はじめに
心不全は進行性の病態であり,心不全の増悪 による入退院を繰り返しながら,身体機能の低 下や寿命の短縮を来たす病態である.心不全の 病態形成には,交感神経系やレニン・アンジオ テ ン シ ン・ ア ル ド ス テ ロ ン(renin-angioten- sin-aldosterone:RAA)系の賦活化が重要な役割 を果たしていることが明らかとされ,近年の大 規模臨床試験では,これらの抑制薬が左室駆出 率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)の予後改善効果が示 された.一方,左室駆出率が保持された心不全
(heart failure with preserved ejection fraction:
HFpEF)に対する有効性が確立した薬剤はない.
本稿では,心不全の薬物治療について,本邦の
ガイドラインに沿って概説する1).
1.心不全の病態
種々の心疾患によって心筋障害が起こると,
心ポンプ機能障害が引き起こされ,その代償機 転として,神経体液性因子の賦活化が起こる.
これは,心拍出量や血圧を維持するために働く が,その過程で臓器うっ血を来たす.また,慢 性的に賦活化した神経体液性因子は,細胞レベ ルでのリモデリングを引き起こし,さらなる心 筋障害及び心ポンプ機能低下をもたらす.この ような悪循環サイクルから心不全は進展する.
特にHFrEFでは,神経体液性因子が病態進展に 大きな役割を果たしている(図1).HFpEFでは,
種々の疾患及び合併症により,心筋や血管の形
慢性心不全の薬物治療
要 旨
絹川 真太郎 これまでの大規模臨床試験や病態解明研究の結果から,左室駆出率が低
下した心不全の病態形成には,神経体液性因子の慢性的な活性化が重要な 役割を果たしていることが明らかになった.予後改善及び心筋リモデリン グ改善目的に,β遮断薬,アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-con- verting enzyme:ACE)阻害薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)を標準治療として用い,
臓器うっ血とそれによる症状の軽減目的に利尿薬を用いる.一方,左室駆 出率が保持された心不全に対する確立した治療法がなく,有効な薬物治療 の開発が待たれる.
〔日内会誌 109:207~214,2020〕
Key words 神経体液性因子,β遮断薬,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系,
利尿薬,HFpEF
北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学
Clinical Practice of Heart Failure in Reiwa Era. Topics:III. Treatment of heart failure;2. Pharmacological treatment for chronic heart failure.
Shintaro Kinugawa:Department of Cardiovascular Medicine, Faculty of Medicine and Graduate School of Medicine, Hokkaido University, Japan.
態異常から機能異常を来たしており,神経体液 性因子の役割は病態形成の一部に関わっている と考えられる(図 1).
2.HFrEFに対する薬物療法
臨床的には,心不全は,臓器うっ血と末梢低 灌流による症状を呈する病態である.さまざま な負荷によって増悪し,再入院を繰り返しなが ら,徐々に悪化する進行性の病態である.その ような観点から,心不全のステージ分類の考え が提唱されている2).心不全の治療目標は,ス テージの進行を遅らせ(寿命の延長),増悪によ る入院を回避し,症状・生活の質の改善を目指 すことである.HFrEFに対して,
β
遮断薬,アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme:ACE)阻害薬(あるいはアンジオテン シ ンII受 容 体 拮 抗 薬(angiotensin II receptor blocker:ARB))ならびにミネラルコルチコイド 受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antag- onist:MRA)を基本薬とし,必要に応じて,利 尿薬,経口強心薬を用いる.
1)
β
遮断薬
β
遮断薬は,交感神経抑制による心筋収縮力 低下(陰性変力)と徐拍化(陰性変時)作用を 有するため,以前は,収縮能が低下した心不全 に対しては禁忌とされてきた.しかしながら,これまでに行われた大規模臨床試験によって,
あらゆる重症度のHFrEFに対して,生命予後改 図1 HFrEFとHFpEFの病態
HT:高血圧,DM:糖尿病,CKD:慢性腎臓病,CAD:冠動脈疾患,
Af:心房細動,COPD:慢性閉塞性肺疾患 HFrEFの病態
虚血・HT・心筋症 心筋障害
悪循環
心ポンプ機能不全 神経体液性
因子の賦活化
多様な疾患・合併症
(HT・DM・CKD・CAD・Af・COPD)
遺伝素因?・神経体液性因子・血行動態負荷・慢性虚血 等 心筋細胞肥大 間質線維化 Ca動態異常 血管内皮異常
血管硬化
全身血管機能障害 拡張機能障害
心筋リモデリングの進展
(心筋細胞肥大・間質線維化・アポトーシス)
HFpEFの病態
善効果が証明された(推奨クラスI,エビデンス レベルA).また,心不全症状のない収縮不全患 者にも有効である(推奨クラスIIa,エビデンス レベルB).注意が必要なのは,HFrEFに対する
β
遮断薬の有効性はクラスエフェクトではなく,有効性が証明されているのは,カルベジロー ル,ビソプロロールならびにコハク酸メトプロ ロールの 3 種類である.
β
遮断薬のHFrEFに対す る有効性とその機序を示す(表1).メタ解析の 結果でも,β
遮断薬による心拍数の減少と予後 改善は有意に関連することが報告されている.しかしながら,心拍数減少だけでは説明できな い点もあり,機序の詳細は不明のままである.
また,
β
遮断薬は,心筋リモデリング抑制効果・左室駆出率改善効果が知られており,この効果 は濃度依存的である3).
β
遮断薬の導入は,できるだけうっ血を解除 してからが望ましく,少量から開始し,少しず つ増量し,忍容性がある限り増量する(カルベ ジロールでは 20 mg/日,ビソプロロールでは 10 mg/日を目標とする).重症な心機能障害を 有する場合や低拍出症候群の場合には,β
遮断 薬の導入や漸増が困難なことがあり,特に心不 全増悪に注意が必要である.心不全の増悪が軽 度の場合は,利尿薬の調節等で対応し,安易にβ
遮断薬の減量・中止はしない.また,症候性 低血圧や症候性徐脈が忍容性の制限因子となる ことが多いが,単に血圧が低い場合や徐脈の場 合にβ
遮断薬の導入や漸増を躊躇しないことが 重要である.2) アンジオテンシン変換酵素(ACE)
阻害薬・アンジオテンシンII受容体 拮抗薬(ARB)・ミネラルコルチコイド 受容体拮抗薬(MRA)
RAA系は,全身及び心臓局所で発現している
(図2).心臓局所においても,RAA系に関連する 全ての基質,酵素が存在し,アンジオテンシン II(AngII)の産生に関わっており,心筋リモデ リングの進展に重要な役割を果たしている.
AngIIは強力な生理活性物質であり,AngII 1 型 受容体(AT1R)を介して,心血管系に対して有 害な作用を引き起こす.アルドステロンは,RAA 系の最終代謝生理活性物質として,副腎及び心 臓局所から産生され,ミネラルコルチコイド受 容体(MR)を介して直接的に心血管系に作用 し,血管の炎症,心筋肥大,線維化,リモデリ ングならびに腎機能障害に関わっている.
ACE阻害薬は,アンジオテンシンI(AngI)を 基質とするACEを阻害することによって,AngII の産生を抑制し,心血管系の保護効果に関わっ ている.さらに,ACEはブラジキニンの分解に も関わっており,ACE阻害薬はブラジキニンの 分解抑制をもたらし,このことも心血管系の保 護効果に関わっていると考えられている.一 方,ARBはAT1Rを抑制することにより,心保護 効果を発揮すると共に,AngII 2型受容体(AT2R)
を介したAngIIの心保護作用を保持している.
MRAはMRを抑制することにより,心血管系の 保護効果に関わっている.
ACE阻害薬は,NYHA(New York Heart Asso- ciation)IからNYHAIVの全ての重症度のHFrEF患 者に適応があり,予後改善効果が証明されてお り,心不全症状の既往がない収縮不全患者にも 表1 β遮断薬の有効性とその機序
・β遮断薬(カルベジロール,ビソプロロール,
コハク酸メトプロロール)
・有効性(濃度依存的)
予後改善効果
心血管イベント抑制効果
心室リモデリング改善(左室駆出率改善)
・有効性の機序
カテコールアミンによる心筋傷害の抑制 レニン分泌抑制
抗不整脈作用
心拍数減少による心筋酸素消費量の低下 心拍数減少による拡張期特性の改善
有効である(推奨クラスI,エビデンスレベル A).
β
遮断薬の有効性のエビデンスは,全てACE 阻害薬を服用したHFrEF患者を対象とした試験 に基づいており,ACE阻害薬はHFrEF患者の第一 選択薬である.ARBはACE阻害薬と同等の臨床 的有効性があることが示されており,ACE阻害 薬が忍容性等の問題で投与できない場合には,ARBを用いるべきである(推奨クラスI,エビデ ンスレベルA).HFrEFに対するACE阻害薬/ARB の有効性はクラスエフェクトと考えられている が,ACE阻害薬であるエナラプリルマレイン酸 塩のエビデンスが最も豊富である.MRAは,
NYHAII以上のHFrEF(EF 35%未満)患者の予後 改善効果が証明されており,これらの患者全例 に投与すべきである(推奨クラスI,エビデンス レベルA).
ACE阻害薬(あるいはARB)は動脈系の血管拡 張薬であり,後負荷軽減による心拍出量上昇を
期待できるため,心不全の急性期にも導入する ことが可能であり,高血圧を合併するHFrEF症 例では,積極的に導入・増量する.ACE阻害薬
(あるいはARB)は,高用量でより臨床的効果が 大きいことが示されているため,忍容性がある 限り増量することが望ましい.一方,ACE阻害 薬とARBの併用は,付加的な有効性は確認され ておらず(推奨クラスIIb,エビデンスレベル B),ACE阻害薬,ARBならびにMRAの3剤の併用 は,血清カリウム上昇に伴う有害事象が増加す ることが知られており,これら 3 剤の併用は避 けるべきである.ACE阻害薬の主な副作用は,
咳,低血圧,腎機能障害ならびに高カリウム血 症であり,咳以外の副作用はARBもACE阻害薬 と同等である.症候性低血圧が忍容性の限界と なることがあるが,単に血圧が低いという理由 だけでRAA系抑制薬の導入・漸増を躊躇しない.
図2 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 NO:一酸化窒素
プロスタグランジンNO産生 I2産生
アンジオテンシノーゲン レニン ACE阻害薬
ACE
Ang Ⅰ Ang Ⅱ
AT1R AT2R
不活性化ペプチド ブラジキニン
+アルドステロン産生
ARB
MRA MR
血管拡張,Na利尿,
増殖・肥大・線維化 抑制,NO産生
血管収縮,抗Na利尿,増殖・
肥大・線維化促進,酸化スト レス産生,交感神経活性
3)利尿薬
利尿薬は,心不全治療に必須の薬剤である が,予後改善の効果はなく,根本治療ではない ため,うっ血に基づく労作時呼吸困難,浮腫等 の症状を軽減するために,利尿薬を用いる(推 奨クラスI,エビデンスレベルC).従って,体液 量の評価を行い,適宜増減することが重要であ る.高用量のループ利尿薬を服用している症例 では,予後が悪いとの報告がある4).ループ利 尿薬は,電解質異常(低ナトリウム血症,低カ リウム血症),腎機能障害ならびに低血圧を引き 起こすことがあり,これらが心不全の予後に影 響していると考えられている.また,ループ利 尿薬は直接的にレニンを刺激し,RAA系を活性 化することも知られており,この点も予後へ影 響した要因かもしれない.このように,利尿薬 は,病気の重症度によっても,その時々の状態 によっても,使用量が変化する薬剤であり,最 も注意を払わなければならない薬剤である.
利尿薬の作用は,腎尿細管での再吸収を抑制 することによって発現する.尿細管での再吸収 の比率は,近位尿細管60~70%,ヘンレループ 20~30%,遠位尿細管5%,集合管5%であり,
上位で抑制するほど利尿効果は高い.利尿薬 は,作用点の違いから 4 つの主要なグループに
分類される(表2).MRAはカリウム保持性利尿 薬と分類されるが,利尿作用は弱く,前述した 心保護薬として用いられる.
80 mg/日以上のフロセミドを必要とする場 合は,フロセミドに対する抵抗性が出現してい る可能性を考慮する5).利尿薬抵抗性を来たす 機序として,利尿薬が作用を発揮する過程にお ける各段階の異常が挙げられる.フロセミド抵 抗性の場合,投与方法の変更(内服から静脈投 与へ),他の種類の利尿薬の投与(サイアザイド 系利尿薬,バソプレシンV2受容体拮抗薬),基 本的な心不全治療薬の強化(MRAを含むRAA系 抑制薬),Na利尿ペプチドの投与,強心薬の投 与ならびに血液浄化等を検討する必要がある.
最近は,フロセミドに対する反応が悪い場合 は,早期にバソプレシンV2受容体拮抗薬を導入 することが多く,うっ血に基づく症状改善に有 用である(推奨クラスIIa,エビデンスレベル B).純粋な水利尿作用を有するバソプレシンV2
受容体拮抗薬は,従来のナトリウム排泄性利尿 薬の欠点を補う点で有用である.バソプレシン V2受容体拮抗薬も慢性期の長期投与による予 後改善効果は示されていないが,長期的なうっ 血コントロールをするうえで,再入院,低ナト リウム血症,腎機能増悪予防に有効である可能 性がある.バソプレシンV2受容体拮抗薬の併用 表2 利尿薬の種類と特徴
ループ利尿薬 サイアザイド系
利尿薬 ミネラルコルチコイド
受容体拮抗薬 バソプレシンV2
受容体拮抗薬 作用点 ヘンレループの太い上行
脚に存在するNa+/K+/2Cl- 共輸送体
遠 位 尿 細 管 近 位 部 で の
Na+/Cl-共輸送体 遠位尿細管のK+/Na+交換 機構
髄質集合管にある バソプレシンV2受 容体
薬剤名 ・フロセミド
・アゾセミド
・トラセミド ・トリクロルメチアジド ・スピロノラクトン
・エプレレノン ・トルバプタン
利尿作用 強い 弱い 弱い 強い
血圧低下 小さい 大きい 中程度 なし
電解質 低ナトリウム,低カリウム 低ナトリウム,低カリウム 低ナトリウム,高カリウム なし
腎機能悪化 あり あり あり なし
によって,ループ利尿薬の投与量を減量するこ とが可能であることがあり,長期的なうっ血のコ ントロールの際には有利であると考えられる6). 4)ジゴキシン
ジゴキシンは,古くから心不全に対して用い られてきた薬剤であり,細胞膜にあるNa+/K+AT- Paseを抑制し,細胞内Na+が上昇し,その結果と して,Na+/Ca2+交換機構の速度が低下し,細胞 内Ca2+濃度が上昇することによって強心作用を 発揮するとされているが,その作用は極めて弱 い.臨床的な効果は,迷走神経や房室結節に作 用し,心拍抑制効果がメインと考えられてい る.ジゴキシン(血中濃度 0.8 ng/ml以下に維 持)は,洞調律のHFrEF患者に対しては心不全 増悪による入院を抑制するが,予後は改善しな い(推奨クラスIIa,エビデンスレベルB).ま た,頻脈性心房細動を合併する心不全患者の心 拍数コントロール目的に用いることがある(推 奨クラスIIa,エビデンスレベルB).心不全に対 して
β
遮断薬の有効性が確立した現在では,ジ ゴキシンが使用されることは少なくなっている が,β
遮断薬が禁忌の場合に用いられることが ある.また,ジゴキシン以外のジギタリス製剤 が心不全のコントロールにおいてジゴキシンよ り優れているというエビデンスはない.ジゴキシン血中濃度が高くなると,ジゴキシ ン中毒を起こす可能性が高くなる.その症状は 非特異的であり,無気力,錯乱ならびに消化器 症状(食思不振,吐き気,嘔吐ならびに腹痛)
等であり,あらゆる頻脈性及び徐脈性不整脈が 起こり得る.ジゴキシンは腎排泄であるため,
腎機能障害患者や潜在的に腎障害を有する高齢 者では要注意である.ジゴキシン感受性が増大 する状態(低カリウム血症,低マグネシウム血 症,高カルシウム血症ならびに低酸素血症等)
においては,血中濃度が治療域であってもジゴ キシン中毒を起こす可能性があり,注意を要する.
5)経口強心薬
1990 年代に行われた大規模臨床試験におい て,種々の経口強心薬は予後改善効果がないば かりか,予後を悪化させる結果に終わった.一 方,本邦で行われた臨床試験において,ピモベ ンダンは予後を悪化させず,心事故発生率を低 下させ,運動耐容能を有意に保つことが報告さ れた7).ピモベンダン以外の経口強心薬の心不 全に対する有効性が示された試験はない.これ らの報告から,経口強心薬はHFrEFの予後改善 効果はないが,心不全治療が生活の質の改善を 主な目的とする場合や経静脈的強心薬からの離 脱を目的とした場合に投与される(推奨クラス IIa,エビデンスレベルB).また,
β
遮断薬を導 入する際の補助療法として用いられる場合があ る(推奨クラスIIb,エビデンスレベルB).低心 機能であるだけで,無症状の患者には適応がな い(推奨クラスIII,エビデンスレベルC).多 く の 強 心 薬 の 作 用 機 序 は,cAMP(cyclic adenosine monophosphate)の増加を介した細胞 内Ca2+の上昇による.経口強心薬として,現在,
本邦では,ピモベンダン(PDE(phosphodiester- ase)III阻害薬,カルシウム感受性増強薬),デ ノパミン(
β
1受容体刺激薬)ならびにドカルパ ミン(カテコールアミン製剤)が認可されてい る.心筋酸素消費量増加や細胞内カルシウム過 負荷による心筋障害の進展や催不整脈作用が経 口強心薬による予後悪化の原因と考えられてい る.PDEIII阻害薬であるピモベンダンは,細胞 内カルシウム上昇だけでなく,カルシウム感受 性増強作用も有し,強心作用を発揮すると共 に,末梢動脈の血管拡張作用も有する点で,他の 経口強心薬より臨床的有効性があるかもしれない.6)アミオダロン
心不全に合併する心室頻拍や心室細動に対し ては,速やかに電気的除細動が行われるが,再 発する重症心室不整脈に対しては,アミオダロ
ンやニフェカラントの経静脈投与は即効性があ り,有効である.また,重症心室不整脈とそれ に伴う心停止の既往のある心不全患者の二次予 防 目 的 に 投 与 さ れ る が, 植 込 み 型 除 細 動 器
(implantable cardioverter-defibrillator:ICD)の 適応がある場合はICDを優先する.さらに,ICD 植込み後の心室不整脈に対するICD作動回避目 的に投与される.HFrEF症例の心房細動に対し て,洞調律維持目的で投与される場合や心房細 動の心拍数コントロールに対して,
β
遮断薬等 でコントロール困難な場合にアミオダロンを併 用することがある.アミオダロンはIII群抗不整脈薬に分類され,
カリウムチャネルをブロックし,活動電位を延 長させてリエントリー回路の形成を阻害し,抗 不整脈作用を発揮すると共に,交感神経遮断作 用を有している.心不全患者の突然死予防に対 して,過去の臨床研究では,不整脈死,全死亡 を減少させるという報告とプラセボと比較して 有効性がないとの結果であり,一貫した結果が 得られていない.突然死予防に関して,アミオ ダロンとICDの比較では,ICDの有効性が示され ている8).従って,突然死予防の主体はICDであ り,アミオダロンは心室不整脈頻度を抑制する 補助的な治療と考えられる.
アミオダロン投与時の特異的な副作用とし て,甲状腺機能異常,間質性肺炎,角膜色素沈 着ならびに肝機能異常がある.副作用の早期発 見のために,定期的な甲状腺機能,肺機能評価,
胸 部X線 写 真, 血 中KL-6(Krebs von den Lun- gen-6)測定,肝機能測定ならびに眼科受診が必 要である.特にアミオダロンによる肺障害の死
亡率は高く,肺障害が発症した場合には,専門 医と相談し,速やかな診断及び治療とアミオダ ロンの中止が必要である.
3.HFpEFに対する薬物療法
予後改善効果が証明された薬剤はなく,原疾 患に対する治療を基本治療とし,心不全症状を 軽減させる負荷軽減療法及び心不全増悪と関連 する併存症に対する治療を行う.うっ血による 症状(所見)を有する場合には,利尿薬(ルー プ利尿薬,サイアザイド系利尿薬ならびにバソ プレシンV2受容体拮抗薬)を用いて,症状(所 見)の改善を図る.利尿薬を用いる場合,長時 間作用型利尿薬におけるイベント発生抑制作用 が大きいと考えられている.十分な有効性は確 立していないが,高用量の
β
遮断薬やRAA系抑制 薬は,心不全再入院等のイベントを抑制する可 能性が指摘されている.おわりに
心不全の薬物治療に関して,本邦のガイドラ インに沿って概説した.心不全は進行性の病態 であり,種々の治療を行っても治療抵抗性とな ることがある.しかしながら,必要な時期に十 分な薬物治療を行うことが重要であり,そのこ とによって,多くの症例でステージの進行を遅 らせることが可能である.それぞれの薬物治療 の意義を理解し,治療にあたることが求められる.
著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし
文 献
1) 日本循環器学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017 年改訂版).2018.
2) Yancy CW, et al : 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure : a report of the American Col- lege of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation 128 : e240―327, 2013.
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4) Imamura T, Kinugawa K : Prognostic impacts of hyponatremia, renal dysfunction, and high-dose diuretics during a 10-year study period in 4,087 Japanese heart failure patients. Int Heart J 57 : 657―658, 2016.
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6) Imamura T, et al : Urine osmolality estimated using urine urea nitrogen, sodium and creatinine can effectively predict response to tolvaptan in decompensated heart failure patients. Circ J 77 : 1208―1213, 2013.
7) The EPOCH study group : Effects of pimobendan on adverse cardiac events and physical activities in patients with mild to moderate chronic heart failure : the effects of pimobendan on chronic heart failure study(EPOCH study). Circ J 66 : 149―157, 2002.
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