博 士 ( 工 学 ) 王 穎 輝
学 位 論 文 題 名
吸脱着二重セルを用いて測定した凝集カの 異なる各種液体のアルゴン溶解度
学位論文内容の要旨
Arガスは溶鋼中への溶解度が低いという前提で、酸化防止のシールガスや撹拌、
介在物除去など広く使用されているが、鋳片内部にArガス気泡欠陥が存在してい る。このとき、Ar気泡介在物の成因について、Ar源としては鋼中に溶解したArの 可能性があると考えられる。しかしながら、鉄中へのArの溶解は極めて少なく、
測定が非常に困難なのため、正確なAr溶解度は得られていない。またAr溶解度と 液体の性質との関係は明らかになっていない。その原因のーっとして、極微量ガ ス(ppbオーダー)の溶解度の測定法が今日まで確立されていないことがあげられ る。したがって、極微量Ar溶解度の測定法を開発し、Arの各種液体中の溶解挙動 を考察する研究は重要である。
本研究では、吸脱着二重セルによるArの抽出と高感度の四重極質量分析計(略 QMS)を用いて液体の極微量Ar溶解度を求める手法を開発し、この手法により各種 液体(水素結合―水、イオン結合―溶融アルカリ硝酸塩、ファンデルワールス結 合一有機溶媒Succinonitrile (CHzCN)2)へのAr溶解度の測定を行い、その結果 に基づき、各種溶媒におけるAr溶解度の差異の原因について熱力学的に検討した。
本論文は全編7章よりなっている。
第1章は序論で あり、これまでの液体への気体の溶解の研究を概観し、本研究 の対象となる各種液体の特性とこれまでの研究の概要(測定法など)、およびこ れまでのガス溶解度の計算モデルについて紹介した。さらに本論文の研究目的と 構成について示した。
第2章では、本 研究では、液体への極微量Ar溶解度を測定することを目的に、
液体容 器の液一ガ ス界面(吸脱着界面)を隔壁で2分割し、一方のAr雰囲気側か ら液中にAr溶解させ、その溶解Arをもう一方の側のHeガスを液体中でバブリング させて抽出し、出てきた被検ガスを四重極質量分析計により連続的に測定する手 法を開発した。本測定法の妥当性を確立するため、適切な測定条件やそれらに対 応する 検出限界、QMSの各種バラヌ―夕―の最適条件、および本実験での液体容 器への気体吹き込み時の液―ガス界面(吸脱着界面)の化学工学的検討などを行 い、以 下の結果を 得た。@本実験では、分析管内の圧カをほぼ4X10・4Paに保持 したとき、質量スペク卜ル強度比に及ぼす分析管内圧カの影響がなくなった。◎
本測定システムによれば、HeーAr混合ガス中の20ppb(0.02ppm)程度のAr濃度の分
析が可能であった。
第3章 では 、 本 研 究 で 開 発 し た 測 定 シ ス テ ム を 用 い 、 純 水 およ びア ルカリ 金属 ハ 口 ゲ ン 化 物 水 溶 液 へ のAr溶 解 度 を 測 定 し 、 以 下 の 結 果 を 得た 。 @ 純 水 中 のAr 溶 解 度 は 温 度 の 上 昇 に っ れ て 減少 し、 溶解 のエ ンタ ルピ ーは 負と なり 、工ン ト□
ピ ーも 負と なっ た。293K〜323Kに おい てArガスの 純水 への 溶解 度( [Ar], mol− Ar/cm3−H:0)は絶対温度(T)の関数として1n凪灯〓―J9.DHぢ卯刀で表すことができ、
こ れ ま で 報 告 さ れ て い る 値 と よく 一致 して おり 、本 測定 法に より 充分 の精度 を持 っ て 水 に お け るAr溶 解 度 を 求 め 得 る こ と が 明 ら か に な っ た 。◎ 水 へ のAr溶 解 度 は ハ口 ゲン 化物 (LiCl NaCl,KC1)の 添加 量の 増加 にっ れて 減少 した 。また ハ口 ゲ ン 化 物 の 種 類 に よ っ てAr溶 解度 が違 うこ とが わか った 。そ の結 果に っいて 、解 離したイオンと水との相互作用に基づいて検討した。
第4章で は、 これま でほ とん ど測 定が なさ れて いな い溶 融LiN03―NaN03―KN03系 中 のAr溶 解 度 を 測 定 し 、Ar溶 解度 の温 度依 存性 、Ar溶解 度に 及ぽ す組 成の影 響を 検討した。得られた結果は次のとおりである。(1)溶融LiNOヨ、NaNOヨ、KNOユ中のAr 溶 解 度 は 温 度 の 上 昇 に っ れ 増 加し 、溶 解の エン タル ピー (△Ho) は正 となっ た。
510K〜698Kに お い てLiN03、NaN03、KN03へ のAr溶 解 度 ([Ar],mol一Ar/cm3 ‑ ni trates)を絶対温度(T)の関数として求めた。すなわち、
工iN03 1n [Ar] =‑1ヱ0‑1ぷ70/T NNロ3 J皿凪r =−Jヱ9一J53ロノr よW・ロ3 J口凪灯=−Jヱ8一J56ロノr
(2)LiN03−KN03、LiN03−NaN03、KN03ーNaN03の溶融二成分系におけるAr溶解度を 測 定 し た 。 溶 融 混 合 塩 のAr溶 解度 は正 に偏 倚し 、そ の結 果に つい て熱 力学的 に検 討した。
第5章 で は 、 極 性 有 機 溶 媒 へ のAr溶 解 度 を 検 討 す る た め 、Succinonitrile
(CH2CN)2( 略SCN) を 選 び 、 そ のAr溶 解 度 を 測 定 し た 。333Kか ら348Kのに おい て 、SCNへ のAr溶 解 度 は 温 度 の 上 昇 に よ り 増 加 し た 。Ar溶 解 度 はSCNの 絶 対 温 度(T)の関数としてJ口伽灯=−7.舛一J63ロノァ式で表すことができ、Ar溶解度の 温 度 依 存 性 か ら 求 め た 溶 解 エ ン タ ル ピ ー は13. 5KJ/molで あ っ た 。 第6章 では 、 溶 融 金 属 ( 金 属 結 合 ) のAr溶 解 度 を 理 論 的 に 検討 し、 本研究 で測 定 した 水( 水素 結合 )、 溶融 塩( イオ ン結 合)、SCN(フ ァン デル ワー ルス結 合)
で の 溶 解 度 の 結 果 を 合 わ せ て 、 各 種 液 体 のAr溶 解 に つ い て 総合 的 に 検 討 し た 。 第7章では本研究の総括を行った。
学 位 論 文審 査 の 要 旨 主査 教授 石井邦宜 副査 教授 工藤昌行 副査 教授 井口 学
副査 教授 中村義男(理学研究科)
副査 助教授 柏谷悦章
学 位 論 文 題 名
吸 脱 着 二 重 セ ル を 用 いて 測 定 し た凝 集 カ の 異 な る 各 種 液 体 の ア ル ゴ ン 溶解 度
Arガス は不 活性 であ るた め、 酸化 防止 のシ ール ガス や攪拌 ガス とし て、金属製造 プロ セス にお いて 広く 使用 され てい る。 しか レ近 年、 金属材 料に 対す る品質要求が 一段 と高 度化 する にっ れ、 材料 内部 に存 在す る極 微細 なAr気 泡が 欠陥 原因となるこ とが 明ら かと なっ てき た。 これ を解 決す るに は材 料中 のAr溶 解度 を知 ることが大切 であ るが 、極 微量 であ るた め正 確な 溶解 度は 得ら れて いない 。一 方、Arは媒質との 相互 作用 が小 さい ため 、そ の溶 解度 は媒 質の 液体 構造 を探査 する プロ ーブになりう るも のと 考え られ る。 本論 文は 、超 高感 度四 重極 質量 分析計 と特 殊セ ルを用いた微 量Ar溶解 度測 定法 を開 発し 、各 種液 体中 のAr溶解 挙動 を明ら かに した ものである。
第1章 は 緒 論 で あ り、 これ まで の研 究の 概説 と研 究の 目的 につ いて述 べて いる 。 第2章 は 、 本 研 究 で新 たに 開発 した 液体 中の 極微 量Ar溶解 度を 測定す る方 法に つ い て 述 べ た 。 す な わち 、液 体試 料容 器の液 ーガ ス界 面を 隔壁 で2分割し 、一 方の 側 からArを 溶解 させる。飽和後測定を中断することなく、もう一方の側でHeガスをノく ブリ ング してHe気 泡内 に溶 解Arを抽 出し 、超 高感 度四 重極質 量分 析計 で定量した。
その 際、 溶解Arを 速や かに 抽出 には 、Heバブ リン グに よって 試料 容器 内に十分な対 流を 生じ せし める 必要 があ る。 本研 究で は、 液体 試料 深さ、 抽出 管の 浸漬深さ、He /ヾ ブリ ング 管の 浸漬 深さ 、He流 量な ど、 最適抽出条件を実験的に求めるとともに化 学工 学的 計算 によ り流 動解 析を 行っ た。 以上 によ り、 様々な 物性 値を 持つ各種液体 に 対 応 レ て 、 精 度 良 く 極 微 量の 溶 解Arを 測 定 で き るシ ステ ムの 開発に 成功 した 。 第3章 で は 、 純 水 およ びア ルカ リ塩 化物 水溶 液のAr溶 解度 を測 定した 結果 につ い て述 べた 。新 たに 測定 され た純 水のAr溶 解度 は文 献値 とよく 一致 し、 本システムに より 充分 な精 度でAr溶 解度 が測 定で きる こと を示 した 。水素 結合 性の 液体である水 のAr溶解 度は 温度 の上 昇に っれ て減 少し 、溶 解の ェン タルピ ー及 びエ ント口ピーは
負となった。また、水にアルカリ塩化物を添加した場合、Ar溶解度は添加量ととも に減少した。同一濃度におけるAr溶解度は、NaCIくLiClくKC1で順で小さく、塩析 開始温度の順NaClくKC1くLiClとは異なり、水の部分モル体積の大きさ順と一致し ている。このことから、水溶液系液体へのAr溶解過程が、空孔形成のような液体構 造に敏感な素過程に強く依存していることが示された。またこのことは、Ar溶解度 が液体構造 を明らかにするセンサーとして利用可能であることを意味している。
第4章 では、溶融アルカリ硝酸塩(LiN03、NaN03、KN03)のAr溶解度を測定し、
組成と温度依存性について検討した。溶融アルカリ硝酸塩のAr溶解度を同一の方法 で系統的に測定した例はなく、本測定で始めて比較検討が可能となった。イオン性 液体であるアルカリ硝酸塩のAr溶解度は温度の上昇にっれ増加し、溶解のェンタル ピーは正となった。一方、溶解のェントロピ―は負で、Arの溶解により硝酸塩の液 体構造は規則化することがわかった。一方、二成分系溶融硝酸塩の場合、Ar溶解度 の組成依存性は加成性から正に偏倚し、純硝酸塩の混合によりAr活量は低下するこ とを明らかになった。
第5章 では、分子性有機溶媒サクシノニトリル(SCNと略す)のAr溶解度を測定 した。Ar溶解のェンタルピーは正、エント口ピーは正となった。特に、溶解エンタ ルピーは小さく、液体SCN分子の結合が大部分ファンデルワ―ルスカに基づくもの であることが明らかとなった。
第6章 では、本研究で測定した水、溶融塩、SCNのAr溶解度を総合し、ユ―リッ ヒの理論に基づぃて検討した。その結果、3種の液体のAr溶解度は、溶媒一溶媒間 の結合エネルギ―によってほぼ説明でき、溶媒―溶質Ar間の相互作用の影響は小さ いことが改めて示された。また、幾っか測定されている溶融金属のAr溶解度は、本 研究になる3種の液体と異なった挙動を示し、特に、溶媒であるFeと溶質Ar間に大 きな相互作用が働いていることが示唆された。
第7章では本研究の成果をまとめて示した。
これを要するに、著者は、Ar溶解度を高精度で測定する方法を新たに考案し、こ れを用いて各種液体のAr溶解度について新知見を得たものであり、液体化学及び材 料プロセス工学の発展に寄与するところ大なるものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。