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大地震時における避難・帰宅行動シミュレーションモデル

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Academic year: 2021

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大地震時における避難・帰宅行動シミュレーションモデル

守澤 貴幸・大佛 俊泰

A Simulation Model of Returning Home and Evacuation Behavior in A Devastating Earthquake

Takayuki MORISAWA, Toshihiro OSARAGI

Keywords : マルチエージェント(multi agent),群集密度(crowd density),道路閉塞(road blockade) パーソントリップ調査(person trip survey),市街地延焼(urban spreading-fire)

1. はじめに

 近年,避難シミュレーションの分野において は,MAS( マルチエージェントシミュレーション ) の応用が試みられているが,地域防災計画は市区 町村などの比較的広い領域について議論されるこ とが多く,特に,大地震時を想定した地域防災計 画を立案する際には,広域的な考察が不可欠であ る.さらに,避難行動を扱う際には,対象地域の 滞留者を考慮するだけでなく,帰宅者の空間的な 移動についも考慮する必要があると考えられる.

そこで本研究では,避難行動を扱うための対象地 域に加えて帰宅行動を扱うのに十分な外部領域を 考慮し,また,帰宅者の行動遷移を細分化するこ

とにより,広域避難場所 ( 以下,避難場所 ) への 避難行動について分析を行う.

     

2. 各種データとシミュレーションモデルの構築 2.1. 滞留者の行動遷移の定義

 図1に対象地域内,及び,対象地域外の滞留者 の取る行動遷移を示した.本研究では行動遷移の パターンから,滞留者を「自宅内滞留者」「帰宅 困難者」「帰宅行動者 ( 内内 )「帰宅行動者 ( 内外 )」

「帰宅行動者 ( 外内 )」「帰宅行動者 ( 外外 )」の 6 つに分類した.対象地域内の滞留者は,火災が周 囲 300m 以内に迫った時に避難行動を開始する ものとした.避難を行っていない者の内,自宅ま での距離が 20km 以内の滞留者は帰宅が可能で あるものして,発災後から 1 時間後に帰宅行動 を開始する.避難者は最寄の避難場所(図2)に 接続する交差点,帰宅者は自宅から最寄の交差点 を目的地とする.また,避難者・帰宅者は共に滞

守澤:〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1

東京工業大学大学院 情報理工学研究科 情報環境学専攻 大佛研究室

E-mail: [email protected]

Abstract :  The previously proposed models for evacuation behavior and returning home behavior in a devastating earthquake were independently developed considering particular situations. In order to simulate people's behavior more precisely, this paper attempts to develop a behavior-transition model that describes the transition of behavior such as waiting in a building, returning home and evacuating to an evacuation area. Since the transition behavior deeply depends on the degree of seismic damage, we attempt to combine a collapse house model, a road blockade model and an urban spreading-fire model with the behavior-transition model.

(2)

留地から最寄の交差点まで直線的に移動して,そ の後目的とする交差点まで道路上の最短経路を 辿るものと考えた.なお,対象地域の境界をまた ぐ帰宅者に関しては優先的に主要道路を通るもの とした.経路が火災や建物倒壊によっ通行不可と なった場合,帰宅者は避難者へと遷移し,再度避 難場所までの最短経路を取得し避難行動をとる.

避難場所までの経路を取得できない避難者は安全 な経路の選択が不可能な「避難困難者」と考えた.

2.2. 対象地域の設定

 市街地延焼の危険性が高く,就業者の帰宅行動 も多く観察されることから,東京都世田谷区を分 析対象地域に設定した.世田谷区内の空間移動に ついては区内の全道路を,また,世田谷区外のエ リアについては主要道路のみを用いて避難者・帰 宅者の空間移動を再現した.なお,避難者・帰宅 者は歩道上を移動するものと考え,歩道の有効幅 員から歩行者密度を算出し,これに基づき歩行速 度を決定した.図3は,主要道路を用いて「帰宅 行動者 ( 外内 )」「帰宅行動者 ( 外外 )」の発災時 の滞留地点の範囲を求めたものである.滞留地点 から自宅までのネットワーク距離が 20km 以内 であれば帰宅行動をとると考え,一部であっても 帰宅経路が対象領域と交わるような滞留地点がこ の範囲を形成する.

2.3. 滞留者データの作成

 施設内滞留者の詳細な空間分布を得るため,本 研究では平成 10 年東京都市圏パーソントリップ 調査によるデータ ( 以下,PT データ ) を使用した.

PT データを利用することにより,時刻別・属性 別・滞留ゾーン別の詳細な情報を得ることができ

る.しかし,PT データの位置情報は小ゾーンと 呼ばれる集計単位で得られており,本研究で避難 者の行動を記述する空間単位としては十分ではな い.そこで,数値地図から求めた建物用途別延べ 床面積に応じて PT データの建物用途別滞留者数 を各建物に確率的に按分し,これを原データとし た ( 図4).ただし,分析結果を解釈する際には,

対象地域内については街区単位で集計し,対象地 域外については小ゾーン単位で集計した結果を用 いる.図5は滞留者種類別の滞留者数の時刻変化 を示したものである.また,図6は世田谷区内に おける帰宅行動者数の帰宅開始時からの変動を示 したものである.帰宅開始から約 2 〜 3 時間後 に世田谷区外のオフィス街から多数の帰宅者が自 宅へ向かって歩行していることが分かる.図7に

図1 滞留者の状態遷移

・A⇒①⇒Ⅱ

・A

・A⇒①⇒Ⅰ

・B

・B⇒①⇒Ⅰ

・B⇒①⇒Ⅱ

・C⇒①⇒Ⅰ

・C⇒①⇒Ⅱ

・C⇒②⇒①⇒Ⅰ

・C⇒②⇒①⇒Ⅱ

・C⇒②⇒A

・C⇒②⇒A⇒・・・

・C⇒①⇒Ⅰ

・C⇒①⇒Ⅱ

・C⇒②⇒①⇒Ⅰ

・C⇒②⇒①⇒Ⅱ

・C⇒②⇒③⇒Ⅲ

・D

・D⇒③⇒②⇒①⇒Ⅰ

・D⇒③⇒②⇒①⇒Ⅱ

・D⇒③⇒②⇒A

・D⇒③⇒②⇒A⇒・・・

・D

・D⇒③⇒②⇒③⇒Ⅲ 名称

自宅内 滞留者

帰宅行動者 (内内) 帰宅困難者

帰宅行動者 (内外) 帰宅行動者 (外内) 帰宅行動者 (外外)

状態遷移 説明

火災が周囲300m以内に迫った 時避難行動へと移る 自宅が遠いため帰宅が不可能 行動遷移は自宅内滞留者と同じ 対象地域内から対象地域内へ 向けて帰宅行動を行う 対象地域内から対象地域外へ 向けて帰宅行動を行う 対象地域外から対象地域外へ 向けて帰宅行動を行う 対象地域を通過しながら 帰宅行動を行う

自宅外(帰宅困難)

避難 帰宅 帰宅 避難

自宅外

自宅 自宅外

避難場所 自宅

避難 困難 対象地域での

避難・帰宅行動シミュレーション

対象地域外での 帰宅行動シミュレーション

A B C D

図4 滞留者の配分

id 性別

PTデータによる情報

原データ

年令階級 滞留小ゾーン 滞留先建物 用途 拡大係数

id 性別 年令階級 滞留先建物位地座標 拡大係数

②滞留先建物用途を 基に該当建物を取得

③建物延べ床面積に 応じて確率的に選択

PTデータによる滞留 小ゾーンを基に数値地 図上で小ゾーンを取得

図2 広域避難場所の空間分布 図3 帰宅行動者を扱う範囲

2 1 4 (km)

5 10 20 (km)

N 世田谷区

(3)

は,滞留者数の帰宅開始時間からの変動を示して ある.ここでは,帰宅行動を終えた帰宅者の数も あわせて示してある.( 図6,図7では建物倒壊 や火災の影響は考慮していない )

2.4. 既往の災害モデルの統合

 本研究では既往の建物倒壊モデル ( 村田・山崎,

2006),出火モデル ( 東京消防庁,1997),及び,

延焼モデル ( 東京消防庁,2001) を用いている.

また,隣合う建物の最短距離を結んだネットワー クデータを独自に作成し,これを延焼モデル,及 び,道路閉塞の判定に適用した ( 図8).市街地 延焼の一例を図9に示す.分析では建物倒壊を 1 パターン想定し,その結果を所与として,10 パ ターンの市街地延焼を想定した.本研究では,上 記のモデルを統合して避難・帰宅行動シミュレー ションを行う ( 図10).

3. 避難 ・ 帰宅行動シミュレーション 3.1. 対象地域外からの帰宅者の扱い

 帰宅者についても避難者と同様に常に危険に さらされており,避難行動へ遷移する可能性が ある.まず,対象地域内の帰宅行動者(内内)の 避難・帰宅行動について予備分析を行い,どの程 度帰宅が可能であるかを確認した.図11をみる と,帰宅開始時刻が遅くなると,それまでに避難 行動に遷移してしまう人が多数存在するために,

帰宅を開始する時刻が遅くなると帰宅が可能と なる割合は減少する傾向にある.対象地域外にお いてこの種の行動遷移を考えるとモデルが複雑に なってしまうため,以下では,対象地域外におい ては 60%の確率で帰宅が可能になるものと仮定 することとした.

3.2. シミュレーションの実行時間の設定

 以上の条件で避難・帰宅シミュレーションを行 い,避難者数,及び,避難困難者数の発災時から の時間変化を 24 時間後まで求めた ( 図12).グ ラフをみると,避難者数に関しては延焼の拡大 と共に増加し続けるが,避難困難者数に関しては 12 時間後にはほぼ収束していることがわかる.

以後,12 時間を限度にシミュレーションを行い,

図8 隣棟ネットワークの利用法

倒壊した建物による 瓦礫の拡散距離 隣棟ネットワークの様子 火元建物・類焼先

建物の種類によって 決まる延焼速度で隣 棟ネットワーク上を 延焼していく

通行可能 火元

:建物 :隣棟ネットワーク 類焼先

①延焼シミュレー ションでの適用

②道路閉塞を判定する での際の適用

道路

道路閉塞

25 50 100 (m)

図9 出火地点と延焼範囲の様子(パターン1)

1 2 4 (km)

出火地点(58箇所とする) 12時間後の延焼範囲

N

1 2 4 (km)

N

図5 滞留者数の時刻変化 図6 帰宅行動者数の時間変化

帰宅行動者(内内) 帰宅行動者(内外) 帰宅行動者(外内) 帰宅行動者(外外) 3時 7時 11時 15時 19時 23時

0 20 40 60 80

時刻

0 1 2 3 4 5 6

経過時間(18時に帰宅開始)(hour)

滞留者数(万人) 1

0 4 2 3 5 6 7 帰宅行動者者数(万人) 世田谷区内の滞留者

帰宅行動者 (外内)となる滞留者

帰宅行動者(外外) となる滞留者

図7 滞留者数の帰宅開始からの時間変化

帰宅困難者

対象地域外で滞留・移動中 帰宅行動者(内内)

― C⇒②⇒A 帰宅行動者(外内)

― D⇒③⇒②⇒A 自宅内滞留者

経過時間(18時に帰宅開始)(hour) 0 1 2 3 4 5 6

10 0 40

20 30 50 60 滞留者数(万人)

図12 分析時間の設定 図11 地域外帰宅率の変化

2 4 6 8 10

0 12 14 16

避難困難者数(百人)

0 5 10 15 20 25 30

発災時(18時)からの経過時間(hour) 避難者数(万人)

0 4 8 12 16 20 24 避難者数 避難困難者数

0 1 2 3 4 5 帰宅②から帰宅③へ状態遷移する割合() 50

52 54 56 58 60 62 64

※世田谷区で6時において世田谷区外 に帰宅する滞留者は41747人である

発災時(18時)から帰宅を 開始するまでの時間

図10 避難シミュレーションの流れ 建物倒壊シミュレーション 出火建物判定

閉塞道路の判定 市街地延焼シミュレーション

避難・帰宅行動シミュレーション 地震規模の入力 発災時刻の入力

滞留者の設定

(4)

考察していくこととする.

3.3. 帰宅行動を考慮することの意義

 対象地域外からの帰宅行動を考慮する場合と考 慮しない場合の 2 つの場合についてシミュレー ションを行った.図13は建物内に滞留している 状態から避難行動へ遷移する人について,避難場 所までの平均到達時間を示したものである.グラ フをみると,帰宅行動を考慮した場合の方が平均 到達時間が短い.これは帰宅行動により滞留者の 空間分布が拡散されることで,結果的に避難経路 への集中が緩和されるためと考えられる.図14 をみると避難者は避難場所周辺に,帰宅者は帰宅 経路となる主要道路にそれぞれ多く分布しており 相互の強い干渉は観察されなかった.

3.4. 帰宅行動者から遷移する避難者数の変動  図15に帰宅行動中,及び,帰宅後の状態か ら避難行動へと遷移した避難者数の発災時からの 時間変化を示した.帰宅行動者 ( 内内・内外 ) か ら遷移した避難者は,発災直後に急激に増加す る.一方,帰宅行動者 ( 外内 ) は対象地域までの 空間移動に時間を要するため,避難者へ遷移する 量は緩やかに増加している.

3.5. 帰宅開始時間による違い

 帰宅開始時間を変化させてシミュレーションを 行い,その結果を図16に示した.帰宅開始時間 が遅くなるにつれ,帰宅行動中に避難者へ遷移 する割合は増加し,また,帰宅後の状態から避難 者に遷移する割合は減少することが分かる.前者 は,火災の拡大よって滞留場所から直接避難者へ 遷移する数が多くなることを示している.また後 者は,帰宅開始時間が早い場合には自宅を経由し て避難者に転じ,遅い場合には自宅を経由するこ となく帰宅途中に避難者へ遷移する数が多いこと を示している.

4. まとめ

 避難行動と帰宅行動を一体化させたシミュレー ションモデルを構築し,帰宅行動を考慮すること の効果や帰宅開始時間が避難行動に及ぼす影響な どについて検証した.

参考文献

東京消防庁 (1997) 直下の地震を踏まえた新たな出火要因及び  延焼性状の解明と対策.『火災予防審議会答申書』

東京消防庁 (2001) 地震火災に関数地域の防災性能評価手法      の開発と活用方策.『火災予防審議会答申書』

村田修・山崎文雄 (2006) 自治体の被害調査結果に基づく兵        庫県南部地震の建物被害関数.「日本建築学会構造系論文集」 

 1605,189-196.

守澤貴幸・大佛俊泰 (2008) 市街地延焼を考慮した避難シミュ  レーションによる広域避難場所の評価,「日本建築学会大会  学術講演梗概集  (F-1)」,383-384.

謝辞

 本研究は文部科学省科学研究費補助金・基礎研究 (B)( 課題番 号 17310093) の助成を受けて行った研究の一部である.

図16 帰宅行動者種類別の考察

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 帰宅行動者(内内)

― C⇒①

帰宅行動者(内外)

― C⇒①

帰宅行動者(外内)

― D⇒③⇒②⇒①

帰宅行動者(内内)

― C⇒②⇒A⇒①

帰宅行動者(外内)

― D⇒③⇒②⇒A⇒①

※横軸はいずれも 発災時(18時)から 帰宅を開始するま での時間を示す (単位:hour) 1 2 3 4 5

0 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5

1 2 3 4 5 0

1 2 3 4 5 0 0

1 2 3 4 5 6 0 1 2 3 4 5 6

滞留者数 避難者に 遷移した数 避難行動遷 移李津

人数(万人) 避難行動遷移率(万人)

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 ()避難行動遷移率万人 人数(万人)

図13 帰宅行動者を考慮する 事による違い

図14 道路混雑度の時空間 分布

帰宅なし 帰宅あり

避難場所までの平均到達時間(min) 1-2 2-3 3-4 4-5 5-6 6-7 7-8 8-9 9-100-10

10 20 30 40 50 60 70

1 2 4 (km)

N

0 0-1.5 1.5-6 6- (人/m2) 広域避難場所

発災時(18時)からの経過時間(hour)

図15 避難者数の時間変化

0 5 10 15 20 25

帰宅行動者(内内)

― C⇒① 帰宅行動者(内外)

― C⇒① 帰宅行動者(外内)

― D⇒③⇒②⇒① 帰宅行動者(内内)

― C⇒②⇒A⇒① 帰宅行動者(外内)

― D⇒③⇒②⇒A⇒① 避難者数(千人)

0 2 4 6 8 10 12

発災時(18時)からの経過時間(hour)

参照

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