Ochromonas danica由来1,3-β-グルカンホスホリラーゼ
の特性と応用
誌名
誌名
応用糖質科学
ISSN
ISSN
21856427
著者
著者
磯野, 直人
山本, 豊
西尾, 昌洋
梅川, 逸人
久松, 眞
巻/号
巻/号
5巻2号
掲載ページ
掲載ページ
p. 128-134
発行年月
発行年月
2015年5月
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat
応 用 糖 質 科 学 第5巻 第2号 128-134(2015)
主主l~f主G
Characterization and Application of 1,3市-Glucan Phosphorylase from
Ochromonas danica事Ochromonas danica
由来
1
,
3
-
s・クルカンホスホ
リラーゼの特性と応用
*
(2015年 2月16日受付;2015年 3月2日受理)- 県
磯 野 直 人1ぺ
山 本 豊 ¥ 西 尾 昌 洋
1, 梅 川 逸 人1, 久 松 ( い そ の な お と , や ま も と ゆ た か,に し お ま さ ひ ろ , う め か わ は や と , ひ さ ま つ ま こ と )Naoto Isono,"** Yutaka Yamamoto,' Masahiro Nishio,'Hayato Umekawゲ and Makoto Hisamatsu'
1三 重 大 学 大 学 院 生 物 資 源 学 研 究 科 514-8507津市栗真町屋町 1577
1 Graduate School of Bioresources, Mie University Tsu 514-8507, Japan 要旨:1,3-s-グルカンホスホリラーゼ (BGP)は1,3-s-グルコシド結合の加リン酸分解を可逆的に 触媒する酵素である。BGPは40年以上前に発見された酵素であるが,研究報告がほとんどなく, 詳細な性質が明らかにされてこなかった。本研究ではOchromonasdanicα由来 BGP(OdBGP)の 特性と一次構造を調べた。本酵素は三糖以上のラミナリオリゴ糖からラミナ1)ンまで 1幅広い分 子量の糖質の加リン酸分解とその逆反応 (合成反応)を触媒した。反応平衡は合成方向に傾いて いることがわかった。αーク'ルコース 1-リン酸とラミナリピオースを基質としてOdBGPの反応を 行ったところ,直鎖1,3-s-グルカンが合成された。また,OdBGPとスクロースホスホリラーゼ を併用した反応では,スクロースとグルコースを出発材料として 1,3-s-グルカンをワンポット合 成することができた。酵素合成グルカンを高眼圧(緑内障)モデルラットの硝子体に投与したと ころ,網膜神経節細胞の保護効果が認められた。OdBGPの一次構造中には既知の保存領域は認 められなかったが,予測二次構造はGH94ファミリーのホスホリラーゼと類似していた。 キーワード:1,3-sーグルカン,ホスホリラーゼ,酵素合成,緑内障,網膜保護日$
1
.
はじめに
ホスホリラーゼは多糖やオリゴ糖の非還元末端のグリコ シド結合を加リン酸分解し 糖1-リン酸エステルを生成 する酵素である1)。これまでに 20種類以上のホスホリラー ゼが発見されている九 また,ホスホリラーゼの反応は可 逆であるため,糖1-リン酸エステルを基質として反応を 行うと,多糖,オリゴ糖,配糖体を合成することが可能で、 ある1)。
1,3-s-グルカンは真菌,藻類,細菌などが生産する多糖 である。ね 1,3-s-グルカンには様々な種類があり,直鎖多糖 であるカードランやパラミロン, 1,6-s-結 合 に よ る グ ル コース分岐を有するシゾフイランやレンチナンなどが知ら れている。1,3-s-グルカンには免疫賦活,抗酸化,ゲル化, 整腸など種々の有用な機能があることが知られており,食 品,化粧品,医薬品など幅広い分野で利用されている。 1,3-s-グルコシ ド結合を加リン酸分解するホスホリラー ゼ [(1,3-s-グルコシル)11+無機リン酸 (Pi)ご (1,3-s-グルコ シル)11・1+αークールコース トリ ン酸 (α-GIP)Jには, ラミナ リピオースホスホリラーゼ (LBP,EC 2.4.1.31),ラミナリ デキス トリ ンホスホリラーゼ (LDP,EC 2.4.1.30), 1,3-s-グ ルカンホスホ 1)ラーゼ (BGP,EC 2.4.1.97)の3種類があ る1)0LBPと LDPはいずれもミドリムシから発見された酵 素である日。}近 年,LBPに つ い て は , 細菌Paenibacillus sp.とAcholeplasmalaidlawiiにも存在することが報告され た6η。これらの3種類のホスホリラーゼは基質特異性が異 なる。LBPはラミナ1)ピオースの加1)ン酸分解 (およびそ の逆反応)を触媒する酵素であるが, 三糖以上のラミナリ *本原稿は, 日本応用糖質科学会平成 26年度大会応用糖質科学シンポジウムで一部発表された0 ・・連絡先 (Te.059-231-9613l , Fax. 059-231-9684, E-mail: [email protected])
本
.
.
Key words: 1,3-s-glucan, phosphorylase, enzymatic synthesis, glaucoma, retinal protection略記:BGP, 1,3-s-glucan phosphorylase;α-G1P,α-glucose 1-phosphate;LBP, laminaribiose phosphorylase; LDP, lamト naridextrin phosphorylase; OdBGP, BGP from Ochromonas danica;Pi, inorganic phosphate; SP, sucrose phos-phorylase.
磯野他:Ochromonas dan;ca由来1,3-s-グルカンホスホリラーゼ オリゴ糖に対する活性は高くない6ヘ一方, LDPは三糖 以上のラミナリオリゴ糖に対する活性が高い例。 BGPは 1969年 に ド イ ツ のKauss博 士 ら に よ っ て 黄 金 色 藻 の Poterioochromonas malhamensis (旧学名:Ochromonas mal -hamensis)から発見された酵素である¥¥)。本酵素に関する 知見は発見当初に発表された2報の短い論文の内容に限ら れていた11,12)。本酵素はLBPやLDPと異なり,多糖である ラミナリンに対して合成反応や分解反応を示す。また,グ ルコースをアクセプターとした合成活性が観察されないこ とが特徴である。しかし,ラミナリオリゴ糖に対する反 応,酵素の分子量,反応産物の構造などをはじめとする酵 素の基本的な情報については,当時の研究では明らかにさ れなかった。
本総説では微細藻類Ochromonωdanica由来BGP(OdBGP) の性質と一次構造に関する知見を紹介する。また, OdBGP を利用して,安価な低分子糖質から機能性1,3-s-グルカン を合成する方法を概説する。
2
.
OdBGPの特性叫
2.1 O. danicaの培養と OdBGPの精製 0.danicaは不等毛植物門黄金色藻綱に属する大きさ 10 μmほどの淡水性単細胞藻類で、ある。光独立栄養でも従属 栄養でもどちらでも成長が可能な微細藻で,P. malhamensis と同様に細胞内の液胞に貯蔵多糖であるクリソラミナリン という 1,3-s・グルカンを蓄積する特徴がある。 P.malha -mensisと比較すると, O. danicaの方が培養は容易で、あり, かつBGPを多く生産することがわかったため,研究材料 として用いることにした。 人工気象器 (12時間明期一12時間暗期, 220C)を用いて, 0.danicaNIES-2142株を7日間種培養した。続いて, 1.5% (w/v)グルコースを含む培地に種培養液を加え,光を照射 せずに300Cで3日間振とう培養した。 得られた細胞を超音波破砕したのち,硫安分画,イオン 交 換 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー , 疎 水 ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー で OdBGPを精製した。精製酵素をSDS-PAGEで解析したと ころ, 3本のバンド (113,118, 124ゆ a)が観察された。 他のクロマトグラフィーによる精製を試みたが,これらの ポリペプチドを分離することはできなかった。サイズ排除 クロマトグラフィーでは250kDaの位置に酵素が溶出され たため これらのポリペプチドがホモダイマーやヘテロダ イマーを形成していることが示唆された。なお, N末端ア ミノ酸配列や内部アミノ酸配列に違いがみられなかったた め, 3種類のポリペプチドは同一遺伝子産物であると思わ れた。 2.20dBGPの酵素特性 はじめに,精製したOdBGPの加リン酸分解反応におけ る基質特異性を調べた(表1)0 OdBGPはラミナリンのほ か,三糖以上のラミナリオリゴ糖を加リン酸分解した。し +129+ 表1.OdBGPの基質特異性a 基質 相対分解活性 相対合成活性 (1mM)" (%)' (%)' グルコース ラミナリピオース ラミナリトリオース ラミナリペンタオース ラミナリン セロピオース セロテトラオース ソホロース ゲンチオピオース 0 0 70 100 89 0 0 0 0 0 69 81 100 359 3 9 2 0 a文献13)より改変して転載。 bラミナリンについては10mg/ mLo'ラミナリペンタオースに対する活性をそれぞれ100%と した。 かし,ラミナリピオースや,ラミナリオリゴ糖以外のオリ ゴ糖に対しては分解活性を示さなかった。次に, α-GIPを ドナーとした合成反応におけるOdBGPのアクセプター特 異性を調べた(表1)0 OdBGPは様々な大きさのラミナリ オリゴ糖やラミナリンに対して高い合成活性を示した。ま た,セロオリゴ糖やソホロースに対しでも低い活性を示し た。しかしグルコースをアクセプターとした場合は合成 活性が観察されなかった。このように,ラミナリンに対し て活性を示す点と,ラミナリピオースをほとんど合成・分 解できない点が, LBPやLDPの 基 質 特 異 性 と 大 き く 異 なっていた。また, LDPと同様,三糖以上のラミナリオ リゴ糖の合成・分解において高い活性を示すことが明らか となった。合成反応におけるOdBGPの至適pHは5.5で, pH4.7から 9.1の 聞 で 酵 素 は 安 定 で あ っ た 。 至 適 温 度 は 300C付近であった。また, 400Cで 長 時 間 保 持 し で も OdBGPは失活しなかった。また,分解反応のpH・温度特 性は合成反応の場合とほぼ同様であった。 様々な濃度のラミナリトリオースと Piを基質としたと きの加リン酸分解速度を測定した。その結果,ラミナリト リ オ ー ス に 対 す るKmは4.1mM, Piに 対 す るKmは4.4 mM, kcatは400s'¥と計算された。また, LBp6•7•9) と同様に, OdBGPの 加 リ ン 酸 分 解 反 応 は 逐 次BiBi機構にしたがっ て進行すると考えられた。 至適条件 (pH5.5, 30o C)における反応の平衡を調べる た め に , 分 解 反 応 時 のα-GIPとPiの 経 時 変 化 を 調 べ た (図 1(A))o 10 m Mラミナリトリオース(あるいはラミナ リペンタオースやラミナリン)と 10m MPiを基質とした 場合, α-GlPの増加量やPiの減少量は非常に少なく,す ぐに反応が平衡に達した。したがって,この条件では分解 方向の反応はほとんど進行しないことが明らかとなった。 次に,合成反応時のα-GlPとPiの経時変化を調べた(図 1 (B))o 10mMラミナリトリオース(あるいはラミナリペ ンタオースやラミナリン)と 10mMα-GlPを基質とした 場合, Pi濃 度 が す ぐ に 増 加 し そ れ に 伴 いα-GlP濃 度 が 大きく減少した。つまり,合成方向の反応は迅速に進行す る こ と が わ か っ た 。 ま た 平 衡 時 のα-GlP: Piは1: 10 であった。+130
・
以上のようにOdBGPの合成反応では様々な長さのラミ ナリオリゴ糖や 1,3-s-グルカンがアクセプターとなった。 また,反応の平衡は合成方向に大きく傾いていることがわ かった。これらのことから, OdBGPの合成反応を繰り返し 行えば,低分子の基質(例えばラミナリピオースと α-GIP) から,高分子の 1,3-s-グルカンを合成できるのではないか と考えた。A
B 10主』 10 ::2 8 2E 8 E ι 6 ;;:-6 <.!l 4 <.!l 4 士 重 主主 R j + 岨J Z ~ 2 !16 a. 0。
乱
。
2 3。
2 3 反応時間 (h) 反応時間 (h) 図l 酵素反応中のPi濃度とα-GIP濃度の変化 各基質 (IOmM, ラミナリンのみ20mg/mL)にOdBGP(50 mU/mL)を作用させた後,反応液のPi濃度 (0,ム,口)と α-GIP 濃度 (・,ム ・ )を調べた。(A)0と・,ラミナリトリ オ ー ス +Pi;ムと....,ラミナリペンタオース+Pi;口と・,ラミ ナ リ ン +Pi; (B)0と・,ラミナリトリオース +α-GIP;ムと ....,ラミナリペンタオース +α-GIP;口と・'ラミナリン +α-GIP。文献13)より改変して転載。A
.
.
-島 応 用 糖 質 科 学 第5巻 第2号 (2015)3
.
OdBGP
を用いた
1
,
3
-
s
・グルカンの合成
13,14) 3.1 a-GIPを基質とした合成 α-GIPとラミナリピオースを基質としてOdBGPの反応 を行い,反応産物を経時的にTLC
で調べた(図2
(
A
)
)
。反 応の初期ではラミナリト リオース,ラミナリテトラオー ス,ラミナリベンタオースなどの生成が観察された。その 後,反応時間が長くなるにつれて,より大きなオリゴ糖が でき,基質であるラミナリピオースを含む小さなオリゴ糖 が消失した。さらに反応を続けると,TLC
の 原 点 の 位 置 に濃いスポットが観察されるようになった。これらの結果 から, OdBGPにはラミナリオリゴ4
窟を伸長するはたらき が あ る こ と が 示 唆 さ れ た ( 図2(B))。ま た , 短 時 間 反 応 (例えば1時間以下の反応)では,種々の小 さ な オ リ ゴ 糖 (主に三糖から九糖)が合成され,その聞は高分子の産物 が生じないことから, OdBGPの伸長様式は非プロセッシ ブ型であると推測された。 一晩, OdBGPの反応を行ったところ,大量の沈澱物が ・生じた。この沈j殿物は水にはほとんど溶けなかったが, ア ルカ リやジメチルスルホキシドには溶解した。反応産物を 1,3-sーグルカン特異的蛍光色素であるアニリンブルー15)で 染色したところ,直鎖 1,3-s-グルカンであるカードランや パ ラ ミ ロ ン と 同 等 の 蛍 光 強 度 が 観 察 さ れ た。また 31C_ NMR分析やメチル化分析からも, 沈 澱 物 は 直 鎖 の 1,3-s -グルカンであることが示された。合成収率は最大80% と 高かった。また,沈澱物を走査型電子顕微鏡写真で観察しC
•
M 0 0.33 0.66 1 2 4 8 16 反応時間 (h)B
α-G1P Pi α-G1P Pi α-G1P Pi000
000
000
ハ_QV
O O
OdBGPLJL
O G O
f¥A._)LJL
OCOO
LJL
O U U 1 J
~ OdBGP f'.rV ~ OdBGP 1,3β-ー(グルコシル)2 1,3-βー(グルコシル)3 1,3ーβー(グルコシル), 1,3-βー(グルコシル)n 図2. OdBGPによる 1,3-s-グルカンの合成 (A)100mMα-GIPと2.5mMラミナリピオースを基質として, OdBGP (50mU/mL)の 反応(p
H
5.5, 30oC)を行った。反応産物を経時的に回収し脱塩・濃縮した後,T
L
C
で 解析した。M,マーカー (グルコース,ラミナリピオース,ラミナリトリオース,ラミナ リテトラオース,ラミナリペンタオース,ラミナリヘキサオース,ラミナリヘプタオー ス)。文献13)より改変して転載。(B)OdBGPによる 1,3-sグルカン鎖の伸長反応。(c)酵 素合成 1,3-s-グルカンの走査型電子顕微鏡写真。磯野他 Ochromonas danica由来1,3-s-グルカンホスホリラーゼ +131
・
たところ,多数の平板状六角形粒子やドーナツ状粒子が観 察された(図2(C))。このような特徴的な形状の粒子は過 去の 1,3-s-グルカンの研究でも観察されている16川。 OdBGPによって合成された 1,3-s-グ ル カ ン の 分 子 量 分 布をサイズ排除クロマトグラフイーで調べた。その結果, ドナーである α-GlPと合成反応のプライマーであるラミ ナリピオースの濃度比を大きくすると,長鎖の 1,3-s-グル カン (最大で平均重合度 100程度)が合成される傾向が認 められた。このため,反応条件を最適に設定すれば,合成 グルカンの平均鎖長を調節することができることがわかっ た。1,3-s-グルカンの機能性は鎖長によって異なることが あるため18) 任意の鎖長の1,3-s-グルカンを合成できるこ とは有用であると思われた。 3.2 スクロースを基質とした合成 OdBGPを用いると α-GIPとラミナリピオースを基質と して.1,3-s-グルカンを人工的に合成できることが明らかと なった。しかしなカfら, α-GIPとラミナリピオースはいず れも高価な基質である。そこで, もっと安価な基質を用い て1,3-sーグルカンを合成することができないか検討した。 2種類のホスホリラーゼを組み合わせて反応を行うと, 高価な糖リン酸エステルではなく,安価な糖質を原料とし て,多糖やオリゴ糖を合成できることが一般的に知られて いる19)。α-GIPはスクロースをスクロースホスホリラーゼ (SP,2.4.1.7)で加リン 酸 分 解 す る こ と で 得 ら れ る。した がって.OdBGPとSPの反応を同時に行えば,市販のα -GIPではなく安価なスクロースを出発材料として 1,3-s-グ ルカンを合成できるのではないかと考えた(図3)。スク ロース,ラミナリピオース.Piの混合液にOdBGPと乳酸 菌Leuconostocmesenteroides由来のSPを加えて一 晩 反 応 を行ったところ,予想通り.1,3-s-グルカンの沈澱が生じ た。また,スクロースとラミナリピオースの濃度比を大き くすると,長鎖の 1,3-s-グルカンを得ることができた。 上 述 の よ う に , グ ル コ ー ス を 基 質 と し た 場 合 に は OdBGPは合成活性をほとんど示さない。し か し ア ク セ プターとしてグルコースを全く利用できないわけではなv
o-o
+
0
時
スクロース Pi_
!
_
,
)
s
J
;
00-ー+
00
直~
1,3-β ー(グルコシル}n本 α-Gl PA
く,高濃度 (100m M以上)のグルコースと α-GIPの存在 下でOdBGPを長時間反応させると,1,3-sグルカンが合 成されることを見出した。グルコースの濃度が高いほど, 短鎖の 1,3-s-グルカンが合成された。また.OdBGPとSP を併用した場合は,グルコースとスクロースを出発材料と して 1,3-s-グルカンをワンポット合成することができた。4
.
酵素合成
1
,
3
・s
-
グルカンの機能性別
以上のように,安価な基質から簡単な操作で直鎖の 1,3-s
-
グルカンを酵素合成する方法を確立した。また,反応系 には限られた成分しか存在しないため,沈j殿物を水で洗浄 するだけで高純度の 1ム
s
-
グルカンを調製することが可能 であった。長鎖の酵素合成グルカンはマクロフアージ活性 化能を示した21)。重合度50以上の直鎖1,3一日目グルカンには 高い抗腫療活性があることもJ
J
前の研究で報告されてい る山。また,酵素合成 1,3-s-グルカンには気管支瑞息モデ ルマウスの気管支平滑筋の肥厚を抑制する効果があること を最近見出した町。 ここでは,酵素合成 1,3-sグルカンの 網膜保護効果について紹介する。 緑内障は眼圧の上昇とともに網膜の神経節細胞がゆっく りと死滅し視野障害や視力障害が生じる眼疾患である。 症状が進行すると失明に至る病気で, 日本人の失明原因の 第 l位を占めている。緑内障には高眼圧緑内障と正常眼圧 緑内障がある。高眼圧緑内障は欧米人に多いタイプの緑内 障で,何らかの理由で眼圧が上がか網膜や視神経が圧迫 されダメージを受ける。一方 眼圧が正常値でも緑内障に なることがあり,この症状を正常眼圧緑内障と呼ぶ。これ は日本人に多いタイプの緑内障で,発症前の眼圧が低いこ とや,視神経や網膜が脆弱であることが原因として考えら れている。いずれのタイプの緑内障においても点眼や手術 で眼圧を下げる治療が最も良く行われている。し か し こ れ ら の 方 法 だ け で は 治 療 効 果 が 不 十 分 で 緑内障の進行が 止まらないことがある。このため 眼圧降下以外の治療ア プローチも必要とされるようになってきており,特に網膜 神経保護薬による治療が注目されている。酵母の細胞壁粗00
+
。
ノ α-GlP フルクトース , ,心
。
。
ζy
。
1,3-β ー(グルコシル}n+l Pi ._ーー"ーー'ーーーーー-ー----ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」 本 n;,:1 図3.スクロースを基質とした 1,3-s-グルカンの合成+132+ 画分であるザイモサンを視神経圧迫時の硝子体に投与する と,網膜視神経の軸索再生が起こることが報告されてい る刊。ザイモサンはβグルカン,マンナン,キチン,糖タ ンパク質,糖脂質の混合物である。これらのうち,網膜神 経保護に寄与している成分は実験的には特定されていな かった。そこで,酵素合成 1,3-s-グルカンの網膜保護効果 について評価した。 一過性高眼圧処置により網膜虚血を施したモデルラッ ト の硝子体に,ジメチルスルホキシドに溶かした酵素合成 1,3-s-グルカン (ピークトップ分子量 11,000,5~lg) を注 射で投与した。7日後,眼球を摘出し 網 膜 の 切 片 を HE 染色して観察した(図4(A))o 1,3-s-グルカンを投与してい ない高眼圧ラッ トの網膜内網状層は,正常なラットの内網 状層の70%程度に薄化した。また,網膜の神経節細胞数 も大きく減少していることがわかった。一方,酵素合成 1,3-s-グルカンを投与した高眼圧ラッ ト網膜の内網状層厚 や神経節細胞数は,正常ラットと同程度の値であった。ま た, TUNEL染色した網膜切片を観察したところ, 1,3-s-グ ルカン非投与高眼圧ラッ トの神経節細胞はアポトーシスで 死滅していることが明らかとなった。一方,酵素合成 1,3
-s
-
グルカンを投与したラッ トでは,正常ラッ トと同じく, アポトーシス細胞が検出されなかった。さらに,網膜に光 を照射したときのニユーロンの活動を評価する網膜電図測 定を行った (図4(B))o 1,3-s-グルカン非投与高眼圧ラッ ト では,網膜の双極細胞とグリア細胞の活動を示すb波の振 幅が,正常ラッ トとくらべて30%以上減少していた。し か し 酵 素 合 成 1,3-s-グルカンを投与したラットでは正常 ラッ トと同等のb波振幅が観察されたため,網膜ニューロA
(グルカン非投与正常ラット )﹁
L F I l l し闘
鳩
湘
蜘
倒
内
出 国 ' 4 4 1 応 用 糖 質 科 学 第5巻 第2号 (2015) ンの反応が維持されていることがわかった。以上のよう に,酵素合成 1,3-s-グルカンに網膜神経節細胞を保護する 作用があることが明らかとなった。1,3-s-グルカンで活性 化された眼内マクロファージやグリア細胞が神経栄養因子 を分泌しそれによって細胞のアポトーシスが抑制され, 軸索伸長が促進される作用メカニズムがあるのではないか と推測している。5
.
OdBGP
の一次構造
OdBGPのN末端アミノ酸配列と内部アミノ酸配列から プライマーを設計し, RT-PCRによってOdBGPの完全長 cDNAをクローニングしたo1
専らh
たcDNAには 1,205~~ 基のタンパク質をコードするORFが含まれていた。また, N末端アミノ酸配列解析の結果から, OdBGPは79残基の シグナルペプチドを持つ前駆体タンパク質として翻訳され ることが推定された。成熟タンパク質は 1,126残基のアミ ノ酸からなり質量は125kDaと計算され, SDS-PAGEから 推定された質量と同等の値であった。前述のように,精製 OdBGPのSDS-PAGE解析では同一遺伝子産物と思われる 3種類のポリペプチドが観察されたが,これらの分子種の 構造の違いについては不明であった。OdBGPのアミノ酸 配列中にはデータベースに登録されている既知の保存領域 は認められなかった。しかし GH94ファミ リーの酵素で あるPaenibacillussp.のLBp6 )とは30%の配列類似性を示 した。また, GH94ファミ リーのホスホリラーゼと OdBGP を比較すると,予測された二次構造や触媒残基の周辺配列 が 似 て い る こ と が わ かった。最 近 , 数 種 類 の 原 核 生 物 Eド 'K づ ツ 門 川 又ラパ
a 圧 民 眼 い い高の
B
正常ラット 高眼圧ラット (グルカン非投与) (グルカン非投与) 高眼圧ラット (グルカン投与) 民 J V O( ﹀ E ) 煙蝶 1 2 3 0 1 2 3 0 1 2 3 時間(ms) 時間(ms) 時間(ms) 図4 酵素合成J,3-s-グルカンの網膜保護効果 (A)HE染色した網膜切片。矢印は内網状層厚を示す。 (8)網膜電図。矢印はbj皮の, 振幅を 示す。文献20)より改変して転載。磯 野 他 Ochromonas danica由来 1,3-s-クルカンホスホリラーセ +133+ 原核生物BGP様タンパク質 キトピオースホスホリラーゼ セロデキストリンホスホリラ ゼ 0.1 セロビオースホスホリラーゼ │ 図 5.OdBGPと類似タンパク質の系統樹 (Paenibacillus polymyxαや Fervidobacteriumpennivoransな ど)にBGPがコードされていることを見出した21)(図5)。 これらのBGPはいずれも約 125kDaの酵素であり,OdBGP と 50%程 度 の 配 列 類 似 性 を 示 し た。このうち,F. pen-niνoransの組換えBGPの至適温度は 800 Cであり,高温下 での 1,3-s-グルカン合成に有用であることが示唆された。
6
.
おわりに
OdBGPを 用 い る と , 安 価 な 糖質 素材 か ら 高 純 度 の 直 鎖 1,3-s-グルカンを簡単に調製できる。天 然物 と し て ほ と ん ど存在しない鎖長のグルカンや カードランの加水分解で 得 る こ と が 難 し い 鎖 長 の グjレカンを調製することも可能で ある。これらには,天然物の 1,3-
s
-
グ ル カ ン と 異 な る 機 能 や 利 用 方 法 が あ る こ と が 期 待 さ れ る。ま た , 将 来 的 に は BGPと 分 岐 酵 素等 を 組 み 合 わ せ て , 抗 が ん 剤 と し て利 用 さ れ て い る シ ゾ フ イ ラ ン や レ ン チ ナ ン の よ う な 分 岐 1,3-s -グルカンを合成することも可能になるかもしれない。 40年以上, BGPの 研 究 は 全 く 行 わ れ て こ な か っ た。こ れほどまでに本酵素が興味を持たれなかった理由は良くわ からない。OdBGPの研究開始当 初 微 細 藻 の 培 養方 法 や 酵 素活性測定方法を確立するまでは 酵 素 の 存 在 自 体 に 疑 問 を抱くこともあったが,杷憂であった。研究を進めていく と,黄金色藻の限られた種だけでなく,いくつかの原核生 物にも BGPが 存 在 す る こ と が わ か っ て き た。こ れ ら の生 物における BGPの生理的役割についても興味が持たれる。 謝 辞 アミノ酸配列解析にご協力くださいました日本食品化工 株 式 会 社 の 山 本 健 博 士 な ら び に 佐 分 利 亘 博 士 ( 現 ・ 北 海 道 大 学)に御礼申し上げます。また,本研究にご協力くださ い ま し た 三 重 大 学 大 学 院 生 物 資 源 学 研 究 科 食 品 資 源 工 学 研 究 室 と 栄 養 機 能 工 学 研 究 室 の 皆 様 に 感 謝 申 し 上 げ ま す。本 研 究 の一部 は 独 立 行 政 法 人 科学 技術 振 興 機 構 「 研 究 成 果 展 開 事 業 研 究 成 果 最 適 展 開 支 援 プ ロ グ ラ ム 」 の 助 成 を 受 け て 行 わ れ た も の で す。 文献 1)M. Kitaokaand K. Hayashi・Carbohydrate-processingphospho -rolyticenzymes.Trends Gか
cosci.Gか
cotechnol.,14, 35-50 (2002) 2 )仁平高則,富山鳥双葉,知久和寛,北岡本光,中井博之,大 坪研一 ニゲラン代謝に関わる Clostridiumphytofermentans 由来の新規ホスホリラーゼの発見応用糖質科学, 4,1 47-153(2014) 3) B.A. Stone・Chemistryof s-glucans. inChem凶ly,Biochemis -り andBiology of (J→3)-s-Glucansand Related Polysaccha田 川des,A. Basic, G.B. FincherandB.A. Stone, eds., Academic Press, SanDiego, pp. 5-46 (2009) 4) L.R. Marechal and S.H. Goldemberg: Laminaribiose phospho -rylase fromEuglenagracilis.Biochem. Biophys. Res. Com-mun., 13, 106-109(1963). 5 )し.R.Marechal: 十1,3-0Iigoglucan: Olthophosphate glucosyl -transferases from Euglenagracilis.1.Isolationandsome prop -ertiesofa s-Iふoligoglucanphosphorylase. Biochim.Biophys Acta, 146,417-430 (1967) 6) M. Kitaoka, Y. Matsuoka, K. Mori, M. Nishimoto andK. Ha -yashi:Characterization of a bacteriallaminaribiosephosphory -lase.Biosci. Biotechnol. Biochem., 76,343-348 (2012) 7) T. Nihira, Y. Saito, M. Kitaoka, M. Nishimoto, K. Otsllbo and H.Nakai: Characterization ofa laminaribiosephosphorylase fromAcholeplasmalaidlawii PG-8A and production of1,3ー
ゅ
D-glucosyl disaccharides.Carbohydr.Res., 361, 49-54 (2012). 8) S.H. Goldemberg, L.R. Marechal and B.C. De Souza: s-1,3 -Oligoglucan:orthophosphateglucosyltransferase fromEuglena gracilis. J.Bio.lChem., 241, 45-50 (1966). 9) M. Kitaoka, T. Sasaki andH.Tanigllchi: Pllrification and prop -elties oflaminaribiosephosphorylase(EC 2.41.31)from Eug-lenagracilis Z. Arch. Biochem. Biophys., 304, 508-514(1993)10)L.R. Marechal:十1,3-01igoglllcan :orthophosphate glllcosyl
-transfたt'erasesfromEuぽ'gl必enagr百acαilばis.II.Comparativ巴st札IIωdi悶esb巴et
-wee叩nlaminari出bbiωos臼e-andβsド-1,3-01ωli唱goglllcanphosphorylas鈎e.Bω
.134. 11) H. Kauss and C. Kriebitzsch: Demonstration and partial purifi -cation of a s-( 1→3)-glucan phosphorylase. Biochem. Biophys. Res. Commun., 35, 926-930 (1969). 12) G.J.Albrecht and H. Kauss: Purification, crystallization and properties of a s-( 1→3)-glucan phosphorylase企 omOchromo-nas malhamensis. Phytochemistlア,10, 1293-1298 (1971). 13) Y. Yamamoto, D. Kawashima, A. Hashizume, M. Hisamatsu and N. Isono: Purification and characterization of 1,3-s-D-glu -can phosphorylase企om Ochromonωdanica. Biosci. Biotech -nol. Biochem., 77, 1949一1954(2013) 14) Mie University, N. Isono, Y. Yamamoto andW.Saburi: Beta -1,3-glucan manufacturing method,
u
.
s
.
Patent 8,530,202, 2013-09-10 15) P.J. Wood and R.G. Fulcher: Specific interaction of aniline blue with (1→3)-s-D-glucan. Carbohydr. Polym., 4, 49-72 (1984).16) T. Harada, Y. Kanzawa, K. Kanenaga, A. Koreeda and A. Ha-rada: Electron microscopic studies on the ultrastructure of curdlan and other polysaccharides in gels used in foods. Food Struct., 10, 1一18(1991). 17) M. Hrmova, T. Imai, S.J. Rutten, J.K. Fairweather, L. Pelosi, V. Bulone, H. Driguez and G.B. Fincher: Mutated barley (1,3) -s-D-glucan endohydrolases synthesize crystalline (1,3)-s-D-glu -cans. J.Biol. Chem., 277, 30102-30111 (2002).
18)久松 異.カードランとサクシノグリカン • Foods & Food Ingredient国Journal of Japan (FFIジャーナル).208. 944-954 (2003). 19)北岡本光:ホスホリラーゼ組み合わせ反応を用いた実用的 オリゴ糖調製.応用糖質科学.,1 286-290 (2011). 20) M. Nishio, Y. Kumita, Y. Uji, N. Isono and H. Umekawa: s -1,3-Glucan attenuates neuronal cell death after transient retinal ischemia and reperfusion. Food Sci. Technol. Res., 19, 485-489 (2013). 21)磯野直人,伊藤朔子:Fervidobacterium pennivorans由来の 耐熱性s-l,3司グルカンホスホリラーゼの機能解析. 日本農 芸化学会大会講演要旨集.1720 (2014). 22) T. Sasaki, N. Abiko, Y. Sugino and K. Ni悦a:Dependence on chain length of antitumor activity of (1→3)-s-D-glucan from Alcaligenes faecalis var. myxogenes, IFO 13140, and its acid -degraded products. Cancer Res., 38, 379-383 (1978). 23)中川奈美,西尾昌洋,松井亜衣,磯野直人,梅川逸人:重 合度の異なるs-I,3-グルカンの気管支端息モデルマウスに 対する影響. 日本農芸化学会大会講演要旨集.731 (2014). 24) T. Okada, M. Ichikawa, Y. Tokita, H. Horie, K. Saito, J. Yoshida and M. Watanabe: Intravitreal macrophage activation enables cat retinal ganglion cells to regenerate injured axons into the mature optic nerve. Exp. Neurol., 196, 153-163 (2005). 質疑応答 [質問] 農 研 機 構 ・ 食 総 研 北 岡 酵素の平衡が他のホスホリラーゼに比較してやや合成側 に傾いているが, これはpHの影響か戸ーリーグルカンの安 定性によるものか。 [回答] 至適pHが 中 性 域 に あ る 細 菌 由 来 のBGPでは,平衡時 のα-G1P/Piの値がOdBGPよりも高いので.pHの影響で はないかと考えています。 [質問] 農 研 機 構 ・ 食 総 研 徳 安 ①s-lふ1,6-グルカンを基質として合成反応を行うと.s -1,6-グルカンにs-l,3-グルカンが合成されるか。 ②β1,3・グルカン結晶の密度は,パラミロンのように高 いのか。 応 用 糖 質 科 学 第5巻 第2号 (2015) [回答] ¢分子の非還元末端の構造がOdBGPのアクセプターと して認識されれば,可能で、はないかと思います。ただし 1,6-s司グルコシド結合の分岐が多い糖をアクセプターとし て合成したことはまだありません。 ②結晶密度については調べておりません。 [質問] 天野エンザイム 森 アクセプターとしてのグルコース濃度を上げたとき,生 成物のDPが低くなる理由は。 [回答] グルコース濃度が高くなるにつれてBGPの反応速度が 上昇するため,一定時間に生成されるラミナリピオースの 量が増加すると思われます。ラミナリピオースは 1,3・