博士学位論文審査の要旨
【学位論文審査の要旨】
本論文は、小児がんにより長期入院している学童・思春期の子どもの気持ちを看護師が どのように理解し、関わっているのかを記述することを目的に、Leininger の民族看護学 を参考に関東地方にある総合病院の小児科・小児外科病棟でのフィールドワークを通して データを収集し、分析した質的記述的研究である。データ収集は、この病棟に勤務し、小 児がん看護に豊富な経験を持つ看護師6名を主要情報提供者として、1か月以上入院してい る 6~15 歳の子どもとのかかわりの場面の詳細な観察の他、インフォーマルおよびフォー マルなインタビューを通して行われた。近年、治療成績は著しく上昇しているものの、小 児がんは依然5~9歳、10~14歳の年齢別死因順位の第1位を占めている。様々な不安を抱 えた小児がんの学童・思春期の子どもたちは、自分の気持ちをなかなか表現せず、また、
こうした子どもたちの気持ちを理解しようとする看護師の関わりは、看護師自身が意識し ていないことも多く、その詳細について語られることがなかった。実際にがんの子どもた ちが長期入院している小児科・小児外科病棟に身を置き、観察やインタビューをすること によって、学童・思春期の子どもの気持ちを理解しようとする熟練看護師の様々なかかわ りを生き生きと描き出したところに本研究の独創性および学術的意義がある。また、一つ の病棟の文化として描かれた看護師の看護実践は、同じように学童・思春期の小児がんの 子どもへのアプローチに悩む小児領域の看護師に、大きな示唆を与えるものと評価できる。
結果として、「『アンテナ』を張って、『子どもの世界』を知り、信頼関係を築きながら、
子どもが気持ちを表出するのを待ち、その言葉を取り逃がさずに動き出していた」看護師 の実践が明らかになった。考察では、「子どもの世界」を知るために必要な、一見無駄に見 えるような「余計な話」や「余白の時間」の重要性や子どもからの発信を「待つ」姿勢、
子どもの気持ちを理解することを経験の浅い後輩看護師へ「伝える」こと等が論じられた。
審査会での主な質疑は、研究目的と研究の限界の関係性、研究テーマと目的の表現、情 報提供者の選定、主要テーマおよび大テーマの表現とオリジナリティ、看護実践および看 護学への貢献等についてであった。これらの指摘や質問に対して、論理的で妥当な回答や 発言がなされた。また、小児がんの子どもと家族の援助に関する研究に長年取り組んでき た研究者のこの領域における専門的知識の深さ、子どもや家族に対する誠実な態度、研究 に取り組む真摯な姿勢が示された。さらに、本研究での課題をもとに、新たな研究に取り 組んでいくという研究意欲が示された。
以上のことから、本研究が博士学位論文としてふさわしい水準にあると認め、申請者が 博士(看護学)の学位に相当するものと判断した。