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遊具導入によるバンドウイルカ(Tursiops truncatus)の吐き 戻し行動の低減

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遊具導入によるバンドウイルカ(Tursiops truncatus)の吐き 戻し行動の低減

誌名

誌名 Animal behaviour and management ISSN

ISSN 18802133

著者 著者

陳, 香純 神田, 幸司 上野, 友香 友永, 雅己 中島, 定彦 巻/号

巻/号 51巻2号

掲載ページ

掲載ページ p. 87-94 発行年月

発行年月 2015年6月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター

Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

(2)

遊具導入によるバンドウイルカ ( T u r si o p s  t r u n c a t u s ) の吐き戻し行動の低減

陳 香 純l・神田幸司2・上野友香2・友永雅己3・中島定彦l

l関西学院大学文学部,兵庫県西宮市662・8501

2名古屋港水族館,愛知県名古屋市455・0033

3京都大学霊長類研究所,愛知県犬山市484・8506

*Corresponding au血or.E‑mail address:[email protected] 

要 約

水族館で、飼育されている 2頭の雌のバンドウイルカの吐き戻し行動に及ぼす遊具導入の効果について、

環境エンリッチメントの視点と行動変容法の一つである単一事例計画法を用いて検討した。特別な処置を 施さないベースライン期(A)の測定に引き続き、毎日の演技訓練(給餌を伴う)の直後にフープを 30分間水 槽に投入する介入期(B)を行った。介入によって吐き戻し行動の回数が減少することが A期と B期の繰り 返し手続きにより明らかとなったが、効果の持続性と場面間の般化に関して個体差が認められた。

キーワード:エンリ ッチメント,望ましくない行動,吐き戻し行動,バンドワイルカ,遊具

緒 言

動物園や水族館で、飼育展示されている動物の健 康状態は近年の飼育技術の向上により大幅に改善 され、繁殖成功例も増えてきている。しかし、野 生動物は飼育下におかれると野外環境にいる場合 と比較して表出可能な行動レパートリーが少なく、

異常行動などの行動上の問題が観察されることも ある(MasonとRushen2008)。異常行動とは、「様式 上、頻度上あるいは強度上で正常(適応上)から逸脱 した行動」として定義される(佐藤ら 2011)。一方、

「野生ではあまり見られないが飼育下で頻繁に観 察される行動で、深刻な健康問題に関わるとは限 らないものJを望ましくない行動という(Hoseyら 2011)。

そうした行動の一つに食物の吐き戻しがある。 食べたものを吐き戻すことは、一部の動物種では 親の子に対する給餌場面などにおいて見られる生 得的で正常な行動であるものの、多くの動物種に とっては正常な摂食行動ではない。このため、深 刻な症状を呈しない場合は、異常ではないが望ま しくない行動として捉えられる。特に、吐き戻し の後に食物の再摂取が生じ、再び吐き戻すといっ たことを繰り返す場合は常同行動の一種とした行 動とみなすことが一般的である。こうした吐き戻 し行動は飼育下の霊長類においてしばしばみられ

Animal B viourand Management, 51 (2): 87‑942015  (2014. 8.  22受付;2015. 1.  5受理)

る(例えば、AkersとSchildkraut1985; GouldとBres 1986; Bayneら 1991;BakerとEasley 1996;  Lukas  1999; BellancaとCrocke2002)。吐き戻し行動は陸 棲 動 物 だ け で な く 海 棲 動 物 に も み ら れ る (Yam otoら2007)。とりわけ、バンドワイルカ (Tursiops Iruncαlus)の吐き戻し行動は後述のように 多くの水族館で、観察される。頻繁な吐き戻し行動 は栄養失調を引き起こしたり、餌に薬を混入させ た投薬処置が困難になるなど、管理する側にとっ て好ましくないと考えられる。

伊豆三津シーパラダイス(2006)は、吐き戻し行動 を「一旦嘱下した餌料を口から体外に吐出する(そ の形状は問わなしつ行動。ただし、有害物質等に対 する防御反射的幅吐および明らかに疾病が原因と 思われる幅吐は除く。jと定義し、飼育下の海棲動 物における吐き戻し行動について圏内の動物園・

水族館にアンケート調査している。その結果、飼 育されている全てのバンドウイルカのうち 28%の 個体で吐き戻し行動が確認された。また、吐き戻 し行動の対応策として、「給餌方法の変更jを行っ た施設では、その半分の施設で吐き戻し行動の低 減効果は一時的だ、った。さらに、「遊具の導入Jを 試みた全ての 3施設で、「その他(係員との遊び、

多種動物との同居、広い水槽への移動など)Jの対 応を行った 10施設のうち8施設で、その低減効果 は一時的だ、った。

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イルカの吐き戻し行動の低減 上述のように伊豆三津シーパラダイス(2006)に

よる調査では、遊具導入は一時的効果しか認めら れていないが、効果判定はアンケートへの飼育員 の自由記述回答にとどまっており、客観的、定量 的データに基づくものではない。そこで、本研究 では、水族館で飼育されているバンドウイルカの 吐き戻し行動を数量的に測定し、遊具導入による 効果について実験的に検討した。なお、本研究に おいて吐き戻し行動の低減対応策として遊具導入 に焦点を当てたのは、他の方法に比べて労力コス トが掛からず、また後述のように、対象水族館で、

は遊具(フープ)を環境エンリッチメントとして取 り入れる試みを行っていたためである。

材料と方法 (1)観察対象個体

名古屋港水族館で、10""'‑'11年間飼育されている推 定年齢 13歳の雌のバンドウイルカ(以下、イルカ:

アン、ネオ)を観察対象とした。アンは体長277cm、 体重243kgで、ネオは体長295cm、 体重267kg  であり、他のイルカ2頭(雌雄各1頭、吐き戻し行 動を含め問題となる行動は認められていなしっと

ともに同一の水槽(長軸 13.5mx短軸 11.1mx水深 6.4 mの楕円形プール)内で飼育されていた。アン とネオは過去に同一水槽内に飼育されていたシャ チ(Orcinusorca)の吐き戻し行動を模倣し、本研究 の約 5年前から継続的にこの行動を行っていたと 水族館職員による報告があった。なお、飼育下で

もこのような模倣はしばしば観察される(Yeater とKuczaj2010)

給餌はすべて演技や健康管理のための訓練時に 行っており、訓練は原則として 1日4セッション (開始時刻は 9時40分前後、 11時30分前後、 15 時前後、 16時30分前後)で、 lセッションあたり 約 15""'‑'20分間で、あった。ただし、水族館の業務ス ケジューノレやイルカの体調などによっては、セッ ションの回数を削減したり、時間を短縮したり、

時間帯を変更することがあった。

(2)観察日時および方法

2009年11月25日から 12月16日までの22日間 のうちの 14日間に水槽側部の水中観察窓(縦 4.08 mx横9.75m)の前で、対象個体の行動を観察した。な お、訓練時間帯および観察時間帯は水族館の営業 時間内で、あったため、観覧客も水中観察窓前を往 来していた。

観察時間は毎回30分で、観察は当日の演技訓練 の第3セッション終了直後の 15時20分前後に開 始したが、 13日目は水族館の業務スケジュールと の関係で第 1セッションの終了直後で、あった。観 察時間を演技訓練後の30分間に限定したのは事前

の観察で、以下のことが明らかになったからであ る。すなわち、前述のように給餌は訓練時に限定 されており、演技訓練中はもっぱら演技に従事し ているため餌の吐き戻し行動はほとんど出現しな かった。したがって吐き戻し行動は演技終了後に 始まり、吐き戻し行動を繰り返すうちに餌が次第 に破損し、それとともに吐き戻し行動の回数は漸 減して、 30分経過後にはほとんど吐き戻し行動が 見られなくなっていた。

(3)遊具

飼育下のイルカは、獲得できるものや利用空間 の少なさから野生下に比べ行動レパートリーが少 ないとされている。このため、当該水族館で、は従 前より、環境エンリッチメントの一環としてプラ スチック製のフープ(太さ 2cm、直径約 1m)の投入 を時折行っていた。また、同じフープは過去に演 技訓練でしばしば用いられており、対象個体は水 面に浮かんだフープを胸びれや尾びれ、背びれに 引っかけてトレーナーの足元まで、持ってくる演技 を習得していた。そこで、このフープを本研究の 介入期に遊具として使用することにした。なお、

本研究期間中に行われた演技訓練ではフープを使 用しなかった。

(4)対象行動とその記録

吐き戻し行動と遊具接触行動を記録対象とした。

吐き戻し行動は、伊豆三津シーパラダイス(2006) の定義を参考に、嚇下した飼料(サパやホッケの切 身)を口から体外に吐出する(その形状や個数は問 わない)動作を1固として記録した。なお、防御 反射的H匝仕や疾病を原因とする幅吐は研究期間中 認められなかった。遊具接触行動は、イルカの身 体の一部に遊具が触れることと定義し、フープと の接触が途切れるまでを1回として記録した。こ れらの行動は観察者が水中観察窓の前に立って、

イルカの動きに応じて随時移動しながら目視で計 数し、そのトポグラフィ(行動の型)と合わせてノー

トに控えた。

(5)実験手順

単一事例計画法(BarlowとHersen1997; Cooperら 2013; Janoskyら2009;Satakeら2008)により、遊具 導入の効果を検討した。単一事例計画法とは、個 別事例に対して順次、介入と呼ばれる環境操作を 行い、事例(本研究のイルカ個体)内で、その効果を確 認するさまざまな実験技法の総称である。本研究 では、最も代表的な技法である反転計画を用いた。

反転計画は介入を行わないベースライン期と介入 期の繰り返しからなる。本研究のベースライン期 は水槽内に何も投入されていない状況であり、演 技種目の訓練の終了直後に30分間の行動観察を行 った。介入期では演技訓練終了直後に、遊具とし

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4本のフープを水槽に投入して30分間の観察を 行った。なお、投入したフープの数が 4つで、あっ たのは水槽内にいた個体数に合わせたためである。

ところで、介入期に投入する遊具はイルカにと って報酬として機能する可能性があり、それに先 立つ訓練時に生じた誤行動や未熟な演技に影響す る懸念があった。このため、ベースライン期と介 入期の移行については、遊具導入が演技訓練の成 績に影響しないと判断した際に実施した。各期で の観察日数については、第 Iベースライン期は 3

日、第 l介入期は2日、第2ベースライン期は4 日、第2介入期は 2 日、第 3ベースライン期は2 目、第3介入期はl日で、あった。

研究全期間22日間のうち観察可能であったのは 14 日間であり、 8 日間は水族館および観察者の都 合により観察ができなかった。 Fig.1に観察スケジ ュールを示した。非観察日 8日間は演技訓練後に フープを投入しないというベースライン期と同じ 手続きであり、すべてベースライン期の観察日の 聞に挟まれていた。具体的には、第 1ベースライ ン期の観察 1日目と 2日目の聞に非観察 1日、観 察2日目と 3日目の聞に非観察3日、第2ベース ライン期の観察2日目と3日目の聞に非観察2日、 第3ベースライン期の観察 1日目と 2日目の聞に 非観察 2日で、あった。つまり、ベースライン手続 きは継続していたものの観察は行わなかった日が まれにあったということである。

また先述のように、給餌を伴う演技訓練は原則 として毎日 4セッション行われており、うち lセ ッションの後だけを観察対象としたため、残り 3 セッションの後については、演技訓練後にフープ を投入しないというベースライン期と同じ手続き にした。

結 果 (1)個体アン

Fig.2にアンの対象行動の推移を示した。第 lベ ースライン期では平均 10回の吐き戻し行動(図中 の・)が観察されたが、第 I介入期には一度も観察 されなかった。続く第2ベースライン期では 1日 目(全体の6日目)に吐き戻し行動は2回であったも のの、その後に増加し、期間平均で12回の吐き戻 し行動が観察された。しかし、介入を再開すると 吐き戻し行動は急減し、第2介入期の2日間平均 で2.5回で、あった。第3ベースラインも 1日目(全 体の 12日目)には4回で、あった吐き戻し行動が 2

日目には 15回に急増した。第3介入期となる最終 日には吐き戻し行動は8回に減少した。

なお観察中、遊具接触行動(図中の・)は、第2介 入期の l日目(全体の 10日目)を除き高頻度で観察 された。Fig.3の左側に介入期に観察された行動を 示した。具体的には、「フープを吻先で押しながら 泳ぐJ、「フープを胸びれに引っかけて泳ぐ」とい った様々な行動が見られた。遊具が投入されてい ない状況では、吐き戻し行動のほかには水槽の壁 に沿って泳ぐ行動を繰り返すことが多かったが、

遊具導入により行動の種類が増えた。

(2)個体ネオ

Fig.  2にネオの吐き戻し行動の推移を示した。

第 lベースライン期では平均21回の吐き戻し行動 (図中の.)が観察されたが、遊具を導入すると吐き 戻し行動は1日目 0回、 2日目 l回と激減した。ベ ースライン処置に戻すと吐き戻し行動は直ちに再 発し、初日(全体の6日目)に24回を記録した。そ の後も吐き戻し行動は高頻度で観察され、第2ベ

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Fig. 1. Schedule of  observation.  The 22day research  phase consisted  of  14 observation  days (9  baseline  days shown as filled  circles  and  5 intervention  days shown as  unfilled  circles)  and  8  non‑observation days shown as unfilled squares 

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イルカの吐き戻し行動の低減

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Fig. 2.  Effect of toys on the frequency of regurgitation behavior across days for Anne (top paneりandNe

(boompanel).  Recording of each day started immediately after "show" training with feeding and it  lasted 30 min.  Four hoops (toys) were in  the pool after the "show" training  only in  the intervention  phases. Filled circles represent regurgitionbehavior (plotted on the left ordina恰), and filled  squaS presenttoy‑touching behavior (plotted on the right ordinate). 

示した。具体的には、「フープを胸びれに引っ掛け て泳くつといった様々な行動が見られた。また、

アンと同様、遊具が投入されていない状況では、

吐き戻し行動のほかには水槽の壁に沿って泳ぐ行 動を繰り返すことが多かったが、遊具導入により 行動の種類が増えた。なお、 2頭ともに遊具接触行 動が吐き戻し行動と同時に行われることはなかっ

た。 ースライン期を平均すると 12.2回で、あった。再び

遊具を導入すると吐き戻し行動は急減し、第2介 入期の 2日間平均で 2.5回で、あった。第 3ベースラ イン期の平均も 2.5回であり、第 3介入期(最終日) では0回であった。

遊具接触行動(図中の圃)については、第1介入期 1日目(全体の4日目)と第2介入期 2日目(全体の 11日目)に少なかったが、残り 2日は高頻度で観察 された。 Fig.3の右側に介入期に観察された行動を

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Fig. 3.  Events records of behaviors of Anne (Ieft)  and Neo (right) on the 5 intervention days. Each  short vertical line indicates a recorded episode  of  each  behavior  and  circle  indicates  regurgitation behavior. 

考 察

飼育下にあるバンドウイルカの望ましくない行 動として報告されることが多い吐き戻し行動に対 して遊具導入が低減効果を持っか否かについて、

単一事例計画法により実験的に検討した。観察対 象にした2個体のイルカ(アンとネオ)において、給 餌を伴う演技訓練の後で見られた餌の吐き戻し行 動は遊具導入という介入操作によって大きく低減 した。ただし、この低減効果は個体ごとに異なる 様相を呈した。アンでは、介入を繰り返すにつれ て低減効果は小さくなったが、ネオでは低減効果 は持続した。また、アンでは、介入を撤去しても 1

日は持続したが、個体ネオでは初回の撤去時には 直ちに低減効果が消失したものの 2回目介入後は 効果が 2日間持続した。アンにおける低減効果の 縮小は遊具の新規性が減衰したことが原因ではな いかと考えられる。飼育員によれば、アンは遊具 に対する「執着」が日常あまり観察されないとの ことであり、本研究の結果はそれと一致する行動 傾向を示していると考えられる。ただし観察対象 となったイルカは 2個体に留まることや低減効果 の様相には個体差が見られたことから、他個体で の同様の観察を行って結果の普遍性を確認する必 要がある。

遊具の導入は環境エンリッチメントの一つであ る。本研究では、フープに触れる回数を遊具接触 行動として計測したが、単にフープに触れるだけ ではなく、フープを吻先で押したり胸びれに引っ かけたりして泳ぐ行動や、フープをくぐる行動な ど、様々な行動が観察された。環境エンリッチメ ントは、飼育環境の改善によって動物を心身両面 で健康にすることを目的として実施するもので、

飼育施設の改良、給餌の工夫、飼育空間への遊具 の導入などが含まれる (NovakとPetto1991)。一般 にもよく知られている北海道の旭山動物園の行動 展示のほかに、上野動物園や多摩動物公園の類人 猿施設の環境整備(黒鳥 2006)などが環境エンリッ チメントの例として挙げられる。今回の処置は飼 育係およびイルカにとって負担が少ない。また、

環境変容に基づく飼育動物の生物学的機能の改善、

そして質の良い行動の出現や増加がみられること は環境エンリッチメントの考え方(Newberry 1995;  Shepherdson 1998; Young 2006)にも適うものである。

なお、異常行動や望ましくない行動を軽減させ るためには、行動的学習理論の立場からの行動変 容 法 (behavior modification)が 有 効 で あ る (Hunthausenと Seksel 2007;  Landsbergら 1998; McGreevyとBoakes2007)。行動変容法には 2種類 の方法がある。行動の先行事象に対するアプロー チでは、異常行動などの行動上の問題を引き起こ す環境内の刺激を特定し、それを除去およびコン トロールする。一方、行動の結果事象に対するア

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イルカの吐き戻し行動の低減 プローチでは、行動によって生じる環境変化に注

目し、行動を強化している報酬的事象(強化子)を取 り除いたり、行動を嫌悪刺激で罰して減弱させた りする。また、問題となっている別の行動を強化 することで当該の行動を間接的に妨げる。

吐き戻し行動を引き起こす先行事象は吐き戻し 可能な餌の呈示であるので、これを除くことは飼 育上困難である。したがって、行動変容法として 取り得る方策は結果事象へのアプローチになる。

吐き戻し行動は、「吐き戻す」という行動そのもの が引き起こす刺激(餌片が口内を逆流する触感、口 から目前に再出現する餌片)が強化子となって生

じているのかもしれなし刊行動内在的強化)、あるい は、吐き戻した餌を再度取り込み阻唱することが 強化子として機能している可能性も考えられる。

また、吐き戻す行動は他のイルカ個体や観覧客の 注視などによって維持強化されている可能性もあ る。こうした場合、強化子を除去して吐き戻し行 動を消去することは困難で、ある。また、水族館飼 育動物の福祉の観点からは嫌悪刺激による罰も適 切でない。したがって、他の行動を強化すること で間接的に吐き戻し行動を妨げる方策が望ましい。

遊具接触行動は口吻や胸びれへの触感、遊具の移 動などによって内在的強化を受けるため、人為的 に付加的な強化子を与える必要はない。なお、遊 具接触行動と吐き戻し行動は同時に行うことはや や困難で、はあるが、不可能で、はない。つまり、遊 具接触行動は吐き戻し行動の代替行動ではあるが、

非両立行動というわけではない。例えば、研究期 間終了後の3日間、水族館の営業時間中(ただし演 技訓練時間帯は除く)フープをプールに入れたま まにしておいたところ、フープを身体に引っ掛け たまま吐き戻し行動を行うといった行動をネオが 示した。

本研究が示すように、遊具を導入することは単 調な飼育環境を改善し、動物に多様な行動を創出 させる一因となり得る。しかし、ただ単に遊具を 与えることが良いわけで、はない。 Lacinakら(1998) は、望ましい行動が生じたときだけ遊具を与える

という手続きにより、望ましい行動を積極的に強 化することを提唱している。またLineら(1991)は、 アカゲ、ザルに遊具を与えても行動変容が生じたの は若齢個体だけで、あったことから、個体の年齢に 適した遊具導入の必要性を指摘している。与える 遊具の種類については、事故(誤飲や怪我)が生じな いよう遊具の安全性に十分配慮することはもちろ ん、対象個体にとって有効なエンリッチメントと なることが重要である。例えば、 DelfourとBayer (2012)は、 6頭のバンドウイルカが飼育されている 水槽に、21種類の遊具から毎日 3""5種類を選んで 投入してイルカの行動を観察しているが、種類に よって接触行動の頻度に違いが見られたほか、個

体差も確認されている。ただし、この研究は行動 上の問題に対する介入効果を検討したものではな い。一方、本研究では遊具導入が行動上の問題に 及ぼす効果を数量的・実験的に検討したものであ るが、遊具の種類は 1種類で、個体差について十 分な吟味は困難で、ある。今後は、遊具の種類や個 体差についても数量的・実験的に明らかにすべき であろう。

倫理的配慮および研究貢献分担

本研究は、対象個体を飼育する水族館の了解と 協力を得て、同水族館内の規定に従い、動物福祉 および飼育業務に配慮して実施した。本論文は第 1 著者と第5著者が初稿を作成した後、他の共著者 の意見を受けて修正し、最終稿に全員が同意した。

第1著者は第5著者の指導下に第2著者および第4 著者と共同で実験計画を立案し、第2著者と第3 著者の助言と現場協力を得て、個体の観察記録を 行った。なお、第 l著者が計画の現場遂行者であ ること、当該水族館(第2著者と第3著者の所属機 関)および第4著者の指導協力を受けることを明記 した研究計画書を第5著者が所属機関の動物実験 委員会に提出し承認されている(承認番号200916、 201021)。

謝 辞

本研究は科学研究補助金 (19300091、23220006) の補助を受けて行われた。

本研究を行うにあたり多大なご助力を頂いた名 古屋港水族館の祖一誠氏、日登弘氏、斎藤豊氏以 下多くのスタッフと、原稿作成に当たり貴重な意 見をいただいた丹野貴行氏、永石高敏氏、沼田恵 太郎氏に感謝する。

引用文献

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(9)

イルカの吐き戻し行動の低減

P l a y i n g  t o y s  r e d u c e  r e g u r g i t a t i o n / r e g u r g i t a t i o n  b e h a v i o r   o f  c a p t i v e  b o t t l e n o s e  d o l p h i n s   ( T u r s i o p s  t r u n c a t u s )  

Hyangsun Chin1, K句iKanda2, Yuka Uwan02, MasiTomonaga3, & Sadahiko Nak句ima1

DeparentofPsycho1ogica1 Science, Kwansei Gakuin University, Nishinomiya, Hyogo 662‑8501, Japan 

Port ofNagoya Public Aquarium, Nagoya, Aichi 455‑0033, Japan 

Primate Research Institute, Kyoto University, Inuyama, Aichi 484‑8506, Japan 

*Corresponding author. E‑mai1 address:[email protected] 

Summary 

An investigation was conducted to investigate the environmenta1 enrichment, by using a sing1e‑case  design.  The  study  examined whether  toys  (hoops)  reduced  "regurgitation  behavior"  of two  fema1e  bott1enose do1phins (Tursiops truncates) in an aquarium. A base1ine assessment phase, without specific 

atm (A)was followed by the intervention phase, in which a toy was thrown into tankfor 30 min  immediate1y after the dai1yaining/feedingsession (B). Severa1 cycles of A and B phases indicated that the  number of regurgitations was e旺ective1ydecreased by the intervention, although there were individua1  differences in the durabi1ity and cross‑situationa1 genera1ity of the eec.t

Keywords: enrichment, undesirab1e behavior, regurgitation, bott1enose do1phin, toy 

Anima1 Behaviour and Management, 51 (2)8794,2015 (Received 22 August 2014; Accepted for  publication  5 January 2015) 

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