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難聴者・中途失聴者の心理的諸問題と支援の方向性 : 心理的リハビリテーションの視点から

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Academic year: 2021

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(1)平成14年度 学位論文. 難聴者・中途失聴者の心理的諸問題と 支援の方向性. 一心理的リハビリテーションの視点から一. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 学校教育専攻 教育臨床コース. MOIO78E 高宮明子.

(2) 目 次 第1章 問題と目的・… ◎の・・・・・・… 1 1.問題の所在・・・・・・・・・・・・・… 1 H.本研究の目的・・・・・・・・・・・・… 8. 第2章方法・・・・・・・・・・・・・・… 10 1.対象者・・・・・・・・・・・・・・・… H.予備調査・・・・・・・・・・・・・・… 1H.本調査・・・・・・・・・・・・・・・… 第3章 回答者の属性・・・・・・・・・・・… 1.全体的な特徴・・・・・・・・・・・・… 11.グループ問の比較・・・・・・・・・・… 第4章 メンタルヘルスの状況・・・・・・・…. 10 10 14 16 16 20 23. 1.方法・・・・・・・・・・・・・・・… 23 H.結果と考察・・・・・・・・・・・… φ・23 皿.第1研究の総合考察・・・・・… 。… 35 第5章 現在の悩み・・… 9・・・・・・… 38. 1.方法・・・・・・・・・・・・・・・… 38 H.結果と考察・・・・・・・・・・・・・… 39 m.第2研究の総合考察・・。。・・・・・… 48 第6章 難聴発生時の悩みとその変化・・・・… 51. L方法・・・・・・・・・・・・・・・… 51 H.結果と考察・・・・・・・・・・・・・… 53 皿.第3研究の総合考察・・・・・・・・・… 63 第7章 学校生活での悩み・・・・・・・・・… 66. 1.方法・・・・・・・・・・・・・・・… 66 11.結果と考察・・・・・・・・・・・・・… 67 皿.第4研究の総合考察・・・・・・・・・… 80 第8章 全体考察・・・・・・・・・・・・・… 84.

(3) 論文要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 87. 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 91. 謝 辞. APPENDIX. ii.

(4) 第1章 問題と目的 1.問題の所在 1−1.心理的リハビリテ・一…ションの現状. リハビリテーション(r6habilitati・n)とは、心身の障害. のために権利の行使を妨げられている人々について、その権 利の回復、すなわちその「全人的復権」を図ることであり、 先天性の障害を持つ人のハビリテーション(habilitation)を も含む概念である。. 上杉(1981)、津曲(1997)によれば、リハビリテーションは. 医学的・職業的・教育的・社会的・心理的分野の5分野に分 けられる。医学的リハビリテーションとは障害によって損な われた機能・能力を、代償機能の活用も含めて発達させ回復 させる一連の医療であり、医学的治療のほか、理学療法・作 業療法・言語療法や補装具の使:用などが含まれる。職業的リ. ハビリテーションとは就職・復職・転職や職場内での業務内 容についての相談、職業指導や職業訓練を指す。教育的リハ ビリテーションは、主に障害を持つこどもを対象とした学校 での教育や相談を指し、障害を持つこどもが十分に能力や人 格を発達させ、積極的に社会に参加できるようにする活動で ある。社会的リハビリテーションとは障害を持つ人の「全人 的復権」を実現するための具体的な営みすべてを指す。法律 や施策、社会全般やその人の周囲での障害への理解、損なわ れた機能や能力を補う機械や技術の開発、マス・メディアの役 割などを包括する概念である。社会的リハビリテーションは 社会的受容と呼ばれることも多い。最後に心理的リハビリテ ーションは障害者の心理的困難に対する支援活動であり、基 礎となる障害に付随して起きた心理的障害・:葛藤を解決する ための支援などを含み、リハビリテV…一ションの全段階を通じ て適時に行われることが望ましい。 しかし水島・土肥(1992)、水島(1995)が指摘するように、 1.

(5) 我が国のリハビリテ・一一・・ションは運動障害者の身体機能面に対. する医学的アプローチに重点がおかれ、社会・心理面の研究 や実践は十分とは言えない。アメリカ合衆国においても医学 的リハビリテーションが最も重視される傾向はあるが、1940 年代から社会・心理的リハビリテーションにも関心が払われ、 多職種が共同するリハビリテーション・チ・一・…ムでの活動が始. まっていた。大学にはリハビリテーション心理学専攻の学科 が設置され(藤田,2002)、リハビリテーションに係わる心理. 臨床家のための参考図書も出版されている(Cushman& Scherer,1995).. 我が国で社会的リハビリテーションが注目を集めるように なった契機は1981(昭和56)年の国際障害者年である。社会 全体でのノーマライゼーションやバリアフリー、学校教育に おけるインテグレーションといった言葉が、この頃から次第 に社会に浸透していった。こうした社会的リハビリテーショ ンの浸透に比べて、心理的リハビリテーションは更に社会的 認知度が低く、研究・実践が遅れていると言えよう。勿論わ が国においてもリハビリテーションが患者・障害者の心理面 を無視して行われていたわけではない。医学的リハビリテー ションにおいては医師・看護師・理学療法士・作業療法士・ 言語聴覚士などが各々の職能において患者の心理面に配慮し、 教育的リハビリテーションにおいては教員が障害を持つ児 童・生徒の心理面にも配慮してきた。職業的リハビリテーシ ョン、社会的リハビリテーションにおいても心理面の重要性 は認識されていた。しかしながら心理の専門家がリハビリテ ーションの一環として直接対象者に接したり、他の専門職と チームを組んで活動している場は今もそれほど多くはない。 研究も実践もようやく端緒についたところであると言えよう。 現代のわが国は「少子高齢化社会」である。高齢化社会は 必然的に多くの障害者を含む社:会であり、人権思想の浸透と 2.

(6) 相倹って、障害を持つ人のQOLをいかに高めるかが社会全体 の課題となっている。国際的に見ても、2001年にはWHOの国 際障害分類が従来の「機能障害、能力障害、社会的不利の国 際分類j(ICIDH:lnternationa1 Classificati・n・f lmpairments,. Disabilities, and Handicaps)から「生活機能、障害、健康の 国際分類」(ICF:lnternati・nal Classificati・n・fFuncti・ning,. Disability, and Health)に改定され、障害の概念に環境因子 (environmental factors)と個人因子(personal factors)が加わ. ったほか、従来の「疾患」(disease)は「健康状態」(health c・nditi・n)という言葉に変わり、障害を固定的に見るのでは. なく、より広く健康上の問題を含むようになった(上 田,2001:障害者福祉研究会,2002)。これによってリハビリテ. ーションの対象となる「障害のある人」(pers・n with disability)の範囲は非常に広くなり、社会的リハビリテーシ ョンや心理的リハビリテーションの必要性はますます高まっ ていくと考えられる。 1−2.心理的リハビリテーションにおける障害受容論 上田(1980,1996)によれば、心理的リハビリテーションにお いては障i害受容(acceptance of disability)が問題解決の鍵と. なる概念であり、その本質はWright(1960)らの言う「価値 転換」である。それは障害を持つことが自己の価値を低下さ せるものではないことを認識し、積極的な生活態度に転ずる ことを意味する。また上田(1980)は障害受容を「喪失体験」 からの立ち直りと見て、障害者はショック二一否認二一混乱 二一解決への努力二一受容期という概ね類似した心理的段階 をたどって障害を受容していくとした。こうした考え方を段 階理論(stage theory)と言う。日原(1996)によれば段階理論. は主に第二次世界大戦の傷病者を対象とするリハビリテーシ ョンを通じて生まれたものであり、米国を中心にさまざまな 3.

(7) 障害について類似した段階理論が展開されていった。わが国 においては上田の理論が医学的リハビリテーションにおいて 広く浸透し、福祉や教育の場でも、対象者やその家族が障害 受容のどの段階にあるのかが論じられることが少なくなかっ た。. しかし本田・南雲(1992)らは早くから段階理論に当てはま らない多様な事例があることを指摘していた。南雲(1998) は、受傷後数年∼数十年経過して受容期に達したと考えられ る脊髄損傷者に、慢性軽症うつ状態(気分変調症)が多いこ とを見出し、障害受容そのものを疑問視している。また「価 値転換」が精神論を偏重している点、及び日本の障害受容論 は個人に注目し、社会的受容(social acceptance)の観点が希 薄である点を批判している。上田(1996)も障害受容は時間経. 過によって単純に進むものではないこと、また本人の心理的 な変化だけでなく、社会全体の理解や支援が必要であること に言及している。さらに上田はわが国の代表として前述の ICFの成立に深くかかわっており、上田の近著(2001)では従 来のICIDHが「医学モデル」であったのに対し、 ICFは「医 学的・社会的モデル」であるとして、社会的受容の重要性を 強調している。. それにも拘わらず、リハビリテーションの現場においては 旧来の段階理論がまだ大きな影響力を持ち、個人が障害を受 容するように圧力がかかることが少なくないと思われる。 現在の欧米の研究動向を見ても、個人の障害受容に関する 研究より社会的受容に関する研究がはるかに多い。その中で Li&Moore(1998)の研究は近年では数少ない個人の障害受容 に関する調査である。それによれば障害受容に影響する最も 大きな説明変数は自尊心であり、ついで被差別感、慢性痛の 有無、年齢、障害発生時期(先天性・後天性)であった。しか し自尊心や被差別感は障害者自身がいかに障害を受容してい 4.

(8) るかという個人の心理的問題だけではなく、社会的受容がど の程度進んでいるかを反映している。結論としては、ここで も心理的リハビリテーションと社会的的リハビリテーション は総合的に行われる必要があることが示されている。しかも それらは障害を持つ人の生涯にわたって行われる必要がある。 1−3.聴覚障害者の心理的リハビリテーション わが国においてはりハビリテーーションという言葉は主に運 動機能の障害に対して使われているので、聴覚障害をリハビ リテーーションの対象と考えることは一般的ではない。しかし 現実には従来から耳鼻科的治療や補聴システムの活用といっ た医学的リハビリテーーションや、聾学校における教育的リハ ビリテーション演広く行われてきた。また近年になって社会 的リハビリテーションも徐々に進み、手話通訳や要約筆記者 の派遣、文字放送の拡充、法律上の欠格条項の一部改定など が実現した。. 心理的リハビリテーションは更に遅れて、近年漸く研究・ 実践が始まったばかりである。聴覚障害者の心理臨床を扱っ た文献は村瀬嘉代子(編)「聴覚障害者の心理臨床」(1999)に. 8人の臨床家・研究者の実践が収録されている他、中野・吉 野(編著)「聴覚障害の心i哩」(1999)などまだ少数である。こ. れは聴覚障害が「コミュニケーションの障害」であり、また 「見えない障害」であることに起因する。古賀・藤田・小林 (1994),川嫡1(1996)など先駆的に聴覚障害者の心理療法に取. り組んだ人々は、主に音声言語を媒介とする心理療法や精神 医療では聴覚障害者とのコミュニケーションに大きな困難が あることを強調している。しかし聴覚障害が「コミュニケー ションの障害」であり、「見えない障害」であることは、周囲 の理解が得られずに孤立し、必要な支援を受けることができ ず、不適応状態を引き起こす可能性が高いと考えられる。社 5.

(9) 会的・心理的リハビリテV一・・ションに対するニーズは高いにも. かかわらず、聴覚障害者自身がそうした要望を出すことは難 しく、また専門家からのアブn一チも少ない分野であったと 言えよう。. 1−4.ろう・難聴・中途失聴 聴覚に障害を持つ人を表す言葉には、聴覚障害者・ろう者・ 難聴者・中途失聴者などさまざまな呼称があり、国際的にも、. 国内においても、これらの人々に対する呼称に統一的な用語 を用いることは難しい。本:研究では鈴木・小林(2001)に従っ. て平均聴力レベル20dBを目安として、一方の耳でもそれを越 す場合はすべて難聴とする広い定義を採用した。従って難聴 者の人口は概算しかできないが、全人口のおよそ5%、600万 人と推定されている。しかし東京都中途失聴者・難聴者協会 理事長の高岡(2001)は、社会の高齢化が進んでいることから、. 実数は800万人に近いと推定している。一方厚生労働省の調. 査では平成13年6月1日現在、聴覚言語障害者は346,000 人(男性164,000人、女性176,000人、不詳6,000人)と推定 している。これは身体障害者福祉法の基準に照らし合わせて、. 両耳の聴力損失レベルが70dB以上の人を聴覚障害者として 推定されたものである。このように広い定義での難聴者の大 部分は、法律上の聴覚障害者に該当しない軽度・中度の難聴 者であり、中でも老人性難聴による難聴者がかなり多く、現 在も増加していると考えられる。. しかし一般的に聴覚障害者と言えば、軽度・中度の難聴者 は含まれず、ろう者と難聴者・中途失聴者の2グルー一・プに所. 属する人々と考えられている。ろう者は先天性または早い時 期に高度難聴となった人で、手話を共通の言語とし、デブ・ コミュニティでの交流や独自の文化を重視する人が多い。一 方難聴者・中途失聴者は聴力・障害発生時期・言語障害の程 6.

(10) 度などに大きな個人差があるが、基本的には音声言語や筆談 でコミュニケーションをとり、価値観や振る舞いの基準も健 聴者に似通っている。このため難聴・中途失聴は「見えない 障害」という特徴が顕著であり、難聴者・中途失聴者は聴覚 障害者としてのアイデンティティを形成することが難しく、 周囲の人が障害を理解することも難しい(滝沢,1995;三 巴,2002)。さらに障害発生時期や聴力から言えばろう者に属 すると思われる人でも、自己を難聴者と位置付けている場合 がある(鳥越,1998)。逆に軽度・中度の難聴者で、難聴者と しての心理的問題を抱えながら、健聴者と聴覚障害者の間で 悩む人もおり、こうした軽度・二度難聴者の心理的な問題も 看過できない。難聴者・中途失聴者の心理をめぐる問題は実 に多様である。. 1−5.難聴者・中途失聴者の心理 聴覚障害を持つ人を対象とした臨床心理的研究・実践は、 それ自体まだ始まったばかりである。こうした中でろう者に 対する研究・実践と比べて、難聴者・中途失聴者に対する研 究・実践は一段と数が少ない。 藤i田(1992,1998)、二巴(2002)、濱田(1998,2000)、滝沢. (1995,2000)の研究は貴重な先行研究である。. 滝沢(2000)は札幌市の聴覚障害者を対象に、日本版 GHQ−30(General HealthQuestionnaire:一般健康質問票30 項目版)を用いて精神健康状態調査を行った。その平均得点 (8.67)は、標準化データの健常者群(3.28)に比べて有意に高. く、聴覚障害者は全:体的に精神健康度が低いことが分かった。. また聴覚障害者群の中でも、中途難失聴者群の平均得点 (10.75)は、ろう者群の平均得点(7.32)より有意に高い。. 難聴・中途失聴者の心理的な問題は特に障害が青年期以後 に発生した場合(中途障害)に顕著であると考えられている。 7.

(11) 藤田(1992,1995)はろうを「聴覚欠損」、中途聴覚障害を「聴. 覚剥奪」と捉えて、精神心理面の違いを説明している。滝沢 (1995)は聴覚障害を自覚したときに、中学生以後に障害を持 った人の方が、中学生以前に障害を持った人より悲観的な感 情を持つことが多いと報告している。また濱田(2000)は、受 容期に達しているとされる中途聴覚障害者も、情報のバリア だけでなく心情のレベルでのバリアを意識させられることが 多く、さまざまな心理的困難に直面していると述べている。 この結果、濱田の1998年の論文では中途聴覚障害者の障害受 容についての段階理論が紹介されているが、濱田(2000)では 障害を持つ当事者だけの適応度をみるこれまでの段階理論に 強い疑義が出されている。 これらの先行研究は難聴者・中途失聴者の抱える心理的な 問題について重要な知見を示している。しかし研究の対象者 が少なく、その知見に対する比較検討も十分には行われてい ない。また、難聴者・中途失聴者にはさまざまな心理的問題 があることが経験的に知られており、これまで研究としてと りあげられてこなかった問題についても検討が必要である。 1.本研究の目的 中野は「聴覚障害の心理」(1999)の末尾を「これまで研究 が不十分であった難聴者や中途失聴者の問題を含め、成人聴 覚障害者の問題解決への取り組みがなされることが喫緊の課 題である」という言葉で締めくくっている。難聴者・中途失 聴者の心理的諸問題について研究が不十分であったことは、 多くの関係者が認識している。 そこで本研究では軽度・中度の難聴者も含めて、できるだ け多くの難聴者・中途失聴者を対象にして、その心理的諸問 題について調査し、心理的リハビリテーションの必要性を明 らかにするとともに、心理的支援にあたっての方向性を考察 8.

(12) することを目的とする。そのために①難聴者・中途失聴者の 全般的なメンタルヘルスの状況を調査し、②現在、具体的に はどのような悩みがあるのか、③難聴発生当時にはどのよう な悩みがあり、それらが何によってどう変化したのか、④学 齢期に難聴だった人はどんな悩みを持っていたのかについて 検討する。. 9.

(13) 第2章 方 法 1.対象者. 対象となったのは成人の難聴者・中途失聴者であり、中途 障害の場合は障害発生から1年以上経過していることという 条件が付された。これは障害発生当時と現在とを比較するこ とのできる人を意味する。本研究では難聴者とは、鈴木・小 林(2001)の定義に従い、一側または両側の平均聴力レベルが 20dB以上の人すべてを指し、全く聞こえない人も含まれる。 ただし平均聴力レベルの算出法は一通りではなく、また当事 者が正確な聴力を知らない場合もあるので、実質的には「聞 こえにくい」ことを自覚する人はすべて難聴者に含めた。 一般的には青年期以後全く聞こえなくなった人を中途失聴 者と呼ぶ。しかし難聴者と中途失聴者を明確に区別すること は難しく、「難聴者・中途失聴者」と併記して1つのグループ と考えることが多い。本研究もその呼称を用いた。. E.予備調査 1.ホームページによる情報収集. 1−1.方 法 2001年9月にホームページを開設し、ピア・サポートを行 いながら難聴者・中途失聴者の悩みについての情報を収集し た(htt’//www1.kcn ne../∼m280178)。このサイトは管理人. 自身が軽度の中途難聴であり、自らの体験を公開して情報を 提供すると共に、難聴者・中途失聴者が情報を交換するピア・ サポートの場となることを目的としている。アクセス数は一. 日平均37とかなり多いが、掲示板への投稿は1日0∼3件程 度である。. 難聴者・中途失聴者の中には周囲の人にも難聴であること を知らせておらず、誰にも悩みを相談することができない人 10.

(14) がいる。このため、このホームページでは管理人を含め全員 が仮名(ハンドルネ・・…一ム)を使用し、プライバシーの保護を優. 先課題とした。ただし、掲示板で得られた情報を研究に取り 入れることについては承諾を得ている。. 1−2.結 果 インターネット上の掲示板であるので、匿名であっても投 稿内容そのものは不特定多数の目に触れるが、それにも拘わ らず、多くの難聴者・中途失聴者が難聴に起因する悩みやつ らい経験を投稿している。代表的なものは周囲の人に理解さ れない、職場や学校で差別を受けた、自分から難聴だとは言 いにくい、同じような障害・症状を持つ人が身近にいないの で相談できない、耳鳴り・聴覚過敏・耳閉塞感・めまいなど の随伴症状がつらい、不安感や不眠症などの精神症状がつら いなどであった。それらの悩みを訴えた人の中には、軽度難 聴や一側性難聴の人もおり、問題の深刻さと聴力損失レベル とは必ずしも一致しなかった。 2.面接による予備調査. 2−1.方 法 調査実施時期は2002年2,月末から3,月末。対象は近畿地 方の難聴者・中途失聴者団体または手話サー一一・一クルに加入して. いる難聴者・中途失聴者15名(男性9名、女性6名)であ り、その年齢は40代を中心に20代から60代までであった。 面接の形式としては個人面接が2回、集団面接が3回(6 名・5名・2名:計13名)行われた。質問内容はホームページ でよく話題となっている難聴者・中途失聴者の悩みについて どう思うかと、その他にどのような悩みがあるかを中心とし た。コミュニケーション手段は大部分の人が、自分からの発 話は音声言語と手話を併用し、聴取は音声言語・読唇・手話 11.

(15) を併用し、さらに筆談を利用することも多かった。. 2−2.結 果 悩みの内容はホV・一・ムページの掲示板に投稿された話題と共. 通していた。しかし話題の中心になったのは、職場における 困難であった。仕事上や職場での交際上必要な情報が十分に 伝わらない、雑談に入れずに孤立する、同僚から軽視される などの悩みが多かった。また幼少時より難聴だった人からは 学校生活で友達ができないこと、十分な学習支援が行われて いないことが指摘された。 3.質問紙による予備調査. 3−1.方 法 実施時期は面接と同じ。対象者は面接による予備調査に参 加した人で、質問紙調査にも回答することに同意した10名で あったが、回答者は8名のみであった。障害発生時期は成人 後が3名、6歳以下が5名であり、全員障害者手帳の等級が4 級以上の高度難聴であった。. 材料として使用した質問紙は日本版GHQ−30(General Health Questionnaire:一般健康質問票30項目版)及び新し く制作した「難聴者の心理的諸問題の調査(原案)」である。 GHQ(Genera1 Health Questionnaire) }lik Goldberg(1972) )bXh jEi. 器質性・非精神病性の精神障害のスクリーニングテストとし て開発した自己評価式質問紙であり、広くストレス関連の精 神障害の程度を反映する。当初は60項目からなっていたが、 後に30、28、12項目の短縮版が作成された。外国語への翻訳 も多く、日本語版は1985年に中川・大坊によって作られ、信 頼性・妥当性ともに検証されている。本研究では先行研究と の比較のために30項目版(GHQ−30)を用いた。. 「難聴者の心理的諸問題の調査(原案)」は滝沢(1995)、濱 12.

(16) 田(2000)、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(2002)、全. 日本難聴者・中途失聴四団体連合会青年部(2002)の調査で使. 用された調査項目を基礎として、ホームページの掲示板で取 り上げられた話題も参考にして制作された。. 3−2.結 果 GHQ−30では8点を越える人は2名のみで、全般的なメンタ ルヘルスの状態に大きな問題がある人は少なかったが、この 2名は障害発生時期が成人後であった。 「障害発生当時に何がつらかったか」については、早期か ら難聴だった人から「答えにくい」との指摘が多かった。回 答があった中では、精神的に不安定になったこと、家族の理 解が得られなかったこと、友人や知人の理解が得られなかっ たことを選択する人が多かった。. 現在の悩みは障害発生当時の悩みに比べて少ないが、外出 時に店員や職員の会話が聞き取れないこと、友人や知人の理 解を得られないことを選択する人が多かった。 悩みの相談相手は「なし」が5名であるが、3名は聴覚障 害を持つ知人と福祉関係者を選択した。また障害発生当時と 現在を比較して、現在の方が良いと思われる点として、聴覚 障害を持つ友人ができたこと、手話や要約筆記などのコミュ ニケーション手段を獲得したことが指摘された。. 3−3.本調査に向けての課題 対象者から「難聴者の心理的諸問題の調査(原案)」の質問. 項目は概ね妥当であるとの判定を得たが、幼少時から難聴だ った人からは「障害発生当時の悩みは答えにくい」「学校生活 に関する質問項目を多く設けてほしい」との意見が寄せられ た。また本調査の対象となる難聴者・中途失聴者団体の会員 には高齢者及び早期からの難聴者がかなり多く、用語や回答 13.

(17) 方法を平明にすることが望ましいと分かった。 皿.本調査. 1.対象者 前述の通り、対象者は成人の難聴者・中途失聴者で難聴発 生後1年以上経過した人であるが、実際に調査への協力を依 頼する方法には2つのルートがあった。 A)難聴者・中途失聴者の団体、手話サークル、要約筆記サ ークルを通じて、その会員、もしくはそれらの団体が主催 する行事に参加した人260名に調査協力を依頼した。 B)ホームページを利用して調査協力者を募集し、19名が応 回した。. 2.手続きと調査期間 A)はその団体の例会や行事で質問紙を一斉に配布し、郵 送で回収した。. B)は電子メールで住所・氏名を尋ねて、郵送で質問紙を 配布・回収した。. 質問紙は2002年5月から8月に配布され、回答は9月末ま でに無記名で返送された。. 3.材 料 ①日本版GHQ−30(General Health Questionnaire:一般健康. 調査票30項目版) ②「難聴者の心理的諸問題の調査」 ②は予備調査で使用された「難聴者の心理的諸問題の調査(原 案)」を改定したものであり、質問群を5群に分け、回答者の 属性によって質問群が選択されるように構成した。Table 2−1 にその概要をあげる。. 14.

(18) Table 2・1 「難聴者の心理的諸問題の調査」の概要. 質問. 対象者. 質 問 内 容. 質問番号. 群. 1群. 全員. 1∼16. 2群 3群. 全員 全員. 17∼22 23∼49. 4群:. 小学校入学後 50∼76 難聴発生者 77. *質問23∼49と50∼76は同じ内容 難聴発生当時と比べて現在は精神的に安定. 77で「安定し. 78∼106. しているか 精神的な安定に役立ったこと. た」と答えた人 77で「不変」 ・「不安定」と. 107∼135. 将来の精神的安定に役立つと思うこと. *質問78∼106と107∼135は同じ内容. 答えた人. 5群. 人口統計的項目、聞こえと補聴、コミュニケ 一ションの手段と相手 随伴症状の程度 難聴に起因する現在の悩み、カウンセラーに 相談したいこと 難聴になった当時の悩み、カウンセラーに相 談したがったこと. 小学校入学前 136∼146 難聴発生者. 147∼169. 教育を受けた場と特別の配慮の有無 難聴であるために学校生活で経験したつら いこと. 170∼189. 難聴のこどもが充実した学校生活を送るた めに役立つこと. 15.

(19) 第3章. 回答者の属性. 本調査は4つの研究に分けて分析・考察された。. 第1研究 メンタルヘルスの状況. 第2研究 現在の悩み 第3研究 難聴発生当時の悩みとその変化 第4研究 学校生活での悩み それぞれの研究によって対象者数が異なっているが、ここでは全 体を見通して回答者の属性について記述する。. 1.全体的な特徴. 1.有効回答 質問紙は279名に配布された。このうち難聴者・中途失聴者団体 や手話サークル・要約筆記サーークルを通じての配布が260名、ホv・…一. ムページでの募集に応じた人への配布が19名であった。 回収されたのは228名分であり、回収率は81.7%であった。この うち有効回答とされたのは212回分であり、有効回答率は93.0%で. あった。このことから難聴者・中途失聴者は心理的問題に強い関心 をもっていることがうかがわれた。. しかし配布時には記入方法について説明を行っていないうえに、. 質問項目がかなり多いために、無効回答や一部未記入の回答が多か った。この結果、できるだけ多くの回答を生かすために、研究ごと にどの回答を有効とするかを検討する必要性が生じた。. 2.地 域 質問紙の配布先は郵送も含めて11都道府県に及んだ。返送時に は住所は記入されていないので、回答者の居住地を知ることはでき ないが、広い範囲に分布していると言えよう。しかし会員数の多い. 難聴者・中途失聴者団体は大都市圏に偏在しており、質問紙の大部 分が大都市圏の難聴者・中途失聴者団体を通じて配布されたことか 16.

(20) ら、回答者の多くは大都市圏在住者であると考えられる。. 3.性 別 有効回答者212名のうち、男性が73名(34.4%)、女性が139名 (65.6%)であった。女性が男性よりかなり多いが、これは調査対象と なった難聴者・中途失聴者団体や手話サークル、要約筆記サ・・一・Lクル. に共通した傾向である。しかし、厚生労働省(2002)が推計した聴覚. 言語障害者の人口が男性164,000人、女性176,000人であることか ら考えて、難聴者全体では本研究の対象者ほどの性差はないと思わ れる。. 4.年 齢 平均年齢は54.08歳、標準偏差14.88、年齢の範囲は21歳∼80 歳であった。男女別では男性の平均年齢は52.30歳、標準偏差16.60、. 女性の平均年齢は55.01歳、標準偏差13.86で、女性の方が平均年 齢が高いが、その差は有意ではなかった。. 人 60 数 50. 圏女性. レ男性 40 30. 20. 10. o. 20N29 30・v39 40N49 50−v59 60・一69 70N80 年齢段階(才) Figure 3・1 対象者の年齢段階別の人数. 17.

(21) Figure 3・1は全体・男性・女性について年齢段階別の人数をグラ. フで示したものである。全体的に中高年層が多く60歳台が最も多 かった。これはもともと難聴者は加齢と共に増える上に、難聴者・ 中途失聴者団体や手話サV…一“クル・要約筆記サークルに加入している. 人は、仕事や子育てが一段落した中高年層が多いという背景がある。. 本研究では、女性は60歳代が最も多く70歳以上は急減するが、男 性は70歳以上が最も多かった。一般に聴覚障害者を対象とした調 査・研究では、対象者の平均年齢が高くなることが多い。. 5.就業率 全体の就業率は46.7%、男性は70.8%、女性は34.1%であった。. 就業者には嘱託・パート・アルバイトなどの非常勤を含んでいる。. 対象者は全員成人であるが、高齢者が多く、また女性が多いことか ら就業率は比較的低かった。. 6.聞こえに関する属性. 聴力の平均は左90.7dB、右90.9dBで左右の差はなく、性差もみ られなかった。:Figure 3・2は聴力の分布である。. (人)100. 90 80 70 60 50 40 30 20 10. ロ左 囲右. 0 O−19 20.v39 40N59 60N79 80・v89 100N (dB) Figure 3・2対象者の聴力の分布. 18.

(22) 全体的に障害の重い人が多かった。これに対応して身体障害者福 祉法による障害者手帳の交付を受けている人も多く、192人(91.4%). が手帳を保持していた。聴覚障害による障害者手帳の交付は両耳の. 平均聴力レベルが70dB以上が最低条件である。. しかし対象者212名のうち22名は聴力を記入しておらず、聴力 測定の時期についても、回答があった166名の平均が6,5年前、最 高は62年前であった。特に高齢の難聴者の場合、現在の自分の聴 力を知らない人が多かった。これは老人性難聴や多くの温点性難聴 の場合、聴力の低下を防ぐ有効な治療法はまだなく、聴力を測定す ることに大きな利点がないことが一因と考えられる。. 聴力の数値は最近の正確な測定によるものではなく、対象者の現 在の聞こえの程度を表しているとは言いがたい。また最近聴力を測 定した人が比較的少ないことから、最近手帳の申請・再申請をした 人も多くないと考えられる。従って手帳等級は現在の聞こえの程度 とは必ずしも一致しないと思われる。. 7.補聴システムの利用 対象者のうち、補聴器を使用している人は151名(71.6%)、人工 内耳を使用している人は15名(7.1%)であった。「使用している人」. とは、「目覚めている時間はほとんど使っている」人または「必要を. 感じるときだけ使っている」人を指し、「持っているが、ほとんど使. っていない」人は含んでいない。対象者の20%が補聴器も人工内耳 も使用していないが、その中には完全に失聴していて補聴効果が全 く期待できない人と、ある程度聞こえているが補聴器を使用しない. 人の2群がある。後者の人が補聴器を使用しない理由としては、ま ず補聴効果に対して補聴器の価格が高いことが考えられる。最近の デジタル補聴器は、周波数ごとに細かくゲインを調整したり、大き すぎる音を抑制することが可能であるが、基本的には音圧をあげて 音を闘きやすくする機械であり、民音性難聴の場合は補聴器を装用 してもそれほど明瞭な音は得られないことが多い。しかも補聴器の 19.

(23) ほとんどが10万円以上と高価であり、手帳保持者であっても一部 は自己:負担となっている。補聴効果と補聴器の価格のバランスを考 えると、新規購入や買い替えを控える人がいると思われる。また、. 補聴器を装用することに対する心理的な抵抗や、補聴器装用時の耳 の違和感なども、補聴器を使用しない理由となっていると思われる。 fi.グルV一・プ問の比較. 1.グループの定義 本研究では回答者をグル・・一一・Lプ化してその違いを検討した。. まず第一段階として、回答者は難聴発生時期によって早期群と中 途群に分けられた。早期群は難聴発生時期が小学校入学前である。. このため難聴が発生した当時のことは殆ど記憶していない。他者か らの指摘や、他者との比較によって自分が難聴であることを認識し、. 難聴のこどもとして少年期を過ごしてきた人々である。その中には 高度難聴で音声言語の獲得が困難であった人もかなり含まれている。. 一方中途群は難聴発生時期が小学校入学後である。中途群は「聞こ えなくなった」「聞こえにくくなった」という強い喪失感を経験して. おり、難聴発生当時の心理についてはかなりよく記憶していると考 えられる。. 第2段階として、中途群に属する回答者は質問項目77の回答に よって、安定群と不安定群に分けられた。安定群は難聴発生当時の 精神状態と現在の精神状態を比較して、「現在の方が安定している」 と答えた人々であり、不安定群は「変わらない」「不安定になった」 と答えた人々である。各群の人数と群内の男女別の人数をTable 3・1 にあげる。. 本稿では研究によって、対象となったグループが異なる(Table 3・2)。また同じグループでも研究によって対象者数は異なるので、 詳細は各研究の章に譲る。. 20.

(24) Table 3・1 各群の人数と群内の男女別人数 人数 体での中途群で男性人数群内での女性人数群内での 比率(%) の比率. 比率. 比率. 早期群. 63 29.7. 26. 41.3. 37. 58.7. 中途群. 149 フ0.3. 47. 31.5. 102. 68.5. 安定群 不安定群. 107. 71.8. 36. 33.6. 71. 66,4. 42. 28.2. 11. 26.2. 31. 73.8. Table 3・2 対象となった群の一覧. 分析の対象となった群. 研究の名称. 第1研究. メンタルヘルスの状況. 早期群と中途群、安定群と不安定群. 第2研究. 現在の悩み. 早期群と中途群、安定群と不安定群. 第3研究. 難聴発生当時の悩みと. 安定群と不安定群. その変化. 第4研究. 早期群内. 学校生活での悩み. 2.グループの属性. グループの属性についても詳細は各研究の章に譲るが、概略を Table 3・3にあげる。. Table 3−3 グループの属性 平均年難聴発生就業率二二力右聴力手帳 補 器 人工内耳 齢(歳)年齢(歳)(%) (dB) (dB) 竪町(%)使用率 使用者(人). 皐期群. 43.7. 2.2. 69.4. 9e.8. 93.4. 93.7 79.4. 0. 中途群. 58.4. 33.8. 3Z2. 90.6. 89.9. 90.5 68.2. 15. 58.3. 33.4. 39.3. 90.8. 91.1. 90.5 67.3. 12. 58.8. 34.6. 31.7. 90.3. 86.4. 90.5 70.7. 3. 安定群 不安定群. 早期群の難聴発生年齢が低いのは当然であるが、現在の年齢の平. 21.

(25) 均も中途群に比べて有意に低く(t・vr一.36, p<.001)、就業率が高いこと. とともに早期群の大きな特徴となっている。中途群内の安定群と不 安定群の間には大きな差異はみられなかった。. 22.

(26) 第4章 メンタルヘルスの状況. 本章では第1研究として、難聴者・中途失聴者の全般的なメンタ ルヘルスの状況を検討し、心理的リハビリテーションの必要性を明 らかにする。またメンタルヘルスに大きな影響を与える要因は何で あるのかについて考察する。. 1.方 法. 1.対象者 回答者のうちGH:Q・30の有効回答が得られた201名が第一研究の 対象となった。性別及び群別の人数の内訳はTable 4・1に示す。年. 齢の範囲は21歳∼80歳、平均年齢は53.8歳(男性51.8歳、女性 55.0歳)であった。. 2.材 料 G:HQ・30及び「難聴者の心理的諸問題の調査」の質問項目第1群・. 第2群の人口統計的要因、聞こえに関する要因、コミュニケーショ ンに関する要因、随伴症状に関する要因を用いた。GH:Q・30はGHQ 採点法(O・e・1・1)によって採点された。. Table 4・1. 第1研究の対象者の性別と三二の人数の内訳 合 計. 中途群. 早期群 中途群全体. 安定群. 不安定群 11 (5. 5) 67 (33. 3). 男性 23(11.4) 44(21.9). 33 (1 6. 4). 女性 37(18.4) 97(48.3). 66 (32. 8). 31 (1 5. 4) 134 (66. 7). 合計 60(29.8) 141(70、1). 99 (49. 2). 42 (20. 9) 201 〈1 00). O内は全体(201名)に占めるパーセンテージ。. 皿.結果と考察. 1.GHQ・30得点 1−1.全体の平均と分布 23.

(27) GHQ・30は得点が低いほどメンタルヘルス度が高いとされる。本 研究のGHQ・30の得点平均は全体で8.77、男性7.04、女性9.63と 全般にかなり高かった。これを標準化データ(中川・大坊,1985)の健. 常者群及び神経症者群と比較するとその違いは明瞭である(Table 4・2)。また滝沢(2000)が札幌市の難聴者・中途失聴者を対象に行っ. た調査と比較すると、本研究の方が平均点は低いものの、その差は 有意ではない。滝沢は中途失聴・難聴者は「心理的負担が多い」と 述べているが、本研究の結果でも全体的にメンタルヘルス度は低か った。. Table 4・2 GHQ−30得点平均の比較 平均. 標準偏差. 人数. 性別の人数. 8.77. 6. 67. 201. 男性. 7. 04. 5. 92. 67. 女性. 9. 63. 6.87. 3. 28. 2.97. 47 男性17、女性30. 15.03. 6. 43. 73 男性34、女性39. 10.75. 7. 47. 24 男性2、女性22. 本研究 全体. 134. 標準化データ. 健常看群 神経症者群 滝沢(2000)における. 中途失聴・難聴者. 標準化データ及び滝沢(2000)のデータでは性差はみられないが、 本研究においては女性の平均点(9.63)が男性の平均点(7.04)に比べ て有意に高かった(t=2.63,p<.01)。 GH:Q・30得点の性差は調査対. 象によりさまざまであるが、雲仙・普賢岳噴火災害後の避難住民を 対象とした太田・荒木・川崎・中根・三根・本田の調査(1995)や、. 阪神・淡路大震災後の兵庫県公立学校教職員を対象とした岩井の調 査(1998,2001)では、女性の得点が男性に比べて有意に高かったと報 告されている。 なお年齢とGH:Q・30得点の間に有意な相関はなく(r=一・. 043)、ま. 24.

(28) た仕事の有無とGHQ・30得点の間にも有意な相関はなかった( r= 一一. e27).. 次に本研究におけるGHQ・30得点の度数分布をFigure 4・1にあ げる。本研究では最も多い階級である1∼5点が31,3%、ついで6∼10. 点が30.8%となっており、1∼5点が60%以上を占める標準化デー タの健常者群とも、6∼10点にピークがある滝沢(2000)のデ・…タとも 異なっている。 70 60 50 人40 数30 20 10. 0 O IN5 6.vlO 11N15 16・v20 21.v25 26.v30. 得点 Figure 4・1 GHQ・30得点の度数分布. 1−2.離別・性別の平均 GHQ・30の群別・性別の平均点はTable 4・3の通りである。. 性と障害発生時期(早期群・中途群)を要因として二元配置分散 分析を行った結果、有意差は検出されなかった。また中途群につい て、性と精神状態(安定群・不安定群)を要因として二元配置分散 分析を行った結果、性の主効果にのみ有意差が認められた。 (F(3, 137)=9.34, p〈.Ol).. 小学校入学以前から難聴であった早期群は、「難聴になった」とい. う記憶ははっきりしない。それに対して中途群の中には聞こえにく くなったことに対する強い喪失感を持っている人が含まれている。. しかし本調査では早期群・中途群の別はメンタルヘルスの状態を左. 25.

(29) 右する要因とはなっていなかった。. 中途群の中では安定群と不安定群の間に有意な差が見られず、こ れは予想外の結果であった。しかし安定・不安定は難聴発生当時と 現在を比較して、精神的に安定したかどうかによる区分である。本 研究は現在のメンタルヘルスの状況を検討する横断的研究であるた め、安定・不安定がメンタルヘルスの程度に影響を及ぼしていると. は言えないという結果になったと思われる。またGHQ・30は全般的. なメンタルヘルスを調査するための質問紙であり、難聴であるこ と・難聴になったことに対する感想を問うものではないので、安定 群・不安定群の違いが現れにくかったことも考えられる。 Table 4・3 GHQ・30の群別・性別平均点 性別. 平均. 早期群. 男性. 9. 30 7. 44. 23. 女性. 9.43 7.15. 37. 合計. 9. 38 7. 20. 60. 男性. 5. 86. 4. 61. 44. 女性. 9. 71. 6. 80. 97. 合計. 8, 51. 6. 44. 141. 男性. 5. 58. 4. 37. 33. 女性. 9.12. 6. 23. 66. 合計. 7.94. 5. 90. 99. 男性. 6. 73. 5. 40. 11. 女性. 10.97. 7. 84. 31. 合計. 9. 86. 7. 46. 42. 男性. 7.04 5.92. 女性. 9. 63 6. 87. 134. 合計. 8. 77 6. 67. 201. 中途群全体. 中途・安定群. 中途・不安定群. 全体. 26. 標準偏差. 人数. 群. 67.

(30) 2.高得点者の割合 GHQ−30の得点が8点以上の高得点者は神経症傾向を有すると考 えられる(K:itamura,Sugawara,Aoki&Shima,1989)。高得点者がそ れぞれ該当する性・群の中で占める比率(%〉と人数をTable 4−4にあ げる。性による差は有意である(JV’2=7.27, p<.01)が、早期群と中途. 群、および中途群の中の安定群と不安定群のGHQ得点の差は有意 ではなかった。. 全体を見ると52.2%の人が神経症傾向を有すると判定された。特. に女性においては59.o%に神経症傾向があり、女性のGHQ得点の 平均が9.63と高いのは、少数の極端に得点の高い人が平均を引き上 げたのではなく一般的な傾向であると考えられる。 Table 4・4 GHQ−30高山点者の占める比率 全 体. 申出群. 早期群 中途群全体. 安定群. 不安定群. 男性 47.8(11). 34. 1 (15). 30. 3 (1 0). 45. 5 (5). 38. 8 (26). 女性 56.8(2D. 59. 8 (58). 57. 6 (38). 64.5(20). 59. 0 (79). 合計 53.3(32). 51. 8 (73). 48. 5 (48). 59. 5 (25). 52, 2 (1 05). O内は人数 Table 4・5は高配点者の比率について他調査と比較したものであ る。宗像ら(1988)及び永田ら(1993)の調査は専門職の燃え尽き症候. 群について検討する目的で行われたものである。一方太田ら(1995). の調査は噴火による避難という生命にかかわる大災害によって、極 度のストレスにさらされている住民が対象となっている。これらの 他調査と比較しても、難聴者・中途失聴者には日常的にかなり強い ストレスがあり、神経症傾向を有する者が少なくないと言えよう。. 27.

(31) Table 4・5. GHQ・30高得点者の比率の比較. 対象者. 年齢. 人数. 都市圏の家庭婦人. 6,198 20N70. 市川市の一一一般人口. 16.7. a. 21.5. b b. 18.0. c. 41.7. d. 46.2. d. 1 ,665 平均46.5±16.9. 64.6. e. 1,899 平均47.1±17.9. 69.6. e. 339. 40以上. 276 一 420 一. 避難住民(男性). 雲仙普賢岳噴火災害 避難住民(女性) 本砺究(男性) 本研究(女性). 出典. 比率(%). 20.6. 102 一一 121 一一. 精神科医師 長崎市の申高齢者 長崎県の保健婦 長崎県の看護婦 雲仙普賢岳噴火災害. 高得点者. 67 平均51.8 134 平均55.0. 38.8 59.0. a:渡辺(1989). b:宗像・稲岡・高橋・川野(1988) c:太田・勝野(1991). d:永田・門司・竹本(1993) e:太田・荒木・川崎・中根・三根・本田(1995). 3.下位得点 GH:Q・30は一般的疾患傾向・身体的症状・睡眠障害・社会的活動障. 害・不安と気分変調・希死念慮とうつ傾向の6つの下位得点から成 り立っている。Table 4・6に下位得点の性別集計をあげる。. Table 4・6 GHQ・30下位得点の性別集計 不. 口醤、,」’一. 疾患傾ロ症状. 活動障害気分’調 うつ 向. 全体 平均点 標準偏差 男性 平均点 標準偏差 女性 平均点 標準偏差. 8.77. 1.70. 1.66. 2.18. O.63. 1.68. O,92. 6.67. 1.61. 1.46. 1.82. 1.08. 1.82. 1.59. 6.87. 性差伽検定. オ羅2.64. ρぐO1. ρぐ01. ρぐ01. 7,04. 1.28. 1.22. 1.88. 0.70. 1.22. 0.73. 5.92. 1.49. 1.24. 1.58. 1.09. 1.65. 1 .42. 9.63. 1.91. 1.87. 2.34. 0.60. 1.90. 1.01. 1.64. 1.51. 1.92. 1.08. 1.86. 1.67. t= 2.64. 亡寓3,24. n.s.. n.s.. t=2.53. n.s.. ρぐ05. 下位得点の中では睡眠障害が最:も得点が高かった。滝沢(2000)に 28.

(32) よれば聴覚障害者は全体的に不眠傾向があり、特に難聴・中途失聴 者にその傾向が強い。本研究でも同じ傾向が認められた。. 下位得点のうち有意な性差があったのは、一般的疾患傾向・身体. 的症状・不安と気分変調の3項目であり、すべて女性の得点が高か った。女性は男性と比較すると身体的な不調や全般的な不健康状態 を感じていることが多いと言える。. 4.聞こえに関する要因とGHQ・30. 4−1.難聴発生年齢と経過年数 難聴発生時の年齢の平均は24.1歳。経過年数の平均は29.7年で あった。しかし難聴発生年齢の最頻値は0歳(先天性)であり、全体 の29.8%が小学校入学前に難聴が発生した早期群に属する。一般的. には難聴発生の原因として最も多いのは加齢による老人性難聴であ る(大沼,1997)が、本研究の対象者においては難聴が早;期に発生し. た人が多かったという点が特徴的である。 Figure 4・2に難聴発生年齢とGHQ・30得点の相関図、 Figure 4・3. に経過年数とGHQ・30得点の相関図を掲げる。. 30. ;g. 25. ◆. ◆ ◆◆. ◆ ◆◆◆◆,◆◆. ◆◆. ◆◆. 噸20 否1。. ◆. ◆飴. ◆◆. 警・5. 氈. ◆、◆◆◆. 苓吟◆◆ ◆ ⇔◆◆. 5 0. $ ◆. o. 20. ◆. ?◆◆◆. ◆. 、. 魂穆鯉 8. ◆◆. 40 60 eo 発生年齢. Figure 4・2 難聴発生年齢とGHQ・30. 叢20 饗、◆⇔◆◆◆◆ 霧::. g. ◆ ◆ ◆、◆ ◆斜. ◆◆冤 ◆◆◆◆. 講◆$騨騨鋭◆t o. 20 40. 60 80 経過年数. Figure 4・3 経過年数とGH:Q・30. 難聴発生年齢とGH:Q・30得点の間に相関は認められず(r=一. 046)、. 29.

(33) 経過年i数とGHQ・30の間にも相関が認められなかった(r=一.005)。. ここでも、難聴発生時期が早いか遅いかによってメンタルヘルスの 状態は予測できないし、難聴発生から時間を経るにつれてメンタル ヘルスの状態が改善すると言うこともできない。. 4−2.聴力と手帳等級 聴力の平均は左90.5dB、右90.7dBとかなり障害の重い人が多か った。Table 4・7は障害者手帳の等級別の人数である。聴力とほぼ 一致して、聴覚障害単独では最も重い2級(両耳の聴力レベルがそれ. ぞれ100dB以上)の人が最も多い。 しかし前述のように聴力は最近の測定ではないことが多く、聴力. を記入していない人は201名申20名に達した。障害者手帳の等級 も最近更新していない人がかなりいると思われ、聴力や手帳の等級 は現在の聞こえを表す尺度としては適切ではないと思われる。 Table 4・7 障害者手帳の等級別の人数. 手帳なし 人数 比率(%). 事8. 6級 30. 5級 1. 31. 4級 28. 3級 83. 2級 8. 1級 合計 で99. 9.0 15.1 O.5 15.6 14.1 41.7 4.0 100. 4−3.「聞こえの程度」の分布. そこで、現在の聞こえの程度を知るために、日常と同じ両耳聴取. での会話の聞き取りに注目して、6段階の「聞こえの程度」尺度を 制作した。. Table 4・8は裸耳(補聴器・人工内耳を使用していない時)及び.. 補聴時(補聴器・人工内耳を使用している時)の「聞こえの程度」. 段階ごとの人数である。補聴時の聞こえは平常人工内耳・補聴器を 用いている人のみ記載した。補聴手段は人工内耳が15名(7。5%)、 補聴器が144名(72.4%)で、残り40名(20.1%)はどちらも使ってい. 30.

(34) なかった。. Table 4・8 裸耳と補聴後の「聞こえの程度」. 襯. 鞭. 1対1の会話は大部分聞こえるが、ささやき声や大勢の声は聞き取りにくい. 24(12つ. 88(5ε3). 1対1の会話で大きい声は聞こえるが、普通の大きさの声は聞き取りにくい. 42(21.1). 41(258). 19(9,5). 18q1の. 38(19.1). 10(a3). 75(37.7). 0(0). 199(100ゆ. 159(100). 聞こえの程度 1. 会話に全く不自由はない. 2. 3 4 5. 6. 1(05). 1対1の会語で大きい声でも聞き取りにくい. 会話は聞き取れない ほとんどの音が聞き取れない. 合計. 2(1紛. O内は96. 裸耳及び補二時の「聞こえの程度」とGHQ・30得点の間の相関係 数は、それぞれr=「053,r=.039と有意ではなかった。一般的に は難聴の程度が重いほど心理的負担が重いと考えられることが多い ようだが、障害が重い人の方がメンタルヘルスの状況が悪いとは言 えない。このことはすでに滝沢(1995,2000)、藤田(1992,1998)、. 濱田(1998)が指摘しているが、本研究の結果もそれを支持している。. 5.:コミュニケーションに関する要因とGHQ・30. 5−1.コミュニケーション手段 難聴者・中途失聴者は音声言語を基本的なコミュニケV・一一・ション手. 段とする人、またはしていた人である。しかし聴力が低いために音 声言語のみでは十分に意思疎通を行うことができず、さまざまなコ ミュニケーション手段を使っていることが多い。また相手により、. 場面によってコミュニケーション手段を切り替えたり、併用したり することが自然に行われている。本研究では回答者の音声言語・筆 談・手話・要約筆記の使用状況についての調査を行った。本研究の 回答者の大半が難聴者・中途失聴者の団体や手話サークル・要約筆 記サークルに所属しており、手話の学習や要約筆記の利用に対して は、一般の難聴者より積極的であると考えられた。 31.

(35) Table 4・9は4つのコミュニケーション手段について使用の有無. とGHQ・30得点との間の相関係数を表している。いずれのコミュニ ケーション手段もGH:Q・30得点とは相関が見られなかった。これは. 対象者には2つ以上のコミュニケーション手段を使い分ける人が多 かったため、コミュニケV・…ション手段の違いがメンタルヘルスに影. 響を与える要因にはならなかったと考えられる。 Table 4・9 各コミュニケ・・一・・ション手段を使う人の比率(%). 及び使用の有無とGHQ・30得点の相関 音声言語. 使う 使わない. 88.5(16D 11.5(21). 筆 五. 三 話. 要約筆記. 82.0(159) 77.8(144). 77. 5 (1 48). 18,0(35) 22.2(41). 22. 5 (43). GHQ一・30得点との 相関係数. 一.069. 一.OOI. 一.008. 一一. D 045. O内は人数. 5−2.日常よく会話をする人 ここでの「会話をする人の数」とは音声言語で行われる会話だけ でなく、筆談や手話などどのような手段を使っても、日常的にコミ ュニケーションの相手となる人の数である。予備調査において、高 齢の難聴者の中には日常的に会話をする人がほとんどおらず、その ことがメンタルヘルスの悪化を招いている可能性があるとの指摘が. あった。そこで本研究では3人以下を少数群、4人以上を多数群と してGHQ・30の得点平均を比較した(Table 4・10)。会話をする人 の数(少数群・多数群)とGH:Q・30の得点平均の間には弱い負の相 関が認められ(r=一.203,ρく.Ol)、 t検定の結果、少数群と多数群 のGHQ・30得点平均の差は有意であった(t=2. 91,ρ<. Ol)。. 難聴者・中途失聴者はコミュニケV・・一一ションをとる上での何らかの. 難しさをもっている。しかしコミュニケーション手段が何であれ、 32.

(36) 難しさをもっている。しかし「kミュニケーション手段が何であれ、 現実的に多くの人とコミュニケv・一一・ションをしている人は、そうでな. い人と比べてメンタルヘルスの状態が良いと言える。 Table 4−10 少数群と多数群の人数の内訳とGHQ−30得点 人数 GHQ−30の得点平均 少数群. 69. 多数群. 130. 標準偏差. 10.59. 7.03. 7. 78. 6. 2Q. 5−3.同障(難聴・中途失聴)の友人 濱田(1998,2000)は難聴者・中途失聴者が穎しい友人を得るきっ. かけを調査し、同障(難聴・中途失聴者)の友人を持つことによっ て心理的に安定し、社会的にも活動的になったことを示している。. しがし、本研究においては同障の友人・知人がいない人は27名 (13.60/e)に過ぎず、同障の友人が有る群と無い群のGHQ・30得点の 間には相関がなかった(r=.030)。. 6.随伴症状に関する要因とGH:Q−30. 6−1.随伴症状保有者の比率 難聴には「聞こえにくい」「聞こえない」という中心的な症状の他. に、めまい(平衡機能障害)や耳鳴りなどさまざまな随伴症状がみ られる。老人性難聴では耳鳴り、突発性難聴やメニエール病では耳 鳴りとめまいがあることがよく知られている。その他に耳が詰まっ た感じがする耳閉塞感や少し大きな音が異常に響くリクルートメン ト現象なども不快な症状である。本研究ではりクルートメント現象、. 音の高さの歪み、音色の歪みなどの症状を「響きの異常」と総称す る。なお、「響きの異當1は完全に失:聴している人には存在しないが、. めまい、耳鳴り、耳閉塞感は完全失聴の人にも存在する。また早期 に難聴が発生した人や、失聴して長時問を経た人では言語障害を伴 33.

(37) うことが多い。予備調査からこれらの随伴する症状・障害が肉体的 にも心理的にも負担になっていると推定された。 Table 4・11は随伴症状の有る人の比率を性別、早期・中途の群別、 安定・不安定の薫別にまとめた.ものである。. 随伴症状のうち性差が有意であったのは、耳閉塞感(/2=3.98, .ρく.05)とめまい(Z 2=4.07,p<.05)で、どち.らも・女性の方が症状を持. つ人の比率が高かった。これは前述のG且Q−30下位得点の中で、「身. 体的症状」の得点が女性の方が有意に高いこと関連があると思われ る。次に難聴発生時期(早期群・中途群)による比較で有意差があ る・のは、耳鳴り(Z 2=10.67,p<.01)、耳閉塞感(X.2=6.31,.ρ<.01)、言. 語障害(Z2=31.36,.ρ<.001)であった。耳鳴りと耳閉塞感は中途群の. 比率が高く、言語障害は早期群の比率が高かった。また中途群の中 の安定群と不安定群の比較では有意差がある症状はなかった。ただ し向精神薬を服用している人の比率は安定群が■3.1%・(13人)である・. のに対して、不安定群は35.7%(15人)であり、後者が有意に高かっ た一く x 2=9.45,p<、01)。. Table 4−11 随伴症状のある人の比率(%). 全体 男性 女性 早期群中途群 安定群不安定群 人数 201 67 134 60 141 99 42 耳鳴り. 人数 (比率). 耳閉塞感. 人数 (比率). 響きの異常人数 (比率). .めまい. 人数 (比率). 言語障害. 人数 (比率). 154 (76.6). 101 (50.2). 1−15 (57.2). 86 (42.8). 81 (40.3). 37 117. 46 108 (68.7) (80.6). (61.7) (83.0). 22 79. 27 74 (40.3) (55.2). (36.7) (56.0). 30 85. 33 82 (49.2) (61.2). (50.0) (60.3). 26 60. 22 64 (32.8) (47.8). (43t3) (42s5). 42 39. . 32 49 (47.8) (ssL6). 34. 〈ro.O) (27.7). 84. 33. (84.8). (78.6). 54. 25. (54.5). (59.5). 63. 22. (63.6). (52.4). 38. 22. (38.4). (52.4). 30 (so3)一. 9 (2t.4).

(38) 6−2−2.随伴症状の有無とGHQ Tahle 4−12は5種類の随伴症状について症状有り群と症状無し群. のGHQ・30得点の平均を集計したものである。 すべての症状において症状有り群が症状無し無し酵を上回ってい るが、めまいの有無(tニ3.23,一p<.01)、耳鳴り(t=2.00,.ρ<.05)に有意. 差があり、耳閉塞感に有意傾向(t=1.85,p<ユ0)があった。5つの随. 伴症状はいずれも日常生活に影響を及ぼすものであるが、中でもめ まいは発作時には立ち上がることができず、転倒や事故に遭う危険 性が高く、最も強く日常生活を脅かす症状である。めまいを持つ難 聴者・中途失聴者がメンタルヘルスの問題を抱える可能性が高いこ とは十分理解できよう。. 耳鳴り 耳閉塞感響きの異常 めまい 言語障害 一症状あり得点平均. 7. e9 7. co. 8.os. 6.一80 8.25. 標準偏差. 6. 51 6. 71. 6.M. 5. 41 6. 20. 症状なし得点平均. 9. 29 9. 63. 9. 32. 1e. 49 9. 一M. 難 平均の差の検定. 6. os 6. 55. 6. 74. 7. 61 7. 28. A.S.. t =3. 23** A, s. **p<二〇1’. @*p<:05. t2.00*t二4.85† †p〈10. Table 4・12症状の有無によるGHQ・30得点の差異. 皿.第1研究の総合考察 難聴者・中途失聴者の心理的問題について外的基準を用いて測定 した研究は少ない。筆者の知る範囲では、難聴・中途失聴の成人を 対象とした研究は滝沢(2000)のみであり、難聴者・中途失聴者の心. 理的な悩みは深く、精神健康度が低いという結論が出ている。 研究方法が.これに比較的近い研究として吉田・市廻・石『川・堀 (2001)がある。この研究の対象者は筑波技術短:期大学の新入生で全. 員聴覚障害を持っている。毎年UNIVERSITY P:ERSONALITY 35.

(39) INV:ENTORY(通称UPI)を行い、大多数が障害を持たない筑波大 学の新入生と比較した結果、筑波技術短期大学生の方がUPIの得点 が有意に低く、精神健康度が高いというものである。しかし吉田ら. はUPIの得点が低いのは「見かけの精神的健康度の高さ」ではない かと指摘している。また学生全員が聴覚障害者という環境も特異的 である。. 本研究の対象者は難聴・中途失聴の成人であり、結果も概ね滝沢 (2000)の研究と一致した。. すなわち、(1)難聴者・中途失聴者のGHQ・30の平均得点は8.77 点であり、また8点以上の神経症傾向を有する者の比率は53.3%で、. 全般的にメンタルヘルス度が低い。難聴者・中途失聴者への心理的 リハビリテー一一ションの必要性が示されたと言える。(2)難聴者・中. 途失聴者は不眠傾向が強い。. また聞こえの程度とメンタルヘルスとの関係では、(3)難聴の程 度が重い人に比べて、難聴の程度が軽い人ほどメンタルヘルスの状 況が良いとは言えない。これについては事例研究等を通じて従来か ら指摘されていたが、社会通念としては定着していないと思われる。 本研究では数量的に示すことができた。. さらに本研究においては、難聴者・中途失聴者のGHQ・30得点に 有意な性差があることが見出された。(4)女性は男性と比較してメ. ンタルヘルス度が低く、身体的な症状や全体的な不健康状態を感じ ている人が多い。. 次に随伴症状とメンタルヘルスとの関係では(5)女性は男性に 比べて随伴症状をを保有する率が高い。ただし言語障害は除く。(6). 全般に随伴症状がメンタルヘルスの状態に影響を与えている。特に めまい(平衡機能障害)の有る人はメンタルヘルスの問題を抱える ことが多い。. コミュニケーションに関する要因を分析すると、(7)日常的にコ. ミュニケーションを取る相手が多い人の方が、少ない人よりメンタ ルヘルスの状況は良い。その際に使われるコミュニケーションの手. 36.

(40) 段はさまざまである。今回の対象者の多くは場面と相手に応じて使 い分けをしていると考えられる。 ところで藤田(1992,1998)、滝沢(1995)、濱田(2000)は難聴の発生. が先天性や幼年期である場合と、青年期以降である(中途障害)場 合の精神心理面の違いを指摘している。一般に中途障害の場合の方 が心理的な困難は大きいと考えられる。しかし本研究においては難. 聴発生時が小学校入学前の早期群と、それ以後の中途群のGHQ・30 得点平均には有意差が見られなかった。また中途群の中で、難聴発 生当時と現在を比較して精神的に安定した人の群と不安定な人の群 の問にも有意差はなかった。 全体を概観して、難聴者・中途失聴者のメンタルヘルス度は低く、. 心理的支援を必要とする人は少なくないと言える。しかしGHQ・30 の得点の分散はかなり大きく、特定の要因でメンタルヘルス度を推 測することは難しい。難聴者・中途失聴者とまとめて表現される人々. は、もともと障害の程度や発生時期に大きな差異があり、その置か れている環境も一人ずつ異なっている。メンタルヘルスの上でも個 人差が大きく、難聴が発生してから長時間を経ているので精神的に 安定している、あるいは難聴の程度が軽いから精神的負担は少ない、. 等の常識的な見解を裏付ける結果は得られなかった。心理的リハビ リテーションを必要としているのは、特定の条件にあてはまる一部 の人ではなく、広く難聴者・中途失聴者全体であると言えよう。. 37.

(41) 第5章 現在の悩み. 本章では第2研究として、難聴者・中途失聴者の現在の悩みにつ いて全体的な傾向を把握し、悩みに影響を与えている要因を探ると ともに、心理的支援のありかたを考察する。. 1.方 法. 1.対象者 回答者のうち、「難聴者の心理的諸問題の調査」の質問項目第3群. に対して有効回答が得られた207名が対象となった。 性別及び群別の人数の内訳はTable 5−1の通り。年齢の範囲は21歳. ∼80歳、平均年齢は53.9歳(男性52.1歳、女性54.9歳)であっ た。. Table 5・1 第2研究対象者の性別と群別の人数の内訳. 中途群. 早期群 申途群全体. 安定群. 合計 不安定群. 男性. 26(12.5). 46(22.2). 35(16.9). 11(5.3). 乱ォ ㈹v. R6(17、4). X9(47.8). V0(33.8). Q9(14.0). P35(65.2). U2(30.0). P45(70,0). P05(50.7). S0〈19.3). Q07GOO). 72(34.8). O内は全:体(207名)に占める比率(%). 2.材 料. f難聴者の心理的諸問題の調査G第3群の現在の悩み関する質問 項目(質問番号23∼49)が分析の対象となった。このうち26項目 は先行研究及び予備調査の結果から採用された「難聴であるために 起きるつらいこと」(以下「つらいこと」)であり、回答者は各項目. がどの程度現在の自分にあてはまるかを5段階で評定した。以下こ れを「あてはまり度」と呼ぶ。あてはまり度が高いほど、悩みは深 刻であると考えられる。. 38.

(42) 0:あてはまらない 1:少しあてはまる 2;ある程度あてはまる. 3:よくあてはまる 4:非常によくあてはまる 残り1項目は自由記述である。. また難聴の程度との関連性を分析するため、前述の6段階の「聞 こえの程度」尺度(Table 4・8,p31)が採用された。. H.結果と考察 1.難聴者・中途失聴者に共通する悩み 各項目のあてはまり度の平均値:及び水準ごとの人数比率(%)を算. 出し、「0:あてはまらない」をNO群とし、「3:よくあてはまる」 と「4:非常によくあてはまる」を統合してY:ES群とした。 Table. 5・2は質問項目をあてはまり度の平均値が高い順に並べ替えたもの である。. YES群の比率は、最も低い質問番号46では6.8e/eであり、最も高. い質問番号35では61.8%であった。しかし対象者の大部分が難聴 者・中途失聴者の団体の会員であることから、質問項目46,30でYES. 群の比率が低くなっていると考えられる。従ってここにあげられた 悩みはいずれもかなりの難聴者・中途失聴者によくあてはまるもの であり、難聴者・中途失聴者は難聴に起因する多くの悩みを抱えて いると言えよう。. 上位10項目ではコミュニケーションに関するもの、情報入手に 関するものが多い(質問番号35,43,36,34,42)。またそれらが健聴の. 友人・知人との交際の難しさに波及し(質問番号48)、映画や音楽 などの余暇活動にも制限を与えていることが分かる(質問番号44)。. 39.

(43) Table 5・2 あてはまり度の平均値とNO群・YES群の人数比率 順位 質問 番号 1 35 2 43. 3 36 4 23. 平均 標準. 質問項目. 偏差 :複数の人の雑談に入れないのが寂しい テレビやラジオの聴取ができないこと がつらい ロミュニケーションが不自由だ 聞えが回復する見込みが無いことがつ. NO. の比率. 2.77 1.29 2.53 1.31. YES の比率 7.1. 61.8. 8.0. 50.7. 2.50 1.26 2.33 1.56. 8.5. 55.1. 19.9. 50.7. 2.30 1.43. 16.0. 50.2. 2.26 1.32 2.26 1.48. 11,3. 43.5. 18.0. 46.4. 14.6. 42.5. 28.9. 43.0. 23.8. 35.7. 20.3. 29.0. 1.73 1.36. 23.6. 28.0. 1.55 1.30. 26.4. 24.6. 1.55 1.30 1.46 1.27. 25.1. 23.7. 27.4. 23.2. 1.24 1.42 1.26 1.38 1.22 1.30. 28.8. 20.3. 39.8. 21.7. 36.3. 16.4. 56.6. 15.5. O.91 1.11 e.88 1.11. 48.6. 10.6. 50.9. 8.2. e.81. 1.21. 61.3. 12.ユ. e.65. 1.23. 72.0. 12.1. e.57. 1.04. 7L2. 6.8. らい. 5 34. 仕事や勉強で必要な情報が入りにくく て困る. 6 42 7 44 8 9 10 11. 40 24 48 25. 12 31. 13 33. 店員や職員の話が分からなくて困る 音楽や映画などの趣味を楽しめないこ とが寂しい 老後に不安を感じる 難聴が進行する可能性があって不安だ 健聴の友人・知人との交際が難しい 難聴についての医療情報が不足してい て不安だ 聞えなくても聞えたふりをしているの が嫌だ 友人や知人の理解が得られないのがつ. 2.19 1.99 1.90 1.80. 1.38 1.61 1.45 1.33. らい. 14 27 15 28. 16 17 18 19 20 21. 45 37 41 32 26 47. 22 29 23 30 24 39 25 38 26 46. 精神的に落ち込んだり、不安定になる 何事に対しても消極的であるのことが 嫌だ 福祉制度がよく分からないので困る 先の仕事の見通しが立たなくて不安だ 経済的に苦しい 家族の理解が得られないのがつらい 全般的になんとなく体調が悪い 聴覚障害を持つ友人・知人との交際が 難しい 他人を素直に信用しにくいことが嫌だ 難聴であることを他人に知られるのが 嫌だ 子育てに不安を感じる 恋愛や結婚に不安を感じる 聴覚障害を持つ友人・知人がいないの が寂しい。. 40. 1.44 1,39 1.32 1.24 1.24 0.94. 34.9. 16.4. 42.5. 20.3.

Table 2・1 「難聴者の心理的諸問題の調査」の概要 質問 対象者 質問番号 質 問 内 容 群 1群 全員 1〜16 人口統計的項目、聞こえと補聴、コミュニケ 一ションの手段と相手 2群 全員 17〜22 随伴症状の程度 3群 全員 23〜49 難聴に起因する現在の悩み、カウンセラーに 相談したいこと 4群: 小学校入学後 50〜76 難聴になった当時の悩み、カウンセラーに相 難聴発生者 談したがったこと *質問23〜49と50〜76は同じ内容 77 難聴発生当時と比べて現在は精神的に安定 しているか
Table 3・1 各群の人数と群内の男女別人数 人数 体での中途群で男性人数群内での女性人数群内での    比率(%) の比率     比率       比率 早期群 中途群  安定群  不安定群 63 29.7 149 フ0.310742 71.828.2 26473611 41.3 31.533.626.2 37 1027131 58.7 68.566,473.8 Table 3・2 対象となった群の一覧 研究の名称 分析の対象となった群 第1研究 第2研究 第3研究 第4研究 メンタルヘルスの状況現
Table 4・5. GHQ・30高得点者の比率の比較 対象者 人数 年齢 高得点者  出典 比率(%) 都市圏の家庭婦人 市川市の一一一般人口 精神科医師 長崎市の申高齢者 長崎県の保健婦 長崎県の看護婦 雲仙普賢岳噴火災害 避難住民(男性) 雲仙普賢岳噴火災害 避難住民(女性) 本砺究(男性) 本研究(女性) 6,198 20N70102 一一121 一一339  40以上276 一420 一 1 ,665 平均46.5±16.9 1,899 平均47.1±17.9 67  平均51.8 134  平均
Table 5・2 あてはまり度の平均値とNO群・YES群の人数比率 順位 質問    番号 質問項目 平均 標準   NO  YES    偏差  の比率  の比率 1 35 2 43 3 36 4 23 5 34 6 42 7 44 8 40 9 24 10 48 11 25 12 31 13 33 14 27 15 28 16 45 17 37 18 41 19 32 20 26 21 47 22 29 23 30 24 39 25 38 26 46 :複数の人の雑談に入れないのが寂しいテレビやラジオ
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