博士(地球環境科学) 日吉範人
学 位 論 文 題 名
天然資源ブタンの高選択的酸化触媒の合成と機能解析 学位論文内容の要旨
天 然 ガス や石 油精 製で 産出するアルカンは主に燃料とし て利用されているが、これを化 学品 の 原料 とし て利 用す ることが資源の有効利用の観点か ら望まれている。選択酸化反応 はア ル カン を有 用な 化合 物にワンステップで変換できる有 望な方法であるが、目的生成物 の選 択 性向 上が 課題 とな って いる 。
現在、工業的に行われている アルカンの選択酸化では、n.プタンから無水マレイン酸を 合成 す るプ ロセ スが 唯一 稼働しているが、この反応におい ても収率が未だ十分でなく、そ の大 幅 な向 上が 切望 され ている。そのための新しい触媒設 計と新機能触媒の合成が必須で あり 、 触媒 調製 に大 きな ブレークスルーが必要である。こ の反応には、ピロリン酸ジバナ ジル 触 媒((V0)2P207)が 特異 的に 有 効で あり 、す でに、(V0)2P207の基本面である(100)面 が無 水 マレ イン 酸生 成に 選択的であることが示されている 。従って、ピ口リン酸ジバナジ ルの 基 本面 をよ り広 く露 出することができれば、大きな機 能向上が期待できる。本研究で はそ の ため の触 媒調 製法 として、インターカレーションお よびそれに続く層剥離を経る新 規な 方 法を 検討 した 。
VOP04‑2H20はV5+を有 する 層状 化合 物で あり その 層 間に は様 々な 有機 分子 が挿 入す る こと が 知ら れて いる 。ま た、この化合物をアルコール還元 することにより触媒前駆体であ るVOHP04‑0.5H20が 得 ら れ る 。 そ こ で 、 出 発 物 質 と し てVOP04‑2H20を 選 び 、 ま ず 還 元剤 で ある アル コー ルに よる 層間 挿入 と層 剥離 を検 討し た。VOP04‑2H20のア ルコール懸 濁液 を 段階 的に 加熱 して いくと、アルコールの種類によっ て温度は異なるが、ある温度で 懸濁 液 は透 明な 溶液 に変 化した。この液および回収固体の 解析により、層間にアルコール が イ ン タ ー カ レ ー 卜 し 、 さ ら に 薄 層 に 剥 離 し た こ と が 明 ら か と な っ た 。 VOP04薄 膜 を 含 む 均 一 溶 液 を 還 流 す る こ と に よ ル バ ナ ジ ウ ム を 還 元 し 、 VOHP04‑0.5H20を得 た。 前駆 体の 形 態は 用い るア ルコ ール によ って 大き く異 なり、1 ブ タノールでは薄膜状、2・ブタノールでは小片状、イソブタ ノールではバラ状の形態をもつ 前駆体が得られた。この中で特 に2‐ブタノール剥離液を用 いて得た小片状の形態を持つ触 媒はn・ブ タン 酸化 反応 に高 い選 択 性を 示す こと が分 かっ た。
こ の2. ブタ ノー ル剥 離液 を用 い て得 た触 媒を 、従来の 触媒、すなわち、VOP04‑2H20を 固体状態のまま直接2‐ブタノールで還元する方法で得た触 媒と比較した。剥離還元法と直 接還 元 法で は得 られ る前 駆体のサイズが異なっており、直 接還元法ではよく発達した板状 であ っ た。 さら に調 製条 件によって前駆体の結晶サイズを 自在に制御できることが分かっ た。 こ の形 態の 違い は活 性化後の触媒の酸化状態に影響を 与えた。反応ガス中での活性化 によ り 剥離 還元 法で 得た 小片 状前 駆体 は(V0)2P207に変化 し、直接還元法で得た前駆体か ら得 た 触媒 には(V0)2P907相の 他に選択酸化に有害な¥[5゛ を有する相(an・VOP04)が認め られ 、 その 量は 結晶 サイ ズの増大とともに増加した。これ は結晶サイズの増大により、前 駆体 か らピ 口リ ン酸 ジバ ナジルヘの脱水がより高温で進行 するようになり、並列的に進行
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する前駆体の酸化が起こりやすいためである。触媒性能を比較したところ、層剥離により 触媒の比表面積が増加したために剥離還元触媒の活性は高く、また、剥離触媒は直接還元 触媒を上回る選択性を与えることが明らかとなった。さらに、剥離還元触媒は、従来最も 有効な触媒とされている有機溶媒法触媒よりも高選択的であり、本研究で開発した調製法 が有効であることが実証された。
VOP04薄膜の還元過程をさらに微細に制御することにより、触媒性能の向上が実現でき た。VOP04薄膜を塩酸ヒド口キシルアミンあるいは次亜リン酸で還元することにより高比 表面積を有する触媒が得られ、高い選択性を保ったまま、活性を向上させることができた。
この剥離法の有利な点は均一剥離溶液が得られることで、これを用いてシリカとの複合 体を合成することができた。この方法ではVPOシートの骨格を保持したままシルカと複 合化することができ、従来のバナジウム化合物とりン酸の水溶液を担体に含浸する方法と は異なっている。2‐ブタノール剥離液から調製したシリカ複合体では、複合化によい活性 成分あたりの反応速度が増加し、選択率もこれまで報告されている担持VPO触媒を大き く上回った。
以上、現在の実用触媒では収率は50%程度にとどまっているが、ここで得た剥離触媒は その収率を大きく上回り、極めて高い性能を発揮することを実証した。剥離膜の還元条件 あるいは複合化の条件を検討することにより、さらに高性能な触媒を調製できることが期 待される。また、本研究で開発した高選択的触媒は、未だ工業化されていない他のアルカ ン の 選 択 酸 化 に 適 用 で き る 可 能 性 が あ り 、 そ の 波 及 効 果 は 大 で あ る 。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 奥原敏夫
副査 教授 上田 渉(北大大学院工学研究科)
副査 教授 松田冬彦 副査 助教授 嶋津克明
学 位 論 文 題 名
天然資源ブタンの高選択的酸化触媒の合成と機能解析
本 研 究 は 天 然 資 源 で あ る ブ タ ン を 有 用 な 化 合 物 に 変 換 す る た め の 触 媒 設 計 に 関 す る 研 究 で あ る 。 ピ ロ リ ン 酸 ジ バナ ジル((V0)2P207)は 、門 _ブ タン から 無水 マ レ イ ン 酸 製 造 の た め の 基 本 触 媒 成 分 で あ る 。 し か し 、 そ の 課 題 は 収 率 が 未 だ 十 分 で な く 、 そ の 大 幅 な 向 上 が 切 望 さ れ て お り 、 そ の た め の 新 し い 触 媒 設 計 と 新 機 能 触 媒 の 合 成 が 必 要 で あ る 。 す で に こ の 触 媒 系 で は 反 応 の 結 晶 面 に よ る 異 方 性 が 知 ら れ て お りV‑O‑Vベ ア ー サ イ ト が 存 在 す る(V0)2P207の(100)面 が 選 択 酸 化 に 有 効 で あ る 。 本 研 究 で は 触 媒 微 結 晶 の 形 態 を 制 御 す る 触 媒 調 製 法 と し て 、 イ ン タ ー カ レ ー シ ョ ン お よ ぴ そ れ に 続 く 層 剥 離 を 経 る 方 法 を 考 案 し 、 実 施 し て い る 。
層 状 化 合 物VOP04 2H20の2. ブ タ ノ ー ル 懸 濁 液 を 段 階 的 に 加 熱 す る 事 に よ っ て 得 ら れ る 透 明 な 溶 液 は 層 間 に ア ル コ ー ル が イ ン タ ー カ レ ー ト し 、 さ ら に 薄 層 に 剥 離 し た こ と に よ る こ と を 明 ら か に し て い る 。VOP04薄 膜 を 含 む 均 一 溶 液 を さ ら に 還 流 還 元 す る 事 に よ っ て 、 触 媒 前 駆 体 で あ るVOHP04 0.5H20薄 膜 を 得 て い る 。 こ の 前 駆 体 は 薄 膜 小 片 状 の ユ ニ ー ク な 形 態 を 有 し て お り 、 現 行 の 工 業 触 媒 に 比 ベ 高 活 性 、 高 選 択 的 で あ る こ と を 見 出 し て い る 。 以 上 、 本 研 究 で は 剥 離 還 元 法 が 新 規 で か つ 有 効 な 触 媒 調 製 法 で あ る こ と を 示 し た も の で あ る 。 さ ら に こ の 知 見 を 用 い る こ と に よ り 、 新 規 な 固 体 触 媒 の 開 発 を 可 能 に す る も の と 期 待 で き る 。 審 査 員 一 同 は 、 こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価 し 、 ま た 研 究 者 と し て 誠 実 か つ 熱 心 で あ り 、 大 学 院 課 程 に お け る 研 鑽 や 取 得 単 位 な ど も 併 せ 申 請 者 が 博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。