︿論説﹀
ア メ リ カ 水 法 に お け る 地 下 水 の 利 用 ル ー ル
宮 暗 淳
第 第 第 第 第
五 四 第 第 第 第 三 ニ ー 章 章 四 三 ニ ー 章 章 章
節 節 節 節 目
次
はじめに
地下水の法的分類の意義
コモン・ローにおける地下水の利用ルール
絶対的所有権のルール
合理的利用のルール
相関権のルール
不法行為法リステイトメント(第二版)八五八条
専用主義のもとにおける地下水の利用ルール
結び
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第一章はじめに
アメリカ合衆国において︑地下水は国内の淡水供給量の二二%を占めている︒また︑約二分の一の人口が飲料用水
ハユ の主要な供給源として地下水に依存している現状にある︒地下水が利用されるのは︑地表水の供給量が需要量に満た
ない場合や供給される地表水が水質汚濁されている場合等であるが︑水不足のときに地表水供給の予備としての役割
も担っている︒このように重要な機能を果たしている地下水資源について︑将来の減少が危惧されている︒
地下水の利用ルールの主要な問題点として︑地表水と地下水についての統合管理の必要性︑帯水層の地下水の減少
および地下水の水質悪化が指摘されてから久しい︒これらについて︑様々な視点から議論され︑施策がなされてきた
が︑時とともに問題の取り上げられ方や議論の焦点が変わってはきているものの︑依然としてこれらの本質的な課題
は残されているように思われる︒
地表水および地下水の供給が︑水文学的循環の一部分をなしていることは確かである︒地下水は地表水の重要な供
給源であるし︑また浸潤された土壌は地下水や地表水を酒養する︒しかし︑地表水および地下水の利用についてのルー
ルは︑この水循環を基礎としているわけではない︒アメリヵ法は︑地表水と地下水を伝統的に区分された供給源とし
て理解し︑相違した法的ルールを適用してきた︒この区分は︑一九世紀における地下水の水文学に関する科学的知見
の欠如にその根拠をもつ︒地下水と地表水の相関関係について︑いまだ解明されていない部分も多いとはいえ︑両者
の関係性を無視することは非科学的である︒地下水の水文学に関する基礎的原理の解明は︑効果的かつ公正な地下水
の利用ルールを発展させるためには必要不可欠である︒専門家は︑地下水と地表水の利用ルールを統合することが必
すソノ要であると以前から認識してきた︒しかし︑いかに両老の利用ルールを統合し︑水循環を法的ルールに反映させるか
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ということになると︑容易ではない︒
日本においても︑近時︑水循環型社会の構築という理念が打ち出され︑水資源をいかに有効に利用するかというこ
とが社会的に要請されてきている︒そこで︑地表水と地下水の利用ルールを水循環の視点から見直し︑両者の一体的︑
統合的な利用ルールについて考究するための基礎的研究として︑水法が発展しているアメリヵ合衆国の地表水および
ハ 地下水の利用ルールについて考察していきたい︒本稿では︑特に土地所有権との関係性に配慮しながら︑アメリヵ合
衆国の地下水の利用ルールについて取り扱うことにする︒
注
(1)︒︒碧鋤σqρ国︒びΦ憎鼠qこ.︑Oδ琶薯9興零︒けΦ&8⁝≦︒匿品を導︒暮9︒︒Q鼠εけρ︑G︒弓昌巴︒h爵Φ≦暮霞勺︒=暮δ・
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(4)アメリヵ合衆国の地表水の利用ルールについては︑拙稿﹁アメリヵ水法における地表水の利用ルール︿上)(下)﹂創価法
学二六巻一号=五頁以下︑二・三合併号=一=頁以下参照︒
第二章地下水の法的分類の意義
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アメリカ合衆国において︑地下水に関する判例は︑地下水(σQ8巷侮≦碧霞)を二つの形態に区分してきた︒その一
つは︑地下水流(巷創霞αq8巷侮︒・訂$目の)であり︑もう一つは︑浸透水(b霞8一9︒証昌σq≦掌︒8琶である︒地下水流と
は︑地下の合理的に確定しうる境界く冨塁89げぐ器8詳巴口p菖Φげo琶Ω9昌$)内を流れる水または識別されかつ明
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確な自然水脈内の一定の水流くoo霧蜜暮ω霞Φ98ぎ9ζo≦日きΩ蓄一〒創Φh厳巴口9︒εり巴o冨自Φ一)であると定義さ
ら れてきた︒また︑浸透水とは︑地下水流と認識されない地下水をいう︒
地下水が地下水流と認識されるかどうかについて判断することは︑容易でないことが多い︒そこで︑地下水は︑一
ハ 応︑浸透水であると推定され︑地下水流の存在を主張する者が︑その立証責任を負うと解されている︒
コモン・ローにおいては︑土壌中に拡散して存在する浸透水について独立した法的利益としての権利を認めていな
ムア い︒すなわち︑浸透水は土壌の単なる構成要素であり︑浸透水が土壌中に存在する限り︑地表の土地所有者がその地
表下の浸透水の所有権を有することになる︒
土地所有者は︑自分の土地に存在する浸透水は当然のことながら︑掘削やポンプの使用によって自己所有地に湧出
した浸透水をも利用することができる︒隣接地所有者にも同様のことが言え︑理論的には︑土地所有者の誰でもが︑
自己所有地の地表下の浸透水のみならず︑掘削等によって隣接地から所有地に浸透水を湧出させ︑使用することが可
能であるというのである︒このような相互の権利行使によって土地所有者が被る経済的損害は︑権利侵害なき損害
り(畠日昌g日9げωρま営﹂ξ冨)ということになり︑法的救済の対象とはならない︒
地下水流および浸透水を法的に区別する考え方は︑一九世紀半ばまでには確立された︒土地所有者は︑浸透水を無
制限に汲み上げることができるが︑地下水流を無制限に汲み上げることはできない︒地下水が地下水流と認められる
場合には︑その地下水流と接している土地の所有者は︑その地下水流を利用することによって同一地下水流から湧出
する流水が存在する土地の所有者に損害を与えてはならない︒この場合の地下水の利用については︑地表水の利用と
同様のルールが適用されるのである︒すなわち︑地下水が地下水流と認められる場合には地表水の利用ルールが適用
され︑地下水流と認められない浸透水については地下水の利用ルールに従うことになるのである︒したがって︑地下
水が地下水流か浸透水かという地下水の分類は︑それによって適用されるルールが異なるため︑規定的意味をもつの
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である︒
しかし︑ほとんどの地下水は水文学的に地表水流と関係しているのであるから︑地下水を地下水流と浸透水に分類
することは︑かえって地表水と地下水の利用の相互調整を困難にしているといえよう︒最近では︑専用主義を採用す
る法域を中心に︑地下水の形態の区分に応じて法律上の取り扱いを異にする立場を消極的に解し︑地下水流および浸
(10)透水等すべての地下水について同様の取り扱いをする傾向にある︒
なお︑本稿でいう地下水とは︑地下水の利用ルールの対象となっている浸透水をいう︒
注
(5)出9︒巻のく◆︾畠ヨ︒・藁O㊤○磁曾qど讐︒︒℃.㊤ωω(お鱒ω)●
(6)℃88<︒9旨Φざ姻︒︒≦●<9﹄⑩や認︒︒﹄●刈8(おOこ︒)・
(7)英国では︑国毬①<.芝9︒a"心国勲じσくO鱒(一◎︒毅)において︑水体は土地の土壌の一部ではないから財産権の対象となり
えないと判示された︒詳細は︑松岡勝実﹁イギリスにおける地下水利用の法律関係ーコモン・ロー上の諸原則と立法上の
制限1﹂富士大学紀要二九巻一号九九頁以下参照︒
(8)このような考え方の起源は︑英国では︑︾98<.切ぎ巳o戸一認国昌σQ・因ΦP這器(国蓉げ﹂c︒心G︒)にあり︑アメリカでは︑
OおΦ巳$h<・周冨口o昼ω伽竃9のの・(一◎︒源畠舎)一嵩(HQ︒こ︒①)に見受けられる︒
(9)≦9豊2<●切雲σq買卜︒α霊﹁総︒︒"αG︒ρ忠︾ヨ.∪①ρ"鱒二蕊親)・
(10)金沢良雄﹁アメリカ合衆国の地下水法﹂水利科学四巻二号一九頁︒
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第三章コモン・ローにおける地下水の利用ルール
第一節絶対的所有権のルール(暮︒︒o冨80≦器議竃b目三①)
絶対的所有権のルールのもとにおいては︑土地所有者は︑地表の下に存在する水について︑他の土地所有者への影
響いかんにかかわらず︑無制限に利用できる権利を有する︒当該ルールは︑﹁土地所有権者の権利は土地の上は天空
におよび土地の下は地心までおよぶ﹂という法諺や﹁地下水は土壌の構成要素である﹂という考え方を根拠にしてい
け る︒英国のルールとして知られる絶対的所有権のルールは︑一八四三年の︾08昌く.じuピ巳Φ=に遡ることができる︒
本判決は︑地下水の利用ルールについて︑土地の上に人工的に建造物が築造された場合との類似点を説示することに
よって明らかにした︒すなわち︑隣接地所有者は人工的な状態ではなく自然の状態において維持された土地を有する
権利のみをもつというのである︒また︑揚水によって損害を被った隣接地所有者に対して認められる救済方法は制限
される︒つまり︑地下水供給の侵害に対する妨害排除は認められず︑自力救済でより深い井戸を掘ることによって地
下水の供給を補うことが容認されるにすぎないのである︒
絶対的所有権のルールが確立された理由として︑土地開発の促進という政策に適していた点があげられる︒また︑
ヨ地下水に関する科学的知見の欠如から︑このようなルールが導かれたとも考えられている︒当時においては︑被告が
なした地下水の利用と原告が被った損害との間において因果関係を見出すことは困難であったに違いないからである︒
裁判所は︑地表水に関する権利について審理することは比較的簡単であったが︑地下水に関する権利について審究
することは容易ではなかった︒というのも︑地表水は可視的であるのに対して︑地下水の供給が妨害されているかど