は じ め に ─本書で学習するために─
本書の目的は大きく二つある.
一つは, 「エントロピー」を“わかった”と思えるようになることである. ものご との理解はひそかにゆっくり深まっていくものであるが,ときどき「わかった!」
と,それまでのもやもやが,一気に解消したと思えるときがある. 「わかった」に も浅い深いがあって,最初の段階では実はまだまだ深くはわかっていないのだが,
それでもこの体験がその後,深くわかっていけるかどうかの分かれ道だろうと思っ ている.不思議なことだが,いったんわかって学習すると,ますますよくわかるよ うになるのだ.その最初の決定的な「わかった!」をどう体験するか ── それは 体験するまで自分で考え続けるしかないのだ.とはいえ,どう考えたらいいのかさ え,最初はなかなかわからない.本書はそのヒントになるように,エントロピーに 関して,筆者があれこれいろいろ考えたことを教科書風にまとめたものである.そ のためオーソドックスな化学熱力学の教科書とは異なる内容も少なからずある.
本書のもう一つの目的は, 「使える」熱力学の基礎を理解し,自信を持って使え るようになってもらうことである.熱力学は自然現象の方向性を理解するためだけ のものではない.熱力学ほど,身近で実際に役に立つ学問はない.しかし,基礎を よく理解していないために使うのを躊
ちゅう躇
ちょしたり,機械的に計算して誤った結果を 導いてしまうことが多々あるのではないかと思っている.本書の後半では「エンタ ルピー」と「ギブズエネルギー」という,便利に使うための概念を丁寧に解説し た.熱力学を自由自在に使えるようになるためのとっかかりになることを願ってい る.
さて,すでに,優れた熱力学のテキストはいくつも出版されている.
[1] 原田義也『化学熱力学(修訂版)』裳華房(2002)
[2] 清水 明『熱力学の基礎』東京大学出版会(2007)
[3] 田崎晴明『熱力学−現代的な視点から−』新物理学シリーズ, 培風館(2000)
[4] 小島和夫『やさしい化学熱力学入門 −これから熱力学を学ぶ人のために−』
講談社(2008)
[5] ジョージ・ピメンテル 著,Ò 友彦 訳『化学熱力学 −分子の立場からの理 解−』東京化学同人(1977)
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