1 研究の目的 岡は,2011 年から特別支援学校における音楽づくり の実践と研究を進めている。これまでの音楽づくりに関 する研究では,発達的な特徴と関連させた実践研究 (2014・2016a 岡)を行い,発達的な特徴に適した楽器 があること(2015 岡)や,言葉を獲得してない段階の 生徒が音でやりとりする楽しさについて(2018 岡), 打楽器奏者とのコラボで表現幅が広がること(2016b 岡)等を考察してきた。これらの研究から,言葉に依拠 しない表現手段である音を使って自分を表現する心地よ さや,音による表現を相手に認めてもらえる喜び,及び 相手の音表現を受け止めて思いを共有する楽しさ等を感 じることで,音楽の表現幅や人との関係性が豊かになる ことを明らかにしてきた。 本研究の目的は,特別支援学校における音楽づくりで 鈴を楽器として使う意義について明らかにすることであ る。鈴は金属製の器であり,鈴棒と呼ばれるばちを使っ て音を出す仏具でもあり,音高の違う複数の鈴を並べて 宗教楽器や民族楽器として演奏に使用されている。生徒 達は鈴を楽器として使用することは初めてである。授業 で観察された生徒の様子から,認識発達と関連させて生 徒の特徴を考察することや,音楽づくりで鈴を使用する 際の配慮点について整理してみたい。 鈴を授業に使うことになったきっかけは,林が京都市 立芸術大学准教授で作曲家の中村典子によって,鈴を 使った作品や楽器の用法に触れたことに始まる。中村は 大きさや質感の違う鈴を多数収集し,さらに演奏のため に持ち手をつけた鈴を作るなどして研究を進めている。 豊かな倍音が鳴り響き,響きや音の揺れが手に取るよう にわかること,叩けば音が鳴ることなどから,教育用楽 器として効果的な使用が可能なのではないかと考えた林 は,特別支援学校の音楽づくりで使用することを岡にも ちかけた。なお楽器については,大小さまざまな鈴を音 高に応じて整理して多数所有している箏奏者の麻植美弥 子氏より楽器提供の協力を得た(1)。 なお本研究は,滋賀大学附属教育実践総合センターの 共同研究事業として,平成 30 年度から令和 2 年度まで 助成を受けている。 2 研究の方法 2 − 1 研究対象生徒と実施日 研究対象生徒は特別支援学校中学部の生徒 13 名(A 組 1 年生 6 名,B 組 3 年生 7 名)である。両組の認識 的な発達段階は乳児期後半から 5 歳程度までであり, 話し言葉を獲得していない段階から書き言葉を獲得して イメージの世界を拡げることができる段階まで生徒の認 識面での実態幅は広い。 実施日は 2020 年 1 月 7 日~ 2020 年 1 月 21 日の全 4 回である。 各組の実施日は【表 1】の通りである。 【表 1】各組の実施日 $ ⤌ ༢ ⊂ ᤵ ᴗ ᅇ ┠ 㸸 ᭶ ᪥ 㸦 ⅆ 㸧 ᅇ ┠ 㸸 ᭶ ᪥ 㸦 ⅆ 㸧 % ⤌ ༢ ⊂ ᤵ ᴗ ᅇ ┠ 㸸 ᭶ ᪥ 㸦 ᭶ 㸧 $ ⤌࣭% ⤌ ྜ ྠ ᤵ ᴗ ᅇ ┠ 㸸 ᭶ ᪥ 㸦 ⅆ 㸧 2 − 2 使用楽器について 本研究で使用した楽器は鈴である。鈴は材質や大きさ や厚さの違いにより音高や音色が異なる楽器であり,鈴 の器が大きいほど音が低く,厚みが薄いほど音が低い。 鈴を打つ位置や鈴棒の種類を変えることで様々な音を出 すことができる。金属音の鋭い立ち上がりの後に同心円 状に広がる長い残響が続く。響いている鈴を動かすと, 音の拡がりや揺れが音の軌跡として目に見えるように感 じられる。また鈴同士をぶつけあうことでお互いの音が 干渉し合ううねりが発生する。本研究では,複数の鈴を 使用する際に,種類の違う 2 セットを準備した。1 つめ は,音階にある音高のうち倍音で響き合うような音の セットであり,2 つめは,半音よりも細かいピッチの違 いで低音から高音,高音から低音へと並べて順に鳴らす ことで風や波のようなうねり音を表現できるセットであ
特別支援学校における音楽づくり
−鈴(りん)を使った実践−
Creative Music Making at Special-needs School
: A Practical Research of Using Bells called Rin
岡 ひろみ
Hiromi OKA
滋賀県立野洲養護学校林 睦
Mutsumi HAYASHI
滋賀大学教育学部 < キーワード> 特別支援学校 音楽づくり 鈴(りん) 145る。本研究では前者を鈴セット A(2),後者を鈴セット B と呼ぶ。 【写真 1】鈴セット A 【写真 2】鈴セット B 2 − 3 授業内容について 個々の授業の流れは以下の通りである。 A 組単独授業(2 回) 1 回目は,鈴を提示した後,指導者の模範演奏はせず, 生徒が自由に演奏方法を考えて音を鳴らす時間を作っ た。その後,1 人ずつ他の生徒の前で自由に音を鳴らす。 鈴の数は 1 個から 3 個,4 個と増やし,最終的には特大 の鈴も提示した。授業 2 回目は,1 回目と活動の展開は 変えないが,ばちの種類を増やすために,鈴棒を持たず に手で打つことも含めて,マリンバ用マレットや家庭仏 壇用の約 15 ㎝小さい鈴棒,少し大きい鈴棒,さらに長 さが約 30 ㎝の大きい鈴棒と順に提示していった。 B 組単独授業(1 回) 授業冒頭で,鈴を楽器として使用している演奏動画(3) を見せた。動画視聴後に鈴を提示した。指導者の模範演 奏はせずに 1 人ずつ前に出てきて自由に自分が考えた 演奏方法で音を鳴らす。鈴の数を,1 個から 3 個,4 個 と順に増やしていく度に,1 人ずつ前に出て演奏して いった。鈴棒は,マレットを含めて大小 3 種類を使用 した。 A・B 組合同授業(1 回) 授業前半は,鈴セット A の中から始めに 3 個,次に 5 個に増やして,1 人ずつ順に前へ出てきて,自由に演 奏する。後半には鈴セット B に変更して同じように 1 人ずつ前で自由に鳴らした。ゲストの打楽器奏者は,前 半と後半の間にそれぞれの鈴セットの特徴を生かした模 範演奏を行い,生徒の演奏に対しては随時アドバイスを 行った。 【写真 3】打楽器奏者による演奏 参考のために,単元の学習指導略案を示しておく。 【表 2】学習指導略案 Ꮫ ⩦ ᣦ ᑟ ␎ ༢ ඖ ྡ ࠕ 㡢 ᴦ ࡙ ࡃ ࡾ ࣮ ࠾ 㕥 ࢆ ࡗ ࡚ ࣮ ࠖ ᤵ ᴗ ᪥ $ ⤌ ➨ ᅇ ┠ 㸸 ᖺ ᭶ ᪥ 㸦 ⅆ 㸧 a ➨ ᅇ ┠ 㸸 ᖺ ᭶ ᪥ 㸦 ⅆ 㸧 a % ⤌ ➨ ᅇ ┠ 㸸 ᖺ ᭶ ᪥ 㸦 ᭶ 㸧 a $ ⤌ ࣭ % ⤌ ྜ ྠ ➨ ᅇ ┠ 㸸 ᖺ ᭶ ᪥ 㸦 ⅆ 㸧 a ᤵ ᴗ ሙ ᡤ 㡢 ᴦ ᐊ ᑐ ㇟ ⏕ ᚐ ୰ Ꮫ 㒊 $ ⤌ ᖺ ⏕ ྡ % ⤌ ᖺ ⏕ ྡ ィ ྡ ᣦ ᑟ ⪅ ୰ ᚰ ᣦ ᑟ ⪅ ᒸ ࡦ ࢁ ࡳ ࢧ ࣈ ᣦ ᑟ ⪅ ྡ ࢤ ࢫ ࢺ 㸸 ྜ ྠ ᤵ ᴗ ࡢ ࡳ ྍ ඣ 㯇 Ꮚ ࡉ ࢇ 㸦 ᡴ ᴦ ჾ ዌ ⪅ 㸧 ୰ ᮧ Ꮚ ඛ ⏕ ᯘ ╬ ඛ ⏕ ༢ ඖ タ ᐃ ࡢ ⌮ ⏤ ̿ ┬ ␎ ̿ ༢ ඖ ࡢ ࡡ ࡽ ࠸ 㡢 ᾐ ࡿ ࠋ ᡴ ࡘ ᙉ ᙅ ࡸ ዌ ἲ ࢆ ኚ ࠼ ࡿ ࡇ ࡸ 㡢 Ⰽ ࡸ 㡪 ࡁ ࡢ 㐪 ࠸ ࢆ ᴦ ࡋ ࡴ ࠋ 【表 3】活動の流れ 第 1 回目~第 3 回目 ෆ ᐜ ᣦ ᑟ ⪅ 㹲 ࣭ ⏕ ᚐ 㹡 㓄 ៖ Ⅼ ᣵ ᣜ 㡢 ᥈ ࡋ 㡢 ᾐ ࡾ 㡢 㑅 ࡧ Ⓨ ⾲ ᣵ ᣜ ࣭ 㡢 ᴦ ࡢ せ ⣲ ࢆ ⪃ ࠼ ࡓ ᣵ ᣜ ࠋ ࣭㕥 ࢆ ಶ ࡎ ࡘ ᥦ ♧ ࡋ ே ࡎ ࡘ ๓ ࡛ 㬆 ࡽ ࡍ ࠋ ࣭ 㕥 ࡢ ࿘ ࡾ 㞟 ࡲ ࡾ ⮬ ⏤ 㬆 ࡽ ࡍ ࠋ ࣭ ࡁ ࡉ ࡢ 㐪 ࠺ 㕥 ࡸ 㕥 Წ ࢆ ᥦ ♧ ࠋ ࣭ ே ࡎ ࡘ Ⓨ ⾲ ࠋ ࣭ 㡢 ᴦ ࡢ せ ⣲ ࢆ ⪃ ࠼ ࡓ ᣵ ᣜ ࠋ ₇ ዌ ぢ ᮏ ࡞ ࡋ ⏕ ᚐ ࡢ ዌ ἲ ࢆ ほ ᐹ ࠋ 㡢 㞟 ୰ ࡍ ࡿ ࡓ ࡵ ே ࡎ ࡘ 㬆 ࡽ ࡍ ࠋ 㡢 ࢆ 㑅 ࡪ 㛫 ࢆ ಖ 㞀 ࠋ 滋賀大学教育実践研究論集 第 3 巻 2021 146
【表 4】活動の流れ 第 4 回目 ෆ ᐜ ᣦ ᑟ ⪅ 㹲 ࣭ ⏕ ᚐ 㹡 㓄 ៖ Ⅼ ᣵ ᣜ Ⓨ ⾲ ᥦ ♧ 㡢 ᥈ ࡋ ぢ ᮏ ᥦ ♧ 㡢 ᥈ ࡋ ぢ ᮏ 㑅 ᢥ 㡢 ᴦ ࡙ ࡃ ࡾ ᣵ ᣜ ࣭ 㡢 ᴦ ࡢ せ ⣲ ࢆ ⪃ ࠼ ࡓ ᣵ ᣜ ࠋ ࣭ ே ࡎ ࡘ ๓ ࡛ 㕥 ࢆ ₇ ዌ ࠋ ࣭ 㕥 ࢭ ࢵ ࢺ $ ࡢ ᥦ ♧ ࠋ ࣭ ྡ ࡉ ࢀ ࡓ ⏕ ᚐ ࡀ ๓ ࡛ 㬆 ࡽ ࡍ ࠋ ࣭ $ ࢭ ࢵ ࢺ ࢆ ࡗ ࡓ ྍ ඣ ࡉ ࢇ ࡢ ぢ ᮏ ₇ ዌ ࢆ ⫈ ࡃ ࠋ ࣭ 㕥 ࢭ ࢵ ࢺ % ࡢ ᥦ ♧ ࣭ ྡ ࡉ ࢀ ࡓ ⏕ ᚐ ࡀ ๓ ࡛ 㬆 ࡽ ࡍ ࠋ ࣭ % ࢭ ࢵ ࢺ ࢆ ࡗ ࡓ ྍ ඣ ࡉ ࢇ ࡢ ぢ ᮏ ₇ ዌ ࢆ ⫈ ࡃ ࠋ ࣭ $ % ࡽ ዲ ࡁ ࡞ ࢭ ࢵ ࢺ ࢆ 㑅 ࢇ ࡛ ே ࡎ ࡘ ๓ ࡛ ₇ ዌ ࠋ ࣭ ࠾ ♩ ᣵ ᣜ ࣭ึ ࡵ ࡣ ᣦ ᑟ ⪅ ࡢ ₇ ዌ ぢ ᮏ ࡣ ぢ ࡏ ࡎ ⏕ ᚐ ࡢ ⮬ ⏤ ࡞ ዌ ἲ ࢆ ᘬ ࡁ ฟ ࡍ ࠋ ࣭ ዌ ⪅ ࡣ 㕥 ࢭ ࢵ ࢺ $ % ࡢ ྛ ≉ ᚩ ࢆ ⏕ ࡋ ࡓ ₇ ዌ ࢆ ⾜ ࠺ ࠋ ࣭⮬ ศ ࡛ 㑅 ࢇ ࡔ 㕥 ࢭ ࢵ ࢺ ࡛ ₇ ዌ ࡍ ࡿ ࠋ 3 研究の結果 まず,活動の様子を生徒の認識発達と関連させて考察 するために,言葉を獲得していない段階の生徒 2 名と, 話し言葉だけでなく書き言葉も獲得している段階の生徒 2 名に分けて,それぞれの段階の生徒の様子を記してみ たい。 3 − 1 言葉を獲得していない段階の生徒 2 名の場合 3 − 1 − 1 Aさん A 組単独授業 1 回目 右手で持った鈴棒を左手の指で弾いて右手に当たる細 かい動きを楽しんだ後,鈴棒は筆者に渡す。次に両手の 平の上に鈴を載せて左右に揺らす。その後も筆者とのや りとりで鈴棒を受け取ったり渡したり投げたりする。再 度,鈴棒を指で弾いている時に偶然横に置いてあった鈴 に当たり音が鳴る。鈴棒が気に入ったのか筆者が手を出 しても渡そうとしない。一度席に戻った後,呼ばれてい ないのに自分から出てくる。再び,両手の平の上で鈴を 左右に揺らして床に当たる音や,鈴棒で鈴の縁を打つ音 を繰り返し鳴らす。連続して鳴らす中で強弱が変化する。 A 組単独授業 2 回目 名前を呼ばれてすぐに出て来る。床においてある鈴を 左右に揺らして笑顔になる。鈴の真上で鈴棒を手の平に 載せて弾いている時に,偶然,鈴棒の柄の部分が鈴の縁 に当たり音が鳴る。床に当たる鈴の音や,鈴棒を手の平 で弾いた時に鈴に当たる音を繰り返す。友だちに「一緒 にしよう」と誘われて,その友だちの真似をして鈴の縁 を打ち始める。 A・B 組合同授業 参観者が多く,声を掛けられても身体を前後に揺する だけでなかなか前へ出てこない。再度誘いかけると前へ 出てきて座り,大きい鈴棒で小さく鳴らし始める。その 後,大きさの違う 5 つの鈴をランダムに打ち,しばら く顔を上げて休憩する。次に大きい鈴を打って,とても 小さい音から少しずつ大きい音に変化させていく。終始, 鈴から目を離さずに集中して丁寧に打つ。最後は出てい た鈴を全て重ね合わせて,下に敷いていたタオルも持ち 上げて指導者に渡して終わる。 3 − 1 − 2 Bさん A 組単独授業 1 回目 名前を呼ばれて四つ這いで出てくる。鈴の外側を両手 の平で左右交互に細かく打って左右に揺らす。左手で持 ち上げて鈴の内側に右手の爪を当てて鳴らす。次に右手 に持ち替えて左手の爪で鈴の内側や底部分を打ち,再び 左手に持ち替えて右手の爪を当てて音を鳴らす。その後, 左手で左耳を押さえたまま,右手で 5 個の鈴のうち中央・ 端・中央と順に打った後,右端の大きい鈴の縁を強く 4 回連打した直後に小さい鈴を打つリズムパターンを数回 繰り返す。 A 組単独授業 2 回目 筆者が鈴を提示した後,すぐに前へ出てきて,左手で 左耳を押さえながら,鈴からは目を離さずに 4 回連打 を数回繰り返す。終始穏やかな表情で,違う鈴棒も受け 取って鈴の縁を打ち笑顔になる。一度自分の席に戻るが, 友だちが鳴らしていると,再び前へ出てきて鈴を鳴らす。 左手で鈴を顔の前に持ち上げて右手で鈴の内側を弾いて 音を確かめる。渡された別の鈴棒でも打ち始める。友だ ちが鳴らしているすぐ横で,床に置いたり持ち上げたり して,5 回連打や 2 回連打などのリズムパターンで鳴ら し続ける。 A・B 組合同授業 筆者が鈴を提示すると,自分から小走りに出てきて柔 らかい表情で鈴棒を受け取り,鈴の縁を軽く打つ。片手 を耳に当てながらもじっと鈴を見て,5 回鳴らす。次に 弾みを付けたり押さえつけたりしながら,4 ~ 7 回連打 後に強く 1 回鳴らすリズム音型を繰り返す。その時偶然, 自分の打っている鈴が横の鈴に当たった音を聴いた後, 満足した顔で横にいた筆者にマレットを渡して席に戻 る。 3 − 2 書き言葉を獲得している段階の生徒 2 名の場合 3 − 2 − 1 Cさん B 組単独授業 鈴 1 個を使った自由演奏では,鈴の外側を強く 1 回 打った直後にマレットを鈴の内側に当てるとじりじりと した音で細かくマレットが振動することを発見する。そ の後,数回同じようにマレットを振動させる。次に筆者 が鈴を 3 個並べて提示した後,期待感いっぱいの顔で 前に出てくる。小さい鈴を打ったときに偶然,横に置い てあった中ぐらいの鈴に当たり 2 つの鈴が共鳴した音 が響き,驚いた様子で口と目を大きく見開く。その音を 再現するために,小さい鈴を隣の中くらいの鈴に当てる 147 特別支援学校における音楽づくり
動きを数回繰り返す。次に,鈴と鈴の間にマレットを入 れて,左右に往復運動させることで両方の鈴の外側を交 互に連打した後,手で鈴を押さえて音を消す。さらに筆 者が鈴を 4 個並べて,順に大きな鈴棒を渡していくと, 驚いた顔で受け取り,ゆっくり鈴を打つ。次に,大きい 鈴の中に小さい鈴を入れて中をのぞき込みながら大きい 鈴の外側を打つと,中の鈴が大きな鈴の内側に当たり共 鳴した音が響く。さらに大きな鈴棒で強く数回打つと, ジーという細かい振動が数回聞こえる。その不思議な音 を聴いて他の生徒も前へ出てきて,鈴の中で細かく音を 立てながら振動している様子をのぞき込む。 A・B 組合同授業 鈴セット B を使って,マレットで 1 個ずつ鈴の 外側 をゆっくりなでるように鳴らしていく。端まで来たら今 度は反対向きに 1 個ずつ順に鳴らして元に戻る。2 巡目 は 1 個目の鈴が 2 個目に当たり,3 個目が 4 個目に当 たるように鳴らすことで,複数の鈴の音が重なって響き 合う。 3 − 2 − 2 Dさん B 組単独授業 前へ出てきた後もしばらく考えて打とうとしない。指 導者に促されて,鈴の外側を細かく打った後,徐々に音 を小さくする。少し間をあけて最後に 1 回強く打った後, 両手を合わせて拝むポーズをする。その後,友だちの真 似をして 中くらいの鈴の中に小さい鈴を入れて外側を打 つと 2 つの鈴が振動して高い音が発生する。次に大き い鈴の中に中くらいの鈴と小さい鈴を入れて 3 つの鈴 を重ねた状態で,鈴の外側を打つ。弱く打っているとき は共鳴しないが,強く連打した後に振動が内側の鈴に伝 わり,ジーと細かい振動が発生する。その音を聴いて他 の生徒も振動して音を発生させている鈴をのぞき込みに 来る。極小の鈴は内側を打つと転がってしまうため,力 を加減して打つ。 A・B 組合同授業 両手で持った鈴棒を左右交互に動かして鈴の内側をと ても速く連打する。鈴セット B でも,両手にマレット を持ち左右交互に少しリズムを変えた連打で打ち続け る。 4 考察 4 − 1 認識発達段階と関連させた音楽づくりの特徴 以上の様子から,認識発達段階と関連させた音楽づく りの特徴を考察してみたい。 言葉を獲得していない段階の生徒 2 名は,楽器の感 触や動きを感覚的に楽しみ,常同運動的な動きをしてい るときに偶然に発生した音を聴いていた。また手の往復 運動と身体の動きを同期させることで演奏する楽しさを 感じていた。回を重ねる毎に鈴に対する抵抗感は薄れ, 鈴を見るとすぐに鳴らし始め,小さい音から大きい音へ 変化させることや自分なりのリズムを繰り返すことで, 音に浸っていた。 話し言葉だけでなく書き言葉も獲得している段階の生 徒 2 名は,音が鳴る仕組みに関心を示し,頭で考えて から鳴らそうとしていた。大きさと音高や音色が異なる 複数の鈴を重ねて打つことや,隣同士の鈴を交互に打つ ことなど,鈴の並べ方や打ち方,あるいは鈴棒の動かし 方や打つ位置を工夫する中で偶然に発見した音やその変 化を追い求めていた。また仏具をイメージしたのか,手 を合わせて拝むポーズもしていた。 4 − 2 本研究でみられた奏法の種類 次に,これまでに見てきた 4 人の演奏の方法について, 奏法の違いで整理してみたい。 ① 鈴の位置 鈴の外側。鈴の内側。鈴の縁。鈴の底。 ② 打つ方法 :手を使って 手で弾く。両手の平で打つ。鈴の内側に爪を当て る。指で弾く。 :マレット・鈴棒を使って 鈴の内側にマレットを当てて振動させる。外側を なでる。鈴同士の外側を当てる。鈴の内側に鈴棒 を入れて左右往復させて連打する。 ③ 鈴の置き方・持ち方 床に置いた状態で打つ。両手で持った鈴を左右に 揺らして床に当てる。 ④ 鈴同士の組み合わせ 隣の鈴に当てる。鈴と鈴の間にマレットを入れて 左右に往復運動させて連打する。鈴を重ねて鈴同士 を共鳴させる。 ⑤ その他 手を合わせて拝む。 さらに,これまでに記した 4 人以外の生徒についても, 様々な演奏方法で楽しんでいたことを紹介しておきた い。 ② 打つ方法 :手を使って 手の平で鈴の口を覆う。人差し指で鈴の外側を弾 く。指で外や内側をなでる。 :マレット・鈴棒を使って 鈴の内側に入れたマレットを鈴と一緒に回す。マ レットの棒部分を縁に当てて鈴の振動を止める。 響いている鈴の中にマレットを入れて振動させ る。縁にマレットを置き,振動させる。右だけ連 打,左手だけ連打,交互,同時打ち。 ③ 鈴の持ち方・置き方 裏返す。膝の上に置く。 4 − 3 楽器の特徴 次に,音楽づくりで鈴を使用する時の特徴について整
理してみたい。 4 − 3 − 1 仏具としてのイメージ 授業計画段階で指導者同士で話している中で,鈴の音 を聴いて身内のお葬式を連想してつらくなる生徒がいる のではないか。またそれを茶化すような生徒が出るので はないかとの懸念が示された。そこで,懸念される生徒 がいる B 組については,楽器として演奏するイメージ を作るために,動画配信サービスを利用して,鈴という 名称とともに,演奏している映像を授業の冒頭で見せた。 授業では,やはり鈴棒で鈴の縁を打った後に,「あん」 と言いながら両手を顔の前で合わせて頭を下げる生徒 や,手を合わせながら「なむなむや」「いぼがとれます ように」と自分の願いを唱えている生徒等,仏具を連想 している生徒はいた。しかしそうした仏具をイメージし た言動は授業の初めだけで,その後は音の探求や演奏方 法の工夫を愉しむことに関心は移っていった。始めに演 奏動画を見せたことが関係しているのかもしれないが, それよりも,楽器としての音の魅力が大きかったことで, 生徒の関心は音の探求にシフトしていったと考えられ る。 4 − 3 − 2 音楽づくりにおける特徴 ① 偶然性について 小さい動きであっても,打てば鳴るという打楽器の魅 力は大きい。部屋中に響き渡る残響が心地よいことから, 言葉を獲得していない段階の生徒が感覚的に楽しめてい たことは,授業計画時から予想していた通りであった。 また初めは鳴らさなかった生徒も,常同運動的な動きで 鈴棒を動かしているときに偶然鈴に当たった音を心地よ いと感じて,音に浸っていた。 この偶然性は,言葉を獲得している生徒にとっても, 奏法を工夫している中で,偶然隣の鈴に当たった時に 2 つの鈴が共鳴し合う音が発生したことや,大小の鈴を重 ねて打ってみたら,中の鈴が共振してじーという間歇的 な音やゴーという低い音が発生する不思議さを感じてい た。偶然に音が発生した瞬間は,座って聴いていた生徒 が思わず立ち上がって,鈴の中をのぞきに来るなど,そ の場の音を皆で共有する一体感を感じていた。 ② 奏法の豊かさ 授業計画の段階では,奏法の違いによる音色の変化や 強弱の変化は付けにくい楽器ではないかと考えていた。 しかし,生徒達は指導者の予想を超える表現力の豊かさ や発想の斬新さを示し,様々な奏法から音の変化を作っ ていた。 本研究対象生徒のうち特に B 組の生徒は,授業の初 めから自由にそして大胆に色々な演奏方法を試してい た。B 組の生徒は全員 3 年生であり,音楽づくりも 3 年間経験してきていることから,音楽の授業で自分の出 す音はどんな音でも認められるとの自信を持っているこ とが推察される。 また,今回の研究では生徒 1 人で鈴を使って音量や 速度や強弱,連打する数やリズムやスタッカートの入れ 方などの変化をつけていた。また,数個の鈴を使って音 をつなげたり重ねたり,打つタイミングや強弱を工夫し ていた。 今後は,友だちと一緒に音をランダムに重ね合わせる ことや,残響をミュートして音量やうねりをコントロー ルすることや,大きく間を取ることなどの音楽の作り方 を工夫していくような活動を考えてみたい。 5 まとめ 以上,特別支援学校における音楽づくりで鈴を使う意 義について考察してきた。 本研究においては,言葉を獲得していない段階の生徒 にとっては感覚的で常同運動的な動きの中で発生させた 音に浸ること,書き言葉を獲得している段階の生徒に とっては,音を発生させる仕組みや,鈴の組み合わせを 探求することで,それぞれが自分の心地良い音を見つけ て,自分の内にある音楽を表現することを楽しんでいた。 また本研究では,偶然発生した音に興味を示して,そ の振動や波紋に身を委ねるとともに,発生源をのぞきに 来るなど,活動をしていない待ち席の生徒との一体感を 作ることができた。 鈴は,その音の特徴である残響の心地よさと合わせて, 2 つ以上の鈴を重ねて振動させたときの響きが興味深 い。偶然に発生した音や,自分が奏法の工夫をする中で 見つけた音やそのつなぎ方や重ね方と合わせて,音の探 求がポイントになる授業である。 今後も,生徒の音への探求や音の組み合わせを工夫で きるような楽器を使った音楽づくりを取り上げて,生徒 の発達的特徴と関連させた研究を継続していきたい。 注 (1) 持ち手のついた鈴は,打楽器奏者宮本妥子と舞台監 督の伊藤隆也によって開発されたものである。また, 麻植所有の数百の鈴の基本的音高測定表が作曲家河 副功により作成されている。
(2) 鈴セット A は,do#4 re#3 re#4 mi3 mi4 fa4 fa#4 sol#2 sol#4 la#4 si3 si4 の内から選んで使用した。 (3) https://youtu.be/5AFp5M5hw1w
Crystal Chakra Meditation with Antique Tibetan Singing Bowls 参考文献 ・ 岡ひろみ(2014)特別支援学校における「音楽づくり」 の実践的意義と可能性-高等部での授業実践を通して 考える.人間発達研究所紀要 No.27,人間発達研究所 ・ 岡ひろみ(2015)特別支援学校における音楽づくり -楽器の特徴と生徒の発達的特徴との関連.音楽教育 実践ジャーナル vol.12no.2 通巻 24 号,日本音楽教育 学会 149 特別支援学校における音楽づくり
・ 岡ひろみ(2016a)幼稚園における「音楽づくり」に 見られる発達的特徴- 3 歳児クラスと 4 歳児クラス での活動分析から.人間発達研究所紀要 No.29,人間 発達研究所 ・ 岡ひろみ(2016b)特別支援学校における打楽器を使っ た音楽づくり―専門家派遣事業文部科学省の採択を受 けて.音楽教育実践ジャーナル vol.14 通巻 27 号, 日本音楽教育学会 ・ 可児麗子・岡ひろみ・林睦(2018)打楽器奏者と音 楽をつくるアウトリーチ活動―特別支援学校での取り 組みを中心に.滋賀大学教育学部附属教育実践総合セ ンター紀要第 26 巻 ・ 岡ひろみ(2018)特別支援学校における音楽づくり. 障害者問題研究 第 46 巻第 3 号,全国障害者問題研 究会 ・ 島崎篤子(1998)音楽づくりで楽しもう 日本書籍 ・ 藤野友紀(2017)発達に学ぶ 全障研出版部 ・ 山口敏夫 藤原良雄(2014)『インタビュー鈴の音風 景(特集「匠」とは何か)』季刊学芸総合誌 環 vol.58