身体知に媒介されるユーモア生成過程の解明ー引き込み現象を通してー [ PDF
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(2) 言語知と同じく, (あるいはそれ以上に) 身体知が果たす. される.演者と観客,観客と観客が身体知を媒介として. 役割は大きい.それにもかかわらず,ユーモアが言語知. 影響し合っているのであれば,両者の動作や音声につい. による理解に加え身体知による理解によっても引き起こ. て局所的な引き込みが失われても,より大域的な引き込. されることは,実証的には明らかになってはいない.そ. みが生まれ,双方の動作・音声の出現,強度は同期する. こで本研究は,ユーモア生成が身体知によって媒介され. はずである.このため,ユーモアが身体知に媒介されて. ていることを実証的に検討することを目的とする.. いるかを検討するにあたっては,観客の体幹の比較的規. 1.4 引き込み現象の定量的検討. 模の大きな動きに着目する.. 身体知がユーモア生成を媒介していることを客観的. 従来,人と人との相互作用を論じた研究では,定性的. に計測することができるように,本研究では動作や音声. な分析がなされることが多かった.このような定性的な. といった生体リズムの時間的な遅れ(タイムラグ)を含. 分析は,非言語情報を文脈において意味づけることを可. めた同期に注目する. 人と人のコミュニケーションでは,. 能にする一方で,信頼性・妥当性を保証することは難し. 参加者どうしの動作や音声が同期することが知られてい. い.そこで本研究では,相互相関(=二つの時系列デー. る.動作や音声といった生体リズムが影響しあい,時間. タのうち,一方を固定し,他方を時間的に先行・後行さ. 的な関係性が生まれることは広く“引き込み現象. せたとき相関)係数を利用し,定量的に演者−観客,観. (entrainment) ”と呼ばれている.たとえば,話し手の. 客どうしの動作・音声に引き込み現象が生起を判断する.. 聞き手の関係では,話し手の間(音声の ON-OFF)と聞. 2. 演者と観客との引き込み現象(本実験1). き手のうなずきのリズムが引き込むことが知られている. 2.1 目的. (渡辺, 1998). 発話に限らずリズム全般での引き込み現象では,直前. 演者と観客のあいだで引き込み現象の生起を確かめ る.生起しているならば,演者のどの部分(動作,音声). の連続したパターンによる期待が生成され,次に起こる. で生起しているのか検討する.. ことに対してより注意が配分されることが指摘されてい. 2.2 方法. る(Jones, & Boltz, 1989) .そのため,演芸においても,. (1)実験参加者 予備知識を持ち,落語についての身体知. 文脈が提示され,次に何が起こるのかを観客が考えるス. を内在化(Polanyi, 1980)していると考えられる九州大. トーリー展開の部分では,演者の音声と観客のうなずき. 学落語研究会に所属する大学生 7 名(男性 4 名,女性 3. といった引き込み現象が生起していると考えられる.. .う 名) ,年齢 18∼22 歳(M=20.43 歳,SD=1.27 歳). 一方,クスグリにおいては,ユーモア刺激として期待. ち,4名(男性 2 名,女性 2 名)をターゲットとした.. から逸脱する「不調和の構造」や,しばらく前に現れた. (2)演者・演題 演者は事前調査でもっとも熟達している. パターンが踏襲され繰り返される「調和の構造」が見ら. と評価された演技歴3年3ヶ月の九州大学落語研究会員. れる.これらの構造は解釈可能な新たなルールを探索し. 1 名,演題は落語『蒟蒻問答』である.分析対象は,動. たり,以前に踏襲されたパターンを記憶から検索すると. 作のみで表現される「問答場面」と,セリフを伴って問. いった分析的な注意配分(Jones et al, 1989)を促す.. 答を解釈する「解釈部分」である.. 観客はこのようなユーモア刺激の意味を理解し解釈する. (3) 手続き まず,ターゲットとして 4 名を抽選で選出. ことで,おもしろいと感じ,笑いの断続的な発声に伴っ. した. ビデオ映像から動作を計測するための目印として,. て肩が細かく揺らす.これにより,演者と観客のあいだ. 演者は額,両肩,両手首に,観客は額にマーカー(ピン. の引き込み現象は崩れると考えられる.. ポン球)をつけた.その状態で馴化試行を行った.その. しかし,観客が見せる動きは笑いに伴う微細な上下運. 後,本試行においては,映像を同期させるために,デジ. 動だけではない.観客はおもしろいと感じると,体幹を. タル時計を数秒撮影したのち,演者に落語を演じさせ,. 大きく前後に揺らす.そして,このとき小規模での動き. 観客に集団状況で落語を視聴させ,その様子をビデオ撮. における引き込み現象が失われる代わりに,より大きな. 影した.演技が終了した後,観客に質問紙を配布し,回. 規模での動きで引き込み現象が生起する可能性がある.. 答させた.. 体幹の前後運動といった比較的大きな動きは,コミュニ. (4)装置・データ処理 会場は 5.4m×7.2m の和室である.. ケーション一般に見られるうなずきのような小さな動き. 演者を撮影するために,演者は正面と左の 2 台のカメラ. よりも観客が感じるおもしろさに関係していると考えら. (3 次元計測)で,観客は心理的圧迫を低減するために. れる.さらに,比較的大きな運動は,他の観客に影響を. 側方から1台のカメラ(2 次元計測)で撮影した.映像・. 与えやすく観客間での引き込み現象へとつながると予想. 音声は,いずれも Sony DCR-TRV70 を用い,映像は.
(3) 30Hz,音声は 48kHz で記録した.引き込み現象の指標. チ) ”において,観客動きが演者の体(額,肩,手首)の. とする各相互相関係数の算出に用いたデータ数は,5. 動きと音声のうち,どの部分と関係が強いかを検討する. (秒)×6(フレーム/秒)=30 サンプルである.また,. ために,1 要因 4 水準(額,肩,手首,音声の強さ)の. 最大のラグは,±6(±1 秒)に設定した.すなわち,デ. 分散分析を行った.その結果,演者の部分の主効果が見. ータ分析に用いたデータは,問答場面では約 1 分 10 秒. .水準間の差を検 られた(F(3, 572)=6.78, p<.01, Figure2). のデータ(サンプル数=66 データ×4名=264) ,解釈場. 討するために,Bonferroni の方法で調整した p 値により. 面では,約 40 秒のデータ(サンプル数=36 データ×4. 多重比較を行ったところ,音声に比べ額と手首の最大相. 名=144)である.水準間の比較には最大相関係数の絶. 互相関係数(フィッシャーの z’変換後)の平均値は有意. 対値にフィッシャーの z’変換を施した値を用いた.各標. に高かった(それぞれ p<.01, p<.05). 本数(25∼30)での 5%水準で有意な相関が r >.36∼.40. 2.4 考察. であることを踏まえ,ここでは,r >.40 のとき引き込み. 演者の動作と観客の動きのあいだには引き込み現象が. 現象が生起したと判断する.. . 「問答場面」 , 「解釈場面」 生起していた(r >.40, p<.05). (5)質問紙 まず,演題全体に関する感想,分かりやすさ,. いずれにおいても,演者の頭(額) ,腕(手首)の動きと. 話をきいて想像したこと,演者やその演技についての評. 観客の動きとの関係性が強いというパターンが見られた.. 価を尋ね,この順に7件尺度(1. まったくあてはまらな. 音声が含まれる「解釈場面」においては,演者の音声(の. い − 7. かなりあてはまる)で回答させた.次に,もっ. 強弱)に比べ,頭(額) ,腕(手首)の動きと観客の動き. ともおもしろかった部分とその理由について自由記述で. はより強い関係性が見られた.この結果は,頭や腕の動. 回答させた.その後,落語を見ているときの自分自身や. きが演者の演出上の意図を示しやすいことを反映してい. 周囲の人物の笑いや体の動きについて尋ね,同様の7件. ると考えられる.また,演者の音声には,セリフとして. 尺度で回答させた.最後に実験条件に対する感想,実験. の意味と強弱や抑揚といったパラ言語的情報が含まれる. 参加者情報(年齢,性別,落語の視聴経験)について尋. が,言語知によって理解される部分が大きいだろう.一. ね,適宜記入・記述させた.. 方,演者の動作にも,文脈の中での意味に加えて,非言. 2.3 結果. 語的情報が含まれるが,身体知によって理解される部分 が多いだろう.このため,演者の音声よりも動作のほう. まず, “問答場面”において,演者の額,肩,手首のう ちどの部分の動きが観客の動きと関係性が強いかを検討. が観客の動作と関係が強かったと考えられる.. するため,1要因3水準(額,肩,手首)の分散分析を. 3. 観客と観客との引き込み現象(本実験2). 行った.その結果,体の部分の主効果が見られた(F(2,. 3.1 目的. 789)=6.11,. p<.01, Figure1).水準間の差を検討するために,. 観客と観客の間で引き込み現象の生起を確かめる.生. Bonferroni の方法で調整した p 値により多重比較を行っ. 起しているならば,視覚情報・聴覚情報いずれに依存し. たところ,演者の額の動きと観客の額の動きとの最大相. ているかを検討する.. 互相関係数の平均値は,演者の肩の動きと観客の額の動. 3.2 方法. きとの最大相互相関係数に比べ,有意に高かった. (1)実験参加者 K大学の大学生・大学院生 16 対 32 名 (男. .次に,動作に加えて音声もある“解釈場面(オ (p<.01). 性 17 名,女性 15 名) ,年齢 18∼31 歳(平均年齢 21.97 0.55. 0.55 ︵ フ ィ ッ シ ャ ー の z 変 換 ︶. 最 大 相 互 0.5 相 関 係 数 0.45 の 平 均. ︵ フ ィ ッ シ ャ ー の z 変 換 ︶. **. 0.4. 0 0.3 .05. 額. 肩. 手首. Figure1. 問答場面における演者の各部分と観客の動きとの最大相互 相関係数の平均 ** p<.01. 最 大 相 0.5 互 相 関 係 0.45 数 の 平 均. ** *. 0.4. 00.3 .05. 額. 肩. 手首. 音声. Figure2. 解釈場面における演者の各部分と観客の動きとの最大相互 相関係数の平均 ** p<.01, *p<.05.
(4) 歳,標準偏差 2.41 歳).. Bonferroni の方法で調整を行った p 値により多重比較を. (2)演者・演題 ラーメンズ(トゥインクルコーポレーシ. 行ったところ,一人視聴条件と左右位置,一人視聴条件. ョン)第 15 回公演「アリス」 (収録 2005 年 4 月 23 日,. と前後位置条件のあいだに有意傾向が見られた(ともに. 於東京下北沢本多劇場)のうち, 『モーフィング』と『風. p=.058).次に,視聴条件とラグを独立変数とする2要. と桶に関するいくつかの考察』のビデオを刺激とした.. 因の分散分析を行ったところ,視聴条件とラグの交互作. いずれも質問紙において多くの観客に最もおもしろいと. 用が有意であった(F(1, 6526)=2.23, p<.001, Figure4).. された 40 秒を分析対象とした.. 3.4 考察. (3)装置・データ処理 会場はテレビモニタを正面に配置. 視覚情報,聴覚情報のいずれが関係するかは断定でき. した 4.4m×5m の講義室である.観客を撮影するために,. ないものの,一人で視聴するよりも二人で視聴するとき. 2 台のビデオカメラを側方約 1.5m 離れた位置に配置し. 相互相関が高くなる傾向が見られたことから,同時に視. た.分析では,実験1と同じ機器を用い,同様に相互相. 聴することで観客どうしに引き込み現象が生起すること. 関係数を算出した.水準間の比較には,最大相関係数の. が示唆された.左右位置条件においては,ほぼ左右対称. 絶対値にフィッシャーの z’変換を施した値の分布のうち. に 3 つのラグで関係性が強まることから,左右の観客が. 50%を用いた.これは,観客が動いていない部分(40%. 相互に影響していると考えられる.人の拍手といった会. 以下)や,変換により極度に大きくなる部分(90%以上). 場全体で一致する結びつきは,近接する小さな結びつき. を除くためである.最大相互相関係数はラグごとに偏る. によって成立することが示唆されている(Strogatz,. 可能性があるため,ラグの検討にはすべての相互相関係. 2003).このため,近接する2名の観客のあいだでの引. 数の絶対値にフィッシャーの z’変換を施した値を用いた.. き込み現象は,さらに別の観客と引き込み現象を起こす. (4)手続き 観客は 2 名 1 組で参加した観客に左右の視野. ことによって,会場全体の観客どうしの引き込み現象へ. を遮断するゴーグルをかけさせ,額にビデオ映像から動. と波及する可能性を示唆するものであろう.. 作を計測するための目印としてマーカーをつけた.二人. 4. 総合考察. 視聴では左右位置(視覚情報なし)条件,前後位置(視. 本研究では, 客観的な指標を用いることで演者と観客,. 覚情報あり)条件のいずれかに割り当て,同時に同一の. 観客と観客のあいだで,身体知を媒介としておもしろさ. 演題を視聴させた.また,一人視聴(統制)条件では,. が生成され,共有されている可能性が示唆された.今後. 一人ずつ同一の演題を視聴させた.いずれの条件でも視. の研究では,おもしろさの時間的な推移と身体知の指標. 聴している様子をビデオ撮影した.各条件で演技が終了. としての引き込み現象の動的な関係を検討することが課. した後,観客に質問紙を配布し,回答させた.. 題となる.. (5)質問紙 本実験1と同様の質問紙を用いた.. 5. 主要引用文献. 3.3 結果. Polanyi,. 0.45 ︵ フ ィ ッ シ ャ ー の z 変 換 ︶. 最 大 相 互 相 関 係 数 の 平 均. p<.05, Figure3).そのため, ︵ フ ィ ッ シ ャ ー の z 変 換 ︶. † †. 0.4. THE. TACIT. DIMENSION. 次元 1980 佐藤敬三訳 紀伊國屋書店). 人視聴)分散分析を行ったところ,条件の主効果が有意 546)=3.62,. 1966. Routledge & Kegan Paul Ltd., London(暗黙知の. まず,1要因3水準(条件:左右位置,前後位置,一 であった(F(2,. M.. 0.2. 相 互 相 関 係 数 の 平 均 0.15. 左右位置 前後位置. * **. *. * *. **. *. 0.35. 0.1 0.0. 00.0 .3 左右位置. 前後位置. 一人視聴( 統制群). 1 -6- 25. 3 -3 4 -2 5 -1 6 -4. 07. 8 1. 9 2. 13 0. 11 4. 12 5. 13 6. Figure4.ラグごとの相互相関係数の平均. Figure3. 条件ごとの最大相互相関の平均(サンプル数=左. ※この図では,ラグにおける視聴(左右−前後)条件の単純. 右位置 126, 前後位置 153, 一人視聴 270)†p<.10. 主効果のみ有意記号を表記している. *p<.05, **p<.01.
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