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ではじめる学校づくり

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(1)

生徒指導国際フォーラム1999〜2001報告書集

「教職員」・「子ども」・「地域」

ではじめる学校づくり

〜予防教育的な生徒指導の推進のために〜

平成15年1月

国立教育政策研究所

生徒指導研究センター

(2)

は じ め に

生徒指導研究センターは、平成13年1月、中央省庁の機構改革の際に、文部省の関係 組織の一部と国立教育研究所の関係研究官を統合して、国立教育政策研究所の中に設けられ ました。

生徒指導研究に関するセンターについては、平成10年9月の中央教育審議会答申「今 後の地方教育行政の在り方について」において、設置が提唱されていました。答申において は、「(地方公共団体の主体的役割を重視し、国はそれを支援する観点から)いじめや校内暴 力、不登校などの生徒指導行政に係る業務についても(略)、生徒指導研究に関するセンター の設置について検討すること。同センターでは児童生徒の問題行動等に関する様々な情報や 各学校、教育委員会、地域における取組について調査分析することにより生徒指導に関する 専門的・実践的な研究を不断に行い、施策に反映させるとともに、生徒指導に関してより専 門的立場から効果的な助言や支援を行うものとすること。」と示されています。

これを踏まえ、生徒指導研究センター発足後、いくつかの調査研究や全国的な研究協議 会の開催等に取り組んできているところです。

今後とも、文部科学省と密接な関係を持ち、高度の専門性を有する機関として、実証的 な調査研究を進める中で、各学校での生徒指導の充実に関していささかなりとも貢献をした いと考えております。

生徒指導研究センターの設置後、最初の対外的な活動は、『生徒指導国際フォーラム 2001』でした。生徒指導国際フォーラムの経緯については、本書のあとがきに当たる箇所 で本センターの滝総括研究官(旧国立教育研究所生徒指導研究室長)が詳細に述べていま す。生徒指導国際フォーラムの報告書は開催の都度作成されていましたが、本書は3年間の 取組を改めて一つにすることで、少しでも統合的な形でその内容を提供できればという点か ら作成したものです。生徒指導国際フォーラムに参加されたり、既に各回の報告書に目を通 しておられる方々にとっても有用なものになるものと思います。多くの方が利用されること を期待しています。

平成15年1月

国立教育政策研究所

生徒指導研究センター長 月岡英人

(3)

目次

はじめに………‥iii

Part1:生徒指導国際フォーラム1999 ピース・メソッドによる「いじめ防止」の取り組み………1

□オープニング□………・…・…………3

〔開会の挨拶〕………・・・・・・………・………3

〔資料の確認と発表者の紹介〕………・…………・………・………4

〔会の日的について〕…・………4

〔会の進行について〕………5

□オーストラリアのいじめと防止プログラム□………6

〔オーストラリアにおけるいじめ研究のスタート〕………‥…6

〔いじめの実態〕………6

〔子どもの意識〕………‥………7

〔教師の意識〕………7

〔親の意識〕………‥………‥…8

〔ピース・パックとは〕………‥………‥………9

〔ピース・パックの成果〕………‥………‥10

〔町ぐるみの取り組みにも〕………11

〔おわりに〕………12

□日本のいじめと防止プログラム□………13

〔日本のいじめ研究〕………‥………13

〔日本版の開発〕………14

〔日本語版から日本版へ〕………14

〔ピース・パックからピース・メソッドへ〕‥……・・・…………・‥………・・・………16

□ピース・メソッドの試行□………17

〔中根台中学校の概要〕……‥………17

〔ピース・パックとの出会い〕………,………・…・………‥17

〔1年間の流れ〕………・……・・………・…・…・………・…・……・………19

〔今後の課題〕………・………‥23

□ビース・メソッドの試行:保護者の立場から□……・………・25

〔「父母と教師の会」について〕…・………25

〔スタッフ会議への参加〕……….………‥25

〔活動を振り返って〕………‥………26

iv

(4)

□質疑と応答□………28

〔アンケートの内容について〕………28

〔学校の規模〕………‥………29

〔ピース・パック祭〕………‥29

〔なぜ効果があるのか〕………‥………30

〔オーストラリアの事情について〕………‥………‥32

〔心の教育の重要性とは〕………32

〔日本の取り組みに対する感想〕………34

□エンディンノグ□………36

[資料]………37

。当日配布プログラム………‥………‥………39

。『教育と情報』N0.493………43

Part2:生徒指導国際フォーラム2000 ピア・サポートの技法を活かした生徒指導の取り組み………‥………47

□オープニング口………‥………49

〔所長挨拶〕………‥49

〔お願い〕……….………50

□フォーラム(前半)□………51

〔用語・概念に関する注意〕………51

①「ピア・サポート」には様々なバリエーションがある………‥………51

②「ピア・サポート」の取り組みの一部分しか見ていない………51

③カウンセリングという用語がもたらす誤解………51

④既存のイメージを取り払う………52

〔フォーラムの趣旨〕………53

〔「日本のピア・サポート」とは〕………‥………53

①「日本のピア・サポート」の概念規定……… ………53

②「トレーニングで子どもを変える」のではない………54

③お世話をする側の子どものほうが育つ………54

④制度をつくることが目的ではない…‥………55

⑤トレーニングは「気づき」が大切………‥………55

⑥海外の取り組みと日本での取り組み方…‥………‥56

⑦国立教育研究所の取り組み………58

(5)

〔イギリスの事例〕………59

②何が生徒に大切か………‥………‥………‥………60

②ピア・サポートの役割とは………61

③イギリスのピア・サポートの形態−1:協同学習………61

④イギリスのピア・サポートの形態−2:話し合い活動………62

⑤イギリスのピア・サポートの形態−3:仲間づくり………‥64

⑥イギリスのピア・サボートの形態−4:もめごと解決・相談をベースとした活動………64

⑦ピア・サポート・フオーラム………65

〔横浜市立本郷中学校の取り組み〕………‥66

①子どもの人間関係の希薄化………66

②ピア・サポート委員会………67

③子どもたちの気づき………69

④取り組みの成果………72

〔横浜市立中川西小学校の取り組み〕………73

①ピア・サポートの始まり………74

②指導・実施の方法………75

③取り組みの成果と反省………75

□フォーラム(後半):質疑応答□………79

〔どのようなトレーニングをしたのか〕………79

〔成果の評価はいかに行うのがよいか〕………80

〔ピア・サポート委員会とは〕………82

〔準備段階で必要なこと〕………82

〔活動と年齢の関係〕………84

〔ビーフレンディングとは〕………85

〔保護者や教師のトレーニング〕………85

〔行政の果たすべき役割は〕………86

〔「いい聞き方」のトレーニング?〕………87

〔構成的グループエンカウンター等との違いは〕………88

〔学紋でやることの是非〕………88

〔これからの生徒指導・これからの学校〕………89

〔ピア・サポートの基本は同じ〕………90

□エンディング□………91

[資料]………92

当日配布プログラム………92

vi

(6)

Part3:生徒指導国際フォーラム2001

ストレス・チェック・リストを活用した生徒指導の取り組み…97

□オープニング□………99

〔所長挨拶〕…‥………99

〔参加者紹介〕………100

□フォーラム:第1部 日豪の子どものストレス状況□………101

〔なぜ「ストレス」なのか〕………101

①「いじめ問題国際シンポジウム」のはじまり………101

②海外と異なる日本のいじめの特徴:ストレスとストレッサー………102

③ストレスに着目した調査の実施………103

〔「問題行動」の発生状況〕………104

①日本の場合………104

②オーストラリアの場合………107

③日豪の比較………109

〔「問題行動」とストレス〕………109

①日本の場合………110

②オーストラリアの場合………111

③日豪の比較………112

〔ストレスとストレッサー(ストレスの原因)〕………113

②日本の場合、オーストラリアの場合………114

②日豪比較:教師の問題………‥………115

③日豪比較:勉強の問題………116

〔アノミーとストレス〕………116

①アノミーとは………‥……116

②アノミー仮説の尺度化………118

③日本の場合………119

③オーストラリアの場合………122

④いじめの背景要因としてのストレス…………‥………122

⑤1部全体の補足等……… ………123

□フォーラム:第2部 チェック・リストの活用法□………125

〔第1部に対する補足説明〕………125

①調査の方法等に由来する注意点………125

②オーストラリアの教育事情………126

(7)

〔追跡調査だからわかること〕………‥………‥………128

②いじめの発生の推移………‥………128

②ストレスといじめの関わリ………131

③ストレスと不登校との関わリ………134

〔チェック・リストの活用例〕…………‥………‥………136

②龍ヶ崎市と教育センターの概要………136

②センターの取り組み………137

〔調査を活用した取り組みの必要性〕………‥140

〔3回のフォーラムの位置づけ〕………‥………‥………141

〔チ工ック・リストを使うにあたって〕………142

〔最後に〕………‥………‥………144

□工ンディング□………‥………145

[資料]………146

・当日配布プログラム………147

。ストレス・チェック・リスト………‥………151

小学生用:がっこうせいかつしらべ………151

中学生用:中学生の学校生活………‥………‥………155

○生徒指導国際フォーラムで意図したこと………‥………‥159

○「生徒指導国際フォーラム」が提案してきた取り組み………163

viii

(8)

   

Part 1 :生徒指導国際フォーラム 1999 

 

ピース・メソッドによる 

「いじめ防止」の取り組み 

(9)

解説

ピース・メソッド(P.E.A.C.E.method)は、オーストラリアで開発された「いじめ防止プログラム」であ るピース・パック(P.E.A.C.E.Pack)を参考にして開発された、学校全体で生徒指導に取り組むことを可能 にする手法である。

ピース・パックは、いじめ防止を目的としてはいるが、即効的ないじめ防止策やいじめ解決策ではない。

少なくとも1年から1年半という時間をかけ、教職員はもちろん、子どもや保護者をも巻き込んだ取り組 みの中で、学校の雰囲気を変え、最終的にはいじめを起きにくくするという考え方で開発され、そうした 息の長い取り組みを続けていくために5つのステップを踏んでいく点に、その大きな特徴がある。

ピース・メソッドは、そうしたピース・パックの考え方を積極的に取り入れつつ、オーストラリアでし か通用しない具体的な取り組みの事例は思い切って削除し、その取り組みの手順(メソッド)のみを抽出 したものと考えてもらいたい。

日本の教職員の水準はオーストラリアよりもはるかに高い、というのが私の率直な感想である。その中 で開発され実践されてきた日本の学校における諸実践をうまく活用できるなら、オーストラリアの実践例 など示す必要はない。中途半端な対応策などは何の役にも立たないばかりか、かえって教職員の多忙感を 煽るだけである。

しかし、その一方、日本の生徒指導の取り組みを考えたとき、その最大の弱点として、学校内でさえ十 分な連携協力ができていないという点があげられる。とするなら、いたずらに新しい防止策を探し求める のではなく、いかにしたら1年以上の取り組みを学校全体で継続していけるかを考えることこそ、急務と 言えよう。

ピース・メソッドは、そのためのヒントをピース・パックから得るとともに、目本の学校の実態にあわ せて具体的に再構成し、普通の学校で(特別な資質をもつ専門家や、特に力量のある教職員がいない学校 であっても)効果を発揮するように開発された。

それが効果を発揮する秘密は、何も特別なことではない。高い理想を掲げた一部の熱心な教師が精一杯 がんばって生徒指導を行っていくことよりも、さほど高い理想ではなくとも教職員全体の共通理解のもと になされていく地道な生徒指導のほうが、学校の雰囲気を変え、子どもが健全に育っていくうえでは適し ている。そこに子ども自身の意欲や保護者の協力が加わっていくなら、必ず学校を変えることはできる。そ

して、子どもたちも自ら変わっていく。

フォーラムでの日本の実践発表は、そのことを1年以上にわたる実践によって実証したものと言えるで あろう。そして、このピース・メソッドの考え方を取り入れ、平成11年度に開発されたのが、新潟県教 育委員会による『いじめ防止学習プログラム』であることを付け加えておきたい。      (滝 充)

【ピース・メソッドをさらに理解するための参考文献】

滝充『学校を変える、子どもが変わる』時事通信社、1999年2月 滝充「人々と連帯・協力できる資質を」『教育評論』1999年4月号

滝充「これからの教師に求められる集団指導の実際」『指導と評価』1999年7月号 滝充「児童・生徒のための新しい体制づくり」『教育展望』1999年7・8月号

新潟県教育委員会『いじめの起きない学校づくりのために −いじめ防止学習プログラムー 前編・後編』

2000年3月

滝充「これからの生徒指導の考え方」『新潟県教育月報』2000年11月号

滝充「なぜピース・メソッドの導入が必要なのか」『新潟県教育月報』2001年12月号

(10)

Partl:ピース・メソッド

□オープニング□

【秦】 ただいまから「生徒指導国際フォーラム 1999」を開催したいと思います。

本日はお寒い中、多数の方々お集まりいただきま して誠にありがとうございます。私、本日の進行を 担当します国立教育研究所の秦と申します。どうぞ よろしくお願いいたします。

それでは、最初に主催者の国立教育研究所吉田所 長からごあいさつ申し上げます。

〔開会の挨拶〕

【吉田】紹介いただきました吉田でございます。本 日、全回からこのように多数の方々のご参集を得ま して、『生徒指導国際フォーラム1999』を開催する ことができますことを深く感謝甲し上げる次第でご ざいます。

私どもの研究所は、平成8年の6月に文部省との 共催で『いじめ問題国際シンポジウム』を開催いた しました。そこではいじめ問題の悩みを抱える諸外 国における実態、あるいはいじめ防止プログラムと いったことについて、ノルウェー、イギリス、オラ ンダ、オーストラリア各国の先進的な研究成果を発 表していただき、さらに質疑応答、全体討論という ことに熱心にお取り組みをいただいたわけでござい

ます。

今回のフォーラムには、この平成8年のシンポジ ウムの時にもご発表いただきましたオーストラリア のフィリップ・スリー博士に、再びご参加をいただ いております。

本日のテーマは『ピース・メソッドによる「いじ め防止」の取り組み』ということになっておるわけ でございますが、このピース・メソッドとは、ご案 内のようにスリー先生が開発され、平成8年のシン ポジウムの際にご発表いただいたいじめ防止プログ ラム、「ピース・パック」に基づくものであります。

竜ヶ崎市立中根台中学校と私どもの研究所との協 力によりまして、このプログラムの考えを我が国に 取り入れ、いわば「日本版ピース・パック」として ピース・メソッドを開発するという努力を、関係者 の間でこの1年ほど続けてまいったわけであります。

その結果、このピース・メソッドという方法は、単 にいじめ防止にとどまらず生徒指導の体制づくり、

あるいは教職員と保護者の連携の体制づくりなどの 点において効果のあることが分かってまいりました。

諸外国で開発された方法を我が国に適用するには、

我が国の学校で実践的な試みを繰り返し、1歩ずつ 開発を進めていく努力が必要となってまいります。

中根台中学校で行われてきたこの努力の成果を、本

(11)

日はスリー先生を交え、中根台中学校の先生や、保 護者の皆様方とともにパネルディスカッションの形 で公開するというものでございます。

本目の発表がご参集の皆様方の、例えば明日から の生徒指導といったものに少しでも生かされること があれば、主催者といたしまして誠にうれしく存ず る次第でございます。

最後になりましたが、今回の研究に当たって終始 ご指導くださったスリー先生、学校を挙げてご協力 をいただきました中根台中学校の先生、保護者の皆 様に対しまして、この席をお借りいたしまして深く 感謝を申し上げ、私のあいさつとさせていただきま す。

〔資料の確認と発表者の紹介〕

【秦】どうもありがとうございました。

それでは、発表者の方々、お席のほうにお願いを いたします。多少模様替えをいたします。

この間をお借りしまして配布資料の確認をさせて いただきます。お手元に三つ資料があるかと思いま す。一つは本日のプログラム(39〜42頁)でござ います。もう一つが大きな

判で数枚綴じてあります本 日の資料(文中に挿入)でご ざいます。それからもう一 つ、一枚ペラで質問等記入 用紙というのがございまし て、これは休憩時に記入し て出していただければ助か ります。それから、その下に 切り取り線がありましてア ンケートがあります。これ はお帰りの際にご記入をお 願いしたいと思います。

それでは、本日ご出席の 皆様方のご紹介をしたいと 思います。まず、皆様方から 向かって右側から、国立教

育研究所生徒指導研究室長の滝充であります。それ から先ほどもお話ございましたオーストラリアから お越しのスリー先生、それから本日、通訳をお願い しています山口さんです。それから左側のほうにま いりまして、竜ヶ崎市立中根台中学校の岡田弘美先 生、それから中根台中学校の「父母と教師の会」か ら倉岡純子さん、それから岸淑子さん、以上の方々 でございます。

それでは、ここからの進行は滝室長にお願いした いと思います。どうぞよろしくお願いします。

〔会の目的について〕

【滝】皆さん、本日はあいにくの天気でしたけれど も、この会場にお集まりいただきありがとうござい ます。

この会のタイトルにありますピース・メソッドと いうのは、なかなか耳慣れない言葉だと思います。

ピース・メソッドって何なのだろうか。いじめ防止 の効果があるということなんだけれども、本当にそ うなのか。あるいはどういうやり方で効果がでるの か。そんなことを理解してお帰りいただければ、と

4

(12)

Part1:ピース・メソッド

〔会の進行について〕

考えております。

国立教育研究所というところは研究をやっている ところですが、やはり純粋に研究だけでは意味がな い。どうしても実践に役に立たないといけないとい う部分があります。その意味で、我々は以前から全 国各地にあります教育委員会ですとか、あるいは教 育センターですとかと一緒に仕事をさせていただい ています。

しかし、単に研究上の交流というだけではなく、

実際に学校現場でも一緒に取り組むというような部 分になると、なかなかむずかしい。ただ、そういう

ことも、これから先はどんどん必要になってくるだ ろうと感じております。

それから、私ども国立教育研究所は、日本で唯一 のと言っていい、これもなかなか表現がむずかしい んですけれども、教育研究所という形では唯一の国 立の機関なものですから、海外の研究者との交流も 盛んに行っております。

ですから、そういった海外の研究者と近いという 面での利点を生かしながら、同時に学校現場、ある いは地域、あるいは保護者の方々などとも手を携え ながら行うような研究が期待されている。そんなふ うに考えております。

先ほどの所長からのあいさつにもありましたが、

前回の『いじめ問題国際シンポジウム』が非常に好 評だったこともあって、今回、さらに日本での実践 にまで踏み込んだ形の発表ができたら、ということ で、2年ほど時間がかかりましたが、『生徒指導国際 フォーラム』として、本日、第1回目を開催させて いただくことになりました。

【滝】この後の進め方ですが、先ほどの紹介にあり ましたとおり、実践を行った学校の先生や保護者の 方々、それから遠くオーストラリアからも研究者に おいでいただいていますので、そのお話をまず前半 にお聞きいただこうかなと思います。

その後に、休憩を取らせていただきます。休憩の おりに、前半の発表の中で、皆さん、お聞きになら れていて、ちょっとこの辺がわからないというよう なことがありましたら、ぜひお手元の用紙、質問用 紙とアンケ−ト用紙と二つに分かれておりますけれ ども、上のほうの質問用紙にご記入ください。

休憩時間が始まりましたらすぐ、会場の出口にあ りますアンケート回収箱のほうに入れていただいて、

それを休憩中に私どものほうで見せていただく。

そして、後半が始まりましたら、なにぶん限られ た時間なものですから、多くの皆様の質問が重なっ ているものからお答えしていきたい。時間に余裕が ありましたら、ぜひフロアのほうからも質問を、と いうふうに考えておりますけれども、これはその時 の時間次第ということで、必ずしもそうできるとは 限りませんけれども、そんなふうに進めたいと思っ ております。

では、私が前置きばかり話していても仕方があり

ませんので、早速ピース・メソッドのオリジナルと

言いますか、オーストラリアで開発されたいじめ防

止プログラムのピース・パックの説明を、特に当時

のオーストラリアのいじめの状況と併せた形でス

リー博士のほうにお話いただくということにしたい

と思います。

(13)

□オーストラリアのいじめと防止プログラム□

【スリー】お招きありがとうございます。私は日本 語があまり上手でないので申し訳なく思っておりま す。今日は皆様の前でこのような形でお話できるこ とを、本当にうれしく思います。また、フリンダー ズ大学から、同僚のローズ・マリー・ハーピー教授 にも参加していただいています。

今日このような機会を持つことができたことに対 して、国立教育研究所の吉田所長はじめコーディ ネーターの滝室長、ほかの皆様に本当に深く感謝し たいと思います。ありがとうございました。それか

らまた、雨の中わざわざいらしてくださった皆様に も感謝いたします。

〔オーストラリアにおけるいじめ研究 のスタート〕

【スリー】お手元に1番から9番までの資料がある かと思います。どうぞご参照しながらお聞きくださ

い。

1989年の初め頃から、私と同僚のケン・リグピー とで、いじめという問題につい

て本格的に研究を始めました。

そして今日に至るまでに、オー ストラリア全国の60の初等学 校と中等学校から、2万5000件 以上の情報を入手いたしまし

た。

皆さんのお手元に子どもの書 いた絵、資料1があるかと思い ます。これは実際にいじめを受 けた生徒が私に送ってきたもの です。私のもとには多くのこの ような絵や手紙が届きました。

中には海外から届いたものもあ りました。

そしてこの絵の隣に書いてありますように、隈の できた目。痣ができています。それから血が出てい る鼻。唇は腫れてしまい、そして引っ掻かれた顔。そ してTシャツのところには、自分は犠牲者だ、ビク ティムだということが書いてあり、いじめをやめて くれと書いてあります。このようなものを非常にた くさん受け取りまして、状況が非常に悪いという情 報が私のところに寄せられました。

〔いじめの実態〕

【スリー】そこで、リグピー教授と私は、いじめの 頻度がどのぐらいであるのかということを調べまし た。お手元の資料2のほうをご覧ください。その結 果、5人から7人に1人1は週1回以上いじめを受け ている、という結果が出ました。そして初等学校と 中等学校を比べると、初等学校のほうがいじめが多 い。また、中等学校では8年生と9年生の年齢に一 番いじめが多い。そして、男女を比べますと、男子 生徒のほうが非常にいじめの率が高い。ただし、こ

6

(14)

Part1:ピース・メソッド

資料2:いじめの頻度

・ 一週間に1回以上 いじめられたと報告する生徒は5分の1から7分の1

・中等学校(8年生〜)よりも初等学校(1〜7年生)のほうで多く起きる

・初等学校では,低学年ほど高い発生率

・中等学校では8年生と9年生で発生率が高い

・概して女子よりも男子のほうに目立つ

・概して女子と男子とではいじめられる方法が異なる(言葉か暴力か)

60校以上、25,000人以上の生徒を対象としたオーストラリアの調査より

れはもしかしたら測定の方法が異なれば、また違う 傾向が出てくるかもしれません。

ということで、男女ともいろいろな形のいじめが 起きている。そしてオーストラリアの学校でいじめ が非常に深刻になっている。オーストラリアの生徒 たちはこういういじめが早くなくなってほしいと 思っているという調査結果が出ました。

いじめの形態ですけれども、いろいろないじめの 形態があります。例えば、身体を使っていじめる。

殴ったりとか蹴ったりとか。それから言葉でいじめ る。悪口を言う。あるいは心理的に脅かしたり、あ るいは仲間はずれにするということもありました。

このような具合にいじめが行われているというこ とで、次に出てくる疑問は、それではいじめという のは生徒たちにとってどういうことなのか、非常に 有害なのかということです。

教師の中には、あるいは行政担当者の中にも、い じめは大したことはない、特に悪いことではない、

自分も小さいころはよくいじめられた、でも、自分 にとってはそれは有害ではなかったという人もいま

した。

しかし、リグピー教授と私が測定、調査をした結 果では、いじめは非常に有害だという結果が出てい ました。どのような形で有害かと甲しますと、例え ば全く物理的に体に痛みを与えられてしまう、ある いは頭痛がする、あるいは精神的に精神衛生が脅か

される、それによって自殺、あるいは非常に極度の 落ち込み、不安な状態が現れるということもありま した。

それに加えて、社会的にも人の中に出ていくのが 怖くなるというようなこともあります。さらに、学 業成績も非常に落ちてくるという結果がありました。

ですから、結論として、いじめというのは非常に害 のある経験なのです。

〔子どもの意識〕

【スリー】そこで、どのような形で、学校側、教師 は対応すればいいのか、どのような介入が必要かと いうことについて調べました。その結果、これは資 料3でございますけれども、男子生徒の72%以上、

そして女子の生徒の78%以上が、学校、教師がこの 問題について関心を持ってほしい、そしてそれをや めさせるように取り組んでほしいと思っています。

そしてまた男子生徒の37%、そして女子生徒の35%

が、私はいじめられた時、それをやめさせるために 助けを求めることができた、あるいはそうなってほ

しいと思っています。

〔教師の意識〕

【スリー】 また、教師の側ですけれども、オースト

(15)

資料3:学校のいじめをやめさせることについての生徒の意見(%)

男子 女子 教師や生徒はいじめに関心を持つべきだ      72.3 78.1 教師がいじめをやめさせるべきだ       78.1 82.7 生徒がいじめをやめさせるべきだ      64.5 72.2 私は個人的に いつも あるい1は 時々

いじめをやめさせるようにしている       36.1 39.0 教師と生徒はいじめをやめさせるために協力すべきだ    56.6 64.3

私は,いじめられたとき,それをやめさせるために

助けを求めることができた      37.1 35.9 いじめについて他の生徒と話すことに関心があるほうだ   27.5 37.5

ラリアの教師の調査によれば、非常に多くの教師が、

自分たちもこれをやめさせたいと思っている。教師 がきちんと対応すべきだと思っている者は90%に上 りました。(資料4)

〔親の意識〕

【スリー】次に、それでは親はどう思っているかと いうことですけれども、調査の結果、オーストラリ アの保護者の大半、94%は学校でこの問題に対応し

てほしいと思っています。そしてまた、その対応の 仕方の方針を決める、あるいはプログラムを考える 上で、自分たちも関与していきたいと考えていまし

た。(資料5)

親のほうと話をしました時に、父親のほうは非常 に怒りを感じるという反応が多く、母親のほうは非 常に驚いたり心配したりと、非常に感情的に反応す ることが多かったのです。

そしてまた親は、いじめがあった場合に、子ども は自分にきっと話してくれるだろうと思っていまし

資料4:教師たちの意見

1.いじめ問題は学校で扱われるべきである(と考えられている)ことが,オーストラリ アの調査ではっきりと示されている(Rigby&Slee,1990)

2、ビクトリア州の研究では,90%以上の教師がいじめ問題に取り組みたがってい(Keogh

&Rigby,1995)

資料5:保護者たちの意見

1.調査によれば,94%の親たちがいじめ問題の議論に参加したがっている

2,子どもがいじめられたとき,概して父親は「怒り」を母親は「驚き」を感じやすい 3.生徒の保護者(236名)は、わが子がいじめられたとき、それを自分に言ってくれる

と信じていることが多い(80%)。しかし、その点で親子の意見が一致したケースは、

30%に過ぎない。

8

(16)

Part1:ピ−ス・メソッド た。そう考えた人の割合は80%。しかし、興

味深いことに子どものほうは親に話すという 生徒の割合は30%でした。

〔ピースーパックとは〕

【スリー】資料6をご覧ください。ピ−ス・

パックというのはどのようなものかを、ご説 明いたします。

1994年、オーストラリアの連邦政府は、い じめ防止のための実際的な介入プログラムを 開発するよう求めました。1994年から95年

に、私と同僚は定期的に地区の教師及び学校と会合 を持ちました。私はオーストラリアのアデレードと いう南部のほうの出身ですけれども、そこで会合を 持ちまして、もっと実際的なプログラムが欲しいと いう声を教師から耳にしました。

そして、これは目本ではどうかわかりませんけれ ども、オーストラリアの場合は、いじめ防止に対し て学校が取り組まなければならないという法的な義 務があります。どういうことかと言いますと、オー ストラリアでは、今、実際に増えているのですが、学 校がいじめ防止をきちんとやらなかった場合、怠っ た場合に、親のほうがそれを裁判所に訴えるという ことがあるわけです。

定期的に会合を持ちました中で、具体的なアク ション・プログラムというものを設定いたしました。

それがピース・プログラムというものです。

このピース・プログラムとは具体的にどういうも のかと申しますと、まずPというのは最初のステッ プで、これはまず学校、教師からいろいろないじめ に関する情報を集めるということ。

そして、Eは2番目のステップとして、教師、生 徒、そして親に対していじめの問題についていろい

ろな研修の機会を持つ。

Aのアクション・プラン。これはどのように対応 していったらいいかという具体的な行動計画を立て ます。

C、これは具体的にその行動計画というものを実

資料6:ピース( P E A C E )パック

P reparation−いじめの問題を理解するために、

(準備)   自分自身の準備をします

E ducation −いじめについて他人を教育しま

(教育)  す

A ction  −生徒、職員、保護者とともにとる

(行動)  べき行動を特定します

C oping −いじめを減らすためのストラテ

(対処)  ジー(戦略)を開発し実行します E Valuation −なされた対策を反省・評価し、成

(評価)  功を祝います

践して、対応していく。この中にはきちんとした方 針、そしていじめがあった場合にだれに報告すれば いいのかという手順をはっきりさせる。そして仲間 同士のサボートの方法というものもはっきりさせま す。

そして、Eは、このようなプログラムを実践して

いる中で、それがうまく機能していくかどうかを評

価します。これは親に対しても教師に対しても生徒

に対しても、いろいろな中で評価を行っていくわけ

ですが、とりわけ大事だと思うのは、何らかのよい

(17)

成果があった場合に、それをお祝いする、セレブ レート、祝うということですね。このような重要な 取り組みに関して、そこで得られたことをきちんと 喜びを分かち合うということは重要なことだと思っ ています。

このようなプロセスを踏むことで、明確で単純な ステップをまずはっきりさせ、それによっていろい ろないじめ防止のプログラムを開発させていくわけ です。

これはお手元の資料7に出ているようなプロセス を踏むわけですが、最初、まず学校がいろいろ な調査をします。そしてどのような方法がい いかを検討し、その中では、例えばいじめが あった時にはだれに報告しようかというよう なこともはっきりさせていきます。そして、い じめに関していろいろな教育、研修を施しま す。

そして、この中では、親の関与というもの も、親も一緒になって取り組んでいくという こともやります。それから方針を具体的に実 行し、実行した後には、それがどういう成果を 上げているかということをフォローし、その 後に達成されたことに対してお祝いをすると いうことです。このプロセス全体は1年から 1年半かかるものです。ですから、これは簡単 に今日、明日ということではありません。

このような取り組みを通して学校全体の雰 囲気というものを変えていくわけです。いじ めが起きにくい学校の雰囲気というものをつ くっていくということで、このピース・プログ ラムは、単にいじめ防止だけでなく、学校全体 の雰囲気を変えていくということも含まれて います。

〔ピ−ス・パックの成果〕

【スリー】このピース・パックは、現在、オー トラリアでは500以上の学校で使われており まして、第1版から始まったものが、今は第2

版が使われています。最初は、教師、学校側は、こ ういう取り組みに対して躊躇したと言いますか、い じめのようなことがあることは悪いことだというふ うに非常に後ろ向きだったんですが、しかし、今で はこういうことに対してきちんと学校として方針を 表明して、そして行動する。いじめを防止するため のプログラムを自分たちが提供できるということで は非常に前向きに受け止めています。

それからこのピース・パックに対しての長期的な 評価というものもありまして、例えば1年やった後

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Part1:ピース・メソッド

資料8:ピース・パックを用いた学校での取り組みからわかったこと

○長いプログラムを終えた後に(生徒たちは)、

・いじめられたと報告する生徒が減っている

・もしいじめられたら誰に話せば良いかについて以前よりも多く知っている

・どのようにすればいじめを防ぐことができるのかについて以前よりも知っている

・いじめの「危険がある」と感じる生徒が減っている

○ピース・パックを補完するプログラムとして

南オーストラリア州の「ピア・サポート」プログラムは,次のような点で効果的である と評価されている

・小学校から中学校への移行を容易にする

・8年生の生徒の友だちづくりに役だっている

・いじめのような問題に対処できる

でそれがどうだったかという成果を評価するわけで すが、資料8に書かれていますように、いじめが 減った。そしていじめられた場合はどうしたらいい かが分かった。自分でもいじめに対して対応ができ るようになった。例えば前は先生に言わなければ解 決ができなかったのが、自分でも対応できるように なった。そして学校でもっと安心していられるよう

になったという成果が出ています。

長年このようなことを研究してきた結果、現在で は前よりもずっと取り組みが進んできていまして、

確かにこのピースによっていじめの多くは減る。し かし、このプログラムによっても変わらない少数の 子どもたちがいるということで、そのような子ども たちに対して、それではどうするかという取り組み も、今現在行っております。

このような子どもたちに対しては、1対1のカウ ンセリングを集中的に行う。そのためのカウンセリ ングのガイドラインなど、今、開発しているところ です。このようなことで教師、あるいはスクール・カ ウンセラーが対応する形を開発していきたいと考え ております。

〔町ぐるみの取り組みにも〕

【スリー】資料9をご覧ください。最近のピース・

パックの展開ですけれども、このようなことを重ね てまいりまして、学校が以前よりも勇気を持ってい じめに対応することができるようになりました。そ して、私が関わった一つの小さな町で、これはポー ト・オーガスタというところですけれども、そこで は町ぐるみの展開が行われています。

私がポート・オーガスタの町の人たちと話をした 時に、町の人たちは学校用にはそういうプログラム があることを理解しました。しかし、1歩学校を出 て、その外でいじめが起きている。それに対してど のような対応をしたらいいか、ということが挙げら れました。生徒らは、例えば家でいろいろなストレ スを抱えてしまう。それを学校に持ってきて暴れた りするというようなことがありまして、現在では、

町ぐるみの取り組みが行われています。

この町では、私は町の人たちと、教育関係者と、定 期的に会合を持ちました。生徒の代表も含めて、教 師、保護者らともいろいろな会合を持ちました。そ の中て方針をはっきりさせて、いじめがあった場合 にはどうしたらいいかというプロセスもはっきりさ せました。そしてその上で調査を行って、町ぐるみ こういういじめ防止に取り組もうということを発表 したわけです。

その中で生徒自らが町ぐるみのプログラムをつく

りました。また、これについて詳細を知りたい方は

(19)

資料9:町ぐるみでいじめ防止に(98年9月2日付アドバタイザー(新聞)より)

ポート・オーガスタでは、地域のいじめに「町ぐるみ」で取り組む姿勢を決めた。

地域のすべての学校は,ピースプログラム(準備・教育・行動・対処・評価)を実施 するよう求められている。

アデレードでは小学生の3分の1がいじめられているとのフリンダース大学・スリー 博士の報告以来南オーストラリア州のすべての学校はいじめ防止の手立てをとってき

た。

しかし、ポート・オーガスタの学校では,そうした取り組みを学校外へも広げていく ことにした。彼らは,地域の交流スポーツセンターにもいじめ防止の姿勢をとることを 求めていく計画である。

オーガスタパーク小学校のフランチェスカ ルドボア校長は、地域全体での取り組み が重要であると語っている。その理由は,大人も子どもと同じようにいじめを行うから だという。

ピースプログラムは,子どもたちが安心していじめについて話すことができる環境を 作り出すことを目的としており,監視員は子どもたちがいじめに対処することを助ける よう義務づけられる。また,子どもたちはいじめられたら教師や保護者に助けを求める ように教えられる。

ぜひ私のほうに問い合わせてください。

〔おわりに〕

このようにピース・パック、ピ一ス・プログラム ということの中にはいろいろなことが含まれていま す。いろいろなパンフレットをつくりましたし、あ るいは戦略をきちっと明文化したり、それを学校の 先生に向けて提供していくということもありました。

私はこのピース・パックが日本語に翻訳されて、

目本語で出版されて、そういう展開をしたことに対 して非常にうれしく思っています。また、中根台中

学を訪問して、実際にそれが日本ではどういうふう に行われているのかということを目にする機会も得

られました。それについてもほんとにすばらしい経 験でした。

私の後で実際に中根台中学の先生、そして保護者 の方が、日本でこのようなピース・パックをどのよ うに実践していらっしゃるかという非常に重要な、

私の話よりも恐らく重要なことをお話なさると思う ので、私の話はこれで終わりにしたいと思います。

どうもありがとうございました。

(拍手)

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Part1:ピース・メソッド

□日本のいじめと防止プログラム□

【滝】ありがとうございました。最初のほうのいじ めの状況ですとか、あるいはいじめ防止に取り組む ことに学校が躊躇するとか、ほとんど日本と同じよ うな状況があったことがご理解いただけたかと思い ます。ただ、そうした中でも実際にそういうプログ ラムが海外のほうでは開発され、効果をあげてきて います。そして、日本でもそういうものが必要だと いうふうに自覚されるようにもなってきました。そ の結果、本日の会で紹介するに至っているわけです けれども。

それでは、このピース・パックを翻訳した目本語 版をつくり、それで実際にやってみるという、その 辺りのいきさつについて、私のほうから少し補足的 に話をさせていただこうかなと思います。

〔日本のいじめ研究〕

【滝】私は、いじめの研究をかなり長いことしてい ました。1985年ぐらいから10年以上続けてきたこ

とになるかと思います。その間、主にいじめの原因 は何か、といったことを研究してきたわけです。そ んな関係で、海外にもいじめの研究があるという話 は知っていました。しかし、私もそうなんですが、正 直言って日本の多くの研究者は、海外のいじめ問題 にあまり関心を示してきませんでした。

そうなった理由ですが、これは私の個人的な感想 と言ったほうがいいのかもしれませんけれども、一 つは、海外でいじめと言われてるものが、かなり暴 力的な色彩の強いものが中心であるという点です。

日本のいじめというのは仲間はずれ的なものが中心 なものですから、どうも違うなという印象があった というにとですね。

それから海外でいじめ研究が盛んだと言われます けれども、実はノルウェーで本格的にいじめの研究 が始まったのは1983年。ということになると、ほと

んど日本と同じ時期ですね。しかも、これはアメリ カ、イギリスで始まったわけではなくてノルウェー だった。ですから、それが日本に紹介されるころに は、もう既に日本ではかなり綿密な研究が進んでい まして、いじめというのは日本に特有の問題だみた いな感じもありました。私自身、海外の研究は日本 のものと比べて大雑把であるという印象を受けてい ましたから、余計に関心を払ってこなかったという のが正直な話です。

ところが、先ほどから再三話が出てます『いじめ 問題国際シンポジウム』、これでノルウェーとかイギ リスとか、また、オーストラリアから研究者を呼ん でまいりまして、そこで話をしてもらった時のこと です。正直言って私が驚いたのは、海外ではいじめ 対策のプログラムというものが、それもかなりき ちっとしたものができている。しかも、それをつく るのに研究者がかなり積極的に関わっている。

日本の場合ですと、いじめ防止の話というのはほ とんど学校の先生とか教育委員会のレベルでなされ ていて、あんまり研究者は関わっていない。研究者 はどちらかと言うと原因の分析みたいなことが中心 になっている、という感じがあったんですね。とこ ろが、海外ではそうではなかった。それが一つの驚 きでしたね。

そうか、やつばりそういうことをしていかなきゃ いけないんだなという反省がありまして、特に私、

それ以前は大学で研究しておりましたので、いじめ

防止ということにはあまり関わらなくてもよかった

のですが、冒頭で申し上げましたように、国立教育

研究所という、積極的に実践にかかわらなければい

けないポジションに移ってきたばかりということも

あって、私自身、何かそういうことをやっていかな

きゃいかんという、私なりの深い反省をしたという

記憶があります。

(21)

〔日本版の開発〕

【滝】そこで、その時に紹介されたノルウェーとか イギリスとかオーストラリアのいじめ防止プログラ ムをとりあえず翻訳するなり、そういうものを現場 で実践するみたいなことをしようと思いました。さ て、その時になぜオーストラリアのものにしたのか という、そこがポイントだと思います。

いじめ防止プログラムというのは、1983年当時の ノルウェーで最初に出てきます。それから、だいた い90年代初めくらいにイギリスで研究が盛んになっ てきて、92〜94年あたりにイギリスの防止プログ ラム的なものが出ています。そして、オーストラリ アのものが一番後にできた。後にできているという ことは、それだけそれまでの経験がいろいろと生か されているということですから、その意味ですぐれ ていますね。

ですが、私自身が、ピース・パックという、この プログラムに注目した一番大きな理由は、何と言っ てもコンパクトだということです。先ほど見ていた だいたように非常に簡単な冊子です。日本の先生と いうのは多忙感の強い方が非常に多いものですから、

これが最も適しているであろうと考えたわけです。

ノルウェーのものはまだ薄っぺらなほうでしたけ れども、イギリスの本はかなり厚い。これは都立の 教育研究所のグループで翻訳していただいて、非常 に立派な本が出ているんですけれども、それを見た 時、日本の先生はこれを読まないだろうなと思った というのが、正直なところです。

その点、ピース・パックというのはなかなかセン スがある。先ほどからの説明でわかると思いますけ れども、ピースというネーミングもなかなか気が利 いてますよね。しかも、そのピースという、「平和な」

とか「穏やかな」という気持ちの中に5つの段階が すべて入ってる。

先ほどの話からもわかるように、取り組みには1 年とか1年半かかりますよね。そういう取り組みを

していくというのは、実は日本の先生には非常に気 の長い話に感じられるはずです。だいたい学校の先

生と話をしていると、明日から始めて、もう明後日 ぐらいにはいじめが終わってないか、くらいの、極 端なことを言うとそんな感じがありますので、それ を1年間続けていくというのはなかなか大変だろう、

と。

ただ、その時にP、E、A、C、Eという5段階 を踏むことで、今やっていることを見失わずに、途 中で放り出さずにできるんじゃないか、という考え がありました。その意味で、非常に日本の実状に

あったプログラムだなという気がしました。

そこで、そんな話を、翻訳してみようかと思うの だけれども、という話をした時に、スリー博士がど う言ったか。ホテルのロビーで打ち合わせをしてい たのですが、その時に彼が言ったのは、ただの翻訳 じゃつまらんから、日本版をつくれと。要するに日 本の事例などをいっぱい入れたものをつくれという

ような話がありまして。

それは確かにそうだということで、ただ翻訳する だけじやなくて、翻訳したものは翻訳したもので資 料には使うわけですけれども、やはり日本の実践を 含めていかないといけないだろうなというのがあり ました。そこで、日本語版ではなく日本版をつくる という、そういう方向に持っていく格好で考えてい くようにしたわけです。

〔日本語版から日本版へ〕

【滝】ただ、そうやって始めていく中で、私自身、こ の5段階のP、E、A、C、Eという格好で取り組 んでいくのは非常にわかりやすくていいというのと 同時に、文化的、教育的な背景が随分違うというこ とで、そのへんの苦労もなくはありませんでした。

例えば、先ほど見ていただいたパックの中に、「保 護者の夕べ」というような格好で、保護者を集めて 夕方にパーティーを開きましょうというのがある。

ところが、これを日本でやっても、どう考えてみて も人が集まらないだろう。パーティーなんてものに は慣れていませんから。そこで、そうしたことを含 めて、置き換えをしなければいけない。あの小さい

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(22)

Part1:ピース・メソッド 中に、こういうことをやってみたらどうでしょうっ

ていう、随分いろんな具体例が入っています。とこ ろが、そのアイデアの多くを置き換えていかなけれ ばいけないという作業が、一つの苦労と言えば苦労 でした。

それから、それをきちんとやっていくと、どんど ん分厚くなってしまう。分厚くなってしまうと、先 ほどの話と矛盾しますね。先ほど申し上げたみたい に、コンパクトだからいい。とにかく日本の教師に はパッと見てパッとわかるものでないと困る、とい うのがあります。だから、負担感を増やさないよう、

できるだけ薄いものにしなければいけない。

オリジナルのピース・パックにはこういう試みを しましょうという例がいくつもあったのですが、よ くよく考えてみると、日本の先生は多忙感を訴えら れるだけあって、いろんな活動をいっぱいやって らっしゃる。これって学校の仕事なの、と思うよう なことまで随分やられています。アメリカなんかは 典型なのですけれども、先生というのは基本的に教 科教育中心で、ほかの進路指導であるとかカウンセ

リングなんてことはほとんどしない。オーストラリ アはもうちょっと日本に近い形なのですが、それで も日本の先生ほどあれもこれもとはやらない。

そうだとすると、新しく何かをやるというんじゃ、

これは絶対にみんなから猛反発を受けるだろうとい うのがあって、それなら日本版に置き換える際に日 本に今ある活動を最大限に活かそうと考えました。

実はそう考えるヒントというのは、ピース・パッ クの中にもあるんですね。私は今でもこの言葉が一 番好きなんですが、あなたの学校の資源というもの をチェックしなさい、洗い出し直しなさいというの があります。学校の資源、もとの語はリソースとい うんですけれども、リソースっていろんな意味合い で使われるんですが、人的な資源であるとかそうい うことをみんな含むわけです。それを活用しようと いうわけです。

どういうことかと言うと、ある学校が非常に伝統 があって、すごく特殊なお祭りがあるんだったら、

例えばそういうものを何とかうまく利用しようじゃ

ないかということですね。あるいは非常に地域との 交流が盛んだったら、そういう地域の人間関係を利 用しましょうということもそうです。

それから、例えばどんな学校にも共通するリソー ス、簡単にいじめ防止に役立てられる資源というこ とで考えていくと、どんな学校でも4月には入学式 がありますよね。入学式というのは校長先生が必ず あいさつします。校長先生がせっかくあいさつする んですから、抽象的な話をするよりも、実際にこの 学校ではいじめがどんな状況で、それをどうしたい んだ、みたいなことを話す絶好の機会ですよね。な かなか現実にはそういうことはされないんですけれ ども。

そうやって考えていきますと、日本の学校にはそ ういう資源がたくさんある。だいたい4月の下旬ぐ らいになると家庭訪問とか面談というのがあります でしょう。それから5月、6月ぐらいになってくる と授業参観があったりとか遠足があったり修学旅行 があったり。

そうするとそういう行事の度にいじめ防止にかか

わるようなことをやっていくという格好でいいじゃ

ないか。そうやって月に1回ぐらい何か目玉になる

行事を見つけながら、それとリンクさせながらいじ

(23)

めについて考えさせていくということを、1年間と か1年半とかやっていこうじゃないか。そうすれば 必ず子どもたちの意識は変わるし、教師の意識も変 わるだろうと、とりあえず翻訳を進めながら頭の中 で考えました。

〔ピース・パックからピース・メソッドへ〕

【滝】正直言えば、その時点ではほんとにこれでう まくいくかどうかという保証はどこにもなかったん ですが、でも、まあそうならないはずないだろうと。

私も海外の学校をよく見せていただくんですけれ ども、そこで出会う先生たちの活動を見ていて、日 本の先生と比べて、どう見てもそんなに飛び抜けて 優秀なようには見えない。むしろ日本の先生たちと いうのは、私が訪問するところはいい学校ばっかり なのかもしれませんけれども、優秀な先生がいっぱ いいらっしゃって、こういう人たちも重要な資源だ という気が私の中にありました。それなら、それを うまく活用していったら何とかいくんじゃないか、

ということを考えながら日本版のための作業を進め、

具体的にこんなことをしたらどうだろうというのを やってきました。

そんな具合に翻訳を進めていく中で、また実際に 実践に移ってからもますます意を強くしたのが、こ のプログラムは海外ではいじめ防止だけかもしれな いけれど、日本の学校にとってはかなり画期的なも のになるだろう、ということでした。

つまり先生たちが協力し合っていくという手順っ て、我々、あんまり知らないんですね。もちろん、日 本でも先生たちが一致協力して、なんてしょっちゅ う言われている。けれども、一致協力って、「しろ」

と言われ、「しましょう」って答えて、じやあ何をす るんだ、というところがわからない。だから、仕方 がないから「一丸となって」とか、「とにかくいじめ はいかん」ということだけを繰り返す程度のことし かしていない。

そうじゃなくて、もっと先生たちが協力し合いな がら、子どものほうを向きながら何かできることを

やっていく時に、精神論じゃなくて、心構え論じゃ なくて、こういうP、E、A、C、Eという段階を 踏まえていくという手順の中で、教師たちの意識が 一緒になっていく。子どもたちとコミュニケーショ ンができていく。保護者とも連携ができていく。そ んなプログラムになるんじゃないかという見通し、

それから実際に進めながらの確信、というのを得て きました。

そういうこともあって、実は日本版では先ほどの ようなパッケージにはできなくて、実は、後でまた 必要があればお見せしますけれども、B5判の雑誌 形式のものになったんですね。どう見てもピース・

パックのパックじゃないし、それから今申し上げた みたいにむしろ取り組みの仕方というところに特徴 があるということで、ピース・メソッドという具合 に、ちょっと言葉を変えたんです。

メソッドって何なのか、という話ですけれども、

メソッドというのは方法とかやり方ということです ね。あえてパッケージになってないものをパックと 呼ぶわけにはいきませんので、ピース・メソッドと いう言い方をしながら、取り組みを進めてきたとい うことです。

16

(24)

Part1:ピース・メソッド

□ピース・メソッドの試行□

【滝】さて、長々と私の話を聞いてても仕方があり ませんので、多分皆さんにとっては一番のお待ちか ねになると思いますが、じゃあ実際に今の話を学校 でやってみてどうだったんだという話がありますね。

その辺の話に移らせていただきたいと思います。

とりあえず学校でどういうふうな取り組みを進め ていったかという実践例みたいなものをお話してい ただきましょう。それと同時に、いったい中根台中 学校ってどういう学校なのか、というところもあり ますので、学校の紹介も含めた格好で取り組みに至 る過程、それから取り組み始めてからの過程という のを岡田先生のほうにお話いただきたい。それでは、

お願いします。

〔中根台中学校の概要〕

【岡田】本校の取り組みを述べるに当たり、ピー ス・パックに取り組むことを決めた背景として、中 根台中学校の概要と当時の状況について、はじめに 述べさせていただきたいと思います。

中根台中学校は茨城県の南部に位置 し、上野から常磐線で1時間足らずの ところにあります。東京のベッドタウ ンとして開発された新興住宅地の中 に、竜ヶ崎市で5番目の公立中学校と して平成7年に開校しました。とにか く何もないところからのスタートでし たので、今まではこうだったといった 既成概念を捨てて、新しい学校だから こそできることにチャレンジしてまい りました。「新しい町づくりの中に生 きる学校」を基本構想に掲げ、制服、校 歌、校章と、教師の考えだけでなく、す べて生徒と保護者の考えを十分受け止

めて話し合いを重ねながらつくり上げ

てきた2年間でした。そして地域に生きる学校とし て軌道に乗り、新しい目標を模索していた時、この ピース・パックに出会ったのです。

〔ピース・パックとの出会い〕

【岡田】開校3年目の夏のことでした。『日本教育新 聞』で紹介されたピース・パックの研究協力校の募 集記事に目を止めたのが、当時の校長であった青野 将先生でした。すぐさま、当時の教頭先生であった 荒木隆史先生にピース・パックの試行を提案しまし た。そして研究主任の私に話がありました。

当時、学校の中でいじめが多く発生していて困っ ていたというわけではありません。しかし、いじめ は私たち教員の見えないところで進行しているのも 事実でした。そしてその対処の仕方もケース・バイ・

ケースで、いじめの判断もむずかしいものがありま した。

そんなわけで、学校としてもいじめについて全体

で研修していく必要性を感じていました。そしてい

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