ば し ば 幻 肢 と 呼 ば れ る 切 断 さ れ た 部 位 が 残って い る よ う な 感 覚 が 発 生 す る ．幻 肢 は 切 断 個 所 の 違 い の み な ら ず，患 者 に よって 幻 の 四 肢 の 状 態 が 異 な る ．例 え ば 幻 肢 を 実 際 の 四 肢 と 同 様 に 自 在 に 動 か す こ と が で き る 患 者 や 手 首 な ど の 幻 肢 の 一 部 の み を 動 か す こ と が で き る と 訴 え る 患 者 が い る 一 方 で ，中 に は 全 く 動 か す こ と が で き ず 幻 肢 は い つ も 同 じ 姿 勢 を とって い る と 訴 え る 患 者 も い る ．前 者 の よ う な 患 者 は ， こ の 幻 肢 の 存 在 を あ り あ り と 感 じ る に も 関 わ ら ず 実 際 に は 存 在 し な い こ と に 戸 惑 い を 感 じ る[37]．後 者 の よ う な 患 者 の 場 合 ，し ば し ば そ の 幻 の 部 位 に 非 常 に 強 い 痛 み を 感 じ る こ と が あ り，そ れ を 幻 肢 痛 と い う．

幻 肢 痛 の 痛 み も ま た 他 のCRPSと 同 様 に 多 種 多 様 で あ り，慢 性 的 に 痛 み が 続 く 場 合 や 定 期 的 に 痛 み が 襲って く る 患 者 も い る ．幻 の 指 が 幻 の 手 の 平 に 食 い 込 ん で お り 痛 み

を 生 じ て い る と いった 興 味 深 い 症 状 も あ る[1]．こ れ は 幻 の 指 を 動 か す 事 が な い た め 手 の ひ ら に 刺 さった 状 態 で あ る た め 起 こって い る と 考 え ら れ て い る ．

幻 肢 痛 は ，疼 痛 を 感 じ て い る 部 位 自 体 が 存 在 し な い た め ，他 の 慢 性 疼 痛 で 行 わ れ る よ う な 患 部 へ の 投 薬 に よ る 治 療 は 適 切 と は い え な い ．

2.2 慢 性 疼 痛 の 発 生 要 因 に 関 す る 一 考 察

CRPSや 幻 肢 痛 が 発 症 す る 原 因 は い ま だ 解 明 さ れ て い な い 点 が 多 い ．こ の よ う な 種 類 の 慢 性 疼 痛 が 起 こ る 原 因 の1つ と し て 考 え ら れ て い る も の に ，脳 の 可 塑 性 が あ る ． 私 た ち が 姿 勢 を 把 握 す る と き ，身 体 を 目 で 見 る こ と に よって 現 在 の 身 体 の 姿 勢 を 把 握 す る ．さ ら に ，私 た ち は 身 体 を 動 か す と 実 際 に そ の 動 か し て い る 部 位 を 見 る こ と な く 動 か し た 身 体 の 姿 勢 を 把 握 で き る ．こ れ は 体 性 感 覚 に よって も た ら さ れ る ．体 性 感 覚 は 関 節 や 筋 肉 の 状 態 ，姿 勢 ，触 れ た も の の 質 感 ，痛 み 等 の 様々な 感 覚 を も た ら す．そ し て ，そ の 体 性 感 覚 の 信 号 は 脳 へ 送 ら れ ，一 次 体 性 感 覚 野 で 処 理 さ れ る ．こ の 一 次 体 性 感 覚 野 の そ れ ぞ れ の 部 位 は 特 定 の 部 位 か ら の 信 号 に 対 し て 強 く 反 応 す る こ と が 知 ら れ て い る ．

Penfieldは ，身 体 部 位 と 脳 の 体 性 感 覚 野 と の 対 応 を 調 査 し ，図2.1に 示 す 体 性 感 覚 地 図 を 作 成 し た[38]^．図2.1に 示 す よ う に ，一 次 体 性 感 覚 野 の 反 応 す る 領 域 の 大 き さ は 等 し く な く，ま た 実 際 の 身 体 の 各 部 位 の 大 き さ と 一 次 体 性 感 覚 野 の 反 応 す る 領 域 の 大 き さ は 比 例 し な い ．そ れ ぞ れ の 反 応 す る 領 域 の 中 で ，一 次 体 性 感 覚 野 全 体 に 対 し て 顔 の 周 辺 や 手 の 占 め る 割 合 が 特 に 広 い ．Bearら は ，そ の 領 域 の 大 き さ は そ れ ぞ れ の 身 体 の 部 位 か ら の 感 覚 入 力 の 重 要 性 と 相 関 す る と 述 べ て い る[39]．Ponsら は ，サ ル に お い て 背 側 脊 髄 神 経 根 を 切 断 し て 手 を 麻 痺 さ せ る 前 後 で ，サ ル の 顔 面 か ら 入 力 さ れ る 感 覚 情 報 が 麻 痺 し た 手 の 領 域 に ま で 拡 大 し て い る こ と か ら ，体 性 感 覚 地 図 の 変 化 を 確 認 し た[40]．ま た ，Ramachandoranは 幻 肢 を 生 じ た 患 者 も 同 様 に 一 次 体 性 感 覚 野 に 変 化 が 起 き る こ と を 報 告 し て い る[2]．こ の 実 験 で は ，手 を 切 断 さ れ た あ る 患 者 の 顔 面 を 刺 激 し た と き ，顔 面 を 触 ら れ る と 同 時 に 幻 肢 を 触 ら れ て い る 感 覚 が 得 ら れ て い る 事 が 報 告 さ れ て い る ．つ ま り，手 を 失った 患 者 は 図2.1の 一 次 体 性 感 覚 野 の 手 に 当 た る 部 分 と 実 際 の 身 体 の 手 と の 関 連 が 消 失 す る ．こ の 時 ，関 連 が 喪 失 し た 個 所 は ，身 体 と の 関 連 が 喪 失 し た ま ま で は な く，脳 の 可 塑 性 に よ り 一 次 体 性 感 覚 野 の 手 の 領 域 に 隣 接 す る 顔 面 や 腕 の 領 域 が 関 連 の 喪 失 し た 部 分 を 補 う よ う に 拡 大 す る ．そ し て ，身 体 と 一 次 体 性 感 覚 野 と の 間 に 新 た な 関 連 が 生 じ る と 考 え ら れ る ．こ れ に よ り，幻 肢 患 者 は 新 た な 関 連 が 生 じ た 身 体 部 位 を 通 し て 切 断 後 も 無 く し た 部 位 で 気 温 を 感 じ る こ と が で き ，水 が 顔 に 当 た れ ば 同 時 に 幻 肢 で 水 に 触 れ て い る よ う に も 感 じ ら れ る と 考 え ら れ る ．さ ら に 身 体 と の 関 連 は 消 失 し た 後 も 切 断 以 前 に 獲 得 し た 手 の 運 動 と 体 性 感 覚 野 に 関 す る 機 能 的 回 路 網 は 健 在 で あ る と 考 え ら れ る ．こ の た め 切 断 後 も 切 断 個 所 が 存 在 し て

い る よ う に 感 じ る 現 象 が 発 生 す る と 考 え ら れ る ．

図2.1: Penfieldの 体 性 感 覚 地 図

住 谷 ら は ，慢 性 疼 痛 の 要 因 に 関 し て ，四 肢 運 動 に お け る 知 覚 − 運 動 ル ー プ に 注 目 し て い る[10]．四 肢 運 動 の 際 は ，運 動 の 指 令 に 続 い て 実 際 の 運 動 が 起 こ り，そ し て そ の 運 動 の 結 果 を 知 覚（ フィー ド バック ）す る こ と に よって ，次 の 運 動 指 令 を 準 備 す る ．こ の 運 動 に 伴 う 一 連 の 流 れ は 常 に 中 枢 神 経 系 で 監 視 さ れ て い る ．こ れ を 知 覚 − 運 動 ル ー プ（sensorimotor loop）と 呼 ん で い る[41]^．McCabeら の 知 覚 − 運 動 ル ー プ の 概 要 図[9]^を 図2.2に 示 す．慢 性 疼 痛 患 者 で は ，患 部（ 幻 肢 痛 の 場 合 は ，疼 痛 が 発 生 し て い る と 感 じ る 位 置 ）を 運 動 す る 指 令（ 例 え ば ，姿 勢 調 節 な ど ）の 発 動 に 対 し ，患 部 の 運 動 が 起 こ ら な い た め に 感 覚 の フィー ド バック が な い 状 態 で あ る と 考 え ら れ て い る ．疼 痛 が 発 生 す る の は ，こ の 知 覚 − 運 動 ル ー プ の 整 合 性 が 得 ら れ て い な い 状 態 ，す な わ ち 知 覚 − 運 動 ル ー プ が 破 綻 し て い る 異 常 な 状 態 に 対 す る 警 告 と し て 痛 み が 発 生 す る と し て い る ． McCabeは 鏡 を 用 い て 健 常 者 に 鏡 像 と 映って い る 側 の 四 肢 に 異 な る 姿 勢 を 取 ら せ る こ と に よって ，健 常 者 で あって も 痛 み の 兆 候 と な る 感 覚 異 常 が 起 こって お り 体 性 感 覚 の ず れ が 痛 み を 誘 発 す る 可 能 性 が あ る こ と を 示 唆 し て い る ．

2.3 鏡 療 法

2.3.1 鏡 療 法 の 概 要

文 献[42]で は ，四 肢 の 末 梢 神 経 が 損 傷 さ れ 四 肢 を 動 か す こ と が で き な かった 患 者 は 切 断 後 ，四 肢 は そ の 麻 痺 し て い た と き の 姿 勢 を 取 る 傾 向 に あ る と 述 べ て い る ．こ れ を 学 習 さ れ た 麻 痺（learned paralysis）と 呼 ん で い る[37]．そ し て ，こ の 麻 痺 を な く し 幻 肢 を 動 か す た め の 手 法 と し てMirror Visual Feedbackが 考 案 さ れ て い る ．鏡 療 法（Mirror visual