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日蓮の思想、形成の再検討
一 日 蓮 的 な 法 華 経 世 界 の 確 立 期 に 焦 点 を 当 て て 一
教 科 ・ 領 域 教 育 専 攻 社会系コース
田 村 幸 一
はじめに
本研究の目的は、中世鎌倉時代における日蓮 の思想形成を再検討することである。再検討と は、先行研究を基にしながら従来の日蓮研究の 通説を見直し、日蓮の思想形成を考え産すこと である。特に、佐渡流罪期に焦点を当てて、天 台法華経を継承しながら独自の法華経解釈によ って、日蓮的な法華経世界を構築していく思想 形成過程を追いながら、日蓮の法華信仰の確立 期について考察する。ここでいう法華信仰の確 立期とは、信仰の教義、信仰の行、信仰の対象 の三つをもってその確立期とする。
第一章 日蓮的な法華経世界の萌芽
第一節では、日蓮の生誕から法華経選択宣言 までの日蓮の思想、形成過程について考察した。
日蓮は、十二歳の時に清澄寺へ入寺、十六歳の 時に出家、さらに出家後、鎌倉・京畿へ修学の 旅に出る。その修学を通して諸宗を通暁してい くなかで、法華経を宗教的実践の中核に置いた のである。つまり、天台智韻から継承した天台 法華を日蓮は選択したのであり、法華経選択宣 言をおこなったことを明らかにした。
第二節では、文永八年の法難から佐渡へ流罪 される前までの日蓮の思想形成を考察した。法 華経選択宣言後、日蓮は他宗、とりわけこの時 期には念仏信仰を批判し、法華信仰の勧奨を行 ったことで、約十年間に三度の法難と二度の流 罪を経験した。特に、文永八年の法難では、命
指 導 教 員 大 石 雅 章
にも及ぶ経験をしたことで、法華経の行者とし ての自覚を深め、転重軽受法門としづ法理を、
日蓮の精神世界の一部に位置付けたことが明ら かになった。また、日蓮教団外の人々からの批 判であると同時に、日蓮の弟子等にとっても重 要な疑問であった「受難の正当化Jと「唱題の 理論化Jというこつの課題を抱えて佐渡へ向か ったことを確認した。
第二章 日蓮的な法華経世界の深化 一受難の正当化『開目抄』の一考察一
第一節では、流罪地である佐渡での生活の様 子について考察した。佐渡では日蓮を敵視する 念仏者が多く、また過酷な冬国の環境につけ加 え、食料の調達もままならない生活であり、日 蓮にとって極めて劣悪な環境で、あった。しかし、
そのような環境の中で、外に向かつての攻撃的 な生き方を転じ、『法華経』の教えに照らし合わ せながら、自らの生き方を省みるようになった
ことを明らかにした。
第二節から第四節にわたる『開目抄』では、
佐渡流罪前における日蓮の第一の課題であった
「受難の正当化」について検討した。第二節で は、『法華経』や諸経と日蓮の迫害の体験を照ら し合わせながら、日蓮は法華経の行者であるか 否かという「法華経の行者Jとしての検証をし たことを明らかにした。
第三節では、「法華経の行者jの検証に基づい て、罪業と受難(迫害)の関係性について考察
- 270 - した。『関目抄』の中で、日蓮は過去世における 法華経誹誇の罪を白覚するようになり、その罪 業の報いとして迫害を受けたと解釈した。つま り、「過去の詩法罪→法華経勧奨による受難→滅 罪→得脱(成仏)Jという日蓮独自の法華経解釈 によって、「受難の正当化Jが成立したことを明
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こO第四節では、『開目抄』の結論部分である「三 大誓願」について考察した。「我日本の柱となら む、我日本の眼目とならむ、我日本の大船とな らむ」とし、う遺文から、日蓮は日本の精神世界 を支える「柱Jとなり、また、仏法の正邪を見 抜く「眼目」となり、さらに、生死の大海に溺 れ、沈没しようとする人々を解脱の岸に運び救 済する「大船」となるという三つの誓願を立て たことから、日蓮の日本及び日本人に対する宗 教的使命について明らかにした。
第三章 日蓮的な法華経世界の確立 一唱題の理論化『観心本尊抄』の一考察一
第一節では、『観心本尊抄』の概要について 説明した。『観心本尊抄』では、佐渡流罪前にお ける日蓮の第二の課題であった「唱題の理論化J について検討した。
第二節では、「唱題の理論化」について、信仰 の行と場に着目して考察した。信仰の行として、
日蓮は「受持即観心」としづ教義を独自に創り 出した。受持とは、「題目の受持」であり、「南 無妙法蓮華経」という題目を唱える行為のこと である。「観心」とは、自己の心を観察して、自 己の生命に具わっている世界を見ることである。
つまり、「受持即観心」とは、「南無妙法蓮華経」
という題目を唱えることによって、自身の心の 中を観察しながら、人間の心に具わる仏の生命 を現していくことである。さらに、日蓮は『法 華経』寿量品に説かれる
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室長及フという法理を明らかにした。この法理は、過去世・現在世・
未来世の三世に渡って仏の生命は永遠であるこ とを説いた法理である この法理を説くことに よって、題目を唱えることで、これまで釈尊が 積んできた修行とその功徳をすべて受けること
ができるという独自の『法華経』の解釈が生ま れたことを確認した。また、その題目を唱える 場こそが、信仰の場であることを明らかにした。
第三節では、信仰の対象である「文字マンダ ラと日蓮的な法華経世界について比較・検討し た。佐渡流罪前後の二つの文字マンダラを史料 と実際の写真に基づいて比較したことで、日蓮 の法華経解釈における思想形成の大きな変化を 明らかにすることができた。つまりそれは、佐 渡流罪期において日蓮が法華経解釈の試行錯誤 の末に、天台法華経から日蓮的な法華経世界を 確立しようとした証左であると考える。そして、
第二章で考察した「受難の正当化」、第三章で検 討・比較した「唱題の理論化Jと「文字マンダ ラの図顕jをもって、日蓮的な法華経世界が確 立したことを解明した。
おわりに
本研究では、日蓮の思想形成の再検討として、
佐渡流罪期に焦点を当てながら、天台法華経か ら日蓮独自の法華経世界の思想形成の変遷を明 らかにすることができた。また、「開目抄」と「観 心本尊抄」の考察によって、日蓮的な法華経世 界の確立期を明確にすることができた。
しかし、本研究で日蓮的な法華経世界の全貌 を明らかにしたというには、まだまだ不十分で ある。今後は、佐渡流罪前、そして佐渡流罪後 の身延期についてのさらなる考察をおこない、
日蓮の生涯と鎌倉幕府の動きを同時並行的に追 いながら、日蓮的な法華経世界の全貌を解明し て参りたい。