金 沢大 学 十 全医学 会 雑誌 帯8 5 巻 第1 号 9 3‑ 1 14 (1 9 7 6)
ヒ ト骨 肉 腫由 来 培 養細 胞 ( O S T 細胞) の g柁 び′汗0 ,
摘 乙油 川 に お け る走 査 電顕 的観察
金沢大学医学 部 整形 外科 学 講座( 主任: 高 瀬武 平教 授)
富 田
今日 まで 一般に. 病理形 態 学 的研究には, 試料を薄 切し, その透 過 像よ り情 報を得る, という手段 を 用い てき た. その際に立体 的な情 報が 必要であ れ ば, 連続 切 片 標本を観 察しつ つ推 測を働か せねば な ら ず, 或い は, r eplic a によっ て鋳 型を造り, 間接 的に観察す る 以外に方 法は な かった. そ れ故, 必要と する立体 構築 像は模式図 と して描か れてお り. 対 象を客 観 的に正 確 に理解す るには 困難であった. し か し 近年, 走査 型電 子 顕 微鏡 (以下, 走 査電 顕と略す.) が 発 明 さ れた こ とに より, 対 象 物を光顕レ ベ ル以下におい て も立 体 的
に観 察す ること が可能と な り, か か る問題点は解決さ れ た. 先づ, 工学関係で の活 用に成功 し た 走査電 顛 は,1 9 6 2年 頃,歯 組織の観 察】) に応用 さ れ,次い で1 9 6 6 年 Haye s12) が赤 血 球を観察し. その後, 走 査 電 顕 の持っ分解 能の良さ, 解 読の容 易さ, 超薄 切片 作成が 不必要であ ること. な どの利 点と相 侯っ て, これ が次 第に悪性 細 胞へ の研究に利用さ れ るよう に なっ て き た.
即ち ∫乃 ロ∫け0 で の研 究と して. マ ウスやラ ッ ト の
腫瘍 由 来細 胞4)13) 20), ハ ム ス タ ー 卵巣由 来 の C H O
c ells21 )24)
, 更にマ ウ ス 色br ob la st とそ の悪性 変 化 (tr a n sfo r m atio n) につい て の報 告4) が な さ れて お り. 特にそ れ らの細 胞の C ell cycle に関 係 して の
細 胞 表 面 変化, 細 胞 相 互 作用. vir al infe ct io n や
r e v e r s e tr a n sfo r m atio n age nt に よる形態変化 に
つ い て論じ ら れてき た. し か し一 方. ′乃 †ノブu o で の 悪性 細 胞につ い て の検 討では. 子宮 頸 部 癌1 4 ) や.膀 胱
劫5)の組織 表面を観 察し た ものな ど を散見 する に過 ぎ ない.
そこ で著 者は, 長 期 継 代培 養に成功 して い る人 骨肉 腫由来 培 養細 胞 (O S T 細 胞) を 用 い て . わ1 Uf汗0
にお け る細胞 表 面 形 態を走査 電 顕で観 察し. 更に こ の 細 胞をマ ウ ス に異種 移 植して でき た 腫瘍 組 織の割断面
勝 郎
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を同様に観察して, ∫乃 Uf汗0 , 及 び 摘 乙両川 で の本細 胞の表面 構 造の特 殊 性の相異 を検討し, 以下の 如き興 味あ る知 見を得たの で報 告す る.
実験 材 料 並び に実験方 法
1 . 人 骨 肉 腫由 来 培 養細 胞 (O S T 細 胞) の由来 1 9 6 3年1 0月, 金 沢大学 医 学 部 整形外 科学 教室に於
て , 女 子 高 校生( 1 5歳) の左 大腿骨々幹 部に発生し た 骨肉 腫を, 下肢 切 断 直後に別 出し. 細 胞を分 離して培 養を行い, 1 9 6 4年6月に株 化に成功し. Oste oge nic
Sa r c o ma Taka s e Str ain ( O S T 細胞) と 名付け た26) もの であ る. 以後. 継 代 培 養を続けて1 9 7 5年9 月 現 在. e stab lished c e11 1in e と して5 4 6代を数えて いる.
2 . O S T 細 胞の異 種 移植 方 法 1) 免 疫 反 応 抑制 方 法
著 者は Kub ista et al.( 1 9 6 7)1 7 )の方法に 準L: て ,
Rab b it Anti‑Mo u s e・thym u s Se r u m ( 以 下 . R A M T S と略す) を作製してマ ウスに投与し. そ の免疫反 応の抑制を図っ た. 即ち. 生 後2 週の雌d d N マ ウ
スよ り胸 腺組 織を 馴出し, 細 切して胸腺 細 胞 を と り. rIa nk's bala n c ed Salt Solutio n に浮遊 さ せ. こ の胸 腺 細 胞5 〜1 0億個 を体 重2 〜 3 k g の家兎 の耳 静脈へ注 射し. 2 週間後. 再 度同 量の胸 腺 細 胞 を 静 注し た. 2 回目の胸 腺細 胞 静 注 後1 週間で , こ の家 兎か ら採 血し. その分 離し た血 清を5 60c . 3 0 分間 加 温して不 徳 化し た後. 使用時まで・¶2 00cで 凍 結 保 存
し た.
2 ) マ ウ スへ の移 植 方法
継 代培 養4 〜 5 日目の培 養細 胞を pol ic e m a n を 用い て培 養 瓶のガラ ス面より 剥離し. p i pett irlg し て単 離細 胞と し た後, 細胞 濃 度が2 0 〜4 0×1 06/ml とな るよう培 養 液に浮遊さ せ た ものを移 植に用い た. 即 ち Sca nning ele ctron micro s c op ic stud ie s o n c ultu red hu m a n o st eog enic s arc o m a cells in vi tr o and in viv o . Kats ur o Tomita , D epa rtment of Orthop a ed ic Su rg e r y (D ire ctor
: Pr of. B. Taka s e), Scho ol of Med icine, Ka na za w a U niversity.
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生 後2過の d d N 堆マ ウ ス に R A M T S O.0 5 ml を 7 日間, 毎日 1 回腹 腔 内に注 射し た後, 培 養 細 胞1 〜1 0
×1 06個を その大腿 骨 周 囲に注 入 移 植し た. 移 植後も 同 様に毎日 R A M T S 注 射を続け ることによ り,2過 日
で移植 部に小豆大. 3過 日で小 指 頑 大の腫癌形成が 見 ら れ, R A M T S の中 止のない限り r egr e s sio rl を 起す ものは な く. 平 均4 6 日 (3 3 日〜5 8 日) に てマ ウス は腫 瘍死し た. 移植 成 功 率は8 6 % ( 8 0匹 申6 9 匹) であ
っ た. 走 査 電 鋳 試料 作 製には, 移 植 後3 〜 4 週 目の腫 瘍を用いた.
3 . 走 査 電 頗 用試 料の作 製 方 法
1) 単 離 浮 遊細 胞の場 合‑∫乃 びi汗0 で の観 察 継代 培 養7 日目のO S T培 養 細 胞を E D T A 処 理後, 培 養瓶のガラ ス面よ り剥 離し, Pipet ting に て単離 細 胞浮 遊 液と し た. これ を3 0 0rpm 3 分 間 遠沈 し. 上
清を棄て て直ちに pH 7.4 の Dul be c c o 燐酸緩 衝
液 (P 息 S.) を注い で振 濃 淡 浄し(以後の液の交 換は 全て同様の遠 沈 操作を行っ て いる.). 再 度 遠沈 して上 清を棄て, 2.5 % gluta r al dehyde (2 5 % gluta r al・ dehyde : P.B.S.=1 : 9) を注い で2時 間,
l 前固 定
を行っ た. 再びP.B.S.で洗浄し,1 % OsO4(2 % O sO4 : P.B.S.=1 : 1)で1 時 間,後 固 定し P.B.S .で洗浄し た. こ こまで の操作は全て4 0c の条 件 下で行 っ た. 次い で こ の試 料を 50 % , 7 0 % , 9 0 % . 9 5 % . 1 0 0 %
a c eto n に. 2 0分 毎に1 〜3 回 浸して脱 水し , 9 9 %
is o a myl a c etate に3 0分 間 浸して a c eto n を置 換 し た. 更にO S T細 胞のis o a m yl a c etate 浮 遊 液をピ
ペ ッ ト に てカバ ー グラ ス小 片面に滴 下し. 直ちに日C P
‑1 型 臨 界点 乾 燥 装 置に入れ, 液 体 C O2 噴 出による 細 胞 流 出を防ぐ た めに, 田中2丁) の考 案し た dry ic e によ る臨 界点 乾 燥を行った. 乾 燥を終え た試 料を, 銀
ペ ー ス ト又はセ メダ インホワイト で試 料 台に 固定し.
カ ー ボンと金パ ラ ジ ウムによ り回転 蒸 着, 或い はI B‑
1 型イ オンク リ ー ナ ー によ る金パ ラ ジ ウムの スノヾッタ 未 着を行っ た( 表1) .
観 察には 日立 電 界 放射型走査 電子 顧 微鏡 (H F S ‑2 ) を用い. 加速 電 圧1 5〜2 0 K Vの条 件で50 〜5 ×1 04倍 に
拡 大し. 試料 台傾 斜 角0 〜4 50で観 察し た. 2 ) 単 層培 養細 胞の場 合一f柁 〃f け0 で の観 察 滅 菌シャ ー レの底 面にあ ら か じ め カバ ー グラスの小 片を入れてお き, その上に単離 浮 遊 細 胞 液を 入 れて培 養 を行い, カバ ー グ ラス面に定 着培養 さ れ た細 胞を,
位 相 差 顕 微 鏡で観察しつ つ経時 的に.採り出して試 料 作 製に用いた・ 試料作製 方 法は・ 遠 沈 操 作を除い て は・
単 離 浮 遊 細 胞の場 合と同様 ( 表1 ) であ る が. 臨 界 点 乾 燥に際しては液 体 C O2 を使用 し, 4 50cの臨界 状
= 享く・・・
前 固 定
臨 界 点乾塊
観 察
表1 試 料 作 製 法
p B S(p B 7.4′40c) で洗 浄
2.5 ! g luta r al dehy de, 2‑6 時 間, 40c P B S で洗 浄
1 篭OsO 4. ト 2 時 間. 40c p B S で洗 浄
5 0 亀, 7 0 篭. 90 亀′ 9 5 亀. 1 0 0 宅 a c eto n
(×1) (Xl) (×2) (×2) (×3r 各2 0 分 (樹脂 包 墟、 凍 結 割 断、 pr Op yle n e o xide
9 9 篭is o a myl a c e 垣te 3 0牙
液体C O 2
回 転蒸着(C, Au + p d) イ オンスパッタリング (AⅥ+ p d)
H F S‑2形、1 5 ‑ 2 0 k V
で溶解)
態で行っ た.
3) O S T 細 胞の異 種 移 植 腫 瘍の場 合一拍 乙両川 で
の観 察
O S T 細 胞をマ ウ スに異 種移 植し 3 〜 4過を経て小 指 頚木に発 育し た腫 瘍を, 走 査 電 顕観 察試料と して用
いた. 即ち, 生き た ま まの マ ウ ス の大腿部よ り 腫瘍を 切 除し, 速かに P.B.S. 内で2×2 ×4m m の大き さに切 り出し, 蓑1 に示 す 如く 1), 2) の場 合と同 様に 試 料 を作 製し た. た だ し固 定は gluta r al dehyde 6 時 間, OsO■2 時 間 行い, 目 的と す る 観察 面 を得るた めに操 作 途 中に次のよ う な観 察 面剖 出法を施 行した.
i) 固定 前 又は固 定 申の組 織を,鋭 利なカ ミソリで切 る か. 或いはピンセッ ト で ひき ち ぎ る.
ii) 1 0 0 % a c eto n で脱 水 中に, イ) カ ミ ソ リ で切 る, ロ) ピンセッ ト で折 振 割 断す る,
ハ) 凍 結割 断法
一試 料を a c eto n に浸し た ま まゼ ラ チ ンカ プ セ ル内
に封 入し, 液 体 窒 素で凍 結しつ つ . ノ ミ で鈍 的に割断 する,
ニ) 樹 脂 包 埋 凍 結 割 断 法‑ セ メ ダイン1 5 0 0 中に
試 料を包 埋して カプセル に入れ, 液休窒 素で‑ 8 00c に て凍 結さ せつ つ ノ ミ で鋭 的に割断, 次い で常温に戻 し た試 料を pr op yle n e o xi de で2 0分 間毎4 〜 5 回 洗っ て セ メダイ ンを融か し. is o a m yl a c etate で置 換す る.
iii) 臨 界 点 乾 塊 後に ピンセッ トで折 損する.
以上の方 法のう ち. 主 な観察には良い観察面 が得ら れ た 立) ロ) ハ) ニ) の試 料を用いた. 更に観 察 面を
O S T 細 胞の in vitr o ,in viv o にお け る走査電 麒的観察 9 5
イオン エ ッチ ング し た後 仁蒸 着し た ものを も 観察し た.
4) 宿 主 側の結 合 組 織の観 察
O S T 細 胞異種 移植 腫瘍の組 織を宿 主 側の結 合 組 織 と 比較 する た め,腫 瘍周 囲を囲んで いる線維組 織を 3 ) に準じて採 取し,1 0 0 % a c eto n 脱 水 中に ピ ン セ ッ ト で折 損して得た ものを観 察に用いた.
尚一 意 査 電 顔試 料 作 製に先 立ち, 棟 木を実 体 戴 微鏡 で観察して確認 す る と共に, 走 査電 顧 観 察後 に再 度,
光 顧レ ベル で確認 す る た めに. 試 料を 試料 台よ り剥が し.表2 に示す如く do ub le e mbed d ing te chniqu e2) に て包 埋し, 5〃m の切 片をつく り R .E染 色を行った.
実 験 結 果
Ⅰ. わ乙 肌徳和 に お け る O S T 細 胞の走査 喝 顕像 1 . 単 離 浮 遊 状態にあ る O S T 細胞
弱拡 大で観 察す る と( 図1 ). O S T 細 胞は ほ ぼ球
形に近い形 態を成してお り. 一 見. "湖 底の マリ モ〝
様であった. その大き さ は直 径8 〜1 5〟m にわ た り 大 小 不揃い で, 表 面には特色 あ る突起が見ら れ た. 強拡 大で観 察す る と( 図2), こ の細 胞 質 突 起に は mic r・
0 Villi 及び b lebs の2 種 類の形態 が あ り, 単独に, 又は種々 の割 合に混 在し な が ら密生して い る のが 認 め
ら れ た.
mic r o villi は直径 約0.2fL mの指 状の突 起で , そ の
長さ は0 .5 〜 4 〟m にわ たっ て最 短ま ち ま ちであ り, 方 向性も細 胞 表 面か ら垂 直に立っもの , 斜 方 向に曲折し て いる ものな ど が観 察さ れ た. その 5 ×1 04倍拡大 率
で の観 察は, 表 面平 滑であった. b lebs は mi c r o・
villi の先端が蛇 頭 状, 泡 状又 は球 根 状に変 容して膨 ん だ形 態を な してお りl その直径は0.3〜0.餌 m の範 囲にあった.
2 . 培 養後の O S T 細 胞の経 時的観察
浮 遊 状 態にあ る O S T 細 胞は. s ubc ultu r e を行
った後は時 間の経過 と と もに沈降し, カバ ー グラ ス面
に定着し始め た. 6時 間を経過 L た もの では 細 胞の表 面像に著 変は な かっ た が, ガラス面に接して い る部で
は. 細 胞の ア メ ー バ様運動の始ま り と して Rlopo ‑
dia や 1a me11ipod ia (r u田ed m e mbr a n e) な どの
偽 足 (ps e udopod ia) が 見 ら れ た(図 3 ). r u用ed
m e mbr a n e は図3 に示す如く, 細 胞 周辺に拡 がっ た
波 状の細 胞 質 突起で, その表 面に は mic r o villi を 伴って いた. 色lopod ia は mic r o villi とほぼ 同 じ 太さであっ た が, 培 養 後の時 間が たっ につ れて t より 伸 展し た ものが観 察さ れ. その先端は棟状に尖鋭であ
っ た. ま た, 近 隣の細胞との問には相 互の 鋸opo‑
d ia の接 触によ る inte r c ellula r bridge s が 見 ら れ る よ うになっ た(図 4) .
1 2時 間を経過 し た細 胞を僻 撤図で見る と ( 図 5 ),カ バ ー グラ ス面に沿っ て全 周に放 射 状に伸展 して い る 鋸opod ia や. その癒合し た 1a mellipodia が 観 さ れ た.
1 日 を経 過 する と(図 6 ), O S T 細 胞の ア メ ー バ
様 運 動は活 発と な り, 細 胞は小 丘 状或い は紡錘 形状の
形 態を整えつ つ inte r c ellula r bri dge s に よ る細 胞 相 互接 触 作 用や細 胞 分 裂を示し た. 図 7 は, 培 養 2
日目の試 料で観 察さ れ た細胞 分 裂 直後の細胞である.
細 胞は は ぼ等量に分裂し, 核の存 在する膨隆 部に 一 致
T ab le 2. Po st‑S C a n n l ng ele ctr o n mic r o s c opy h istology pr o c e s sing s chedule
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