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新型コロナウイルス感染拡大に伴う児童生徒の心理的支援

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Academic year: 2021

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新型コロナウイルス感染拡大に伴う児童生徒の心理的支援

Clinical psychological support for school-aged children

darling COVID-19 Pandemic

十文字学園女子大学

加藤 陽子

図1 コロナ下の子どものストレス反応(2020年6―7月時点)

特別報告 新型コロナウイルス感染症に対する学校の現状と取組

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ることができる。血圧を上昇させ心拍を増加させ、逃走 あるいは戦闘に備えるのである。しかし、それらはあく までも短期決戦を仮定している。そのため、新型コロナ ウイルス感染拡大のように終息がみえない長期的なスト レスに曝される状況下では、心身は大きく疲弊してし まう。 言語表現が未熟な子どもたちは、心身の疲弊を言語で 表現することが不得意である。そのため、心身の疲弊は 身体や行動の問題として表現されやすい3) 。表1は、ス トレスを感じた際に子どもに生じやすいストレス反応の 例である。学校再開直後、児童生徒のメンタルヘルスの チェックのために、表にあるようなストレス反応を調査 した学校は多いだろう。こうした取組は、子どもの言葉 にならない心の状態を知るためには欠かせない取組であ り、定期的にその状態を確認したい。 2.新しい不安 また、新型コロナウイルス感染拡大は、我々の心にこ れまでの大規模災害や事件・事故がもたらしたことのな いストレスを生じさせた。それは、社会的距離、すなわ ち人とのつながりに関するストレスである。休校明けの 分散登校時、数名の生徒が「みんなに会えてほっとした」 「人と会うのが久しぶり過ぎてどきどきした」とつぶや きながら教室に入っていく姿を目にした。自粛期間中の 外出制限や活動制限によって、友だちと直接触れ合うこ とができない不自由さを噛み締めていたような発言 だった。 心理や福祉の分野では、ストレスを感じる時こそ人と の繋がりが大切であると説くことが多い。それは、ソー シャル・サポートが緩衝材の役目を果たして、高いスト レスが及ぼす悪影響を緩和すると考えられているためで ある。ソーシャル・サポートとは、社会における人との つながりの中でもたらされる精神的あるいは物質的な支 援のことを指し、そうした支援をうけることがストレス を緩和させることにつながると指摘されている4) 。 しかし、新型コロナウイルス感染拡大による新しい社 会生活の下では、人と人とのつながりは制限され、つな がりを基にした社会的なサポートを受けることは困難に なってしまった。たとえば、小学校から中学・高校にか けて、子どもたちは家族という小集団から友人や仲間と いった学校集団に基づく新しい関係に軸足を移してい く。本来、不安やストレスを感じたときにこそサポート 源となるはずであった仲間とつながれない状態に陥った ことは、多くの子どもたちに「つながれない(孤立)」 という新しい不安を生じさせた。近年の通信機器の発展 によって、児童生徒の仲間関係は、即時的で情緒的、か つ簡便な関係になった。しかしその関係は、あくまでも 学校由来のものであり、リアルで目に見える直接的な関 係を基盤としていたはずである。内省が始まり他者の振 る舞いと自己を比較しがちな思春期前半の子どもたち とって、そうしたつながりから得ていた「心理的安定(そ れは容易に不安定へと移行するが)」は計り知れない。 「周りの人は何をしているんだろう」、「私だけが置いて きぼりになってないか」、「誰かとつながりたくてSNSば かりしていた」。これは私がかかわっていた子どもたち の言葉である。目の前にあったリアルなつながりが急に 切断されたことで不安を感じ、ネット上に自分の居場所 を求めようとする。似たようなことを考えていた児童生 徒は、決して少なくないだろう。個別の通信機器がな かった20年前であれば、児童生徒のこうした心理状況は 想像できなかった。この状況は、現代と新型コロナウイ ルスが生み出した新しい、そして注視すべき子どもの心 理状態だといえるだろう。 Ⅲ 私の活動記録 感染拡大に伴うストレス状況の下、子どもたちの心へ の対処はどのように実践され、あるいは取り組まれるべ きなのであろう か。こ こ で は、私 がSCと し て 実 際 に 行った活動を参考に、コロナ感染拡大に伴う心理的支援 について考える。 1.休校中の対応 新型コロナが流行し始めた当初は、子どもや保護者は 「病気そのものへの不安」や「わからなさ(未知)への 不安」を強く感じていたように思う。相談室でのやり取 りでは、「病気に罹るのが怖い」「家族や友人が病気に 表1 子どものストレス反応の例 ストレス反応の例 1.身体面に現れるもの 眠れない(寝つきが悪い、すぐに目がさめる、起きることができない)、考え込んでボーッ としたり気持ちが暗くなったりする、頭痛、食欲不振、動悸、疲れやすさなど 2.心理面に現れるもの イライラしやすい、集中力がなくなる、ソワソワする、ちょっとしたことでも気になって しまう、ゆううつな気持ちになる、これまで楽しめていたことが楽しめない、これからの ことが心配で仕方ない、やる気が出ないなど 3.行動面に現れるもの 一人でいたり一人で行動したりするのを嫌がる、親にくっつきたがったりやたらと甘えて きたりする、すぐに泣いたり怒ったりする、落ち着きがない、やたら騒いだりハイになっ たりする、兄弟姉妹との喧嘩が増える、感染に関するニュースを嫌がる、その他いつもと 違う行動がみられる 135

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罹ってしまったらと思うと不安だ」「治らないって本 当?」など、感染への不安と恐怖が多く聴かれた。しか しその後、緊急事態宣言を受けて学校が休校になって以 降は、式典や大会などイベントの中止や縮小といった急 激な予定変更に伴うストレスや、自分たちはこれからど うなっていくのかといった「見通しの立たなさへの不安」 が語られるようになった。くしくも休校が要請されたの は2月末であり、本来であれば時間をかけてこの1年に 区切りをつけ、次に進むための心の準備を整えるはずの 時期であった。ところが、突然の休校宣言によって、大 人も子どもも心を整理する機会を失い、放り出され、納 めどころがない状態に陥ってしまった。2月末の勤務日 に、卒業年次生の子どもたちが廊下で泣きながら抱き 合っていた姿や、遅くまで残って課題を作り、子どもた ちを励まし送り出しておられた先生方の姿が忘れられ ない。 4月に入っても休校は続き、入学式の開催もままなら ないまま新学期がスタートした。多くの子どもたちや保 護者が、学校に通えないこと、学習の遅れや仲間と会え ないことに不安や不満を強く感じていたように思う。石 本ら5)は、一斉休校に伴う生徒のメンタルヘルスについ て検討した結果、学校を楽しいと感じていた生徒ほど休 校の影響が大きかったことを指摘している。学校に居場 所を感じ、そこでの生活を楽しみにしていた子どもたち にとって、休校による情緒的な影響が少なくなかったこ とが推察される。 一方、休校の延長で救われた子たちもいたように思 う。学校に行くことに苦痛を感じていた子どもたちであ る。年度末に突如届いた「学校に行かなくてもいい」と いう通達は、彼らのあるいはその保護者の心を少し休め たようだった。不登校の子どもは家にいることで心理的 安定を図っていると指摘されことがあるが、それは全く の誤解である。彼らの多くは、学校に行かなければなら ないのに行けない自分に対し、自責の念を感じ、葛藤状 態にいる。保護者も同様に、多くの場合、学校に行くよ う促すが足が向かない我が子に焦燥感や無力感を感じて いる。彼らにとって、休校要請は「少しの間、問題を先 送りしましょう」というやさしい提案だったように感じ る。4月の休校時に電話面談をした保護者や不登校児童 生徒の多くが、いつもよりも明るく、情緒が安定してみ えたのは、私にとってはとても幸いなことのように思 えた。 ところで、休校中、私がSCとして心掛けたことは以 下の2点である。 1つ目は、不安への対処である。社団法人心理臨床学 会からいち早く新型コロナウイルスへの対応に関する資 料が届いたこともあり6) 、不安(特に、わからないこと への不安)が生じた際に起こる心理状態およびそれへの 対処法について、便りにまとめ、教職員並びに全家庭に 配布を行った。情報が氾濫する中、正しい情報の適切な 発信は不安の拡大を予防する。そのため、広く情報を周 知し、これ以上の不安状態を防ぐこと、また自らの工夫 でそれに対処する方法について提案を行った。 2つめは、いわゆる対象を絞った緊急支援である。気 になる子どもたちのうち、特に家庭的背景が気がかりな 子どもたちへの連絡を優先的に行った。自粛期間が長引 くにつれ、ストレスが家族内の弱者(例えば子どもや女 性)に向かうことが推察されたためである。休校中は、 担任と分担しながら気になる生徒をピックアップし、連 絡を取るように心がけた。さらに、保護者や担任とのや り取りの中で、不安を呈していることが明らかとなった 子どもたちには、個別に連絡をとったり、手紙を届けた りした。また、教職員とはできる限り子どもたちの情報 を共有することを心掛けた。図2、図3は、相談活動再 開のお知らせと休校中の心の持ちようなどについての便 りの例である。 また、休校中には、発達障害がある児童生徒への支援 要請も多かったように思う。発達障害がある児童生徒の 中には、急な予定変更や柔軟な対応に苦痛や不安を感じ る者が少なくない。そのため、特別支援教育コーディ ネーターなどと児童生徒に関する情報を共有し、対応に あたった。特に、新入生は初期適応がその後の継続的な 登校を左右することから、学校長や担任の許可が得られ た児童生徒や保護者に対しては、個別面談を行い、再開 後の学校生活に合わせた生活リズムの組立て、密を避け る形で教室案内や登校練習など、再開後の学校適応に問 題が生じないように工夫をした。 図2 休校時の相談室だより例 136

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2.登校再開後 5月に入り登校が再開された際には、子どもたちの心 の状態を知るため、教育委員会や先生方の指導の下、全 校児童生徒に対してストレスチェックを行った。新型コ ロナウイルス感染拡大は、震災などとは異なり大きなイ ンパクトを与える出来事が生じたわけではなかったが、 これまでの日常生活が一変したという点において、一つ の災害が起こったといってもよいほどの心理的影響を与 えたと考えられる。 災害発生後は、長期間にわたって大きな心の変化が生 じることが知られている7) (図4)。災害直後の現状を受 け止められない茫然自失期の後、人は困難に積極的に立 ち向かおうとする。災害が生じて数か月後に起こるハネ ムーン期である。この時期は、かつての生活を取り戻そ うと頑張れる時期でもあるが、同時に頑張りすぎて心が 疲れはじめる時期でもある。登校再開時は、ちょうどこ のハネムーン期に差し掛かりつつある、あるいは、地域 によっては積極的ながんばりが少しずつ下降していた頃 だったように思う。 そのため、まずは情緒面への影響が懸念されたことか ら、年齢が低い子どもたちへはイライラや甘え、集中力 の低下や騒がしさなどを、年齢が高い子どもたちへは気 分の落ち込みや意欲の低下を中心に、心の状態を調べ た。その結果、既出の調査結果と同様に、やや情緒的な 不安定さがみられたものの、個人差が大きい結果となっ た。そこで、私が関係していた学校では、養護教諭と SCで調査結果の分析を行い、気になる児童生徒をピッ クアップし、担任との個別面談を実施した。その後、さ らに問題があると判断された子どもにはSCが追加面談 を行うこととした。 災害時に我々が最も気になることは、誰にでも生じる 心の変化を隅に追いやらず、安心できる関係の中で徐々 に解けているだろうかという点である。感じているもの を感じていないことにしたり、安心できない場所で曝さ れたりするような経験は、心に傷を残すことがある。そ のため、早くから関係を築き、必要に応じて子どもたち の心に耳を傾けるよう心掛けたい。こうした心理的支援 を中心とした取組は、今後も継続されていくべきだろ う。一方で、新たな問題も立ち現れてくるように思う。 心の問題は、少し遅れて身体の問題となって現れる。心 が抱えきれなくなった荷物を、身体が引き受けるのであ る。そのため、今後は不眠や食欲不振、頭痛、衝動行動 などといった「見える」形の心の不調が増えてくると予 図3 分散登校開始時の相談室だより 図4 災害時の心の変化 137

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想される。実際、夏休み以降、行動化や身体化を伴った 相談が増えているように思う。感染拡大の影響は、これ からもしばらく表現を変えて立ち現れ続けるだろう。今 後は、今・ここで生じる問題に適切に対処しつつ変化に も対応できる柔軟な支援が求められると考える。 Ⅳ まとめ 未曽有の事態が長期間続くこの状況の下、多くの教職 員が、自身の心身のキャパシティを超えた張り詰めた気 持ちで校務に従事されていることだろう。特に、介護や 育児を担う世代の方々の疲労はいかばかりかと思う。 大規模な災害や緊急事態が生じたとき、私たちは支援 者である前に当事者になる。今回の新型コロナウイルス 感染拡大において、学校で働く教職員には、まず自分自 身がストレスに曝されている立場であることを忘れない でいただきたいと思う。当事者であり支援者である際、 一番難しいことは、自分も不安だと認め、不安を抱えな がら日々の仕事にあたることである。不安を前にして現 実を見ないようにするのではなく、現実を現実として受 け止めること。また、その状況に対する自分の気持ちを 意識的しながらも日々をこなすことが求められる。加え て、今、我々に求められていることは、火事場の馬鹿力 的な対応ではなく、長期的なストレスへの持続可能な対 応であることも心にとめておきたい。可能な限り無理を しすぎず、適度に休み、自分の心の余力を使い切らない ような工夫が必要である。そのためには、決して問題を 一人で抱え込まないことが肝要だ。同僚と協力し合う、 わからないことや気になることはとにかく相談してみ る。互いに荷物を持ち合おうとする「チーム学校」とし ての《協働の姿勢》こそが、今まで以上に求められてい ると感じる。「ストレスへの反応を、出ないようにする のではなく、安心して出せるようにする」。これは、災 害支援の基本とされる。このことを心にとめて、皆さん との信頼関係の中で共にこの困難に向き合っていけたら と考えている。 引用文献 1)国立成育医療研究センター:コロナ×子どもアンケート 第 2回調査報告書、2020 https://www.ncchd.go.jp/center/activity/ covid19_ kodomo / report / CxC2_ finrepo _20200817_3MH. pdf (2020年9月18日にアクセス) 2)日本赤十字社:新型コロナウィルスの3つの顔を知ろう!∼ 負のスパイラルを断ち切るために∼、2020 http://www.jrc.or. jp/activity/saigai/news/pdf/211841aef4c361410eca0f659d2f1e 2037c5268c.pdf(2020年9月18日にアクセス) 3)菅野純:教師のためのカウンセリングワークブック、38-48、 金子書房、東京、1999 4)南隆男、稲葉照英、浦光博:「ソーシャル・サポート」研究の 現状と課題、哲學、85、109―149、1987 5)石本雄真、山根隆宏、小林勝年:新型コロナウイルスの感染 拡大予防のための一斉休校が子どものメンタルヘルスに与える 影響―感染が確認されていなかった地域における中学校での検 討―、日本心理学会第84回大会、2020 6)日本心理臨床学会:コミュニティの危機とこころのケア(日 本心理臨床学 会・支 援 活 動 委 員 会)、2020 http://www.ajcp. info/heart311/(2020年9月18日にアクセス) 7)金吉晴編:心的トラウマの理解とケア、外傷ストレス関連障 害に関する研究会、じほう社、東京、2006 138

参照

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