金沢 大 学十 全 医学 会 雑誌 第1 0 3巻 第3 号 5 9 9 −6 0 9く1 9 9 41
実験 的 ラ ッ ト グ リ オ ー マ に お け る 抗 癌 剤 の 膜透 過 性 に 関 す る研 究
金 沢 大 学 医 学部 脳 神経 外科 学 講 座 く主任二山下 純 宏 教 軌
中 島 良 夫
5 9 9
悪 性 脳腫 瘍への抗 癌 剤の到達 性にほ 血液脳 関 門が大きく関 与し ている. 抗 癌 剤を脳 腫 瘍に選 択 的に送 達さ せ る た めに はt 抗 癌 剤の脳 腫 瘍お よ び脳組 織へ の移 行 性を 明 ら かにする 必要がある. 本 研究ではラ ット脳 内に 9 L グ リオ ー マ を移 植し,
脳 腫 瘍における毛細血管の構造と機 能の変 化を脳 内吸収 指数 くbr ain up takeinde x,B U Il 法と電子顕微 鏡によ り検索し た. その 結 果, 細 胞 外液の指 標と し て用いた対 照 薬 剤の シ ュ クロ ー ス くs u c r o s el は腫 瘍 魁織 内に選 択 的に移 行し た. 超 徴 形態 学 的には 脳腫 瘍 以 外の観 織の血管はl 血液脳 関 門の構 造を保って いた が, 脳腫 瘍では有窓 形 成や内 皮細 胞の不連 続 性, 接 合 部の関大な どが認め ら れ 血液 脳 関 門ほ破綻し ていた. アド リア マイシ ソくadria mycin, A D MJ, ラ ニム ス テ ン くトく2rchlo r o ethyll−3−b ethy,
1a−D−glu c op yr a n o s−6−yll−1−nitr o s o u r e a,M C N Ul,5−フ ロ ロウラシルく5−flu o r o u r a cil,5−F Ul, 塩酸ニムス チソ く1−t4−a min o−2m ethyl
p yrimid in e−5−yll−m ethyト3−く2−Ch lo r o ethyll−3Mnitr o s o u r e a hydr o chlo ride,A C N Ul の4 種類の抗癌 剤の脳 腫 瘍 阻織への透 過 性を検 討した結 見 A D M,M C N U,5−F U は脳 腫 瘍 組 織に選 択 的に移 行し, こ のう ち 5−F U は腫 瘍細 胞 膜で の透 過 性が高 く 腫 瘍細 胞 内
にも 移 行し た. A C N U は 血液 脳 関 門を透過し, 脳 腫 瘍 以 外の阻 織に移 行していた. 以上の結果ほ, 抗 癌 剤の脳 腫 瘍への透 過 性 ほ, 血液 脳 関 門で は なく 腫 瘍細 胞 膜に よ り制 限されていること を 示 し ている. した がって, 本モデルを用いた薬 物 動 態学 的研 究によ り, 抗癌 剤を脳 腫 瘍に選 択 的に送 達さ せ る た め に は, 正常の血液 脳 開 門は透 過せず 腫 瘍 細 胞 膜せ選 択 的に透 過し得る 5−F U のよ う な性 状を持った抗 癌 剤を用いるべきであること を 示唆して いる.
Key w ords blo od−brain ba r rie r,brain up take inde x, Che m othe r ap y,9 L gliorn a
近 年, 外 科 的 治療, 放 射 線 療 法, 化 学 療 法な ら びに免 疫 療 法 な ど を集 学 的に施 行 することによ り, 悪 性 腫 瘍の治療 成 績は飛 躍 的に向上 して いる が, 悪 性 脳腫 瘍の治 療 成 績ほ期待さ れ た程
には向上 して いないり. 化学 療 法におい ては, 感 受 性のある抗 癌剤を殺 細 胞 濃度で腫 瘍 細 胞に到 達さ せ ること が必 須である が, 脳腫 瘍において ほ 血液か ら脳 組 織へ の薬 剤の移行を制 限す る 血液 脳 関 門が存 在 する た め, これは必 ずしも 容 易で ほ ない.
血液 脳 関 門に つい ては, Re e s e ら2 ,が 西洋わ さ びペ ルオ キシ
ダー ゼをト レー サ ー と して電子顕 微 鏡で観 察し, その本 体が 脳 毛細血管 内 皮細 胞にあること を初め て証明 し た. 脳毛 細血管 内 皮 細 胞ほ超 敏 形 態 学 的に, 内 皮 細 胞が 互い に密 着 帯 くtight
ju n ctio nl で接 合 し て いる こと , 胞 体 内の飲み込み小 胞
くpino cy totic v e siclel がきわ めて少ない こと, 有 窓くfe n e str ati−
O nI 形成が存 在し ない こと, お よ び 血管周囲が グ リア細 胞の終 足によ り覆われていること な ど が特 徴と さ れて いる抑. グ リア
細胞は 血液脳関 門と しての構造と機 能を稚 持 する た めに重 要な 役割を ほ た して いる と さ れて いる匂. 機 能 的には, 血液 脳 関 門 を通 過し得る物 質ほ脂 溶 性の高いもの, ブ ド ウ糖やア ミ ノ酸な ど何ら かの輸送 担 体が関 与 するもの に制 限さ れて い る引. すな わ ち, へキソー ス, 単カ ルポ キシ ル酸, 中 性ア ミ ノ酸, ア ミ
ン, 塩 基性ア ミ ノ酸, ヌクレオ シ ド, プリン塩 基, 甲状 腺ホ ル モ ンな どに関して少なくとも8 種 類の異な る輸 送 系がある と さ れて いる即.
一 方, 種々の病態で血液 脳 関門は容 易に破 綻 する と さ れてお りれ, 脳 腫 瘍でも 脳 毛細血管の構造と機 能の変 化につ いて ほい
くつかの報告8 卜 1 射があるもの の, 脳慮 瘍 内血管の透 過 性に関し
ては 不明な点が多い.
現 在, 血液 脳 開 門に抗し て脳 腰 瘍に抗 癌 剤を送 達さ せ る た め, 脂 溶 性の カ ル ム ス チンく1.3−bisく2−Chlo r o ethyu−トnitr o s o u rr
e a.B C N UJ, ロ ムス チン tl−く2−Chlo r o ethyll−3−CyClohe xyトトnitr o−
S O u r e a,C C N U l, セ ム ス チ ン り,く2−Chlo r o ethyり,3一く4ェm ethylcyc−
lohe xyu−トnitr o s o u r e a, m ethyトC C N Uンな どのニ トロ ソウレア系
の薬 剤が悪 性 脳腫 瘍に対してほ よ く 用いられて いる1 5 ,1 6 1 が, こ れ らの薬剤は 血管か ら離れ た腫瘍 細 胞に薬 剤が十 分 到達し待な いという欠 点を持って いる怖.
一 方, マ ニ トー ルな どの高 張 液 を用い て脳 毛 細血管の薬剤 透 過性を人工的に高め ようとする試 みもな さ れ ている1 TIL2 2 −が, 薬 剤が 正常 脳 組織に移 行 することに よ る神 経毒 性の発現が懸念さ れ る. した がっ て 巨踵 瘍 部位 以外
の正常 脳組 織には移 行せず, 脳腫 瘍に のみ選択 的に移 行し得る 抗 癌 剤を用いれば, 効 果と副 作 用の両面か ら理 想 的な化学 療 法
平 成5年8 月2 日受付, 平 成6 年4 月2 6 日受 理
A b breviation s こA C N U,トく4−amino−2m ethylp yrimidin e−5−ylj−m ethyト3−く2−Chlo roethylうー3−nitroso u r e ahydro chlo ridei A D M , adria m ycin3 B C N U,l ,3−bisく2−Chlo r o ethyl 汁nitr o s o u reaニB U I, br ain up take inde xi C C N U ,トく2−Chlo r o eト h 跡3−CyClohe xyl−トnitr o s o u r e a ニ 5−F U , 5 イIu o ro ur a cil ニ m ethyl−C C N U, トく2−Chlo r o ethyll−3−く4−m ethylcyclohexylJ−
が行え る と考え ら れ る.
本 研 究でほ 9 L グリ オ ー マを脳腫 瘍のモデルと して用い, 脳 腫 瘍における毛 細血管の構 造と磯 能の変 化を脳 内 吸 収 指 数 くbr ain up takeinde x,B U Il 法2剃 と電 子顕 微 鏡を用い て検 索し,
その結 果に基づき 脳 腫 瘍に選 択 的に抗癌 剤の送 達を行 うには.
抗 癌剤に どのような性 質が 必要である かに つ いて検 討し た.
材 料 および方 法 王. 実 験 動 物
雄性の フィ ッ シャ ー系ラッ ト り 適 齢, 体 重1 8 0 −2 2 0gJ く日 本チ ャ ー ルズ リバ ー社, 厚 木I を用い, 金 沢 大学 動 物 実 験 施 設 内の空 調 飼 育室 く室 温 23 士2 て, 湿 度5 5 士5瑚 で1 餌と 水 を自 由に与えて飼 育した.
H . 試 薬
本 研 究で は放 射 性 標 識 化 合 物と してほ,
1 4C−シュ クロ ー ス
ぐ4C,S u C r O S eH 5.Om CV m m oll くNe w Engla nd Nu cle a r, Bo sto n,
U.S.A.1,
3H一永 く3H−W ate rl く1.OmC iノglくNe w Engla nd Nu cle a rl.
N−ト1 4C−ブ タ ノ ー ル くN−トー4C−buta n oけ く1.1m C iJI
m m oll くNe w
Engla nd Nu cle a rL 3H−5−フ ロ ロ ウ ラ シ ル く里−5−flu o r o u r a cil, 3H−5−F UH1 9.3 C iJlm m o11 くNe w Engla nd N u cle arl,
1 −C一塩 酸ニムス
チ ソ ぐ4C−トく4−a min o−2m ethyI p yrimid in eふyll−m ethylL3−く2−Ch lo−
r o ethyu−3−nitr o s o u r e a hydr o ch lo ride,
l −C−A C N UH2 7FLC iIm gIく三 共, 東 京1,
1 4C−ラ ニム ス チン ぐ4C−l−く2−Chlo r o ethylJ−3−くm ethyla−
D−glu c op yr a n o s−6−ylJ−1−nitr o s o u r e a,
一4C−M C N Ulく4 5FLC il mgl し東 京 田辺, 東 京1を使用し た. 非標 識 化 合 物と し て はl ア ド リア マイ シソくadria mycin, A D M H 協和 発 酵, 東京 トを使 用し た.
m . 細 胞の移植2 5I
l O % 非 働ウシ胎 児血清 くfetal c alf s e r u m , F C SH G I B C O,
Gr a nd Isla nd,U S Al を含む R P M I 1 6 4 0 培 地 く日水 製 薬, 東 京トに てl 培 養し たラ ット 9 L グ リ オ ー マ細 胞抑を 3 xl Oソml に 調製し, 等 量の1 %の寒 天を含 む 培 地を加 え,l.5xl Oソmlの細 胞 浮 遊 液を作 製し た. 対照と して,0.5 %の寒 天を含む培 地を使 用した. ラッ ト を塩 酸ケ タ ミソ く8r ngハ0 0g, 筋 注ぅ に て麻 酔 後, 定 位 脳 手 術 装 置に 固定し, 冠 状 縫 合上 で矢 状 縫 合よ り 3m m の位 置に直径1.5m m の穿 頭を行い,右 尾 状 核一 被 殻部に 1 0jLl の9 L グ リ オ ー マ細 胞 浮 遊 液く1.5x l O5c ellsI を約3 0秒かけ て移 植し た. 対照 群には同量の0.5 %の寒 天を含む R P M I1 6 4 0 培 地を注入 し た,
N . 脳 腫 瘍 内の毛 細血管の透 過 性に関 する実 験 1 . B U 工法
り B U 工法 く図 り
0 1de ndo rf ら2馴 の方 法に し た がった.
移植1 4 日 目の ラッ ト を塩 酸ケ タ ミンく2 3.5m gハ0 0g, 勝 江I と キシ ラジンく2.3m gハ0 0g,筋 注1 にて麻 酔 後, 右総 頚 動 脈を露 出 し た. 基 質と し で4C−シュ クロ ー スく1 0恥C iノmりを,基 準 物 質と し て 3H一水 く5 0FLC iノmlJ を含 むリン ゲル の H E P E S 緩 衝 液 くpH 7−のを作 製し た. こ のリンゲル の H E P E S 緩衝 液2 00FLl を ラッ tの総 頸 動脈 内に瞬 時 く0.5 砂 以 和 に投 与し, 5秒 後に断 頭し右 大 脳 半 球を摘 出した. こ の時 間ほ注入 された物 質が脳 内 を 1 回循 環 するの には十 分な時 間である が, 物質が脳か ら逆 流 し た り仁脳 内を 2 回循 環 するにほ短い時 間である. 摘 出し た脳
は腫 疹, 皮 質, 海 馬, 間脳の部 位に分 け, 粉砕し た後, それ ぞ れ 1.5mlのプロ トゾー ルくNe w Engla nd Nu cle a rl を加え た.
一
方, 脳を 一 塊と し て定 量する ときは粉 砕し た後, 2 本の バイア ル に分注し, それ ぞれ 1.5mlのプロト ゾー ルを加 えた.6 0 てこで 3時 間 振 返し, 組 織を 可溶 化し た後, 3 0 % 過 酸 化 水 素 水を 30 0函 加え, 室 温で1 5分間 静 置した. その後,6 0 C で3 0分 間加 熱し, 室 温にて冷 却後, 液 体シ ンチ レー ショ ンカ ク テ ル クリア ゾルf 伴 井化 学, 京 恥 を 1 0ml,1 0 0 % 酢酸を 6 4ノJl 加え, 液 体シ ンチレ ー ショ ンカウンタ ー L S C−67 1くA loka, 東 京I で 3H と1 −C と放射 活 性を測 定し た.
2つ 解析 法
B U l 値は次の式で計 算し た.
B U Iく%1 ニ
Ct,dノCt,r
C i,dJIc i,r Xl O O
Ct.dこ基 質の脳 内の放 射 活 性 くdpml脳1 Ct,r ニ基 準物 質の脳 内の放 射 活 性 くdpmノ脳I C i,dこ基質の薬 液 中の放 射 活 性 くdpmノ薬液I C i,r 二基準 物 質の薬 液 中の放 射 活 性 くdpmノ薬 液う
2 . 脳 毛 細血管 内 容 積の測 定 り 赤血球がICr 標 識方 法
ラッ ト総 頚 動 脈よ り採血 し た 血液に1ノ7 容 積の ク エ ン酸デ キス トロ ー ス溶 液くa cid−Citr ate,de xtr o s es olutio n,A C Ds olutio nJ くpH 5.OI を加え撮 拝し, 1 5 0 0rpm で 1 5分 間遠心 し た. 上帝を捨 て, 得ら れ た赤血球に等 量の 0.1 M リン酸 緩 衝 生理的 食 塩 水 くpho sphate−buffe r ed s alin e,P B SI くpH 7.4I を加え据 絆し, 同様
に遠心 し た. こ の洗 浄 操 作をも う一 度 繰り返し た. 上清を捨 て, 得ら れ た赤血球 分 画 1 0 0FLl に対し Na25 1CrO.く3 7 6.3 9mC iノ
m gCrl くNe w Engla nd Nu cle a rl が 1 0JLC i にな る ように加 えて捷 拝し,3 7 C で 3 0分 間 静 置し た. P B S を加え渡 拝し, 1 5 0 0rpm
で1 5分 間遠 心した. 上清と赤血球 分 画とに分 け, 上清の放射 能 活 性が赤血球 分 画の1 %以 下にな る まで同様の操 作を繰り返し た. 最 後に赤血球と等 量のリンゲル の H E P E S 緩 衝 液を加え て
4 こ で保 存した.
ニニ彦フ
Fig.1. Sche matic r epr e s e ntatio n of inje ctio n pr o c edu r e ofa mixtu r e of 1 4C−1abeled s ubsta n c e a nd 3H−labeled s ubsta n c e
into the r at c o m m o n c a r otid ,arte ry fo r br ain up take inde x
くB U エー.
トnitr o s o u reai M C N U ,lく−2−Chlo r o ethyll−3−くm ethyla 皿glu cop yr a n o s−6−ylト1qnitr o s o u r e ai P B S, pho sphate buffe r ed
S aline