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は じ め に ─本書で学習するために─

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Academic year: 2021

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は じ め に ─本書で学習するために─

本書の目的は大きく二つある.

一つは, 「エントロピー」を“わかった”と思えるようになることである. ものご との理解はひそかにゆっくり深まっていくものであるが,ときどき「わかった!」

と,それまでのもやもやが,一気に解消したと思えるときがある. 「わかった」に も浅い深いがあって,最初の段階では実はまだまだ深くはわかっていないのだが,

それでもこの体験がその後,深くわかっていけるかどうかの分かれ道だろうと思っ ている.不思議なことだが,いったんわかって学習すると,ますますよくわかるよ うになるのだ.その最初の決定的な「わかった!」をどう体験するか ── それは 体験するまで自分で考え続けるしかないのだ.とはいえ,どう考えたらいいのかさ え,最初はなかなかわからない.本書はそのヒントになるように,エントロピーに 関して,筆者があれこれいろいろ考えたことを教科書風にまとめたものである.そ のためオーソドックスな化学熱力学の教科書とは異なる内容も少なからずある.

本書のもう一つの目的は, 「使える」熱力学の基礎を理解し,自信を持って使え るようになってもらうことである.熱力学は自然現象の方向性を理解するためだけ のものではない.熱力学ほど,身近で実際に役に立つ学問はない.しかし,基礎を よく理解していないために使うのを躊

ちゅう

ちょ

したり,機械的に計算して誤った結果を 導いてしまうことが多々あるのではないかと思っている.本書の後半では「エンタ ルピー」と「ギブズエネルギー」という,便利に使うための概念を丁寧に解説し た.熱力学を自由自在に使えるようになるためのとっかかりになることを願ってい る.

さて,すでに,優れた熱力学のテキストはいくつも出版されている.

[1] 原田義也『化学熱力学(修訂版)』裳華房(2002)

[2] 清水 明『熱力学の基礎』東京大学出版会(2007)

[3] 田崎晴明『熱力学−現代的な視点から−』新物理学シリーズ, 培風館(2000)

[4] 小島和夫『やさしい化学熱力学入門 −これから熱力学を学ぶ人のために−』

講談社(2008)

[5] ジョージ・ピメンテル 著,Ò 友彦 訳『化学熱力学 −分子の立場からの理 解−』東京化学同人(1977)

iii

(2)

特に[1]〜[3]のテキストはいずれも論理的に厳密で,教科書として非常に優 れていると思う.しかしレベルが高く,これらのテキストを読んでも,自分がわ かっているのかどうかもわからない状態の人が少なからず存在するのではないだろ うか.そのときによい方法は,具体的にいろいろなことを考えてみることである.

状態を変化させる条件を少し変えたり,ある一部にこだわったりすることで,自分 がわかっているかどうかがわかるだろう.本書は,優れたテキストを読んでも,な かなかわかったという実感が持てない人が,あれこれ考えるときの手助けとなるよ うに執筆したつもりである.本書を参考にして,「わかった!」を体験し,ぜひ読 者自身の熱力学の体系を構築してほしい.

* * *

本書の最も大きな特徴を述べておこう.一般の熱力学では,体積仕事を外界の圧 力(外圧)で定義し,系内部の圧力(内圧)など,内部に立ち入らない.それが熱 力学の重要な特徴の一つだからである.しかし筆者は,エントロピーが増える理由 を理解するためには,系の内部を考えた方がよい場合もあると思っている.そし て,外圧と内圧のする体積仕事の差が,最終的に熱として系内に戻るのだが,それ を認識しておくことは,なぜエントロピーが増えるのかを考える助けになると考え て,あえて議論を試みた.ただしこのようなアプローチは筆者にとって有効だった のであり,オーソドックスな方法ではないし,すべての人にとってわかりやすいわ けではないと思う.ただ,本書に触発されて,いろいろなところにこだわって考え てみて,自分なりにエントロピーをわかっていただければと思う.

また,本文の分量が多くなったので,部分モル量の説明に関しては,出版社の ホームページに載せることとした(https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN 978-4-7853-3516-8.htm) .必要に応じて参考にしていただければと思う.表見返 しには,本書の構成を示したので,全体像を把握するのに使っていただきたい.

本書の原稿は東京大学名誉教授の原田義也先生にご査読いただき,多くのご指摘 とご助言,ご提案をいただいた.元の原稿には,論理展開が冗長でわかりにくかっ たり,筆者の思い込みや,誤解を招く表現などが多くあったが,先生のご助言のお かげで,すっきり明瞭になった.ここに記して感謝する.それでも間違いや不適切 な表現があるかもしれないが,それはもちろん,すべて筆者の責任である.実は,

原田先生の『化学熱力学』(裳華房)は,筆者にとって学生のころからバイブルで

あった.わからない点が出てくると, 『化学熱力学』に戻って,何度も何度もむさ

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はじめに

−本書で学習するために−

(3)

ぼるように読んだものである.おかげで本は書き込みで真っ赤で,しかもボロボロ になっている.本書はある意味で,原田先生の『化学熱力学』を理解するための副 読本といえると思っている.その先生に,本書の原稿をご査読いただく機会を得た ことは望外の喜びであった.

筆者が所属している横浜国立大学グリーン水素研究センターで一緒に勉強会で議 論してきた卒業生のみなさんに感謝する.彼らの素朴な疑問が本質をついているこ とがしばしばあった.

また,古くは 25 年ほど前から行っている月一回の物理化学研究会で,基礎的な 議論をずっと行わせていただいている新井正一さん,簑島建司さん,織地 学さん,

三好康太くん,兼子美奈子さんに感謝する.そしてこれまで研究会に参加して議論 に加わってくださった多くの方々にも感謝する.本書で工夫した内容の大部分は,

その研究会で議論していただいている.そのため本書はこの研究会の成果をまとめ たものでもある.

横浜国立大学には,名誉教授 故 高橋正雄先生,名誉教授 朝倉祝治先生,名誉 教授 太田健一郎先生とつながる,化学熱力学に対する深い造詣が脈々と続いてい る.微力ではあるが,その系譜を少しでも受け継いで,次の世代に渡すことができ れば幸いである.

裳華房編集部の小島敏照氏には,内容構成や表現に関して,多くの貴重なご助 言,ご指摘をいただいた.なにより,かれこれ 5 年間にわたる,氏の的確な叱咤激 励がなければ,本書は完成しなかった.厚く感謝申し上げる.

2019 年 4 月

石原 顕光

はじめに

−本書で学習するために− v

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vi

は じ め

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