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危機状況における集合的避難行動に関する研究

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

危機状況における集合的避難行動に関する研究

釘原, 直樹

https://doi.org/10.11501/3073308

出版情報:Kyushu University, 1993, 博士(教育心理学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

(2)

えられる。

以上、 この実験の結果は集合サイズと 恐怖のネガティブな交互作用効果の存在を 示唆するものでもあった。

第3節 危機事態のリーダーシップの効果

1、 迷路状況におけるリーダーシップ条件効果

問題

以上述べてきた恐怖や集合サイズは脱出時の混乱や混雑を促進する要因であっ たが、 一方リーダーシップはパニックを阻止したり、 またはそれを低減する重要 な要因として、 多くの研究者が共通して言及してきた(Strauss, 1944;Smelser, 1963;

Freud, 1 922;Brown, 1954;Stogdill, 1974)。 リーダーシップの概念は集団研究におい

ては、 成員の役割や階層が明確である集団の目標達成や課題遂行を促進する現象 を指すものとして定義されてきた。 しかし、 本研究 が対象とする集合体において も何らか の問題が発生した場合、 その問題解決に向かつての有効な働きかけや機 能が存在すると考えられる。 従来の集合研究において用いられたリーダーシップ の概念はこのような意味である。

例えばStraussは過去の文献をレビューし、 暗示や模倣に対する脆弱性の要因と

してリーダーに対する信頼性の欠如をあげ、 パニックを引き起こす主要な要因で あるとしている。 そして、 パニックを抑止する方法として、 理性的で、かっ、 強力

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過去の文献に基づき、 極限状況での集団の生存は効果的なリーダーシップの発揮、

集団の統合性と方向性の確立、 コミュニケーションの維持と強化に依存している、

と述べている。

危機事態におけるリーダーシップに関する実験的研究もKlein(1976) によって試

みられている。 これはリーダーシップ行動と集合の脱出効率との関連について分

析を試みたものではないが、 危機時事態において集合成員がリーダーをどのよう

に評価するかという問題を中心にして分析をした。 Klein はMin tz(195 1 )型の装置 を

用いた。 そして集合の中にリーダーの役割を執るサクラを配置した。 そ のサクラ は実験開始前の5秒間に脱出順序の指示を与えた。 実験条件としてはリーダー(サ

クラ) が最初に脱出する(me-first)条件と最後に脱出する(me-last)条件と を設定し

た。 また脱出失敗者に対して電撃 を与えるという条件と、 少額の金銭的損失 を与

えるという条件、 さらにリーダー(サクラ)がメンバーに選出される条件と実験

者によって指名される条件、 そして集合が脱出に成功する条件と失敗する条件が

組み込まれた。

実験の結果、 電撃条件(恐怖条件) 下において、 金銭的損失条件(低恐怖条件)

よりも、 リーダーを有能であるとする評価が行われることが見い出された。 この

ように恐怖条件下において、 メンバーがリーダーをより有能とみなす傾向は、

トlamblin(1958)の研究にも示されている。 これは緊急事態におけるリーダーの影響

度、 あるいは責任の大きさを暗示したものとして解釈することが可能である。 こ

のようなことから恐怖 とリーダーシップの交互作用効果の存在が示唆される。

またKelleyら(1965)の行った緊急事態での脱出行動に関する研究結果の一部に次

のような事実がある。 最後に脱出するという意思表示をする人の存在を他のメン ノ〈ーが明確に認知できるような状況を設定した場合、 混雑度が低下し、 脱出率が

上昇するという結果を見い出している。 このことは、 冷静で落ち着いた人物の存

在がメンバーに対して安心感を与え、 ひいては過度の競争心を抑制し、 理性的な

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行動へ導くものと考えられる。

以上の実験的研究の結果によっても危機事態におけるリーダーの存在の重要性 と、 そのリーダーの行動様式の重要性が示唆される。

このように多くの研究者が危機事態におけるリーダーシップ行動の重要性を指 摘しているが、 これらの研究はいかなるリーダーシツプが集合を効果的に統制し うるか、 即ちいかなるリーダーシツプが理性的で強力なリーダーシップとなりう るかということについては具体的に述べられていない。 。

一方平常時のリーダーシツプと集団のパフォーマンスの関係について分析した研 究は数多く行われている。 そしてその多くが集団機能論の立場から、 その集団の

目標達成を促進する遂行機能(performance)及び、 その集団を構成する成員遠の良 好な人間関係の形成・維持を促進する配慮・維持機能(maintenan∞)の両機能から 構成されるとされてきた(Halpin,1957;Cartwright& Zander,19ω;三隅・白樫,1963;

蜂屋,1972;永田,1973)。 本実験では、 リーダーシツプをこれらの先行研究で示され ている遂行機能と維持機能から捉えることとし、 それらが危機状況における集合

のハフォーマンス、 即ち脱出効率にどのように影響するかを検討する。

仮説

1)迷路内における被誘導者の脱出所要距離は、 リーダーの発言が課題遂 行のみに関する場合、 または配慮や集合維持の みに関する場合 の単独条件下よりも両方が同時に発揮される場合において短くな るであろう。

2) リーダーシツプが脱出所要距離に与える効果は無恐怖条件よ りも恐怖 条件において顕著になるであろう。

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条件及び3つのリーダーシップ行動条件からなる2x3の6条件に8試行の繰り返し要 因を合む3要因配置。 リーダーシップ条件の操作・測定には両機能を操作的に定義 している三隅らによるp(目標達成、 課題遂行)行動とM(配慮、 維持)行動を用 いる。

実験装置:実験室にはリーダー(サクラ)用と被験者用の2つのブースが設置され た。 ブースの中には被験者の迷路移動に従って風景(立体的線画)が変化するこ とを示すディスプレーが被験者の前だけでなくリーダーの前にも置かれていた。

実験装置は基本的には第2章で述べた迷路事態を設定する装置と下記の点を除いて は同じである。

図3・3-1に示されているように、 実験で用いられた迷路は14ケ所のT字型分岐点 の連続によって成立している。 この迷路は、 袋小路に入った場合はその袋小路を 出て突き当たりの壁の方に真つ直ぐ進行すれば必ず通路が開いていることである。

モニターにはリーダーも被験者も同じ画面が提示された。 ただし、 リーダーの画 面にはリーダーが発言すべき言葉の種類を示す記号PとMと矢印が表示された。 矢 印は出口への)1頃路の方向を示すもの(右、 左)と逆行の際に現れるものの3種類が 存在する。 左右の矢印が現れる場所は14ヶ所の分岐点の内の6ヶ所で、 この場所は 試行毎に変化した。 またPが現れる場所は分岐点を1--2ブロック過ぎた所であり、

Mは分岐点の2ブロック前である。 脱出許容|時間は15分であり、 時間経過はヘッド フォンを通してシンセサイザー音の高さの変化によって知らされた。

実験手続き:まずサクラと被験者を実験室に入室させ、 2つのブースを仕切ってあ る街立の手前に着席させた。 練習試行終了後にサクラ(左側着席)と被験者(右 側着席)に対して次のような教示を行った。 第1に2人で協力しながら繰り返し8回 同じ迷路を抜け出してもらうこと、 第2に左側着席者にはリーダーの役割を果たし

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図3-3-1 迷路の鳥敵図

(7)

てもらい、 右側の人に情報や命令を与えてもらうこと、 但し左側のモニターと右 側のモニターには同一の画面が提示されること、 第3にリーダーは実験に参加した 経験があるが、 本実験の迷路は従来の実験の迷路とは大幅に異なっているために リーダーにとって不明な部分が多く、 被験者自身の判断で進むことが重要となる 場合が多いこと、 などである。

以上の教示に加えて、 1)8回目の試行は、 リーダーが情報や指示を一切与えずに、

被験者が単独で迷路の中を動いてもらうこと、 2)実験者が最終的に行う迷路脱出 の成績の評価は脱出所要時間の長さに応じてなされること、 但し7固までの試行に ついては1試行当たり10%、 合計70%の重み付けを行い、 最後の8試行自の脱出所 要時間に30%の重み付けがなされて成績が決定される旨を教示した。 これに従え ば迷路脱出の全体の成績が8試行目でかなり左右されることになる。 以上の教示を 与えた理由は、 このような緊急事態において被験者はリーダーに全面的に依存し がちになり、 そのためにリーダーシップ条件差が現れにくいためである。

次に恐怖条件の操作を行った。 これは先の実験装置と方法の所で述べた内容と 同じである。 恐怖条件の操作が行われた後に被験者とサクラはそれぞれのブース に入り、 ヘッドフォンを着用した。 実験は暗室状態で行われた。 第1試行と第7試 行の後に質問紙が実施された。

次にPM、 P、 Mの3条件におけるリーダーの発言内容を示す。

l)PM条件:第8試行を除いた全ての試行の直前直後に、 リーダーは表3-3-1に示さ れている試行直前直後のM型発言を行った。 また試行中にはP(表3-3-3) とM(表 3-3・2) の言葉をランダムに羅列した言葉のリストを机上に用意し、 モニター画面 にPが現れた場合にはPの言葉を、 Mが現れた場合にはMの言葉をリストに従って JI闘に読み上げた。

2)M条件:各試行の直前直後にはPM条件と同じく表3-3・1の発言を行った。 また試 行中にはモニター画面に従ってMの発言を行った。

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表3・3-1 試行直前と直後のリーダーのM型発言

試行 リーダ一発言

1前|必ず早く出られると思うからあせらないで楽な気持ちでやろう 後|お疲れさま

2前|肩に力がはいらないように余裕をもってやろう

後|疲れたのとちがう? 手をぶらぶら振るとちょっと楽になるよ 3前|あまり疲れすぎないように気楽に一緒にやろう

後|肩が凝ったのではないかな、 体のカを抜いていこう

4前|どうせだから楽しむつもりでやろう、 思うままにやってくれたらいいから 後|ご苦労様、 しっかり休んでおこう

5前|しんどいけどリラックスしてやっていこう

後|だいぶ手がだるくなったと思うけどしばらく辛抱していこう 6前|さあ肩の力を抜いて進んでいこう

後|出られた、 出られた

7前|もうちょとだからひとふんばりしてやっていこう 後|お疲れさま

表33・2 試行中のリーダーのM型発言 リーダ一発言

-あせらないで

・冷静に -楽な気持ちで

・リラックスして

・いらいらしないで

-肩に力がはいらないように .楽な姿勢で

・落ち着いて -肩の力を抜いて

・姿勢を楽にして

表3・3・3 試行中のリーダーのP型発言 リーダ一発言

-どんど、んやって .もっと早く

・きちんと抑していこう .判断を早く

・時間がないよ -ぐずぐずしないで .急いで急いで

・ペーすを落とさないで .速いよ

・止まらないで

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3)P条件:各試行の前後には発言しなかった。 また試行中にはモニター画面に従っ

てPの発言を行った。

1--7回目の試行の直前、 直後にPM条件とM条件においてM型の発言を行ったの

は次の理由による。 本実験のように緊急脱出事態では、 被験者の課題遂行(脱出)

に対する動機づけが高い。 即ち、 事態そのものがP的な要素を含んでいる。 故に従

来の実験のように試行中にのみM型発言を行った場合、 Mの効果が相対的に弱く

なる。 そこで Mを追加する必要があった。 ただ、 事態の種類によつて P

を変えるのは問題があろうが、 それを行つたのは操作の等価性よりも、 リーダー

シップを含めた事態全体の等価性を重視したことによる。

結果

1、 実験操作の妥当性

A)電撃予告の効果: 7段階評定方式によって実験中の緊張の程度を測定した結

果、 恐怖条件(M=3.03)と無恐怖条件(M=2.28)との聞に有意差

(F=7.28,df= l/60,Pく.01)が見い出された。

B)リーダーシップ行動の妥当性:次の4項目について7段階方式で回答を求めた。

01.どの程度急がせようとしたか。

02.進み具合や時間についてやかましく言ったか

03.気が楽になるように心配りしたか 04.思いやりを示したか

01、 Q2はリーダーのP行動に関する質問項目であり、 03、 04はM行動に関する

ものである。 結果は、 全ての質問項目でリーダーシップの主効果が見い出された。

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PM、 P、 Mの3条件のそれぞれの平均値と比較検定結果は次の通りである。 Q1に 関して、 PM3.98、 P5.14、 M1.20(F=157.54,df=2/60,p< .01)0 Q2に関してPM3.80、

P4.55、 M1.95(F=35.04,df=2/60,pく.01)0 Q3に関してPM4.27、 P1.86、 M5.25(F=

37.86,df=2/60,pく.01)0 Q4に関してPM4.15、 P2.16、 M4.84(F=34.56,df=2/60,

pく.01)。 以上の結果からPM条件ではリーダーのP行動、 M行動とも評定値が高く、

一方P条件ではP行動に関する評定値のみが高く、 またM条件ではM行動に関する 評定値のみが高いことが明らかになった。

2、 移動距離 (移動ブロック数)の分析

移動ブロック数は出口に到達するまでに移動した距離を示すものである。 故に ブロック数が少ないほど、 袋小路に入る頻数が少なく、 また同一地点の往復を繰

り返すことなくスムーズに出口まで到達したことを意味する。 表3-3-4にその結果 を示す。 但し制限時間15分までに出口まで到達しなかった場合は移動フ・ロック数 を次の式で算出した。

予測移動ブロック数=A+NB x C A:15分間で実際に移動したブロック数

B:到達地点=出発点から実験開始15分後の位置までの最短距離(最短ブロック数) C:到達地点から出口までの最短距離、 C=127-B

NB x Cは、 到達地点から出口までの迷路 を従来のベースで進行した場合、 何ブ ロック移動すれば出口まで到達できるか を予測するものである。 例えば、 出口か ら1ブロック前(出発点から126ブロックの地点)で、 しかも実際には200ブロック 移動したところで制限時聞が終了した場合を例に挙げれば、

予測移動ブロック数=2∞+2∞1/126 x 1となる。

リーダーシップ条件が導入されない第8試行 を除いた全体の分散分析の結果、 リ

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表3ふ4 移動距離(プロック数)

PM

恐怖 M

P PM

無恐怖 M

P .-p〈.01

際行

1

1 寸

1M64

] つ

1則

254.5, J. 256.8J I! 230.3J 1. 179.9 1 .192.8 P 184.5

35O.7.l..J 245.5..J 245.4..J 232.3....J 2前3..J 155.5 225.6 243.8 170.8 158.7 157.0 155.2 261.8 204.3 198.7 178.9 185.4 163.2 249.7 248.3 l伺.7 179.6 2∞5 155.1 .pく05 Ip<.l

註 ..最短距離は127プロック

表3-3-5 固普傾向

政行

PM

8 7 (リーダー無し) 156.0 167.3 167.6 191.2 240.7 147.8

164.3 168.9

153.9 192.8

8 7 (リーダー無し)

7.8 恐怖 M P 191.096.4,

111111

...

1

: 98.84.9 d

l

6ó.785.8... ・18.774.2... .,.

1

: 34.1 46.9 " 11.4 37.4J

f

14.9 40.0 75.9 6.7

PM 65.6 88.3 18.7 0.0 0.0 。 。 0.9 0.0

無恐怖 M 103.7 45.8 41.4 27.5 27.9 11.1 14.6 11.3

P 87.1 旬.3 40.8 24.1 42.9 5.2 7.0 27.1

.-p〈.01 .pく.05 !pく.1

第71式行までの合計

1466.4

Jl:

1626.9 1258.9 1356.6 1386.8

第7章式行までの合計

366.3 534.2 173.5 272.0 197.3

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pく.01)が見い出された。 また恐怖条件と無恐怖条件を別々に各ブロック毎に下位 検定を行ったところ、 恐怖条件のみでリーダーシップの効果が見い出された。 日11 ちPM条件では他の2条件と比べて移動ブロック数が一貫して少ないという傾向が 明らかになった。 ただこのリーダーシップ条件の効果は試行が進につれて低下し ていくことも示されている。 即ち、 全条件において迷路の学習が漸次成立し、 そ のために最後の方の試行ではリーダーシツプ条件聞に殆ど差が見られない。 それ から、 リーダーシップ条件が導入されない第8試行の移動ブロック数は全体的に第 7試行のそれよりも 少し増加するが、 その増加量は顕著ではない。 また第8試行で は全ての条件間に移動フ・ロック数に関して明確な差は見られない。 以上の結果も 全条件において第7試行までに学習が成立していることを示しているものと言える。

3、 固着傾向の分析

固着傾向は、 袋小路の方に向かつて1往復だけ移動したブロック数と出発点から 出口までの最短距離(127ブロック)の加算値を表3-3-4に示されている全移動ブロ ック数から引くことによって算出された。 表3-3-5はそれを示したものである。 上 述の方法により、 同一地点の往復を2回以上繰り返すことによる移動ブロック数の みが算出可能である。 例えば、 ある地点で袋小路の方向に3往復した場合は2往復 に要したブロック数のみが固着傾向の指標となる。 故に袋小路の方向に向かって1 回だけ進行したとしても、 すぐに正しいルートに戻った場合には固着傾向は0と な

る。

第8試行を除いた全体の分散分析の結果、 リーダーシップの主効果

(F=4.12,df=2/6O,p< .05)と試行の主効果(F=19.01,df=6β60, Pく01)とそれから恐 怖の主効果(F=4.52,df=1/ほ),Pく05)が見いだされた。 またここでも恐怖条件と無恐 怖条件とを別々に各試行毎に下位検定を行ったところ、 恐怖条件でリーダーシッ

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いて最も固着傾向が少ないという結果が見いだされた。 ただ、 この固着傾向も試 行が進むにつれて、 リーダーシップ条件の効果が不明確になることも示されてい る。

考察

固着傾向は配慮・集合維持のM型や目標達成・課題遂行のP型に比べてその両方 を兼ね備えたPM型で最も小さくなったことが表3-3・5に示されている。 また表3-3・

4よりPM型はP型やM型に比べて、 より短い距離でスムーズに出口まで到達してい

ることも明かである。

しかるに、 恐怖条件と無恐怖条件を分けて分析した場合、 無恐怖条件ではリー ダーシツプ3条件間に明確な差が見い出されず、 恐怖条件下においてのみPM型とP 型やM型の聞に有意差が見い出された。 このように恐怖条件下においてリーダー シップ条件の違いが明確になった理由のひとつとして、 被誘導者のリーダーに対

する依存性の程度が考えられる。 本実験においては被誘導者の依存性の程度を7段 階尺度の質問項目で測定した。 その結果、 恐怖条件の方が無恐怖条件よりも誘導 者に対する依存性が高くなる傾向(F=2.99,df= 1/60, p<.1)が見い出された。

リーダーシップが危機的状況においては特に重要となるということについては 従来、 多くの研究者から一般論として指摘されているところである

(Strauss, 1944;Smelser, 1963)。 本実験の結果からも危機的状況においては、 被誘導 者はリーダーシップ行動に敏感に反応しやすくなるということが明らかにされた といえるであろう。 リーダーシップ条件の効果は恐怖事態において明確になるこ

とが示されたのである。 恐怖とリーダーシップの交互作用効果の存在が明らかに

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なった。

しかしリーダーシップ条件の効果は試行が進につれて消失してしまい、 とくに 第7試行においては条件聞にほとんど差がない。 このことは経験や学習の効果が次 第にリーダーシップの効果を凌ぐようになってくることを示したものと言える。

PM型の優位性も学習成立の時点で消失する。 このことは逆にリーダーの存在が、

集合がまだ未熟で経験を積んでいない状態においてより重要な意味を持つことを 示している。 即ち、 リーダーシップの効果は初期段階において顕著に現れるので ある。

また、 この実験で、 被誘導者が置かれた状況と全く関係なく、 リーダーがP行動 やM行動の両方を発揮しさえすれば被誘導者のパフォーマンスが高まることを証 明した訳ではない。 本実験ではPM、 P、 Mの全条件において、 分岐点14ケ所のう ち6ケ所だけはリーダーが方向指示をしている。 一方、 本実験の前に行われた予備 実験では方向指示を全くせず、 ある一定間隔でしかも被験者の迷路内における位 置とは関係なくランダムにP行動およびM行動のみを行ったのであるが、 その結果、

被験者がリーダーの発言をすぐに無視するようになったのである。 この予備実験

で明らかにされたことは、 迷路脱出課題で被験者が最も期待していたのはリーダ

ーの方向指示であった。 この方向指示が欠落したPまたはMの発言は被験者にほと んど聞き入れられなかったのである。

また、 本実験におけるPM型のリーダーは一貫して、 分岐点の手前でM行動、 分 岐点を過ぎてからP行動を行ったのであるが、 これがもし逆で、あったら、 即ち分岐 点の手前でP行動、 分岐点を過ぎたところでM行動を行ったとしたら、 迷路脱出が スムーズに進行したとは考えられない。 分岐点の手前でのリーダーのP行動は被誘 導者の冷静な判断を妨害し、 また分岐点を過ぎてからのM行動は脱出への動機づ けを低下させる方向に働くことが予想されるからである。

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第lにある一定量の方向指示がリーダーによってなされること、 第2にPおよびMが フォロアーの置かれた状況に適合した時空の場で発揮されることが必要となるも のと忠われる。 そしてこのPとMの相乗効果は特に危機事態において顕在化するこ とが明らかになったと言える。

2、 自然発生リーダーシップの効果

問題

上述の実験はリーダーがあらかじめ決められていて、 しかも前もって用意され た発言を行う状況が設定されていた。 しかし、 危機状況では全くの素人がリーダ ーとして選出されたり、 あるいは多数の成員の中からリーダーが自然発生し、 そ れらの人がリーダーシップを発揮することが多いであろう。 ここでは自然発生し たリーダーが置かれた状況やその発言とタイミングが集合の脱出行動に及ぼす効

果について検討する。

上述の実験の他にも、 釘原、 三隅、 佐藤、 重岡(1982)はくじ引きにより選出さ れたリーダーのリーダーシップ行動が集合全体の避難行動に及ぼす効果について 分析を行っている。 リーダーは他の5名のメンバーに対して自由に発言、 指示を行 うことが可能であった。 実験条件として、 「非隔離リーダ一条件Jと「隔離リー ダ一条件」とが設定された。 非隔離リーダ一条件ではリーダーとフォロアーが同 室にいて、 リーダーがフォロアーの配置構造を直接観察して認知できる条件であ る。 一方隔離リーダ一条件では、 リーダーがフォロアーとは異なる別室にいて、

(16)

フォロアーの配置構造などについての手がかりが殆ど得られない条件であった。

その結果、 まず脱出成功率に関しては非隔離リーダ一条件において最も高く 90.0%であり、 ついで隔離リーダ一条件の55.6%、 そして最も低かったのがリーダ ーのいない「対照群」の28.3%であった。 また、 混雑度に関しては、 非隔離リー ダ一条件、 隔離リーダ一条件、 そして対照群の順で、 混雑度が激しくなる結果が 見い出された。

対照群において、 脱出成功率が最も低く、 混雑度が最も高くなる結果について は、 他の条件即ち、 非隔離リーダ一条件や隔離リーダ一条件とは異なり、 集合全 体をコントロールするリーダーが存在しないことによるものと解釈された。 一方 リーダーが存在する非隔離リーダ一条件と隔離リーダ一条件とでは、 非隔離リー ダ一条件において、 脱出効率は高くなる結果が見い出された。 これは、 リーダー の指示、 発言内容、 即ちリーダーシツプ行動の差異がこのような結果をもたらし たものと考えられる。 即ち、 非隔離リーダ一条件においては、 リーダーが脱出す べき人を明確に指定し、 順序づけ、 さらには、 脱出を促進する発言が多くなされ た。 これに対して、 隔離リーダ一条件でのリーダーは、 脱出者を明確に指定せず、

しかも譲歩のみを強制するといった発言が多くみられた。 また隔離リーダ一条件 においてはリーダー全体の発言量が、 非隔離リーダ一条件に比べて少なく、 集合 によっては、 リーダーが全く発言や指示を行わず、 ただ沈黙している場合もあっ た。 このようにリーダーとして集合全体の行動の方向づけ、 フォロア一間の行動 調節などを強力に推進することが可能であるような場合に脱出成功率が高められ るものと解釈される。

このことは観点を変えれば隔離リーダ一条件においてはフォロアーの配置構造 や動きを視覚的に捉えることが困難であるため 、 リーダーシツプ行動が発揮しに くい状況にあると考えられる。 これに対して非隔離リーダ一条件では、 リーダー

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に容易であり実質的な、 リーダーの自然発生を容易にしているといえる。

それから先述した実験ではリーダーシップの効果は実験開始後の早い試行の段 階において顕著であることが明らかになった。 緊急事態においてリーダーの意思 決定の早さが重要になることはFlanagan(1952)によっても指摘されている。 何故 なら、 危機事態でのフォロアーは、 リーダーに対して、 早急に何をすべき か、 ま たいかなる危機が迫っているかについての情報を得たいとする傾向が極めて強い からである(Wispe& Lloyd,1955)。 従って、 危機的状況においては、 集団の中でも 少数の積極果敢なメンバーがリーダーシツプをとる傾向があり(Lanzetta,1953)、

そうした自然発生リーダーに決定権が集中する(Janis& Mann,1977)と考えられる。

このことは、 三隅、 佐古(1982)の研究によっても示唆される。 即ち、 大韓航空機 火災時における避難誘導行動の実態調査から、 最も効果的な誘導方法は、 初期段 階において被誘導者の情緒的興奮を低減させ、 さらに率先垂範型の誘導行動によ って脱出方向や方法を明確に認知させることであるとしている。

本実験は、 以上のような観点から、 あらかじめリーダーを設定しない状況にお いて自然発生したリーダーシップ行動とそのタイミンク'が集合の脱出過程に与え る効果について分析した。

仮説

1)他者の動きを視覚的に把握できない視覚遮断条件では、 把握できる非視 覚遮断条件に比べて脱出成功率が低いであろう。

2)リーダーの初期発言はそれ以降の発言に比べて脱出成功率により大きな 影響を与えるであろう。

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方法

被験者:被験者は大学生174名で向性から なる6名集合が29集合構成され、 視覚遮 断条件に15集合、 非視覚遮断条件に14集合が割り当てられた。

実験装置と手続き:第2章の殴路状況の所で述べた装置と同じものを用いた。 さら に実験者はメンバー全員に対して各自、 自由に発言、 指示を行うように教示し、

発言に対して何の制限も加えなかった。 そして 制限時間3分間になるべく多くの人 が脱出できるように努めてもらいたい旨を教示した。 メンバー全員の発言はヘッ ドフォンを通して他のメンバーに伝えられた。 即ちここではメンバ一間の相互コ

ミュニケーションが可能であった。

それから視覚遮断条件では前面に設置されるはずのパネルが置かれていなかっ た。 従って、 各被験者に他者が脱出を行っている様子(黄ランプによって提示さ れる)や脱出に成功したか否かについての視覚的情報(脱出に成功した場合は青 ランプが点灯する)が与えられない。 即ち、 他者の脱出行動についての情報が視 覚的に提示されない。 一方非視覚遮断条件ではパネルが設置されていて、 他者の 脱出の様子や脱出成功についての視覚的情報が与えられていた。

但し、 両条件ともに集合成員それぞれに自分の動きと、 自分の出口までの距離 については発光ダイオードのカウンターによって視覚的な情報が与えられていた。

即ち、 両条件とも自己の動きについてのフィードバックは受ける。

結果

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l、 実験操作の妥当性(電撃予告の効果)

実験後に実施した質問紙の結果から、 被験者174名中154名の者(89%)が電撃が 来ることを信じていたことが確認された。

2、 脱出成功率と混雑度

脱出成功率は視覚遮断条件で31.0%、 非視覚遮断条件で50.0%であった。 脱出成 功率に関して両条件聞に有意差は見い出されなかった(t= 1.20,df=27,ns)。 混雑度 は2名以上の複数の被験者が同時に脱出ボタンを打叩している時間の人数倍を示し たものである。 10秒当りの混雑度の平均は、 視覚遮断条件で30.2、 非視覚遮断条 件で17.2であった。 分析の結果有意差(t=2.34,df=27,pく.05)が見い出された。

3、 リーダー及び集合全成員の発言指示内容と脱出効率との関係

ここでは発言量第l位の被験者をリーダーとして分析を行った。 表3・3-6は両条件 におけるリーダー及び集合全成員の発言、 指示内容のカテゴリー別頻度を示した ものである。 また表3-3-7は発言・指示内容と脱出効率とのケンドール順位相関を 30秒単位で区切って示したものである。

まず、 表3-3・6についてカイ二乗および二項検定の結果、 集合全成員の発言に関 してはメンバーを非難する発言(BLA)を除いて、 全ての発言について視覚遮断条

件において非視覚遮断条件よりもその量が多くなっている。 即ち、 非視覚遮断条 件に比べて視覚遮断条件の方が集合全成員の発言が活発に行われたと言える。 ま たリーダーだけの発言量についても全体的に視覚遮断条件の方が非視覚遮断条件 よりも多くなっている。 次に表3-3-7について、 脱出効率の順位は集合の全成員が 脱出に成功した場合が最も高いものとした。 但し、 脱出者が同数の場合には、 混 雑度が少ない集合の方を脱出効率が高いものとして順序づけた。

その結果、 非視覚遮断条件ではリーダ一自分自身の脱出要請(EAC)発言を除い

(20)

表3-3-6 自然発生リーダーと集合全成員のカテゴリー別発言頻数

集団全成員

|

自然発生リーダー

視覚遮断条件 非視覚遮断条件| 視覚遮断条件 非視覚遮断条件

IND 133.6 *"* 72.7 61.4 50.7

ORD 57.1 34.7 33.6 22.1

SUP 137.1 軍軍 60.7 56.4 373

FAC 124.3 家事 18.7 40.1 事寧 4.1

PRD 66.4 寧寧 1.3 25.1 寧牢 0.1

SOM 114.3 *"* 253 41.4 牢* 10.7

CON 56.4 家事 133 16.4 * 6.1

恥R爪f 227.1 軍軍 105.3 35.7 253

ENC 293 軍軍 10.1 10.7 6.7

FOB 35.7 本本 11.3 15.7 本本 3.3

BLA 13.6 393 6.4 *"* 28.1

EAC 61.4 牢牢 10.7 18.6 軍軍 0.7

EXP 364.3 軍軍 16.1 593 寧寧 2.7

QUC 169.3 軍事 4.1 45.7 平平 2.1

STR 114.3 *"* 7.3 42.1 *"* 2.1

関『

順一

と一

シ 」 一

-----a・・・・・・・・・・・・1・・11iIlli--1・・1

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m 則 一mmMm k 山 一 kT' - 自 一 ヰ

盟国

120-150 : 150-180 全体

43・(.46・}

(.40・}

(.30! ) .34・

(.18! )

1

40・(.57'

)

.43・ 52“ (.49・・}

35・(.36・)

34! .50・・

(.39・) (.35・)

43・

( )の教は集合金成員の発言と脱出効率との相関係数である。

-・p<.Ol ・p<.05 ! <.1

リーダーの発言・指示に関するカテゴリー別発言内容は次の通りである。

IND(inidicale lhe refuge国)メンバーの座席位置や座席記号に関する具体的発言(例) “右端の人" (出てください)、

“Aさん" (出てください)

ORD(o吋er)メンパーを順位づける発言(例) “1人ずつ" (出てください)、 “順番に" (出てください) SUP(support one's esca閃)脱出を支持する発言(例) “音佐々さん逃げてください"、 “誰々から行って"

FAC(facililale esca問) 脱出を促進する発言(例) “急いで"、 “思く早く"

PRD(pr芭paration dictation)軍備や待機行動を起こさせる発言(例) “次は誰々さんですよ"

SOM(som回ne)特定のメンバーを指定しない発言(例) “誰か" (逃げてください) MUM(mumble)リーダーの独り言(例) “わからないな"、 “やばいな"

CON(force one 10∞ncede)譲歩を指示する発言(例) “ゆずれ"

ENC( encouragemenl)メンバーを激励する発言(例) “頑張って"

F OB(forbid)脱出を禁止する発言(例) “脱出するのをやめろ"

BLA(blame)メンバーを非録する発言(例)

馬鹿野郎

" 、

“あlま"

EAC(each subj民l's own escape r'問uirement)被験者自分自身の脱出要請(例) “私が行きます"、 “行かせてくれ"

EXP(explanation of回ch subjeçt's own condition)被験者自分自身の現在の状態の説明(例) “すすまんぞこら" 、 “今 逃げています"

QUC(question about other's condition)他者の現在の状態に関する質問(例) “雄々さん進んでいるの" 、 “昔佐々さん どこまで行っているの"

STR(stress r出uction)緊預緩和発言(例) “ごめん"、 “ありがとう"、 “落ち着いてやろう"

(21)

て、 全ての発言と脱出効率との聞に明確な相関は見い出されなかった。 ただ、 脱 出者を明確に指定し(IND)し、 脱出を支持(SUP)する発言や、 被験者自分自身の現 在の状態の説明(EXP)に関する発言が実験開始後30秒ないし60秒後までになされ た場合に脱出効率が高くなることが見い出された。

一方、 視覚遮断条件では、 非視覚遮断条件に比べて、 全体的にリーダー及び集 合全体の発言、 指示と脱出効率の聞に高い相関が見い出された。 即ち、 脱出者を 順序づけ(ORD)、 脱出を指示(SUP)し、 促進する(FAC)発言や、 脱出者を明確に 指定しないまでも、 “誰か(SOM)逃げて" というかたちで脱出者の出現を促す発 言、 被験者自分自身の脱出要請(EAC)や他者を激励する発言(ENC)、 被験者自分 自身の現在の状態の説明(EXP)、 さらには他者の現在の状態に関する質問(QUC) に関して脱出効率との間に有意な相関が見い出された。 また、緊張緩和発言(STR) と脱出効率の間には特に高い相関が見い出された。

また、 発言と脱出効率の相関を時系列的に見た場合、 実験開始後90秒後までに なされた発言と脱出効率との聞には有意な相関が見い出される場合が多いが、 そ れ以後の発言と効率との聞には、 ENCやSTR等の激励や緊張緩和発言またはEXP やQUC等の自分及び他者の状況に関する発言、 を除いて殆ど相関が見い出されな かった。 以上の結果から、 視覚遮断条件においても、 リーダー及び集合全体の初 期発言や指示が脱出効率と高い相関を持つことが明らかにされた。

4、 集合成員の発言量

次の図3-3-2はHalpin& Winer(1957)らの言う率先垂範(initiating structure)のリー ダーシツプ行動の範中に入るものと思われるIND、 ORD、 SUPの発言量の合計に ついて第1位のメンバーから第6位のメンバーまでを順に並べたものである。 この3 種類の発言聞には高い順位相関(INDとORD,τ=.59; INDとSUP,τ=.59; ORDと SUP,τ=.59) が見い出された。 図3-3・2は危機状況では集合の中でも少数のメンバ

(22)

集 80

ム口

全 員 の

ω

る け

40

.

量 の 割 20

メ口

%

jJ -視覚遮断条件 口非視覚遮断条件

1位 2位 3位 4位 5位 6位 被験者の発言量による順位

図3-3-2 集合各成員の率先垂範(IND, ORD, SUP)に関する発言

量の割合

(23)

ーによって発言がなされ、 リーダーシップがそのような特定の成員に集中するこ

とを示唆している。

考察

全成員およびリーダーの発言量に関しては視覚遮断条件の方が非視覚遮断条件

より多くなっている。 これは視覚遮断条件では他者の動きが視覚によって把握で

きないために言語的コミュニケーションに頼らざるをえなかった為であると考え

られる。

それから、 非視覚遮断条件では視覚遮断条件に比べて、 リーダーおよび集合全 成員の発言・指示と脱出効率との聞の相関が低い。 これは非視覚遮断条件では他

者の脱出の様子が視覚的にフィードパックされるために、 被験者がリーダーや他

のメンバーの発言・指示に基づいて行動するというよりもむしろ視覚的情報に依

存していたことによるものと思われる。 t!1lち、 非視覚遮断条件では、 視覚的情報

の介在により、 発言・指示と脱出行動が直接的に結ひ、つかなかったものと考察さ

れる。

しかし、 INDやSUPといった率先垂範型の発言などが脱出開始後短時間のうち

になされた場合、 脱出効率が高くなることも示された。 初期発言の重要性が明確

となった。

このような初期発言と脱出効率との関係は特に視覚遮断条件において顕著に見

い出された。 実験開始後90秒までの初期発言と脱出効率との聞に高い相関が見い

出された発言としてはORD、 SUP、 FACなどの率先垂範的発言や、 脱出行動を停

止させ禁止する発言(FOB)、 や譲歩を指示する発言(CON)であった。 これらの発

(24)

言・指示は集団機能概念で言えば、 課題遂行機能に相当するものと考えられる。

一方実験開始後90秒以後においてさえも脱出効率と相関があったのは、 メンバ ーを激励する発言(ENC)、 緊張緩和発言(STR)や、 自分自身の現在の状態を説明 する発言(EXP)、 他者の現在の状態に関する質問(QUC)であった。 このうちENC

とSTRは三隅・佐古(1982)のいう情緒安定指示に相当し、 EXPとQUCは他者及び 自分が置かれている状況を明確化する状況明確化発言であると言える。

以上の結果により、 課題遂行に関連した発言・指示は実験開始後の初期段階で 特に有効であり、 一方情緒安定指示や状況明確化発言は初期段階はもとより、 中 期及び後期の段階でも有効であることが示されたといえる。

発言量については、 全体的にメンバー聞に発言量の程度にかなりの差異が存在 することが明らかになった。 IND、 ORD、 SUPの率先垂範型発言に関しては、 発 言量第1位の被験者が非視覚遮断条件では集合全成員の総発言量の66%、 視覚遮断 条件で50%の発言を行っている。 また発言量第3位以下の被験者がこれらの発言に 関して全く発言しないような集合が数多く見い出された。 以上の結果は、 危機状 況では集合の中でも少数のメンバーがリーダーシツプを執る傾向があり、 そうし

た自然発生リーダーに決定のための権力が集中するという仮説(Janis&

Mann,1977)を発言量の面から裏付けたことになろう。

(25)

第4章 危機事態の人間行動に関する数理モデ、ル

1、 追従性と固着性の時系列変動に関するモデル

問題

複数の出口があって、 そこで人々が右往左往しているような事態では他者に対

する追従行動が現れ、 また同じ行為を続けようとする固着傾向が強くなることが 先述した研究などにより明らかにされた。 ここではこの2つの行動傾向の合成 モデ

ルを構成し、 そのモデ、ルが脱出ルート選択の時系列変動に関するデータと、 どの 程度適合するかについて検討する。 具体的には複数他者が複数のルートのうちの あるルートに漸次集中し、 そうして他者全員が1つのルートに集中した後に、 突然 各々異なるルートを選択するというように、 多数他者の標準的な行動が漸次形成 され、 それが崩境しさらに形成され崩壊するといった一連の情報が与えられた場 合、 これ に対して個々の被験者のルート選択行動がいかに変動するのかについて 検討し、 その数理モデルを提示したものである。

火災などの危機事態では群集の同調・追従が高まることは災害事例研究 (例え ばPerry& Pugh,1978; Veltfort & Lee,1943;安倍,1974)や実験的研究(D arl ey ,1966)

によって明らかにされている。 また危機事態ではある一定の同じ行動を続ける回

(26)

1.00 Y 1.00 図4-1 向調過程の4状態吸収マルコフ連鎖モデ、ル

(27)

着傾向が高まることも災害事例研究や人間(釘原,1985;釘原 ・ 三隅,1984)やネズ ミ(今回,1975)を被験体とした実験的研究によって明らかにされている。

ここで、はルート選択 行動における同調性と固着性の時系列変動についてのひと つの数理モデルを提示する。 従来数多く行われてきた向調行動の研究において時 系列的分析を試みているものは殆ど存在しない。 こうした中にあってCohen(1958) はAsch(1952)タイプの実験データに対して4状態の吸収マルコフ連鎖モデ、ルが適用 できることを示した。 図4-1にそのモデ、ルを示す。 このモデルの第1の仮定は全て の試行において個人は図中の円で示された4つの状態のうちいずれかにあるという ことである。 4状態は以下のように定義される。

状態1 :被験者がこの状態にある時、 正しく反応する(サクラに同調して誤った

判断をしない)。 そしてその後の全ての試行において正しい反応をする。 即ちこ の状態は吸収状態である。

状態2:この状態にある時正しく反応する。 その後の試行においては正しく反応 する可能性も、 サクラに同調して誤った反応をする可能性もある。

状態3:この状態にある時誤った反応をする。 その後の試行においては誤った反 応をする可能性と正しい反応をする可能性がある。

状態4:この状態にある時誤った反応をする。 その後の全ての試行においても誤 った反応をする。 即ち吸収状態である。

図中の矢印は状態の移動方向を示し、 矢印に付随している文字は推移確率を示 す。 このモデルとAsch(1952)タイプの実験データはかなり良くフィットした。 こ のようにCohen(1958)は向調過程のモデルとしてマルコフ連鎖モデルが適用できる ことを示した。

但し、 本実験のデータにこのモテ、ルを直接適用することは適当ではない。 その 第1の理由はCohen のモデルの場合、 被験者の反応は正か誤(非同調か向調)の2 つであるが本実験の場合、 5つのルート選択という5つの反応が要請されるところ

(28)

にある。 第2の理由はCohenが行ったAschタイプの実験の場合、 サクラは終始一貫 して誤った唯一の刺激に対して反応する(正当と言う)が、 本実験の場合他者の 反応は絶えず変動するところにある。 故にCohenの場合、 推移確率が一定の定常 マルコフ連鎖モデルが適用できたのであるが、 ここでは推移確率が試行nに依存す る非定常のマルコフ過程を考える必要がある。

方法

被験者:被験者は女子大生93名、 実験は5名を1つの集合として行われた。 3名集合 が1集合存在するがこの場合、 2名のサクラを参加させた。

実験装置と実験手続き:実験装置は前々章の複数の出口がある状況の所に記述し であるものと殆ど同一である。 但し、 試行回数は60回(10分間)であり、 そして 脱出ルートは5ルート設定された。 そして5つのルートのどれかに5人の被験者が集 中したり分散したりする様子を各々の被験者にフィードパックした。 フィードパ ック情報は被験者が実際にルート選択行動を行っている生の情報ではなく実験者 が操作して流すものである。 フィードバックの仕方は、 まず各被験者当人を除く 他者(4名)が最初各々異なったルートを選択し、 時間経過とともに漸次あるルー トに集中し、 そうして他者全員が1つのルートに集中した後に、 突然また各々異な ったルートを選択するというような手順で行った。 即ち多数者の標準的な行動が 漸次形成され、 それが崩壊し、 さらに形成され、 崩壊するという手続きで行った。

そして斉一的多数者行動の成立過程は緩やかに崩墳は急激にという形で操作した。

(29)

いる脱出ルートについて5ム2,4というフィードパックを受ける。 そして5 試行(1ブ ロック)毎に4のルートを選択する他者がl人づっ増加し、 16試行目にはついに他者 全員が4に揃う。 そして21試行目には突如1,3,5,2というバラバラの脱出ルートの提 示となる。 被験者はサインランプ(赤)の点灯とともにルート選択行動を行い、

他者の脱出ルート提示もそれと同時に行われた。

結果

1、 実験操作の妥当性

本実験では電撃予告により恐怖条件を設定したが、 この操作の妥当性をチェッ クするために釘原(1985)が行った実験の結果と比較した。 7段階評定方式によって 実験中の恐怖の程度を測定した結果、 本実験(M=3.05)の方が釘原(1985)の実験の 無恐怖条件(M=2.06)に比べて、 被験者の恐怖認知の程度が高い(t=5.85,df=191,

p<.01)。

2、 モデル構成およびモデルと実験データの適合性

各ルートの選択確率の試行毎の変化を、 推移確率がフィードパックに依存する 非定常のマルコフ過程によって表すことを試みた。 そして推移確率をp=αa+β b+γCとした。 ここでa→同調の要素、 b→前の反応を維持しようとする固着の要 素、 c→各ルートに対する偏好の要素である。 αβyは各要素の重み、 即ち強さで ある。 αβγの値が決定できれば追従過程の変動が理論的に予測できるものと考 えた。 本モテ、ルの場合、 第1プロックの推移確率行列は次のように表される。

(30)

1ルート 2ルート 3ノレート 4ルート 5ルート 0α+ lß +C1Y ーα+Oß+らY

4 ーα+Oß+SY

4 ーα+Oß+ C4Y

4 一α+Oß+CSY

4 0α+Oß +C1Y ーα+ lß +C2Y

4 ーα+Oß+SY

4 ーα+Oß+ C4γ

4 ーα+Oß+CsY

4 0α+Oß +C1Y 一α+Oß+C2Y

4 一α+Iß+らγ

4 一α+Oß+ C4Y

4 一α+Oß+CsY

4 0α+Oß+C1Y 一α+Oß+らY

4 一α+Oß+SY

4 一α+lß +C4Y

4 一α+Oß+CsY

4 0α+Oß +C1Y ーα+Oß+C2Y

4 ーα+Oß+sγ

4 ーα+Oß+ C4Y

4 ーα+Iß+csY

4 ここで

o

�a,b,c壬l O�α,ß,y壬1 α+ß +y = 1 ヱCj =

1

I.

p

=αα+ ßb+ yヱ Cj = 1

フィードパックは図4・2に示されているように第1ブロックの場合2ム4,5である。

このマトリックスの行が第n試行を、 列が第n+l試行を表す。 マトリックスの第1

行第1列は

0α+ lß + C1γ

となっている。 即ち同調の要素はO、 固着の要素は1である。 第1ブロックでは1の ルートを選択した他者は1人も存在しないという情報が与えられる。 故に向調の要

素は機能しなかったものとする。 さらにここでは同じーっのルートをとり続ける 訳であるから、 固着の要素は1となる。 ルート変更が行われない所(この行列の左 上から右下への対角線上の推移確率)は全て固着要素は1となっている。 次に第1 行第2列は1のルートから2のルートへ移る確率を示す。 ここは

jα+Oß +C2Y

となっている。 これは2のルートを選択している他者が4名中1名存在するというフ イードパック情報に基づく。 故に1/4の同調要素が機能したものとする。 またここ ではルート変更がなされるために固着の要素は0となる。

(31)

0α+lß+ SY 0α+Oß+c1y 0α+Oß+SY

。α+Oß+qy 0α+Oß+SY

0α+Oß+らY 0α+ lß+らY 0α+Oß+らγ 0α+Oß+らY 0α+Oß+らY

ーα+Oß+sγ 4

ーα+Oß+�γ 4

一α+lß+ SY 4

一α+Oß+らγ 4

一α+Oß+SY 4

ーα+ Oß+C4Y 2

ーα + Oß+CsY 4

一α+ Oß+C4Y 2

ーα + Oß+CsY 4

一α+ Oß+c4y

2 一α + Oß+csY

4 一α+ lß +C4Y

2 一α + Oß+csY

4 一α+ Oß+らγ

2

一α +lß+csY 4

さてフィードパック情報がこのまま変化しなければ推移確率も変化しない。 即 ち第5試行までは上記のマトリックスは変わらないが、 第6試行において変化する。

つまりフィードバックが3人4,5となる。 このマトリックスでは 第1行第 2列の 推移 確率の向調の要素がOとなり先の1/4から変化している。 これは 2のルートを選択す る他者が存在しなくなったからである。 その代わりに第1行第4列の同調の要素は 先の1/4から112に変化している。 これは4のルートを選択した人の割合が全体の1/2 となったからである。 ここで第n試行の被験者のルート選択の割合を行ベクトル

v(n)とすれば

v(n) = V(O)

X汽 x�x.…・…・・・…

×

となる。 故に初期値V(O)とα、 β、 γを決定できれば第n試行において被験者がど

のルートにどの程度集中するかを再現できる。

このモデ、ルを推移確率一定の吸収マルコフ連鎖を使って簡単に説明すれば次の ようになる。 例えば脱出ルートがA、 Bと2つ存在すると仮定する。 そして第1試行 で、それぞれのルートに全体の被験者の1/ 2ずつが集中したとする。 また第1試行か ら第2試行への推移確率を見た場合、 AルートからBノレートヘ移る確率がO 、 Aから Aは1、 BからBは112、 BからAは1/2であるとする。 その場合よ第2試行の後でA、

Bそれぞれのルートに集中する割合は 次のようになる。 このように

(32)

[& �J [l �] = [� �J

Aに全体の3/4が、 Bに1/4の人が集中することになる。 同様に第3試行の後にA、 B

それぞれのルートに集中する割合は7/8、 1/8となることがわかる。

寸IlllJ 1i一00 寸I一QUri--L 一一 「,l'll111J o--2

11一2 「lil11し 「,Ela121」 l 一 4 3一4rill』BL

さてここではα、 β、 γの値を推定するために最小2乗法を用いた。 これは推定得

点pと実測値のp'の差の2乗和Qをα、 。それぞれで偏微分し、 その結果を0とし、

さらにそれを連立一次方程式として解くことによって算出される。

Q=ヱ(p-pγ

p=αα+ßb+γc=αα+ßb+(l-α-ß)c

コハ

δ

一三= ーヱ(p- pγ = ヱ 壬(p -pγ

δα δα da

= ヱ誌去 {似α吋

bれ川+刊(円

一向伽C一p川'}

=ヱ2{αα+ßb +(1-α-ß)c -p'}(a-c)

=ヱ(α_ C)2α+ヱ(b-cXa-c)ß+ヱ(c-p')( α-c) = 0

完 =ヱ(a叩-c)叫ゆ州

これは

{� 山川=0

というかたちになっているのでA、 B、 C、 D、 E、 Fの値が決定されればα、 βの

値は算出できる。 計算の結果α=0.068、 。=0.870、 γ=0.062となった。 図4・2はモ

(33)

一-0ー モデ、ルによ る理論値

実験データ 1∞

J

第1ノレート選択者の割合 90

各 80 ノレ 70

選ト 60 択 50 者

の 40 害リ

仁 ヨ

% 30 20 10

1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 11

フィードパック情報

図4-2 時間経過と5つのルートそれぞれの選択者の割合

注 折れ線と折れ線の聞に固まれた空聞が各々のルート選択者の全体に対 する割合を示している

(34)

折れ線の聞の空間が各ルートを選択した人の割合を示している。 例えばブロック1 から4では、l番下の折れ線(黒丸線)と下から2番目の折れ線(黒丸線)との閣の 空間が次第に広がっている。 これは実験の結果ブロック1から4の聞で次第にルー

ト4を選ぶ人の割合が増えていることを意味する。

具体的に図4-2の第1フ・ロックの理論値の算出方法について以下に述べる。 まず V(O)としては実験によって得られた第1試行から第5試行(第1ブロック)までの各

ルート選択者の全体に対する割合の平均を用いた。 第1ブロックにおいて第1ノレー トを選択した人の割合の平均は18.1%、 第2ノレート31.9%、 第3ノレート31.9%、 第4ノレ ート14.2%、第5ノレート4.0%であった。 故にV(O)=[.181.319 .319 .142 .040]と

なる。 それから第1ブロックの推移確率行列は先に述べた行列に対してαに0.068、

βに0.870、 γに0.062を、 さらにC1, C2, C3, C4, C5に対してはV(O)と同じ値

( C1 =.181, C2 = .319C3 =.319, ' '"'' 4 C4 =-.. ... -..., 1 42C5 '-'5 =-..040

J を代入した。 その

)

結果第1ブロックの推移確率行列は以下のようになった。

.881 .036 .036 .025 .019 .011 .906 .036 .025 .019 .036 .906 .025 .019 .011 .036 .036 .895 .019 .011 .036 .036 .025 .889

ここでv(l)= V(O) X �よりV(1)=[.168 .315 .315 .147 .054]となった。 同様に

v(2) = V(O) X X � より V(2)= [.157 .311 .311・153 .067Jが得られた。 同じ

ようにしてV(4)まで求め、 v(O)からV( 4)までの平均値を算出した。 その結果、 第 1ブロックにおける各ルート選択者の割合の平均は第1ルートが.152、 第2ノレー

参照

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