Ⅰ 問題と目的
近年,LGBTに関する社会の関心は高まっており,学校現場でも
LGBT
の児童生徒への対応が求 められている。LGBTとは,異性愛でシスジェンダー(出生時に割り当てられた戸籍上の性別や身体 に対し違和感なく,その性別で社会的に生きている人)といったセクシュアルマジョリティとは異 なるセクシュアリティを持つ者の総称の1
つである。LGBTはそれぞれ女性同性愛者のレズビアン(Lesbian),男性同性愛者のゲイ(Gay),両性愛者のバイセクシュアル(Bisexual),生まれ持った身 体や出生時に割り当てられた性別に違和感を持ち,それとは異なる性自認あるいは性表現と共に生 きるトランスジェンダー(Transgender)の頭文字をとった言葉である。2016年の調査によると,国
内の
LGBT
人口は8.0%という推定値を報告しており,(株式会社 LGBT
総合研究所,2016),多くのLGBT
当事者が,自身のセクシュアリティを自覚する時期として,恋愛感情や身体変化を伴う第二次 性徴の時期を挙げている(中塚,2011;日高・古谷野・松髙・星野,2015)。このことから,学校に もLGBT
の子ども達が一定数存在していることが分かる。2015
年4
月には,文部科学省より全国の小・中・高等学校に向け「性同一性障害に係る児童生徒 に対するきめ細やかな対応の実施等について(通知)」が出され(文部科学省,2015),トランスジェ ンダーの中でも性別違和を自覚して持つ性同一性障害の生徒だけでなく,LGBT生徒へ必要な情報 提供を行うことを含め指導・助言をするよう配慮が求められた。このような通知があった背景にはLGBT
当事者の自殺リスクの高さが関連しており,LGBT当事者のメンタルヘルスに関する調査で は,一貫してその自殺リスクの高さや抑うつ傾向,いじめ被害の経験などが報告されている(中塚,2011;日高ほか,2015)。また,日高ほか(2015)によると,ゲイ・バイセクシュアル男性のおよそ 93%が,学校生活の中で同性愛に関する不適切な情報を得ていたことが明らかになった。これらの
ことから,LGBTの子どもたちは学校で抱える問題として,周囲の無理解によるいじめ被害の多さ,自身のセクシュアリティを自覚する時期である思春期に正しい情報にアクセスできないこと,これ らに伴うメンタルヘルスの低下と自殺未遂率の高さが明らかになっており(中塚,2011;日高ほか,
2015),早急に LGBT
の子どもの抱える問題に対して学校現場での適切な対応が必要である。LGBT に関する教員研修を通じた 高校教師の意識の変化
渡 邉 歩
教員の LGBT 理解に関する実態
教員は
LGBT
の子どもが直面している様々な問題に対して支援をしていく立場であることは明ら かであるものの,まだまだLGBT
に対する理解は追いついていないと言える。教員約6,000
名に対し て実施したLGBT
に関する意識調査によると,同性愛を「精神的な病気だと思っている」あるいは「分 からない」と回答した割合は約3
割で,同性愛は「本人の意思による選択だと思っている」あるいは「分からない」と回答した割合は約
7
割であることが分かった(日高,2015)。また,小・中学校の教 員や養護教諭のうち,性同一性障害という言葉を聞いた程度の理解である教員は約7
割で,同性愛と 性同一性障害の違いを説明できるのはおよそ半数だった(末石・富岡・新井・中塚,2013)。このよ うな実態の背景には,教員もLGBT
当事者と同様,出身養成機関で学ぶ機会が少ないことや,「世間 も同性愛や性同一性障害について偏見を持っている」という考えの教員が半数以上いることによる影 響だと考えられる(日高,2015)。また,実際に授業で同性愛や性同一性障害について教える必要が あると考えている教員は6
割以上いるにも関わらず,実際に授業で教えていたのは13~15%しかい
ない(末石ほか,2013;日高,2015)。授業で取り上げない理由として,教える必要性を感じる機会 がなかったことや,LGBTについてよく知らない,教科書や学習指導要領に書かれていないなどが挙 げられていた(日高,2015)。一方で,実際に学校現場で同性愛あるいは性同一性障害と思われる児童・生徒に関わったことの ある教員は
1
割程度であり(日高,2015),特に支援が必要だと考えられている性同一性障害(あ るいはそうだと思われる)児童・生徒から相談があったと回答した教員は15%もいた(吉良ほか,
2013)。また,林田ほか(2015)によると,これまで学校で性別違和感を持つ子どもが「いたように
思う」と回答した教員の割合は20.9%,「実際にいたことを知っている」と回答したのは 18.9%で
あった。これらのことから,実際に
LGBT
の子どもが存在し,適切な対応が必要であるにもかかわらず,教員の知識不足や誤解・偏見により不適切な対応を受けたり,自己理解やエンパワメントのための教 育の機会が失われていると考えられる。このような教員の誤解や偏見を解消し,LGBTの子どもが安 心して学校生活を送るためにも,教員が
LGBT
について正しく知識を学ぶことができるような研修 を実施することは重要であると考えられる。LGBT 研修の効果
LGBT
に関する授業や研修実践の効果を報告している論文は少ないものの,いくつか報告がなされ ている。佐々木(2016)では,大学生・教職員・外部保健センター職員54
名を対象にゲイ当事者に よる講演会を通じてゲイへのイメージがどう変わるか調査したところ,「危険さ」が減少し,「身近 さ」と「幸福さ」が増したことが報告された。医学生に講義を実施し感想カードを分析した青木ほか(2014)では,カテゴリーとして①性的マイノリティが稀ではなことに対する驚き・思い,②自分自 身の偏見や誤解の自覚,③社会の現状や偏見・差別の認識に対する思い,④
LGBT
が過ごしやすい社会になるための方法,⑤医療者としての学びが生成された。感想では,認識を変え偏見をなくすこ とができた一方,一部で同性愛に対する抵抗や偏見をなくすのは難しいという声もあった。辻(2017)
では,教職課程の大学生に
LGBT
に関する映像や,訪問授業を通して,議論の中で出た意見を紹介 している。その中では,差異と偏見・差別の違いや,嗜好と指向の違い,集団における規範や特別扱 い,学校での対応の限界について報告された。しかし,これらの研究では教員の意識がどのように変化したかは詳細には明らかになっておらず,
研修実施により授業実践や生徒対応に関してどう意識が変わったか焦点を当てている論文は少ない。
教員の知識量や偏見・差別が変わらなければ学校現場での対応が難しいことから,教員へ研修を実施 し,どのように意識が変化するかを明らかにする必要があると考えられる。
本研究の目的
そこで本研究では,LGBTに関する正しい知識や,実際の
LGBT
の当事者のライフストーリーを通 じて,教員の意識がどのように変わるかを,アンケートの質問項目や感想文から分析し考察すること を目的とする。また,アンケートの分析結果から,教員のLGBT
に対する意識の実態や,LGBTに関 する講座を実施することによる効果と課題について検討する。Ⅱ 方法
調査対象者と実施時期・手続き
関東にある公立高等学校の教師
45
名(教科は多岐に渡る)を対象に調査を行った。実施時期は2016
年の6
月で,LGBTへの理解と対応について学ぶ目的で,研究実施者により90
分で実施された(表
1
参照)。なお,本調査への協力およびアンケートへの回答は任意とし,研修担当者である養護教 諭からの了承の下,個人が特定されない形で行われた。表 1 研修の流れ
項 目 時間 主な内容
1 基礎知識 20分 LGBTに関するクイズ,LGBTの人口割合,セクシュアリティの 3要素(身体性・性自認・性指向),多様なセクシュアリティの紹 介(LGBTQA,Xジェンダーなど)
2 ライフヒストリー 15分 トランスジェンダー当事者の幼少期から社会人である現在に至る までのセクシュアリティにまつわるライフヒストリー
3 LGBTの現状 15分 LGBTだと気づく時期,自殺未遂率,いじめ被害の経験率と内容,
教員のLGBTに関する意識調査,よくある誤解と回答
4 LGBTの困難と対応 20分 具体的なLGBTの学校での困りごとと事例検討,相談やカミング アウトを受けたときの対応ポイント,参考文献の紹介
5 質疑応答 15分 教員からの質疑 6 アンケート 5分 アンケート記入
調査内容
アンケートは無記名で,多肢選択式と自由記述の複数の組み合わせで行った。それぞれの質問項目 は下記の通りである。
(1)年代:「20代・30代・40代・50代・60代・その他」の
6
項目から選択させた。(2) LGBTの知り合い:「あなたの知り合い(あなた自身も含む)に
LGBT
の人はいますか?」と いう質問に対し,「いる・いない」の2
項目から選択させた。(3) LGBTへの誤解・偏見(事前):「今回の講演内容を聞く前に,
LGBTに対して誤解や偏見を持っ
ていましたか?」という質問に対し,「はい・いいえ・どちらとも言えない」の3
項目から選 択させた。(4) LGBTへの誤解・偏見(事後):「本日の講演内容を聞いて,LGBTに対する誤解や偏見を見直 すことができましたか?」という質問に対し,「はい・いいえ・どちらとも言えない」の
3
項 目から選択させた。(5)感想:本日の講演内容について,感想を自由に記述させた。
(6) LGBT教育の必要性:「LGBTについて,学校で教える必要はあると思いますか?」という質 問に対し,「はい・いいえ・どちらとも言えない」の
3
項目から選択させ,その理由について 自由に記述させた。分析方法
LGBT
に対する誤解・偏見の変化について,質問項目(3),(4)の回答から,①事前に誤解や偏見 がないと自己認識していた群,②誤解や偏見を修正した群,③誤解や偏見を修正できなかった群の3
つのグループに分類した。①,②におけるそれぞれの感想文は,青木ほか(2014)のカテゴリーを参 考に,「誤解や偏見への気づき」「知識・理解」に加え,本研究の感想文から得られた「授業や生徒対 応」の3
つのカテゴリーの視点で分析を行った。③のみ,感想文からLGBT
の教育に対する意識が 変化しなかった背景を詳細に分析し,考察を行った。また,LGBTについて教育で教える必要性について,①,②,③の各群における感想文から,
LGBT
について教育現場で教える必要性に対する教員の意識を分析した。Ⅲ 結果と考察
LGBT に対する誤解・偏見の変化
LGBT
に対する誤解や偏見の有無と,その誤解や偏見の有無が修正されたかどうかを調べるため に,質問項目(3),(4)のそれぞれの回答人数をクロス集計表にまとめた(表2)。
結果から,講演前に
LGBT
に対して誤解や偏見を持っていたかどうかについて「いいえ(誤解や 偏見を持っていなかった)」と回答したのは16
名であった。これに対し,「はい(誤解や偏見を持っ ていた)」あるいは「どちらとも言えない」と回答していたのは45
名中29
名であり,約6
割以上が誤解や偏見を持っていることが分かった。これは先行研究が示す
LGBT
に対して誤解をしていたり,知識を持っていない割合とほとんど一致していた(日高,2015;末石ほか,2013)。
また,この
29
名のうち,講演後に誤解や偏見を見直すことができた人数は22
名の約75%であり,
誤解や偏見の見直しについて「どちらとも言えない」あるいは「いいえ(見直すことができなかった)」
と回答したのは,無回答の
1
名も含め7
名だった。このような回答に至った経緯を分析するために,それぞれを①事前に誤解や偏見がないと自己認識していた群(16名),②誤解や偏見を修正した群(22 名),③誤解や偏見を修正できなかった群(7名)とし,それぞれ考察を行った。
①
LGBT
に対して講演前から誤解や偏見がないと自己認識していた群誤解や偏見がないと自己認識していた
16
名のうち,感想文を記入した13
名について,青木ほか(2014)のカテゴリーと,今回の感想文の記述から,「誤解や偏見への気づき」「知識・理解」「授業や 生徒対応」の
3
つのカテゴリーに分類し結果を表3
にまとめた。この結果から,LGBTに対して講演前から誤解や偏見がないと回答した教員の多くは,誤解や偏見 に対する気づきよりも,授業や生徒対応について積極的に行っていきたいという回答が多く見られ た。また,誤解や偏見がないと認識していても改めて
LGBT
に関する知識のなさを実感する教員も 多く,研修を通して改めてLGBT
に対する正しい知識やその実態を知る機会となったと考えられる。②
LGBT
に対する誤解や偏見を修正できた群講演前に
LGBT
に対して「誤解や偏見を持っていた」あるいは「どちらとも言えない」と回答し た29
名のうち,感想文を記入した18
名について,感想文を①と同様3
つのカテゴリーに分類したと ころ,以下のような結果が見られた(表4)。
感想文の結果から,誤解や偏見を修正できた群の感想文には,LGBTが直面する問題の重大性を 認識し反省する内容や,誤解を修正したり,知識を深めることができたという記述があった。また,
LGBT
を通じた多様な性の在り方を知ることで,教師としての考え方や,生徒対応への意識を改めて 見直す記述が多く見られた。授業実践の必要性についても一定の理解を示していたことからも,今回表 2 講演前後の偏見の変化に関するクロス集計表
(4)講演後,誤解や偏見を見直すことができたか?
無回答 はい いいえ どちらとも
言えない 合計
(3) 講演前に誤解や偏見 を持っていたか?
はい 0 4 1 2 7
いいえ 3 9 0 4 16
どちらとも
言えない 1 18 0 3 22
合 計 4 31 1 9 45
表 3 LGBTに対して講演前から誤解や偏見がないと自己認識していた群の感想文 誤解や偏見への気づきに関する記述(1名)
◦LGBTの方がこんなに多くいるとは思いませんでした。
知識・理解に関する記述(6名)
◦ 新聞でLGBTについての記事は多く読んできましたが,基礎知識のわからない状態で読んでいたため,
深く理解はできていなかったように思います。
◦友人にLGBTの人がいるとは言っても,知識はほとんど無いに等しいと思いました。
◦LGBTの子が,何に困っているのか,どうして欲しいのか,知る事ができてとても良かった。
◦断片的に知ってはいましたが,改めて深く知ることができました。 (他)
授業や生徒対応に関する記述(9名)
◦先生のお話を頂き,自信をもって授業で話したいと思います。
◦ お話を聞きながら,何人かの生徒の顔がうかびました。生徒から働きかけがあったら,こたえていこ うとは思っていましたが,こちらからも働きかけが必要ですね。
◦ どんな子ども達もその子らしく年老いて寿命を全うする迄,幸せな人生を生きる・生きられるような 世の中になれるよう私達は,教育という仕事にたずさわっていかなくてはと思います。
◦自分自身はもう少しずつ知っていきたいと思うし,生徒の様子もよく見ていきたいと思う。
◦ これから大人になっていく子どもたちが,「いろんな人がいて当たり前」という知識を持たないで生き
ていくことになる方がこわいです。 (他)
注.16名のうち有効回答数13名。一人の感想が複数の分類にまたがるものもあった。
表 4 LGBTに対する誤解や偏見を修正できた群の感想文 誤解や偏見への気づきに関する記述(6名記述)
◦ 自分がそんなにLGBTの方たち(?)に嫌悪感(?)をもっていなかったので学校や周りで話し合う 機会をもつ必要がないと思っていたけれど,そういう問題ではないなと思いました。
◦ 昔の考えを,あらためなくてはならないと感じた。
◦ からだの性が男であっても,必ず女を好きになるわけではないと思っていましたが,女が好きならば,
こころは必ずこころの性が男性だと思っていましたが,そうでないと認識でき,自分の無知さを知り
ました。 (他)
知識・理解に関する記述(9名記述)
◦ 漠然とした知識が一歩深まったような気がします。
◦ LGBTの基礎知識を学び,多様性があることを知った。
◦ LGBTの自殺未遂率の高さは予想以上で同和問題や障害者の就学と同様重い課題として受け止めまし た。 (他)
授業や生徒対応に関する記述(10名)
◦ LGBTに関する感想ではないのですが,性や固定観念のようなもの,その人の持っているもの(学歴 とか役職)とかではなく,人はその人間性の魅力が大切なんだなと思いました。
◦ 教職員にできること,のところでは,正しい知識を持つことと,自分の人間性を高めていくことが大 事だと思いました。
◦ 授業内でどう扱うかは理解を深めないと難しいと思われます。世の中に周知されてくると少し話が進 むと思うのですが…。
◦ 新しい家庭科の教科書や資料集にはLGBTが載っているので,生徒には教えなければと思っていまし たが,今回の研修で理解することができました。授業の中で機会あるごとに,生徒に教えていきたい
と思います。 (他)
注.有効回答数18名。一人の感想が複数の分類にまたがるものもあった。
の研修が
LGBT
に対する誤解や偏見を見直し,考えを改めるきっかけとなったと考えられる。③
LGBT
に対する誤解や偏見を修正できなかった群LGBT
に対する誤解や偏見を見直すことができなかった7
名(うち,記述があったもの5
名)の 感想文は,表5
の通りである。「どちらとも言えない」と回答した者の感想を見てみると,LGBTに 関して関心や理解を示すに留めた記述が多く見られた。その背景として,感想文からは自身のLGBT
に対する偏見との葛藤や,授業実施に対する不安感,人権課題の軽視があることが推測され,こうし た背景は既に辻(2017)でも同様の指摘がされている。まず感想にある「自分では偏見とか誤解のな いよう,なるべく理解したいという気持ちはありました」という記述をした上で,今回の質問に対し「どちらとも言えない」という選択をしたことは,変わらず自身の偏見と葛藤していると推察できる。
また「教師として伝えていくのは難しい」という記述は,LGBTについて何をどう教えるか特にガイ ドラインがなく,具体的に授業実践に対してイメージがしにくいことで,LGBTについて授業で教え るのが難しいと考えている可能性があるだろう。さらに「相手が
LGBT
だからとかではなく,人と してどうなのかが大切だ」という感想では,LGBTが現在直面している様々な問題を軽視したもので あり,その危機感や重大性に気づいていないことが分かる。また,偏見や差別を見直せなかった者の感想では,マイノリティの人権も重要であると考える一方,
マジョリティの権利についても大事であると主張している。このような考えは辻(2017)でも「不公 平・不平等」として議論されており,現状として既にある
LGBT
がマジョリティでない故に抱えや すい問題を無視していると考えられる。さらに「モノ言わず従順に働き続けるその他大勢」という文 言から,マイノリティの人権を保護したいものの,それ以前にマジョリティも保護されていないとい う考えがあることが推測できる。この点については,LGBTの人権が守られるべきかどうかの議論と は別問題であり,現在マジョリティが生活の中で抱えている問題も含めどうすれば個々人が生きやす くなるかについて議論していく必要があると考えられる。これら①~③の感想分析の結果から,LGBTに対し誤解や偏見がないと自己認識していた教員は,
表 5 LGBTに対する誤解や偏見を修正できなかった群の感想文
「どちらとも言えない」と回答した者の感想(4名)
◦ 自分では偏見とか誤解のないよう,なるべく理解したいという気持ちはありました。[書籍やニュー
スを見て] 理解したい(したつもり)とは思っていましたが,今日新たに講師の先生からお聞きした
話によって「なるほど」と思ったことがたくさんありました。
◦ このような話を聞いたのは初めてだったので,とても興味がわきました。ただ,これを生徒に教師と して伝えていくのは難しいと感じました。
◦ 理解をしていても,どこかで誤解している部分があって,偏見に繋がっているのだと思う。
◦ 相手がLGBTだからとかではなく,人としてどうなのかが大切だと改めて思いました。
「いいえ(誤解や偏見を見直すことができなかった)」と回答した者の感想(1名)
◦ マイノリティの人権も大切だが,モノ言わず従順に働き続けるその他大勢も大事である。
注.[ ]内は筆者が修正
研修を通じてさらなる知識の深化や授業実践・生徒対応への意欲を高める記述が多かったのに対し,
誤解や偏見を改めた教員は,自身の誤解や偏見に気づき,研修を通じて理解を深めていたことが分 かった。このことから,1度でも研修を実施することで,教員が持つ
LGBT
に対する誤解や偏見を修 正するだけでなく,すでに理解がある教員をエンパワメントし,授業実践や生徒対応へと導くことが できることが分かった。このことから,先行研究が指摘するように,LGBTに関する研修を実施する ことによる効果や意義があることが分かった(青木ほか,2014;佐々木,2016)。一方で,誤解や偏見を修正できなかった教員は,LGBTに関して関心や理解を示すものの,自身の 偏見との葛藤や,授業に対する不安感,人権課題の軽視,多数派の権利主張が見られた。このことか ら,より効果的に全ての教員の意識を改善するにはどのようなプログラムや研修内容を組むことが誤 解・偏見の修正に繋がるかを,さらに検討していく必要があることが示唆された。
LGBT を教育で教える必要性
LGBT
について教育で教える必要性に関する設問について,授業後の誤解や偏見によって回答が変 わるかどうかを調べるために,LGBTに対して①事前に誤解や偏見がないと自己認識していた群(16 名),②誤解や偏見を修正した群(22名),③誤解や偏見を修正できなかった群(7名)のそれぞれの 回答人数をクロス集計表にしたところ,表6
のような結果となった。表
6
の結果において,「そう思う」と回答していた教員が31
名いたことから,約7
割の教員がLGBT
について学校で教える必要性について認識していることが分かった。これは先行研究で明らか になった実態とおよそ一致している(吉良ほか,2013;末石ほか,2013;日高,2015)。また,それ ぞれの回答比率について,LGBTに対する偏見が①ないと自己認識していた群,②修正できた群,③ 修正できなかった群間で大きな差は見られず,誤解や偏見を修正できなかった群でもLGBT
につい て学校で教える必要があると回答した者が7
名中4
名いたことが分かった。全体として,LGBTにつ いて学校で教える必要がないと考える者も0
名であったことから,こうした回答の背景にある教員のLGBT
教育に対する意識を調べるために,表7
に感想文をまとめた。表 6 LGBTについて教育で教える必要性に関するクロス集計表
LGBTに対する誤解・偏見 ないと自己認識
していた群 修正した群 修正でき
なかった群 合計
LGBTを学校で教 え る 必 要 性 は あ ると思うか?
そう思う 11 16 4 31
そう思わない 0 0 0 0
どちらとも言えない 4 4 2 10
無回答・その他 1 2 1 4
合 計 16 22 7 45
注.「その他」には「そう思う」と「どちらとも言えない」の両方を選択した者1名を分類した。
まず,LGBTについて学校で教える「必要がある」と回答した者の感想を見ると,どの群でも
LGBT
当事者だけでなく非当事者にとってもLGBT
について知ることが重要だと指摘していた。しか しLGBT
に対する誤解や偏見を修正できた群や修正できなかった群の感想では,LGBTについて教え る必要性を理解しつつも,どう授業で扱うかや,そもそもLGBT
に対する偏見がない社会にするこ とへの必要性について指摘する者もいた。全体的にLGBT
教育が必要であると考えている者の多く は,授業実施の必要性も理解しつつも,背景にあるLGBT
の人権問題に関する理解には,本人の誤 解や偏見の修正度合いによってグラデーションがあることが推察された。また,「どちらとも言えない」「無回答・その他」と回答した者の感想では,LGBTについて教える 場面は授業ではなく場面指導を想定している回答が多かった。こうした感想の背景には,困り感を抱 える当事者への対応と
LGBT
が抱える人権問題を教員側が混合している可能性が考えられる。さら に「当事者がそっとしておいてほしいと思っている場合なら,あまり教えない方がよい?」という指 摘から,当事者に対してしかメリットがないと考えている教員がいることが分かった。これについて は先行研究が指摘しているように,LGBTが周囲の無理解によるいじめ被害を減らすためにも,全て の児童・生徒に学習の機会を与えることは重要であるだけでなく(中塚,2011;日高ほか,2015),表 7 LGBTについて学校で教える必要性に関する回答
「そう思う(教える必要がある)」(31名)
① ・ 社会生活を送る上で知る必要があると思うから。
・ 生徒の中にも悩んでいる子はいると思うので。 (他)
②
・ LGBTで悩んでいる生徒がいる以上,教育は必要だ。ただ,どの教科,場面でどの程度の内 容を教えるべきか検討が必要ではないかと思う。
・ 当事者の人には,正しく認識させたり,自己理解させたり,当事者でない人には正しい知識 をもたせる必要があると思うから。
・ 知らないことは,不幸だと率直に思うから。 (他)
③ ・ 差別という大きなくくりの1つとして,とりあげたいと思います。
・ でも教えなくても当然・ふつうのこと,と思える社会になるといいと思います。
「どちらとも言えない」(10名)
① ・ 特定の授業でなくても教える機会がある。
② ・ どう指導するかという課題
・ 場面に応じて指導すれば良い。
・ 当事者がそっとしておいてほしいと思っている場合なら,あまり教えない方がよい?
③ ・ 当事者でなければうまく伝えることができないと思います。
無回答・その他(7名)
① ・ もう教えています。
② ・ 知識を教えることは大切だし,必要だと思うが,対応の仕方や考え方はLGBTに限ったこと
ではないので,それまでの生活の中で教えておくことだと思うから。
③ 記述なし。
注. ①②③はそれぞれLGBTに対する誤解や偏見が①元々ない群,②修正できた群,③修正できな かった群を指す.
当事者生徒にとってはロールモデルや適切な情報を与えられることから,授業実施は必要であると考 えられる。また,「当事者でなければうまく伝えることができない」という感想については,今回の 講義は全て同じ人物が実施したことにより,そのような印象を受けた者もいたと考えられる。当事者 の話を実際に聞くことでポジティブな効果が得られることは先行研究で指摘されていることから(青 木ほか,2014;佐々木,2016),当事者と教員が一緒に授業を実施できるような支援体制も必要であ ると考えられる。
これらの感想分析の結果から,LGBTに関して授業を実施することは必要がないと考える教員はい ないものの,その授業実践の方法についてはまだ不安に感じていたり,教育が必要である背景にある
LGBT
が直面する問題に対する理解にはグラデーションがあることが分かった。今後はこうした授業 実践の必要性を,その背景と共に理解を深める場を設けながら学ぶことができるような仕組みが必要 だろう。Ⅳ 結論
本研究では,LGBTに関する研修を実施することで教員の意識がどのように変わるか,アンケート を中心に分析した。本研究の結果から,教員の実態として,本調査に協力した教員のうち,LGBTに 対して誤解や偏見を持っていた,あるいは「どちらとも言えない」と回答した教員は約
6
割であり,そのうち約
75%の教員がその誤解や偏見を修正することができた。これにより,LGBT
に関する研 修を実施することによる効果や意義があることが示唆された。感想文の分析では,
LGBT
に対して誤解や偏見の有無に関わらず,どの教員も自分自身の誤解や知 識のなさに改めて気づかされたり,LGBTについて教える必要性について認識する教員が多く見られ た。感想文の傾向として,LGBTに対して誤解や偏見を持っていない群の多くは授業実施や生徒対応 の重要性を再認識している記述が多く,誤解や偏見を修正できた群では,LGBTに関する人権課題を 意識したり,自身の知識や理解の深化に関する記述が多く見られた。一方,誤解や偏見を修正できな かった教員はLGBT
に関して関心や理解を示すものの,自身の偏見との葛藤や,授業に対する不安感,人権課題の軽視,多数派の権利主張に関する記述が見られた。引き続きこのような教員に対しどのよ うなアプローチで意識改革を図るかは課題であると考えられる。
また,LGBT教育の必要性について,教員自身の誤解や偏見の有無に関わらず
LGBT
に関する教育 の必要がないと回答した者がいなかったことから,教育現場でLGBT
に関して教える必要性につい て,どの教員もある程度研修により認識することができるようになることが分かった。これもLGBT
に関して研修を実施することによる効果であり,どの教員も自身の誤解や偏見に関わらず,一定数そ の必要性について理解を示すことができるようになることが分かった。一方,感想文では,主に
LGBT
に対する誤解を修正した群や修正できなかった群や,LGBT教育の 必要性について「どちらとも言えない」あるいは無回答だった者の感想では,LGBTについてどう教 えるかや,どの場面で教えるかに関して悩む教員の声が聞こえた。授業の実践例もまだまだ少なく発展途上段階にあることから,今後児童・生徒に対する授業実践を積み重ねていくことで,教員の持つ
LGBT
授業に関する不安感は解消されるだろう。また,アンケートの感想文を通して,
LGBT
を「普通の違い」として捉える教員がいたことが分かっ た。LGBTが抱える問題は人権問題であることから,子どもにとって身近な存在である大人としての 意識を再認識させ,1人でも多くのセクシュアルマイノリティであることで悩んでいる子どもを救う ためにも,継続した意識改革が必要であるだろう。例えば,研修を一度ではなく複数回実施するだけ でなく,専門的知識を定期的に学べる場や,同じセクシュアリティであっても多様な当事者の話を聞 く場の提供など,教員側への継続的な支援も重要であると考えられる。他にも,研修をディスカッ ション形式にしたり,他のマイノリティ(日本語を母語としない子どもの扱いや,障がいがある子ど もへの対応など)と合わせて考えるなど,人権課題を教員自身も考えることができるような工夫が必 要であると考えられる。こうした研修実践の効果を蓄積しながら,多忙化する教員に対し効果的な研 修を実施することで,学校からLGBT
に対する理解が進んでいくだろう。引用文献
青木昭子・榊原秀也・長嶋洋治・星野慎二・向原圭・後藤英司(2014).性的マイノリティについて講義を受けて 医学科1年生が学んだこと―感想カードを用いた質的研究 医学教育,45,357-362.
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hakuhodo.co.jp/uploads/2016/05/HDYnews0601.pdf(2018年3月16日)
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