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英語の応答形式について―TOEIC の応答問題を分析 する―

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(1)

する―

著者 澤田 茂保

雑誌名 言語文化論叢

巻 24

ページ 1‑30

発行年 2020‑03‑30

URL http://doi.org/10.24517/00057381

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

英語の応答形式について

―TOEIC の応答問題を分析する―

澤 田 茂 保

1. 始めに

応答は話し手と聞き手の双方が存在する場面があってこそ成り立つ言語形式 であり、場面性と双方性を欠く書きことばには原理的に存在しない。応答形式 は厳密な意味で話しことば(spoken language)でしか存在しないので、話しこと ばの文法を考える上では好個の研究対象である。

本稿は話しことばの文法論という立場から英語の応答形式を考察する。しか し、応答一般の射程は非常に広範囲なので、本稿ではTOEIC Part 2(以下、TP2) の問題を対象にして英語学的な分析を試みることとする。第2 節では、TP2の 質問文を文構造と談話構造の面から考察する。第3節では、質問文を受けての 多様な応答形式について、そのパターンを見る。この第3節では主に質問の形 式を取り扱うので、第4節では非質問文、つまり、陳述文に対する応答につい て考察する。そして、第5節では、TR2の「引っかけ(distractors)」について概 述する。

2. 応答問題の形式について

応答は先行発話を必須とするため、応答を単独で考察することはできない。

狭義には≪質問-応答≫(TP2ではQuestion-Response)の対となるが、質問文で なくても応答することは可能なので、広義には「会話分析」における≪隣接ペ

(3)

ア(adjacency pairs)≫という概念で捉えられるべきである1

いまTP2の問題文を「起部」、その正答の選択肢を「応部」と呼ぶと、狭義と 広義では、以下の対応関係になる。

(1) 起部:Are you a student? Question ― 第1ペア部(first pair part) 応部:Yes, I am. Response ― 第2ペア部(second pair part)

会話分析の用語は意図的に機械的な名称となっており、また、第1ペア部は必 ずしも質問とは限らない。そこで本稿では起部と応部の用語を使う。

本節では起部を考察する。2.1節では、起部の文構造の分析を行い、2.2節で は談話構造上の分析を行う。対象とする範囲は公式問題集にある合計150問を 取り上げる2。以下ではTP2は対象範囲の150問を指すものとする。

2.1 起部の文構造

TP2に現れる起部を文構造から分類すると以下のようになる。

文構造的に疑問文(interrogatives)、平叙文(declaratives)、命令文(imperatives) の3種類がある3。さらに、疑問文にはwh-疑問文、yes-no疑問文、「付加疑問文

(tag questions)」、「選択疑問文 (alternative questions)」の主要な疑問文形式が ある4。四つの主要疑問文は文構造上で排他的である。TP2に平叙文/命令文が出 現するのはパート名称とは語義矛盾であるが、隣接ペアという概念からは自然 なものである。点線矢印は対面コミュニケーション上の機能を持つと解釈され

(4)

る場合がある文構造を示す。また、原理的にすべての文構造に否定語が現れう る。否定語の出現と機能的解釈文は排他的ではないので、例えば、Why don’t you

…?はwh-疑問文であり、否定疑問文であり、ある文脈では機能的な疑問文とし

て解釈される。

さて、TP2の起部の文構造の形式の分布をまとめると表1のようになる5

起部形式 RD1 RD2 GY1 GY2 GN1 GN2 合計 比率 wh-疑問文 12 11 11 10 8 12 64 42.7 yes-no疑問文 7 7 7 9 9 5 44 29.3 付加疑問文 2 2 2 2 3 2 13 8.7 選択疑問文 2 2 2 2 2 1 11 7.3 命令文 0 1 0 0 1 1 3 2.0 平叙文 2 2 3 2 2 4 15 10.0 合計 25 25 25 25 25 25 150 100.0

wh-/yes-no疑問文で7割を占めて、他は3割程度に抑えられている6。この分布

は現実のやりとりを反映していると言うよりも、文法上のバランスであると推 察される。試験バージョンでは、RD1~GY2までの分布は比較的安定している が、GN1とGN2はぶれている。この分布は試験バージョンの難易に関係すると 思われる。

次に起部形式を極性の点から見てみる。否定語が起部の主節部に現れたもの を内数でまとめると表 2 となる。純粋な意味での否定疑問文は wh-疑問文と

yes/no 疑問文である。付加疑問文は主節部に否定語があれば算入した。また、

選択疑問文の主節部で否定語がある例はなかった。

表1

(5)

起部形式 RD1 RD2 GY1 GY2 GN1 GN2 合計 比率 wh-疑問文 1/12 1/11 1/12 3 3.1 yes-no疑問文 1/7 3/7 2/7 4/9 3/9 1/5 11 24.4 付加疑問文 1/2 1/2 1/3 3 23.1 平叙文 1/2 1/3 1/2 3 20 合計 3 4 5 4 5 2 20 12.7

純粋な否定疑問文は14例(9.3%)である。否定語文は試験バージョンでかなり 偏りがある。否定語の存在は難易度を上げるので試験間の差違につながると考 えられる。

wh-疑問文の否定形は特殊なコンテクストが必要である。例えば、What didn’t you buy?とあれば、There is something that the hearer didn’t buyが前提となった文 脈が想起される。つまり、一定の商品を買うことを前提に意図的に買わなかっ た商品を聞くような場面である。起部を聞いただけで、このような特殊なコン テクストを想起することは情報処理上の負荷が高い。従って、TP2 の設問とし ては不適切である。他方で、ある事態の不生起は常に理由を聞くことができる。

そのため否定語がwh-疑問文に現れるとしたらwhyである7。実際TP2にあった 2例はwhy疑問文であった。

否定形式はyes/no疑問文で多く出現する。否定yes/no疑問文11例の内、6例 で主語が非代名詞、5例が定冠詞主語、1例が固有名詞主語である。後述のよう に、通例は代名詞主語が多いが、否定疑問文では著しく非代名詞主語が多い。

これはいかなる理由であろうか。否定疑問文は話し手が肯定の答えを期待して いて、それに反した状況認識がある文脈で現れる8。そのため、一般に驚きや不 信などの語感を伴うことが多い。設問としては文法上入れざるを得ないので、

非代名詞主語の方が余分な感情付加を伴わないからかも知れない。

次に、機能的に解釈される起部を見る。機能的に解釈される疑問文(以下、

表2

(6)

「機能疑問文」)とは形式上は疑問文だが、情報を求めているわけではなく、聞 き手に対して何らかの働きかけを行う文形式である9

(2) a. Can you drop this packet off at the accountant's for me? [GY1_17]

b. Shall I show how to make the font size larger? [GY2_29]

c. Would you like me to bring you another soft drink? [GN2_10]

例えば、(2a)は形式的にはyes/no疑問文であるが、ふつう“Yes, I can.”とか “No,

I can’t.”と応じない。なぜなら、(2a)は主語能力を聞いているのではなく、相手

に対してある行為をしてほしいと「依頼(request)」しているからである。機能 疑問文には斜字体部のように冒頭部に熟語化した機能語連鎖がある。起部の分 布を見ると表3になる。

起部形式 RD1 RD2 GY1 GY2 GN1 GN2 合計 比率 wh-疑問文 1/11 1 1.6 yes-no疑問文 2/8 2/7 2/7 2/9 2/9 2/5 12 26.7 命令文 1/1 1/1 1/1 3 100 平叙文 1/2 1/3 1/2 3 20

合計 3 3 4 2 4 3 19

命令文と平叙文も便宜的に入れると、機能的に解釈される起部は19例(12.7%) であった。試験バーションで若干凹凸はあるが、ほぼ3例は出現する。wh-疑問

文1例はHow about…?(提案)である。命令文と平叙文は固定形式で、前者は

Let’s形(勧誘)のみ、後者はI’d like …(依頼)だけなので、yes/no疑問文にお

いて共起性が高いと言える。yes/no 疑問文は、否定形と同じく、機能的解釈文 として高い頻度で共起していることがわかる。その理由は、yes/no 疑問文自体 は単純な質問文のために、設問の難易度を高くしているのであろう。

表3

(7)

2.2 起部の談話構造

TP2 の問題形式は、原理的には、一連の談話から隣接した二つの発話を切り 取った構造になっているといえる。現実場面では話し手と聞き手が場面を共有 しており、その場面でのすべての情報が影響を与えて談話の流れを構成する。

起部から開始する会話は、それが挨拶などの場合を除けば、不自然である10。こ のことは、解答者は起部を聞いてその前に発生している談話(あるいは発話の 場面)を想起することが求められることを意味する。その負荷が高ければ難易 度は高くなり、容易であれば低くなる。

この想起が起部のどのような要素によってなされるか考えてみよう。いま疑 問文の起部を冒頭部と述部に分ける。

疑問文の冒頭部は≪(wh-要素) - 第一助動詞 - 主語≫である。この部分は英 語の言語的特性から、質問であることを構造的に示すと同時に、重要な情報、

とくに直示情報(deictic information)が集中する。直示情報は代名詞や時制等を 表す機能語類で、現実場面で指示対象を必要とする言語的要素で担われる。

起部が疑問文形式(wh-, yes/no-及び選択疑問文)の例(119 例)だけで見る と、冒頭部には376語が使われている11。そ

のうち229語は機能語(wh-要素、代名詞、

助動詞類、冠詞類)で、実に 79.5%に達す る。TP2 の冒頭部は機能語の連鎖であると 言ってもよい。次に、主語の言語形式を表4 に示す。

非人称の起部はHow long will it take…?で、

指示詞はWhose glasses are these?であった。

また、there は存在文の例であり、wh-疑問 詞句はwhoやwhatなど単独のwh-疑問詞の

人称代名詞類

一人称 20 二人称 42 非人称 1

指示詞 1

there 2

wh-疑問詞句 11

名詞句主語 42

合計 119

表4

(8)

例とwhat time, how long, which departmentのような句となる例の総数である。主 語に使われる語は65%が機能語類である。また試みに、名詞句主語を単に1語 と数えると、冒頭部で機能語が発生する比率はさらに上がり87.5%となる。

表4が示すように、主語には一人称・二人称代名詞が集中する。解答者は起 部を聞いて場面状況・談話状況を想起しなければならない。情報処理の負荷が 最も低いのは一人称・二人称代名詞である。応答が場面を前提にしている以上、

Iとyouは必ず存在するので、余計な情報を場面から求める必要がない。一方、

同じ人称代名詞でも三人称が冒頭部に現れると情報処理の付加は高くなる。そ れが何を指しているかは場面からの復元が必要であるからである。従って、TP2 の起部の主語には三人称は使われていない12

他方、代名詞主語に比べて名詞句主語は負荷が高い。しかし、名詞句主語42 例のうち固有名が6例、その他は定冠詞(26例)や指示詞類(2例)もしくは 所有格代名詞(5例)である。唯一不定冠詞の例が1例あり、それはthese is構 文における使用である。定名詞句は、談話中に導入されれば、指示対象の特定 という情報処理が加わる。固有名詞自体は情報処理的には負荷は低い。(逆に、

それが固有名詞と処理できない場合、不明語が主語にあり、もっとも負荷が高 いであろう。)また、所有格代名詞は一人称である場合、その分の負荷が低い。

また、定名詞句表現が長くなればなるほど、場面の想像に負荷がかかる。こう いったいくつかの要因が微妙に難易度の高低に係わっていることが想像される。

一般的に言って、起部の冒頭部では、情報処理上の負荷が低い語を組み合わ せており、設問の構成上、起部だけで場面を理解する負担を軽減しているとい える。他方、冒頭部を聞き逃すと、そこはwh-要素や直示情報が集中するので、

求められる情報カテゴリーがわからなくなったり、想起される発話場面でアン カーできなかったりするので、正確な応答ができない。従って、冒頭部に神経 を集中することが肝要であるといえる。

次に述部を見てみる。述部は設問の根幹的な内容を担うので、構成上の制限 はなく、内容語(content words)の使用度が高くなる。そのため語彙力や聴解力 が理解に直に反映する。また、冒頭部と同様に、述部での代名詞の存在は指示

(9)

対象の特定の情報処理量と関係する。述部の本動詞の種類と述部内の代名詞の 使用について見る。

be動詞文を除いて、起部に発生する動詞を以下に挙げる。( )内は出現数で、

未表示は1回の出現である。

like (6), have (5), know (4), leave (4), want (4), find (3), go (3), see (3), start (3), take (3), buy (2), close (2), come (2), give (2), meet (2), organize (2), sell (2), turn (2), accept, announce, approve, attach, block, book, cancel, change, check, choose, close, contact, designate, drive, drop, eat, enjoy, exhibit, expect, finish, focus, hear, help, include, invite, involve, last, lead, make, need, order, prepare, present, put, remind, repair, replace, work, write

common verbsが繰り返して使われており、また1回の語彙でも難易度の高い語

はほとんどない。このことは、TP2には、若干ビジネス調の語彙が多いものの、

場面を瞬時に想起できないような高難度の動詞は使われない、といってよい。

また、述部には場面で指示対象の同定が必要な代名詞は使われていない。使わ れる代名詞はほぼ一人称・二人称に限られており、三人称であっても、すべて 文内照応形で、発話場面で指示対象を同定する負荷がない。

まとめると、起部の冒頭部は場面を想定する重要な情報が含まれるが、その 多くは情報処理上負荷の低い機能語が多い。また、述部には一般語彙でも難易 度が低い語彙が使われており、情報処理の負荷を高める代名詞類は述部にも現 れない。

3. 応部について

TP2の問題形式では応部として三つの選択肢がある。一つは可能な応答(=正 答)であり、残り二つは「引っかけ(distractors/ 以下 DTRs)」である。DTRs は第5 節で分析することとして、本節では、前節で見た多様な起部に対する応 答のパターンを分析する。

(10)

応部は質問文の求める情報を直接的に与える「直接応答」とその情報を直接 与えずに間接的に応じる「間接応答」に分かれる。文構造の種類に従って考察 する。非質問文への応答は第4 節で一括して論じることとして、まず第3.1節

と第3.2節でwh-疑問文/yes/no疑問文の直接応答と間接応答をそれぞれ取り扱い、

その分析を踏まえた上で、第3.3節と第3.4節でその他の文構造である選択疑問 文と機能的疑問文の直接応答と間接応答を見る。

3.1 直接応答

3.1.1 wh-疑問文の直接応答

wh-疑問文の直接応答は、次のように、冒頭のwh-要素が求める情報を直接的 に与える応答である。

(3) Q: What time does the restaurant close? [RD1_7]

R: At eleven o'clock.

(4) Q: Who chose the restaurant for the company banquet? [RD2_13]

R: Someone from Human Resources.

構造的には、(3R)では起部と平行するThe restraurant closes at eleven o’clockの 下線部が消失しており、(4R)では Someone from Human Resources chose the restaurant for the company banquet が消失していると考えられる。Quirk et al.

(1985)は、このような消失現象を「テキスト省略(textual ellipsis)」と呼んだ。

本稿では、このような応答を「テキスト省略応答」と呼ぶことにする。テキス ト省略応答は、起部の文構造と平行的な構造が応部で省略され、wh-要素の情報 だけが直に出現する。wh-要素になり得るすべての統語的な単位で可能である。

他方、テキスト省略をしない例もある。次のような場合である。

(5) Q: What is the name of the new intern in the design department?

R: I think it's Sammy, but I'm not sure. [GN2_12]

(6) Q: Whose glasses are these? [RD1_16]

R: They're not mine.

応部で wh-要素の情報が直接的に与えられているが、起部と平行する構造は省

略されず代用形(substitution form)が現れている。これを「代用形応答」と呼

(11)

ぶことにする。代用形は機能語連鎖なので、冒頭部はさらに話しことばに特徴 的な状況省略(situational ellipsis)を受けることがある13。状況省略を受けると、

(5)の応部は“Sammy, I think, but I’m not sure”に、(6)は“Not mine”のようにな るであろう。テキスト省略応答と代用形応答は文法構造的に常に可能な応答形式である。

代用形応答はbe動詞文では標準的な応答である14

(7) Q: Where is the furniture department? [RD2_8]

R1: It’s on the tenth floor. (代用形応答)

R: On the tenth floor. (テキスト省略応答)

(8) Q: Which department is on the second floor? [GY2_8]

R1: The Customer Service department is. (代用形応答)

R: Customer Service. (テキスト省略応答)

(7R1)の itは起部の下線部主語と照応する代名詞である15。また、(8R1)のis はbe動詞文の述部代用形である16

他方、do 動詞文では若干様相が異なる。wh-要素が主語の場合は、(9)の代 用形応答は(9R)のように述部全体が述部代用形のdoで置き換わる。なお、(9R1)

はテキスト省略応答である17。他方で、wh-要素が目的語の場合はテキスト省略 応答が標準的になる。それは英語には目的語を除く述部代用形がないので、例 えば、(10R1)と(10R2)の対比が示すように、代用形応答では動詞を繰り返 さざるを得ないからである。

(9) Q: Who led the budget presentation yesterday? [RD2 9]

R: Ms. Varma did.

R1: Ms. Varma.

(10) Q: Which real estate angency did you use to sell your house? [GY 15]

R: The one that Luis recommended.

R1: I used the one that Luis recommended.

R2: *I did the one that Luis recommended.

代用形応答は求められる情報を直接与えており直接応答の一つである18。 次に、TP2 には明確な例がなかったが、第三種の直接応答として非指示的な it(non-referring it)を使う応答があることを付記する。(11)を見てみよう。

(12)

(11) Q: Do you know who's planning Jane's going-away party? [GY2 14]

R: I think it's Tom Shields.

(11Q)はyes/no疑問文であるが、これをWho’s plannig Jane’s going-away party?

としても応部は成り立つ。この場合の応部のitは指示物がない。通例I thinkや

Maybeなどのモダリティ表現とともに用いるが、基本的に、wh-疑問文に対する

可能な応答の一つである。実際、(8Q)に対して、“I think it’s the Customer Service

department.”は可能である。このbe動詞は以下のように時制の一致は受けるが、

数の一致はない。

(12) Q: How long will it take to fix the copy machine? [RD1_9]

R1: I think it’ll be about an hour.

(13) Q: Who chose the restaurant for the company banquet? [RD2_13]

R1: I think it was someone from Human Resources.

(14) Who will lead this project? ― I think it’ll be John and Sarah.

― *I think they’ll be John and Sarah.

wh-要素が求める情報をI think it BE Xの形式においてXの位置で直接的に与え

ている。これはテキスト省略応答でも代用形応答でもない。制限的な形式の応 答で、「it-応答」と呼ぶことにする19

なお、次例はこのit-応答と区別すべきである。

(15) Q: Where can I find the most recent sales data? [GN1_7]

R: It's on my computer.

(15R)のitは起部の名詞句と照応的関係にある。ただし、起部と応部で構造は 変化している。起部構造を変えて求める情報を伝える応答は後述する。

以上、wh-疑問文の直接応答を三種見たが、いずれもwh-要素の情報を直接的 に与える応答である。TR2の分布状況は全部で38例あり、テキスト省略応答(35 例)、代用形応答(3例)で、it-応答はなかった。

3.1.2 Yes/no 疑問文の直接応答

Yes/no疑問文の直接応答は冒頭のYes/NoでYes-responseとNo-responseに分

(13)

かれる。次のような例である。

(16) Q: Is the doctor in today? [RD1_19]

R: No, she's not.

(17) Q: Aren't there any direct flight to London from here? [GY1_16]

R1: No, there aren’t anymore.

これは中学レベルの基本応答である。この応答形式はYes/Noの応答片と≪代名 詞主語+第一助動詞≫の機能語連鎖、つまり、タグ部から構成されているので「タ グ応答」と呼ぶ20。タグ応答は起部との構造的な平行性を基にしているので、

yes/no疑問文における代用形応答といえる21

実際のところ、TP2 にはタグ応答のような単純な応答は稀で、次のようなタ グ部を欠く例がほとんどである。

(18) Q: Did you enjoy the dance performance last night? [RD1 10]

R: Yes, it was even better than I expected.

wh-疑問文の類推で言えば、タグ部を欠く応答はyes/no疑問文が求める真偽判断

だけを伝えるので、yes/no 疑問文のテキスト省略応答であるといえる。(18R)

では、テキスト省略応答に続いて、何らかのコメントを述べていると言える。

実は、このRはYesがなくても応答として成り立つ。その場合、yes/no疑問文 が求める真偽判断を直接的に与えていないので、間接的な応答となるので後述 する。

応答片後の発話は起部への関連した追加情報である。起部と応部のつながり を感じる理由は、先行する真偽判断と推論関係が存在するからである。

(19) Q: Are you going to accept the management position? [RD2 14]

R: Yes, I start June first.

(20) Q: Does Marth know that we've made a lunch reservation for one o'clock?

R: Yes, I sent her an e-mail about it. [GN1 14]

(19R)にタグを加えれば、“Yes, I am. So I start June first.”となり、後半は帰結 である。また、(20R)は“Yes, she does. Because I sent her an e-mail about it.”とな り、後半は理由である。

次例はコメント部に質問文が来ているので、便宜的に「質問文応答」と呼ぶ。

(14)

(21) Q: Do you know who this jacket belongs to? [RD2 17]

R: No, where did you find it?

(22) Q: Did you hear the news about the merger? [GN1 22]

R: No, was it announced?

これらは後述の不知応答でもある。ただし、knowやhearの主節部のため、応答 片がないと不自然で、唐突な応答となる。

さて、付加疑問文は、yes/no 疑問文と同じ状況を示すので、yes/no 疑問文の ところで付記する。

(23) Q: You've sent the invitations, haven't you? [RD1_11]

R: No, Peter did.

(24) Q: We can have the replacement parts by Friday, right? [GN2_26]

R: Yes, but shipping costs more.

(23R)はNo-responseであり、(24R)はYes, but-responseといえる。ちなみに、

yes/no疑問文の直接応答で、Yes, but-responseやNo, but-responseに相当する例は TP2にはなかった。

TR2の分布状況は、yes/no疑問文と付加疑問文の直接応答は18例あり、タグ 応答は2例であり、他15例は応答片後に追加情報か理由を与える応答であった。

また、(11)の応答形式はyes/no疑問文の直接応答としておく。

3.1.3 直接応答への補足的事項

直接応答のTP2における配置とそれが応部として成り立つ理由について付記 する。

Wh-疑問文と yes/no 疑問文及び付加疑問文の直接応答は全部で 56 例あり、

37%を占める。疑問文と直接応答の組み合わせは一番簡単である。TP2 での設 問配置をおおよそ3分割して、どこに直接応答の設問が配置されているかを表 すと図1のようになる。(範囲1は7問~14問で35、範囲2は15問~23問で 14、範囲3は23問~31問で7である。)

(15)

図 1 が示すように、直接応答 は前半に集中している。範囲 1

で73%が出現している。Part 2で

は難易に合わせて設問配置がさ れていると言わざるを得ない。

次に起部と直接応答の関係に ついて付記する。起部と応部は 談話の中から切り取られた隣接 ペアである。そこには何らかの

「つながり」が感じられないと 隣接ペアにならない。つまり、応答と理解できない。テキスト省略応答と代用 形応答について、なぜ起部とつながりが感じられるか。代用形応答はわかりや すい。それはオリジナルの代用を含むからである。一方、テキスト省略の方は、

消えることでつながりが生まれるというふうに考えられる。代用と省略はいず れもテキスト内のつながりを生む言語現象である22

3.2 間接応答について

次に疑問文の求める情報を直接与えずに、何らかの発話によって「間接的に」

応じる事例を見る。直接応答と違い、間接応答には下位分類が必要である。以

下で、wh-疑問文とyes/no疑問文の順に見ていく。

3.2.1 Wh-疑問文の間接応答 3.2.1.1 改変応答

話者が求める情報を提示するが、構造的に平行性がない別表現で伝えること がある。次のような場合である。

(25) Q: Who should I see about updating the Langdon account? [RD1_8]

R: Mr. Travis is in charge of that.

Qのテキスト省略応答は”Mr. Travis”であり、代用形応答は“You should see Mr.

Travis.”である。Rはそのいずれでもなく、別表現となっている。これを「改変

0 5 10 15 20 25 30 35 40

1 2 3

直接応答の出現数(3分割)

図1

(16)

応答(altered response)」と呼ぶ。

この応答が成り立つのは応部と起部に談話上の繋がりを感じるからである。

まず、一義的には応部の指示詞thatが起部のupdating the Langdon accountを指す。

実際、改変応答では代名詞共有の例が多い。

(26) Q: Where can I find the most recent sales data? =(15) [GN1_7]

R: It's on my computer.

(27) Q: When will our Internet service be working again? [GN1_17]

R: It should be fixed by noon.

しかし、より本質的なことは起部と応部に推論による含意関係(implicature)が 存在することである。例えば、(25)では、Mr. Travis is in charge of thatとYou should see Mr. Travisとには、Mr. Travis is in charge of that, so you sould see himあるいは You should see Mr. Travis because he is in charge of thatといった推論関係がある。

同様に、(26-27)では、<XがPC内にある><XはPC内で見つかる>、<昼ま でに直る><昼以降に作動する>といった推論ができる。含意関係にある陳述

によってwh-要素が求める情報を間接的に与えている。この推論を支えるのは、

改変応答の場合は言語的な要因が働いていると思う。

含意関係にある陳述は様々なので、改変応答で現れる構文形に原則として制 約はない。しかし、パターンはある。例えば、What’s happening…?やwhat’s going on…?のように聞かれた場合、何が起こっているかを述べるので、構造の改変が 起こる。

(28) Q: What's going on in the building next door? [RD1_20]

R: A reception's being held.

これは言語的に必然的な改変応答である。

TP2 は次例がすくないので、以下は作例を交えて考察する。改変パターンは do動詞文とbe動詞文の交替が多い。基本的な例は、場所文と所有文の交替であ る。

(29) Where is that report I asked you for? ― I have it right here, sir.

cf. Does this facility have proper emergency exits? - There is one on each side.

場所文はbe動詞文で、所有文はdo動詞文である。これを「be/do交替」と呼ぶ。

(17)

時間を聞く場合にもbe/do交替がある。

(30) Q: What time should we expect the keynote speaker to arrive? [GN1_21]

R: She'll be here by nine.

(31) Q: When will the safety inspector check the emergency exits? [GY1_23]

R: He'll be here on Tuesday.

時間Xでarriveしていれば、Xでそこにいることになる。また、checkするため

には、checkする場所にいる必要がある。この関係も改変応答になりやすい。

また、好悪や意見を聞く形式やWhat is X?のような説明を求める場合もdo/be 交替が発生しやすい。

(32) Q: How do you like your new apartment? [RD1_15]

R: The location is perfect.

(33) Q: What did you think of my presentation? [GN1_16]

R1: It was very informative.

(34) a. Which perfume do you prefer? ― This one is nice.

b. How was your job interview? ― I think I gave a good impression of myself.

(35) a. What are your qualifications for this job? ― I’ve had several years’ experience.

b. What’s the quickest way to the airport? - With this traffic, you should take

the train.

(33)のRはI was at another meetingである。(34-35)は類似の作例である。こ のような構造改変は他のwh-疑問文にも比較的容易に起こる。

TP2には改変応答は7例あった。改変応答は起部と応部に構造上の平行性は ないが、ある種の含意関係によって、質問が求める情報を間接的に与えている といえる。

3.2.1.2 不知応答

質問を発する際の適切性条件として、聞き手が求める情報を持っていること がある。しかし、この適切性条件が満たされない場合「知らない」という応答 がある。自分がその情報を持っていないことを伝える応答を「不知応答」と呼 ぶことにする。次のような例である。

(18)

(36) Q: Why hasn't Jason been in the office all week? [RD1_31]

R: You'll have to ask his manager.

(37) Q: What are the best vegetarian restaurants in this area …? [GY2_25]

R: I'm not the best person to ask.

(38) Q: Why is the contractor coming in tomorrow? [GY2_26]

R: I thought you asked him to come.

(36)はI don’t know, so….、 (37)はI don’t know because …が隠れていると言 える。また、(38)は、I can’t answer it because….であり、知らないというより、

回答不能の理由を述べている。不知応答では、聞き手が情報を持っていないこ とを推論によって導くことができる。TP2には11例あった。

3.2.1.3 前提否定応答

wh-疑問文には wh-要素が求める情報以外を前提にする特徴がある。例えば、

“Which countries have you been to?”は”You have been to some countries”を前提とし た質問である。しかし、この前提はキャンセル可能なので、前提をキャンセル する応答がある。

(39) Q: What did you think of my presentation? =(33) [GN1_16 ] R: I was at another meeting.

(40) Q: How often do you buy new glasses? [GN2_17]

R: I actually switched to contact lenses.

(39Q)は「発表を見た」ことを、(40Q)は「めがねを買う」ことを前提にした 質問文である。応部は推論関係によって、いずれもその前提の成立を否定して いるので、「前提否定応答」と呼ぶ。

TP2には次のような興味深い例もあった。

(41) Q: Where'd you find that lovely winter coat? [RD1_23]

R: Thank you, it was a gift.

Qは, You found a lovely winter coat somewhereを前提にする。聞き手はこの前提 にある形容詞lovelyのせいで、話し手の質問の中に肯定的評価を感じて、Thank youと応じる。だが、Rの後半は見つけた場所があることを否定している。TP2

(19)

には前提否定応答が5例あり、比較的頻度は高いといえる。

3.2.1.4 質問文応答

wh-要素が求める情報を全く与えず、逆に質問で応ずる例がある。これを「質 問文応答」と呼ぶことにする。

(42) Q: Who's involved in organizing the town festival? [GY2_19]

R: Oh, are you interested in helping out?

(43) Q: Where did you make the dinner reservation? [RD2_31]

R: Didn't you make it?

wh-疑問文の質問文応答は質問を発する意図を問うものが多い。TP2には上述の 2例であった。(43)は前提否定応答でもある。(43Q)は「Rの話者が予約した」

ことを前提にするが、(43R)の否定疑問文の特性からRは「Qの話者が予約し た」ことを前提とするので両立しない。質問文応答は、改変応答と同じく形式 からの区別であるので、内容からの区分である前提否定応答などと共起性があ る。

3.2.1.5 曖昧な応答(vague response)

いかなる質問にもIt’s none of your businessとかThat’s a good questionと応じて 情報の付与を避ける応答があり得る。TP2 には例はなかった。だが、避けない までも、求める情報と直接関係ない情報を与えたり、あるいは不十分な情報を 与える応答がある。これを「曖昧な応答」と呼ぶことにする。

(44) Q: How many days do we have to organize the convention? [GN1_29 ] R1: Don't worry, it's later than last year.

(45) Q: Where should I set up the equipment for the photo shoot? [RD2_25]

R1: That's scheduled for next week.

(46) Q: Who'd like to volunteer to be a tour guide? [GY1_28]

R: I've done it before.

(47) Q: Who’s organziaing this month’s book club meeing? [GN2_30]

R: I did it before.

(20)

(44Q)は日数を、(45Q)は場所を聞いているが、R ではいずれも別の情報を 与えている。また、(46-47)は類似のパターンであるが、設問自体には情報を 与えず、自分への適用が無効であることだけを伝える応答である23

これらが応答として成り立つためには、基本的に起部と応部が推論関係でつ ながっている必要がある。比較的容易な推論は曖昧さを減ずるが、ある種の付 加的な前提を読み込まないと推論が成り立たない場合もある。例えば (44)が 成り立つ場面では、「昨年度のイベントで準備に時間がなかった」といったこと が共通理解として存在している場面である。このような付加的な前提がないと 成り立たない応答は難易度が高くなるし、極端な場合は、問題として不適切で ある。

また、時間を聞かれて特定の時間を与えなかったり、数量を聞かれて特定の 量ではなく、周辺の量を答えるような応答もある。作例で示す。

(48) a. What time are people going to begin showing up? ― They should be here

any minute.

b.What kind of toppings would you like on our pizza? ― Anything is fine.

c. Who’s your favorite author? ― Actually, I have a couple of favorites.

このような場合は求める情報を十分に絞っていないという意味で曖昧な応答で ある。

以上、本節ではwh-疑問文の間接応答の下位区分を試みた。

3.2.2 Yes/no 疑問文の間接応答

直接応答の場合と同様に、間接応答も一義的にYes-responseとNo-responseと に分かれる。先述のように、yes/no疑問文の間接応答はYes/Noの応答片を使わ ずに、含意関係にある内容の発話だけで間接的にYesかNoを伝える。

(49) Q: Have you finished the draft of the report yet? [GN1_18]

R: I had a conference call all morning.

(50) Q: Is there a computer available to use while mine is being repaired? [GN1_25]

R: Michael's not using his today.

(49R)は「電話会議をしていた」ことを述べて、「報告書の作成ができなかっ

(21)

た」ことを伝えている。従って、“No, I haven’t. Because I had a conference call all morning”と言える。ここでは、終わっていない理由を述べることで、結果的に No-responseとなっている。(50R)は、”Yes, there is. Because Michael’s not using

his today”であるから、同じく理由を述べて、Yes-responseとなっている。

直接応答では事例が少なかったが、間接応答には Yes, but-response /No, but- responseがあった。

(51) Q: Should we remind Ms. Woods to send us the budget report? [RD1_24]

R: But the deadline isn't for another week.

(52) Q: Could you possibly change the time of the marketing meeting? [GY1_27]

R: But Mr. Cho is only available this morning.

これらはYes, but-responseで、Yesの応答片がない間接応答である。

次例は、応答片ばかりでなくbutもない。

(53) Q: Do you have flowers for sale? [GY1_26]

R: I expect to have some soon.

(54) Q: Do you have this same T-shirt design, but in blue? [GY1_29]

R: We have it in purple.

例えば、(53R)は“No, I don’t. But I expect to have some soon”の下線が消えてい るので、No, but-responseである。

次例はYes, but-responseに分類できるであろう。

(55) Q: Isn't the gym open twenty-four hours? [GN2_28]

R: Only on the weekend.

(56) Q: We have met these clients before, haven't we? [GN1_31]

R: The manager is new, though.

(55R)は、Yes, but they are open only on the weekend、(56R)は、Yes, but the manager

is new.とパラフレーズできる。

ちなみに、この応答パターンはonlyやnotなど特徴的な表現を応部冒頭に伴 う。

(57) a. Have all of the wedding guests arrived? ― Only about half of them.

b. Do I have to wear a tie every day? ― Not on Fridays when we have Casual

(22)

Dress Day.

また、従属接続詞類で導かれる節が独立して応答となる場合がある。これも作 例で示す。

(58) a. Is his plane going to arrive on time?―Unless there’s a change in the weather.

b. Are you going to the party? ― As soon as I finish this e-mail.

c. Is it OK if I turn the heat down a little? ― If you would like to.

話しことばではこのような従属節の独立化が顕著で、このような断片応答が頻 繁に出現する。

付加疑問文は間接応答においてもyes/no疑問文と同じ状況で、応答片がなく ても、Yes-responseやNo-responseと分類できる。

(59) Q: You haven't seen Jennifer today, have you? [RD2_26]

R: I saw her a while ago.

これは応答片がないが、推論によりYes-responseである。

3.2.2.2 Yes/no 疑問文の他の間接応答

第3.2.1節で指摘した前提否定応答、不知応答、質問文応答などの間接応答形

式が、yes/no疑問文にも同じように存在する。

(60) Q: Do you want to go to the art gallery opening on Friday evening? [RD1_28]

R: Sorry, I’ll be out of town.

(61) Q: Isn’t the client visit this month? [GN1_10]

R: Pablo’s in charge of that.

(62) Q: Will you stay after the show to meet the musicians? [GN2_16]

R: Don't they leave as soon as it's over?

(60)は質問文の成り立つ前提を否定する前提否定応答であり、(61)は知らな いことを伝える不知応答である。また、(62)は形式的な分類だが質問文応答で ある。

一般に、yes/no 疑問文は命題全体を射程に収めて真偽を問うので、命題全体 について肯定したり、否定したりする。しかし、命題の一部を対象に否定する 場合がある。TP2には例がなく作例で示す。

(23)

(63) a. Did Eric lend you his laptop? ― No. He gave it to me.

b. Did your brother really start his own firm?―Well, it’s not completely his.

これらは否定というより、「訂正」である24

3.3 選択疑問文の応答

選択疑問文の直接応答はAあるいはBの二択から片方を選ぶ場合で、これを

「片選択」と呼ぶ。選択疑問文の9例中、片選択は4例であった。

(64) Q: Would you like to pay now, or be billed later? [GY1_12]

R: Please send me a bill.

(65) Q: Did you buy the coat online or from a shop? [GY2_23]

R: I never buy clothes without trying them on.

(65)はAを直接選ばずに、「Bではない」ことを述べて、Aを選ぶことを伝え ている。

他方、AとBを含む「両選択」やA/B以外のものを選ぶ「別選択」がある。

両選択と別選択は選択疑問文の間接応答である。(66)は両選択(他1例)であ り、(67-68)は別選択(他1例)である。

(66) Q: Is Maria going to present the sales report, or are you doing it? [GN2_11]

R: We're doing it together.

(67) A: Should I order the supplies now, or wait until next week? [RD2_23]

R: Actually, I already sent the order.

(68) A: Does the train leave from Platform 24 or Platform 25? [GY2_20]

R: Let's check our tickets.

別選択には間接応答の下位区分である前提否定応答や不知応答がある。選択疑 問文は選択を中心に分類されるので、Yes/No-responseの区別がない。

3.4 機能疑問文の応答

この節では機能疑問文を一括して、その応答について分析する25。機能疑問文 は何らかの情報を求めるのではないので、情報付与という意味での応答は存在 しない。それが求める言語行為に応じるか応じないかである。応じる場合は

(24)

Yes-responseであり、応じない場合はNo-responseとなる。

TP2には機能疑問文はyes/no疑問文15例、wh-疑問文1例であった。wh-疑問

文はhow about…?である。機能の内訳は依頼が8例、申し出が4例、提案(proposal)

が2例、その他に許可(permission)と勧誘(invitation)が1例である。機能疑 問文は真偽情報を求めているのではないので、応答片は起部が解釈される機能 に対応する。例えば、申し出にはThanks、依頼にはSure/OKといった応答片が ある。特徴的な応答片があれば機能疑問文の直接応答といえる。

一方、yes/no 疑問文と同様、応答片がない場合もあり、これは間接応答であ る。間接応答の例を挙げる。

(69) Q: Could you help me find the Murphy Company file? [RD2_27]

R: I don't work on that account.

(70) Q: Can I write an article on the festival for Tuesday's newspaper? [RD2_21]

R: The deadline has passed.

(69)は依頼、(70)は許可を求めているが、推論によりNo-responseである。

また、(71)はYes, but-responseであり、(72)は不知応答になるであろう。

(71) Q: Could you possibly change the time of the marketing meeting? [GY1_27]

R: But Mr. Cho is only available this morning.

(72) Q: Can you give me a tour of the property on Thursday? [GN1_28]

R: Let me check my calendar.

Yes/no疑問文の間接応答の下位区分が機能疑問文にも存在する。

4. 非質問文への応答について

先述のとおり、TP2 の起部は疑問文だけではない。TP2 では命令文の例は

Let’s…だけなので、この節では平叙文に限って見てみる。

平叙文の場合は質問・応答のペアではなく、二つの連続した発話の隣接ペア に過ぎず、先行の発話の解釈が応部を規定する。平叙文は書記情報としてみれ ば、ただ言語的な情報を伝えるだけである。しかし、人がそれを生きた場面で 相手に対して発すれば、そこには発話の力(illocutionary force)が生まれて、聞

(25)

き手は心理的にその発話の力に応じることになる。質問文も同じで、相手に発 するからこそ、聞き手が様々な形で応じるのである。ただ、質問文の発話の力 は基本的に相手に情報を求めることにあるので、相手の反応は情報を与えると いうふうに限定されてくる。平叙文の場合は、発話の力は形式の上で一様に決 定されず、聞き手が起部をどのように解釈するかによって異なってくる。その 意味で選択肢が広く、設問としては難易度が高くなると言える。

調査範囲のTP2には15例の平叙文があった。質問文と同じく形式から一定程 度の解釈の制限があるものもある。例えば、(73a, b)はI’d like…の形式は通常 依頼と解釈される。依頼なので応部はYes-responseやNo-responseに分かれる。

また、(73c, d)では一人称主語であるが故に、能力の有無を伝えるのではなく、

申し出や依頼として解釈される可能性が高くなるため、応部も申し出や依頼に 対する応部となるであろう。

(73) a. I'd like a refillof this medication, please. [GY1_19]

b. I'd like to discuss the project you just turned down. [GY2_28]

c. I can't reach the boxes on this top shelf. [GY1_22]

d. I can pick up your packages while I'm at the post office. [GN2_19]

e. I haven't heard who the board chose as a chairperson. [RD1_26]

「聞いていない」と発話されれば、「教えてほしい」と解釈される可能性が高く、

(e)は事実上の質問と解釈され、応部のそれに対応するであろう。実際、(73e) のRは、I believe it was Mr. Petersonで、第3.1.1節で指摘したwh-疑問文のit-応 答で、聞き手が(73e)の平叙文を疑問文と解釈したことを示す。

(74)の例には形容詞類が現れており、話し手の評価を含む起部である。

(74) a. I thought the professional development training was really helpful. [RD 2_30]

b. These new trains are so much faster. [GY1_18]

c. That indian restaurant is big enough for our annual party. [GN1_24]

d. This database could be more user-friendly. [GN2_22]

e. There's a helpful diagram on page fifty-seven. [GY2_22]

(a, b)はモノの評価なので、聞き手は一次的には同意や不同意で応じることに なるであろう。(c)はパーティーの規模に合うということだから、予約をした

(26)

らどうか、といった応答があるだろう。(d)のcould be moreは現状の不満を表 すので、その不満を解消する応部があるだろう。また、(d)は役に立つものの 存在を伝えるので、利用してみよう、といった応部があるだろう。

非質問文では応答は聞き手の起部の解釈の仕方にあり、その解釈が比較的自 然なものであれば、応答の選択も容易であるが、これが込み入った場面状況を 想起しなければならない場合は難易度が増すと言える。

5. 引っかけ(distractor)から見た分類

本節はで非正答応答(DTR)について言及する。DTRは正答に至るべき解答 者を誤答に引っ張り込む(distract)ためにある。起部の全体を聞いて判断せず に、起部の一部分にだけ反応する解答者を誤らせる。

Trent(1990)は次の三つをcommon DTRsとしている。

(75) a. 同一語彙を入れる

b. 関連語彙を入れる c. 類似音語彙を入れる TP2の例で見てみる26

(76) Q: Could you take these packages to the post office? [RD1_17]

R: I'll be free after my conference call.

DTR1: They're packaged by the dozen.

DTR2: I haven't received any mail.

(77) Q: How do you like your new apartment? [RD1_15]

R: The location is perfect.

DTR1: I made an appointment yesterday.

DTR2: The third floor.

(76DTR1)は起部と同一語彙を共有する(75a)の例である。(76DTR2)や

(77DTR2)は起部にあるpost officeと関連する語彙mailや、apartmentと関連

する語彙third floorを含んでいるので、(75b)の例である。関連語彙は使われる

場面の共通性があるという点でスキーマ的な関連を持つ語彙である。また、

(77DTR1)は起部のapartmentと類似する類似音語彙appointmentを含んでいる

(27)

ので、(75c)の例であると言える。これらは起部の一部だけが頭に残るレベル の解答者を誤らせようと意図されたものである。(76)の場合は、何も語彙的な 共通性がないものが正解であるが、(77)の正答には関連語彙locationを含んで いる。従って、関連語彙や同一語彙を含む選択肢がDTRであるとは必ずしも言 えず、意味的な解釈が優先する。

その他に、語彙レベルではなくて、冒頭部を聞き逃したりすると誤りに引っ 張られるDTRがある。

(78) Q: What time does the restaurant close? [RD1_1]

DTR: No, it doesn’t.

(79) Q: Why hasn't Jason been in the office all week? [RD1_31]

DTR: No, I haven't seen him.

(80) Q: Do you want to go to the art gallery opening on Friday evening? [RD1_28]

DTR: I thought it was outstanding, too.

これらは冒頭部のwh-要素がなければ可能な応答であるし、(80)は出だしの数 語を聞き漏らせば、誤る可能性がある。

試みにRD1の30問でDTRsの分布(60例)を見ると、同一語彙は9例(15%)、 関連語彙は15例(25%)、類似音語彙5例(8%)、聞き逃し7例(12%)、不明 例が14例(23%)であった。理論的には、例えば、直示的な表現を変更したり、

時制を変更したりしたDTRsが考えられるが、RD1にはなかった。また、DTR として理由がはっきりせず、特段の考えもなく選択肢として入れられたのでは と疑われるものも多かった。

本節では、紙面の都合でDTRについてこれ以上の深入りはせずに、上述の(76)

や(77)例などに見られるwh-疑問文へのDTRの一つであるyes/noの応答切片 で始まる例について付記して終わる。

一般に、wh-疑問文は真偽判断を求めるわけではないので、yes/noで応じない。

従って、wh-疑問文へのyes/noの応答片で始まる応部はDTRであると見なして よい27。しかし、これは絶対的な基準か、と言われれば否である。例えば、次例 を見てみよう。

(28)

(81) Q: What is the salary of your new job?

R: No, sorry. That's none of your business.

起部はwh-疑問文だが、応部はNoで始まっている。これは可能なやりとりの一

つであるが、なぜwh-疑問文に対してNoで始まる応部が可能なのか。

実は、ここのNoはyes/no疑問文の真偽判断に関するものではない。Qの言 語行為を拒絶するシグナルとして働く。(81Q)には、(82Q)のように、言語 行為を表す上位節がある考えられ、Noはその上位節に応じている、と言える28。 (82) Q: CAN I ASK YOU what the salary of your new job is?

R: No, you can’t. I’m sorry for that. I SAY it’s none of your business.

No は相手の質問する行為を拒否し、質問の適切性を問題にしている。次例は yesの例である29

(83) Q:(You know, I have always wondered about something.)How did you get that scar on your face?

R: Yes, people ask me that all the time. I was in a car accident about ten years ago.

Qを Do many people ask you, “How did you get that scar on your face?”?と解釈して、

その主節に応じているといえる。このyesは談話標識的であり、wellとかyeah とかと同じ働きである。従って、タグ部を伴うことはない。かなり複雑な文脈 が必要で、隣接ペアの設問としては過剰な情報処理上の負荷がかかるので、TP2 には現れることはないと考えられる。

6. 終わりに

話しことばに固有の応答形式を考察する目的から、TP2 の問題を対象にして 応答パターンを分析した。簡単にまとめると、まず起部は英語の文法構造上で 主要な形式がバランスをとって配置されている。また、解答者に余計な情報処 理上の負荷をかけないような談話構造となっている、他方、応部について言え ば、いくつかの下位分類が可能である。Where is the cafeteria?という単純なwh- 疑問文で例示してみよう。この起部に対する直接応答には、テキスト省略応答

(29)

(Just in front of the Student Hall)がある。これらは文構造上の関係を維持してお り、つながりは明示的である。一方、間接応答としては、以下のようなパター ンがある。

改変応答:There’s one just in front of the Student Hall.

不知応答:Sorry, I’m just a visitor.

質問文応答:Why, are you hungry?

前提否定応答:We don’t have one on this campus.

曖昧な応答:Don’t worry. We can eat somewhere.

応答パターンの選択は隣接ペアとして切り取られた談話の中で決まってくる。

それぞれで強弱様々な含意の関係があり、つながりは非明示的である。また、

間接応答は直接応答と異なり、形式に依らないが故に厳密な意味で排他的関係 はない。例えば、Do you think I’m a student here?となれば質問文応答かつ不知応 答でもある。本稿での間接応答の下位分類は、見通しをよくするための便宜的 な区分で、多様な応部間の言語的・論理的な関係はさらに考察が必要である。

(金沢大学国際基幹教育院外国語教育系)

参考資料

国際ビジネスコミュニケーション協会、『公式TOEIC Listening & Reading 問 題集1~3』(2015から2017年に刊行)

ロバート・ヒルキ、相澤俊幸、ヒロ前田 (2018)『TOEIC L&Rテスト直前の 技術』、アルク

参考文献

Trent, Grant(2013)Tactics for The TOEIC Test: Listening and Reading Test Introductory Course, Oxford University Press.

Sacks, H., Schegloff, E. A., & Jefferson, G.(1974)“A simplest systematics for the organization of turn-taking for conversation,” Language, 50, 696–735.

Schegloff, E. A.(2007)Sequence Organization in Interaction: A Primer in

(30)

Conversation Analysis, Volume 1, Cambridge: Cambridge University Press.

Quirk, R., Greenbaum, S., Leech, G. and Svartvik, J.(1985)A Comprehensive Grammar of the English language, Longman.

Halliday, M. A. K. and Rugaiya Hasan (1978) Cohesion in English, Longman.

澤田茂保(2016)『ことばの実際1 話しことばの構造』、研究社 内田聖二(2011)『語用論の射程』、研究社

1会話分析における隣接ペアについては、Sacks et al.(1974)、Schedloff(2007)参照。

2公式問題集は国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)が発行する『公式TOEIC Listening & Reading問題集』を指す。第1集~第3集のテスト6回分の Part 2、各テスト 25問、合計150問を対象にした。IIBCの公式問題集は実際のTOEICの過去問題とは異 なる。従って、純粋な意味で、TOEICの問題分析ではないが、おおよその傾向をつかむ ことはできると思う。

3文構造上もう一つのタイプである感嘆文(exclamatives)はない。それは応部が限定され るからであろう。

4interrogativesは文法的な形式を指す用語であり、questionsは意味からみた名称である。

前者はinterrrogative formsからの品詞転換語で形容詞由来である。

5RDは公式問題集第1集(赤表紙)、GYは第2集(灰色表紙)、GNは第3集(緑表紙)

の略号で、続く数字は1Test 1、2Test2であることを示す。1テストのPart 225 問からなる。

6付加疑問文には、“… , right?”のような不変化タグも入れた。なお、Quirk et al.(1985)で は、「不変タグ形式(invariant tag questions)」として、{am I right?, isn’t that so?, don’t you think, wouldn’t you say?}といった例と、加えて、文構造を欠く一語タグとして、{right?, eh?, huh?}

を挙げている。

7そのため、why not…?といった定型表現がある。

8こういう特徴を指すためにQuirk et al.(1985)は “conducive”という語を使っている。

9例文末の[ ]内の記号は、公式問題集での問題番号を示す。[RD1 _9]は公式問題集第1 集テスト1の第9問を指す。

10同じことがTOEIC Part 3にも言える。試みに、RD1の会話問題Part 3では、10個の内8 個は、HelloExcuse meのような談話開始のマーカーで始まっている。

11選択疑問文は、後述の通り、他の三つの主要な疑問文とは求めている情報の質が異なる。

しかし、ここでは形式上で選んだ。

12ここでの冒頭部の分析では、疑問形式をもっていない付加疑問文を除いたが、付加疑問 文の主語形式でも13例中9例は一人称・二人称主語であった。

13状況省略(situational ellipsis)については澤田(2016)の第2章を参照されたい。

14以下、番号無しのRTP2の正答を表し、その他の番号付きのRは作例であることを 示す。

15実際のところ、be動詞文ではテキスト省略応答と状況省略を受けた代用形応答と形式上 で区別できない。いずれも述部要素が単独で現れる。

(31)

16ちなみに、冒頭の定冠詞theの消失は状況省略の例である。

17Qurik et al. (1985; 906)では、このような例をellipsisの例として扱い、次のような文 と同じ現象であるとしている。

(i) a. Nigel finished the exam at the same time as George △.

b. Nigel finished the exam first, then George △.

c. Who finished the exam first? ― George △.

18次例は代用形応答である。

(i)Q: Who should I contact to rent an office in this building? [GN1_15]

R1: You can call Mr. Yamamoto.

19itは指定しすぎかも知れない。itが現れるのはwh-疑問詞には数の概念が働かないから で、次例では複数で受けることがあるからである。

(i)Q: Which spaces are designated for visitor parking? [RD2_15]

R1: I think they’re the ones with yellow signs.

この応答形はit分裂文(it-cleft)の残余のように思われるが、もともと分裂文は応答形式 にはならない。また、モダリティが必要なことや、(ii)のように、ある種のタイプを問 う場合は、モダリティ表現がなくても容認性が高い。

(ii) What kind of bag did she buy last night? ― It’s the red one.

it-応答は言及されることがなく、さらに調査が必要である。

20タグ応答が可能なのは、英語ではタグ部がモダリティを表すからであると考えられる。

このことは一語副詞(definitely, absolutely, certainly)やmaybe, could beなどの法動詞由来 の断片形が応答として使われることと通底している。

21(17)のRは”No, not anymore.”であり、これは状況省略を受けている。

22Halidday and Hasan (1976)はこのようなつながりをcohesionと呼んだ。そこでは、ellipsis substitution by zeroと述べており、substitutionに重きを置いているが、消失/省略は代用 に比べて強いつながりを生むのではないかと思う。このことはもっと認識されてもよい と思う。

23ある種の否定関係があり、「何を買ったのか?」と聞かれて、「ビールは買っていない」

と答えるのと似ている。従って、(6)もこの中に入ると言える。

24Trent (2013; 74)では、wh-疑問文とyes/no疑問文を分けずに、三つのタイプの間接応

答が述べられている。そのうち二つは、ここでの不知応答と質問文応答に相当する。

25命令文や平叙文にも機能的に解釈される例があるが、let’sI’d like…など定型化が進ん だものなので、ここでは論じない。

26番号付きのDTRTP2にある二つの誤答を示す。

27TOEICの対策本の一つ『TOEIC L&Rテスト直前技術』には、wh-疑問文の場合「yes/no

で始まる応答は瞬時に消去」とある。

28内田(2011; 72-77)では、タグ応答のyes/noを「命題対応のyes/no」と呼び、ここでの 例を「発話行為対象のyes/no」と呼んで、yes/noに二つの用法があることを指摘している。

29(81)と(83)はMark Hammond氏の提供による。

参照

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