粒子間液架橋付着力が粒状体の強度特性に及ぼす影響
筑波大学大学院 学生会員 ○グエン ホアン ロン 筑波大学大学院 国際会員 松島 亘志
筑波大学大学院 国際会員 山田 恭央
Ⅰ.まえがき
表面の滑らかな粒状体の 2 粒子間における液架橋の形成メカニズム、およびそれによって発生した液架橋付着力 の特性については、遠藤ら(1992、1993)によって精緻な検討が行われている。しかし、液架橋付着力が不飽和土な どマクロスケールの粒状体の力学特性に及ぼす影響については、粒子の形状や堆積構造などの因子も考慮しなけれ ばならず、まだ検討の余地が多く残されている。そこで、本研究では不飽和な土質材料中の水が、液架橋を通して 粘着力に及ぼす影響を理論的に解析するとともに実験によって調べることを目指している。降雨および地下水位の 上昇による地すべりなど多くの土砂災害の予測には、不飽和土の力学特性の解明が不可欠であり、この研究は予測 精度の向上に寄与するものと考えられる。
Ⅱ.粒子間付着力に関する理論
遠藤ら(1993)によると粒子間に形成された液架橋の形状を円弧で近似し、粒子間距離H = 0と仮定すると粒子間
液架橋付着力FLは粒子の半径r0と液架橋体積(0 < v < πr03/2)との関数として次のように与えられる。
(1)
ここに、σ は液架橋の表面張力、25°Cにおける水の表面張力σは0.0072 (N/m)である。
次に、粒状体材料中の水分が粒子の全接触点において均等に分配されると仮定し、液架橋体積vを飽和度Srおよ び間隙比eで表し、かつSmithら(1929)の球形粒子に対する配位数理論を適用すると、液架橋付着力FL (N) は次式 で示せる。
(N) (2)
さらに、液架橋付着力が粒子の一接触点ごと、つまり一個の粒子が占める断面積D2ごとに働くと考えると、液架 橋付着力により発生した粘着力cは次式で与えられる。
(Pa) (3)
なお、粘着力cと粒状体の限界自立高さHcの関係は粘着力がある場合のRankine土圧式 (m) (4)
によって表せる。式(2)および式(3)の適用性を明らかにするために、円筒容器の引き抜き試験を行い、試験から得ら れる実測限界自立高さを上記の式(4)による理論限界自立高さと比較し、液架橋付着力の理論的解析を評価してみた。
Ⅲ.円筒容器の引き抜き試験
引き抜き試験は室温25°C、一定の湿度で、平均粒径0.513mm、1.015mm、1.7mmの3種類の球形等径ガラスビー ズを用いて実施した。まず、所定の飽和度をもつ試料を作成するために、乾燥したガラスビーズに必要な水分を霧 吹きで加えて均一になるように十分に混ぜる。次に、この試料をプラスチック板に載せた中空円柱のアクリル容器 に入れ、アクリル棒で密に突き固める。この状態から、円筒容器をゆっくり引き上げると、中に詰めてあった試料 は図2、図3に示すように、崩れるかあるいは自立する。供試体の高さを1cmずつ変えて実験を繰返すと、自立と 崩壊の境界にあたる限界自立高さを求めることができる。各種ガラスビーズに対し、4 ~ 6種の異なる飽和度で試 験を行い、粒径と飽和度の影響を調べた。
πDσ e e
e FL 4 Sr
) 739 . 10 754 . 15 )(
1 ( 1 300
( − + −
=
D e e
e S
D
c FL r πσ
−
− +
=
= 2 4
) 739 . 10 754 . 15 )(
1 ( 1 300
2) 45
4 tan( φ
γ °+
=
t
c c
H
σ π π 0
4 3
0
2 ) 2
( r
r FL= − v
図1:等径球2粒子間に形成された液架橋
H
r0 D (=2r0)
液架橋
粒子 粒子
1 mm
顕微鏡に よる写真
模型 土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
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Ⅲ‑093
Ⅳ.試験結果および考察
図3を見て分かるように、粒径が大きくなるほど自立高さは小さくなり、理論値の傾向とも一致している。しか し図4に注目するとD = 0.513 mmの試料については、飽和度の高い領域では実験値は理論値と比較的よい一致を 示すが、低い領域では理論値とは逆に飽和度が小さい程自立高さが小さくなり、最大自立高さは飽和度50%付近で 得られる。これと同様の傾向はD = 1.015 mmおよびD = 1.7 mmの試料についても認められた。理論値と実験値 の差を生じた主な原因は、理論式で仮定している条件が実際と異なっているためと考えられる。即ち、理論式では 粒子は規則的に配列し、かつすべての接触点に等しい水分が分配されると仮定しているのに対し、不飽和の状態の ガラスビーズ試料の顕微鏡写真(図 6)に見られるように、実際の粒子はランダムな配列をしており、間隙水は接触 点のみならず接触していない近傍粒子間にも付着している。このため式(2)および式(3)をそのまま適用するには無理 があると言わざるを得ない。理論と実験の差を縮めるためには、50%より小さい飽和度の領域において、粒子間距 離Hの影響を考慮する必要があると考えられる。
Ⅴ.結論
1. 円筒容器の引き抜き試験での限界自立高さは、粒径が大きくなるほど小さくなる。この傾向は理論自立高さと 一致した。
2. 粒径を一定とし、飽和度を変化させて行った円筒容器の引き抜き試験では、理論と違って飽和度50%付近で限 界自立高さが最大となる結果が得られた。この違いは、実際の粒子が様々な距離に離れ、かつ間隙水が接触し ていない近傍粒子間でも形成されることが原因であると考えられる。
3. 現在の理論式は 50%より大きい飽和度をもつ試料にのみ適用できる。DEM(個別要素法)解析などにより粒 子間距離Hの頻度分布を調べ、50%より小さい飽和度に対応できる理論式を求める必要がある。
参考文献
1. W. O. Smith, Paul D. Foote and P. F. Busang: 「Packing of homogeneous spheres」, 1929.
2. 向阪保雄、遠藤禎行および西江恭延:「2粒子間に形成される液架橋現象の理論解析-液中に不純物を含まない 理想的な系-」、1992.
3. 遠藤禎行、向阪保雄、および西江恭延:「2粒子間に形成される液架橋現象-液中に不純物を含む現実的な系-」、
1992.
4. 遠藤禎行、向阪保雄、および石井真由美:「異径2粒子間に形成される液架橋現象とその付着力の解析」、1993.
5. 戸田研吾:「粒状体のせん断特性に及ぼす粒径および粒度分布の影響」、筑波大学大学院修士論文、2005.
6. 河上房義:「土質力学」、森北出版社、2001.
7. 不飽和地盤の挙動と評価、社団法人地盤工学会、2004.
8. 遠藤茂寿:「第1巻粉体の基礎物性」、日刊工業新聞社、2005.
キーワード:液架橋付着力、粘着力、Rankine土圧式、ガラスビーズ、引き抜き試験 住所:茨城県筑波市天王台1-1-1筑波大学大学院 TEL:029-853-5138
図2:引き抜き試験において崩れたケース 図3:引き抜き試験において自立したケース
引 抜 前
引 抜 後
図5:D1.7mmの 飽和度と自立高さの関係
図4:飽和度66%の
粒径と自立高さの関係 引
抜 前
図6:顕微鏡による
小飽和度D0.531mmの写真
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 3
4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
自立高さ(cm)
粒径(mm)
理論値 試験値
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
2 3 4 5 6
自立高さ(cm)
飽和度(%)
理論値 試験値
引 抜 後
土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
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