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博士の専攻分野の名称 博 士 ( 教育学 )

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Academic year: 2021

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(1)

論文審査の要旨

博士の専攻分野の名称 博 士 ( 教育学 )

氏名 小 笠 原 文 学位授与の要件

学位規則第4条第 ○ 1 ・2項該当

論 文 題 目

フランスにおける子どもの芸術教育の展開に関する研究

論文審査担当者

主 査 教授 坂越 正樹 審査委員 教授 七木田 敦 審査委員 教授 丸山 恭司

〔論文審査の要旨〕

本論文は,近年特徴的な展開を見せているフランスの芸術教育について,主に

1960

年 代以降の制度的充実とその背景となった理論を解明しようとするものである。フランスで は伝統的に芸術に対する「高踏教養」的な見方と芸術やアーティストの「反教育・逸脱文 化」的見方が並立し,義務教育制度が確立されてからも芸術教育は重要視されず,授業時 間も確保されないままであった。しかし本論文では,

1988

年の「芸術教育に関する法律」

制定を契機として,芸術を教育の中心に位置づける転換が生じたことを明らかにし,その 特質を描き出そうとする。そこで注目されるのは,芸術家を養成する「芸術のための教育」

と感性や情操の人間形成のための「芸術による教育」の統合であり,芸術の自律性を尊重 しつつ芸術を単なる教育の手段とはしない「芸術への教育」の実現であった。

第一章では,

19

世紀末以降のフランス芸術教育政策が跡づけられ,教育政策と文化芸術 政策との関係を軸にその展開が明らかにされている。

1960

年代から学校での芸術教育に関 心が持たれてはきたが,

1980

年代のミッテラン政権下ラング文化大臣(のち教育大臣)の 施策まで大きな進展は見られず,

1988

年「芸術教育に関する法律」 ,

2000

年「学校におけ る芸術文化の推進のための

5

ヶ年計画」等において芸術と文化の連携が図られることとな った。フランスの芸術教育は芸術文化の民主化政策とともに国家政策的に推進されたこと が明らかにされている。

第二章では,

2001

年に学校教育に導入された「芸術文化プロジェクト授業

PAC(classes à projet artistique et culturelle)」の実践事例が紹介され,その特質が分析されている。この プロジェクトは,学校教員がアーティストや研究者の協力を得ながら年間スケジュールとして 授業に組み込むもので,保育学校,小学校,中学校,職業高校において展開された。職業芸術 家が「学校参与アーティスト」として学校教育に関与する取り組みは,すでに1980 年代から 整備されてきたが,2001年以降それが「アーティスト・イン・レジデンス」実践として拡充さ れた。芸術家に学校の敷地内にアトリエが提供され,子どもたちと関わりながら自身の創作活 動を行っていくもので,今日フランス全土に定着拡大している。本論文では,特にリヨン市の 実践に注目し,10人のアーティストが10施設で週12時間の芸術活動を3~4年継続して行っ た成果が明らかにされている。子どもたちはアーティストの創作活動に触れることにより,自

(2)

らと素材との関わり方,成果としての作品制作,芸術家や他の子どもたちとの共感の経験を得 ていたのである。

第三章では,学校外の芸術文化施設におけるプロジェクトを取り上げ,考察している。これ は学校教員が授業内容と芸術(ないしアーティスト)を連携させ,他教科とのつながりを保持 しながら年間スケジュールを組んで,文化施設の協力の下に実施するものである。ペリグー地 区では小学校低学年児童を対象に旧石器時代を主題としたプロジェクトが通年で展開され,ま た幼児対象の舞台芸術体験活動においても,子どもたちの豊かな想像力や高い鑑賞能力が認め られたとしている。

第四章では,第二章及び第三章で見た実践活動の基盤となっている理論について,フランス 芸術教育政策や芸術教育理論において中心的な役割を果たしているケルラン(Alain Kerlan) に依拠しながら解明されている。ケルランによれば実践で示された子どもたちの集中力や真剣 さは,子どもにとっての「遊び」と同等のもので,それを入り口として「美的経験」が可能と なる。フランスでは,美を極端に高く評価する結果,一般市民や子どもから遠ざける傾向があ り,身体と精神,美的感性と知的理性との二元論も根強い伝統であった。ケルランが美的経験 の教育的意味を根拠づける手がかりとしたのは,シラーであり「芸術は完璧な唯一の教育であ る」という主張であった。

第五章では,シラーによる美的感性の復権をめざすロマン主義的芸術論をこえて,日常的な 経験の中に美的な性質を認めるデューイのプラグマティズムの芸術教育思想の意義が考察さ れている。デューイにおける美的行動は,自我と対象との相互適応であり,美的行動と認識行 動とは矛盾せず,ともに「世界とのつながり方を習得」する可能性を有している。同様の観点 で,ドイツの解釈学者ガダマーが,子どもの美的経験の原点には世界との対話や自己探求,創 造の活動があると洞察したことを踏まえて,フランスにおける芸術教育実践ではアーティスト が子どもの内面的な対話者となり子どもの美的経験を誘発していると明らかにしている。

結章では,最新の動向として「芸術文化教育パルクール PEAC(Parcours d’éducation artistique et culturelle)」(2013年)の取り組みが考察され,保育学校から高等学校までの就 学期間中,美的経験を通して個々人が芸術的教養を継続的に積み重ねていくこと,子どもをア ーティストにするのではなく「人間性の成就に関わる本質的領域」を培うことなど,今後の方 向性が提示されている。フランスでは,芸術自体が持つ教育力を信頼しその自律性が保証され ているのであり,フランスの芸術教育を主導するのは芸術自体である。それは「教育する芸術」

と称することができると結論づけられている。

本論文は,以下の点において高く評価できる。

(1)

フランスの芸術教育政策を精査して,

教育と芸術のアンビヴァレントな関係が芸術文化の民主化を経て,芸術が教育の中心に位 置づけられる転換の経緯を明らかにしたこと。

(2)

「芸術のための教育」と「芸術による教 育」の二方向的芸術教育論を「芸術への教育」論によって統合する可能性を提示したこと。

手段としての教育を脱して芸術それ自体の教育力を認める洞察は,芸術教育論に新たな視 野を開くものである。

(3)

これらの成果は,教科としてのディシプリンが不十分であるとさ れる我が国の芸術教育に理論的基盤を与え,理論と実践の接続に寄与しうるものである。

以上,審査の結果,本論文の著者は博士(教育学)の学位を授与される十分な資格があ るものと認められる

平成31年 2月 6日

参照

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