博 士 ( 環 境 科 学 ) 代 英 杰
学 位 論 文 題 名
間伐材由来の炭素素材の吸着剤への利用ならびに 凍結濃縮法を用いる水処理技術の開発に関する研究
学位論文内容の要旨
2005年11月13日,中 国の吉 林省吉林 市にある 吉林石 油化学で 爆発事 故が発生 し,ベ ンゼン ,二ト口 ベンゼ ン,アニ リンの混 合物計 約100ト ンが中 国東北部 を流れる松花江 に流 出 し , 川を 汚 染 した 。 流 出事 故 後 ,2006年3月,5月,10月 と2009年3月にハ ルピ ン市と 吉林市内 を流れ る松花江 の河川氷 ,河川 水を採取し,これらの試料中のニトロベ ンゼン 濃度の測 定を行 った。そ の結果, 流出事 故後4力月から3年半経過した時点におい て,松 花江の河 川氷や 水試料か らニトロ ベンゼ ンが検出されたが,その濃度はいずれも 非常に低いものであった。現在松花江の汚染はなくなりつっあるが,今後も同じような事件 が起こる可能性があるため,安価で強い吸着性能を有し,回収の容易な吸着剤の開発を目指して 研究を行った。また,凍結濃縮法の汚染物質の除去分離への適用を目的として研究を行った。
本論文は,全6章から構成されている。第1章では,日本と中国における環境問題について 概説 するとと もに,2005年11月に起 った松 花江への化学物質の流出事故について述ベ,
本研究の背景と目的について述べた。
第2章 では,松 花江の 流出事故 後,採取 された 河川氷や 水試料 中のニト ロベンゼン濃 度 につい て調査し た結果 を示した 。また, 二トロベンゼンの氷への取り込みについて汚 染 物質濃 度,温度 ,攪拌 速度等の 条件に関 する検 討を行っ た。そ の結果, 事故後4カ月 以 降に採 取した水 および 氷試料中 のニト口 ベンゼン濃度はかなり低く,汚染の継続は認 め られな かった。
第3章で は,間伐 材の燃 焼に伴っ て副成す る炭素 素材を用 い,二 ト口ベンゼンに対す る安 価で, 環境に優 しい吸 着剤の開 発を目指 して,その吸着特性等に関する研究を行っ た。 さらに ,吸着剤 の物理 的特性, 化学的特 性,吸着時間,吸着等温線などについて市 販の 粉末活 性炭と比 較しな がら検討 を行った 。また,色素に対する吸着カを調べるため に, ヌチレ ンブルー を用い て,吸着 実験を行 った。その結果,間伐材の燃焼に伴って副 成す る炭素 素材のニ トロベ ンゼンに 対する吸 着能は,市販の活性炭とほぼ同程度である こと が分か った。ま た,本 炭素素材 によるニ ト口ベンゼンの吸着特性を炭素素材の表面
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の疎水性に基づき説明することを試みた。水分子の吸着特性,表面を酸化した炭素素材 の吸着特性と表面官能基量との関係から,表面の疎水性の差が両者の吸着平衡定数の違 いとなって現われていることが推定された。
第4章では,炭素素材をこんにゃくゲル内に内包させ,二ト口ベンゼンに対する吸着 能について検討した。吸着剤の物理的特性,化学的特性,吸着時間,吸着等温線などに ついて検討した。さらに,色素に対する吸着カを調べるために,メチレンプルーを用い て,吸着実験を行った。その結果,炭素素材内包こんにゃくゲルのニトロベンゼンに対 する吸着については,吸着速度が遅くなるものの飽和吸着量は炭素素材それ自体と同程 度であることが分かったィ
第5章では,環境汚染水から汚染物質を分離するため,自然エネルギー(寒冷外気)を 用いる凍結濃縮現象を利用した環境汚染水の処理技術の開発に関する研究を行った。汚 染物質に対する凍結濃縮時における攪拌の効果,凍結濃縮に対する温度の影響,凍結濃 縮に対する処理容積の影響等が調べられた。その結果,色素やニト口ベンゼン,鉛イオ ンが,スターラーで攪拌された溶液中に凍結濃縮され,その中心部分を除去することに より,70〜80%の除去率が得られることが明らかとなった。実際の寒冷外気で小規模の 凍結濃縮を行い,実験室と同様な除去率が達成された。
以上,本研究では,問伐材に由来する炭素素材の吸着特性を調ベ,その炭素素材が安価 な吸着剤として,二ト口ベンゼンなどの吸着に利用できることを明らかとした。また,
炭素素材を内包したこんにゃくゲルを用いる吸着剤を開発し,これによって,微粉末飛 散などの問題を解決し,さらに吸着剤の処理水からの分離を容易とする可能性を示した。
凍結濃縮法を利用することによって比較的低濃度の汚染物質を特定の部所に濃縮する ことが可能であることが明らかとし,吸着剤等の添加を必要としない汚染物質の除去法 となりうることを示した。以上の結果は水環境を改善するための安価な処理技術の開発 に展開っきるものとして貢献が期待できる。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 田中俊逸 副査 教授 古月文志 副査 准教授 豊田和弘 副査 准教授 神谷裕一
副査 教授 町田 基(千葉大学大学院 工学研究科)
学 位 論 文 題 名
間伐 材由来の炭 素素材の吸着剤への利用ならびに 凍結濃縮法を用いる水処理技術の開発に関する研究
代 英 杰 氏 の 学 位 論 文 に 関 す る 研 究 は ,2005年11月 に 発 生 し た 中 国 吉 林 市 の 石 油 化学 工 場 での 爆 発 によ る, 松花江の 化学物質 による汚 染事故に 端を発して 進め ら れ た。 す な わち , 流 出事 故後 ,ハルビ ン市と古 林市内を 流れる松 花江の河川 氷,
河 川 水を 採 取 し, こ れ らの 試料 中のニト ロベンゼ ン濃度の 測定を行 い,その結 果,
流 出 事 故後4カ 月 か ら3年 半 経 過し た 時 点に お いて も , 松花 江 の河 川 試 料か ら ニト ロ ベ ンゼ ン が 検出 さ れ たが ,そ の濃度は いずれも 非常に低 いもので あることを 明ら かとした。しかし,今後も同じような化学物質の流出事故が起こる可能性があることを 考慮して,安価で強い吸着性能を有し,回収の容易な吸着剤の開発を目指して研究を行っ た。また,凍結濃縮法の環境分野ーの適用を目的として,凍結濃縮法による汚染物質の除 去分離に関して研究を行ったものである。
本論文は,全六章から構成されている。第一章では,日本と中国における環境問題につ い て 概 説 す る と と も に ,2005年11月 に 起 っ た 松 花 江 へ の 化 学 物質 の 流出 事 故 に っいて述べ,本研究の背景と目的について示している。
第二 章 では , 松 花江の流 出事故後に 採取され た河川氷 や水試料 中の,ニ トロベン ゼ ン濃 度 に つい て の 調査 結 果を 示 し てい る 。そ の結 果,事故 後4カ月以 降に採取 し た 水お よ び 氷試 料 におい ても,ニト ロベンゼ ンが検出 されたが その濃度 はかなり 低 く ,汚 染 の 継続 は 認めら れたいこと を明らか とした。 また,ニ トロベン ゼンの氷 へ の 取り 込 み にっ い て汚染 物質濃度, 温度,攪 拌速度等 の条件に 関する検 討を行い , その取り込み量は小さい値であることを明らかとした。
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第三章では,ニトロベンゼンに対する安価で,環境に優しい吸着剤の開発を目指 して,間伐材の燃焼に伴って副成する炭素素材を用い,その吸着特性等に関する研 究を行っている。吸着剤の物理的特性,化学的特性,吸着時間,吸着等温線などに ついて市販の粉末活性炭と比較している。その結果、間伐材の燃焼に伴って副成する 炭素素材のニトロベンゼンに対する飽和吸着量は,市販の活性炭とほぼ同程度であ り,また,吸着平衡定数は市販の活性炭よりも大きいことを示している。この吸着 平衡定数の違いを水分子の吸着特性や,表面を酸化した炭素素材の吸着特性と表面 官能基量との関係から考察し,表面の酸性官能基量にも依存する表面の疎水性の差 が 両 者 の 吸 着 平 衡 定 数 の 違 い と な っ て 現 われ て い る こ と を 推 定 し て いる 。 第四章では,炭素素材を内包させたこんにゃくゲルを作製し,ニトロベンゼンに 対する吸着能について検討している。吸着剤の物理的特性,化学的特性,吸着時間,
吸着等温線などにっいて検討し,炭素素材内包こんにやくゲルのニトロベンゼンに 対する吸着については,吸着速度が遅くなるものの飽和吸着量は炭素素材それ自体 と同程度であること,また,こんにやくゲル成分の増加とともにグルの圧縮強度は 大 き く な る も の の , 吸 着 性能 は 逆 に 低 下する こと など を明 らかに して いる 。 第五章では,環境汚染水から汚染物質を分離するため,自然エネルギー(寒冷外 気)を用いる凍結濃縮現象を利用した環境汚染水の処理技術の開発に関する研究を 行っている。汚染物質に対する凍結濃縮時における攪拌の効果,凍結濃縮に対する 温度の影響,凍結濃縮に対する処理容積の影響等が調べられ,色素やニトロベンゼ ン,鉛イオンが,スターラーで攪拌された溶液中に凍結濃縮され,その中心部分を 除去することにより,70 〜80 %の除去率が得られることを明らかにした。また,小 規模ではあるが実際の寒冷外気において凍結濃縮実験を行い、実験室と同様な除去 率が達成されることを報告している。
以上,本研究は,問伐材に由来する炭素素材の吸着特性を調べ,その炭素素材が 安価な吸着剤として,ニトロベンゼンなどの吸着に利用できることを明らかとした ものである。また,炭素素材を内包したこんにやくゲルを用いる吸着剤を開発し,
これによって,微粉末飛散などの問題を解決し,吸着剤の処理水からの分離を容易 とする可能性を示している。さらに,凍結濃縮法を利用することによって比較的低 濃度の汚染物質を特定の部所に濃縮することが可能であることを明らかとし,試薬 や吸着剤等の添加を必要としない低コストの汚染物質の除去法となりうることを示 した。以上の結果は,水環境を改善するための安価な処理技術の開発に展開できる ものとして期待できる。
審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心で あり,大学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士(環境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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