1
新規 pH 応答ガラス電極の開発に関する研究
2016 年 4 月
三重大学大学院工学研究科博士後期課程 材料科学専攻
西尾友志
2
目次
第
1章 序章
1.1 緒言 P.5
1.2 pH
ガラス電極の歴史と
pHの定義
P.71.3 ガラス電極法のpH
測定原理
P.81.4 pH
応答ガラスについて
P.10第
2章 表面分析法を利用した
pH応答ガラス応答機構の解明および応答性の試み
2.1 緒言 P.16
2.2 実験 P.18
2.3 結果と考察 P.20
2.4 結言 P.25
第
3章
Y2O3と
Sc2O3添加による
pH応答ガラスの作製と応答性及び耐久性の評価
3.1 緒言 P.38
3.2 実験 P.39
3.3 結果と考察 P.42
3.4 結言 P.46
3
第
4章 ランタノイド希土類元素添加によるアルカリ用
pHガラス電極の作製及びその耐 久性の評価
4.1 緒言 P.66
4.2 実験 P.67
4.3 結果と考察 P.75
4.4 結言 P.90
第
5章 リチウムシリケートオキシナイトライド
pH応答ガラス ~pH 応答性及び耐久性 の評価~
5.1 緒言 P.93
5.2 実験 P.94
5.3 結果と考察 P.96
5.4 結言 P.98
第
6章 結言
P.109謝辞
P.1124
第 1 章 序章
5 1.1
緒言
世界の人口は70億人を超え,人類の活動による地球環境への負荷は増大しつつある。人 口が増加し続ける一方で,地球上に人類が飲料水として利用できる水は地球上の水の割合 は1%以下であり,水環境の保全は、今後一層重要となっている
(1)。現在、上下水、工場排 水、河川、汽水域、海水など様々な現場にpH計が設置され、連続して測定がなされている
(2.3.4)
。これらに用いられるpH電極は、希薄な溶液で安定して測定できることが求められて
いるが、応答性が悪かったり、ふらついたりする問題がある。また、微生物などの付着に よる汚れや、KClの補充などメンテンスの負荷が問題となっている。
pH計は、この環境水のほか化学プロセス、半導体プロセス、バイオプロセス、排水処理 プロセスなどの工場プロセスにおいて、強酸や強アルカリ、フッ酸溶液、100℃以上の高温 などの過酷な条件でも使われるようになってきた。これらの使用環境では、pHガラス電極 が溶解などにより劣化し、場合によっては数週間で寿命となることがある。
研究分野では、水溶液だけでなく、アルコールなどの溶媒などの特殊なpHが測定される ようになり、応答性や再現性に優れたpH電極が求められるようになった。また、生物分野 では、生体の細胞などのpHを測定するために微小化が求められつつあるが、それらを満足 できる電極はほとんどない。
このようにpHは、様々な分野で用いられるようになってきており、よりメンテンス負荷 が少なく、過酷な条件でも安定して測定が可能なpH電極が求められている(Fig.1)。
これらの現状に対し、視点を変えて研究開発について着目してみる。現在では、pHガラ ス電極が完成されたものと考えられており、
1990年ごろのSchottらの報告(5)からpH応答ガラ スの研究がほとんどなされていない。それだけでなく、Cremer
(6)がpHの原理を見つけてか ら100年以上経過した現在でもpH応答機構について議論がなされている。Nikolskyら
(7)の相 界電位説、
Eisenmanら(8)の拡散電位説の2つが有力とされているが、どちらの説も矛盾が指 摘されている。ここ数年では、橋本らは、アルカリ金属を含有せず、鉄や、チタンなどの 混合原子価の電子伝導性による新規なpH応答ガラスを開発しており
(9~11)、それらの原理を 包含するメカニズムは、報告されていないものと思われる。
前述のように、ここ20年近くpH応答ガラスの報告例は少ないのに対し、近年の分析機器 の発展は目覚ましいものがある。具体的には、SIMS(二次イオン質量分析法)やESCA
(X線光電子分光法)を用いることにより、pH応答ガラスの応答メカニズムの手がかりと
6
なりうると思われる。これらの知見をもとにしたpH応答ガラス組成の検討により性能向上 が期待され、前述の課題を解決できる可能性があると思われる。
そこで本研究では、はじめに水和遷移層の概念を基礎とする相界電位説の検証とpH応答 機構を調べるためにSIMSやESCAを用いて深さ方向におけるpH応答ガラスの元素分布を 調べ、水和遷移層の状態を測定した。さらに、そこで得られた知見を基に、実用性に優れ たガラスを作製した。
Fig.1、pH計の使用されている場所のイメージ図
河川、
湖沼、
海
工場排水
電力 下水処理場
上水道
半導体工場 工事現場 研究所
水処理
7 1.2 pH
ガラス電極の歴史と
pHの定義
ガラス電極の動作原理を初めて利用したのは、生理学者
Cremer(6)である(Figure 2)
(12)。
Cremerは、溶液の性質を調べるため、Figure 2 のガラス製の
Giese-Helmholtz cell(12)を 用いて、1 室を生理食塩水を入れ、もう
1室に硫酸/生理食塩水を入れて
a,b間の端子管電 位差を測定し、後者の酸性度に応じて電位が変化することを見出した。
さらに
1909年に
pHの概念を確立したのが、生理学者
SՓrensenであり、以下の式に よって定義した。
pH=-logCH+ (1)
(1)式のように定義されたが、この式は実際に測定することができないため、現在では、
標準液や手順を一義的に定義することによって、実用的に使用できるようにした
(13)。日本 では、実用的な定義として日本工業規格
JIS Z8802(14)の”pH 測定方法”が用いられている。
この定義では、この規格に規定した
pH標準液の
pH値を基準とし、ガラス電極
pH計に よって測定される起電力から求められる値と定義されている。つまり、
pH値が明白な
pH標準液を基準としてガラス電極と
pH計を用いて校正を行い、その
pH計で測定して得ら れた相対的な
pH値のことを
pHとするという定義である。(1)式のように水素イオンで定 義されて絶対的な量ではない点に注意する必要がある。このように
pH電極を用い標準液 を測定することで一義的に決定されているため、センサ部の
pHガラスの性能が、校正時 の傾きや誤差などに影響する。
Figure 2 Max Cremer (1925
年)
Figure 3 Giese-Helmholtz cell8 1.3
ガラス電極法の
pH測定原理
1.3.1 pH
計の構成
pH
計(工業用計器では変換機ともいう)は、pH 電極で発生した電位を入力抵抗の高い 増幅回路で受け、処理したうえで表示する計器である。工業用と実験室用をそれぞれ
Figure 4と
Figure 5に示す
(15)。
Figure 4
実験室用
pH計
Figure 5 工業用pH計(変換機)
pH
測定をする際に必要な装置は、実験室用(Figure 4)のでは、本体と
pH電極である。
工業用(Figure 5)は、連続して
pHをモニタリングすることが多く、設備に洗浄器を組 み合わせて使うことが多い。
1.3.2 pH
ガラス電極の構成
Figure6に一般的なpH
ガラス電極の構成模式図を示す
(15)。左側の電極が水素イオン
に応答し、電位を生じる作用極である。電極の先端部が
pH応答性を有する特殊なガラ スであり、pH を測定する上で最も大切な部分である。その他のガラス部分は、支持管 とよばれるガラス管であり、応答ガラスと熱膨張係数が近い絶縁性の高いガラスが用い られる。右側の電極は、比較電極と呼ばれ、どのようなサンプルを測定しても電位がほ
出
力 電
源
検出部 中継箱 変換器
洗浄器
複合電極 pH 計
電極スタンド
9
ぼ一定になるように作られている電極である。内部液には、高濃度の
KClなどの塩の溶 液が用いられ、液絡部と呼ばれる内部液がスローリークする構造からなっている。この 液絡部で電気的なコンタクトを取り、材質には多孔質のセラミックが用いられることが 多い。
これらの作用極と比較電極を組み合わせることによって、応答膜で生じた電位を測定 する。現在では、一番右の電極のようにこれらの極を組み合わせた複合型電極が主流と なっている。
Figure6 pH
ガラス電極の構成模式図
比較電極部
液絡部 応答部内部液
比較内部液 比較内極 応答部内極
pH
応答ガラス(p
H応答部)
KCl
補充口
比較電極 作用極
複合型電極
Ag/AgClV
10 1.4 pH
応答ガラスについて
1.3.2
で述べたように
pH応答ガラスは、
pH測定する上で最も重要な部分である。pH 応
答の原理が
Cremerによって見つけられて以来、多くの技術者の知見にもとづき種々の元 素を添加することによって
pH応答ガラスの性能向上が試みられてきた
(16~19)。近年では、
SiO2
が約
60mol%、Li2Oが約
30mol%、La2O3が
5mol%、その他に、アルカリ金属、アルカリ土類金属を含むリチウムシリケートガラスが広く用いられている。また、アルカリ 耐久性向上には、La
2O3、TiO
2や、Ta
2O5の添加が有用であることが報告されている
(20~23)
。これまでに
pH応答ガラスに用いられてきた元素を周期律表(Figure7)と
pH応答 ガラスの作製する上で、必要とされる特性と効果のまとめ(Table1)を用いて説明する
(22)。
1 属の赤で示した
Li、Na、Kは、ガラスのイオン電導性に寄与する元素であり、イオン 結合性を有する元素である。また、イオン半径の大きな
Csは、アルカリ誤差低減に有用 である。2 章にて詳細を述べるが、1 属の Li は、水素イオンの官能基となるシラノール基 を形成する重要な役割をする元素である。
pH
応答ガラスは、Li-Si-O の組成のみでおよそ感度
95%以上の性能を得ることができる。しかし、耐久性の向上、再現性の向上、応答性の向上、アルカリ誤差を低減させるに は、他の属の元素の添加が必要である。
2 属の青で示した元素は、イオン結合性を有する元素であり、ガラスの修飾酸化物と して添加される。pH 応答ガラスの性能としては、アルカリ誤差低減に有用である。特に Ba はイオン半径が大きく、ガラス骨格の隙間を引き締め、その効果が大きい。
3 属の緑で示した元素は、イオン選択性に寄与する
(25)必要不可欠な元素である。2 属 と同様に主に修飾酸化物として添加される元素であり、アルカリ誤差低減に有用である。
しかし、元素によっては、中間酸化物(ガラスのネットワークを形成)としても作用して いることも考えられ、
Perleyらの報告では、La は、ガラスの耐水性向上に有用であること を報告している
(24)。13 属の
Bや
Alは、Na イオン選択性に寄与し、Na イオン応答ガラス の作製に用いられる。
4 属の桃色で示した元素は、主にガラス骨格形成酸化物(ガラスのネットワークを形 成)であり、ガラスの耐久性に寄与する。酸やアルカリ溶液に対するガラスの化学的耐久 性向上に有用である。また、ガラスの加工性向上に有用である。
5 属の黄色で示した元素は、4 属と同様に骨格形成酸化物であり、ガラスの耐久性に寄
11
与する。特に Ta は、5 価の価数をとり、化学的耐久性向上に有用であり、ガラスの抵抗を 下げる効果を有する。フッ酸用 pH 応答ガラスに添加されることが多い。
pH 応答ガラスは、これらの効果を考慮して 6~8 種類の元素の酸化物を添加すること によって形成されている。
Figure7 pH
応答ガラスに用いられる元素(周期律表出展:Newton 10, 32 (2006))
Table1
成分元素と
pH応答ガラスの性能への寄与
Li2O ◎ × × △ × × ○
Cs2O × ◎ × △ × × ×
BaO × ◎ × △ ◎ × ×
La2O3 × ○ × ◎ ◎ × ×
SiO2 × ◎ × ◎ × ○
Ta2O5 〇 × ○ ○ ◎ ○
TiO2 △ △ ○ ○ ○ ○ ○
ZrO2 ◎ × ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
アルカリ誤差
修飾酸化物
骨格形成酸化物 骨格形成酸化物
+修飾酸化物
膜抵抗 耐酸性 耐アルカリ性耐薬品、耐水性 膨張係数 加工性
成分 特性
○添加すると性能向上、×効果なし(性能低下)
Figure7
より、大部分の元素について効果が確認されているが、3 属の元素が、イオン
選択性、アルカリ誤差や耐水性などの性能に大きく寄与するにも関わらず、Sc や
Y、ランタノイド属について報告が極めて少ないことある。La は、
pH応答ガラスに必要不可欠な
大
電子親和力 大
イオン半径 イオン化エネルギー
1
属(イオンキャリア)、但し
Rb、
Csなどは修飾イオン
2属(アルカリ誤差寄与):修飾イオン大
3
属(アルカリイオン選択性に寄与):ネットワーク
4属(耐久性):ネットワーク電気陰性度、酸素架橋 時の共有結合力に影響
イオン伝導性、イオン 結合力(クーロン力)に影響
耐久性に影響
5
属(耐久性):ネットワーク
12
元素にも関わらず、イオン結合性の結合が弱い元素で酸耐久性や膨張係数などに劣る。従 って、La と他の希土類元素に変えることによって、性能向上が期待できる。
本研究では、この
Laの他の希土類元素を調べることによって、ガラスの性能向上を試 みた。さらに、カチオンの添加だけでなく、アニオンである
N(5価)を添加し、O と置 換することによって耐久性向上が期待できる。
近年
pHを新しい手法で測定する技術が報告されている。例えば、ISFET(ion sensitive
field-effect transistors)、光学式
pH電極、導電性ポリマー電極などが報告されている。
(25)しかし、これらの電極は、
pHが
0~
14の範囲を高精度で安定して測定できる電極は見られ ない
(26)。
pHガラス電極は、水素イオン濃度が、
14桁濃度が変化しても高精度で測定でき、
通常の使用で数年使用できる。また、ガラス材料は、数千年の歴史があるだけでなく、安
価で環境負荷の少ない材料である。pH 応答ガラスが、他の材料に置き換わるにはまだ時間
がかかると思われる。
13
文献
1) I.A. Shiklomanov, John C. Rodda, World Water Resources atthe Beginning of the Twenty-First Century, CambridgeUniversity Press, 13(2004)
2) 上水試験法, 日本水道協会, (2011) 3) 下水道法,(2015)
4) 水質汚濁防止法,(2013)
5) F.G.K.Baucke, Ber. Bunsenges. Phys. Chem, 100, (1996) 1466-1474 6) M.Cremer. Z.Biol.,47, (1906)652
7) B. N. Nikolsky: Acta Physicochim. USSR, 7, 597(1937).
8) F. Conti, G. Eisenman: Biophys. J., 5, 247 (1965).
9) T. Hashimoto, M. Wagu, K. Kimura, H. Nasu, A. Ishihara, Y. Nishio, Y. Iwamoto:
Mater. Res. Bull., 47, 1942 (2012).
10) T. Hashimoto, M. Hamajima , H. Ohta, H. Nasu, A. Ishihara, Y. Nishio,Mater. Res.
Bull., 50, 385 (2014)
11) T. Hashimoto, F. Murayama, M. Nakao, H. Nasu, A. Ishihara, Y. Nishio,Materials, 8, 8624 (2015)
12)Fritz Scholz, J Solid State Electrochem,15,5–14(2011)
13) Roger G. Bates, “Determination of pH”, (1973) 14) JIS(日本工業規格), Z8805 (2011)
15)
西尾友志, 計測展セミナーテキスト,
(2012)16) Anatolii A, and Belyustin. . J. Solid State Electrochem, Vol. 15, 5–14(2011) 17) H.Bach, and F.G.K.Baucke. Electrochimica Acta, Vol. 16, 1311-1319 (1971).
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玉手徳太郎. 横河技術リポート
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岡田辰三.・西朋太・高橋寛. 工業化学雑誌
Vol. 61, 1534-1539 (1958)22)
大川浩美, 西尾友志,
Readout (HORIBA technical report), 41, 60-66 (2013) 23) G. Eisenman, “Glass Electrodes for Hydrogen and Other Cation” , Marcel Dekker Inc. New York (1967)24) G. A. Perley, Anal. Chem., 21, 394 (1949).
14
24) G. Eisenman: Biophys. J., 2, Part 2, Suppl., 259 (1962).
25) M. Yuqing, C. Jianrong, F. Keming, J. Biochem. Biophys. Methods 63 (2005) 1-9.
26)
大川浩美, セラミックス,
43(2008)1215
第 2 章
表面元素分析法を用いる pH 応答ガラスの応答機構
の検討と pH 応答性の改良
16
2.1.緒言
1906
年に
Cremerにより
1)、ガラスの
pH応答性が見出されてから
100年以上が経過した
現在でも、
pH応答ガラス電極の電位発生機構に関する理論は、未だに議論がなされている。
これまで報告されている多数の理論の中でも、近年では、拡散電位説や相界電位説が有 力である
2‒6)。ここで、拡散電位説は、ガラス膜を水素イオンのみが選択的に透過する膜で あると見なすものであり、濃淡電池のように、ガラス中を水素イオンが移動することがで きるという考えである
7,8)。一方、相界電位説は、ガラス膜を水素イオンが透過できない密 質膜と見なし、ガラス両端に発生する電位は、試料溶液|ガラス、ガラス|内部液の両端の相 界における
2つの電位跳躍の和であると見なす考えである
7,8)。しかしながら、これらの説 は矛盾が指摘されており、水素イオンの移動現象が観測できないことや、絶縁ガラスでは
pH応答がないことが報告されている
9,10)。さらに
2つの説を組み合わせた理論が、
Eisenmanら
9)によって提案されているが、この理論においても、ガラス膜全体が一つの均一な相に なっていることを前提としているため、実際とは異なり、矛盾が指摘されている
10)。
一方、上記の理論を裏付けるために多数の実験報告がなされてきた。例えば、
Abeらは、
移動性を有する水素イオンと有しない水素イオンの
2種類が存在していることを指摘し、
拡散電位説の考えから、
pH応答性は移動性水素イオンに起因していることを報告した
7,8)。 一方、相界電位説を説明するために
Hammondは、リチウムを基礎としたガラス膜を用い て電解を行い、水素イオンがガラス膜を通過するかどうかを調べた
11)。その結果、水素イ オンはガラス膜を通過せず、 水素イオン以外のカチオンがガラス膜を通過して電流 (電荷)
のキャリアーになっていることを提案した
11)。
Baucke
らは、pH 応答ガラス中の
Li+や
Na+のイオン濃度分布を分析し、pH 応答ガラス
のガラス表面とバルク領域では、元素の濃度が異なることを見出した。これらの結果から、
界面での反応を考察することで、水素イオンがガラス膜を透過しないことを説明した
12,13)。
さらに、
Bauckeは、ガラス表面のアニオン性基と水溶液中の水素イオンやアルカリイオン
との相界平衡に基づく解離メカニズムを提案し、この相界平衡がガラス電位や表面末端基 へのイオンの結合に影響を及ぼすことを示した
14,15)。この解離メカニズムでは、初めに
Liイオンと水素イオンの置換が起こるとしている。
≡SiOLi(glass) + H
+(glass)→
≡SiOH(glass) + Li
+(glass)(1)
17
これらの報告がなされた当時は、軽元素であるリチウムや水素イオンを直接分析すること は極めて困難であった。従って彼らの論文では、水素イオンの分布に関する情報や、水素 イオンがガラス内部へ侵入した層(水和遷移層)の概念は、報告されていない。
近年、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry: SIMS)や
X線光電子分光 法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis: ESCA)などの表面元素分析法の発展は目覚 ましく、
pH応答ガラスの表面分析への応用が期待できる。そこで本研究では、水和遷移層 の概念を基礎とする相界電位説の検証と
pH応答機構の解明を試みるために、
pH応答ガラ スを作製し、
SIMSや
ESCAを用いて深さ方向における
pH応答ガラスの元素分布を調べて、
水和遷移層の状態を評価した。さらに、そこで得られた知見を基に、校正の誤差や測定誤
差で問題となる
pH応答性に優れたガラスを作製した。
18
2.2.実験
2.2・1
pH応答ガラスの調製
pH
応答ガラスの調製には、通常の溶融法を用いた。SiO
2、Li2CO3、La
2O3、BaCO
3、TiO
2、
Ta2O5、Y
2O3(ナカライテスク㈱製)の粉末を量り取り、硫酸紙を用いて十分混合した。3 種類の組成の
pH応答ガラスを作製した。出発物質の組成を
Table 1に示した。これらの粉 末を白金るつぼに入れ、1350
oCで
3時間溶融し、1 時間毎に白金棒で撹拌した。溶融ガラ スを金属の平面板に垂らし、直径約
5mmの
pH応答ガラスの棒材とした(Fig. 1)。この棒 材に一部傷をつけて切断し、断面が平坦であるものを選択した。
2.2・2
SIMSによる
pH応答ガラスの分析
SIMS
装置は、アルバックファイ㈱製
PHI6600を用いた。O、Si、H、Li の測定では、1 次イオン源としてセシウム(Cs)を用いた。測定条件は、加速電圧
4 kV、ビーム電流30 nA、ラスターサイズ
300 μm2、エッチングレート
7 nm/min(ソーダ石灰ガラス換算)であった。
SIMS
測定は、pH 応答ガラス試料を調製した直後、室温で純水に約
3日間浸漬し、十分 乾燥させた後に行った。
2・2・3
ESCAによる
pH応答ガラスの分析
ESCA
装置は、アルバックファイ㈱製
PHI̶5600ciを用いた。測定条件は、X 線源として
Al-Kα単色光、アノード出力
150 W、X線電圧
14 kV、ステージ角45o、
X線プルーブ径
2 mm、パスエネルギー23.5 eV であった。また、エッチング条件は、
1次イオン種
Ar、ビーム電圧3.0 kV、ラスターサイズ4×4mm、エッチングレート約1.9 nm/min(SiO2
換算)であった。
バックグラウンド補正は、Shirley 法を用いた。マスク法によりチャージアップを軽減し、
チャージシフトは、表面の極微量の汚染炭化水素の
C 1sを
284.8 eVに補正した。
2・2・4
pH応答ガラスの応答性評価
作製した
pH応答ガラス
A, B, Cを、㈱堀場製作所製
pH電極#1076-10D と同形状に製膜 し、作用極の組立を行った。pH 電極#1076-10D は、電極部の長さ約
15 cm、応答膜の直径約
10mm、支持管の直径12mmであり、概略図を
Fig. 2に示す。
pH応答ガラス部分以外は、
19
市販の電極をそのまま用いた。pH 標準液(pH=4, 7, 9)は、粉末#150-4、#150-7、#150-9
(㈱堀場製作所製)を純水に溶解して調製した。また、塩基性水溶液は、
0.1 mol/Lの
NaOH水溶液(ナカライテスク製)を用いた。これらの標準液は、恒温水槽にて
25oCに保った。
比較電極は、Ag/AgCl 電極であるダブルジャンクションスリーブ型#2565-10C(㈱堀場製 作所製)を用いた。これらの電極を、pH 計
F-55(㈱堀場製作所製)へ接続して電位を測定した。
pH応答時間
Rは、
±0.5 mV/秒以内の変動で一定電位になるまでの時間と定義した。Ag/AgCl, 3.3mol/l KCl ,Ag
飽和溶液|3.3
mol/l KCl |試料溶液| pH応答ガラス|3.3
mol/l KCl,Ag飽和溶液,中性リン酸塩, Ag/AgCl
20
2.3.結果と考察
2・3・1
pH応答ガラス表面の反応
本研究では、まず界面におけるリチウム溶出の有無を検討した。溶出実験の結果から、
Li
イオン濃度は
150 mg/Lを示した。この値は
15 mgの
Liがガラス表面から溶出したこと になり、これは
4.3 mmol/cm2に相当した。したがって、ガラス表面近傍のリチウムイオン が水溶液中に溶解することによって、一部の官能基では、水溶液中の水素イオンと置換し ていることが予想される。
すなわち、リチウムイオンが溶出すると共に、水素イオンとの交換反応が部分的に起こ っていると思われる。これらの機構を、表面元素分析法によりさらに検討した。
≡SiOLi(surface) + H
3O+(soln)≡SiOH(surface) + Li
+(soln) + H2O(2)
3・2
SIMSによる主成分分析
Fig. 3
に、
SIMSを用いて測定したガラス
A試料に対する深さ方向の分析結果を示す。測
定元素は、酸素、ケイ素、水素、リチウムであった。水に浸漬させた後の表面層(10 nm)
とバルク層(200 nm)において、元素の構成比率が異なることが認められた。ここで、LiO として表示しているのは、イオン源として
Csイオンを用いているため、Li
+ではなく
LiO-となって検出されるためである。
Si、O
濃度は、水や水素イオン、水酸化物イオンの影響を受けず、表面層までほぼ一定 であるのに対し、Li 濃度はバルク層から表面層近傍へ、深さ方向に対して減少した。深さ
10 nmでの
Li濃度は、深さ
100 nmでの濃度と比較して約
1/100であった。逆に、
H濃度は 表面近傍では増加した。したがって、最表面近傍でリチウムイオンが溶出すると共に、水 素イオンとの交換反応が進行し、順次最表面から内部に向けて逐次リチウムイオンと水素 イオンとの交換反応が進行していると思われる。このことから、表面近傍からバルク層に 向けて、≡Si‒OH(シラノール基)が生成していると考えられる。
最表面から水素イオンとリチウムイオンが概ね一定となった距離が、水素イオンがガラ
ス内部へ侵入した部分であり、これを水和遷移層と見なすことができる(以下、水和層と
する)。本研究では、この距離を水和層の厚みと定義し、この水和層の厚みが
pH応答性に
21
密接に関連していると予想される。ガラス
A試料では、
Fig. 3において表面層から
Hと
Liの分布がほぼ平衡に達するまでの距離である水和層の厚みは、100 nm であった。
2・3・3 少量成分分析
水素とリチウムが
pH応答に対して大きな役割を果たしていることが分かったので、応 答ガラスを構成する成分中で、その他の構成成分による
pH応答の関与を調べた。ガラス
A試料の深さ方向におけるバリウム、セシウム、ランタン、タンタル、ケイ素、酸素の
ESCAによる濃度分布測定の結果を、Fig. 4(a)と(b)に示す。リチウムに対する
ESCAの感度 が著しく低いため、
ESCAではリチウムは検出されなかった。相対感度係数を用いて
ESCAから得られた結果から、元素組成比を計算した。バリウム、セシウム、ケイ素、タンタル、
酸素の濃度分布は、ほぼ一定であり、表面近傍の水和層においてもほとんど減少しなかっ た。一方、ランタンの濃度分布は、表面近く(20 nm 以下)で減少する傾向があった。し かしながら、深さ
10 nmと
20 nm以降における信号強度の変化の程度は、Fig. 3 の
Liと
Hと比較すると、非常に小さく、ほぼ一定であると見なすことができる。したがって、これ らの元素は、水和層領域においてもガラス骨格に保持されていると考えられる。
また、Fig. 5 は、ガラス
A試料の酸素のスペクトルを示す。表面からの深さが
10 nmと
100 nm
の位置で計測したため、それぞれ水和層とバルク層の領域の結果が得られた。波形
分離の結果、531.1 eV と
532.7 eVにピークを持つ
2個のスペクトルから構成されているこ とが分かった(2 個の点線曲線)。過去の文献
16,17)からピークの正確な帰属はできないが、
恐らく、ピークが
532.7 eVのスペクトルは、ガラスの
Si‒O‒Siの結合ネットワークに関す る架橋酸素に起因すると考えられ、ピークが
531.1 eVのスペクトルは、≡SiOLi やシラノ ール基に関する非架橋酸素に起因すると思われる。ピークが
531.1 eVのスペクトルの強度 は、水和層とバルク層でほぼ同じになると思われるが、≡SiOLi とシラノール基の割合が 異なるため、強度に違いが生じたと思われる。
pH
応答ガラスを構成する少量成分(バリウム、セシウム、ランタン、タンタル、ケイ素、
酸素)では、バルク層から水和層まで濃度分布が一定であることから、
pH応答への関与は
ほとんどないと思われる。したがって、リチウムと水素が
pH応答に重要な役割を果たし
ていると考えられる。
22
2・3・4 ガラス組成による水和層厚みの変化
水和層の厚みが
pH応答性に影響すると思われるため、水和層の厚みの薄いガラスの作 製を試みた。ガラスの耐水性を向上させることにより、水和層の厚みを薄くできると考え られる。耐水性向上に寄与する成分は、BaO、La
2O3、
TiO2の添加が有効であると報告され ており
18)、加工性などを考慮して、ガラス
B試料(Table 1 を参照)を作製した。
ガラス
B試料の
Csイオンを用いた
SIMS分析結果(O, Si, H, Li)を
Fig. 6に示す。ガラ ス
B試料の水和層の厚さは約
70 nmであり、ガラス
A試料の約
100 nmと比較すると、水 和層の厚みが
30%薄いガラスを作製することができた。また、ESCAによる少量元素の濃 度分布測定や酸素スペクトルの測定の結果は、ガラス
A試料とほぼ同様であった。
2.3・5
pH応答性評価
pH
応答ガラスの水和層の厚みと応答速度の関係を調べるために、ガラス
A試料と
B試 料の
pH応答性を調べた。
Fig. 7は、測定試料を
pH9標準液から
0.1 mol/lの
NaOH水溶 液に変えた時の
pH応答曲線を示す。±0.5 mV/秒以内の変動で一定電位になるまでの時間 として定義した
pH応答時間
Rは、ガラス
A試料では約
180秒(R
a)であったが、ガラス
B試料では約
100秒(R
b)であり、約
44%短縮された。以上の結果から、水和層の厚みが応答速度に寄与していることが示唆される。
2・3・6 ガラス
A試料の改良
ガラス
A試料は、耐アルカリ性、耐酸性やアルカリ誤差などの性能向上を目的として
Ta2O5と
Cs2Oを混合している。一方で、水和層の厚さが比較的厚いため(約
100 nm)、pH 応答性は比較的優れていない。そこで、耐アルカリ性、耐酸性、アルカリ誤差の性能を維 持しつつ、水和層の厚さを薄くし、pH 応答性に優れたガラスの作製を試みた。
一般的に、耐水性の向上とともに、アルカリ誤差を低下させるために、La
2O3を
pH応答 ガラスに添加しているが、La のイオン半径(1.03 Å: 配位数
6の場合
19))は比較的希土類 元素の中で大きいため、ランタンと酸素とのネットワークが弱く、 水和層の厚さが増加し、
応答性の遅延の原因になっていると考えられた。したがって、ランタンよりもイオン半径 が小さいイットリウム(0.90 Å: 配位数
6の場合
19))に変えることにより、水和層の厚さ を小さくし、応答性の向上を試みた。
ガラス
A試料の
La2O3(1 mol%)を
Y2O3に置き換えて、ガラス
C試料を作製した(Table
23
1)。Fig. 8
に、Cs イオンを用いた
SIMSによるガラス
C試料に対する深さ方向の分析結果
を示す。ガラス
C試料の
Hと
Liの分布が平衡に達するまでの水和層の厚みは約
70 nmで あると見積もられ、ガラス
A試料と比較すると、水和層の厚みが
30 nm薄くなった。
作製した
pH応答ガラス
A試料と
C試料を用いて、同様に作用極の組立を行い、pH 応 答性能を試験した。Fig. 9 にこれらの
pH応答曲線を示す。ガラス
A試料の応答時間
Raは 約
180秒であったが、ガラス
C試料の応答時間
Rcは約
60秒であり、約
67%短くなった。ここで
pH応答性能は、卑側と貴側のどちらから応答するかには左右されない。
以上の結果から、ランタンをイットリウムに置換することにより、水和層の厚みを、ガラ
ス
A試料の
100 nmからガラス
C試料の
70nmに薄くすることができた。その結果、応答
速度
Rをガラス
A試料の
180秒から、ガラス
C試料の
60秒へ向上することができ、応答 性に優れた
pH応答ガラスを作製することができた。
2・3・4 反応機構
本研究より予想された電位発生機構をまとめると、以下のようになる。
pH応答ガラスを 水溶液に浸漬させると、ガラス表面には、 バルク層と元素組成が異なる水和層が生成する。
つまり、リチウムイオンが溶出すると共に、一部、水素イオンとの交換反応が起こり、≡
Si‒OH(シラノール基)が生成する(式2)
。
ここで、水和層におけるシラノール基は、試料溶液中で
≡SiO‒基と平衡関係にある。この 関係式から、pH 応答が生じていると思われる。
≡SiOH(surface) + H2O(soln) →
≡SiO‒(surface) + H3O+(soln) (3)
この式では、H
3O+濃度に応じた平衡に達するため、pH 応答ガラスの水和層の両端、すな わちバルク側と試料溶液側の間に生じた電位が
pHに依存する。したがって、電位が発生 する仕組みは、試料溶液|応答ガラス、応答ガラス|内部液の両端の水和層において、発生す る電位から成り立つと考えられる。この考え方は、従来の相界電位説を支持すると思われ る。
試料溶液中に
pH電極を浸漬させた時、ガラス表面近傍の水和層において、SiOH 基と
SiO‒基は平衡関係にあると思われる。ゆえに、水和層の厚さが厚い場合には、平衡に達す
24
るまでに時間がかかるため、応答性が低くなると思われる。一方、水和層の厚さが薄いと、
平衡に達するまでの時間が短いため、応答性が高いと考えられる。
25
2・4結言
SIMS
や
ESCAのような表面元素分析法を用いて、深さ方向における
pH応答ガラスの元
素分析を行った。その結果、水に浸漬させた後の表面層とバルク層において、元素の構成
比率が異なった。最表面近傍でリチウムイオンが溶出すると共に、水素イオンとの交換反
応が進行し、順次最表面から内部に向けて逐次リチウムイオンと水素イオンとの交換反応
が進行していると思われる。最表面から水素イオンとリチウムイオンが概ね一定となった
ところまでを、本研究では水和層と見なし、この水和層における
Hと
Liが
pH応答に対し
て大きな役割を果たしていると思われる。この
pH応答機構では、pH 応答ガラス表面で相
界電位が生じていると考えられる。さらに、水和層の厚さが
pH応答速度に影響し、厚さ
が薄いほど応答速度が速くなることが分かった。
26
文献
1) M. Cremer: Z. Biol., 47,652,(1906).
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Bull., 47, 1942 (2012).
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阿部良弘: NEW GLASS, 12, 28 (1997).
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中部大学工学部紀要
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14) F. G. K. Bauche: J‒Non‒Cryst. Solids, 19, 75 (1975).
15) F. G. K. Bauche: J‒Non‒Cryst. Solids, 73, 215 (1985).
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Non‒Cryst. Solids, 357, 170 (2011).
17) R. Sawyer, H. W. Nesbitt, R. A. Secco: J‒Non‒Cryst. Solids, 358, 290 (2012).
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玉手徳太郎: 横河技術リポート
, 8, 18 (1979).19) D. R. Lide (Ed.): ”Handbook of Chemistry and Physics”, 85nd ed., 12-14, 15 (2004), (CRC Press, Boca Raton).
27
Table 1 Composition of starting materials.
Materials Glass A Glass B Glass C
SiO2 ~64% ~56% ~64%
Li2CO3 ~26% ~26% ~26%
La2O3 ~4% ~6% ~3%
BaCO3 ~2% ~6% ~2%
CsNO3 ~2% - ~2%
TiO2 - ~6% -
Ta2O5 ~2% - ~2%
Y2O3 - - ~1%
The value is mole percent
28
Figure 1
Photo of glass sample for surface anal ysis.
5mm
29
Figure 2
Schematic diagram of #1076 electrode.
内部液
pH応答ガラス膜
ケーブル
ガラス支持管 シールド部
Ag/AgCl Cable
Shield part Stem tube
Ag/AgCl
Internal solution pH glass membrane
30
Figure 3
Elemental concentration in the glass A sample as the function of depth by the analysis of SIMS.
10 100 1000 10000 100000
0 50 100 150 200
Intensity (cps)
Depth (nm)
Bulk Hydrated
O S Li H
31
Figure 4
Elemental concentration in the glass A sample as the function of depth by the analysis of ESCA. a) O and Si; b) La, Ta, Ba, and Cs.
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 20 40 60 80
At (%)
Depth (nm)
a)
O
Si
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 20 40 60 80
At (%)
Depth (nm)
b)
La Ta
Ba Cs
32
Figure 5
X‒ray photoelectron spectra of O1 S in the glass A sample. a) Depth 10 nm;
b) depth 100 nm.
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
526 528
530 532
534 536
538
Intensity (cps)
Binding energy (eV)
a)
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
526 528
530 532
534 536
538
Intensity (cps)
Binding Energy (eV)
b)
33
Figure 6
Elemental concentration in the glass B sample as the function of depth by the analysis of SIMS.
O Si
Li
H Bulk
H y d r a t ed l a y e r
34
Figure 7
pH‒response performance for glass A and B samples.
-380 -360 -340 -320 -300
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
E (mV vs. Ag/AgCl)
Time (s)
Sample A
Sample B
Rb Ra
35
Figure 8
Elemental concentration in the glass C sample as the function of depth by the analysis of SIMS.
O Si LiO
H
Hydrated layer Bulk
36
Figure 9
pH‒response performance for glass A and C samples.
-380 -360 -340 -320 -300
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180
E (mV vs.Ag/AgCl)
Time (s)
Sample C
Rc Ra
Sample A
37
第3章
Y
2O
3と Sc
2O
3添加による pH 応答ガラスの作製と
応答性及び耐久性の評価
38
3 . 1 . 緒 言
pH
応 答 ガ ラ ス は 一 般 的 な ガ ラ ス 組 成 と 大 き く 異 な り 、リ チ ウ ム を 主 と し た 約
30%の ア ル カ リ 金 属 を 含 む 特 殊 な 組 成 で あ る 。pH応 答 ガ ラ ス は 、一 般 的 に 、耐 久 性 に 乏 し く 、使 用 時 の 性 能 維 持 が 非 常 に 難 し い 。一 方 、近 年 で は 、pH は 水 質 測 定 の 必 要 不 可 欠 な 指 標 と な っ て お り 、 よ り 広 範 で 特 殊 な 試 料 溶 液 で 測 定 可 能 な 電 極 が 求 め ら れ て い る 。ま た 、微 生 物 培 養 で 必 要 な 蒸 気 滅 菌 処 理 は 、pH 電 極 を 劣 化 さ せ る 前 処 理 で あ り 、 耐 久 性 の 向 上 が 求 め ら れ て い る 。
耐 久 性 を 改 善 す る た め に 、 こ れ ま で
pH応 答 ガ ラ ス は 各 種 修 飾 金 属 を 含 有 さ せ て 、特 性 や 性 質 の 向 上 が 図 ら れ て き た
1 )。し か し な が ら 、現 在 、
pH応 答 ガ ラ ス は ほ ぼ 完 成 形 で あ る と 考 え ら れ て お り 、 耐 久 性 の 向 上 に 関 す る 研 究 報 告 は 極 め て 少 な い 。 現 在 、 一 般 に 使 わ れ て い る
pH応 答 ガ ラ ス の 組 成 は 、
SiO2:約
60 mol%、Li2O:約
30 mol%、La2O3:約
5 mol%で あ り 、 残 り の 成 分 は 、 ア ル カ リ金 属 や ア ル カ リ 土 類 金 属 を 含 む リ チ ウ ム シ リ ケ ー ト で あ る
2 - 4 )。
我 々 は 、先 に 、従 来 の 組 成 の
pH応 答 ガ ラ ス の 表 面 状 態 を 、2 次 イ オ ン 質 量 分 析 法(
S IMS)や X線 光 電 子 分 光 法 (
XPS) を 用 い て 評 価 し た 。こ の 結 果 、 応 答 ガ ラ ス の 最 表 面 か ら 約
100 nmの 深 さ ま で 、 リ チ ウ ム イ オ ン が 水 素 イ オ ン に 置 換 さ れ て い る こ と が 分 か っ た 。 こ の 層 を 水 和 層 と 見 な し 、 こ の 水 和 層 が
pH応 答 速 度 な ど の 性 能 に 起 因 し て い る と 考 え ら れ た 。 従 っ て 、 組 成 改 良 に よ っ て ガ ラ ス 骨 格 を 強 化 し 、 水 和 層 を 薄 く で き れ ば 、 応 答 性 や 耐 久 性 に 優 れ た
pH応 答 ガ ラ ス 電 極 を 作 製 で き る 可 能 性 が あ る 。
耐 久 性 を 向 上 さ せ る た め に 、
pH応 答 ガ ラ ス へ の 三 価 の 希 土 類 添 加 を 検 討 し た
研 究 で は 、
A. I. P arfenovら に よ る
Y2O3を 添 加 し た 例 が 報 告 さ れ て い る が 、 実
用 的 な
pH応 答 ガ ラ ス へ の 応 用 は な さ れ て い な い
5 )。 ま た 、
Sc2O3を
pH応 答 ガ
ラ ス に 応 用 し た 例 は 、 皆 無 で あ る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 ラ ン タ ン に 代 え て 、
電 子 親 和 力 の 高 い 三 価 の 希 土 類 金 属 の イ ッ ト リ ウ ム と ス カ ン ジ ウ ム の 利 用 を 検
討 し 、実 用 的 な
pH応 答 ガ ラ ス の 作 製 を 試 み た 。作 製 し た 応 答 ガ ラ ス に 対 し て 、
pH標 準 溶 液 に よ る 性 能 評 価 と 水 道 水 に 対 す る 応 答 性 の 評 価 を 行 っ た 。 さ ら に 、
応 答 ガ ラ ス 表 面 を
S IMSに よ り 測 定 し た 。 ま た 、
120 oC以 上 の 温 度 に よ る 蒸 気
滅 菌 (
SIP殺 菌 ) に よ る 繰 り 返 し 耐 久 性 評 価 も 行 っ た 。
39
3 . 2 . 実 験
3 . 2 . 1
pH応 答 ガ ラ ス の 合 成
pH
応 答 ガ ラ ス の 調 製 に は 、通 常 の 溶 融 法 を 用 い た 。
SiO( 特 級 )
2 、Li2CO(
3 99%)、La2O3
(
99.99%)、BaCO3(
98%)、Ta2O5(
99.9%)、Y2O3(
99.9%)( ナ カ ラ イ テス ク ㈱ 製 )、
CsNO3(
99.9%)( 和 光 純 薬 工 業 ㈱ 製 )、Sc2O3(
99.99%)( 三 ツ 和 化学 ㈱ 製 ) の 粉 末 を 量 り 取 り 、 硫 酸 紙 を 用 い て 十 分 混 合 し た 。 こ れ ら の 粉 末 を 白 金 る つ ぼ に 入 れ 、1400
oCで3時 間 溶 融 し 、1時 間 毎 に 白 金 棒 で 撹 拌 し た 。溶 融 ガラ ス を 金 属 の 板 に 垂 ら し 、 直 径 約
5 mmのpH応 答 ガ ラ ス を 作 製 し て 棒 材 と し た 。 本 研 究 で 作 製 し た ガ ラ ス 組 成 を 、
Table 1~3に 示 す 。3 . 2 . 2
pH応 答 ガ ラ ス の 性 能 評 価
作 製 し た
pH応 答 ガ ラ ス を 、 ㈱ 堀 場 製 作 所 製pH電 極 (#1076-10D) と 同 形 状 に製 膜 し 、 作 用 極 の 組 立 を 行 っ た 。 用 い た
pH電 極 は 、 電 極 部 長 さ は 約15 cm、 応答 膜 直 径 は 約
10 mmで あ り 、 応 答 膜 の 厚 さ は 約0.15 mm、 支 持 管 直 径 は12 mmであ っ た 。
pH電 極 の 概 略 図 をFig.1に 示 す 。p H応 答 ガ ラ ス 部 分 以 外 は 、 市 販 の 電極 を そ の ま ま 用 い た 。pH標 準 溶 液(
pH=4, 7, 9)は 、粉 末
#150-4、#150-7、#150 -9( ㈱ 堀 場 製 作 所 製 ) を イ オ ン 交 換 水 に 溶 解 し て 調 製 し た 。 ま た 、 塩 基 性 水 溶 液 及 び 酸 性 水 溶 液 は 、 そ れ ぞ れ
0.1 mol/Lの
NaOH水 溶 液 と1.0 mol/LのHCl水 溶 液( 両 方 と も ナ カ ラ イ テ ス ク ㈱ 製 ) を 用 い た 。 こ れ ら の 標 準 溶 液 は 、 恒 温 水 槽 に よ り
25 oCに 保 っ た 。 比 較 電 極 は 、Ag/AgCl電 極 ダ ブ ル ジ ャ ン ク シ ョ ン ス リ ー ブ 型 #
2565-10C( ㈱ 堀 場 製 作 所 製 ) を 用 い た 。 こ れ ら の 電 極 を 、pH計F-55( ㈱ 堀場 製 作 所 製 ) に 接 続 し て 電 位 を 測 定 し た 。 実 験 系 は 、 以 下 の 通 り で あ る 。
pH4
、pH7、pH9 標 準 溶 液 の 起 電 力 を そ れ ぞ れ
3分 間 測 定 し 、各 溶 液 に 対 す る 理 論 起 電 力 に 関 す る 感 度 を 求 め た 。 ネ ル ン ス ト の 式 よ り 溶 液 の 温 度 が
25 oCの 時 、
1 pHあ た り 理 論 起 電 力 は
59.16 mVと な る 。 更 に
2種 類 の 標 準 溶 液 を そ れ ぞ れ
a, bと す る と 、 感 度 は 以 下 の 式 の よ う に 示 さ れ る 。
Ag/ AgCl, 3.3 mol/ L KC l, Ag
飽 和 溶 液
|3.3 mol/ L KCl |試 料 溶 液
|p H応 答 ガ ラ ス
|3.3 mol/l KCl, Ag