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敗血症症例に認められるキサンチン脱水素酵素の 増加と高尿酸血症の臨床的意義(要約)
日本大学大学院医学研究科博士課程 外科系救急医学専攻
松岡 俊
修了年 2020 年
指導教員 木下 浩作
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緒言
近年、敗血症に対する診断と治療に早期からの介入による転帰の改善を目指 す努力が行われている。しかし敗血症性ショックと診断された症例
(1)や
acute physiology and chronic health evaluation (APACHE) IIスコア
(2)や
sequential organ failure assessment (SOFA)(3)スコアなどの重要臓器の障害度を数値化したスコア が高値である症例の転帰は依然として不良である。もし敗血症症例における新 たな病態を見いだすことができれば、適切かつ十分な治療介入による転帰改善 が期待できる可能性がある。
疾病と酸化ストレスの関係について数多くの研究
(4)が行われてきている。生体 における活性酸素種の産生
(5)と、抗酸化機構
(6)とのバランスが崩れ、全体として 酸化に傾いた状態が「酸化ストレス」と定義される。
急性疾患では、過剰に産生された活性酸素種による酸化ストレスが細胞傷害 を起こし、ひいては急性臓器障害の発症に大きな役割を果たしている
(7)。このよ うに酸化ストレスは種々の臓器障害に共通した病態であり、その発症に大きく 関わっていると考えられるが
(4)、酸化ストレスの程度を簡便にかつ迅速に測定で きる生体指標は定まっていない
(8)。
今回我々は抗酸化作用をもつ物質の中で、生体内に最も多く存在する尿酸
(9)に 着目した。高尿酸血症は痛風の原因だけではなく、心不全
(10)、腎不全の病態
(11)に関与している一方、低尿酸血症も尿酸の抗酸化作用が低下することにより運 動後急性腎不全を発症
(12)すると考えられている。敗血症症例でも、尿酸は抗酸 化物質として何らかの役割を果たしているものと考えられるが、そのことに関 して検討した研究は少ない
(13)。
そこで、尿酸は、簡便にかつ迅速に測定できる酸化ストレスの指標となるので
はないかと考え、敗血症症例での血中尿酸濃度を経時的に測定し敗血症の重症
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度、転帰との関連の検索に想起した。本研究では、敗血症で認められる高尿酸血 症 の 臨 床 的 意 義 と 、 尿 酸 産 生 に 係 わ る キ サ ン チ ン 脱 水 素 酵 素
(xanthine dehydrogenase; XDH)お よ び 酸 化 ス ト レ ス マ ー カ ー で あ る
8-hydroxy-2- deoxyguanosine (8-OHdG) (14)との関係性を明かにすることを目的とした。
対象と方法
本研究は日本大学医学部附属板橋病院での単施設前向き観察研究
(RK-170912- 08)で行った。対象は、当院救命救急センターへ搬送され集中治療室 (intensive care unit; ICU)へ入院した症例のうち
Sepsis-3(15)における敗血症定義と診断基準 を満たした20歳以上の症例である。
またコントロール群は、上記の基準に基づく敗血症以外の診断を受けた
20歳 以上の症例を対象とした。
敗血症症例は、入院時
(day 0)、入院
1日目
(day 1)、
3日目
(day 3)、
7日目
(day7)、14日目 (day 14)
の血中および尿中尿酸値、血中XDH値、血中8-OHdG値を測
定した。敗血症症例全体では各測定項目と
SOFAスコア、腎機能との関連性を調 べた。また生存群と死亡群に分け、各群の比較や経時的変化の違いについて検討 した。上記に加えて、コントロール群との比較を行った。また輸液が血中尿酸値 に影響を及ぼす影響について検討した。さらに、上記測定項目が、敗血症の転帰 に影響を与えるか検討した。
統計手法
統計処理は統計ソフトJMP バージョン11 (SAS社、ノースカロライナ、USA) を使用した。カテゴリデータの比較には
χ2検定、
2群間比較は
Student-t検定、
Wilcoxonの順位和検定を用いた。多重比較には、対応のないデータはKruskal-
4 Wallis
検定、対応のあるデータは
Friedman検定を行い、
post hoc testは、
Steel-Dwass検定を用いた。コントロール群と対象群の比較にはSteel検定を用いた。相関関係 の検定には、
Spearmanの順位相関分析を用いた。
ICU退出時転帰に与える影響を検討するために、各データを説明変数として単
変量ロジスティック回帰分析を行った。尿酸および尿酸合成酵素の各説明変数 に関して、
receiver operating characteristic (ROC)曲線を作成しcut off値を求めた。
Cut off
値をもとに
2群に分け、
ICU退出時の生存率を
Kaplan-Meier法で算出し、
Log-rank検定で2群間を比較した。尿酸および尿酸合成酵素が敗血症の転帰を予
測する独立因子となるかどうか検討するために、入院時の各データを独立変数 として単変量ロジスティック回帰分析を行った。共変量を抽出し多重ロジステ ィック回帰分析を行い、
p値、オッズ比、
95%信頼区間を算出した。
p< 0.05を有 意水準とした。
結果
(
1)患者背景
研究期間中
75例が
Sepsis-3(15)による敗血症診断で当施設の
ICUに入室した。
そのうち
15例が除外され、研究対象となったのは敗血症症例が
60例、コント ロール群が
10例であった。
ICU
退出時転帰は、死亡
(死亡群
) 14例、生存
(生存群
)は
46例であった。全 症例における尿中尿酸排泄量を検討したところ、経時的に有意な増加を認めた。
(2)血中尿酸値と血中
XDH値および血中
8-OHdG値
血中尿酸値は、
SOFAスコア
(ρ= 0.3577) (図
1), creatinine (Cre) (ρ= 0.7623),お
よび
estimated glomerular filtration rate (eGFR) (ρ= -0.7719)と有意な相関関係が認
5
められた。 血中尿酸値と血中
XDH値との間には弱い相関
(ρ= 0.2717) (図
2)が あり、 血中
XDH値は、
SOFAスコア
(ρ= 0.5852) (図3)と有意な正の相関を認め た。血中
XDH値と
Cre (ρ= 0.3817および
eGFR (ρ= -0.3841)は相関関係を認め た 。しかし、血中尿酸値と血中
8-OHdG値とは有意な相関関係を示さなかった が、血中
XDH値と血中
8-OHdG値には有意な負の相関
(ρ= -0.3169) (図
4)を認 めた。
(3)死亡群と生存群との関係
死亡・生存における
2群間比較では、死亡群で、年齢、入院時の
SOFAスコ ア、乳酸値、血中
XDH値が有意に高値を示した。一方、血中尿酸値および尿中 尿酸排泄量、血中
8-OHdG値には両群間に有意差を認めなかった。
入院時のバイタルサインは、両群間に有意差を認めなかったが、day 0 での尿 量は生存群で有意に多く、輸液量および体液バランスは、死亡群で有意に多かっ た。
(4)血中尿酸値、血中
XDH値および血中
8-OHdG値の経時的変化
生存群では、血中尿酸値
(図
5)および血中
XDH値
(図
6)は有意に経時的低 下を示した。一方、血中
8-OHdG値は経時的変化を認めなかった。
死亡群では、血中尿酸値
(図
5)、血中
XDH値
(図
6)、および血中
8-OHdG値 は、各測定日での経時的変化は認めなかった。
血中尿酸値におけるコントロール群と生存群の比較では、
day 0と有意に差を
認めたが、他の測定日との比較では有意な差を認めなかった。またコントロール
群と死亡群の比較では、
day 0と有意に差を認めたが、他の測定日との比較では
有意な差はなかった。
6
一方、血中
XDH値におけるコントロール群と死亡群の比較では、
day 0, 1, 3において死亡群で有意な増加を認めた。しかし、生存群との比較では、両群間に 有意な差を認めなかった。血中
8-OHdG値は、コントロール群と死亡群および生 存群での比較でも、各測定日で有意な差は認めなかった。
(4)転帰に影響を与える因子との関係
入院時のデータより転帰に影響を及ぼす因子について検討するために単変量 ロジスティック回帰解析を行った。その結果、年齢 (OR 1.1146, 95%CI: 1.0224-
1.2150, p= 0.0024),血中
XDH値
(OR 14.2493, 95% CI:2.5133-80.7864, p= 0.0002)、 入院時の
SOFAスコア (OR 1.4614, 95% CI: 1.1345-1.9735, p= 0.0025), Cre (OR
1.413, 95% CI: 1.0260-2.0179, p= 0.0345),乳酸値
(OR 1.3667, 95% CI: 1.1199- 1.6679, p= 0.0003)に有意に死亡と関連を認めた。
入院時の血中尿酸値および血中
XDH値に関して
ROC曲線を作成したところ、
血中尿酸値では
area under the curve (AUC)-ROC: 0.5675, p= 0.3223,血中
XDH値 では
(AUC)-ROC: 0.8163, p= 0.0002であった。血中
XDH値に関して
cut off値を 求めたところ、1.38 ng/mL において感度
92.8%、特異度61.9%であった。この値を用いて、敗血症症例を
2群に分け、
ICU退出時の生存率を検討した。血中
XDH値
1.38 ng/mL以上の群は、Log-rank 検定において有意に生存率の低下を認めた
(p= 0.0007)
。
共変量として年齢と入院時の
SOFAスコア、入院時の乳酸値、血中
XDH値を
それぞれ抽出し、多変量ロジスティック回帰分析を行った結果、入院時の
SOFAスコア, 年齢, 乳酸値は転帰との間に有意な関係はなく、血中
XDH値 (OR
8.8386, 95% CI: 1.4167-91.2121, p= 0.0178)が転帰
(死亡
)と関連があった。
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考察
本研究から、血中
XDH値は、敗血症症例の重症度の指標である
SOFAスコア と正の相関を認め、特に死亡に至る症例では持続高値を示し、敗血症死亡と関連 していることが明かとなった。XDH は、血漿中で
xanthine oxidase (XO)に変換
(16)
されるため、
XOと共に活性酸素種を発生させるキサンチンオキシドレダクタ ーゼ (xanthine oxidoreductase; XOR) の一つとして働く
(17)。これらの酵素反応の 産生物として発生する活性酸素は、虚血再還流障害などの種々の酸化ストレス 病態の一因であると考えられている
(18)。しかし本研究における敗血症症例では、
血中
XDH値は血中尿酸値と正の相関を示し、同時に血中
8-OHdG値が負の相関 を示したことは、極めて興味深い。一般的に
XORは、生体内では大部分は
XDHとして存在
(19)し、
nicotinamide adenine dinucleotide (NADH)酸化酵素として機能 している
(20)。また、XDH の
NADH酸化酵素活性は、XO の活性酸素産生能力の
4倍であることが知られている
(21)。以上のことから、血中
XDH値が血中
8-OHdG値と負の相関を示したことは、敗血症症例では血中
XDH増加により増加した尿 酸が、体内の酸化ストレス軽減作用が寄与している可能性が示唆された。
慢性疾患での
XOR阻害剤は キサンチンから尿酸生成過程による活性酸素発 生を持続的に抑制することで、これら病態の治療薬としても期待されている
(22)一方、XOR 阻害薬の急性発症の敗血症に対しての効果は一定の評価に至ってい ない
(23)。
最近、敗血症症例に対するヒドロコルチゾン, ビタミン C とチアミンの組み
合わせによる治療の可能性が報告
(24)されたが、炎症反応と酸化ストレスは関連
性があるとの報告
(25)からも、今後の敗血症に対する抗炎症・抗酸化療法に関す
る研究に期待がもたれる。
8
一般的に血中尿酸値は、脱水
(26)や腎機能や尿中尿酸排泄量の低下
(27)が関係し ていると考えられてきた。しかし、敗血症症例での死亡群と生存群との間で尿量 や輸液量、体液バランスでの差が認められても、その期間での血中尿酸値の変化 率には両群間で差がなかったことは、血中尿酸値は、単に脱水による体内水分量 の低下や腎機能だけでなく、敗血症による血中
XDH増加とその酵素作用による 血中尿酸の増加が関連していると考えられた。
本研究にはいくつかの
limitationが存在する。血中尿酸値の上昇は、血中
8- OHdG値の減少と直接の相関関係性を見いだすことができなかった。
8-OHdG値 は、生体内の酸化ストレスが亢進した状態を反映し、疾病だけでなく、年齢、運 動、食事、喫煙、睡眠などの生活習慣によっても変動する
(28)。血中尿酸値は、抗 酸化作用に働くが、体内には多くの酸化防御機構が存在するため、これらによる 抗酸化作用が関係するため血中尿酸値と血中
8-OHdG値は直接的な相関関係が なかったのかも知れない。また、本研究では、血中
XO値は測定していないため 血中尿酸値や血中
8-OHdG値との関係性を検討していない。生体内で産生され た
XDHが、どの程度
XOへの変換し、酸化ストレスに影響しているのかは不明 である。血中
XDH値は、敗血症の重症度と関連する
SOFAスコアと正の相関性 を認めた。
XOR遺伝子は、
interleukin (IL) - 1や
IL - 6、低酸素など様々な要因に より活性化されるとの報告
(29)から、敗血症による血中
XDH値増加の一因として 過度な全身性炎症反応や敗血症性ショックの合併など複数の因子が関係する可 能性が考えられた。
結論
血中
XDH値は、敗血症症例の重症度の指標である
SOFAスコアと正の相関を
認め、特に死亡に至る症例では持続高値を示し、敗血症死亡と関連している。
9
血中尿酸値は、単に脱水による体内水分量の低下や腎機能だけでなく、敗血症 による血中XDH値増加とその酵素作用による血中尿酸値の増加が関連している と考えられた。また血中
XDH値が血中
8-OHdG値と負の相関を示したことは、
敗血症症例では血中XDH増加により増加した尿酸が、体内の酸化ストレス軽減
作用が寄与している可能性が示唆された。以上から、敗血症では、過剰な炎症
反応だけでなく同時に存在する酸化ストレスに対する対策が新たな治療ターゲ
ットになる可能性が考えられた。
10 図1 敗血症症例の血中尿酸値とSOFAスコア
図2 敗血症症例の血中XDH値と血中尿酸値
11 図3 敗血症症例の血中XDH値とSOFAスコア
図4 敗血症症例の血中XDH値と血中8-OHdG値
12 図5 血中尿酸値の経時的変化
図6 血中XDH値の経時的変化
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