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Title

分子動力学/自由エネルギー摂動法を用いたstaphylococcal nuclease変異体の熱安定性の解析

Author(s)

山乙, 教之

Citation

北海道大学. 博士(薬学) 乙第5450号

Issue Date

1999-03-25

DOI

10.11501/3151611

Doc URL

http://hdl.handle.net/2115/51610

Type

theses (doctoral)

File Information

000000336801.pdf

(2)

分子動力学/自由エネルギー摂動法を用いた

      熱安定性の解析

山乙 教之

(3)

三盛

分子動力学/自由エネルギー摂動法を用いた

      熱安定性の解析

山乙 教之

(4)

轡血

目次

1 序論

  1.1   1.2   1.3   1.4   1.5

酵素の耐熱化の重要性

水素結合及びイオン結合の導入 疎水性相互作用の増強

変性状態における構造エントロピーの減少 分子動力学/自由エネルギー摂動法による解析

2 分子動力学/自由エネルギー摂動法

2.1 2.2 2.3 2.4

分子力場 分子動力学法

自由エネルギー摂動法 アミノ酸置換

3 アミノ酸間の水和の自由エネルギー差

3.1 3.2 3.3 3.4

序論 方法

結果と考察 結論

●

●

O ●

● ●

●

●

●

●

■

O ●

●

● ●

■ ●

O ■

●

●

■

●

■ ●

●

■

O O ●

O

●

・一一一・・ 6  ・・一・・ 6

 ・一一・7  一一一 8

 ・・・…  10

・・・・・・… @ 12

 ・・・…  12  ・・・…  14  ・・・…  17  ・・・…  21

4 Staphylococcal nuclease変異体の熱安定性の解析   4.1 序論

  4.2 A69T変異体

     4.2.エ 方法

     4.2.2 結菓と考察      4.2.3 結論

・・・・・・… @ 22

 ・・・…  22  ・・・…  24

   …  24    …  28    …  32

・工

(5)

W

卿

』

4.3 G88V変異体

   4.3.エ 方法

   4.3.2 結果と考察    4。3.3 結論

4.4 M32A変異体

   4。4.ユ

   4・4e2

   4e4e3

4.5  まとめ    4.5.エ    4.5.2    4・5e3

4・5e4

      33

      33

      34

      38

      39

方法      …39

結果と考察       …42

結論      …46

      47

水素結合の導入       …47

疎水性基の導ス      … 48

Staphyエ。σoσσaユnuσエeaseの熱安定性における Met32及びTyr27、 Phe34、 Phe76からなる 疎水コアの役割      …48

分子動力学/自由エネルギー摂動法による タンパク質の熱安定性予測         … 5 Staphylococcal nuclease M32しの熱安定性の予測   5.1 序論   5.2 方法   5.3 結果   5.4 考察   5.5 結論 6 まとめ 参考文献     49

    se     50

    51

    53

    57

    59

・・・・・・… @ 60

    62

(6)

毒}皐1, 、.t

. 鍛

隙義

   難 −灘馨鯵 難難三三難

問 凋

鰐

螺 四

野

鮒 騨

躍

酬 隔

P.

晒

爵︑ 忌﹃尼

亡

く ηW

Q

﹂戦

7

L覗

(7)

▼職

1序論

1.1酵素の耐熱化の重要性

 酵素の活性の最適温度は、37。C付近である。高温側で酵素活性が低下する のは、酵素が変性により失活するためである。しかしながら、もし酵素が耐熱 化されていれば、より高温で反応を行うことができるので、アレニウスの式(1−1 式》からわかる様に、酵素反応は促進されると期待される。

ここで、kは反応速度定数、 Aは頻度因子、 Eはアレニウスの活性化エネルギ ー、Rは気体定数、 Tは絶対温度である。したがって、耐熱化した酵素をデザ インすることは、酵素の工業的利用にとって重要な問題である。

 酵素などのタンパク質を耐熱化を行う方法として、次の三つが考えられる。

 (1》 水素結合及びイオン結合の導入  (2》 疎水性相互作用の増強

 (3) 変性状態における構造エントロピーの減少 以下に、これら三つについて、解説する。

1.2水素結合及びイオン結合の導入

 水素結合の改変によってタンパク質の安定化に成功した例としては、

subtilisin N218S変異体についての報告がある【11。 Subtilisinの野生

(8)

    一

と水素結合を形成している。N218S変異体では、 Ser218の側鎖の水酸基とよ り安定な水素結合を形成するため、N218S変異体は、野生型より安定化してい る。また、T41ysozymeのThr157を種々のアミノ酸に置換した変異体の不

安定化の原因について、X線結晶解析で調べた結果、 Thr157の側鎖の水酸基 の欠落によって、Asp159の埋もれた主鎖アミドとの水素結合が失われたため

であると報告されている【2]。

 しかしながら、水素結合が、タンパク質の安定化に寄与しないとの見方もあ る。それは、まず第一に、タンパク質が変性し、天然構造が壊れると、これま で形成していた水素結合は、切断されるが、新たに水と水素結合するので、水 素結合の出入りが変わらないからである。第二に、新規に水素結合を導入する 直な置換は、水素結合基の大きな水和の自由エネルギー差により、変性状態が 有利になるため、本質的にタンパク質を不安定化すると考えられるからである。

しかしながら、subtilisin N218s変異体の様に、より有利な水素結合に架

け替える場合は安定化する。

 イオン結合のタンパク質の安定性に対する役割は、あまり良くわかってはい ない。これは、静電相互作用が長距離力であるため、イオン結合のための解離 基導入の効果がタンパク質全体に渡ることと、通常、溶液中において解離基の まわりにはカウンターイオンが存在するため、実験データの解析と理論的取り 扱いが困難であるからである。しかしながら、水素結合基の導入と同様に、解 離基の導入は、解離基の非常に大きな水和の自由エネルギー差により、変性状 態が有利になるため、本質的にタンパク質を不安定化すると考えられる。もし、

2

(9)

.Y,一

_葛慶

イオン結合していない孤立した解離基が存在した場合、孤立した電荷はタンパ ク質の安定性にとって好ましくない。その場合、逆の電荷を持った解離基を導 入し、その純な孤立した解離基をイオン結合によって中和することで、タンパ ク質を安定化することができるかもしれない。しかしながら、孤立した解離基 は通常存在しないか、存在しても、すでにカウンターイオンによって中和され ていると考えられている・BarnaseのSer28をGluに、 Aユa32をLysに置

換し、新規にイオン結合を導入した変異実験の結果、イオン結合の安定化効果 は、わずか0.2kca1/moユであるという報告があり【31、イオン結合の新規 導入はタンパク質の安定化にほとんど寄与しない様である。

1.3疎水性相互作用の増強

 タンパク質の熱安定性に対する疎水性相互作用の重要性は、1959年に

K:auzmannにより最初に指摘された【4】。天然状態において、疎水性側鎖同士 は、タンパク質内部に凝集している。変性状態における疎水性側鎖の水への露 出は水和的に不利であるので、結果として、タンパク質は疎水性側鎖同士凝集

(疎水性相互作用》によって安定化されている。

 疎水性相互作用の増強によってタンパク質の安定化に成功した例としては、

tryptophan synthaseのα一サブユニットのGlu49の変異実験がある[5]。

Gユu49を他の19種のアミノ酸に置換したところ、アミノ酸の疎水性と熱安定 性との間に相関が観測された。E491変異体では、8kcaユ/moiも安定化して いた。また、ribonuclease HエのAla52及びVa174の変異実験[6】、T4

      3

(10)

i

4 StS,

D

エysozymeのMIO6L及びM120L変異体【7】においても、タンパク質は安定化

している。

 しかしながら、gene V proteinのV35エ変異体【8】、T4ユyso2ymeのA129V 及びL133F変異体[9】の場合では、天然状態において不利な構造変化をもたら

したため、タンパク質は不安定化していた。

 この様なアミノ酸置換を行うためには、タンパク質内部に大きな空隙が存在 しなければならないが、空隙はタンパク質内部に分散しているため、一般に、

大きな空隙は存在しないと考えられている。また、側鎖の回転の自由度にも限 りがあるので、うまく空隙に入るとは限らない。したがって、タンパク質を安 定化するのは、困難であると考えられている【101。

1.4変性状態における構造エントロピーの減少

 これは、変性状態でのエントロピーを減少させることで、変性状態を不利に して、タンパク質を安定化する方法で、S−S結合の導入、グリシンの他のアミ ノ酸への置換、他のアミノ酸からのプロリンへの置換がある。

 S−S結合を導入して、安定化に成功した例としては、T4ユysozymeにおけ る架橋実験がある【11,12】。しかしながら、理論通りにエントロピーの減少に よっているのかは、まだ確認されていない。一方、s−s結合の導入が安定性を

増強しないという報告もある【13】。

 グリシンの他のアミノ酸への置換、他のアミノ酸からのプロリンへの置換に よって、変性状態でのエントロピーを減少させて、安定化に成功した例として

4

(11)

▼︐

   璃

は、T41ysozyme A82P変異体[14】がある。

ユ.5分子動力学/自由エネルギー摂動法による解析

 この様に、タンパク質の耐熱化は非常に困難であり、タンパク質を耐熱化す る試みは、成功する数より失敗する数の方が多い。

 タンパク質におけるアミノ酸置換によって引き起こされた性質の変化をコン ピューター・シミュレーションで評価する方法として、分子動力学/自由エネ ルギー摂動法がある。すでに、いくつかのタンパク質変異体の熱安定性につい て解析がなされ、ある程度の成果を挙げている[15−17】。そこで、この分子動 力学/自由エネルギー摂動法を用いて、まず最初に、疎水性の定量的尺度であ るアミノ酸間の水和の自由エネルギー差を検証した。次いで、staphylococcal nucleaseの三つの変異体、 A69T、 G88V及びM32Aの熱安定性について解析 を行い、タンパク質の熱安定性に対する水素結合と疎水性相互作用の役割を明 らかにすることを試みた。分子動力学/自由エネルギー摂動法を用いて、タン パク質の熱安定性に対する水素結合と疎水性相互作用の役割を明らかにするこ

とを試みた。

(12)

2分子動力学/自由エネルギー摂動法

 本研究で用いた分子動力学/自由エネルギー摂動法について、以下に解説す

る。

2.1分子力場

([(lliilll))

      伸縮運動 静電相互作用

     、調調調.

     ・亀()調郵

      i 一i = 一 it

     ㌔曹、■、●㌔

      1一t−it−e

変角運動

   肝  水素結合  ・ ・

       コモロモ キ  ノ の

       ロノコ ロノコ

  ・序・(→i職鱗・IHt・

  s      ロ■P●♂o 巳

       ■、■、o

←回転運動

用 作

互

相

ル ス ー ワ ル

デ    H

@カ

H

    図2−1分子力場

 原子間に働く相互作用は、図2−1の様に、共有結合を介する伸縮振動、変角 振動、回転振動と非結合性の静電相互作用、ファン・デル・ワールス相互作用、

水素結合に分けて取り扱うことができる。これをAMBER力場[18−20】のポテ

      6

(13)

v.,

ソシャル関数で表わすと2−1式となる。

    v=Σ Kr(r−rげ   (伸細動

       bonds

     +ΣK,(θ一θ明)2  (変角振動

      angleB

     +…i弘。k,・+蜘φ一γ)掴転振動)

     +Σ盤      瀞電相互作用)

      ユくゴεRエゴ

     烈春剤 (ファン・デル・ワールス相互作用》

(2一・)

ここで、K., Kθ、 Vnは力定数、 rは結合長、 reqは平衡結合長、θは結合角、θ.

は平衡結合角、nは対称性、φは二面角、γは位相、 Rijは原子iとゴ間の距離、

9i、 qゴは原子iとゴそれぞれの原子電荷、εは誘電率、 Aij、 Cijは斥力定数Bij、

Dijは引力定数である。

2.2分子動力学法

 2−1式の様な力場で記述された分子をニュートンの運動方程式(2−2式)に従 って動かすのが、分子動力学法である。

    .. 1       mi

ここで、力Fは、2−1式のポテンシャルVの傾きから求まる(2−3式》。

      7

(14)

『曝

『 SPt・

ウ一

    Eli =一ViV(ri, 2r2,…,r.) (2一一3)

 2−2式をTaylor展開すると2−4、2−5式が得られる(Leap−Frog法》。

    Vi⊂亡+夢〕= Vi〔亡一夢)+か(t)△亡   (2−4)

    r, (t + At) = r, (t) + v,(t + i>tL)At (2−s)

ここで、速度v(t)は、2−4式で得られたv(亡+△亡/2》から、2−6式で求ま

る。

    V,(t) =i(v,(t 一一 1:ift;) + v,(t 一 dfliit;)) (2−6)

 そして、数値積分法を用いて、△亡つつ時間を進めながら、任意の時刻tで の、位置と速度を求めて、分子のトラジェクトリを得る。

2.3自由エネルギー摂動法

 二つの状態Aから状態Bへの変化に伴われる自由エネルギー変化は、2−7式

の様に定義され、2・一8式によって求められる。

    AG = G. ・一一 G. (2−7)

    AG = 一RTIn〈exp(一AH/RT)〉. (2−8)

ここで、(;AとGBは、状態AとBそれぞれの自由エネルギーである。また、

紘とHBは、同じ座標と運動量のセットに関して見積もられた状態AとBそれ ぞれのハミルトニアン、Rは気体定数丁は絶対温度、◇Aは参照状態Aに関

      8

(15)

して取られたアンサンブル平均である。実際には、自由エネルギー変化への運 動量寄与は無視できると仮定できるので、ハミルトニアンはポテンシャル関数 V(2−1式》によって置き換えることができ、2−8式は2−10式となる。

    △G=。RTユn<exp(一△V/RT》>A        (2−10》

 2−10式中のアンサンブル平均の正:確な値を得るためには、状態AとBとの 間に大きな差があってはならない。現実的なサンプリング回数で2_10式が使 える様に、二つの物理的状態AからBへの変化を十分接近したたくさんのウィ ンドウ《非物理的中間体》に分割する。自由エネルギーは状態関数であるので、

求めたい全自由エネルギー変化△Gは2−11式によって求まる。

      だ  

    △σ=σ。一σ。ニΣ△σi      (2−11》

      i=1 ここで、Nは、ウィンドウの総数。

 ウィンドウ分割のために、ポテンシャル関数VにV(r,λ》が0≦λ≦1の 間でVAからVBへ単調に変化する様な状態変数λを導入する。ここで、λ=0

のとき、V(r,λ=0》=VA(r》であり、λ=1のとき、 V(r,λ=1》=vr.(r)

である。このとき、△Giは2−12式で求まる(window−Growth法)。

    △q=一RT・Kexp(一△Vi!RT》λ     (2一・2》

      ま ここで、△Viは2−13式から与えられる

    △Vi=V(r,λ、.、》一V(r,λ、)       (2−13》

i=0のとき、λ。=0であり、i=Nのとき、福=1である。

(16)

『賑

 う

 t

 各ステップで系が平衡が維持すると仮定できるほど、λを十分にゆっくりと 変化させると、2−12式におけるアンサンブル平均は、その瞬間値によって置 き換えることができ、2−14式となる(Slow−Growth法》。

    △q=一RTIn{exp(一△Vi/RT)}=△Vi     (2−14》

したがって、2−11式は、2−15式となる。

      ガ ユ

    ムG=G。一G。=Σ△Vi .        (2。15》

      i=1

 そして、分子動力学法で求めたトラジェクトリを用いて、2−14式をサンプ リングし、状態Aから状態Bへの変化に伴われる自由エネルギー変化を2−15

式を積算して求める。

2.4アミノ酸置換

   開始時      

     1   時間経過

H一一 一

  H  H  O

  AIa 《λ= 0》

図2。2アミノ酸置換

DMは、相互作用しないダミー原子。

   終了時     甲

     :

  DMee H一 一  DM

     s

  H  H  O

  GIy (a = 1)

状態変数λは、アミノ酸置換を行うシミュレーションの場合、λ=0のとき

      10

(17)

は・元のアミノ酸を、λ=1のときは、置換後のアミノ酸を表わしている。

 例えばアラニンをグリシンに置換する場合(図2。2》、シミュレーション時間 の経過と伴にλを動かし、コンピューーター・メモリー内のアラニン原子のパラ

メーターを徐々にグリシン原子のパラメーターに置き換えて行く。そして、2_

14式のSユow−Growth法を用いて、λの変化に対する自由エネルギー変化を積 算して、アミノ酸置換に伴われる自由エネルギー変化を求める(2−15式》。

11

(18)

腎・  亀

3アミノ酸間の水和の自由エネルギー差[21】

3.1序論

 1・3で述べた様に、アミノ酸残基側鎖の疎水性は、タンパク質の熱安定性に おいて重要な役割を果たしていると考えられる【4】。疎水性の定量的尺度は、

アミノ三間の溶媒和自由エネルギー差から通常得られる。この溶媒和自由エネ ルギー変化は、TanfordとNozakiによって最初に測定され【22,23】、以後、

多くの研究が行われている【24−28】。近年、Sharpらは、 Flory一・Huggins 理論[29・一301に基づき溶媒和自由エネルギー変化の実験値が過小に評価されて いることを指摘した[31]。移行に伴われる溶媒和自由エネルギー変化を観測さ れた濃度と関係付ける式は、通常、3−1式である。

ここで、Kは分配係数、 Rはモル気体定数、 trは絶対温度である。溶媒和自由 エネルギー変化の実験値は、通常、この式に基づいている。しかしながら、ア ミノ酸と水の様に、溶質と溶媒分子の大きさが異なる場合、Flory−Huggins 理論に基づき、体積項によって補正されなければならない。

    AG= 一RTInK+ RT(1一 V,/V.) (3−2)

ここで、VsとVvは、溶質と溶媒それぞれのモル体積である。これは、より大 きな溶媒和自由エネルギー変化を導き出し、その結果、Sharpらは異なる疎水

性尺度を導いている。

 与えられた化合物の溶媒和自由エネルギー変化がいつも実験で決定されてい        12

tat tk t.ttttEt一 一 一 一 L lt 一一 t t..tl 一. .  r一一 t O/ . .

(19)

爆〜

るわけではない。それゆえ、実験すること無しに自由エネルギー差を決定する 方法は・とても重要である。分子動力学(mu))/自由エネルギー摂動(FEP)法は、

これを決定するのに非常に役立つ。コンピューター・シミュレーションで得ら れた自由エネルギー差は、従来、3−1式に基づいた値と比較されてきた[32,33】。

しかし、Sharpらは実験とコンピューーター・シミュレーションの一致の範囲に ついて再評価すべきであることを指摘した【31】。

 この再評価を行うために、M)/FEP法を使用して、中性アミノ酸間の水和の 自由エネルギー差を計算した。中性アミノ酸は、溶質と溶媒の大きさの違いの 自由エネルギー差に対する寄与を明らかにするのに適している。計算値を、未

補正値(3−1式》及び補正値(3−2式》と比較した。

(20)

剛7

レ

3.2方法

AGhydr(B)

図3−1水和の熱力学的サイクル

A、Bは、それぞれアミノ酸A及びB。△(%Pt(A)、△(LPt《B)は、アミ ノ酸A、Bそれぞれの水和の自由エネルギー変化。△G。→,(g)、△(転→,《aq》

は、気相、水相中それぞれでアミノ酸AをBに置換するのに伴われる 自由エネルギー変化。

 アミノ酸間の水和の自由エネルギー差は、熱力学的サイクル(図3−1》を使っ て決定される。アミノ酸AとBが・それぞれ、気相【A(9》とB(9》】と水相[A(aq》

とB(aq)]の両方にある熱力学的サイクルを考える。アミノ酸AとBの水和の

自由エネルギー変化[△Ghydr(A)と△Ghydr(B》】は・実験的に測定することができ

る。水和の自由エネルギー変化をM)/FEP法で直接決定することは非常に困難 であるが、気相及び水相中でアミノ酸AをBに置換するのに伴われる自由エネ

14

(21)

ルギー一変化【△G。→。(9》と△(;A→。(aq》1を計算するのは容易であるので、これを計

算する。自由エネルギーは状態関数なので、サイクル内のそれぞれの経路の△G の総和は等しい。3−3式は、図3−1で定義されるサイクルにおける自由エネル ギー変化の関係を示している。

    AGA一.B(g) + AGh,d.(B) = AGh,d.(A) + AG...(aq) (3−3)

アミノ酸間の水和の自由エネルギー差を現わす様に3−3式を変形すると3−4

式になる。

     MG = AG,,..(B) 一 AG,,..(A) = AG...(aq) 一 AG..,(g) (3−4)

これにより右辺の計算値と左辺の実験値が比較できる様になる。

 MD/FEP計算は東芝SPA:RC LT AS1000/LIO上でAMBER 4.0[341を用い て行われた。気相の計算において、伸びた構造のアミノ酸のN一アセチルーN 一 メチルアミド体が初期構造として使われた。水相の計算において、この分子を 点状の約700個のT:P3P水分子【35】で溶かし、計算を周期境:界条件下で行っ た(図3−2》。系をエネルギー極小化した後、MD法で10 ps平衡化した。

 MD/FEP計算は、気相、水相共に定温(298 K:)、水相ではさらに定圧(1気 圧》で行われた【36】。力場は、AMBER 1991年力場【34】を用いた。高振動運 動を取り除く目的のためにSHAKEを用いて結合長を拘束した【37】。そして、

タイムステップを1fsとした。非結合相互作用のためのカットオフ半径は9A

とした。ペアリストは、20ステップ毎に更新された。FEP計算は、 AMBERの

Slow−Growth法を使って行われ・自由エネルギー変化は、行き(λき0→1》

(22)

と帰り(λ=1→0)を平均して求められた。全摂動時間は、両方向において、80 psとした・摂動を受ける基としてアミノ酸全体を取った。1987年当時、

Kollmanと彼らのグループ【32】によって使われたAMBER 3.0では、計算さ れた自由エネルギー変化に、摂動基と水(及び保護基》との間の相互作用のみが 含まれ・摂動基内部相互作用は含まれていなかった[38】。そのため、△G。→。(9》

は0となるので・△(;A→,(aq》のみが計算されていた[32,33】。 AMBER 4.0で

は・摂動基内部相互作用が計算可能になったので【341、自由エネルギー変化に

摂動基内部相互作用を含めることとし、△(;A→。(9)と△(転→。(aq》の両方を計算し

た。

 計算に使用した系は、表3−1に示されている。上段の六つは、疎水性が増す 置換で、下段の三つは、親水性が増す置換である。

   ?   r    ♪        馬

 図3−2初期構造の立体図

       16

(23)

懸.

3.3結果と考察

表3−1アミノ酸間の水和の自由エネルギー差 置換 Z!YSGuncorr AAGcorr MGcaic Gly一>Ala

Va].→エユe

Aユa→Val Phe→1ユe

Met一一一>Leu

rle一>Leu Trp一>His Thr一>Ser

CysoSer

一〇.45 O.21 1.14

0.16 O.82 1.43 0.05 1.44 1.57 2.91 2.71 2.65 3.76 4.27 3.43 0.13 O.31 O.71

−4.39 一5.85 一5.74

−O.18 一一〇.77 一1.08

−3・82 e 4・32 一3・76

単位は、kc a 1/moユ(298 K)。△△Gは、水和の自由 エネルギー差で、3−4式から求められた。AISG.nc。rr は、未補正値t25−27】。△△G。。rrは、補正値【31】。

△△G。。、。は、計算値。

 表3−1に、シミュレーションの結果を未補正値【25−27】及び補正値[31】と 比較している。計算値と対応する未補正値及び補正値との相関を図3−3に示す。

 未補正値に関して(図3−3a》、相関係数は、 r=0.938となり、次の回帰式

が得られた。

    AAGuncorr = O.823AAGcaic 一一 O 235 (±O.115) (3−5)

ここで、△△G。n。。。rは、未補正値、△△G。。、。は、計算高。

(24)

(a)

  6

..8qげ薯

4

2

o

一2

..

S

一6

o

o

⑰︒

o o

(b)

  6

4

  2

g

2 eV 0  −2

一4

一6

一6   −4   −2    0    2

       AAGeaic

4

6

一6  −4

一2 O 2

  AAGcale

4

6

図3−3計算値との相関

(a》計算値と未補正値[25−27】との相関。(b)

計算値と補正値[31]との相関。△△G。。、。は、計

算値。△△Gun。。rrは、未補正値。△△G。。rrは、補正 値。実線は、回帰直線。

18

(25)

 補正値に関して(図3−3b》、相関係数は、 r=0.987となり、次の回帰式

が得られた。

    AAGcorr   1.042AA Gcaic 一 O.172 (±O.065) (3e6)

ここで、△△G。。。.は、補正値。

 計算値は、未補正値よりも補正値と良く一致していた。3_6式の傾きは、3_

5式よりも1に近く、3。6式の切片も、3−5式よりも0に近かった。これは、

計算値が補正値と直接比較できることを意味している。

この結果は、Koエ1manと彼のグル・・一一プによって得られた結果と異なっている

【32,33】。これは、自由エネルギー変化に摂動基内部相互作用が含まれている ためと考えられる。

 補正値と未補正値の関係は、3−4式の左辺の項それぞれに3−8式を代入する

と得られる。

    zMGcorr = AGhydr(B)   AGhydr(A)

        =←RTInK.+RT(1−V』/VWA。》}一{一R皿nKA+RT(1・一VA/VWAr》}

        ={←RτlnK』》一(一R皿nKA》}+R烈監一V』ソv。M           Z!VS Guneorr + R T( VA 一 VB)/VNAT (3n8)

ここで、VA、 VB、 VWA。は、それぞれ、アミノ酸A、 B、水のモル体積。真の水和

の自由エネルギ・一・・…差(△△(;c。。.》は、zMG。。e。。rよりもRT(VA−VB》/VWA,だけ大き

い。

(26)

 FEP計算において、側鎖の原子は出現したり、消失したりするので(図2。2)、

溶質分子の体積は変化する。そのため、RT(VA−v』》/VWATを正確に評価して いると考えられる。

    表3−2アミノ酸置換に伴われる自由エネルギー変化

置換

AG ...(aq)

AG ..,(g) △△σcaユC

Giy一>Ala

Vaig:1e

Aia一一)Val

Phe→工1e

Me・ヒ→Leu

TleoLeu

Trp一>His Thr一>Ser

Cys−Ser

2.69±O.12 1.54±O.05 1.63±O.61 O.20±O.14 6.13±O.47 4.57±O.24 6.69±O.92 4.04±O.94 16.86±O.18 13.43±O.05

−2.64±O.49 一3.35±O.24

一一 X.04±O.04 一3.30±O.10 1.12±O.90 2.20±O.49 26.14±O.50 29.90±O.04

1.14 1.43 1.57 2.65 3.43 0.71

印5.74

−1.08

−3.76

単位は、kcal/m◎i(298 K》。△σA→。《aq》、△G。→。(g)は、水相、

気相中それぞれにおけるアミノ酸置換に伴われる自由エネルギー変化。

△△G。。、。は、水和の自由エネルギー差で、3−4式から求められた。

 水相及び気相中でのアミノ酸置換に伴われる自由エネルギー変化を表3_2に 示す。水相での自由エネルギー変化は、系が気相中よりも複雑であるため、気 相中の自由エネルギー変化よりも少し誤差が大きかった。もし、より正確な自 由エネルギー差を得たいならば、水相ではより長い摂動時間を必要とする【39】。

しかしながら、水相及び気相中ともに、誤差が1kcal!mol以内なので、計

算結果は信頼できる。

      20

(27)

 疎水性が増すアミノ酸置換の内、最初の五つは、水相及び気相共に自由エネ ルギー的に不利であるが、水相での自由エネルギー変化がより不利となってい るので、疎水性が増している。逆に、イソロイシン→ロイシンの系は、水相及 び気相共に自由エネルギー的に有利であるが、気相での自由エネルギー変化が より有利であるので、結果として疎水性が増している。

 親水性が増すアミノ酸置換の内、トリプトファン→ヒスチジンの系は、水相 及び気相共に自由エネルギー的に有利であるが、水相での自由エネルギー変化 がより有利となっているので、親水性が増している。逆に、スレオニン→セリ

ン及びシステイン→セリンの系は、水相及び気相共に自由エネルギー的に不利 であるが、気相での自由エネルギー変化がより不利であるので、結果として親

水性が増している。

3.4結論

 分子動力学/自由エネルギー摂動法は、Flory−Huggins理論[29,301に基

づくSharpらアミノ酸間の水和の自由エネルギー差【31]を再現する。またこ

のことは、分子動力学/自由エネルギー摂動法が、タンパク質の様な多くのア

ミノ酸を含んだ系でも、一一つのアミノ酸残基が置換された際の正確な自由エネ

ルギー差を計算できることを示唆している。

(28)

4Staphyユococcal nuclease変異体の熱安定性の解析[40,411

4.1序論

 Staphylococcaユnucleaseは、部位特異的変異法を用いて、熱安定性が

詳細に研究されているタンパク質の一一一一一つである。ヌクレアーゼは、ジスルフィ

ド結合を持たない149残基の一本のポリペプチド鎖からなっている。また、野 生型ヌクレアーゼの結晶構造も、すでに決定されている[42−45]。Shortle

と彼のグル・…一・プによって、たくさんの変異体が作られ、その熱安定性やCDス ペクトルなどが測定されている【46−56】。

 分子動力学(mo)/自由エネルギー摂動(FEP)法を用いたタンパク質変異体の 安定性の解析のために、このstaphylococcal nucleaseの三つの変異体、

A69T(Ala69→Thr》、G88V(Gユy88→Va1》及び鵬2A(Met32→Aユa)を選んだ。

A69Tは、水素結合が可能である水酸基が導入される置換で、親水性が増し

(△△Ghydr(Aユa→Thr)=一6.17 kcal/mol[31】)、側鎖が大きくなる置換で

ある。G88Vは、疎水性が増し(△△Ghydr(Gly→Val》=1.65 kcal/mo1[31】》、

側鎖が大きくなる置換である。M32Aは、疎水性が増し(IMGhydr(Met→Ala)=

1.70kcal/mol[31】》、側鎖が小さくなる置換である。 Ala69は、α一ヘリ

ックス終わりのループ部に位置し、Gly88とMet32は、5一ストランドーβ一バ

レルを構成するそれぞれ別のβ一シートに位置している(図4・一1》。A69T、 G88V

及びM32Aの熱安定性は、それぞれ、一2.7[46】、一1.0【461及び一1.7

       22

(29)

kcal/mol[50】と実験で決定されている。 M)/FEP法を用いて、これら三つ

の変異体の熱安定性を解析し、水素結合と疎水性相互作用がタンパク質の熱安

定性に果たす役割を明らかにすることを試みた。

(30)

4.2A69丁変異体【40】

4.2.エ方法

△(葡

△G晦→M(N》

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一 P)))

AGi 1v.M ( D )

変異勤

      天然状態(N》      変性状態(D》

図4−2熱安定性のための熱力学的サイクル

ム(藁、△(㌔は、野生型、変異型それぞれの変性の自由エネルギー変化。△(赫.刑《N)、

△(㌔→M(D)は、天然状態、変性状態それぞれにおいてアミノ酸残基を置換するのに伴

われる自由エネルギー変化。

 変異体の熱安定性は、熱力学的サイクル(図4−2)を使って決定される。野生 型及び変異型の変性の自由エネルギー変化【△(Mと△(;M】は、実験:的に測定する

ことができる。変性過程をシミュレーションし、その変性の自由エネルギー変 化を直接決定することは現在のコンピューターの能力を越えているので、天然 状態及び変性状態においてアミノ酸残基を置換するのに伴われる自由エネルギ

ー変化【△(i,。.、,(N》と△G晦→。(D》】を計算する。自由エネルギーは状態関数なの

      24

pN一■胴闘■闘闘願願一■一・關隔一一騨一■一顧一鳳一騨一一r

(31)

▼擁

で、サイクル内のそれぞれの経路の△Gの総和は等しい。4−1式は、図4−2で 定義されるサイクルにおける自由エネルギー変化の関係を示している。

    AGWr.,E〈N) + A GM = A GwT + A〈1inr一 s(D) (4el)

変異体の熱安定性を現わす様に4−1式を変形すると4−2式になる。

    MGM   A GM 一 A GENT = A GI !r.M(D) 一 A GwT.M(N) (4−2)

これにより右辺の計算値と左辺の実験値が比較できる様になる。ここで、△△儀>

0のとき、変異型が野生型より安定であることを、△△(もく0のとき、変異型 が野生型より不安定であることを現わしていることに注意せよ。

 天然状態の初期構造は、Brookhaven National Laboratories Pro七ein Data Bank(USA》に2SNSとして登録されている野生型のstaphylococcal nucleaseのX線結晶構造を用いた[42】。そして、 Ala69のC。原子から半径

16Aの球状に321個のTIP3P水分子[35】を被せた(図4−3)。系をエネルギ ー極小化し、M)法を用いて定温293 K[36】で10 ps平衡化した。計算の間、

AbCBERのBellyオプションの使用して、 Ala69のC。原子から13 Aの半径内 にある残基と水分子のみを動かした。

 変性状態の初期構造として利用できる構造は無いので、残基距離の離れた残

基との相互作用は変性状態では野生型と変異型に差はないと考え、伸びた構造

のペンタペプチドモデルを使用した。Ala69から両側二残基までの五残基を取

り、N末端をアセチル基で、 C末端をN一メチル基で保護した(Ac−Glu−Asn。

(32)

央に置いた(図4−4》。系をエネルギー極小化し、M)法を用いて、定圧1気圧[36】、

定温293K、周期境界条件下で10 ps平衡化した。

 FEP計算は、 AbEBERのSlow一一Growth法を使って行われ、自由エネルギー一変 化は、行き(λ=0→1》と帰り(λ=1→0》を平均して求められた。摂動時間 は、天然状態では90ps、変性状態では、60 psとした。摂動基として置換 残基全体を取った。置換残基と他の残基及び水との相互作用のみを△Gの評価 に含めた。したがって、置換残基内部の相互作用は、天然状態と変性状態で同 様であると仮定している。FEP計算の終了時には、 Ala69はThr69に完全に 置き変わっている。この構造を初期構造と同様にエネルギー極小化し、MD法 で10ps平衡化して、 A69丁変異体の立体構造を得た。

 力場は、AMBER 1989年力場【18−201を用いた。高振動運動を取り除く目 的のためにSHAKEを用いて結合長を拘束した【37】。そして、タイムスチップ を1fsとした。非結合相互作用のためのカットオフ半径は8Aとした。ペア リストは、20ステップ毎に更新された。M)/FEP計算はSilicon Graphics IRエS 4D!420上で1WBER 3.OA【38】を用いて行われた。 Midasplus[57】

及びSYBYL 6.5【581を用いて、立体構造を調査した。

26

騨ナ「願願鳳鳳隔願闘騨闘一一一顯願■闘鳳願騨嗣鳳隔顧一胴「

(33)

図4−3天然状態の初期構造の立体図

図4−4変性状態の初期構造の立体図

(34)

4.2.2結菓と考察

  表4−1Staphylococcaユnuclease A69Tの熱安定性

変異体 △(輪→A69T(N)△G ec1r→。69T(D) AA Gcaic AAGexpt

A69T 一3.8±O.1 一6.6±O.1

一2.8 一2.7 単位は、kca1/mo1(293 K)。△(藁→A69T(N)、△(輪→A69T(D》は、天然状態、変性 状態それぞれにおけるアミノ酸置換に伴われる自由エネルギー変化。△△Gは、熱 安定性で、4−2式から求められた。△△G。。Z。は、計算値。△△GexPtは、実験値[46】。

 A69丁変異体の熱安定性は、△△(;A6g.零。2.8kcal!molとなり、実験値一2.7

kcal/moユ【46】と良く一致している(表4−1)。 Ala69→Thrの置換に伴われ

る自由エネルギー変化は、天然状態において△(M→A69T(N)=一3.8±O.1

kcal/mol、変性状態において△(輪→。6gT(D》=一6.6±0.2 kcal/rno1であっ

た。置換は、天然状態及び変性状態共に、自由エネルギー的に有利であるが、

変性状態での自由エネルギー変化がより有利であるので、結果として、A69丁 変異体は、野生型よりも不安定となる。計算誤差は、天然状態において。.1 kcal/mo1、変性状態において0.2 kcal/mo1であり、計算結果は信頼でき

る。

 天然状態において(図4−5》、A69丁変異体のThr69の側鎖の水酸基の近傍に 一個の水分子が浸入してきているが、Thr69の水酸基は、完全には水に露出し ていない。Thr69の水酸基は、 Met65の主鎖のカルボニル基との間に水素結 合を新たに形成している。また、野生型において、Ala69のメチル基はIle72、

Ala94、及びAsp95との間でファン・デル・ワールス相互作用しているが、 A69T

      28

ワト剛■■■胴闘胴隔隔■闘一鳳一一一■一一闘一一鳳一闘一一鳳一一

(35)

変異型では、よりかさ高いスレオニン側鎖の立体障害のため、Thr69のメチル 基はエle72と相互作用するのみで、他は失われている。この様な環境のため、

天然状態においてAla69→Thrの置換に伴われる自由エネルギー変化は、・一3.8

kca1/molと自由エネルギー一的に有利であるが、アラニンとスレオニン間の水 和の自由エネルギー差(AAGhydr(Ala→Thr》=一6.17 kcal/mo1【31Dと比

較して小さい。

 変性状態において(図4−6)、69残基目の側鎖は、野生型及び変異型におい

て、完全に水に露出している。そのため、変性状態においてAla69→Thrの置

換に伴われる自由エネルギー変化は、一6.6kca1!mo1と、アラニンとスレオ

ニン間の水和の自由エネルギー差(一6.17kcal/mol》に匹敵する。

(36)

(a)

  v N

  ×

69

65

.,.!lii

N ×

94

 7

69

(b)

9

J J

94

V︐

5

〃V Vイ レ V4

図4−5A69丁変異体の天然状態の立体図

   (a)野生型、(b》A69丁変異型

30

(37)

▼擁

(a)

   マ ( へく

ノ  /叉  、

 ㌧、  1

   夕^ゾ     ⇒

     )

   マ

ノ     ・

         ト

 N   、

   〉1\〆      ♪

(b)

th..,,.

k

 rく

へ

sr,li..,

︑

矢

  ノ

K一

図4_6A69丁変異体の変性状態の立体図

   (a》野生型、《b)A69丁変異型

(38)

4.2.3結論

 分子動力学/自由エネルギー摂動法で、s七aphylococcal nuclease A69丁 変異体の熱安定性を再現することができた。Ala69→Thrの置換は、天然状態 及び変性状態共に、自由エネルギー的に有利であるが、変性状態での自由エネ ルギー変化がより有利であるので、結果として、A69丁変異体は野生型よりも 不安定化している。A69丁変異体の天然状態において、 Thr69の側鎖の水酸基 がMet65の主鎖のカルボニル基との間に水素結合を新たに形成しているが、

水酸基が完全に水に露出している変性状態の方がより自由エネルギー的に有利 であるため、この水素結合は、熱安定性に対する安定化効果を発揮しない。

32

(39)

EVi;!

一補レ

4.3G88V変異体[40】

4.3.エ方法

 天然状態の初期構造は、Brookhaven National Laboratories Protein Data Bank(USA》に2SNSとして登録されている野生型のstaphylococcal nucleaseのX線結晶構造を用いた【42]。そして、 Gly88のC。原子から半径

16Aの球状に196個のTエP3P水分子[35】を被せた。系をエネルギー極小化 し・MD法を用いて定温293:K【36】で10 ps平衡化した。計算の間、 AMBER のBellyオプションの使用して、 Gly88のC。原子から13 Aの半径内にある 残基と水分子のみを動かした。

 変性状態の初期構造として、伸びた構造のペンタペプチドモデルを使用した。

Gly88から両側二残基までの五残基を取り、 N末端をアセチル基で、 c末端を N。メチル基で保護した(Ac−GZy−Arg−Gユy一:Leu−Ala−N−Me)。そして、1386 個のTIP3P水分子で構成される箱の中央に置いた。系をエネルギー極小化し、

MD法を用いて、定圧1気圧【36】、定温293 K:、周期境界条件下で10 ps平

衡化した。

 FEP計算は、 AMBERのSlow一・Growth法を使って行われ、自由エネルギー変

化は、行き(λ=0→1)と帰り(λ=1→0》を平均して求められた。摂動時間

は、天然状態では120ps、変性状態では、40 psとした。摂動基として置換

残基全体を取った。置換残基と他の残基及び水との相互作用のみを△Gの評価

に含めた。FEP計算終了時の構造を初期構造と同様にエネルギー極小化し、 mD

(40)

7レ ? 

槻

法で10ps平衡化して、 G88V変異体の立体構造を得た。

 力場は、AMBER 1989年力場[18。20]を用いた。高振動運動を取り除く目 的のためにSHAKEを用いて結合長を拘束した【37】。そして、タイムスチップ を1fsとした。非結合相互作用のためのカットオフ半径は8Aとした。ペア リストは・20ステヅプ毎に更新された。MD/FEP計算はSilicon Graphics エRエS4D/420上でAMBER 3・OA【38]を用いて行われた。 MidasPlus 【57]

及びSYBYL 6.5[58]を用いて、立体構造を調査した。

4。3.2結菓と考察

  表4−2Staphylococcal nuclease G88Vの熱安定性

変異体 △GWT.,GS8v(N》△(M..8sv(D》 MGcaic MGexpt

G88V

2.8±O.5

1.7±O.3 一1.1

一1.0

単位は、kca1/mol《293 K》。△(㍉..、sgv(N)、△(M−x)8sv《D)は、天然状態、変性

状態それぞれにおけるアミノ酸置換に伴われる自由エネルギー変化。△△Gは、熱

安定性で、4。2式から求められた。MGeai。は、計算値。 AAG。.Ptは、実験値[46】。

 G88V変異体の熱安定性は、△△G。88.=。1.1kca1/mo1となり、実験値一1.O kcal/mol【46】と良く一致している(表4−2)。 Gly88→Valの置換に伴われ

る自由エネルギー変化は、天然状:態において△(1M.x SSv(N》=2.8±0.5 kcal!mo1、変1生状態において△(M.。、s8v(D》=1.7±0.3 kcal/molであった。

置換は、天然状態及び変性状態共に、自由エネルギb..一一的に不利であるが、天然

状態での自由エネルギー変化がより不利であるので、G88V変異体は、野生型

34

(41)

摯叫

よりも不安定となる。計算誤差は、天然状態において0.5kcal/mo1、変性 状態において0.3kcal/mo1であり、計算結果は信頼できる。

 天然状態において(図4−7》、野生型において、Gly88はMet32、Thr33、Phe34、

Phe76及びThr82との間で密なファン・デル・ワールス相互作用しているが、

G88V変異型では、よりかさ高いバリン側鎖の立体障害のため、 Met32、 Phe34 及びPhe76が動いて、空隙が生じたため、ファン・デル・ワールス相互作用 が失われている。そのため、天然状態において、Gly88→Valの置換に伴われ る自由エネルギー変化が、2.8kcal/molと自由エネルギー的に不利になっ

ている。

 変性状:態において(図4−8)、88残基目の側鎖は、野生型及び変異型におい て、完全に水に露出している。そのため、変性状態においてGly88→Valの置 換に伴われる自由エネルギー変化は、1.7kcaエ!mo1と、グリシンとバリン 間の水和の自由エネルギー差(AAGhydr(Gly→Val》=1.65 kcai/mol【31】)

にほぼ等しい。これは、変性状態の自由エネルギーを不利にするため、潜在的

にタンパク質の安定化に働いている。

(42)

(a)

6

yee

4 4

3

(b)

6

8

R33

図4−7G88V変異体の天然状態の立体図

   (a)野生型、《b》G88V変異型

36

(43)

(a)

へ レ

ぐ〃

(b)

N

黛 > N    A

) N

\ へ 一く 刈 へ

図4−8G88V変異体の変性状態の立体図

   (a)野生型、《b)G88V変異型

(44)

4.3.3結論

 分子動力学/自由エネルギー摂動法で、staphylococcal nuclease G88V 変異体の熱安定性を再現することができた。Gly88→Va1の置換は、天然状態 及び変性状態共に、自由エネルギー的に不利であるが、天然状態での自由エネ ルギー変化がより不利であるので、G88V変異体は野生型よりも不安定化して いる。G88V変異体の天然状態において、Va188の側鎖の立体障害のため、Met32、

Phe34及びPhe76が動いて、空隙が生じ、ファン・デル・ワールス相互作用 が失われたため、自由エネルギー的に大きく不利になっていた。しかし、

Gly→Va1の置換は、本質的に変性状態の自由エネルギーを不利にするため、

天然状態での立体障害が無ければ、タンパク質の安定化に働く。

38

噂

(45)

響告f≠

4.4M32A変異体【41】

4.4.z方法

 天然状態の初期構造は、Brookhaven National Laboratories Protein Da七a Bank(USA》に2SNSとして登録されている野生型のstaphylococcal nuclea8eのX線結晶構造を用いた【42】。そして、 Met32のCp原子から半径 16Aの球状に275個のTエP3P水分子[35】を被せた。系をエネルギー極小化

し、mu)法を用いて定温293 K f 36】で10 ps平衡化した。計算の間、 AbEBER

のBellyオプションの使用して、 Met32のCp原子から13 Aの半径内にある

残基と水分子のみを動かした。

 変性状態の初期構造として、伸びた構造のペンタペプチドモデルを使用した。

Met32から両側二残基までの五残基を取り、 N末端をアセチル基で、 C末端を N一メチル基で保護した( Ac 一・Gln−Pro−Met−Thr−Phe。N−Me》。そして、2009

個のTエP3P水分子で構成される箱の中央に置いた。系をエネルギー極小化し、

mu)法を用いて、定圧1気圧【361、定温293 K、周期境界条件下で10 ps平

衡化した。

 Met→Alaの直接的な接動は、メチオニンの大きな側鎖の消失によって生じ た大きな空隙に水分子が急速に入ってくるため、収束せず誤差が大きくなる。

mu)/FEP計算において、非常に長い摂動時間をかければ、直接的な接動でも収

束することが知られている[39]。自由エネルギーは状態関数であるので、二つ

の系の問の自由エネルギー差は、選んだ経路に依存しない。それゆえ、適切な

(46)

▼鑑

差を小さくできると考えられる。そこで、M32Aの摂動について、

Met32→ethy1一・Gly(M32eG》とethy1−Gly32→Ala(eG32A》の二段階か

らなる経路に沿って行う多段階摂動法を考案した(図4−9》。

        △(葡

N 冊》一一→レD(冊》

AGV T一一>M32eG ( N )

△(祉32eG

AGNT一>M32eG ( D )

N ( M3 2 eG ) e一一 m一一 一一 一 一一n 一 一一)) D ( M3 2 eG )

AG$f32eG一一>M3 2A ( N ) AG$c32eG一〉,e32A ( D )

        N(M32A) 一一 一一 一M 一  D(M32A)

       A(IN32A

  図4−9M32A変異体の熱安定性のための熱力学的サイクル

  Nは、天然状態。Dは、変悸状態。△(M、△(秘2.。、△(秘2為は、野生型、 M32eG及びM32A   変異型それぞれの変性の自由エネルギー変化。△G(N》、△G(D)は、天然状態、変性   状態それぞれにおいてアミノ酸残基を置換するのに伴われる自由エネルギー変化。

4−1式を図4−9のそれぞれの熱力学的サイクルに適用すると、4−3式と4−4

式が得られる。

    △(1)errt→M 32eG(:N》 +△(;M 32eG=△(ミ冊+△G湘3ゴeG(D》       《4−3》

       40

(47)

マ・

ギー

    AGM32eG.eG32A(N) + A GM32A = A GN32eG + A GM32e(]一一>eG 32A(D) (4−4)

M32A変異体の熱安定性を現わす様に4−3式と4−4式を変形すると4。5式が 得られ、この式によって、実験値と計算値が比較できる。

    AAG.32. = AGM32. 一 AG.

        = {AGn,一Hi32eG ( D ) + A GM32eG一,G32A ( D ) }

        一 {AGbvEr!一一32eG(N) + A GM32eG一>eG32A(N)} (4−5)

 FEP計算は、瀞田ERのSlow−Growth法を使って行われ、自由エネルギー変 化は、行き(λ=0→1》と帰り(λ=1→0)を平均して求められた。M32eGと eG32Aの計算に関して、行きと帰りの摂動時間は60 psとした。摂動基とし て置換残基全体を取った。置換残基と他の残基及び水との相互作用のみを△G の評価に含めた。FEP計算終了時の構造を初期構造と同様にエネルギー・…一極小化

し、MD法で10 ps平衡化して、 M32A変異体の立体構造を得た。

 力場は、AMBER 1991年力場【34】を用いた。高振動運動を取り除く目的の ためにSHAKEを用いて結合長を拘束した[37]。そして、タイムスチップを1fs とした。非結合相互作用のためのカットオフ半径は9Aとした。ペアリストは、

M:D計算においては20ステップ毎に更新され、FEP計算では10ステップ毎に 更新された。MD/FEP計算はSnicon Graphics IRIS 4D/420上でAMBER 4.0

【34]を用いて行われた。MidasPlus【57】及びSYBYL 6.5【58】を用いて、

立体構造を調査した。

(48)

マ賓      底

4.4.2結菓と考察

    表4−3Staphylococcal nuclease M32Aの熱安定性

置換 △(in.、,(N》△(M一,.(D) AA Gcaic

ZVSGexpt

M32eG 2.7±O.7 1.8±O.5

eG32A O.6±O.1 一〇.4±O.1

M32A

3.3 1.4

一1.9

一1.7

単位は、kcal/mo1(293 K》。△(赫州(N)、△(輪.Ut(D)は、天然状態、

変性状態それぞれにおけるアミノ酸置換に伴われる自由エネルギー変 化。△△Gは、熱安定性で、4。5式から求められた。△△(;eal。は、計算 値。△△G.xptは、実験値[50】。

 M32A変異体の熱安定性は、△△G』32A=一1.9kca1/mo1となり、実験二一1.7 kcal/mol【50】と良く一致している(表4−3》。 Met32→Alaの置換に伴われ

る自由エネルギー変化は、天然状態において△(二一32A(N》=3.3 kcal/mol、

変性状態において△GwEr一>M32。(D)=1.4 kcal/mo1であった。置換は、天然状

態及び変性状態共に、自由エネルギー的に不利であるが、天然状態での自由エ ネルギー変化がより不利であるので、M32A変異体は、野生型よりも不安定と

なる。計算誤差は、天然状態において、Met32→ethy1 ・一Glyでは、0.7kca1/mo1、

ethyl−Gly32→Alaでは、0.1 kca1/molであった。変性状態において、

Met32→ethy1−Glyでは、0・5 kcal/mo1、 ethyl−Gly32→Alaでは、0。1 kcal/mo1であった。この様に、計算誤差を非常に小さく抑えることができる ので、多段階摂動法が有効であることが分かった。

42

(49)

 M32A変異体の天然状態において(図4−10》、 Met32が、側鎖の短いAlaに 置換されたため、新たに生じた空隙に、水分子が侵入して、Thr27、 Phe34及 びPhe76からなる疎水環境を破壊している。そのため、疎水性相互作用が失 われ、天然状態におけるMet32→Alaの置換に伴われる自由エネルギー変化が、

3.3kcal/m◎1と自由エネルギー的に不利になっている。このことから、Met32 は・野生型の天然状態において、Thr27、 Phe34及びPhe76からなる疎水コ アを保護する役割を担っていると考えられる。

 変性状態において(図4−11)、32残基目の側鎖は、野生型及び変異型におい て、完全に水に露出している。そのため、変性状態においてMet32→Alaの置 換に伴われる自由エネルギー変化は、1.4kcaエ/moユと、メチオニンとアラ ニン間の水和の自由エネルギー差(△△Ghydr(Met→Ala)=1.70 kcal!mol

【31Dに匹敵している。これは、変性状態の自由エネルギーを不利にするため、

潜在的にタンパク質の安定化に働いている。

(50)

(a)

ハV 7

Y

』 sく

ハ︾

石 レK A

ノ、

(b)

  ノ V ピ

く

2

>ノ

s

図4−10M32A変異体の天然状態の立体図

    (a)野生型、(b)M32A変異型

44

(51)

函

(a)

NN m   4

「  マ

    L      ノ〉

   へ

\ r ︑〆   4  \

(b)

rノ r〈

i, N− P

〈 >A 1

k       ↑ノ

図4−11M32A変異体の変性状態の立体図

   (a)野生型、(b)M32A変異型

(52)

マ森 砂︐

4.4.3結論

 分子動力学/自由エネルギー摂動法で、s七aphylococcal nuclease M32A 変異体の熱安定性を再現することができた。Met32→Alaの置換は、天然状態 及び変性状態共に、自由エネルギー的に不利であるが、天然状態での自由エネ ルギー変化がより不利であるので、M32A変異体は野生型よりも不安定化して いる。M32A変異体の天然状態において、 Met32が側鎖の短いAlaに置換され たため、新たに生じた空隙に水分子が侵入して、Thr27、 Phe34及びPhe76 からなる疎水環境を破壊されている。そのため、疎水性相互作用が失われ、自 由エネルギー的に大きく不利になっていた。このことから、Met32は、野生型 の天然状態において、Thr27、 Phe34及びPhe76からなる疎水コアを保護す る役割を担っていると考えられる。M32A変異体の様に天然状:態において不利 な構造変化をもたらす置換は、変性状態の自由エネルギーを不利にするとはい え、タンパク質の安定化に有効ではない。

 また、Met→Alaの様な大きな摂動を伴うアミノ酸置換に対して、適切な中 間体を経由する多段階摂動法は極めて有効である。

46

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