序 文
リムルス反応を用いた血漿中(1→3)-β-D-グル カン(β-グルカン)測定法は,現在,5 種類のキッ トが臨床応用可能であるが,各々に特徴を有し,
測定値に乖離が生ずることも少なくない1)2).キッ トにより前処理,測定法が異なることに加え,使 用するβ-グルカン標準品が様々であることもこ の原因の 1 つであると思われる.現行のアルカリ 処理―発色合成基質カイネティック法(アルカリ 処理―カイネティック法:生化学工業,東京)で はβ-グルカン標準品としてパキマンが使用され,
希釈加熱―比濁時間分析法(比濁法:和光純薬工 業,大阪)ではカルボキシメチル化カードランが 用いられている.測定法の標準化は測定値乖離の 問題解決につながると考えられる.また,β-グルカ ン測定は深在性真菌症診断を目的とした検査法で あるので,標準品は病原真菌由来のものである方 が望ましい.近年,大野ら3)は,病原真菌となる頻 度の高いCandida albicansからβ-グルカンを精製 し,その構造を明らかにした.(Candida Standard β-glucan:CSBG).CSBG はβ-1,6 結合した分岐
も含んでいる.しかし,臨床検体中のβ-グルカン にもβ-1,6 結合した分岐が含まれていることを 考慮すると,CSBG はβ-グルカン測定の標準品と して妥当であると考えられる4).大林ら4)は CSBG を新しい標準品として使用し,β-グルカン測定を 行う基礎的研究成果を報告している.この中でア ルカリ処理―カイネティック法の標準品,および 比濁法の標準品を CSBG により力価検定し,両者 の CSBG 換算値には大きな開きが認められるも のの,平行線定量法による解析では両者とも優れ た平行性が確認されことが示されている.ただし,
この検討は標準品水溶液を用いた両法の性能の評 価であり,この結果をそのまま臨床検体に適応で き る か 否 か は 不 明 で あ る4).そ こ で,私 た ち は CSBG を標準品として,まずアルカリ処理―カイ ネティック法で臨床検体中のβ-グルカンを測定 し,このβ-グルカン標準品候補を評価した.
材料と方法
2002 年 1 月から 3 月までの 3 カ月間に川崎医 科大学附属病院で深在性真菌症を疑われて,もし くは同症の治療効果判定目的で血漿中β-グルカ ンが測定された患者 232 例(男性 120 例,女性 112 例,平均年齢 62.7±17.0 歳)の血漿 584 検体を材料 とした.β-グルカン測定は,アルカリ処理―カイネ 短 報
アルカリ処理―発色合成基質カイネティック法による血漿中
(1→3) -
β-D-グルカン測定における新しい標準品としての CSBG の評価
1)川崎医科大学呼吸器内科,2)倉敷第一病院呼吸器センター
吉田耕一郎
1)二木 芳人
1)毛利 圭二
1)宮下 修行
1)小橋 吉博
1)岡 三喜男
1)松島 敏春
2)(平成 15 年 10 月 29 日受付)
(平成 16 年 4 月 20 日受理)
〔感染症誌 78:519〜521,2004〕
別刷請求先:(〒701―0192)岡山県倉敷市松島 577 川崎医科大学呼吸器内科 吉田耕一郎
fungal infection, CSBG,(1→3)-β-D-glucan Key words:
519
平成16年 6 月20日
ティック法の添付文書に記載された操作手順に 従って行った.アルカリ処理―カイネティック法 の 検 量 範 囲 は 3.9〜500pg!ml で あ り,500pg!ml を上回るβ-グルカン量の検体は前処理後に蒸留 水で希釈して再測定した.また,参考値として 3.9 pg!ml より低い数値の算出された検体はこの検討 から除外した. カットオフ値は 20pg!ml とした.
この際,標準品として,現行のパキマン 500pg!ml とC. albicansIFO 1,385 株の細胞壁を次亜塩素酸 酸化により部分分解し,細胞壁β-グルカンを可溶 化した3)ものから調製された標準品(CSBG,生化 学工業から提供)689.7pg!ml を使用し,パキマン と CSBG により作成した検量線から各々に算出 されたβ-グルカン値を比較した.
成績と考察
パキマン換算値として 3.9pg!ml 未満の参考値 が算出された検体は 6 検体認められ,これらはこ の検討から除外した.パキマン換算によるβ-グル カン値は 3.9〜2,772.1pg!ml,CSBG 換算によるβ- グルカン値は 7.0〜5,157.1pg!ml の範囲であった.
CSBG 換 算 値!パ キ マ ン 換 算 値 は 最 高 1.91,最 低 1.76,平均 1.82 であり,CSBG 換算値がパキマン換 算値を上回る数値を示したが,Fig. 1 に示したよ うに両者の測定値はよく相関し,相関係数は R2=
0.9994 であった.
β-グルカン測定法はわが国の深在性真菌症診療 において極めて重要な検査法の 一 つであるが,非 特異反応検出によるキット間の測定値不一致など 未解決の問題点も残されている.β-グルカン測定 の標準化を目指した大林らの基礎検討4)は新たな 問題解決の糸口となる可能性がある.この中で行 われたアルカリ処理―カイネティック法の標準品 であるパキマンの力価検定の結果,パキマン 1pg は CSBG 1.8pg に相当すると報告されている.私 たちの臨床検体における検討でも,両者間には極 めて良好な相関が認められており,CSBG 換算値! パキマン換算値は 1.82 と基礎検討結果に合致す る成績であった.私たちの成績はアルカリ処理―
カイネティック法で,臨床検体においてもβ-グル カン標準品として CSBG が使用可能であること を示す結果である.一方で,β-グルカン測定法の標 準化には標準品の問題以外にも,前処理法や測定 方法,リムルス反応に用いるカブトガニ種,さら に設定されているカットオフ値がキットにより 様々であることなど,未だ多くの問題が山積して いる.今後,β-グルカン標準品の問題については,
さらに臨床検体を蓄積し,他のβ-グルカン測定 キットにおいても CSBG を始めとした同一の標 準品候補を用いた検討を重ねる必要がある.また,
その他の諸問題点についても基礎的あるいは臨床 的検討が行われなければならない.
文 献
1)吉田耕一郎, 二木芳人, 見手倉久治, 中島正光,
川根博司,松島敏春:測定キット間の血中(1→
3)-β-D-グルカン測定値不一致の原因に関する検 討.真菌誌 2002;42:237―42.
2)吉田耕一郎,二木芳人,宮下修行,松島敏春:血 中(1→3)-β-D-グルカン測定法の非特異反応検出 に関する検討.感染症誌 2002;76:754―63.
3)Ohno N, Uchiyama M, Tsuzuki A, Tokunaka K, Miura NM , Adachi Y , et al .: Solubilization of yeast cell-wall(1→3)-β-D-glucan by sodium hypo- chlorite oxidation and dimethyl sulfoxide extrac- tion. Carbohydr Res 1999;316:161―72.
4)大林民典,吉田 稔,山田俊幸,河合 忠,玉熊 正悦,小玉正智,他:エンドトキシンおよびβ- グルカン測定法の標準化に向けたリムルス試薬 の 基 礎 的 性 能 評 価.機 器・試 薬 2002;25:
291―301.
Fig. 1 Good correlation between the plasmaβ-glucan values calculated from Pachyman and CSBG re- spectively was recognized.
吉田耕一郎 他 520
感染症学雑誌 第78巻 第 6 号
Evaluation of a New Standardβ-glucan CSBG in the Measurement ofβ-glucan in Plama by Alkaline Treatment, Chromogenic Automated Kinetic Assay
Koichiro YOSHIDA1), Yoshihito NIKI1), Keiji MOHRI1), Naoyuki MIYASHITA1), Yoshihiro KOBASHI1), Mikio OKA1)& Toshiharu MATSUSHIMA2)
1)Division of Respiratory Diseases, Department of Medicine, Kawasaki Medical School
2)Kurashiki Daiichi Hospital
β-グルカン測定における新しい標準品の評価 521
平成16年 6 月20日