• 検索結果がありません。

日本内科学会雑誌第105巻第3号

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "日本内科学会雑誌第105巻第3号"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.時間代謝学とは

 脳内には中枢時計が存在するといわれてきた が,現在,その部位は視床下部の視交叉上核と されている.ここには約 1 万個程度の細胞集団 が存在し,種々の転写因子の発現が一定の時間 間隔でくり返されている.一方,肝臓や膵臓,

脂肪組織など末梢組織にも同様の細胞が存在 し,末梢時計が存在するとされている.中枢時 計は本来25時間周期で活動しているが,朝の光 や音,においなどの感覚刺激,摂食や飲水など の食行動の刺激により,中枢時計と末梢時計が 同期し,24時間の日内リズムがセットされると 考えられている.自律神経やホルモンなどの液 性因子もこのような日内リズムに連動して変化 している.それゆえ,同じ物を摂食しても時間 によってその栄養学的な影響は異なり,時間の 概念を考慮した栄養学に関する学問領域を「時 間栄養学」と呼称し,研究が進められている1)

 このような考え方を糖尿病に当てはめると,

同じエネルギー量,同じ栄養バランスの食事を 摂っても,食事の時刻や食べるのに要する時間

(速いか,ゆっくりか)の違いによって血糖変動 は異なる.実際,夕食が遅いと翌朝の朝食前血 糖が高い,早食いすると食後血糖が上昇しやす いといったことは日常臨床でよく経験すること である.これは運動に関しても同様である.し たがって,食事や運動,睡眠など日常生活にお ける活動の時間的な差異が代謝変動に及ぼす影 響を研究する学問領域として,筆者は「時間代 謝学」という用語を提唱した.これはあくまで も筆者の考えた造語であるが,時間の影響を考 慮して血糖改善に有利な食事と運動の方法をア ドバイスすることは患者の理解を得やすく,実 行しやすく,モチベーションのアップにもつな がりやすい.筆者の経験では,かかるアドバイ スはコメディカルスタッフではなく,医師から 話す方がより効果的であり,医師と患者の信頼

聖マリアンナ医科大学代謝・内分泌内科

The 43rd Scientific Meeting:Perspectives of Internal Medicine;Genetic predisposition and related life-style underlying metabolic disorders;

4. Prevention and Therapeutic Treatment;2)Practical and effective way of diet and exercise for treatment of diabetes based on chronometabolic science.

Yasushi Tanaka:Department of Medicine, Metabolism and Endocrinology, St. Marianna University School of Medicine, Japan.

予防と治療を考える

2)‌‌時間代謝学に基づく効率的な‌

食事と運動を考える

田中 逸 Key words 時間代謝学,2 回目の食事の現象,低インスリンダイエット

(2)

関係の構築にも有用と思われ,栄養士が雇用さ れていない医療機関でも簡単に指導できる.そ こで今回は,時間を視点に入れた有利な食事と 運動について,筆者自身が患者や家族に必ずア ドバイスしている 2 点について概説したい.

2.血糖改善の鍵は朝にある

1)朝食前血糖は朝食が遅いほど高くなる  健康人では,朝食の時刻が違っても朝食前血 糖は変わらない.しかし,インスリン基礎分泌 が低下している糖尿病患者では,朝食の時刻が 遅くなるほど朝食前血糖は上昇してくる.カテ コラミンやコルチゾールなど血糖を上昇させる インスリン拮抗ホルモンは前夜 19~20 時頃か ら低下し,夜間から夜中は低値で,明け方4~5 時頃から上昇する日内リズムを形成している.

これに同期してインスリン基礎分泌も深夜は低 く,明け方から上昇する.しかし,インスリン 基礎分泌が低下している糖尿病患者では,朝食 が遅い時間になるほど拮抗ホルモンとの差が開 大してくるため,相対的に拮抗ホルモンの作用 が強くなる.そのため,朝食の時刻が遅くなる ほど朝食前血糖が上昇してくる.朝食前血糖が

高い日は 1 日中の血糖が全体的に高くなりやす いことを考えれば,朝食は可能な範囲で早い時 刻に摂るほど有利である.

2)朝食後血糖は昼食後血糖より高い

 一般的に 1 回目の食事である朝食の食後血糖 より,2 回目の食事となる昼食の食後血糖の方 が低くなる.これは「2回目の食事の現象(second meal phenomenon)」と呼ばれている.図1右に 示すように,646 kcalの朝食摂取後の食後血糖 より,858 kcalの昼食摂取後の食後血糖の方が 低くなっている2).しかし,朝絶食として昼食 をその日の 1 回目の食事として摂った場合の昼 食後血糖は著明に上昇している.かかる「2 回 目の食事の現象」を来たす機序は未解明である が,想定されている機序の 1 つは血中の遊離脂 肪酸(free fatty acid:FFA)濃度の変化である.

血中のFFAのソースは脂肪組織に貯蔵されてい る中性脂肪である.脂肪組織の中性脂肪の分解 はインスリンが抑制的に作用しているが,夜間 から翌朝は少量の基礎分泌しか行われていない ため,中性脂肪の分解は亢進し,深夜から翌朝 の血中FFA濃度は高くなっている(図 1 左).し かし,朝食後の血糖上昇に伴って膵

β

細胞から 急速にインスリンが追加分泌されると,脂肪分 図1 2回目の食事の現象(second meal phenomenon)(文献2より改変)

0.6

0.4

0.2

0.0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 9 8 7 6 5 4

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 FFA(mmol/l)

血糖(mmol/l)

Time(hr) 646 Kcal 858 Kcal Time(hr)

(3)

解が抑制され,血中FFAは急速に低下する.FFA はインスリン作用の妨害因子であるため,FFA が高い朝は血糖が上昇しやすいが,FFAが低下 している昼はインスリン作用が妨害されないた め,昼食後血糖は朝ほど上がらないと考えられ る.しかし,朝絶食とすると,少量のインスリ ン基礎分泌が昼まで持続するため,血中FFAも 昼まで高値が続く.この状態で昼食を摂ると,

FFAによるインスリン作用妨害により昼食後血 糖が高くなる.以上をまとめると,1 回目の食 後のインスリン追加分泌により脂肪分解が抑制 され,2回目の食事の際にはFFAが低下している ことが「2 回目の食事の現象」を起こすという 考え方である.

3)朝食後血糖を改善するには

 図 2は海外で検討された食物繊維量を推奨量 から2倍に増量すると,1日の血糖変動がさらに 改善するか否かを検討した結果である3).我が 国でも食物繊維量は1日20~25 g以上が推奨さ れている.24 gの摂取量に比べて,約2倍の50 g に増量した場合,エネルギー量と栄養バランス が同じであっても,図 2 左の血糖変動は 1 日を 通して明らかに低下し,図 2 右のインスリンも

低下しており,インスリン分泌が節約されてい ることがわかる.そして,図2左を見ても「2回 目の食事の現象」が認められる.したがって,

1 日を通して血糖を改善するには,最も上昇し ている朝食後血糖をまず低下させることがポイ ントになる.

 朝食後血糖を改善する方法は 2 つある.第一 は,朝食時にこそ食物繊維を十分に摂ることで ある.我が国では,1日に350 g以上の野菜を摂 ることが推奨されている.しかし,糖尿病患者 に問診すると,「朝は時間的な余裕がなく,野菜 はほとんど摂れない,昼食時に少し,その分夕 食時には意識して多く摂るように心がけてい る」と答える場合が多い.2 型糖尿病患者のイ ンスリン追加分泌は血糖上昇より遅延するのが 特徴である.75 gブドウ糖負荷試験では,正常 耐糖能者はブドウ糖負荷後のインスリンピーク が 30~60 分にくるが,糖尿病者では 120 分の 時点でピークとなり,追加分泌が明らかに遅延 している4).したがって,食後血糖を改善する には,血糖を緩徐に上昇させてインスリン分泌 とタイミングを接近させることが大切である.

そのためには,食物繊維を十分に摂取する必要 がある.食物繊維は食塊の胃から十二指腸への 図2 食物繊維量増加の代謝効果(文献3より改変)

200

150

100

血糖(mg/dl) インスリン(μu/ml)

7AM 0PM 5PM 9PM 7AM 7AM 0PM 5PM 9PM 7AM 80

40

0

Time Time

米国糖尿病学会推奨食(24 g)

高繊維食(50 g)

米国糖尿病学会推奨食

高繊維食

(4)

排出を遅らせ,さらに,小腸では消化酵素によ る消化・吸収も遅らせる.したがって,朝食時 にこそ食物繊維を豊富に含む野菜や海藻,キノ コ類を十分摂取することが重要である.第二 は,食後 30~60 分に運動することである.骨 格筋細胞にはインスリン依存性の糖取り込みに 加えて,運動依存性の糖取り込み作用があるた め,運動により血糖を低下させることができ る.逆に朝食前に歩行やジョギングを行うと,

SU(sulfonylurea)薬や持効型インスリンを使用 している患者では低血糖を起こす可能性があ り,運動による空腹感の亢進から朝食を多めに 摂ってしまう可能性もある.図 3は食事療法単 独または経口薬を使用中の 2 型糖尿病患者を対 象に,1)1 日中座位,2)毎食後 15 分間のみ 3 Mets程度の歩行や立ち仕事,3)朝食後のみ 6 Mets程度で 45 分間の自転車エルゴメーターで ペダル運動,以上のクロスオーバー試験を行っ た結果である5).連続グルコースモニタリング 装置を用いて毎食後 3.5 時間,合計 10.5 時間の 血糖総和,および毎食前,90 分,150 分のイン スリン値の総和を比較すると,朝食後にのみ自 転車漕ぎをした場合が最も血糖総和もインスリ

ン総和も低値であった.

3.早食いは食後高血糖と肥満を招く  平成 21 年国民健康・栄養調査では,1 回の食 事にかける時間と体格の関係について検討さ れ,肥満者ほど早食いしていると回答した人の 割合が高かった.図 4は久山町研究における同 様の検討結果である6).対象者は正常耐糖能,

耐糖能異常,糖尿病型の 3 集団に分類されてい るが,いずれの集団でも早食いする群ほどBMI が高く,食物繊維量が少ないことがわかる.す なわち,肥満者では低繊維量の食事を早食いし ている,逆に言えば,低繊維量の食事だから早 食いできるとも考えられる.前述したが,2 型 糖尿病患者は食後のインスリン追加分泌が遅延 しており,これが食後血糖上昇の原因になって いる.図 5に示すように,早食いすると食後の 血糖上昇とインスリン上昇のタイミングがさら にずれるため,食後血糖がより高くなる.これ に対応すべく,膵

β

細胞からは遷延性にインス リンが過剰分泌される結果,血糖は遅れて元の 食前レベルに戻る.ところで,インスリンは脂 図3 朝食後の運動の効果(文献5より改変)

Control:日中座位

ADL:毎食後15分散歩,家事,庭仕事など(~3 METs)

Exercise:朝食後45分自転車エルゴメーター(~6 METs)

3食の食前,90分後,150分後のインスリン値総和

* 3食の食後3.5時間のCGM値総和

Postprandial glucose iAUC (mmol/l/10.5h) Plasma insulin iAUC (mmol/l/11h)P=0.06

Control ADL Exercise 600

500 400 300 200 100 0

*†

Control ADL Exercise 350

300 250 200 150 100 50 0

(5)

肪細胞に作用して中性脂肪の合成促進と分解抑 制に作用している.それゆえ,早食いでインス リンが過剰分泌されると,過剰なインスリンは 脂肪組織にも過剰に作用して中性脂肪の合成を

亢進させて体脂肪を増加させる.したがって,

肥満を呈する糖尿病患者には食事をゆっくり摂 ることが食後高血糖改善+肥満解消にもつなが ることをアドバイスする必要がある.

おわりに

 時間代謝学に基づく有利な食事と運動につい て概説したが,この他にも夕食の時間やお菓 子・フルーツを摂る時間についてもアドバイス すべき点がある.初診患者に対して日常の食事 や運動に関する問診を行う際には,時間的な視 点を踏まえた問題点の整理を行うことが個別的 なアドバイスを考えるうえでヒントになること を強調して終わりたい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし

図4 肥満者ほど低繊維食を早食いしている傾向(文献6より改変)

20 22 24 26

S M RF VF

BMI(kg/m2

P<0.001

5 6 7 8

S M RF VF

食物繊維(g/1,000 kcal)

P<0.01

S:早いM:普通 RF:やや早い VF:大変早い  :糖尿病型群  :耐糖能異常群  :正常耐糖能群

図5 食事が速いとインスリンは遷延性に過剰分泌 1.低繊維食を早食い ⇒血糖が素早く上昇 2.インスリンの追加分泌が追いつかない 3.普段以上にインスリンが遅れて過剰に分泌 4.普段以上に食後血糖が上昇,遅れて元に戻る 早食い時の血糖

(点線)

早食い時のインスリン

(点線)

ゆっくり食事を 摂ったときの 血糖(実線)

ゆっくり食事を 摂ったときの インスリン(実線)

(6)

文 献

1) 田中 逸:時間栄養学を応用した糖尿病の食事療法.日内会誌 102 : 931―937, 2013.

2) Jovanovic A, et al : The second-meal phenomenon is associated with enhanced muscle glycogen storage in humans. Clin Sci(Lond)117 : 119―127, 2009.

3) Chandalia M, et al : Beneficial effect of high dietary fiber intake in patients with type 2 diabetes mellitus. N Engl J Med 342 : 1392―1398, 2000.

4) Tanaka Y, et al : Usefulness of revised fasting plasma glucose criterion and characteristics of the insulin response to an oral glucose load in newly diagnosed Japanese diabetic subjects. Diabetes Care 21 : 1133―1137, 1998.

5) van Dijk JW, et al : Effect of moderate-intensity exercise versus activities of daily living on 24-hour blood glucose homeostasis in male patients with type 2 diabetes. Diabetes Care 36 : 3448―3453, 2013.

6) Ohkuma T, et al : Impact of eating rate on obesity and cardiovascular risk factors according to glucose tolerance status : the Fukuoka Diabetes Registry and the Hisayama Study. Diabetologia 56 : 70―77, 2013.

 

参照

関連したドキュメント

 CTD-ILDの臨床経過,治療反応性や予後は極 めて多様である.無治療でも長期に亘って進行 しない慢性から,抗MDA5(melanoma differen- tiation-associated gene 5) 抗 体( か

4) American Diabetes Association : Diabetes Care 43(Suppl. 1):

Methods: Organ-specific IR in the liver (hepatic glucose production (HGP)6 fasting plasma insulin (FPI) and suppression of HGP by insulin [%HGP]), skeletal muscle

10) Takaya Y, et al : Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circ J 78 :

38) Comi G, et al : European/Canadian multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study of the effects of glatiramer acetate on magnetic resonance imaging-measured

雑誌名 金沢大学日本史学研究室紀要: Bulletin of the Department of Japanese History Faculty of Letters Kanazawa University.

健康人の基本的条件として,快食,快眠ならび に快便の三原則が必須と言われている.しかし

 我が国における肝硬変の原因としては,C型 やB型といった肝炎ウイルスによるものが最も 多い(図