博 士 ( 薬 学 ) 穴 田 仁 洋
学 位 論 文 題 名
分 子 内 C‑H 挿 入 反 応 を 機 軸 と す る 複 素 環 化 合 物 の 触 媒 的 不 斉 合 成に 関 す る 研究
学 位 論 文内 容 の 要 旨
口 ジウム(II)錯体はa‐ジアゾカルボニル化合物を触媒的に分解し、口ジウム(II)カ ル ベン 錯 体( 構造証明には至っていない仮想的中間体)を形成する 。ロジウムカル ベ ン錯 体 に基 づく反応はシクロプ口パン化、挿入反応あるいはイリ ド形成を経る反 応 など 多 岐に わたり、いずれも合成化学上有用な反応であることか ら、不斉触媒反 応 への 展 開を 目指したキラルなロジウム(II)錯体の設計、合成がこ れまでに多数報 告されている。筆者の所属する研究室ではロジウム(II)N‑フタロイル (S)‐フェニル ア ラニ ナ ート 錯体[Rh2(S‑PTPA)4]に代表される光学活性N‑フタロイ ルアミノ酸を組 み込 んだロジウム(II)錯体を開発し、3位置換シクロペンタノン及び1ーアルキル‐1
‐フェニルインダン―2−オン等の炭素五員環化合物を標的分子とする分子内C‑H挿入反 応 にお い てそ れぞれ最高不斉収率809;、98%を実現している。筆者 は、本不斉錯体 の 適用 系 拡張 研究の一環としてa‐ジア ゾアミドの分子内不斉C‑H挿 入反応による複 素環化合物の触媒的不斉合成について検討した。
1.a−ジアゾアミドのC‑H挿入 反応における挿入位置制御
ロ ジウム(n)錯体触媒を用いるQ゛ジアゾアミドのC‑H挿入反応の課題は、挿入位置 を制 御してp−ラクタムおよびぃ ラクタムのいずれか一方を選択的に合成することに あ る。 本 反応 の挿 入位 置選 択性 はジ アゾa位ならびに窒 素原子上の置換基効果、お よ び錯 体 架橋 配位 子の影響をうけることが知られている ことから、筆者は不斉反応 の検 討に先立ちBーラクタムおよ びY―ラクタムをそれぞれ選択的に与える反応系の探 索を 行なうこととした。まず最初に窒素原子上の置換基をter‐ブチル基に設定し、
ジ アゾQ位の 置換 基および錯 体のスクリーニングを行なったところ、ジアゾa位にエ ス テル 基 を組 み込 み、 かさ 高い 架橋 配位 子を 組み込んだRh2(TPA)4を用いることに よりp‐ラクタムを完璧な挿入位 置選択性で得ることができた。Rh2(S‑PTPA)4を用い た場 合も完璧な挿入位置選択性のもとにシスのp‐ラクタムが生成し、その鏡像異性 体 過剰 率 は720hを 示し た。 次に ジア ゾa位 の置換基をエ ステル基に固定し、選択的 にY.ラクタムを与える窒素原子 上の置換基の探索を行なったところ、窒素原子上に P.ニトロフェニル基を組み込む ことにより高収率かつ完璧な挿入位置選択性でY―ラ クタ ムを得ることができた
≧:B:呈クタムの触媒的不斉合成
先の結果を基に、Rh2(S‑PTPA)4を触媒とするp‐ラ クタムの触媒的不斉合成につい 亠
てさらに条件検討するこ ととした。窒素原子上のtert‑ブチル基は環化後除去するこ
とがで きない ことから 、rert‑ブチル基に替わる除去可能な置換基の探索を行なった が、tert‑ブチ ル基の結 果を凌 駕する置換基を見いだすことはできなかった。特に窒 素原子 上の第 三級アル キル置 換基をべ ンジル基 あるい はジフェニルメチル基とした 場合、 環化成 績体の収 率、不 斉収率は ともに大 き<低 下した。そこで窒素原子上の 置換基 をこれ まで同様terr‑ブ チル基に固定し、挿入位置の置換基の影響について検 討した。その結果、挿入位置の置換基の種類によらず3,4_シス‑D‐ラクタムが高収率 で得ら れ、不 斉収率は 最高84% に達する ことが 判明した 。以上の結果を説明しうる 本反応 の立体反応経路をDoyle‑Taberの作業仮説およぴRh2(S‑PTPA)。の結晶構造を基 に考察し、窒素原子上のtert‑ブチル基の重要性を示した。
3.カルバペネム鍵中間体の触媒的不斉合成
筆 者 は 除去 可 能 な窒 素 原 子 上の 置 換 基と し て 環状N.O‑ア セター ルに着目 し、
Southgateらの行なったQ‐ジアゾアミドの分子内C‑H挿入反応へのRhっ(S‑PTPA)4の適 用を試 みた。 本反応で 生成す る二環性 ラクタム はカル バベネム合成の鍵中間体とな る。 ジアゾa位が アセチル 基の場 合はほと んど不 斉誘起は 認められ なかっ たが、ジ アゾQ位に エステル 基を組み 込むことによルエナンチオ選択性は90ワ。に向上した。
本反応 はトラ ンス選択 的な反 応であるが、このトランス選択性はDoyle‑Taberらの作 業仮説 に基づ き説明可 能であ る。また 、各種N‑フタロイ ルアミノ酸を架橋配位子と して組み込んだロジウム(II)錯体を用いた場合いずれも90%以上のエナンチオ選択性 を示し 、特にRhっ(S‑PTA)4を用 いた場合 に969:のエ ナンチオ選択性を実現した。環 化成績体はエステル基の還元の後再結晶することにより光学純度1 00ワ。にすること ができ 、続く 数工程を 経てPSー5およびチエナマイシンの合成中間体へ変換できた。
また、 工キソ メチレン を組み 込んだa一ジアゾアミドの反応においても88%のエナン チオ選 択性を 示すこと を見い 出した。 環化成績 体は、 エキソメチレンの立体選択的 還元を 含む数 工程の変 換を経 て1B‐メチ ルカル バペネム の合成中間体へ導くことが できた 。さら に本法は トリネ ム抗生物 質合成中 間体の 触媒的不斉合成にも適用可能 である 。すな わち、ベ ンゼン 環が縮環 したa‐ジア ゾアミドの分子内C‑H挿入反応を 種々検討した結果、トルエン溶媒中Rh。(S‑PTTL)4を触媒に用いることにより84ワ。の 不斉収 率で望 みとする 配置の 環化成績体を得.ることができた。一方、Rh2(S‑PTA)4 を触媒に用いた場合は84 010の不斉収率でエナンチオマーとなる環化成績体を与えた。
環 化成 績 体 は再 結 晶 によ り 光学 純度を100%と した後 、ベンゼ ン環の ジアステ レオ 選 択 的 水 素 化 等 を 経 て ト リ ネ ム 合 成 鍵 中 間 体 へ 変 換 す る こ と が で き た 。 4.4位量塑ヒラ22生堕触媒的不斉合成
ジアゾa位 にエステ ル基、 窒素原子 上にp‑ニ トロフウ ニル基を組み込んだa−ジア ゾアミ ドの分 子内C‑H挿入反 応によるY‐ラ クタム の不斉合成について条件の最適化 を行なったところ、Rhっ(S−PTTL)4が最適な触媒であることが判明した。次いで挿入 位置の 置換基 の影響に ついて 種々検討 した結果 、挿入 位置に芳香環あるいは共役エ ス テルの様 な電子 求引性基 が置換 した場合 に最高82%のエ ナンチオ 選択性 を獲得す ること ができ た。なお 、窒素 原子上のp‐ニトロフェニル基は、ニト口基をアセトア ミ ド 基 ヘ 変 換 し た 後 CANで 処 理 す る こ と に よ り 除 去 可 能 で あ る 。 以上の 結果を 踏まえ、 本法の 応用研究としてホスホジエステラーゼ阻害剤(R)―口 リプラ ムの触 媒的不斉 合成を 行った。Rhっ(S‑PTTL)4を用いて前駆体ジアゾアミドの C‑H挿 入反応を行なったところ、目的とするY‐ラクタムを不斉収率78ワ。で得ること が できた。 その後 、エステ ル基お よびp.ニトロ フウニ ル基の除 去、再 結晶を経 て (R)‑ロリプラムヘの変換を完了した。
学 位 論 文 審 査 の要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査
教授 教授 助教授 助教授
橋 本 俊 一 森 美和子 濱 田 辰 夫 中 島 誠
学 位 論 文 題 名
分 子 内 C‑H 挿 入 反 応 を 機 軸 と す る 複 素 環 化 合 物 の 触 媒 的 不 斉 合 成に 関 す る 研究
本 論 文 は キ ラ ル な ロ ジ ウ ム(II)錯 体 を 用い たa− ジア ゾア ミド の分 子内C−H挿 入 反 応 に よ る 複 素 環 化 合 物 の 触 媒 的 不 斉 合 成 に 関 す る も の で あ る 。 ロ ジ ウ ム (II)錯 体 はa― ジ ア ゾ カ ル ボ ニ ル 化 合 物 を 触 媒 的 に 分 解 し 、 ロ ジ ウ ム(n)カル ベ ン 錯 体 を 形 成 す る 。 ロ ジ ウ ム カ ル ベ ン 錯 体 に 基 づ く 反 応 は シ ク ロ プ ロパ ン化 、 挿 入 反 応 あ る い は イ リ ド 形 成 を 経 る 反 応 な ど 多 岐 に わ た り 、 い ず れ も 有 用 な 反 応 で あ る こ と か ら 、 近 年 不 斉 反 応 へ の 展 開 を 目 指 し た キ ラ ル な ロ ジウ ム(II) 錯 体 の 設 計 、 合 成 が 多 数 報 告 さ れ て い る 。 著 者 の 所 属 す る 研 究 室 で は ロ ジ ウ ム(II)N― フタ ロイ ル‑(S)ー フェ ニル ア ラニ ナー ト[Rh2(S−PTPA)4]等の光学活性N
‐ フ 夕 口 イ ル ア ミ ノ 酸 を 組 み 込 ん だ ロ ジ ウ ム(n)錯 体 を 開 発 し 、 シ ク 口 ペ ン タ ノ ン 及 び2― イ ン ダ ノ ン 等 の 炭 素 五 員 環 化 合 物 を 標 的 分 子 と す る 分 子 内C―H挿 入 反 応 に お い て そ れ ぞ れ 最 高 不 斉 収 率80u/0、98%を 実 現 し て い る 。 今 回 著 者 は 、 本 不 斉 錯 体 の 適 用 系 拡 張 研 究 の 一 環 と し てQ− ジ ア ゾ ア ミ ド の 分 子 内C―H挿 入 反 応 に よ る 複 素 環 化 合 物 の 触 媒 的 不 斉 合 成 に つ い て 検討 した 。 ロ ジ ウ ム(n)錯 体 触 媒 を 用 い るQ− ジ ア ゾ ア ミ ド のC―H挿 入 反 応 の 課 題 は 、p
― ラ ク タ ム 及 び サ ラ ク タ ム を そ れ ぞ れ 選 択 的 に 与 え る 反 応 系 の 設 定 にあ る。 著 者 は 基 質 置 換 基 及 び ロ ジ ウ ム(n)錯 体 の 組み 合わ せ につ いて 種々 検討 した 結果 、 窒 素 原 子 上 にtert‑ブ チ ル 基 、 ジ ア ゾQ位 に エ ス テ ル 基 を 組 み 込 み 、 かさ 高い 架 橋 配 位 子 を 組 み 込 ん だ ロ ジ ウ ム(II)ト リ フェ ニル アセ 夕一 ト[Rh2(TPA)4]を用 い る こ と に よ り3,4ーシ ス‑B‐ラ クタ ムを 完璧 な挿 入 位置 選択 性で 得る こと がで き た 。Rh2(S−PTPA)4を 用 い た 場 合 も 完 璧 な挿 入位 置 選択 性で シス ―p‑ラク タム が 生 成 し 、72ワ 。 の エ ナ ン チ オ 選 択 性 を 示 し た 。 一 方 、 サ ラ ク タ ム の 挿入 位置 選 択 的 構 築 は 、 基 質 ジ ア ゾa位 に エ ス テ ル 基 、 窒 素 原 子 上 にp− ニ ト ロ フェ ニル 基 を組 み込 む こと によ り実 現し た。
上 記 の 結 果 を 基 に 、 著 者 はRh2(S―PTPA)4を 用 い たp― ラ ク タ ム の 触媒 的不 斉 合 成 に つ い て さ ら に 条 件 検 討 を 行 な っ た 。 除 去 不 可 能 なtert‑ブ チ ル 基 に 替 わ る 窒 素 原 子 上 の 置 換 基 の 探 索 に つ い て 満 足 の い く 結 果 を 得 る こ と は でき なか っ
たが、本反応は挿入位置の置換基の種類によらず3,4−シスーD・ラクタムが高収 率で得られ、最高不斉収率は84%に達した。熱力学的に不安定である3,4‑シス 体 が 選 択 的 に 生 成 し た 結 果 は 興 味 深 く 、 著者 は 本 反 応 の 立 体 反 応 経 路 を Doyle‑Taberの作業仮説及びRh2(S−PTPA)。の結晶構造を基に考察し、窒素原子 上のtertーブチル基の重要性を示した。
著者は除去可能な窒素原子上の置換基として環状N,〇.アセタールに着目し、
Southgateが報告したa−ジアゾアミドの分子内CーH挿入反応へのRh2(S―PTPA)。の 適用 を試 みた 。本 反応で 生成 する ニ環 性ラ クタ ムはカルバベネムの合成中間 体となる。ジアゾ伐位がアセチル基の場合は全く不斉は誘起されなかったが、
ジア ゾa位 にエ ステ ル基を組み込むことによルエナンチオ選択性は90chに向上 した 。本 反応 はト ランス 選択 的な 反応 であ るが 、この結果は先述の作業モデ ルを 基に 説明 可能 である 。さ らな る高 工ナ ンチ オ選択性の獲得を目指し不斉 ロジウム(u)錯体のスクリーニングを行なった結果、ロジウム(II)N−フタロイ ルー(S)‑アラニナート[Rh2(S−PTA)4]を用いた場合に96ワ。のエナンチオ選択性が 実現 した 。得 られ た環化 成績 体の エス テル 基を 還元した後再結晶を行ない光 学純度を100010とし、数工程の化学変換を経てPS‑5及びチエナマイシンの合成 中間体ヘ変換することができた。また、ip−メチルカルバベネムの合成中間体 に変 換可 能な エキ ソメチ レン を組 み込 んだ ニ環 性ラクタムの不斉合成におい ても88% のエ ナン チオ選 択性 を得 るこ とが でき た。さらに本法はトリネム抗 生物質合成中間体の触媒的不斉合成にも適用可能である。環状N。〇・アセター ル部 分に べン ゼン 環が縮 環し たQ−ジ アゾ アミ ドのC‑H挿入反応を種々検討し た結果、トルエン溶媒中ロジウム(II)N ‑フタロイル―(S)‑tert‑口イシナート [Rh2(S ‑PTTL)4]を用いることにより840hの不斉収率が得られた。再結晶により 環化 成績 体の 光学 純度を1000hとした後、ベンゼン環のジアステレオ選択的水 素化等を経てトリネム合成中間体を得ることができた。
続いて著者はジアゾQ位にエステル基、窒素原子上にp−ニトロフェニ´レ基を 組み 込ん だO− ジア ゾアミドを基質とするナラクタムの不斉合成について検討 を行 なっ た。 その 結果、Rh2(S−PTTL)4を触媒に用い、挿入位置に電子求引性 基が置換した場合最高82ワ。のエナンチオ選択性が得られることが判明した。
また 窒素 原子 上のpーニトロフェニル基は、ニトロ基をアセトアミド基へ変換 後CANで処 理す るこ とに より 除去 する こと ができ た。 これ らの 結果 を踏 まえ た応 用研 究と して ホスホ ジエ ステ ラー ゼ阻 害物 質(R)‑口リプラムの触媒的不 斉合成を行った。Rh2(S―PTTL)4を用い前駆体d−ジアゾアミドのC−H挿入反応 を行なったところ、目的とするサラクタムを不斉収率78ワ。で得ることができ た。その後、エステル基及びp.ニトロフェニル基の除去、再結晶を経て(R)ーロ リプラムヘの変換を完了した。
以 上、 著者 の研 究は分 子内C―H挿入 反応 の潜 在的有用性を引き出したばか りで はな く、p―ラ クタム及びヤラクタムの不斉合成の新たな方法論を提供す るものと考えられる。
従って、審査委員会は穴田仁洋氏の論文が博士(薬学)の学位を受けるのに 十分値するものと認めた。