研究ノート
フェルレープニスの機能
︵ 一︶
ードイッ民法第一二九七条乃至第一三〇二条の研究11
佐 藤 良 雄
一︑は し が き
ドイッ民法一二九七条ないし一三〇二条はフェルレープュス︷va}呂n死について定めている︒フェルレー
プェスはわが国ではかっては﹁婚姻予約﹂と訳出されたことがあるが︑近時は通常﹁婚約﹂と訳されている︒わ
㈲が国の﹁婚約﹂なる概念がいかなる男女関係を対象として用いられるものであるかもかなり問題であるが︑フェ
ルレープュスを﹁婚約﹂と訳出することの適否も一層問題である︒わが国においては︑判例はこの種の婚姻外の
男女関係を主として﹁婚姻予約﹂という概念で呼んできたのであるが︑学説はこれを不満とし︑婚姻外の男女関
係を﹁婚約﹂と﹁内縁﹂の二つの類型に区別してとらえるのが通例である︒従って︑フェルレープェスを﹁婚約﹂
と訳出することにより︑フェルレープェスは婚約的な男女関係を専ら指示対象とし︑内縁ないしは事実婚の如き
フェルレープュスの機能 ︵一︶
‑125一
男女関係は対象としない概念であるかの如き印象を与えることになる︒他方︑事実婚やいわゆる内縁はドイッで
は発生しえないという考え方もあり︑また︑ドイッの婚姻外男女関係について︑従来わが国でなされてきた紹介
は主としてフェルレープェスに関するものに限られてきたために︑ドイツにはわが国のいわゆる﹁婚約﹂に相当
するものは存在し︑法律問題となっているが︑事実婚や内縁に相当するものは存在せず︑あるいは法律問題とな
っていないという通念が支配してきたように思われる︒
しかしながら︑ドイツにおいてもわが国の事実婚や内縁に相当する男女関係が従来からかなり存在し︑特に第
二次大戦後かなりの増加を示し︑法律問題ともなり︑あるいは社会間題ともなってきたこと︑それらの関係はコ
ンクビナート ︵内ook呂呂t︶とかオンケル・エーエ ︵○nkel‑Er︶あるいはレンテン・コンクビナート ︷}gn‑
'ak呂rrnQt︶などとよばれていることはすでに別稿で紹介した通りであか︒しかも︑そればかりでなく︑フ
ェルレープニスという概念が実はいわゆる﹁婚約﹂的な男女関係のみを対象としてきたのではなく︑同時に事実
婚やいわゆる内縁に相当する男女関係をも指示対象としてきたように思われる︒後述の如く同法一三〇〇条は明
らかに当事者間の性的関係の存在を予想しているのであるが︑そればかりでなく︑特に明文上そのような内容を
含んでいない他の条文も事実婚や内縁の如き男女関係にも適用され機能してきたと思われるのである︒これまで
わが国において︑フエルレープニスについて右の如き一種の誤解がなされてきたのは︑その検財・紹介が制定法
とその解釈理論の次元に留まり︑判例の検財・紹介にまで及ぶことが少なかったことに由来するのではなかろう
か・従って︑本稿は主としてフェルレープュスに関する判例についてその事実関係を検討するこによって︑右の
概念の機能範囲を推し測ることを課題としたい︒
‑126‑
ところで︑右のように考えてくると︑フェルレープニスはわが国における﹁婚姻予約﹂とかなり類似した概念
であるとも言えよう︒従って︑その意味では︑フェルレープュスに関する規定とその学説及び判例による解釈理
論もわが国の婚姻予約論にとってかなり参考になろう︒従って︑本稿はフェルレープュスの制度と解釈の沿革
と︑特に判例における最近の発展をも併せて紹介してゆくことにしたい︒なお︑しかしながら︑フェルレープェ
スをただちに﹁婚姻予約﹂と同一の概念であるとし︑そのように訳出することはさし控えたい︒けだし︑両概念
はその機能範囲において︑全く同一であるとは断言しえず︑むしろその異同を明らかにすることこそが本稿の課
題なのだからである︒
さて︑通常こんにちの西ドイツのテキストにおいては︑フェルレープニスに関しては第一にその法的性質が論
じられ︑さらに一般的な効果︑成立︑解消及び贈り物の返還や時効などのその他の法的効果に区別して論じられ
ている︒以下判例を紹介・検討してゆくに際しても︑この順序に従ってゆくこととしよう︒本稿はさしあたり右
のうち︑法的性質︵二︶と︑一般的効果︵三︶を扱うものである︒
‑127‑
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二︑法 的 性 質
︵一︶ フェルレープニスの法的性質については学説が分れている︒フェルレープニスを契約とみる契約説と︑事
実的な過程とみる事実説が対立しており︑古くから論議されてきた︒事実説のなかにも種々の説があり︑また︑
契約説のなかにも償権法的契約とみる立場と︑親族法的な契約とみる立場などがある︒通説は契約説であると言
われており︑判例もこの立場に立ってきた︒
フェルレーーープニスの法的性質に関して通常先例とされている判例としてはライヒ裁判所判決が四つある︒すな
わち︑一九〇四年一〇月二四日︑一九〇五年九月二一日︑一九一二年九月一九日︑一九二〇年一月八日の各ライ
ヒ裁判所判決である︒このうちとくに先例として重視されているのは︑一九〇五年判決と︑一九一二年判決であ
る︒
一九〇四年一〇月二四日ライヒ裁判所判決ではドイツ民法施行︵一九〇〇年一月一日︶以前にプロイセン一般
国法の下で︑同法の規定するラェルレープニスの成立方式︵裁判所の面前で締結するか︑公正証書によってな
す︶を欠き効力を有さないフェルレープニスが︑ドイツ民法施行前に解除されたとき︑民法施行後に︵民法はそ
のような成立方式を定めていないので︶損害賠償請求権を発生させるか︑またそのフェルレープニスが民法施行
後も継続され︑施行後に解除されたとき︑フェルレープニスは有効となりそれ故損害賠償請求権が生ずるかなど
一129一
の問題が争われた︒判決は前の問題は否定し︑後の問題を肯定したのであるが︑そのさい﹁フェルレープニス契
約﹂︵Verlobnisveitra吽︶なる用語を用いてその内容を論じているがために︑契約説に関する一つの先例とみら
れているようである︒しかし契約的性質をとくに正面から明言したわけではなく︑先例としてもさして重視され
ていない︒
一九〇五年九月二一日ライヒ裁判所判決では︑未成年者がフェルレープニスをなすには法定代理人の同意を要
するかが間題とされ︑判決はフェルレープニスは契約関係であり︑その成立については民法総則が適用され︑し
たがって未成年者はそのフェルレープニスに対して法定代理人の同意を要するとした︒
一九一二年九月一九日ライヒ裁判所判決では︑当事者が条件又は期限をつけて婚姻を約したとき︑当事者はフ
ェルレープニスの破棄責任を負うか否かが問題とされた︒これに対する判決の見解は︑端的に言えば次のような
ものである︒すなわち︑フェルレlプニス契約にさいして︑父の同意がなければ婚姻を成立させないという条件
をつけたり︑期限を付したりすることは可能である︒しかし︑フェルレープニス契約の内容は︑この契約即ちフ
ェルローブンクによって家族法的な関係即ちブラウトシュタントを成立させることであり︑右の如き条件や期限
の有無にかかわらず︑ブラウトシュタントは成立する︒したがって一方的にフェルレープニスを解除すれば損害
賠償請求権が発生するが︑父の同意という条件の不成就は解除の重大事由になりうる︒右判旨のなかで︑フェル
レープニスを契約と呼び︑このフェルレープニスについては︑フェルローブンクという契約と︑この契約によっ
て成立する家族法的関係即ちブラウトシュタントを区別すべきであるとし︑この契約の内容をブラウトシュタン
トの成立であるとした点が︑先例として重視されているのである︒
‑130‑
一九二〇年一月八日ライヒ裁判所判決においては︑当事者たる女が︑相手方にフェルレープニス以前にすでに
同衾を許した時でも一三○○条による慰籍料請求ができるか︑フェルレープニスの解消は契約によることを要す
るか︑未成年の当事者は︑フェルレープニスの解除について法定代理人の同意を要するかなどの論点に関して判
示されている︒フェルレープニスの法的性質が問題となったのは︑第二の解除は契約によることを要するかとい
う点についてであった︒
控訴審判決はY男が他人の面前でX女に対し盗みをしたという不当な非難をしたので︑X女に解除の重大な理
由があるとみとめたのであるが︑これに対してY男は︑フェルローブンクは契約であり︑それゆえ契約によって
のみ解消しうるものであると主張した︒判旨はこのY男の主張を否定する︒すなわち︑たしかにブェルローブン
クは契約である︒しかしこれによって婚姻の成立に対する法的義務は生じないから︑一方的な解除によって解消
されることができる︒重大な理由がなくても同様であり︑その場合損害賠償義務が発生するにすぎない︒したが
って上告理由はみとめられないというものであった︒契約的性質そのものについては争いはなかったわけである
が︑右判旨のうちで従来の判例の立場が確認されたところに先例としての意味があるのであろう︒
以上みてきたように︑先例においてフェルレープニスの法的性質が問題とされた状況は種々多様である︒一九
〇四年判決の如くたまたま判文中に﹁フェルレープニス契約﹂なる文言がみえるにすぎないものもあり︑そうで
なくて一定の論点のなかで前提問題として論及される場合も︑法定代理人の同意の要否︵一九〇五年判決︶︑条
件と破棄責任の関係︵一九一二年判決︶︑解除に契約を要するか︵一九二〇年判決︶などの各々異る問題に関連
している︒しかも︑そのいずれにおいても︑上告理由は必ずしも契約的性質に反対しているのではないことに注
−一一131‑
意すべきであろう︒一九〇五年判決はむしろ上告人が契約なるが故に同意を要することを主張しているのであ
り︑一九一二年判決においてもフェルレープニスの契約的性質そのものについて上告人は反対しているのではな
く︑その契約の内容について問題が生じているにすぎない︒一九二〇年判決にいたっては︑上告人は契約的性質
をむしろ解除についてまでおし及ぼそうとするのに対して︑判決が反対しているものである︒
なお︑契約説と事実説の対立の起源ないし由来については︑フェルレープニスという言葉ないし概念の二つの
異る意味から説明されることがある︒すなわち︑通常フェルレープニスは二つの要素に分析されている︒第一
は︑将来婚姻しようという男女間の合意であり︑フェルローブンク︵V10yn叫︶と呼ばれている︒第二はその
合意によって男女間に作り出された状態であり︑ブラウトシュタント︵即自tJt呂d︶と呼ばれている︒そして︑
フェルレーブニスのうちのフェルローー・ブンクを重視し︑これに焦点を合せるのが契約説であり︑ブラウトシュタ
ントを重視するのが事実説だというのである︒たしかにそのような説明も可能であり︑ある程度︑とくに学説に
関しては正しいのであろうが︑判例に関するかぎり法的性質に関する論及は︑以上にみてきたようにそのような
演繹的な経過を起源として現れたのではなかったようである︒
さて︑以上四つの事件が全て当事者の男女関係をフェルレープニスと指称していることは右にみてきた通りで
あるが︑その全てにおいて性的な関係が存在しており︑単なる結婚の約束をしただけの事例ではない︒一九〇四
年判決においては︑始期は明かでないが︑一九○○年に至っても性的関係が存在したか否かが一つの論点となっ
ており︑一九○五年判決においては︑一九〇〇年九月から度々同衾し︑X女は一九〇一年七月一目に男児すら出
生している︒さらに一九一二年判決においては︑控訴審判決において当事者間に性的関係が生じていたことが認
‑132 −−‑
められたと述べられているし︑X女が一二九八条と共に一三○○条にもとずく慰藉料請求を行っていることから
もそのことは明かである︒一九二〇年判決においてもフェルレープニスの期間中に同衾を生じたことがみとめら
れている︒もっともいずれにおいても同棲の存否︑その期間は明かでなく︑また儀礼的行為の有無も明かでない︒
その限りでは︑これらの事件の事案をいわゆる事実婚ないし内縁と考えることはためらわれる︒しかもいずれの
事件も当事者が関係当初において未成年老であり︑一九二〇年判決の場合は法定代理人の同意をえているが︑そ
の他はいずれも同意をえていないような事案である︒しかし或程度将来の婚姻を予定しているという意味ではい
わゆる非婚的男女関係ともいえないであろう︒
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一一一一‑134‑一一
︵二︶ 右の諸判決の審級の経過及びそのほかの論点を参考のため次に紹介しておく︒
︵1︶一九〇四年一〇月二四日ライヒ裁判所判決
原告X女がY男に対して︑一二九八条及び一三○○条にもとずき損害賠償を求めた事件である︒下級審の経過
は不明であるが︑控訴審ではX女は敗訴し︑X女から上告が行なわれた事件である︒一九〇〇年一月一日︵ドイ
‑135一一
ツ民法施行︶以前に︑プロイセン一般国法の施行地域で︑しばしば被告Y男は原告X女に対して結婚の約束をお
こなった︒判決によれば同一般国法の定めるフェルレープニスの形式が充足されていなかったので︑当事者間の
フェルレープニスは有効でなかった︒したがって︑Y男の解除が一九〇〇年以前に生じたとしたら︑X女の損害
賠償請求権は発生しない︒そこで民法施行後も当事者の関係が継続したかどうかが問題となった︒もし継統した
とすれば新法にもとずき請求権が発生するであるが︑一九〇〇年以降も当事者の関係が継続したという事実はみ
とめられず︑結局X女の上告は斥けられた︒
︵2︶一九〇五年九月二一日ライヒ裁判所判決
原告X女と被告Y男は一九〇〇年九月から度々同衾しX女は一九〇一年七月一日に男児を出産した︒しかし間
もなくY男がこの関係を解消し︑X女は︑同衾当時フェルレープニスが存在し︑かつX女はその時まで無辱であ
ったと主張し︑一三〇〇条にもとずいて損害賠償︵慰藉料であろう︶ 一五〇〇〇マルクを求めた︒第一審ドレス
デン地方裁判所は一三〇〇条に因リY男に一〇〇〇マルクの支払義務あることを認めた︒これに対してX女はY
男が少くとも七五〇〇マルク支払うべきだとして控訴し︑Y男も訴の棄却を求めて控訴した︒控訴審の結果は詳
かにしないが︑X女に有利な判示を行ったものと思われる︒Y男が一審以来主張してきたのは︑同音当時X女は
未成年であり︑フェルローブンクに対する父母の同意が欠けているため効力がないという点であった︒控訴審は
これに対して︑同衾当時未成年であり︑法定代理人の同意を欠いたプェルレープニスに効力がなかったとして
も︑成年に達してからフェルレープニスに対する確認が行われたので︑さかのぼって有効となったとしたのであ
る︒これに対するY男の上告理由は︑同衾のさい結婚の約束がなかったこと︑及びX女の宣誓の形式に対する異
‑136一一−
議などであり︑すべて斥けられた︒ところで︑法定代理人の同意なき故に効力のなかったフェルレープニスが成
年到達後の確認によって有効となったとの控訴審の判示に対して︑Y男がどのような上告をなしたのかは明かで
ない︒しかし︑上告審は右の控訴審の判示を正当であると述べ︑吏に一層理論的に右論旨をふえんしている︒す
なわち︑フェルレlプニスによって何か理解さるべきか︑又その成立にとって何か必要かについては法律上何ら
規定されていない︒フェルレープニスは行為即ちフェルローブンクとしては相互的な婚姻約束であるが︑その法
的性質については見解が分れている︒二︑三の論者によれば︑フェルレープニスは事実上与えられた結婚の約束
とみなされている︒この見解によれば契約の成立に関する一般的規定︑又同様に行為能力に関する一般規定は︑
フェルレープニスには適用されない︒これに対してフェルロlブンクのうちに︑契約を見出す考え方が有力であ
る︒しかし細部についてはこの見解も必ずしも一致していない︒たとえば︑ブェルレープニスは家族法的な契約
であり︑行為能力に関する民法一〇四条及び一〇五条は適用されるが︑制限行為能力に関する一〇七条以下は適
用されないという考え方もあるが︑この見解はさほど支持されていない︒けだしフェルロlブンクはたしかに家
族法的契約と名づけることも出来ようが︑損害賠償請求権を発生させ︑或は贈物の返還請求権を成立させるなど
財産法的な意味ももっているからである︒要するにフェルレープニスの成立については民法総則が適用され︑未
成年者はそのフェルレープニスに対して一〇七条により法定代理人の同意を要する︒そしてこれに対しては一〇
八条も適用される結果︑本件の如く成年に達したのちに当事者によって承認されたときは一八四条第一項により
田さかのぼって効力を生ずるのである︒したがって︑控訴審判決は正当であり︑上告は理由がないというものであ
る︒
‑137‑−−
卯 一九一二年九月一九日ライヒ裁判所判決
本件はX女が一二九八条と一三〇〇条に基いてY男に対し損害賠償を求めたものであり︑Y男は︑父親の同意
を婚姻成立の条件とし︑その同意はえられなかったので︑損害賠償の義務がないと主張した︒第一審はX女の請
求をみとめた︵詳細不明︶が︑控訴審はX女の請求を斥けた︒X女の上告に基き︑控訴審判決は廃棄され︑事件
は差戻された︒右判旨はX女の上告理由をみとめ︑かつそれをふえんしたものであるが︑判旨は︑とくにフェル
ローブンクの内容が︑婚姻成立を目的としかつそれを義務づけるものでなく︑ブラウトシュタントの成立である
ことを詳しく論じている︒控訴審判決はフェルレlプニスが条件づきであり︑完全でなかったとしてその効力を
みとめなかったもののようである︒しかし︑本上告審判決は︑条件が付せられていても︑フェルレープニスとし
ては有効であり︑父親の同意の決定的な拒絶があれば解除の重大な理由となるが︑控訴審はこの点を確認してい
ないとして差戻したのである︒
圃 一九二〇年一月八日ライヒ裁判所判決
本件は︑未成年のX女が︑法定代理人の同意をえてY男とフェルローベンし︑フェルレープニスの期間中に男
に同衾を許した︒しかし前記のような事情で盗みの不当な非難をうけたため重大な事由を与えられ︑X女の側か
ら解除をなし︑且つ一二九九条と一三○○条にもとずいて五〇〇〇マルクの支払をY男に対して求めたものであ
る︒第一審はX女の請求をみとめ︑控訴審もY男の控訴を棄却し︑本上告審も男の上告を棄却した︒判決はまず
性的関係はすでにフェルレープニス以前から生じていた︵したがって︑X女は無辱ではなかった︶としても一三
〇〇条の適用は妨げられない旨の控訴審判決は正当であると述べる︒次に前記解消は契約によるべしとの上告理
‑一一138 ‑一一
由を斥け︑さらに︑X女の法定代理人たる父親は︑X女の解除に対して同意の意思表示を与えていないとの上告
理由に対して︑フェルレープニスの成立にはたしかに法定代理人の同意を要するが︑たとえ行為能力に制限をう
けているとしても︑当事者の個人的な意思なしには婚姻は成立しえないし︑婚姻の成立を強制することはできな
㈲いのであるから︑解除に対しては法定代理人の同意は必要でないとする︒
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三︑一 般 的 効 果
︵一︶ フェルレープニスの法的効果のうち︑婚姻の履行請求と違約金契約については明文で否定されており︵一二
九七条︶︑損害賠償については一二九八条乃至一三〇〇条に定められている︒これらについては後に詳説するこ
ととし︑ここではフェルレープニスの当事者間のそのほかの権利義務関係についてみておこう︒まず︑民法のほ
か刑法や訴訟法においてフェルレープニスの当事者に一定の身分的効果を与えている場合がある︒すなわち︑フ
ェルレープニスの当事者は法律上の夫婦と同様に夫婦財産契約を締結することができるし︑また相続契約及び相
続放棄契約を締結することもできる・さらにフェルレープニスの当事者は刑法上親族とされ︑緊急避難や犯罪庇
護に関して親族と同様に処罰を免除される︒また︑民事訴訟法や刑事訴訟法においても一方が訴訟当事者あるい
は被告人である場合には︑他方は証言拒絶権及び鑑定拒絶権が認められている︒
ところで︑フェルレープニスの関係にある当事者の状態はブラウトシュタントと言われ︑とくに近時︑このよ
うな当事者間の権利義務関係につき判例がいくつかあらわれている︒次に︑このブラウトシュタントの効果につ
き簡単に述べておこう︒ブラウトシュタントの当事者は︑相互に誠実であり︑配慮し助け合う法的義務がある
が︑扶養の義務はないと考えられている︒当事者が将来の婚姻の成立のために現在の職業的地位を放棄する義務
があるかどうかについては一定の基準は与えられていない︒当事者は互いに守り合い︑できる限り危険を相互に
予防する義務がある︒この点についてとくに問題となるのは︑相手方の自殺を妨げる義務の有無であり︑また︑
この義務の違反が故意又は過失による殺人となるかである︒これに関しては判例がある︒すなわち︑いずれも刑
市部判決であるが︑一九五四年九月二日連邦裁判所判決と一九六〇年七月五日連邦裁判所判決である︒
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また︑当事者は︑相手方或はその両親の営業に於て共に働く義務はなく︑したがって働いた場合には︑若し婚
姻が成立しなかったときには動労の完全な報酬の請求権があることについては判例かおる︒すなわち︑一九六〇
年三月一〇日連邦労働裁判所判決である︒なお︑生まれた子供が非嫡出子となることは勿論であるが︑多少の例
外がある︒即ち︑一九六〇年一二月一四日の家族名の変更と確定に関する政府の一般的行政規程によれば︑相手
方の男が不意に死亡するとか︑兵隊として戦死するとかして︑しかも婚姻成立のましめな意図が証明されたとき
には︑当事者たる女あるいは生まれた子供に対して︑男の名前を与えることができる︒また︑一九五一年三月九
日の爾後の婚姻締結宣言の法的効果に関する法律によれば︑一定の要件のもとに戦死した兵士とのラェルレープ
ニスから生まれた子供はその男の嫡出子たる地位をうることができる︒
‑141‑
︵二︶ 次に右の判決を事案を中心にみておこう︒
︵1︶ 一九六〇年七月五日連邦裁判所刑事部判決
被告Y女が︑フェルレープニスの関係にある男0・Sの自殺を阻もうとしなかったために罪に問われた事件で
ある︒フェルレープュスの当事者の間に相手の自殺を阻げる義務があることを判示した判決として重視されてい
るのであるが︑本件の当事者は一ヶ月近く同棲していたものであることにとくに注目するべきである︒すなわ
ち︑三八才のY女は一九五九年の始めから十才若い男0・Sとフェルレープニスしており︑両者は同五九年三月
の半ばから0・Sの母親と同居していた︒ところがY女と未亡人である0・Sの母親との間に不和が生じ︑且つ
Y女と0・Sの間にも経済的な問題が生していたらしい︒これらの問題のため︑従来快活であった0・Sは目立
って元気がなくなり︑神経性の胃病になってしまった︒五九年四月一九日寝室でY女とO・Sとがいさかいを起
しO・SがY女をなぐり︑後にY女に許しを乞うたがY女はこれを許さないと言うなどしたあと︑Y女が居間に
行って上衣を着ようとしたところ︑0・Sがひもの所在をたずね︑Y女はそのひもをO・Sに渡した︒0・Sは
そのひもを窓からつるして︑Y女の目の前で首をくくって死んだのであるが︑Y女は落ちついて上衣をつけ︑居
142一一
間を出てしまったというのである︒
陪審裁判所もY女に有罪を宣告したのであるが︑そのさい刑法二一二条の適用をみとめなかったので︑検事か
上告して︑結局本判決で上告がみとめられたのであった︒本上告審判決は︑Y女に0・Sの自殺を阻げる法的な
義務かおり︑また阻げることができた筈であるという点については陪審裁判所判決と同意見であった︒しかし陪
審裁判所判決がY女に殺人の故意をみとめなかった点を批難して︑判決を破棄したのである︒故意の存否に関す
る本判決の論議は筆者にはやや難解であるが︑要するに︑自殺岩がその殺害行為を終り︑行為不能となったとき
に︑義務に反する不作為によって︑その者の死に対して原因を与えた者は︑故意による殺人の行為者としての責
任があるという趣旨であった︒
︵2︶ 一九五四年九月二日連邦裁判所刑事部判決︒判決文に接しえなかったので事実関係を明かにしえないので
あるが︑判旨は︑フェルレープニスは当事者に相互に守り合い︑出来るかぎり相互に危険を避けることを義務づ
けており︑フェルレープニスの相手方を自殺について阻げる義務もこれに入り︑義務の違反は過失致死となると
いう趣旨のものであった︒
③ 一九六〇年三月一○日連邦労働裁判所判決︒フェルレープニスの当事者は相手方の家業に奉仕する義務が
なく︑もし無報酬で働いた場合に後にラェルレープニスが解消されたときには︑完全な報酬を請求する権利があ
ることを判示したものとして知られている︒この事件でも原告X女はフェルレープニスの相手方の家に入り同棲
していたもののようである︒本件はX女から相手方の父︵?︶に対する右報酬等六六五〇マルクの請求事件であ
るが︑その間の事情は次のようなものである︒一九五四年に︑Y男が彼の息子のために広告をして適当な配偶者
143一一
を深していたところ︑当時独身だったX女がY男及びその家族と知り合いになった︒一九五四年のクリスマスの
日に︑彼女はY男の息子とフェルレープニスをなし︑婚姻の成立はその息子が親方になるための試験を通ったの
ちにおこなうはずであった︒しかし︑その試験は息子の長期にわたる病気のために一九五六年の秋まで延ばされ
ていた︒その後︑フェルレープニスの両当事者と︑Y男の間に︑どのような経済的な条件で両当事者がY男の仕
事をひきうけるかについて議論が生じ不和となった︒この不和は一九五七年の初めには︑結局両当事者の離別を
もたらすに到った︒X女はすでに一九五四年一〇月の初めには︑Y男の家庭に入り︑その時からY男の家業を手
伝っている︒それは仕事に熟達し︑相手方と婚姻したのちにY男の家業をひきうけ一緒にやってゆくためであっ
た︒彼女は︑一九五七年の始めまでY男の家業で働いており︑その間X女はY男によって住居︑食事︑小遣を供
されていた︒当事者の主張は紙幅の関係で割愛するが︑労働裁判所︵ArbG︶はX女の請求を棄却し︑控訴審たる
地方労働裁判所︵r?叫びの︶は三〇〇〇マルクを認めた︒本上告は棄却されたものと思われる︒そのさい︑フェル
レlプニスの当事者は︑労働力を相手方又は相手方の家族に用立てる義務はなく︑用立てた場合に︑婚姻の成立
がとりやめられたときには報酬を求める権利があるとの趣旨の判示をなしたのである︒
右三判決のうち︑一九六〇年の連邦刑事部判決も連邦労働裁判所判決も同棲ある事件であることにとくに注意
しておきたい︒前者は一ヶ月程︑後者は二年数ケ月も同棲をしているようであり︑しかも両判決ともこの関係を
フェルレープニスと指称していることがきわめて興味深いのである︒なお判決論旨の詳細についてはひきっづき
検討のうえ後に註記することとし︑ここでは事実関係の紹介のみに止めておくことにしたい︒ ︵未完︶
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