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副査   教授   喜多村   昇(大学院理学研究科)

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Academic year: 2021

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博士(地球環境科学)   伊藤八十男

学 位 論 文 題 名

協同効果を利用した金属イオンのキレート抽出と 液膜によるイオン認識に関する研究

学位論文内容の要旨

  金属イオンの抽出分離法であるキレー卜抽出及び協同抽出の応用分野を拡大し、金属イ オンの新たな検出技術の確立を図るため、2つの異なるアプローチから研究を行った。第1 は、これらの抽出系の潜在的機能を生かし新たな方向での発展を目指し、液膜イオンセン サー(ISEs)の液 膜系 に応用した場合のイオン認識機能について検討した 。第2は、従来 の分離濃縮法としての能カをさらに発揮させるため、協同抽出を利用した金属イオンの予 備濃縮法にっいて検討した。

  液膜ISE8の電位の発生は、液膜/溶液界面において、親水性の対イオンを溶液中に残し たまま目的イオンのみが透過選択的に膜中に取り込まれ、電荷分離が達成されることに基 づいている。キレート抽出は、水相における電気中性の金属キレート錯体の生成とその有 機相中への分配に基づくため、通常の酸性キレート試薬を含む液膜では、金属イオンに対 する電位応答は起こりえない。しかし、キレート試薬の疎水性が十分に高く、溶液中より も液腋界面における錯形成が支配的となる抽出系を液膜に応用した場合には、金属イオン に対する電位応答が期待される。8‑キノリノール(HOx)、フェニルヒドロキサム酸、ジチ ゾン、1−(2−ピリジルアゾ)−2―ナフトールなど通常の酸性キレート試薬と、それらに長 鎖アルキル基を導入して疎水性を高めたキレート試薬とを感応物質として用いた液膜の金 属イオンに対する電位応答を比較、検討した。同時に、それらの試薬の膜溶媒/水間の分配 係数」茹を実測した。その結果、|め値が103.2以上の疎水性の高いキレート試薬であれぱ、

金属イオンに対する電位応答が得られることが明らかとなった。例えぱ、HOx (log局〓1.78) を含む液膜は金属イオンに対し電位応答を示さないが、それに長鎖アルキル基を導入した 5.オクチルオキシメチル‑8‑キノリノール(H08Q)を含む液膜はコバルト(H)、亜鉛(u)、

ニッケル(n)及びカドミウム(u)に応答を示した。各キレート試薬を含む液膜の、金属イオ ンにっいての選択係数の序列とそれらの錯生成定数の序列が一致したことから、キレート 抽出系に基づく液膜ISEsの電位応答には、キレート試薬と金属イオンとの錯形成が関与し ていると示唆された。電位‑ pH曲線から、疎水性の高いキレート試薬の陰イオンが液膜′

溶液界面に吸着し、金属イオンを透過選択的に膜中に取り込むチャージドキャリヤとして 機能すると考えられた。これに基づき、膜電位の発生モデルを提案した。各キレー卜試薬 の液膜から溶液への溶出量の測定結果、界面張カの測定結果、脂溶性の陽イオン性添加剤 を液膜に加えた際の電位応答挙動などのデータから、提案したモデルが妥当なものである ことが強く支持された。

  次に、協同抽出系を応用した液膜の金属イオンに対する電位応答にっいて検討した。協 同抽出で最もよく用いられるキレ ート試薬、テノイルトリフルオロアセ卜ン(Htta)及ぴ ベンゾイルトリフルオロアセトン(Hbfa)を含む液膜は、金属イオンに対し電位応答を示 さない。Htta及びHbfaの節(膜溶媒′水)値は、それぞれl01.5及びl01.7と実測され、こ

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の値からは、前述のように電位応答が得られなくとも当然である。しかし、これらの液膜 系に、協同抽出においてsynergist(付加錯体形成剤)として用いられる中性配位子、ピリ ジン(py)、4,ぞ―ジオクチル‑2,2 ―ビピリジル(C8bpy)及びりン酸トリブチルを添加し た場合には、金属イオンに対する電位応答が生起した。例えば、Httaのみを含む液膜及び pyのみを 含む液膜 系では金 属イオ ンに対し 電位応答を示さないが、Htta及びpyの両者を 含む液膜系はニッケル(n)、コバルト(H)、亜鉛(II)及びカドミウム(n)に応答を示した。検 討したすべての系にっいて、キレート試薬単独の場合は金属イオンに対する電位応答は得 られなぃが、付加錯体形成剤の共存により電位応答が生起することを明らかにした。膜溶 媒を抽出溶媒として用い、溶媒抽出を行ったところ、すべての系において協同効果が認め られた。Httaの陰イオンtta−が液膜′溶液界面に吸着していると考え、py及びC8bpyが共 存した場合の膜電位発生モデルを提案した。膜電位の発生にはキレー卜試薬と付加錯体形 成剤の共 存が必 須であるが、pyの場合には溶液中での金属―py錯体の生成が、C8bpyの場 合には液膜黼!液界面での混合配位子錯体の生成が膜電位の発生に寄与すると推定した。

  さらに 、ジチゾ ン(H2Dz) 及ぴトリ ブチルホスフインオキシド(TBPO)による協同効 果を利用したコバルト(n)及ぴカドミウム(H)の予備濃縮法について検討した。それぞれの 金属イオンにっいて協同抽出平衡の解析を行い、コバルト(u)及びカドミウム(u).は、それ ぞれ 付 加 錯体Co但Dz)2TBPO及 ぴCd但Dz)2TBPOと して四塩 化炭素 中に抽出 されるこ と を明らかにした。また、付加錯体生成定数声値は、コバルト(H)について1ぴ‥、カドミウム

(u)にっいては1ぴ.9と求められた。溶媒抽出を予備濃縮法として利用する場合、水相と有 機相との体積比を大きくしても定量的な抽出が要求される。2相の体積比を100倍大きくし た場合に も同じ 抽出率を得るためには、分配比が100倍増加する必要がある。上記の声値 から、ジ チゾン 単独で抽 出を行 った場合 と比べ 、TBPO濃度を0.1Mとした場合の金属イ オンの分配比はコバルト(u)で約500倍、カドミウム(n)では約800倍上昇することになり、

水相と有機相の体積比を100とした場合でも、それらの定量的な抽出が可能と考えられた。

2相の体積比を100として抽出の検討を行い、コバルト(H)及びカドミウム(u)の予備濃縮 法をそれぞれ確立した。確立した予備濃縮法を、河川水中のコバルト(H)及びカドミウム(u) の定量に応用し、好結果を得た。本研究で確立した方法は、操作も簡便であり、天然水中 のng〜サブllg几レベルのコバルト(H)及びカドミウム(u)の予備濃縮に十分適用しうるこ とを明らかにした。

  以上、キレート抽出系を液膜ISE8に応用した場合、通常のキレート試薬で電位応答を得 ることは難しいが、アルキル基の導入などで試薬の疎水性をコントロールすることにより 電位応答が生起し、液膜のイオン認識素子として利用できることが明らかとなった。さら に、協同抽出系を液膜ISE8に応用した場合には、疎水性がそれほど高くないキレー卜試薬 であっても、8ynergi8tの共存により電位応答が生起し、液膜のイオン認識機能が発現する ことが明らかとなった。液膜ISE8の認識素子としての利用は、キレート抽出及び協同抽出 の新たな活用分野を拓くものである。また、逆に液膜系の電位応答挙動を解析することは、

キレー卜抽出や協同抽出における界面機構を解釈するうえで有用と思われる。一方、H2Dz ーTBPO協同抽出系が、環境水中のコバルト(u)及びカドミウム(H)の実用的な予備濃縮法 として十分に適用できることが明らかとなった。金属イオンの予備濃縮は、付加錯体生成 定数が大きい協同抽出系であれぱ、その利点を十分に発揮できる領域である。本研究で得 られた成果に基づき、今後、キレート抽出及び協同抽出を応用した新たな液膜ISE8の開発 や予備濃縮法の発展が期待される。

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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査   教授   中村   博 副査   教授   田中俊逸 副査   教授   嶋 津克明

副査   教授   喜多村   昇(大学院理学研究科)

副査   教授   梅澤喜夫(東京大学大学院理学系      研究科)

副査   教授   片岡正光(小樽商科大学商学部)

学 位 論 文 題 名

協 同 効 果 を 利 用 し た 金 属 イオ ン の キ レー ト 抽 出 と 液 膜 に よ る イ オ ン 認 識 に 関 す る研 究

  本論文は、古くから知られている金属イオンの抽出分離法であるキレート抽出及び協同 抽出の応用分野を拡大し、金属イオンの新たな検出技術の確立を図るため、2つの異なる アプローチから研究を行ったものである。第1は、これらの抽出系の潜在的機能を生かし 新たな方向での発展を目指し、液膜イオ ンセンサー(ISEs)の液膜系に応用した場合のイ オン認識機能について検討している。第2は、従来の分離濃縮法としての能カをさらに発 揮させるため、協同抽出を利用した金属イオンの予備濃縮法にっいて検討したものである。

  液膜ISEsの電位の発生は、液膜購!液界面において、親水性の対イオンを溶液中に残し たまま目的イオンのみが透過選択的に膜中に取り込まれ、電荷分離が達成されることに基 づいている。キレート抽出は、水相における電気中性の金属キレート錯体の生成とその有 機相中への分配に基づくため、通常の酸性キレート試薬を含む液膜では、金属イオンに対 する電位応答は起こりえなぃことになる。しかし、キレート試薬の疎水性が十分に高く、

溶液中よりも液腋界面における錯形成が支配的となる抽出系を液膜に応用した場合には、

金属イオンに対する電位応答が期待され る。実際、8‑キノリノール(HOx)、フェニルヒ ドロキサム酸、ジチゾン、1―(2−ピリジルアゾ)‑2‑ナフトールなど通常の酸性キレート 試薬と、それらに長鎖アルキル基を導入して疎水性を高めたキレー卜試薬とを感応物質と して用いた液膜の金属イオンに対する電位応答を比較、検討した結果、分配係数」茹値が 103.2以上の疎水性の高いキレート試薬であれぱ、金属イオンに対する電位応答が得られる ことを明らかとした。例えぱ、HOx (log妬=1.78)を含む液膜は金属イオンに対し電位応 答を示さないが、それに長鎖アルキル基を導入した5.オクチルオキシメチル‑8‑キノリノー ル(H08Q)を含む液膜はコバル卜(n)、亜鉛(II)、ニッケル(H)及ぴカドミウム(II)に応 答を示した。各キレー卜試薬を含む液膜の、金属イオンについての選択係数の序列とそれ らの錯生成定数の序列が一致したことか ら、キレート抽出系に基づく液膜ISEsの電位応 答には、キレート試薬と金属イオンとの錯形成が関与していると示唆された。これらに基

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づき、膜電位の発生モデルを提案している。

  次 に 、協 同 抽 出系 を応用 した液 膜の金 属イオ ンに対 する電位 応答に ついて 検討し ている 。 協 同 抽 出 で 最 も よ く 用 い ら れ るキ レ ー ト 試薬 、 テ ノ イル ト リ フ ルオ ロ ア セ トン(Htta)及 び ベ ン ゾ イ ル ト リ フ ル オ ロ ア セト ン(Hbfa)を 含む 液 膜 は 、金 属 イ オ ンに 対 し 電 位応 答 を 示 さ な い 。Htta及びHbfaのjめ( 膜溶媒 ′水) 値は、 それぞれ101.5及 ぴ10117と実 測され 、 こ の 値 か らは 、 前 述 のよ う に 電 位応 答 が 得 られ な く と も当 然 で あ る。し かし、 これら の液 膜 系 に、 協 同 抽 出に お い て8ynergist( 付 加錯 体 形 成 剤) と し て 用い ら れ る 中性 配 位 子 、 ピ リ ジン(py)、4,4 ‐ ジ オ クチ ル −2,2― ビ ピ リジ ル(C8bpy)及 び りン 酸 ト リ ブチ ル を 添 加 し た 場合 に は 、 金属 イ オ ン に対 す る 電 位応 答 が 生 起し た 。 例 えぱ、Httaのみを 含む液 膜 及 びpyの み を 含 む 液 膜 系 で は 金 属 イ オ ン に 対 し 電 位 応 答 を 示 さ な い が 、Htta及 びpy の両者を含む液膜系はニッケル(II)、コバルト(]I)、亜鉛(II)及びカドミウム(II)に応答を 示 し た 。 検討 し た す べて の 系 に つい て 、 キ レー ト 試 薬 単独 の 場 合 は金属 イオン に対す る電 位 応 答 は 得ら れ な い が、 付 加 錯 体形 成 剤 の 共存 に よ り 電位 応 答 が 生起す ること を明ら かに し た 。 膜 溶媒 を 抽 出 溶媒 と し て 用い 、 溶 媒 抽出 を 行 っ たと こ ろ 、 すべて の系に おいて 協同 効 果 が 認 めら れ た 。Httaの 陰イ オ ンtta−が 液 膜/溶 液 界 面に 吸 着 してい ると考 え、py及 び C8bpyが 共 存 し た場 合 の 膜 電位 発 生 モ デル を 提 案 した 。 膜 電 位の 発 生 に はキ レ ー ト 試薬 と 付 加 錯 体 形成 剤 の 共 存が 必 須 で ある が 、pyの 場 合 に は溶 液 中 で の金 属一py錯 体の生 成が、

C8bpyの 場 合 に は液 膜 ′ 溶 液界 面 で の 混合 配 位 子 錯体 の 生 成 が膜 電 位 の 発生 に 寄 与 する と 推定した。

以 上 、 キ レ ー ト 抽 出 系 を 液 膜ISEsに 応用 し た 場 合、 通 常 の キレ ー ト 試 薬で 電 位 応 答を 得 る こ と は 難し い が 、 アル キ ル 基 の導 入 な ど で試 薬 の 疎 水性 を コ ン トロー ルする ことに より 電 位 応 答 が生 起 し 、 液膜 の イ オ ン認 識 素 子 とし て 利 用 でき る こ と が明ら かとな った。 さら に 、 協 同 抽 出 系 を 液 膜ISEsに 応 用 し た場 合 に は 、疎 水 性 が それ ほ ど 高 くな い キ レ ート 試 薬 で あっ て も 、8ynergi8tの 共 存に よ り 電 位応 答 が 生 起し 、 液 膜 のイ オ ン 認 識機 能 が 発 現 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。 液膜ISE8の 認 識 素 子と し て の 利用 は 、 キ レー ト 抽 出 及び 協 同 抽 出 の 新た な 活 用 分野 を 拓 く もの で あ る 。ま た 、 逆 に液 膜 系 の 電位応 答挙動 を解析 する こ と は 、 キレ ー ト 抽 出や 協 同 抽 出に お け る 界面 機 構 を 解釈 す る う えで有 用と考 えられ る。

  審 査 委 員 一同 は 、 以 上の 研 究 成 果と こ れ ま での研 究業績 を高く 評価し 、また 研究者 とし て 誠実 で 熱 心 であ る こ と から 、 申 請 者が 博 士 (地 球環境 科学) の学位 を受け るのに十 分な 資 格を 有 す る もの と 判 定 した 。

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参照

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