小学生の援助要請意図に対する親の知覚に関する探索的検討 : 援助要請感受性の概念化の試み
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第 6 5巻 第 1号 J o u r n a lo fHokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n( E d u c a t i o n l Vo . l6 5 .No. l. 平成 2 6年 8 月. Augus . t2014. 小学生の援助要請意図に対する親の知覚に関する探索的検討 援助要請感受性の概念化の試み. 本田真大・本田泰代*. 北海道教育大学函館校,心理学教室 *幽館大学. E x p l o r a t o r yStudyo fParent 'sP e r c e p t i o nf o rC h i l d ' sI n t e n t i o nt oSeekH e l p : TheConcepto fH e l p S e e k i n gS e n s i t i v i t y HONDAMasahiroandHONDAYasuyo*. Departmento fE d u c a t i o n .HakodateCampus.HokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n * H a k o d a t eU n i v e r s i t y. ABSTRACT Thepurposeo ft h i sstudyi st oexaminet h econcepto f“h e l p s e e k i n gs e n s i t i v i t y "o f mothersr e l a t i n gt ot h e i rc h i l d ' si n t e n t i o nt os e e kh e l p .Thep a r t i c i p a n t swere7 5p a r e n t s whowereb r i n g i n gupe l e m e n t a r ys c h o o lc h i l d r e n .Theywerea s k e dt oc o m p l e t eaq u e s t i o n 8 sub-concepts r e l a t i n gt o “increasing n a i r e . As the r e s u l t s, there were 1 h a n g i n gr e s p o n s e st ot h es t i m u l u sa b o u ts c h o o l l i f e,"“i n a g g r e s s i v e / o f f s p r i n gb e h a v i o r s,"“ c n c r e a s i n gs o c i a lw i t h d r a w a lb e h a v i o r s,"“ c h a n g i n go fmenc r e a s i n gdependentb e h a v i o r s,"“ i "a nd“c h a n g i n go fneedst oi n t e r p e r s o n a lr e l a t i o n s h i p s . "Thei m t a landp h y s i c a lr e s p o n s e s,. p l i c a t i o n so ft h i ss t u d ya r ed i s c u s s e d, KeyWo r d s:h e l p s e e k i n gs e n s i t i v i t y,p a r e n t,e l e m e n t a r ys c h o o lc h i l d. 問題と目的. フォーマルまたはインフォーマルなサポート資源 に援助を求めること」と定義されている. 悩みを相談するという現象は援助要請行動. ( S r e b n i k,Cause,& Baydar,1 9 9 6 )。 そ し て , 援. ( h e l p s e e k i n gb e h a v i o r )として研究されている。. 助要請に関する概念には実際に援助を求める行動. 援助要請行動とは,「情動的または行動的問題を. である援助要請行動,意思決定の程度を尋ねる援. 解決する目的でメンタルヘルスサービスや他の. 助要請意図や援助要請意志,援助要請に対する肯. 1 6 7.
(3) 本田真大・本田泰代. 定的・否定的態度である援助要請態度,より広範. 検討課題であると言える。そこで本研究では,こ. な概念である被援助志向性などがある(本田・新. れまでの援助要請研究の焦点が援助を求める個人. 井・石隈, 2011)。. にあったのに対し,「援助を求める個人の周囲の. 援助要請研究には大きく 2つの方向性がある。. 1つは個人が一人で解決することが困難な悩みや. 他者」に焦点を当てる。 「周囲の他者の気づき」に関する研究として,. 問題状況に遭遇してから援助要請行動を行うまで. 対人関係やコミュニケーションに関する感受性の. の過程に関する研究であり,「人はなぜ援助を求. 9 1 ) は大学生 研究が挙げられる。例えば和田(19. めないのか?Jという問題意識を扱う研究である。. を対象にノンパーパルコミュニケーションの観点. もう 1つは援助要請行動を実行してからその後の. から感受性を検討し,ノンバーパル感受性を「相. 結果(個人の精神的健康など)への影響過程に関. 手が何を伝えたいのか,あるいはどのような感情. する研究であり,「人はどのように援助を求める. 状態にいるのかを読み取る能力」としている。ノ. と健康になるのか?J という問題意識を扱う研究. ンパーパルスキル尺度の下位尺度である「ノン. である。前者の研究は援助要請態度,援助要請意. パーパル感受性」は,「私ほど敏感に人の何気な. 図,援助要請意志,援助要請行動,被援助志向性. い行動の意味を理解できる人はいない J, i他人同. などの概念を中心に非常に多く行われている一方. 士の会話のやり取りを見て,その人たちの性格を. で,後者の研究はまだ少ない。しかし,少ないな. いつも間違えることなく話すことができる」など. がらも援助要請行動後の認知的要因としての援助. 9 9 2 )。そして, の項目で構成されている(和田, 1. 評価(本田・新井, 2008;本田・石隈, 2008),. ノンパーパル感受性の高さとソーシャルスキル. 援助要請行動の質的側面を取り上げた援助要請ス. 9 9 2 ),充実感(和田, 2 0 0 3 ),の聞に正 (和田, 1. キル(本田・新井・石隈, 2010) など,様々な概. の関連があり,抑うつ(和田, 2003) との聞に負. 念によって援助要請行動が個人の精神的健康や獲. 2 0 0 0 ) の関連が認められている。また,本多・桜井 (. 得できるソーシャルサポートなどに与える影響が. は拒否に対する感受性 ( r e je c t i o ns e n s it iv it y )に. 実証されている。そして,これまでの援助要請研. ついて検討している。拒否に対する感受性とは「拒. 究は援助を受ける個人の心理に焦点を当てて,一. 否される可能性のある状況で,拒否されるのでは. 人で解決できない問題状況においても援助を求め. ないかと案じる傾向」であり,「拒否されること. ない個人が援助を求めやすくすることと,援助要. を予期しやすく,拒否されることに対しておおげ. 請行動への抵抗に配慮した援助方法を開発するこ. さに振る舞う傾向」と定義されるように,過剰に. とという 2つの方向性から(水野・石隈・田村,. 気にする傾向をとらえた概念である(本多・桜井,. 2 0 0 6 ),実生活上の実践へのアプローチを模索し. 2 0 0 0 )。尺度上は,仮想的な対人依頼場面を提示し,. ている。. 受容または拒否されることへの心配の程度と可能. 一方で,深刻な問題状況にいる個人(子どもな. 性の高さから測定される(本多・桜井, 2000)。. ど)が自ら援助を求めなくても周囲の他者(親な. これらの対人関係やコミュニケーションに関す. ど)が困難さに的確に気づいて援助することも極. る感受性の概念定義を参考に,本研究では新たに. めて重要であろう。このような援助一被援助関係. h e l p s e e k i n gs e n s i t i v i t y )J 「援助要請感受性 (. が成立すれば,非常に深刻な問題状況にいる個人. という概念を提唱し本研究における定義を「一. が援助を求めなくても必要な援助を得る可能性が. 人で解決することが困難な問題状況にいる他者. 高まると考えられる。つまり,「一人では解決困. の,明確な援助要請行動を伴わない援助要請意図. 難な状況で,援助要請意図が高いものの援助要請. に対する個人の知覚」として探索的に検討する。. 行動を実行していない個人に周囲の他者がいかに. 援助要請感受性の概念を検討するにあたり,本. 気づけるか」という点が援助要請研究上の重要な. 研究では小学生の親子関係に焦点を当てる。その. 1 6 8.
(4) 小学't.の援助要請意図に対する親の知覚に関する探索的検討. 理由として,一般に年齢が低いほど他者に明確に. した場合には具体的な関係を記述するように求め. 伝わる援助要請行動を実行すること(相手に直接,. た 。. 言葉で自分の困っていることや助けてほしいこと. ( 2 )援助要請感受性に関する質問:教示文は,「お. を伝えること,など)が困難であると考えられる. 子さんが学習や人間関係等で悩み,「自分一人で. ため,親をはじめとする周囲の大人が子どもの援. は解決が難しく,誰かに助けてほしい,手伝って. 助要請意図を知覚することの重要性が高いと考え. ほしい』という状況にいても,必ずしもお子さん. られるためである。また,たとえ子どもが自身の. の方から「助けて』等と言ってこないことがあり. 深刻な問題状況や悩み(いじめ被害,自殺企図な. ます。そのようなとき,親(保護者)としてどの. ど)を自ら相談しなくても,親が的確に気づくこ. ような点から子どもの「助けてほしい気持ち」に. とで問題状況の深刻化を予防する一助となること. 気づきますか?どのようなことでも結構ですの. が期待される。さらに,. 悩みを相談できる友人. で,ご自由にお書きください。」であり,自由記. がいない子どもの存在が明らかにされている。ベ. 述形式で回答を求めた。また,記述欄の 1つ 1つ. ネッセ教育総合研究所 (2010) が小学 4~6 年生. に対して,子どもの学年(1年生 ~6 年生)と性. の男子 1 8 1 4 名,女子 1 7 4 5名に実施した実態調査の. 別(男,女)について当てはまるもの 1つずつに. 中で,「日頃良く話す,一緒に遊ぶ友達」が「い. Oをつけてもらった。. ない」と回答した子どもは男子では1.6%,女子 では 1.3%であった。つまり,ほとんどすべての 子どもが 1人以上は友達が「いる」と回答してい た。しかし,「悩みごとを相談できる友達」が「い. 結 果 調査対象者 7 5名のうち 6 3名(母親 5 8 名,父親 4. ない」と回答した子どもは,男子では 16.9%,女. 名,祖母 1名)から合計 1 1 9 件の回答が得られた。. 子では 8.3%であった。友人に対する被援助志向. 得られた回答の中から,問題状況自体がないこと. 性と家族に対する被援助志向性の聞に正の関連が. 1まだ悩みを自分一人で抱えた を示す記述内容 (. 0 1 1 ),友人に相 認められることから(本田他, 2. ことは一度もないように思う」など),発達段階. 談できない子どもは家族にも相談しづらさを感じ. を考慮しである程度明確な援助要請行動を含むと. る可能性がある。 以上の理由から,小学生の親子. 考えられる記述内容 ( 1ゆっくりお風日に入りな. 関係における援助要請感受性を研究することは特. がら,子どもからお話してくれることが多い」な. に意義があると考えられる。. どの子どもが匝接言葉で援助を求めることを意味. よって本研究では,小学生とその親の関係性に. する内容の記述),親自身が直接言葉で表現する. おける援助要請感受性について探索的に検討する. 1r 今,学校でどう?J と聞 ことを促す記述内容 (. ことを目的とする。. いてみると自分の思っていることなどを話してく れる」など),単語のみの表現で意味を解釈しづ 1 寝言」など),母親と父親以外の らい記述内容 (. 方 法. 回答者(祖母 1名の記述)の合計 1 3件を分析から. 調査対象者:北海道の公立小学校 4校に通う小学. 0 6件を分析対象とし,類似した 除外し,残りの 1. 0 1 3年度に各学校において実 生の保護者のうち, 2. 2名(母親 5 8 内容ごとに分類した。分析対象者は 6. 施された第 1著者を講師とする PTA対象の講演. 名,父親 4名)であり,. 5名が対象とされた。 会に参加した保護者 7. j:~11直は1. 7H牛であった。. 調査内容:( 1 ) 子どもとの関係. 1人当たりの記述数の平. 11 母親J, 12. 分類は小学生を含む子どもと親を対象とした臨. :父親J, 13 その他」から当てはまる数字 1つ. 床経験を有する 2名の心理学の専門家の話し合い. を選択するように求めた。 13 その他」を選択. によって行われた。分類方法として,同様の意味. 1 6 9.
(5) 本田真大・本田泰代 Table 1 小学生の親の援助要請感受性に関する記述内容の分類. 大カテゴリー. 記述数. 名称. (回答率). 攻撃的・反抗的行 動の増加. 小カテゴリー 名称. 攻撃行動 4 1 .94% 機嫌の悪さ 言動の乱暴さ 2 6. 指示を聞かない様 f 学校関連刺激への 2 0 下校時の様子 反応の変化 3 2 . 2 6 % な校・下校の遅延 学校の話題の回避 欠席願望の表明 甘え行動の増加 2 0 甘え行動 3 2 . 2 6 % 気づいてもらいたい様子 1 8 発話の減少 引っ込み思案行動 2 9 . 0 3 % 元気がない様子 の増加 疲労の表明 心身の反応の変化. 注意集中困難 1 9 . 3 5 % 表情の変化. 記述数. 記述例. 9. いつもは一人で読書でのんびり過ごしているのにきょうだいと衝突しやすい. 8. とにかく機嫌が悪い 言葉(会話の巾で)がきっくなる. 4. 言うことを全くきかない 帰宅後の玄関先での「ただいま」の声に冗気がないとき. 1 1 4 3 2 1 1. 3. 1 2. 4. 身体の不調 対人関係希求の変 1 0 対人関係からの回避 1 6 . 1 3 % 対人関係への接近 ヒ イ. 3. 5 7 3. 下校に時間がかかる 学校の話をすると嫌な顔をして話をしない めったに学校を休まないのに「今日は休みたいな・・・」とぽつりと言った いつもはあまり近寄ってこないが,膝の上に座ってきたりする 親の顔を見ながらどこかこわばった感じで何回も見てくる いつもは良く喋るのにあまり喋らなくなる いつもにぎやかなのにどことなく大人しい 「疲れたー」と何度も青う 食事に集中できなくなる 表情が変わる お腹が頻繁に痛くなる いつも遊んでいた友だちと遊ばずに家にいることが多くなった 勉強するときは自分の部序でしなさいと言うが,皆がいる居間でやりたがる. を示す記述内容ごとに小カテゴリーを作成した. 小カテゴリーが含まれた。最後に,「対人関係希. 後,内容の類似性からそれらを包括する大カテゴ. 0 件の記述があり, 求の変化」の大カテゴリーには 1. リーを作成した。最終的なカテゴリーと記述例を. 「対人関係からの回避」と「対人関係への接近」. T a b l e1に示した。 得られた大カテゴリーは 6つであった。まず, 「攻撃的・反抗的行動の増加」の大カテゴリーに. の 2つの小カテゴリーが含まれた。なお,子ども の学年と性別ごとの大カテゴリーに該当する記述 数を. T a b l e2, T a b l e3に示した。. は2 6件の記述があり,「攻撃行動 J,l'機嫌の悪さ J, 「言動の乱暴さ J,l'指示を聞かない様子」の 4つ. 考. の小カテゴリーが含まれた。「学校関連刺激への. 0 件の記述があ 反応の変イヒ」の大カテゴリーには 2. 察. 本研究のまとめ. り,「下校時の様子 J, l'登校・下校の遅延J, l ' 学. 本研究の目的は親子関係における援助要請感受. 校の話題の回避J,l'欠席願望の表明」の 4つの小. 性を探索的に検討することであった。小学生の親. カテゴリーが含まれた。「甘え行動の増加」の大. を対象とした自由記述調査の結果,援助要請感受. カテゴリーには 2 0件の記述があり,「甘え行動」. 性を現す記述内容として 1 8 個の小カテゴリーが得. と「気づいてもらいたい様子」の 2つの小カテゴ. られ,それらが 6つの大カテゴリーに分類された。. リーが含まれた。「ヲ│っ込み思案行動の増加」の. 得られたカテゴリーの多くは普段の子どもの様子. 大カテゴリーには 1 8件の記述があり,「発話の減. や心身の反応との違い,すなわち個人内差に気づ. 少J,l'元気がない様子 J,l'疲労の表明」の 3つの. く視点として読み取ることができょう。石隈. 小カテゴリーが含まれた。「心身の反応の変イ七」. ( 1999) は子どもの問題状況に対する援助におい. 2件の記述があり,「注意集 の大カテゴリーには 1. て,子どもの個人内差に焦点を当てて自助資源を. 中困難 J,l'身体の不調 J,l'表情の変イヒ」の 3つの. アセスメントすることの重要性を述べている。本. 1 7 0.
(6) 小学't.の援助要請意図に対する親の知覚に関する探索的検討 Table 2 子どもの学年別の援助要請感受性に関する記述数. 大カテゴリー. 記述数. 1年生. 名称. 3年生. 2年生. 4年生. 5年生. 6年生. 3. 攻撃的・反抗的行動の増加. 6. 6. 2. 3. 4. 学校関連刺激への反応の変化. 3. 4. 4. 3. 4. 甘え行動の増加. 8. 2. 4. 3. 3. 引っ込み思案行動の増加. 3. 3. 3. 2. 心身の反応の変化. 2. 。. 2. 2. 2. 対人関係希求の変化. 2. 1. 1. 1. 4. 6. 不明. 。 。 。 。 。 。 2. 2. 1. 4. 1. Table 3 子どもの性別ごとの援助要請感受性に関する記述数. 大カテゴリー. 記述数 男児. 女児. 攻撃的・反抗的行動の増加. 9. 1 7. 学校関連刺激への反応の変化. 1 0. 1 0. 甘え行動の増加. 9. 1 1. 引っ込み思案行動の増加. 8. 1 0. 心身の反応の変化. 5. 7. 対人関係希求の変化. 2. 8. 名称. 子どもの援助要請意図 あり. ②. ①. 【過少な援助要請感受性】 子どもの援助要請意図 に気づいていない. 子どもに援助要請意図 があることを的確に とらえている 親の知覚 あり. なし. ③. ④. 子どもに援助要請意図 がないことを的確に とらえている. 【過剰な援助要請感受性】 子どもの援助要請意図 を誤って知覚している. なし Figure 1 子どもの援助要請意図と親の知覚の組み合わせ. 研究の結果を踏まえると,子どもの個人内差に焦. さらに小学生のストレス反応として不機嫌・怒. 点、を当てることは子どもの自助資源を発見するの. り,不安・抑うつ,無気力,身体的反応が見出さ. みでなく,援助要請意図に気づく上でも重要であ. 9 9 8 ), 小 学 生 に と っ て 学 校 生 れており(嶋田, 1. ると言える。. 活がストレッサーとなりうることから(嶋田,. 1 7 1.
(7) 本田真大・本田泰代. 1 9 9 8 ),本研究で得られた「攻撃的・反抗的行動. ら援助を求めなかった子どもの援助要請意図に親. の増力し,「ヲ│っ込み思案行動の増加 J,1"心身の反. が気づいた際の様子を回顧法によって尋ねる研究. 応の変化J,1"学校関連刺激への反応の変イヒ」は学. ( F i g u r e 1の①の領域)や,子どもを対象に「親. 校ストレッサーに対するストレス反応と関連する. が子ども自身の援助要請意図に的確に気づいてい. と考えられる。加えて「甘え行動の増加」は,小. るか」という点から検討する研究 ( F i g u r e 1の①. 学生の心理的危機時には一時的な退行現象などが. と②の領域)も有益であろう。. みられ得ることと類似していた(窪田・林・向. 第 2に,類縁概念との整理が不可欠である。本. 笠・浦田・福岡県臨床心理士会, 2005;静岡県臨. 研究では「援助を求める個人の周囲の他者」に焦. 床心理士会・被災者支援委員会ハンドブック作成. 点を当てているが,これは既存の援助行動研究や. 0 1 0 )。これらのことから, ワーキング・グループ, 2. ソーシャルサポート研究の枠組みでとらえること. 親の援助要請感受性は子どもの日常的なストレス. ができる。他者の援助要請意図を知覚することは. 反応や心理的危機時の子どもの反応に関する視点. 援助行動を実行する際の 1つのきっかけとなる可. と共通する部分が多いと考えられる。. 能性が高い。そのため援助要請感受性は援助行動. 援助要請感受性概念の精撤化に向けた検討点. の生起に影響を与えるー要因として理論的に位置. 本研究の結果を踏まえ,特に親子関係における. 付けることができるかもしれない。. 援助要請感受性の点から今後の検討点を考察す. これら 2点から援助要請感受性の概念を精轍に. る。第 1に,援助要請意図の存在を考慮する必要. とらえるとともに,今後の研究の方向性として以. がある。本研究で検討した子どもの援助要請意図. 下の 3点を述べる。まず,援助要請感受性の尺度. に対する親の知覚について理論的に考えると,子. 化である。その際には,日本語版拒否に対する感. どもの援助要請意図の有無と親が知覚する子ども. 受性尺度(本多・桜井, 2 0 0 0 ) の作成方法も参考. の援助要請意図の有無の組み合わせによって 4つ. になるであろう。. のパターンが想定される ( F i g u r e 1 )。具体的には,. 次に,援助要請感受性の関連要因の検討である。. 子どもが本当に援助を求めたいときに親が的確に. 親が子どもの援助要請意図を的確に読み取ること. 気づいている場合と,子どもに援助要請意図がな. ができるか,あるいは過少,過剰に知覚している. いにも関わらず親が過剰に援助要請意図を知覚し. かという点は親の養育態度や育児不安,または親. ている場合,さらに,子どもに援助要請意図がな. 自身のアタッチメントなどとの関連も考えられ. く親もその意図を感じていない場合と,子どもが. る。特にアタッチメントとの関連について,大学. 援助を求めたいにも関わらず親が気づかない場合. 生を対象とした研究では,援助要請感受性と関連. の 4つである。. すると考えられるノンパーパル感受性(和田,. 本研究では親のみに調査を実施したため,親が. 1 9 9 1, 1 9 9 2,2 0 0 3 ) は青年期のアタッチメントス. 子どもの援助要請意図を知覚するきっかけとなる. タイルと一定の関連を示すことが明らかにされて. 出来事や子どもの様子が明らかにされた一方で,. 0 0 5 )。これらの関連要因の検討は いる(金政, 2. 実際に分類された結果の中には子どもに援助要請. 援助要請感受性と既存の類縁概念との整理を行い. 意図がある場合 ( F i g u r e 1の①の領域)とない場. つつ,仮説検証的に実証される必要があろう。. 合 ( F i g u r e 1の④の領域)の両方が含まれている. 最後に,援助を求めようとする個人(本研究に. 可能性がある。最適な水準の援助要請感受性とは,. おいては子ども)の抱える問題状況や悩みの深刻. F i g u r e 1の①と③の領域を過不足なく含み,②と. さの程度を援助要請感受性と併せて検討する必要. ④の領域を含まない状態であると理論上は考えら. がある。本研究においては援助要請感受性の定義. れる。それらの領域をとらえるためには,問題状. ならびに自由記述調査の教示文において,「一人. 況の内容を特定した上で(いじめ被害など),白. で解決することが困難な問題状況であること」を. 1 7 2.
(8) 小学't.の援助要請意図に対する親の知覚に関する探索的検討. 明示した。しかし,実際の日常生活において子ど もの援助要請意図を親が知覚した場合には,子ど もの悩みや問題状況自体が一人で解決できないほ ど深刻で、ある場合もあれば,親から見れば子ども 自身の能力で解決可能であると思われる場合もあ ると想定される。これらの点を踏まえると,親が 子どもの援助要請意図を知覚した後,子どもを心. 本田真大・新井邦二郎・石限利紀 ( 2 0 1 1 ).中学生の友人, 教師,家族に対する被援助志向性尺度の作成. カウン. セリング研究, 4 4,2 5 4 2 6 3 . 本田真大・石隈利紀 ( 2 0 0 8 ).中学生の援助に対する評価 尺度(援助評価尺度)の作成. 8,. 学校心理学研究. 2 9 4 0 . 石限利紀 ( 1 9 9 9 ). 学 校 心 理 学 誠 信 書 房. 2 0 0 5 ).青年期の愛着スタイルと感情の調節と 金政祐司 ( 感受性ならびに対人ストレスコーピングとの関連. 幼. 配して受容的に関わることで子どもの援助要請行. 児期と青年期の愛着スタイル聞の概念的一貫性につい. 動を引き出そうとする場合や,反対に子どもが自. ての検討パーソナリテイ研究, 1 4, 11 6 .. 分から問題状況に対処していく過程を見るため に,子どもの援助要請意図に気づきつつも敢えて. 窪田由紀・林幹男・向笠辛子・浦田英範・福岡県ム臨床心 理士会 ( 2 0 0 5 ).学校コミュニティへの緊急、支援の子引. き 金剛出版. 早急な援助は控えて子どもの様子を見守ろうとす. 水野治久・石限利紀・田村修一 ( 2 0 0 6 ).巾学生を取り巻. る場合などが想定される。このような援助要請感. くヘルパーに対する被援助志向性に関する研究学校. 受性とその後の対人行動との関連を検討すること も今後の検討課題の 1っと言える。 本研究の限界と課題. 心理学の視点から. 9, 1 7 2 7 . カウンセリング研究, 3. 嶋田洋徳 ( 1 9 9 8 ).小中学生の心理的ストレスと学校不適 応に関する研究風間書房 静岡県臨床心理士会・被災者支援委員会ハンドブック作. まず,調査対象者を増やし,学年と性別ごとに 分析することで,子どもの発達段階に応じた親の 援助要請感受性の傾向,及び両親の性別と子ども の性別の組み合わせによる援助要請感受性の違い などが統計的な分析によって明確になると期待さ れる。次に,本研究の調査対象者はほとんどが母 親であった。そのため子どもの帰宅時の様子など. 2 0 1 0 ).学校現場・養護教諭 成ワーキング・グループ ( のための災害後のこころのケアハンドブック. 静岡大. 学防災総合センター. S r e b n i k, D .,Cause,AM.& Baydar, N .( 19 9 6 ). H e l p s e e k i n g pathwaysf o rc h i l d r e nandAdolescents.J ournal01 1 0 2 2 0 . E m o t i o n a landB e h a v i o r a lD i s o r d e r s,4,2 和田実(19 9 1 ).対人的有能性に関する研究. ノンバーバ. ルスキル尺度およびソーシャルスキル尺度の作成. 実. 験社会心理学研究, 3 1,4 9 5 9 .. に関する記述内容が得られたが,父親を対象とし. 和田実(19 9 2 ).ノンバーパルスキルおよびソーシャルス. た研究では異なる記述内容が得られる可能性があ. キ ル 尺 度 の 改 訂 東 京 学 芸 大 学 紀 要 第 1部 門 教 育. る。今後は父親など母親以外の家族,そして教師 などの援助者を対象とした援助要請感受性の研究 知見の蓄積も求められよう。. 科学, 4 3, 1 2 3 1 3 6 . 和田実 ( 2 0 0 3 ) . 社会的スキルとノンパーパルスキルの自 他認知と心理的適応との関係. カウンセリング研究,. 3 6,2 4 6 2 5 6 .. (本田真大北海道教育大学函館校講師). 引用文献. (本田泰代函館大学カウンセラー) ベネッセ教育総合研究所 ( 2 0 1 0 ).第 2因子ども生活実態 基本調査報告書. ベネッセ教育総合研究所. 〈 命 h t 壮t p : / / b 】光 E 臼旧 r d . b e 印n e 目s s 託E ι . 卯/ 恥 be r 氏 吋 d 必 /c e 印n t 民e r 勾 / ope 印n 々 /r e 叩p o 町r t ν / 凶 k E ω o 由 d O. ∞. mo 凶s e 臼i k a 抗t ud 由a t a / σ / 2 00 9 / i n 配 de x . 加 h 吐 1t m l 心 > ( 2 0 1 4年 3月3 0日) 本多潤子・桜井茂男 ( 2 0 0 0 ).日本語版拒存に対する感受 性尺度の作成. 筑波大学心理学研究, 2 2, 1 7 5 1 8 2 .. 本田真大・新 ) 1 :邦二郎 ( 2 0 0 8 ) . 中学生の悩みの経験,援 助要請行動,援助に対する評価(援助評価)が学校適 応に与える影響. 学校心理学研究,. 8,4 9 5 8 .. 本田真大・新井邦二郎・石隈利紀 ( 2 0 1 0 ).援助要請スキ ル尺度の作成. 学校心理学研究, 1 0, 3 3 4 0 .. 1 7 3.
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