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生物濃縮を実感できる実験方法の探索

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(1)

平成 28 年度 修士論文

生物濃縮を実感できる実験方法の探索

弘前大学大学院教育学研究科 教科教育専攻 理科教育専修

15GP210 荻 峻秀

(2)

目次

第一章 序論

1.1 研究の背景・目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.2 生物濃縮に関する教科書調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 1.3 研究の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

第二章 水銀の生物濃縮を実感できる実験方法の検討

2.1 諸言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2.2 魚類の選定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2.3 酸分解方法の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 2.4 水銀測定装置を用いた試料測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 2.5 金コロイド溶液と尿を用いた水銀定性実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2.6 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

第三章 ヒ素の生物濃縮を実感できる実験方法の検討

3.1 諸言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 3.2 海藻の選定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 3.3 酸分解方法の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 3.4 ラインシュ法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 3.5 モリブデンブルー法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 3.6 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42

第四章 総論

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

(3)

1

第一章 序論

1.1 研究の背景・目的

現在の教育課程には環境教育に関する項目が数多く取り込まれている。文部科学省のホ ームページにも環境教育のページが単独で作られており、「国民が様々な機会を通じて環境 問題について学習し、自主的・積極的に環境保全活動に取り組んでいくことが重要であり、

特に、21世紀を担う子どもたちへの環境教育は極めて重要な意義を有しています。」と記載 されている1)。また、学習指導要領においては平成20年に告示された現行のものに環境教 育に関わる多くの項目が新設されており、非常に大切な地位を占めていることがわかる2)

日本で環境問題が大きく取り扱われることになったきっかけは1950~70年代に起きた公 害による環境汚染が要因になっている。特に四大公害病のひとつである水俣病は、環境汚 染の生物濃縮(biological amplification)で起きた人類史上最初の病気である3)

生態系において食物連鎖の上位に位置する生物ほど、高濃度の化学物質が蓄積されるこ とが確認されている。食う・食われるの関係によって蓄積が進行する仕組みを生物濃縮と 呼び、環境問題と密接な関係にある4,5)。その食物連鎖の上位に位置する「高次消費者」ほ ど、高濃度(自然状態の数千倍から数千万倍)の濃縮が起こり、その生物の許容限度を超 えた摂取量となって健康被害が発生する可能性が高くなる。世界的には1962年にレイチェ ル・カーソンが著書「沈黙の春」でDDTなどによる生物濃縮問題を論じたことで、よく知 られるようになった。

このように現在の日本で多く関心が寄せられるようになった環境問題であり、環境教育 であるが、環境についての関心を高める実験項目はあまり多くない。資料集やインターネ ットと用いた座学でも環境問題については学べるが、それに加え実験を行った方がより深 く環境問題に関心を持ち、考えるきっかけになってくれると考える。実際平成20年に改訂 された理科の学習指導要領解説では生徒の科学的な体験などの不足が課題に挙がっており、

その充実を図ることが基本的な理念となっている6)。このため、環境問題において重要な項 目である生物濃縮(biological amplification)に関する教育課程での利用を目指した実験方法 の研究を行った。

(4)

2 1.2 生物濃縮に関する教科書調査

小学校から高等学校の教育課程においてどの単元にどのように生物濃縮が記述されてお り、実験を行うのに適した項目を判断するため、教科書調査を行った。調査対象の教科書 は平成23年度に発行された小学校・中学校・高等学校の教科書であり、本文・実験・観察・

発展内容・コラムなどから生物濃縮に関する記述がどの項目にどの程度記載されているか 調査を行った。教科書を調査した結果を各学校、出版会社ごとに分類した表を挙げる。

1.2.1 小学校7-12)

表 1 小学校における各教科書の分類 学校図書

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第三学年 第四学年 第五学年

第六学年 ・生物のくら しと環境

・人と環境

・「食べる」「食べられ る」の関係

・はい水を処理する

・本文

p.64,65,66,68 発展 p.67

・コラム p.167

・食べ物をとおした 生物どうしの関係

・わたしたちと水

教育出版

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第三学年 第四学年 第五学年

第六学年 ・生き物と環 境

・食物連鎖

・下水の処理

・本文 p.168

・写真 p.176

・生き物と食べ物

・わたしたちの暮ら しと水

(5)

3 啓林館

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第三学年 第四学年 第五学年

第六学年 ・生物どうし のつながり

・自然ととも に生きる

・食物連鎖, レイチェ ル・カーソン氏

・下水の処理

・資料 p.51 本文 p.52 コラム p.60,61

・本文 p.150

・食べ物を通したつ な が り, レ イ チ ェ ル・カーソン氏の紹 介

・わたしたちの暮ら しと水

信州教育出版社

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第三学年 第四学年 第五学年

第六学年 ・生き物と自 然

・人と環境

・食べたり食べられた りするかんけい

・下水の処理

・本文 p.72~74

・本文 p.173

・生き物と食べ物

・よごれた水をきれ いにするとりくみ

大日本図書

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第三学年 第四学年 第五学年

第六学年 ・生物とその かんきょう

・生物と地球 のかんきょう

・「食べる」「食べられ る」の関係, 食物連鎖

・水や空気と生物のか かわり合い

・写真

p.64,65(6-1) 本文 p.65(6-1) 発展 p.72(6-1)

・本文 p.79(6-2)

・生物どうしのかか わり

・水や空気と生物の かかわり合い

(6)

4 東京書籍

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第三学年 第四学年 第五学年

第六学年 ・生き物のく らしと環境

・人と環境

・「食べる」「食べられ る」の関係

・下水の処理

・ 考 え よ う p.62,63

本文 p.64

・写真 p.168

・生物どうしのかか わり

・水とのかかわり

1 における「扱い方」の分類だが、分類した項目は、各教科書に記載されているもの をそのまま引用した。しかしコラムのタイトルはそれぞれ異なっていたため、「コラム」で 統一した。また、大日本図書の「扱い方」に記載されている(6-1)(6-2)という数字は、教科 書が2冊に分かれていたため1冊目を(6-1)2冊目を(6-2)とした。

1から読み取れることは、小学校6年生で初めて食物連鎖について学ぶということ。

また、食物連鎖という単語を教科書の本文で記載している教科書と記載していない教科書 に分かれていることが挙げられる。食物連鎖の単語が記載されていない教科書は代わりに

「食べる」「食べられる」の関係という表現になっていた。本文には写真が多く使われてお り、一目で食物連鎖の関係が分かるように工夫されていた。小学生は実験や演習よりも基 礎知識を学習させることに重点を置いていることが分かる。

(7)

5 1.2.2 中学校13-17)

表 2 中学校における各教科書の分類 学校図書

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第一学年 第二学年

第三学年 ・生物どうし のつながり

・自然・科学 技術と人間

・生態系, 食物連鎖, 生産者と消費者

・生物量, 物質の循環, 生物濃縮

・排水の扱い

・本文

p.152,153,155

・本文 p.160~164 コラム p.165

・本文 p.220

・生物は外界とどの ように関係してい るか

・生態系の中で物質 はどのように移動 するか

・水をめぐるつり合 い

啓林館

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第一学年 第二学年

第三学年 ・自然と人間 ・生態系, 食物連鎖, 生産者と消費者, 物質 の循環

・生物濃縮

・本文 p.182~187 考えてみよう p.185

・本文 p.202

・生物どうしのつな がりを調べる

・私たちが与える自 然環境への影響 教育出版

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第一学年 第二学年

第三学年 ・自然と人間 ・生態系, 食物連鎖, 生産者と消費者, 物質 の循環, 食物網

・生物濃縮

・本文 p.184~186, p.188,189,194,195

考えてみよう p.187

・本文 p.202

・コラム p.203

・生物どうしのつな がりを調べる

・人間の活動は環境 にどのような影響 をあたえているの か

(8)

6 大日本図書

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第一学年 第二学年

第三学年 ・自然界のつ り合い

・生態系, 食物連鎖, 生産者と消費者, 食物 網, 生物濃縮

・本文 p.114~118 実習 p.115 コラム p.120

・生物どうしのつり 合い

東京書籍

学年 取り上げてい る単元名

取り上げている題材 扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内 容

第一学年 第二学年

第三学年 ・自然と人間 ・生態系, 食物連鎖, 生産者と消費者,物質 の循環

・本文 p.230~234, 238

・生物どうしの間に どのような関係が あるのか

中学校についても小学校と同じ分類を行った。表 2 から、中学校においても最終学年で 生物と環境について学ぶことが分かる。食物連鎖について再び触れると同時に小学校と大 きな違いは、「生物濃縮」という単語が登場した点である。生物濃縮を紹介する際に例とし て書かれていたのは、かつて農薬に用いられたDDDDDT、コンデンサーの絶縁に使わ れたPCBが多かった。レイチェル・カーソン氏を紹介している教科書もあり、生物濃縮は 自然に起きるものだが、人間の環境を考慮しない活動においても生物に有毒な作用を引き 起こしてしまうことを強調していた教科書がほとんどであった。

また、生物濃縮について記述してある項目が本文である教科書とコラムであるものに分 かれた。この違いは、コラムの内容として書かれているものはレイチェル・カーソン氏や 環境保全など、様々な話を絡めて記述しているか否かの差だと考えられる。中学校も小学 校と似たような教科書の構成になっており、教科書に書き込んだりする項目はあるものの、

食物連鎖や生物濃縮に関する実験を行う活動は載っていなかった。

(9)

7 1.2.3 高等学校18-78

表 3 高等学校における各教科書の分類 啓林館

科目 取り上げてい

る単元名

取り上げている題 材

扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内容

科学と人間生活 ・生命の科学 ・生態系 ・本文 p46 ・生態系における微 生物

新編 生物基礎 ・生物の多様 性と生態系

・生態系, 食物連 鎖, 食 物 網, 水 の 保全

・本文 p.126,127, 133, 134

実験 p.135

・生態系, 生態系の バランスと保全

生物基礎 ・生物の多様 性と生態系

・生態系, 食物連 鎖, 食 物 網, 生 態 ピラミッド, 水の 保全, 生物濃縮

・本文

p.174, 175, 177, 182~185, 187 参考 p.177,

183

実験 p.186

・生態系, 生態系の バランスと保全

生物 生態と環境 ・食物連鎖, 食物 網, 生態ピラミッ ド

・本文p.431, 432, 447

実験 p.433

・生物群集とその構 造, 生態系

数研出版

科目 取り上げてい

る単元名

取り上げている題 材

扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内容

科学と人間生活 ・生命の科学 ・生態系 ・本文 p.76 ・生態系での微生物 のはたらき

新編 生物基礎 ・生物の多様 性と生態系

・生態系, 食物連 鎖, 食 物 網, 生 態 ピラミッド, 生物 濃縮

・本文 p.136~139, 144,145,148 資料 p.145

・生態系とその成り 立ち, 生態系のバラ ンスと保全

生物基礎 ・生物の多様 性と生態系

・生態系, 食物連 鎖, 食 物 網, 生 態 ピラミッド, 水の 保全, 生物濃縮

・本文 p.174~179, 187,188,196 参考 p.188 実験 p.190

・生態系, 生態系の バランスと保全

生物 生態と環境 ・食物連鎖, 食物 網, 生態系

・本文 p.298, 307, 308

・生物群集とその構 造, 生態系

(10)

8 第一学習社

科目 取り上げてい

る単元名

取り上げている題 材

扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内容

科学と人間生活 ・生命の科学 ・生態系 ・本文 p.112 ・生態系内の微生物 新編 生物基礎 ・生態系とそ

の保全

・生態系, 食物連 鎖, 食 物 網, 生 態 ピラミッド, 生物 濃縮

・本文

p.144~146, 152, 154

コラム p.153, 162

実験 p.154

・生態系, 生態系の バランスと保全

生物基礎 ・生態系とそ の保全

・生態系, 食物連 鎖, 食 物 網, 生 態 ピラミッド, 水の 保全, 生物濃縮

・本文

p.250~252, 254, 272

参考 p.253 実験 p.271

・生態系, 生態系の バランスと保全

生物

東京書籍

科目 取り上げてい

る単元名

取り上げている題 材

扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内容

科学と人間生活 ・生命の科学 ・生態系 ・本文 p.40 ・生態系内の微生物 新編 生物基礎 ・生物の多様

性と生態系

・生態系, 食物連 鎖, 食物網

・本文 p.118~120, 148~150

・生態系, 生態系の バランスと保全

生物基礎 ・生物の多様 性と生態系

・生態系, 食物連 鎖, 食物網

・本文 p.145, 171 ・生態系, 生態系の バランスと保全 生物 生態と環境 ・生態系, 捕食,

態ピラミッド

・本文 p.309,328, 334, 337~339, 346

コラム p.339

・生態系, 食物網と 物質生産

(11)

9 実教出版

科目 取り上げてい

る単元名

取り上げている題 材

扱い方

(本文・コラム等)

具体的な学習の内容

科学と人間生活 ・生命の科学 ・生態系 ・本文 p.121 ・微生物の役割 高校生物基礎 ・生物の多様

性と生態系

・生態系, 食物連 鎖, 食 物 網, 生 態 ピラミッド, 生物 濃縮, 水の保全

・本文

p.126~129, 137, 141

・生態系と物質循環, 生態系のバランスと 保全

生物基礎 ・生物の多様 性と生態系

・生態系, 食物連 鎖, 食 物 網, 生 態 ピラミッド, 生物 濃縮

・本文

p.190~194, 198, 199

実験 p.207

・生態系と物質循環, 生態系のバランスと 保全

生物 生態と環境 ・生態系, 捕食, 食 物 連 鎖, 食 物 網, 生態ピラミッド

・本文 p.344, 50, 351, 354

・生態系, 捕食・被 食の関係

小学校・中学校と同様に分類した項目は、各教科書に記載されているものをそのまま引 用したが、類似している部分においては1つの項目として取り扱うこととした。高等学校 においても現在使われている教科書をすべて調査したが、「新編 物理基礎」「物理基礎」「物 理」「新編 化学基礎」「化学基礎」「化学」「地学基礎」「地学」においては生物濃縮に関す る記載がなかったため、表3からは除外してある。

3 から読み取れることとして、小学校と中学校に比べて実験の項目が入っていること が分かる。しかし実験の内容は簡易水質調査キットを用いた水質調査の実験のため生物濃 縮を実感できるとは言いにくい。

また、生物濃縮について記載されているのは「生物基礎」までであり、「生物」の教科書 ではより高度な内容を記載しているので生態系までは触れるが生物濃縮の記述はなかった。

1.2.4 まとめ

小学校では生物と環境の基礎を学び、中学校で初めて生物濃縮について記述されている が、高等学校に比べて実験の項目が少ないことが分かる。また、コラムや資料などのペー ジは学校の段階が進むにつれて多くなっている。この内容を踏まえて生物濃縮に関する実 験をどこで行うことが一番効果的かを考える。

小学校ではまだ生物と環境の関係について学んだばかりであり、生物濃縮については学 習していないので生物濃縮についての実験を行うことは向いていない。それに比べて中学

(12)

10

校では食物連鎖から生物濃縮まで学ぶ。さらに実験の項目もほぼないので、生物濃縮に関 する実験は中学 3 年生の「自然と人間」の単元で行うことが適しているのではないかと考 える。また、高等学校の「生物基礎」の「生物の多様性と生態系」の単元でもこの生物濃 縮に関する実験は同様に行えると想定している。

1.3 研究の方法

生物濃縮される元素は数多く存在するが、今回の研究では魚類に多く蓄積されると言わ れている水銀と海藻、特にヒジキに蓄積されるヒ素を実験元素の対象として選定した。こ れは全国のスーパーマーケットや市場で購入することができ、そこまで高価な品ではない ことが選考理由である。

また先の教科書調査により、生物濃縮に関する実験は中学 3 年生または高等学校で行う ことが適しているのではないかと判断を行った。この年代の生徒が操作を行うことができ、

授業時間内に終了させることができる実験方法の探索を進めた。今回の実験は定性分析実 験を主として取り扱っているが、色の変化などを利用して簡易的な定量も行えるか検討を 行った。実験の詳細は本章以降で述べることとする。

(13)

11

第二章 水銀の生物濃縮を実感できる実験方法の検討

2.1 諸言

本章では中学 3 年生から高校生までの年代が授業時間内に行える安全で簡易的な水銀に 関する実験の探索・検討を進めていくことにした。水銀は魚類に多く蓄積されると言われ ており、海の食物連鎖の上位消費者であるマグロは非常に高濃度の水銀が蓄積されている。

マグロを最上位においた食物連鎖の関係になるように魚類の選定を行い、その中に濃縮さ れている水銀を実験に用いることにした。

また様々な実験・測定を行うためには魚類の肉片を液体に溶かさなくてはいけない。そ のため魚肉の酸分解方法の検討を進めることにした。酸分解はどうしても硝酸や硫酸など の劇物を扱うことになるので、教員があらかじめ酸分解を授業前に行っておくことも視野 に入れて検討を行った。その後水銀測定装置を用いて選定した魚類の水銀濃度を測定し、

実際に食物連鎖の通りに水銀濃度が高くなっているか確認を行った。

その生物濃縮によって蓄積された水銀を色の変化など、見た目で判断し実感できるよう に金コロイド溶液と尿を用いた実験を行い、色によって濃度を判断できるか、学校にある 器具で実験が可能であるか検討を進めることにした。

2.2 魚類の選定

水銀の実験を検討するにあたり、実験に使用する魚類の選定をまず行った。学校の授業 で行う実験という点を考慮し、選定条件を決めた。選定条件は以下の3点である。

① 全国のスーパーマーケットや市場などどの地域でも購入することができるもの。

② 安価で購入することができるもの。

③ マグロを最上位消費者に置き、食物連鎖の関係になっているもの。

以上の 3 点を考慮し、実際にスーパーマーケットに行き、取り扱う魚類を決定した。選定 した魚類は以下の5種類である。

・マイワシ

・マイカ

・マサバ

・マダラ

・メバチマグロ

(14)

12 2.3 酸分解方法の検討

選定した魚類の肉片を様々な実験や測定に用いるために液状化させる必要がある。その ため魚肉を酸分解する方法の検討を行った。酸分解方法を検討するにあたり考慮すべき点 は、学校でも行えるレベルの簡易化、そして短時間で行えるという点である。この 2 つの 点を考慮して検討を行った。また酸分解ということでどうしても硝酸や硫酸などの劇物を 使用する必要がでてくるので、教員があらかじめ酸分解を授業前に行っておく場合もある ことも仮定した。

上記の条件を踏まえて以下の2つの酸分解方法の検討を行った。

① マイクロウェーブ酸分解法

② 湿式分解法

この2つの酸分解方法についてこれから詳細を述べることとする。

2.3.1 マイクロウェーブ酸分解法

マイクロウェーブ酸分解法は耐薬品性に優れた分解容器(密閉容器)に、試料と試薬(酸)

を入れ、マイクロ波を照射し試料を分解させる方法である。マイクロ波のエネルギーを試 薬が吸収し、エネルギーが熱に変換され、分解容器内の温度と圧力が上昇する。その高温、

高圧の状態で試薬が作用することで、試料の分解が促進され、分解時間が短いことが特徴 の酸分解方法である。また、完全に密閉された容器内で分解が行われるため、外部からの 汚染を防ぐことができる上、揮散しやすい元素(ほう素、セレン、ヒ素、水銀、など)の 処理に適している。扱う酸の量が少ないこともメリットのひとつである 79)。マイクロ波を 照射する機器は電子レンジを用いるので、学校でも行うことができる分解方法として検討 を行った。

<試薬>

・濃硝酸 (関東化学株式会社, 電子工業用)

<器具>

・電子レンジ用反応分解容器 P-25シリーズ (三愛科学株式会社)

PFA製内部小容器 P-25(三愛科学株式会社)

・電子レンジ (株式会社山善, MWO-1770B-5)

・マイクロピペット (サーモフィッシャー・サイエンティフィック株式会社, 2~10 mL)

(15)

13

・ロート

・ロート台

・ねじ口PPチューブ (株式会社マルエム, PN-18)

・乳鉢

・乳棒

<実験操作>

魚類をさばいて約3 cmの大きさに切り、70℃のオーブンに入れ一晩放置した。その後オ ーブンから取り出し、乾燥した試料を乳鉢と乳棒を使い細かく粉砕した。粉砕した試料を 電子天秤で0.1 g秤量し、PFA製内部小容器に入れ、その中に濃硝酸を2 mLマイクロピペ ットを用いて入れた。試料が入ったPFA製内部小容器を電子レンジ用反応分解容器に入れ 精製水を満たし、電子レンジに入れた。電子レンジには容器を3つ入れ、300 W10分マ イクロ波を照射した。その後電子レンジ用反応分解容器からPFA製内部小容器を取り出し、

中の分解溶液を濾過した。濾過した分解溶液はねじ口PPチューブに入れ、25 mLまでメ スアップした。試料粉砕後の操作のフローチャートをスキーム1に示した。

PFA製内部小容器

試料(乾燥粉砕済み):0.1 g

濃硝酸:2 mL

(PFA製内部小容器を電子レンジ用反応分解容器に入れ、精製水を満たす)

(電子レンジ用反応分解容器を電子レンジに入れ、300 W10分マイクロ波を照射) (電子レンジから取り出し、分解溶液を濾過)

濾液をねじ口PPチューブに入れ、25 mLまでメスアップ

スキーム1 マイクロウェーブ酸分解法の操作方法

(16)

14

1 PFA製内部小容器()と電子レンジ用反応分解容器()

<結果・考察>

マイクロウェーブ酸分解法では PFA 製内部小容器に試料を入れてから濾液をねじ口 PP チューブに入れ、メスアップするまで約30分で完了することができた。また様々な魚の試 料を同時並行で処理することができ、非常に素早く酸分解を終えることが可能であると判 断できた。難しい工程はほぼ無いので無理なく操作を行うことができると考える。

しかしPFA製内部小容器と電子レンジ用反応分解容器はあまり学校には置いていない器 具なので、無い学校はこの器具を購入する必要がでてきてしまう。その課題を除けば非常 に優れた酸分解方法だと言えよう。

2.3.2 湿式分解法

湿式分解法とは、有機物もしくは有機物を含む試料の金属や塩素、窒素などの非金属元 素の含量を測定するために硫酸、硝酸、過塩素酸などの液体の酸化剤と加熱して酸化分解 する方法である。マイクロウェーブ酸分解法と異なり特別な器具を必要とせず、ほとんど の学校にもあるメスフラスコやホットプレートなどで行うことができる酸分解法である。

取り扱う酸化剤の種類は多くなってしまうが、身近な器具で酸分解を行えるという点に注 目し検討を行った。

<試薬>

・濃硝酸(関東化学株式会社, 1)

・過塩素酸(60%)(和光純薬工業株式会社, 有害金属測定用)

(17)

15

・濃硫酸(ナカライテクス株式会社, 1級)

<器具>

・50 mLメスフラスコ

2 mL, 5 mL駒込ピペット

・ホットプレートつきマグネチックスターラー

・乳鉢

・乳棒

<実験操作>

魚類をさばいて約3 cmの大きさに切り、70℃のオーブンに入れ一晩放置した。その後オ ーブンから取り出し、乾燥した試料を乳鉢と乳棒を使い細かく粉砕した。粉砕した試料を 電子天秤で0.1 g秤量し、メスフラスコの中に入れた。その後精製水を1.5 mL入れ試料を 浸潤させた。十分浸潤させた後HNO3-HClO4(1+1)を2 mL, 濃硫酸を5 mL駒込ピペット を用いて入れた。試料と酸化剤が入ったメスフラスコを蓋をしないで 200~230℃のホット プレート上で30分加熱した。加熱後、常温まで放冷し50 mLまで精製水でメスアップし た80)。試料粉砕後の操作のフローチャートをスキーム2に示した。

50 mLメスフラスコ

試料(乾燥粉砕済み):0.1 g

精製水:1.5 mL

(試料が十分浸潤するまで放置しておく) HNO3-HClO4(1+1):2 mL

濃硫酸:5 mL

(メスフラスコの蓋を開けて200~230℃のホットプレート上で30分加熱) (加熱後常温まで放冷)

50 mLまで精製水でメスアップ

スキーム2 湿式分解法の操作方法

(18)

16

2 湿式分解開始8分後()と分解溶液メスアップ後()

<結果・考察>

湿式分解法では50 mLメスフラスコに試料を入れてからメスアップを完了するまで約40 分かかった。加熱を開始してからの溶液の変化は以下のようになった。

5分後:試料は全て溶け、褐色の気体が発生。

8分後:液体から気泡が発生し、液体の色は黄色に変化した。

15分後:褐色の気体はほぼ無くなり、液体の色も淡黄色に変化。

20分後:気体の発生が止まる。

マイクロウェーブ酸分解法と比較して特別な器具を使わず、少ない器具で行うことがで きた。ほとんどの学校で揃えることができる器具なので、換気のよい場所さえあれば実験 を行うことが可能である。しかしデメリットとして 1 試料ずつしか酸分解を行うことがで きないという点、マイクロウェーブ酸分解法に比べ酸化剤の取り扱い量が多くなってしま う点がある。中学校で行う場合は教員が授業前にあらかじめ行っておくことがよいと思わ れる。

これまでマイクロウェーブ酸分解法と湿式分解法の検討を行ってきたが、学校現場でこ れらの酸分解を行う場合どちらにもメリットとデメリットが存在することが分かった。マ イクロウェーブ酸分解ができる環境にあるならばマイクロウェーブ酸分解法を選択した方 がよいと考えられる。器具がない場合は湿式分解法でも十分酸分解が行えたので、学校現 場の都合に合わせて分解方法を選択すればよいと言える。

(19)

17 2.4 水銀測定装置を用いた試料測定

生物濃縮の実験を検討するための基礎研究として、水銀測定装置を用いて選定した魚類 の濃度測定を行った。この章の2.2において選定した魚類が、食物連鎖通りに水銀の生物濃 縮が起きているか実際に確かめるためである。選定した 5 種類の魚に加えて参考値として アイスランド産のナガスクジラと岩手産のマイルカの水銀濃度も測定した。実際の濃度を 把握することによってこの後の水銀定性実験の参考にしていく。

<測定試料>

・マイワシ(全長22.7 cm) ・マサバ(全長38.9 cm)

・マイカ(全長51.1 cm) ・マダラ(カット済み)

・メバチマグロ(カット済み) ・ナガスクジラ(カット済み)

・マイルカ(カット済み)

<試薬>

(1+1)硫酸

精製水25 mLに硫酸を少量ずつ冷却しながら加え、11の希釈率になるまで希釈した。

(1+20)硫酸

精製水60 mLに硫酸を少量ずつ冷却しながら加え、120の希釈率になるまで希釈した。

10%塩化第一スズ溶液

塩化第一スズを(1+20)硫酸で希釈し、全量50 mLにした。注)酸化が激しいので使用日に 調製し残った分は廃棄した。

・水銀標準溶液(スタンダード溶液)

1ppbになるようにメスフラスコで水銀標準溶液を調製する。

<器具・装置>

・水銀測定装置(日本インスツルメンツ株式会社, RA-3A)

・試験管

・マイクロピペット(サーモフィッシャー・サイエンティフィック株式会社, 100~1000 μ L)

100 mLメスフラスコ

(20)

18

<測定操作>

水銀標準溶液を用いてスタンダード測定を行った後、試験管のブランク値を測定し未 知試料の測定に進んだ。今回用いた試料は選定した魚類をマイクロウェーブ酸分解法で 酸分解処理した溶液である。また試料はマイワシは身(筋肉)と内臓、マイカはあしと肝臓 (わた袋)と胴(外套膜)、マサバは身(筋肉)と肝臓、マダラは身(筋肉)と胃袋をそれぞれ測定 して平均した濃度を結果に示す。

<結果・考察>

水銀測定装置で測定した各魚類の水銀濃度を以下の表1と図3のグラフにまとめた。

1 各サンプルの水銀濃度 サンプル名 水銀量(ppm)

マイワシ 0.058215

マイカ 0.090060

マサバ 0.20857

マダラ 0.91645

メバチマグロ 2.5636 ナガスクジラ 0.71671

マイルカ 0.43632

3 各サンプルの水銀濃度 0

0.5 1 1.5 2 2.5 3

水銀量g/g)

マイワシ マイカ マサバ マダラ メバチ マイルカ ナガスクジラ

(21)

19

各サンプルの水銀濃度を比較するとメバチマグロ>マダラ>マサバ>マイカ>マイワシ の順に高濃度の水銀が検出された。このことからメバチマグロを筆頭に食物連鎖の上位消 費者は水銀濃度が高く、下位消費者は水銀濃度が低く蓄積されていることが確認できた。

メバチマグロはやはり群を抜いて水銀濃度が高く、厚生労働省が妊婦の摂取制限を促すこ とも納得できる結果となった。しかしこのことをそのまま教育現場で話すと生徒たちがマ グロは毒であると捉えてしまう可能性がでてきてしまうので、授業で生物濃縮を教える際、

気を付ける必要がある。

参考として測定したナガスクジラとマイルカは順に0.436ppm, 0.717ppmと高濃度であ った。この結果は、ナガスクジラは主にプランクトンなどを食すのでマイルカよりも低い 値になったと考えられる。

2.5 金コロイド溶液と尿を用いた水銀定性実験

前節で選定した魚類が食物連鎖の通りに水銀濃度が検出され、生物濃縮が反映されてい ることが確認できた。この生物濃縮を確認して、身近に実感できる実験を学校現場でも行 いたいと考えている。本来水銀の分析法は、ガスクロマトグラフィーや原子吸光度計など の装置を用いる方法が一般的である。実際に前節で筆者も原子吸光度計を用いた水銀測定 装置を使って測定を行った。しかしこれらの装置は非常に高価であり、現場での迅速な分 析には不向きで、なにより学校現場に導入することは非常に難しい。

そこで測定装置を用いない分析方法を学校現場で行えるか検討を行った。今回検討を行 うのは金コロイド溶液と尿を用いた水銀定性実験で、これはシンガポールのChen准教授ら の研究グループが開発した水銀分析方法である 81)。普通金ナノ粒子を水中に分散させた金 コロイド溶液は鮮やかな赤色を示す。これにヒトの尿を加えても、色はほとんど変化しな いが、さらに微量の水銀イオンを加えると、色は赤から青へとはっきり変化すると述べら れている。これは、尿中の尿酸とクレアチニンが金ナノ粒子上で水銀イオンと反応し、金 ナノ粒子が凝集することによる発色であることが研究によって分かっている。また水銀以 外の金属イオンではこのような色の変化は生じないため、この方法で水銀イオンの選択的 な検出が可能になったことがわかる。この実験を実際に行い、学校の授業などで利用でき るか検討を行っていく。

(22)

20

<試薬>

・テトラクロロ金(Ⅲ)酸四水和物(和光純薬工業株式会社, 特級)

・くえん酸三ナトリウム二水和物(和光純薬工業株式会社, 特級)

・濃硝酸(関東化学株式会社, 1)

・濃塩酸(ナカライテクス株式会社, 1)

<器具・装置>

・マントルヒーター(アズワン株式会社)

・還流冷却器(今回はジムロート型を使用)

・実験スタンド、クランプ

100 mL, 250 mLメスフラスコ

300 mLナス型フラスコ

50 mLメスシリンダー

100 mL三角フラスコ

200 mLビーカー

・試験管

2 mL, 5 mL駒込ピペット

・紙コップ

<試薬調製>

1 mMテトラクロロ金()酸溶液

テトラクロロ金()酸四水和物を0.1029 g秤量し250 mLメスフラスコを用いて精製水 でメスアップした。その後アルミホイルで覆ったポリビンに入れ、暗所で保存した。

38.8 mMくえん酸三ナトリウム水溶液

くえん酸三ナトリウム二水和物を1.141 g秤量し100 mLメスフラスコを用いて精製水で メスアップした。

・王水

濃塩酸45 mLと濃硝酸15 mLをビーカーで混合した。

<実験操作>

濃塩酸と濃硝酸を混合し調製した王水で、還流冷却器、200 mLナス型フラスコ、100 mL 三角フラスコを洗浄した。その後精製水で王水をきれいに流した。

最初に金コロイド溶液の調製を行った。マントルヒーターに 300 mL ナス型フラスコを

(23)

21

設置し、フラスコ内に精製水を40 mL, 1 mMテトラクロロ金(Ⅲ)酸溶液を30 mL入れ、還 流冷却器を接続して沸騰するまで加熱した。沸騰後、38.8 mMくえん酸三ナトリウム水溶

液を7.5 mLフラスコ内に追加し、15分間還流を行った。その後室温まで放冷し100 mL

三角フラスコに入れて保存した82)。この金コロイド溶液の調製方法をスキーム3に示した。

次に金コロイド溶液を用いた水銀分析実験を行った。紙コップに尿を採取し、精製水で 4000倍希釈した。試験管に金コロイド溶液を3 mL入れ、さらに希釈した尿を1 mL加え た。そこに魚類の酸分解溶液を5滴加えた(今回はマグロとイワシを湿式分解法で酸分解し た溶液を用いた)

300 mLナス型フラスコ (マントルヒーターに設置)

精製水:40 mL

1 mMテトラクロロ金(Ⅲ)酸溶液:30 mL (沸騰まで加熱)

38.8 mMくえん酸三ナトリウム水溶液:7.5 mL

(約15分間還流)

(還流後後常温まで放冷)

三角フラスコに保存(パラフィルムを付ける)

スキーム3 金コロイド溶液の調製方法

(24)

22

4 金コロイド溶液の調製時の様子

<結果・考察>

金コロイド溶液は沸騰時までは黄色の液体であったが38.8 mMくえん酸三ナトリウム水 溶液を加えると溶液の色が赤色へと変化した。これによりくえん酸による還元がうまくい ったことが分かった。金コロイド溶液の調製はうまく行うことができた。

5 調製した金コロイド溶液

(25)

23

金コロイド溶液を用いた水銀分析実験を行った結果、マグロとイワシの両酸分解溶液と も尿入りの金コロイド溶液に加えると赤色から青色に溶液の色が変化した。このことから 金コロイド溶液を用いて生物濃縮における水銀の定性分析が行えることが分かった。しか しこの結果ではイワシとマグロの両方に生物濃縮が起こっていることは実感できるが、マ グロの方がイワシより生物濃縮が進んでいることを実感することは難しいと考えられる。

そのためここから先は色の濃さの違いで比色的に濃度の違いを見ることができないか実験 を行っていく。

また参考実験として 40 倍希釈の尿を用いて実験を行ったところ、2500 倍希釈の尿を用 いたときよりも青く変化することが確認できた。まずはどの程度希釈した尿が一番青く変 化するか実験を行った。

6 金コロイド溶液を用いた水銀分析実験 酸分解溶液添加前() 金コロイド溶液を用いた水銀分析実験 酸分解溶液添加後()

試験管は左がイワシ酸分解溶液添加、中央がマグロ酸分解溶液添加、右がブランク

(26)

24

2.5.1金コロイド溶液と尿を用いた水銀定性実験(尿の希釈率による変化)

先ほど記述したように今回は尿の希釈倍率を段階ごとに変え、どの希釈率が一番青く変 化するのか実験を行った。また今回も前述と同じようにマグロとイワシを湿式酸分解法で 分解した溶液を使用した。

<実験操作>

紙コップに尿を採取し、精製水で10倍~100倍希釈した。試験管に金コロイド溶液を3 mL入れ、さらに希釈した尿を1 mL加えた。そこに魚類の酸分解溶液を5滴加えた(今回 もマグロとイワシを湿式分解法で酸分解した溶液を用いた)

<結果・考察>

結果を以下の表に示す。

2 尿の希釈倍率によるマグロ酸分解溶液添加後の溶液の色の変化

希釈倍率 1020304050100倍 酸分解溶液

添加後の溶 液の色

赤みがか った青

青 青 青 青 うすい青

3 尿の希釈倍率によるイワシ酸分解溶液添加後の溶液の色の変化

希釈倍率 1020304050100倍 酸分解溶液

添加後の溶 液の色

赤みがか った青

青 青 青 青 うすい青

まずマグロの酸分解溶液を用いた方では10倍希釈の尿で赤色から少し赤みがかった青に 変化した。20倍~50倍希釈の尿では赤みがかっていない青色の溶液に変化し、ほぼ同じ青 さになった。そして100 倍希釈の尿では20倍~50 倍希釈のときと比較してわずかにうす い青色の溶液に変化した。しかしイワシの酸分解溶液を用いた方でもマグロのときと同じ ような結果になってしまった。試験管を比較しても青色の濃さに違いは確認できず、前回 と同様でマグロの方がイワシより生物濃縮が進んでいることを実感することは難しいと考 えられる。次回は尿の希釈倍率を10倍に固定し、魚類の酸分解溶液の滴下する量を変化さ せて実験を行う。

(27)

25

7 尿の希釈倍率によるマグロ酸分解溶液添加後の溶液

左から尿の希釈倍率が10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍となっている 一番右の試験管はブランク

8 尿の希釈倍率によるイワシ酸分解溶液添加後の溶液

左から尿の希釈倍率が10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、100倍となっている 一番右の試験管はブランク

(28)

26

2.5.2 金コロイド溶液と尿を用いた水銀定性実験(酸分解溶液の滴下数による変化)

今回は酸分解溶液の滴下数を変化させて、どの滴下数が一番変化を実感できるのか実験 を行った。また今回も前述と同じようにマグロとイワシを湿式酸分解法で分解した溶液を 使用した。

<実験操作>

紙コップに尿を採取し、精製水で10倍希釈した。試験管に金コロイド溶液を3 mL入れ、

さらに希釈した尿を1 mL加えた。そこに魚類の酸分解溶液を1~7滴加えた(今回もマグロ とイワシを湿式分解法で酸分解した溶液を用いた)

<結果・考察>

結果を以下の表に示す。

4 マグロ酸分解溶液の滴下数による溶液の色の変化

滴下数 1234567滴 酸分解溶液添加

後の溶液の色

青 青 青 青 青 青 青

5 イワシ酸分解溶液の滴下数による溶液の色の変化

滴下数 1234567滴 酸分解溶液添加

後の溶液の色

青 青 青 青 青 青 青

尿の希釈倍率を固定し、酸分解溶液の滴下数を変化させて色の変化を観察したが、1滴か ら 7 滴全てで同じ程度の色の濃さであった。さらにマグロの酸分解溶液添加後の溶液の色 とイワシの酸分解溶液添加後の溶液の色を比較してみたが、どちらも同じ濃さの青色に変 化していた。マグロとイワシで色の濃さに違いがある滴下数を見つけたかったが、全て同 じ濃さなので決定することはできなかった。

この結果から、現状では酸分解溶液の濃度が高い可能性があるので、次は酸分解溶液を さらに希釈して青色の濃さに違いがみられるポイントを見つける実験を行う。

(29)

27

9 マグロの酸分解溶液添加後の溶液

酸分解溶液の滴下数が左から1滴、2滴、3滴、4滴、5滴、6滴、7滴となっている 一番右の試験管はブランク

10 イワシの酸分解溶液添加後の溶液

酸分解溶液の滴下数が左から1滴、2滴、3滴、4滴、5滴、6滴、7滴となっている 一番右の試験管はブランク

(30)

28

2.5.3 金コロイド溶液と尿を用いた水銀定性実験(酸分解溶液の希釈率による変化)

今回は酸分解溶液の希釈率を変化させて、どの希釈率が一番変化や濃度の違いを実感で きるのか実験を行った。また今回も前述と同じようにマグロとイワシを湿式酸分解法で分 解した溶液を使用した。希釈倍率は湿式酸分解で50 mLにメスアップしたものを1倍とし て扱っている。

<実験操作>

紙コップに尿を採取し、精製水で50倍希釈した。試験管に金コロイド溶液を3 mL入れ、

さらに希釈した尿を1 mL加えた。そこに2倍~1000倍に希釈した魚類の酸分解溶液を1 滴加えた。

<結果・考察>

結果を以下の表に示す。

6 マグロ酸分解溶液の希釈倍率による溶液の色の変化

希釈倍率 25103050 100 1000

酸分解溶液添加 後の溶液の色

青 青 青 青 変化

なし

変化 なし

変化 なし

7 イワシ酸分解溶液の希釈倍率による溶液の色の変化

希釈倍率 25103050 100 1000

酸分解溶液添加 後の溶液の色

青 青 青 赤紫 変化

なし

変化 なし

変化 なし

尿の希釈倍率と酸分解溶液の滴下数を固定し、酸分解溶液の希釈倍率を変化させて色の 変化を観察したところ、前回までとは異なり、全て青色には変化せず赤色のままの点が存 在した。マグロの酸分解溶液では30倍希釈までは今までの変化と同じ濃さの青色に変化し、

50倍希釈からは酸分解溶液を加えても色の変化は起きなかった。一方イワシの酸分解溶液 では10倍希釈までは同様の青色に変化し、30倍希釈では赤紫色に変化、50倍希釈から先 はマグロの酸分解溶液と同じく変化なしとなった。

ここで注目できるのがイワシの30倍希釈で赤紫色に変化したことである。赤と青の間の 色の変化が確認できたことによって、マグロとイワシの水銀の生物濃縮における濃度の違 いが比色で実感できるようになった。これによって金コロイド溶液と尿を用いた水銀定性 実験は、マグロとイワシにおいて魚類の酸分解溶液を30倍希釈して1滴加えるという条件

(31)

29

が一番水銀の生物濃縮を実感できるのではないかと考えることができる。今回は一番水銀 の濃縮差が大きいマグロとイワシを比較したが、サバやタラなどでも30倍希釈を基準に希 釈倍率を変化させれば比色実験は可能ではないかと考えられる。以上の結果から測定装置 などを用いることなく、比色によって簡易的ではあるが水銀の濃度差を肉眼で確認するこ とが、学校現場でも可能な実験として見出すことができた。

11 マグロの酸分解溶液添加後の溶液

分解溶液の希釈倍率が左から2倍、5倍、10倍、30倍、50倍、100倍、1000倍 となっている

(32)

30

12 イワシの酸分解溶液添加後の溶液

分解溶液の希釈倍率が左から2倍、5倍、10倍、30倍、50倍、100倍、1000倍 となっている

13 希釈倍率30倍の酸分解溶液添加後の溶液 マグロ酸分解溶液()、イワシ酸分解溶液()

(33)

31 2.6 結論

本章では水銀に関する生物濃縮を実感できるような実験の探索を目的として水銀を蓄積 する魚類の酸分解法も含め検討を進めていくこととした。最初に実験に使用する魚類の選 定を行った。学校の授業で行う実験という点を考慮し、選定条件(①全国のスーパーマーケ ットや市場などどの地域でも購入することができるもの ②安価で購入することができる もの ③マグロを最上位消費者に置き、食物連鎖の関係になっているもの)を決め、考慮し たところマイワシ、マイカ、マサバ、マダラ、メバチマグロを取り扱うこととした。

酸分解法はマイクロウェーブ酸分解法と湿式分解法の 2 つの方法で検討を進めた。その 結果、マイクロウェーブ酸分解法では短時間で行える点、湿式分解法では特別な器具を使 用せず行えるという点がそれぞれ利点として見出すことができた。マイクロウェーブ酸分 解は様々な魚の試料を同時並行で処理することができ、非常に素早く酸分解を終えること が可能であるが、今回の実験で使用したPFA製内部小容器と電子レンジ用反応分解容器は あまり学校には置いていない器具である。逆に学校現場に置いてあるものだけで行うこと ができるのが湿式酸分解法である。扱う酸化剤の量は多くなってしまうが新しく器具を購 入する必要がないことは大きな利点であると言える。以上のことからマイクロウェーブ酸 分解ができる環境にあるならばマイクロウェーブ酸分解法を選択した方がよいと考えられ る。器具がない場合は湿式分解法でも十分酸分解が行えたので、学校現場の都合に合わせ て分解方法を選択すればよいと言える。

そして調製した魚類の酸分解溶液を用いて、水銀測定装置で生物濃縮が実際に起きてい るか確認した後、学校現場でも水銀の生物濃縮や濃縮係数を実感できる実験方法がないか 探索・検討を行った。検討した実験方法は金コロイド溶液と尿を用いた水銀定性実験で、

これは測定装置を用いることなく水銀の定性を行える実験である。金コロイド溶液に尿を 加え、マグロなどの酸分解溶液を添加すると赤色から青色に溶液の色が変化し、水銀が含 まれていることが確認できた。しかしそれだけでは各魚類において水銀量の違いを実感で きないので、様々に条件を変えて実験を行った。その結果、マグロとイワシの酸分解溶液 を比較する場合ならば、酸分解溶液を30倍希釈して1滴加えるという条件が、肉眼で試薬 の色の違いを確認して水銀濃度の違いを実感できることを見出すことができた。以上の結 果から水銀測定装置などがない学校現場でも、金コロイド溶液の比色実験によって水銀の 生物濃縮の違いを実感することは可能であると考えられる。

(34)

32

第三章 ヒ素の生物濃縮を実感できる実験方法の検討

3.1 諸言

本章では水銀の生物濃縮に追加して中学 3 年生から高校生までの年代が授業時間内に行 える安全で簡易的なヒ素に関する実験の探索・検討を行った。前章で述べた水銀の実験で も十分授業内に行えると考えているが、ヒ素も海藻などに濃縮することから参考実験とし て何か行うことができないか検討を行った。今回扱うヒ素は海藻などに濃縮することが多 いため、生物濃縮よりも海水中の濃度と比較する濃縮係数の大きさを実感できるような実 験の探索を進めていくことにした。

前章と同じく実験や測定を行うためには試料を酸分解する必要がある。そのため海藻の 酸分解方法の実験を行っていくこととした。また酸分解はどうしても硝酸や硫酸などの劇 物を扱うことになるので、教員があらかじめ酸分解を授業前に行っておくことも視野に入 れて検討を行った。

その生物濃縮によって蓄積されたヒ素を色の変化など、見た目で判断し実感できるよう な実験を行い、色によって濃度を判断できるか、学校にある器具で実験が可能であるか検 討を進めることにした。

3.2 海藻の選定

ヒ素の実験を検討するにあたり、実験に使用する海藻の選定をまず行った。学校の授業 で行う実験という点を考慮し、選定条件を決めた。選定条件は以下の3点である。

① 全国のスーパーマーケットや市場などどの地域でも購入することができるもの。

② 安価で購入することができるもの。

③ 海水中の濃度と比較する濃縮係数の大きさを実感できるようなもの。

以上の 3 点を考慮した結果、海藻の中でも多くのヒ素を含んでいることで有名なヒジキを 今回の実験で取り扱うこととした 83)。ヒジキは国内産のものを選定し、製造者と販売者は 以下に示す。

製造者:株式会社 二幸商会

販売者:ヤマジョウ株式会社 瀬川本店

(35)

33 3.3 酸分解方法の検討

今回のヒジキにおいても様々な実験や測定に用いるために液状化させる必要がある。そ のためヒジキを酸分解する方法の検討を行った。条件も同様で学校でも行えるレベルの簡 易化、そして短時間で行えるという点を重点に置き実験を進めた。また酸分解ということ でどうしても硝酸や硫酸などの劇物を使用する必要がでてくるので、教員があらかじめ酸 分解を授業前に行っておく場合もあることも仮定した。

上記の条件を踏まえて以下の2つの酸分解方法の検討を行った。

① マイクロウェーブ酸分解法

② ニッケル添加湿式分解法

この2つの酸分解方法についてこれから詳細を述べることとする。

3.3.1 マイクロウェーブ酸分解法

ヒジキでも前章の魚類と同様にマイクロウェーブ酸分解が行えるか検証を行った。試薬、

器具、実験操作は前章と変わらないのでここでは省略し結果だけを記述する。ただしヒジ キはすでに乾燥済みであるためオーブンで乾燥させる過程は省く。

<結果・考察>

ヒジキにおいても魚類と変わりなく約30分でメスアップまで完了することができた。ヒ 素も水銀と同様で非常に揮散しやすい元素であるため、マイクロウェーブ酸分解法は有用 であると考えられる。ただしデメリットも同様でPFA製内部小容器と電子レンジ用反応分 解容器がない学校では行うことができない。それ以外はヒジキでも非常に短時間で終えら れる分解法であるので、優れている方法であると言える。

3.3.2 ニッケル添加湿式分解法

ニッケル添加湿式分解法とは、通常の湿式分解法にニッケルイオンを添加して行う分解 法である。ニッケルイオンを加えることによって酸分解中のヒ素の揮散が防止されること がわかっている。これにより、より濃度の高いヒ素の酸分解溶液を得ることができる。ま たマイクロウェーブ酸分解法と異なり特別な器具を必要とせず、ほとんどの学校にもある メスフラスコやホットプレートなどで行うことができる酸分解法である 84)。ニッケルイオ

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