†障害児教育専修 障害児教育専攻 指導教員:近藤文里 原 著 論 文
校内特別支援教育を推進するための
よりよい学校体制づくり
―― 高学年における「一部教科担任制」を通して ――
森
和
昭
†Better School-Grounds Formulation of the Structure for
Promoting Special Need Education
―A sarvey on the subject-based teacher assignments in upper classes at
elementary school―
Kazuaki MORI
キーワード:教科担任制,特別支援教育推進 1.問題と目的 Ⅰ.特別支援教育の現状と課題 平成 17 年 12 月の中央教育審議会答申「特別 支援教育を推進するための制度の在り方」によ り,その理念および制度改正の方向が示された 特別支援教育は,その後,平成 18 年の学校教 育法の改正を経て,平成 19 年 4 月から新たな 制度としてスタートした。 制度開始から 5 年目を迎えた現在,校内委員 会の設置,特別支援コーディネーター (以下, 特支 Co) の指名,個別の教育支援計画・指導 計画の作成,教職員研修の充実など,文部科学 省が示した方策の多くは,各校において整えら れてきた現状にある。しかし,それらは支援体 制の「形式」的な面であり,一方で特別支援教 育に関する運営方法や協議内容の「質」的な面 においては未だに大きな課題を抱えている (赤 嶺・緒方 2010)1)。 その「質」的な面においては,特別支援教育 を推進する担い手である「教職員の資質」が大 きな課題として挙げられる。そのことについて は,下無敷・池本 (2006)2) らは「特別支援教 育の必要性を強く感じている反面,現場の教員 はあまりよく理解していない」と指摘している。 ま た,三 宅・横 川・吉 利 (2008)3) ら は 特 支 Co が支援を行う上での問題点として,① 時間 や人員の不足,② 担任間での子どもの実態に 関する認識の差,③ 情報伝達の困難さ,④ 学 級経営に入っての支援の困難さ,を挙げている。 特にほとんどの特支 Co は他の業務との兼務で あるため,十分な職責を果たすためにはかなり の困難さが伴うことが分かる。 上記のように未だに多くの課題を抱えた特別 支援教育であるが,数年にわたる各校の取り組 みにより,成果や,推進に向けての取り組みが 多く提示されてきている。その一つは「集団の 中で対象となる子どもにわかりやすい授業を行う」ことである (横尾ら 2009)4)。併せて同研 究チームは「児童の多面的・複眼的評価」や 「複数・組織対応」の重要性も示している。ま た赤嶺・緒方1)は,校内委員会の在り方とし て,「時間・場の有効活用」など,日常の業務 において効率性を求めた工夫・改善を,各校 に応じて実施していくことの必要性を示して いる。 このように特別支援教育の現状については, 求められる課題に対して十分な人的・財政的 支援がないことも問題と言える。しかし,各 校ごとに「今できること」を中心に,課題を抱 えた児童への支援の在り方を模索し,試行錯 誤しながら少しずつ改善していることも事実 である。 Ⅱ.日本における教育問題の現状 近年,ライフスタイルの変化,核家族・母子 家庭の増加,外国籍児童の増加,地域社会の教 育力低下などの様々な要因も加わり,多様な家 庭環境・課題を抱えた児童が,どの小・中学校 にも認められる。またどの学級においても,特 別な支援を必要とする児童が存在している。そ れらの児童に対して,個々に応じた支援を行い, また保護者の要望に一つ一つ応えていくことは 時間的にも困難であり,教師の心身的な負担増 にもなる。そのような現状において,特別支援 教育が果たす役割は大きいと考えている。個に 寄り添い,個の教育的ニーズを把握し,それに 対応した適切な指導・支援を学校・家庭と連携 しながら行うことが,児童の成長を促すととも に,保護者からの信頼・協力を得ることにつな がっていくと考えている。 しかし実際には,教職員は心身的に非常に 厳しい状況にさらされている。文部科学省 (2008)5) によると,2008 年度に精神疾患で休 職した公立小学校の教員は 5400 名で,病気求 職者全体の6 割強に該当する。それについて 新井 (2002)6) は「教師が理想を抱き真面目に 仕事に専念する中で,学校でさまざまなスト レスにさらされた結果,自分でも気づかぬうち に消耗し,極度の疲弊をきたすにいたった状 態」を「教師のバーンアウト」と定義し,多く の教師がその状態になりつつあることを危惧 している。 教師のバーンアウトに関しては多くの研究 がなされている。善明 (2005)7) はバーンアウ トの原因として ① 多忙化,② 同僚性・管理 職との関係,③ 生徒の多様化,④ 保護者の変 化,を挙げている。またバーンアウトは年齢 や性別に関わらず発生する可能性があること も示している。同様に中塚 (2010)8) は,バー ンアウト要因として大きい「多忙感」について は,心理的・精神的ダメージが大きいとし,前 述した児童や保護者の多様化との関連も述べ ている。 一方,バーンアウトの軽減方法として,① 学校内でのコミュニケーション・支え合い,② 仕事に対する考え方の変容,③ 学校運営の見 直し,④ 児童・生徒に向き合う時間の確保 (宮 下 2009)9),などがある。さらに宮下は,それ ら軽減方法の多くは,教職員の定数増加や,少 人数学級の実現,超過勤務の軽減など,制度的 に見直す必要がある内容であり,社会全体とし て変えていく必要があること。しかし,まず個 人や学校レベルで変えられることを少しでも変 えていく必要があると述べている。特別支援教 育推進と同様に,日常的に無理なく,既存の制 度・人的資源を有効活用しながら工夫・改善す ることが重要である。 またバーンアウト軽減方法の一つとして,紅 林 (2007)10) が述べる教師の「同僚性」の高 まりも大きな効果が考えられる。紅林は日本は 伝統的に学級王国的な性格と教師個々のプライ バタイゼーションの進行が,相乗的に同僚間の 関係を希薄にしてきたこと。またお互いの実践 を通しての交流も積極的でないことを指摘して いる。その一方,同僚性は日本の教師にとって ポジティブな機能を果たしており,同僚性に よって日々の活動を支えられ教師としての成長 を果たしている,とも述べている。紅林が述べ る同僚性の機能は ① 教育活動の効果的な遂 行を支える機能,② 力量形成の機能,③ 癒や しの機能,である。すなわち紅林の述べる同僚 性が教職員間で育まれ,大いに発揮されること で,教師のバーンアウト軽減に関する課題だけ でなく,特別支援教育の推進にも大きな役割を 果たすものだと考えられる。
Ⅲ.小学校における「教科担任制」 一般的に小学校においては,一人の教師が 一学級を担任し,各教科指導および生徒指導 を行う「学級担任制」が採用されている。一方 「教科担任制」とは,一人の教師が専門とする 教科を担当することを原則として,各教師が それぞれ特定の教科を分担し,教科指導に責任 を持つという教授組織の方式である。近年,全 国の多くの公立小学校において,教科担任制 が採用され,その成果や課題が公表されるよう になってきている。小学校現場に教科担任制 が広がるきっかけとなったのが中央審議会答申 (2006)11) の中で,小中学校の間の円滑な接続 を行うためであった。また小学校学習指導要領 解説総則編 (2008) において,学習指導の方法 や,指導体制の工夫改善,個に応じた指導の充 実などの具体例として示され,指定校・研究校 などにおいて教科担任制が実施されるように なった経緯もある。そこでは主に「学力向上」 に視点が置かれていたことが特徴である。この ように実施された理由は違えど,その取り組み を通して得られた成果には,大きく ① 授業 内容の質的向上,② 児童・生徒理解の向上, ③ 教職員の勤務状況の改善 (積志小 200312), 本名小 200813),津市教育委員会・岡野 200514), 佐沼小 201015),兵庫教育委員会 201116),船橋 第二小・山崎 201017),豊岡小・島 201018)) な どにまとめられる。担当教科を専門的に教材研 究し,楽しい授業を提供することで,児童の学 習意欲を高め学習理解を深めることや,できた 感を味わい自尊感情を高めること。学級担任だ けでなく,多くの教師が一人の児童に関わり, 多面的に児童理解に努めることや,児童支援を 行うこと。担当する教科を限定することで,仕 事の精選をはかり心身的ゆとりを生み出すこと。 ともに協力して学年経営に努めることで,教師 間の情報交換・相互援助が促されることなど, これらの利点・成果は全て,ここまで述べてき た特別支援教育の推進や,現在の教育問題の解 決に大いに関連することが考えられる。そこで 本研究では,特別支援教育推進のための学校体 制づくりの一つとして,小学校高学年において 「一部教科担任制」を実施し,その成果と課題 を明らかにすることとした。 Ⅳ.本研究の目的 高学年における「一部教科担任制」を通して 本研究が目指すことは以下の3 点である。 まず第 1 の目的は,「授業の質的改善」を通 して,児童の特別支援・生徒指導・教育相談的 な課題の予防と改善を目指すことである。 次に第 2 の目的は,特別支援教育的視点から 授業内容・指導方法の改善に努めたり,学年・ 特支 Co と連携し,児童の支援・アセスメント を実施したりすることを通して,「特別支援教 育に関する教職員の資質向上」を目指すことで ある。 さらに第 3 の目的は,教職員同士の連携,協 働,相互援助・助言を通して,「教師の同僚 性・協働体制の充実」を図り,「精神的ゆとり の創出や心身の健全化」を目指すことである。 2.研究の方法 Ⅰ.S 小学校における一部教科担任制 (1) S 小学校の概要 S 小学校は滋賀県草津市の東部に位置し,栗 東市と隣接する地域にある。豊かな自然が残 る地域があり,数代続く家柄や,昔ながらの 地域性が残る地区もあれば,新興住宅地とし て,新たに移り住んできた家族が密集して過 ごす地区も点在している。現在も宅地開発が 進み,新旧入り交じった地区においては,家庭 ごとに家族構成の違いや,価値観の違いが見 られる。また学校教育に対して協力的な家庭 や,非協力的な家庭が混在している地域もあ る。 S 小学校に見られる課題の特徴として,高学 年児童が問題行動を多発する傾向にあることが 挙げられる。本来,しんどさを抱えながらも, 集団の中で努力して,時には我慢して,また家 庭や担任に支えながらなんとか学校生活を送れ てきた児童が,高学年になりそのがんばりの糸 が切れるように,問題行動として表出するケー スである。原因は様々考えられるが,教師が児 童に応じた有効な手立て・支援を,十分に行え てこなかったことも,その一つである。適切な 支援を適切な場面において十分に受けられな かった児童が,学校内で授業妨害を行ったり,
担任・友だちへ暴言・暴力を行ったりするこ とで,学級経営が困難な状態になることも,例 年のように見られている。結果,その児童の成 長が十分に保障されないだけでなく,学級の 他の児童にも被害が広まり,保護者の担任・学 校不信へとつながっていくという悪循環に陥 ることも少なくなかった。そうなると担任の 心身的な負担はますます増え,ゆとりのない中 で児童への適切な支援が行えなくなる,とい う負のスパイラルに悩まされる教師の姿が見 られた。 (2) 対象学年・児童・保護者 対象学年:第 6 学年・4 学級 134 名 (内,特 別支援学級児童 2 名) 対象児童・保護者:第 6 学年全児童 (内,観 察対象児童 7 名)・第 6 学年全保 護者 (3) 観察対象児童について 各学級から,学習面・生活面において前年度 まで特に課題が顕著であった児童を観察対象児 童として取り上げ,全体の中での支援,または 個別の支援を行いながら,継続的に変化をみ とっていくこととする。また個別の支援計画の 作成については,学級担任だけでなく,教科担 任制の指導に関わる学年教師全員と,特支 Co が加わり検討していく。 (4) 担当教師と担当教科 図 1 に担当教師とそれぞれの担当教科,およ び週あたりの担当時数を示す。図 1 にあるよう に,第 6 学年担任 4 名 (ABCD) に加え,教務 から 2 名 (EF),算数科少人数加配 1 名 (G) の計 7 名が指導にあたる。教科に関しては,各 教師の専門性を考慮しながら,8 教科で実施す ることとする。 (5) 時間割編成とカリキュラムコーディネー ター 複雑で,臨時的に変更を余儀なくされる教科 担任制の時間割を編成するために,カリキュラ ムコーディネーター (以下,カリキュラム Co) を配置し,専門的に教育課程の編成,時間割の 作成を担当する。カリキュラム Co は,教科担 任制をスムーズに進行するために,必要に応じ て教務主任・他学年主任などと相談・調整し, 弾力的に時間割を変更するなど,教科担任制の 運営において補助的な役割を担う (筆者が担当 する)。 (6) 児童理解・支援と特支 Co 教科担任制において,教科指導とともに,特 別支援の必要な児童への適切な指導・支援を行 うために,特支 Co がチームに加わり,その役 割を果たす。特支 Co は,教科担任制チームの 一人として,特別支援教育的な視点からの児童 理解や,教材研究への助言・補助を行ったり, 個別の支援計画作成においては中心的な役割を 担うこととする (筆者が担当する)。 次頁,図 2 に教科担任制の校内体制の模式図 を示す。 Ⅱ.評価の方法 (1) 児童・保護者アンケート 主に「授業の質的改善」に関わって,児童・ 保護者ともに学期ごとにアンケートを実施し (実施前,1 学期末,2 学期末),その量的・質 的変化を結果から読み取る。ここでは特に,学 習に対する意欲・姿勢の向上,変化といった学 習に関する内面的なとらえ方の変化を重視する。 児童については同様項目のアンケートを 4 月, 7 月,12 月の3 回実施する。項目は全て 5 段階 評価で回答する。以下,表 1 に児童アンケート 項目を示す。 保護者については同様の項目のアンケートを 4 月,7 月に実施し,その変化を分析する。そ 図 1 担当教師と担当教科および週時数
れとともに,12 月においては PTA 会員 (35 名) を対象とした「学校評価アンケート」の中 から本研究の評価に関わる 6 項目を抜粋し,前 年 12 月の結果と比較し,その変化を量的・質 的に分析する。項目は全て 5 段階評価で回答す る。アンケートは 3 回とも児童を通して保護者 に配布し,回答後,期限を決めて回収する。以 下,表 2 に実施前・1 学期末保護者アンケート の全項目を,表 3 に 2 学期末保護者アンケート の抜粋項目を示す。 (2) 観察対象児童の変容についての評価 7 名の観察対象児童を縦断的に観察し,その 変容を「授業の質的改善」や「特別支援教育に 関する教師の資質向上」と照らし合わせながら 評価する。ここでは前期・運動会期間中・後期 に作成した個別の指導計画の支援と,その結果 図 2 一部教科担任制体制図 ※漢字はすべてルビ付き。 ※第 3 回アンケートでは項目⑬は削除 ① 勉強をくわしく教えてもらえそう。(もらえた) ② 担任の先生と話したり,遊んだりする時間が少 なくなる。(少なくなった) ③ 毎週の時間割がややこしくなりそう。(ややこし くなった) ④ 担任の先生以外にもいろいろな先生と一緒に勉 強できるので楽しみ。(楽しい) ⑤ 勉強をわかりやすく教えてもらえそう。(もらっ た) ⑥ 担任の先生以外にも話したり,困った時に相談 したりできそう。(できたりした) ⑦ 宿題が増えそう。(増えた) ⑧ 自分にはあまり向いていない気がする。 ⑨ 毎時間,気持ちを切り替えてがんばれそう。(が んばれた) ⑩ 中学校での勉強の仕方になれるためにもいい経 験になりそう。 ⑪ 好き,とくいな教科が増えそう。(増えた) ⑫ 勉強の仕方が先生ごとに変わって大変そう。(と まどうことがあった) ⑬ はじめてのことなので,不安や心配ごとがある。 自由記述欄 表 1 児童アンケート項目一覧【( ) は 7 月・12 月 実施アンケート項目】 ※ 7 月実施アンケートでは項目⑬は削除 ① より質の高い授業を受けられそう。(受けられて いる) ② 中学校に向けていい経験になる。(なっている) ③ 子どもの授業に向かう意欲が高まる。(高まっ た) ④ いろいろな先生の教え方があるため,子どもが とまどう。(とまどっている) ⑤ いろいろな先生が子どもを見守ってくれる。(く れている) ⑥ 困った時に担任の先生以外にもいろんな先生に 相談できる。(できるようになった) ⑦ 宿題が重なり多くなる。(なっている) ⑧ 勉強のことについてどの先生に相談すればよい か困る。(困るようになった) ⑨ 担当教師が学年全員の成績をつけるので,学習 評価が公平になる。(公平になった) ⑩ 担任と子どもとの信頼関係が築きにくい。(にく くなった) ⑪ 様々な教師とふれあえるいい機会である。 ⑫ 子どもの毎日の学習状況を把握しにくい。(しに くくなった) ⑬ 詳しく聞いてみたいことがある。 自由記述欄 表 2 保護者用アンケート項目一覧【( ) は 7 月実 施アンケート項目】
として,学習中の様子の変化,前年度と比較し ての変化,学習意欲・集中力の向上,教師・集 団との関わりなどについて,教科を担当する 7 名の教師が日々の学習・生活場面の中で対象児 童の様子を見取ることにする。 (3) 対象学年児童の変容についての評価 第 6 学年児童全体の様子,成長,変容などの 臨床像を,教科担任制の効果と照らし合わせな がら評価する。特に学習風土の質的変化,学年 集団としてのまとまり,行事などでの児童の様 子,児童間のトラブルの増減など,日々の授業 時間の充実や,教職員の協働による学年経営へ の意識変革が児童にもたらす変容を分析・評価 する。 (4) 教職員の変容についての評価 「教師の同僚性・協働体制の充実」と「教師 の心身の健全化」について,主に学年会での教 師間の会話内容の量的・質的な分析を,教科担 任制の効果と照らし合わせながら評価する。そ のために,筆者が定期的に学年会に参加し,内 容を整理できるようにする。また教職員の放課 後の過ごし方や退勤時間の変化,教材研究や特 別支援教育に対する教師の意識変化,教科担任 制に対する教師の意識・評価などについては, 教科担任制についてのアンケートの回答を整 理・分析する。 3.結果と考察 Ⅰ.「授業の質的改善」について (1) 児童アンケートの結果から 児童アンケートを 3 回実施したところ,第 1 回アンケート (4 月) では 130 名,第 2 回アン ケート (7 月) では 129 名,第 3 回アンケート (12 月) では 125 名の回答がそれぞれ得られた。 図 3 に 3 回の児童アンケート結果の内,肯定的 回答 (そうそう・そう) の割合をそれぞれグラ フで示す。 図 3 のグラフから分かるように,項目①「勉 強をくわしく教えてもらえた」,⑤「わかりや すく教えてもらえた」,⑪「好き,とくいな教 科が増えた」などの「授業の質的改善」に関わ る項目が高い値を示した。これは教科担任制に よって,教師の専門性が活かされた授業,より 工夫された授業展開,個に応じた教材の提供な どが実施された結果と考えることができる。児 童は質の高い授業を受けることで,学習意欲を 高め,学習理解を深めていったと考えられる。 ① 学校は通信やホームページなどで教育方針や教 育活動をわかりやすく伝えている。 ② 学校はきめ細かくていねいに学習指導の工夫を している。 ③ 学校は,学習環境や環境改善を図っている。 ④ 子どもは学校へ行くのを楽しみにしている。 ⑤ 子どもは授業がわかりやすく楽しいと言ってい る。 ⑥ 子どもは健康や学習・友だちのことなど,担任 に相談しやすいと言っている。 表 3 12 月実施保護者用アンケート (2 学期末学校 評価アンケート) 図 3 児童アンケート結果 (肯定的回答の割合)
また一日の大半を占める学習時間を有意義に過 ごすことで,学校生活を安定して送ることにつ ながったと考えられる。加えて,項目⑪に対し ては,6 割以上の肯定的回答が得られている。 6 年生になってから,新たに好きな教科が増え ることは通常では稀であろう。この結果は,教 師の授業作りの工夫が評価されたものであると 考えられる。 また項目④「いろいろな先生と一緒に勉強で きて楽しい」,⑨「毎時間,気持ちを切り替え てがんばれそう」など,「多くの教師と関わる ことのよさ」に肯定的な回答をした児童の割合 も期間を通して高かった。児童自身,担任以外 の教師との関わりに楽しさや充実感を味わって いたと考えることができる。一方,項目⑥「担 任以外の先生に相談する」に関しては,4 月に 比べ,7 月の値が大きく減少した。授業や行事 などで担任以外の教師と関わることについては 肯定的であっても,いざ相談ごととなると,や はり最も信頼できるのは学級担任であることが 推測され,改めて児童と担任との信頼関係の構 築の重要性が確認された。 項目②③⑦⑫は教科担任制に対する不安要素 である。どの項目についても,時期が経つにつ れて減少している。特に不安の大きかった項目 ②「担任と関わる時間の減少」は大きく減少し ている。これは授業時間に関わる時間が減少す ることに対して,詳しく後述するように各担任 がそれ以外の場面・時間に児童と関わる時間を 工夫したことによる。しかし,少数ではあるが, 引き続き教科担任制に不安や不適応感を抱いて いる児童もおり,それらの児童の把握と,教科 担任制の在り方の工夫については検討・修正す る必要があると考える。 (2) 保護者アンケートの結果から 保護者アンケートを 3 回実施したところ,第 1 回アンケート (4 月) では 111 名,第 2 回ア ンケートでは 92 名,第 3 回 (12 月) アンケー トでは PTA 役員 35 名中 30 名の回答がそれぞ れ得られた。図 4 に第 1 回・第 2 回の保護者ア ンケートの内,肯定的回答 (とてもそう思う・ そう思う) の割合をそれぞれグラフに示す。 図 4 のグラフから分かるように,項目①「質 の高い授業を受けられている」,⑨「学習評価 が公平になった」などの「授業の質的改善」に 関わる項目がそれぞれ高い値を示した。保護者 も児童同様,教科担任制を実施することによっ て,よりよい授業が提供されることを期待し, 実感されたと伺える。しかしそれ以上に保護 者の関心・評価の高かった項目が⑤「いろいろ な先生が子どもを見守ってくれている」,⑪ 「様々な教師とふれあえるいい機会である」な どの「多くの教師が一人の児童に関わること」 についてであった。従来の学級担任制では,児 童と教師の信頼関係が崩れると,修繕すること に時間がかかり,二次障害へと発展していくこ とも度々見られた。また学習環境の乱れが,学 級児童全体の学習理解に支障をきたすことも 図 4 4 月・7 月実施保護者アンケート結果 (肯定的回答の割合)
あった。そんな時,一つの学級に多くの教師が 関わることができる教科担任制では,学級担任 を他の教師がサポートする体制を整えることが でき,学級崩壊などの問題を未然に防ぐことに 対しても有効である。児童の学習環境について 心配される保護者の中には,そのような思いも あって,項目⑤⑪に期待を寄せ,その成果を実 感されたものと考えられる。 また項目④⑦⑧⑩⑫の不安要素についての項 目は,児童同様,4 月当初に比べ,1 学期末に は減少していた。しかし,少数ではあるが引き 続き不安を抱かれている保護者もあり,やはり そのことについても教科担任制の在り方につい て検討・修正する必要がある。 図 5 に前年度の学校評価アンケートの結果と, 第 3 回アンケートの結果の内,それぞれ肯定的 回答 (とてもそう思う・そう思う) の割合を並 べて示す。 図 5 のグラフからわかるように,項目②「き め細かくていねいな学習指導の工夫」,③「学 習環境や環境改善」,⑤「授業がわかりやすい」 などの「授業の質的改善」に関わる項目は,す べて 20 ポイント以上上昇し,昨年度と比較し て非常に高い値を示した。そのことは教科担任 制の実施によって,よりよい授業が提供され, そのことで児童の学習意欲・理解が高まったり, 学習環境が整備されたりしたことを,保護者が 児童を通して実感された結果だと言える。半年 間,どの学級も落ち着いた学習状況であること を,学習参観を通して実際に目にしたり,毎日 の学年通信で学年児童の様子を知らせたりして, 保護者の理解を得る機会を設けてきた。そんな 細やかな情報の提供も,保護者から教科担任制 に対して理解と協力を得られた要因の一つだと 考えている。 (3) 観察対象児童の変容に関する結果 7 名の観察対象児童については,個別の支援 計画の作成を 4 名の学年教師と特支 Co との5 名で行ってきた。ここでは特に学習場面におい ての支援方法について検討,実施してきた。そ れぞれ支援の時期を前期 (4 月〜7 月),運動会 に向けての取り組み (9 月),後期 (10 月〜12 月) の3 期に分け,その支援方法と児童の様子 について観察・検討した。 結果,前期の 4ヶ月間の支援の結果,どの児 童にも「学習に落ち着いて臨める」ことができ た。前年度まで,ほとんどノートをとらなかっ たり,授業中の立ち歩きや私語が目立ったりし た児童も,期間を通してほとんど離席せず,自 分のできる範囲内で学習に参加することができ た。また PDD を抱えている児童に対しては, 事前の予定配布や,学習のはじめに学習活動を 掲示することを,全教師で共通理解することで, パニックもなく学習に向かうことができた。 さらに,例年トラブルが多発する運動会期間 中においても,個別の支援計画をもとに,全体 指導を担当する教師と,個別支援を担当する教 師で分担し,観察対象児童に支援の重点を置い 図 5 12 月実施保護者アンケート結果 (肯定的回答の割合)
た関わりを行った。 結果,前年度まで長時間の練習に参加できな かった児童や,集団行動の中で不適応行動を起 こしていた児童に対して,全教師で適時支援を 行えるようになり,どの児童も練習・本番での 全ての活動に参加することができた。これまで 特に運動会期間中は多忙さが増し,翌日の学習 準備が疎かになることがあった。しかし教科担 任制においては,運動会期間中も質の高い授業 を提供できる環境条件があり,そのことも児童 の安定につながったと考えられる。 後期においても,観察対象児童全員において 引き続き安定した姿が見られた。一部児童につ いては,全体指導だけでは十分な学習理解を得 ることが難しかったため,校内委員会で検討す る場を持ち,教務の協力を得て,定期的に個別 指導を行えるようになったことも成果としてあ げられる。また児童によっては,次年度の特別 支援学級への入級について,保護者と定期的に 懇談を持つことができた。その際にも,学級担 任だけでなく,多くの教師からの情報をもとに 児童の様子や課題を伝え,保護者の児童理解を 促すことができた。 (4) 教師の教材研究に関する意識の変化に関 する結果 「授業の質的改善」について,6 学年担任 4 名から聞き取りを行った。その結果,「教材研 究にかける時間の変化」「個別支援を意識した 授業改善」「専門性を活かした授業展開」「評価 の信頼性・公平性」などの変化が認められた。 特に「教材研究にかける時間の変化」につい ては,4 名全員が「増加した」と回答した。担 当教科が減少したことで時間的なゆとりが持て たこともあるが,それ以上に「担当する教科・ 児童に対して責任を持たなければいけない」と いう意識が,自然と教材研究への意欲を高めた という意見もあった。そのような意識が授業の 質的向上につながっていったことが考えられる。 また「個別支援を意識した授業改善」につい ては,教科担任制では一つの教材を 4 学級にお いて,計 4 回使用できることが大きな利点とし て挙げられた。1 度目の授業で上手くいかな かったことを,次の学級での授業改善につなげ るようになった,との回答が見られた。課題を 抱える児童の顔を思い浮かべながら授業の展開 を想定することも増えた,との回答も見られた。 「評価の信頼性・公平性」については,4 名 全員が教科担任制では,より信頼性と公平性の 高い評価ができた,と回答した。一人の教師が 同じ観点で全児童を評価すること,他教科での 児童の姿に影響されることなく,客観的に評価 できる,などがその理由としてあげられた。 Ⅱ.「特別支援教育に関わる教職員の資質向 上」について (1) 観察対象児童に対する支援に関して ほぼ毎週行われた学年会において,観察対象 児童 7 名について児童の様子やがんばりを情報 交換する機会が持たれた。また個別の指導計画 を全体で作成し,共通指導・支援を行ってきた。 そのような取り組みを通して,「個別の指導計 画を大勢で作成すれば,教師によっていろいろ な児童の見え方やとらえ方があったり,自分だ けでは思いつかない支援が出てきた」「これま では一人で作成し,一人で支援しするしかなく, 負担が大きい上に支援の効果も曖昧だった。し かし,教師全員の課題として取り組んだことで, 支援の効果が目に見えて実感でき,取り組みの 評価も多面的に行えた」などの意見が教師から 聞かれた。 他にも観察対象児童の一人である S. K は, 例年,学級担任と良好な関係をうまく築けず, 問題行動が多く見られた児童であった。今回の 取り組みの中でも 2 学期半ば頃から担任との折 り合いが悪くなり,学級でも粗暴な姿が見られ ることが多くなったことがあった。それに対し て,学年教師が全員で支援の在り方を検討し, 共通支援を行うことを約束した。それぞれが担 当する教科において,よい行動は全員で褒め, よくない行動に対しても全員で共通指導するこ とを徹底し,担任の負担を減らすとともに,多 くの教師による多面的な関わりを増やしていっ た。その後,11 月中頃には担任との関係も改 善し,休み時間にも一緒にサッカーをして遊ぶ 姿が見られるようになった。以前のように学級 担任が全ての教科を担当し,一面的にしか児童 を観察できない状態であったなら,今回のよう な支援はできなかったであろう。多面的に児童
を観察すること,複数で児童を支援することの よさを実感できた事例である。 (2) 教師と児童の関わりの変容に関して 教師への聞き取りの中で「今までは問題行動 に対してすぐに指導していたことでも,児童の 背景にある原因に目を向け,どうしてそういこ とに至ったのか,と考えるようになった」「学 年の先生との交流の中で,児童の発達に関する 知識が増え,児童の見え方・とらえ方が変わっ た」などの回答が見られた。これは毎日のよう に児童のことについて,学年教師,特支 Co と 話し合う機会を設けてきたことによる効果だと 考えられる。 また学級児童との関わりについては,「これ まで以上に大切にするようになった」との回答 が見られた。教科担任制を実施することで,学 級児童と関わる時間が減少し,それによって信 頼関係が希薄になることに対し,教師が心がけ たことの一つである。結果,休み時間はできる だけ教室で過ごし,児童と関わる時間を増やし たり,放課後に少し話す時間を設けたり,する など,日々の余剰時間を活用して児童との信頼 関係に努める姿が見られた。また全ての学級担 任が毎日「5 分間日記」を書く時間を設け,そ の中に一日の出来事,感じたこと,思っている ことなどを書かせることで,児童理解に活かさ れた。放課後には全員の日記に目を通し,内容 に応じて一人ひとりにコメントを返していた。 このように,担当教科が限定されたことで産み 出された時間的なゆとりを,少しでも児童理解 に活かそうとする学年教師の取り組みや心構え は,教科担任制がもたらした効果の一つだと考 えられる。 (3) 学年会での会話内容に関して ほぼ毎週実施された第 6 学年の学年会に,特 支 Co である筆者も加わり,そこでの教師の様 子や,学年会の雰囲気,会話内容などを観察し てきた。当初は児童のことについても,情報交 換だけで終始することが多かった会話内容が, 時期が進むにつれ,児童に対して具体的な方策 が示されるようになり,今後の方針まで決定す る場面が増えるようになってきた。また教材研 究の場においても,「○○さんにはこういう教 材がいいんじゃない」など,特定の児童を思い 浮かべながら,個々に応じた授業展開について 相談することも見られるようになってきた。 「手間がかかってややこしく,しんどい取り 組みだと思っていた特別支援教育が,日常の取 り組みの積み重ねの中で,無理なく楽しく取り 組めるものだと思えるようになった」という回 答内容は,学年会のあの楽しい雰囲気や会話の 中から生まれたものではないだろうかと思う。 Ⅲ.「教師の同僚性・協働体制の充実」と「教 師の心身の健全化」について (1) 第 6 学年児童の変容に関して 教科担任制の取り組みを円滑に進めるために は,学級経営から学年経営への意識の転換,自 学級の児童だけでなく学年全体の児童を見守っ ていく,という教師のスタイルや教育観の転換 に必然的に迫られる。それに応じて,6 年生児 童の集団としてのまとまり・高まりにもいくつ かの変化が見られるようになった。 まず学年全員での活動場面において,落ち着 いた雰囲気で,先生や友だちの話・発表を聞い ている姿が見られた。どのような指導が行われ たのであろうと思い,学年の先生に尋ねると 「人の話を静かに聞くことをしつこく指導して きただけ」との返答があった。だがこれを実行 するためには何よりも,教師全員が同じ指導基 準を持ち,継続的な指導を行う必要がある。誰 か一人でも指導がブレれば,児童はそこから乱 れてくることもあり,大きな困難を伴う。これ は定期的に学年全体のことについても相談され てきた 6 年生ならではの指導である。また加え て,どの先生も実感されたことが「どの子も顔 と名前が分かり,またそれぞれの特性も知って いるので,指導がしやすくなった」ということ である。他学級の児童だからといって躊躇する ことなく,指導にあたれるようになったことも, 学年児童の雰囲気を変えた要因の一つである。 また学年全体で取り組む運動会・音楽会など の学校行事については,一人の教師が全体指導 を担当し,他教師が課題を抱える児童に個別指 導にあたれるようにした。これも全学年児童を 把握することが容易な教科担任制の強みの一つ であり,このような場面においても教師間の協 働体制の高まりが見られた。
(2) 学年会での会話内容について 第 6 学年の学年会に参加していた筆者が感じ た最も大きなことが,会が実に楽しそうな雰囲 気で進行されていくことであった。ややもする と深刻になりそうな児童の話題や,手間や苦労 がともなう活動の準備においても,雑談を交え ながら,着々と指導の在り方や役割分担が決 まっていく様子が見られた。またそれぞれの教 師が困っていること,悩みなどを素直に打ち明 け,それに対していろいろな意見や助言が遠慮 なく飛び交う様子も見られた。ややもすると自 学級に関することは自己責任として一人で処理 しようとしたり,他学級の学級経営に口を挟む ことを避けたがったりする傾向が教師にはある。 その結果,指導に行き詰まり,心身的な負担の 蓄積から体調を崩したり,学年教師集団がぎく しゃくしたりすることもよく見られる。しかし, 第 6 学年教師集団においてはそのようなことは 見られなかった。教師アンケートの中に「一人 で全部しなければいけないというプレッシャー から解放された」という回答があった。教科担 任制に取り組んでいく中で,「4 つの学級を 4 人がそれぞれ担当するのではなく,4 人で一つ の学年を担当する」という意識の転換が,お互 いを助け合い,叱咤激励しあい,高め合う学年 教師風土を育んでいったのではないだろうか。 (3) 余剰時間の活用について 教科担任制の利点の一つに,「時間的なゆと りの創出」が挙げられる。しかし 6 年生の担任 4 人に勤務時間の変化について尋ねたところ, 「それほど変わらなかった」との回答があった。 それでは時間的なゆとりは何に使われたのか尋 ねると主に「児童理解に関すること」「学習指 導に関すること」「学年経営に関すること」が 挙がった。つまり産み出された時間は,よりよ い教育活動の推進に使われたということである。 他の回答には「全ての仕事内容が厳選され,し なければいけないことでなく,したいことがで きるようになった」「ゆとりを持って仕事に取 り組めるようになった」などがあり,単純に物 理的な仕事量の減少以上に,職務執行に対する 充実感を味わうことに重きを置いていたことが わかる。それを裏付けるように,勤務時間に大 きな変化はないものの「精神的な負担はずいぶ ん軽減した」と全員が回答している。教師バー ンアウトの研究にもあるように,物理的な仕事 量の負担と精神的な負担を軽減することが,教 師の心身の健全化に必要であるならば,教科担 任制の実施によってある程度の効果を期待する ことができると考えられる。 4.総 合 考 察 北脇 (2009)19) が述べるように,特別支援教 育推進の一つの手段が「発達に課題のある児童 にスポットを当てた授業や学級経営」である。 そのため教師が努力・工夫すべき点として「授 業の改善」「学級経営の改善」「個別指導の充 実」の3 点を挙げている。その点において,教 科担任制を実施することで,よりよい授業の提 供や,学年教師の相互援助による学級経営,学 年教師全体で支援する個別指導などにおいて効 果的であると考えられる。ただ本研究での学習 指導は「一斉授業」を中心とした授業展開が中 心であり,一斉授業だけでは十分な学習成果を 示すことができない児童が見られたことも課題 として残っている。今後は,少人数または個別 で指導にあたる体制も併せて実施することで, より効果的な指導が行えるのではないかと考え る。 また「教職員の資質向上」については,本研 究を通して十分な検討はできなかった。ただし 教職員の特別支援教育に対する意識の変化につ いては「学年会での課題を抱えた児童への支援 に関する話題の増加」や「学年全員で継続的に 個別支援を続けてきたこと」などから,実施前 に比べ向上したと推測できる。さらに個々でな く,チームで学級・学年経営,児童支援にあた ることで,教職員の児童観の変容や,児童支援 に関する造詣の深まりにつながることも示され た。しかしこの点については,教科担任制を実 施する教職員のチーム構成・それぞれの特性な どに大きく影響されることも考えられ,信頼性 としては課題が残る。 最後に,教師の「同僚性・協働体制の充実」 について述べる。同僚性については,(中塚 2010)10) は,「それぞれ担任学級や専門分野が 違ったとしても,教育の専門家としての「同僚
性」を構築することにより相乗効果が得られ, 教育が抱える多くの問題に立ち向かえる」と述 べている。また (大瀬 (2003)20)は「教師一人 ひとりが,授業を中心とした仕事を公開し,観 察・批判し合い,創造することで高まる」とあ るように,ただ単に相互的補助を果たす互助シ ステムだけにとどまらないものである。その点 において,本研究における第 6 学年の教職員の 姿は,二人が掲げる理想に近い姿であったと言 える。ただ単に援助するだけでなく,お互いの 年齢・性別・特性などの違いを越えて,意見・ 助言し合うことは,教職員間にとっては困難な ことの一つである。しかし,現状の教育問題を 解決していくために,授業研究や児童理解につ いて教師間で話し合い,その中でお互いに意見 をぶつけ合わせ切磋琢磨していくことが,今後 求められるようになってくる。その点において, 教科担任制がそのきっかけの一つとして考えら れる。 「心身の健全化」に関しては,全員が「精神 的ゆとりができた」と回答しているように,教 科担任制がもたらす効果は大きいと考えられる。 しかし単に「ゆとり」とは,雑務からの解放,時 間的ゆとりの創出,といった物理的な条件が 整った状態だけではなかった。教師によっての 精神的ゆとりの中には,「授業研究に没頭でき る満足感」「学年・学級経営が順調に行われて いる実感」「児童との信頼関係が築けたことへ の充実感」なども含まれていることが分かった。 教師間が同じ目標に向かって共同で取り組み, その成就感を味わうとことも,教師にとって大 きな癒やし効果を発揮するものであろう,と推 測される。 本研究では校内特別支援教育を推進するため に「教科担任制」を実施し検討してきたが,そ の中で一定の成果とともに,今後の課題も明ら かになった。それらを整理し,より実証を深め るためには,次年度以降も継続的に教科担任制 に取り組むことが求められる。誰もが実施でき, より効果的な体制作りを,今後も試行・検討し ていきたい。 文 献 1 ) 赤嶺太亮・緒方茂樹「公立学校に在籍する発達 障害児への教育的対応及び支援に関する研究」 〜校内支援体制の構築を中心に〜 琉球大学 教育学部発達支援教育実践センター紀要 (1) 29-39 2010. 3 2 ) 下無敷順一・池本喜代正「小中学校教員の特別 支援教育に対する意識」宇都宮大学教育学部 教育実践総合センター紀要 第 29 号 2006. 7 3 ) 三宅康勝・横川真二・吉利宗久「小・中学校に おける特別支援教育コーディネーターの職務 と校内体制」岡山大学教育実践総合センター 紀要 No. 8 pp117-126 2008 4 ) 横尾俊・松村勘由・大内進・笹本健・西牧謙 吾・小田候朗・當島茂登・藤井茂樹・笹森洋 樹・牧野泰美・徳永亜希雄・滝川国芳・太田 容次・横尾俊・渡邊正裕・伊藤由美・植木田 潤・亀野節子「特別支援教育への理解と対応 の充実に向けた小・中学校の取り組み平成 18〜19 年度プロジェクト研究」国立特別支援 教育総合研究所研究紀要 3629-44 2009 小・ 中学校における特別支援教育の理解と対応の 充実に向けた総合的研究・研究チーム 5 ) 文部科学省「教育職員にかかる懲戒処分などの 状況について (表 13)」2008 6 ) 新井肇「教師のバーンアウトの『なぜ』と『ど うする』」労働の科学 57 第 4 号 14-17 2002 7 ) 善明宣夫「教師のバーンアウト〜教職 10 年経 験者と対象として〜」関西学院大学教職教育 センター紀要 15-22 2005 8 ) 中塚健一「教師受難期における小学校教師の自 立性に関する一考察」太成学院大学紀要 論 文第 12 巻 199-208 2010 9 ) 宮下敏恵「小・中学校教師におけるバーンアウ ト軽減方法の探索」上越教育大学研究紀要 No. 28 p95-103 2009. 2 10) 紅林伸幸「協働の同僚性としての《チーム》― 学校臨床社会学から―」教育学研究 第 74 巻 No2 pp36-50 2007 11) 中教審教育課程部会「審議経過報告」2006 12) 戸塚芳子「学力向上最前線レポート (6)『分か る授業・楽しい授業』を実現する教科担任制 …静岡県浜松市立積志小学校」総合教育技術 No. 58 (9) pp98-103 2003. 11 13) 矢内忠「実践校レポート A/鹿児島県鹿児島市 立本名小学校 教科担任制のデメリットを補 うために「一部 TT」制を導入」総合教育技術 No. 59 (15) pp42-45 2005. 3 14) 津市教育委員会・津市立南が丘小学校・岡野昇 「新しいタイプの学校運営の在り方に関する実 践研究 (第 2 年次)」三重大学教育学部研究紀 要 教育科学 No56 pp231-243 2005 15) 宮城県登米市立佐沼小学校「小学校高学年にお
ける教科担任制の取組 (特集 小学校・中学校 の円滑な接続)」初等教育資料 No. 865 pp22-25 2010. 10 16) 兵庫県教育委員会「小学校における新たな指導 システム「兵庫県型教科担任制〜小中学校 9 年間を見据えた子どもたちにとってよりやさ しいシステムの創造〜」「兵庫県型教科担任 制」実践研究のまとめ 2011. 3 17) 山﨑美佐子「小学校編 A 君のために始めた教 科担任制は学年のすべての子どもに有効なシ ステムだった (特集 1〈学級崩壊〉を超える試 み…学級の在り方,学年の在り方を見直す) … (実践現場で考える…〈崩壊〉を超えるシ ステムを目指して」総合教育科学 No. 54 (9) pp20-23 1999. 9 18) 嶋公治「特色ある学校を訪ねて兵庫県小学校の 新たな指導システム『兵庫型教科担任制/豊岡 市教育委員会・豊岡市立豊岡小学校」初等教 育資料 No. 865 pp76-79 2010. 10 19) 北脇三知也「特別支援教育であなたの学校を変 えよう インクルーシブ教育の推進方略」明 治図書 2009 20) 大瀬敏昭「学校を変える〜浜之郷小学校の5 年」小学館 2003