(:東京女医大誌 第25巻 第10号頁477−484昭和30年10月)・
〔臨床実験〕
心内膜炎ご磯膿瘍を併発しアこる先天性心臓
異常(心房中隔欠損を伴う肺動脈弁狭窄)の
剖検例に就て臨床検討
東京女子医科大学 小児科教室(主任 磯田教授)講 師 江
工 緒 言 森 モリ 田 ダ本
モb 令 レイ 妙 ターr.(受付 昭和30年7月15H)
脳膿瘍は小児に側てもそれ程稀な疾患では無く 1),心房中隔欠損乃至卵円孔開存を伴った肺動脈 狭窄症も亦稀な先天性心異常では無v・。Abbott 2) の集計によると1438例中,心房中隔欠損(卵円孔 開明を含む)が377即ち10.9%である。叉沢田2)氏 の本邦解剖例の集計によると総数150例の先天性 心異常の中,心房中隔欠損乃至卵円孔開存を伴っ た肺動脈狭窄は23例あったと云う。私共は卵円孔 開存及び心房中隔欠損を伴った肺動脈弁ロ狭窄に 心内膜炎及び脳膿瘍を伴って居る事を剖検によっ て確認したる6年10ヵ月の女児に就てその臨床所 見を検討し諸賢の御批判を仰ぎたいと思う。 症 例 患者 (木○宏○) 6年10ヵ月女児 昭和29年9月21目入院,同年10月18日死亡 家族歴 両親弟妹共に健在で母親は患児妊娠中も何 等変った事は無かったし血族に心疾患はない。 既往歴及現症歴 満期安産で出生時体重:900匁。母 乳栄養iであったが乳児期の発育が遅い様に思はれただ けで顔色もよくチアノーゼ等も気付かず授乳時や入浴 時にも格別変った様な事は無かったと云う。歩行開始 は2才で,歩ける様になってから息切れがして続けて 歩けない事を認め医師の診察によって初めて心臓疾患 ある事を知った。丁度其頃から顔色の悪い事とチァノ ーゼに気付いたと云う。 近頃は歩行し得る距離が50米位でそれ以上は息苦し 子 コ 子 コ くなる為登校は自転車で送迎していた。今迄に種痘済 み麻疹を順調に経過しその他の疾患に罹った事がな い。 処が昭和29年9月20日午後から38。Cに発熱,嘔吐 2回あり,その夕刻から呼吸困難約15分続き左半身の 痙攣発作が20分間位宛2回起りその発作の直後は熟睡 した。翌21目も同様に380Cの発熱続き時々痙攣と呼 吸困難起り午後直ちに入院する事となった。 入院時斯見 体格栄養状態は中等度で,’体温 39・5。C高度のチアノーゼが頬,耳,ロ唇,口腔, 眼瞼結膜及び爪甲にあり,鼓三指著明である。意 識明瞭,脈搏の性状亦佳良,呼吸困難を認めす顔 貌も苦痛状ではない。顕著な地図状舌を呈す。瞳 一・一en 孔正常項部強直もなV・。肺に異常を認めなV・。心羅il
正 面ss
第1斜位
臓は打診上両側に拡大し殊に右に著しい。心雑音 は収縮期性で胸骨の左右第3肋間で最:も強く,第 2及び第4肋間腔では之に次ぎ,心尖部では雑音 微弱である。第2肺動脈音の二進はない。二心敷 を触れない。腹部に変りなく肝脾共に触れす,四肢 が比較的細く末端にチアノーゼは著明であって, 右膝蓋腱反射とアヒレス腱反射は右側弱く左側は 正常である。 検査所見 胸部X線像では心臓は左右に拡大し 肺紋理及び肺門像少く殊に左の肺門陰影少V・。 第1斜位では鞍懸と右房の拡張を認められる。第2斜位
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P O.175mV R O.7mV S O.56mV ’T O.14mV 以上の心電図によって普通と変っている事は 1) PIが分裂しPlが高く尖鋭化
2)PaVRも分裂す
3) PQI皿が梢延長す 4)RaVR及びRv 1が上高している 5) RI<R皿<R皿で且つTI>T皿>Tur 6)QRS Iが梢長い。7)Tv5v6が陰性化
血液循環時間(9/X) 騰:一肺循環時間(エーテル法)13秒. 騰一曲循環時間(スルファミン法)19秒 即ち両者の差は6秒で両者共に遅延している。 心臓カテー・一・テル検査と1血管心臓造影法は重症の為 施行する事が出来なかった。 血液(23/眠) 赤血球数600×104,白血球数7.600血色素量(ザ ーリー)130%,血色素虚数1,08,ヘマトクリット 値57%,赤沈速度30分一〇,1時聞一〇,2時間一 2,中等値0.5mm,白1血球分布は中好球57%(H 型22,皿型23,IV型12, V型6),淋巴球35%,モノ チーテン1%,好酸球0%で,血液濃厚の他に白 血球増多と核の左:方移動が認められる。 一血液培養成績(27/IXと30/D()2回共に菌を証 明し得なかった。 尿 概して異常なく唯1/X∼6/X一時的に軽度の蛋白 反応を呈した。 尿 蝸虫卵あり,1/X駆虫剤によって一条排出後虫卵 も消失した。 「ツ」反応及び「ワ」氏反応共に陰性 高田反応,弱陽性(1/X) 脳脊髄液所見 25/1Xと12/Xの2回腰推穿:刺を行ったが唯液圧が 高V・のみで他に変化を認めなかった。 眼底所見(8/X) 眼科の検診によれば眼底の血管暗赤色に充血し左 側の血管は可成り蛇行す。 入院後の経過 入院日に体温38。Cで痙攣あり,3日目に一度 解熱したが翌日から再び37。∼38。Cの弛張熱とな り,5目目(25/DO左頬部に勲爵起る。 食慾は良かったが29/IX及び30/IXに2回忌嘔吐 して以来食慾がなくなり,1/Xからは嘔吐のみな らす時々頭痛を訴え,3/Xから更に左手に力が無 くなり,4/Xには左胸の疹痛と左頸部が引張られ ると言う。体温は微熱に過ぎす6/Xは左手が麻痺 し左上肢腱反射消失す。1/Xより6/X迄蛋白尿 軽度にあり赤血球一視2∼3コ白一血球5∼6コ見 ゆれども円柱を認めない。11/Xには左に油漉搦 出現す。12/Xは脈搏緩徐上肢腱反射出.現す。頭痛 猶去らナ顔色蒼白となる,脈搏微弱緩徐,頭痛の他 腹痛を比う,蝸虫は既に駆虫療法によって2/X排 出して以来虫卵を認めない。15/Xは猶頭痛腹痛 去らす上肢腱反射は正常に恢復したが左足播搦あ り,左下肢腱反射充進す。左の手掌と足に浮腫を 生じた。18/Xは一般に症状増悪して嘔吐頭痛腹痛 を訴え,左肩,右手の面識を訴え,夕刻から脈搏の 悪化と呼吸困難に陥って遂に昇天した。即ち入院 後の主なる経過は不整熱を伴って最初痙攣次で, 左頬描i搦,左腕麻痺と左’下肢腱反射の充進と共に, 頭痛,腹痛を伴った。Kernig, Babinskiは全経 過中全く現れ,なかった。 臨床診断と治療 1)心臓はチアノーゼ,鼓樗指,X写真で肺肺門像の僅少,右心拡張,ECGでP高ぎ他右肥大
型,其他臆一肺,騰:一耳の血液循環時雨値等から判 然とは解らなV・がファロー氏四六に疑を置いた。 2)発熱と血液像から老えて先天性心臓異常によ 一480一l
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oo り欝血がある為め,細菌感染を受けて心内膜炎を 起し,更に右側脳栓塞を起して脳軟化により痙攣, 左側上下肢の腱反射躍進と不全麻痺等を出現した ものではなV・かと考えた。従って諸検査を施行し 乍ら強心消化剤の他スルファミン剤の内服とペニ シリン注射を行V、,フェノバール,レスタミン等に よって鎮痙,鎮痛を図1),衰弱に対してリンゲル :葡萄糖注射を用V・た。又一度は駆虫剤で駆虫し得 た。 剖検所見と診断 10月18日今井教授執刀のもとに解剖奪行v・その 所見は次の様である。 心臓 右房が極度に拡張して血液充満し胸壁近 心 臓 正 く迄に拡がり,心室は左方に圧迫され,て横臥して いる。右室亦高度に肥大を示す。三尖弁は全部に亘 って軽変の繊維醐巴厚を示し形態は正常であるが その閉鎖縁に近く心房測に十数個の脆く或は梢々 繊維化した疵瘤が附着している。心房中隔は卵円 孔開存の他に膜様部に多数の小孔を有し卵円孔の 後部には長径1.3cm位の裂隙状孔がある。肺動脈 円錐部の筋層は0.8cm肺動脈弁は三弁融合して尖 端を肺動脈側に向けた漏斗を作り,厚くして硬く 中心に鉛筆心学の小孔を有するのみ。大動脈弁及 僧帽弁には異常がないが大動脈周囲に血管網が異 常に発達している。心室壁に欠損はなv・。心筋は やや浬旨し右房心筋内に小出.血あり, 面 図 Xt’i’IIIIIII’..:.,一一th”k 、 ’W伽晦筋忠;し ’k,v’igP2.
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左心房より心房中隔を見たる図 后’砺 ←一 三尖弁とその捷瘤 組織学的には心筋に軽度ながら種々の変性像あ り,肥大した右心室壁には少数の小論脂が認めら れる。叉三尖弁は繊維性に肥厚して血管の薪生を 有し表層の沈瘤状部では結合織の膨化,繊維素に 富む滲出液の浸潤,結合織性細胞の増殖が見られ る。変化の著しv・所には小血栓の形成がある。但 し潰瘍性又は懐死性変化を認めなV・。又此等の変 一482一肺動脈弁の癒合と弁口を示す 化のある部には組織学的には菌を認めない。心筋 内の小動脈にも三尖弁の変化に酷似した動脈内膜 炎を認める。 肝6509で謎々腫大し急性欝血脂肪化を認め る。 脾409で亜急性織炎の像を示す。 腎 左右1}k 909で溺濁腫脹し組織学的には綜 毬体毛細管壁の膨化と結合織細胞の増加がある。 胃 噴門部附近の粘膜に禰蔓性発赤を認め組織 学的には粘膜固有層の充血,多核白血球浸潤が著 明である。 脳 全体的に膨脹し特に右中心廻転部に於て著 考 察 1,異常心の診断に就て a)X写真の正面像は左右心室の肥大の感を呈 したが剖見上左室の肥大はなく,右房右室の拡張 肥大によって左方に圧迫されてるた為と思われ る。斜位撮影では明かに右房の拡張及び右室の肥 大を現わしてい元。肺門像の僅少なる事は肺動脈 狭窄に一致する所見であった。 b)心電図 Pの増大尖鋭化は心房の肥大に現 われP五及び皿の増大は僧帽弁口狭窄の時現われ くの ると云われるが本例では僧帽弁に異状なく右房の 著しき拡張を示した,又本例に於てはP∬, Pv2v3 (葺融一言の \、1 、琉妙望壁 しく膨隆して此部の軟膜が一様に軽度の濯濁を示 す。割面では右大脳半球の中心廻転に相当する処 の白質内に中心を持ち,前後に長V・鶏卵大の膿瘍 が存す(写真)。膿瘍は緑黄色クリーム状の悪臭強 き膿を以て充たされ’,その壁の内側面は比較的明 瞭に内容と区別されて居り,外側周囲との境界も 比較的明確である。前外側は不規則な軟化巣とな り周囲に出一血を伴う。組織学的には膿瘍の内側壁 は肉眼的所見te 一致して比較的厚V・結合織の膜を なし,此部分が最も古V・変化で前外側に拡つたか と思わせる所見である。 大嘘前瀬断簡図 が増大し且尖鋭化していた。PIが分裂してVOた が正常心でも現われると云われるから右房の拡張 と関係はないかも知れない。心房中隔の部分的欠 損の存する本例に於てPQは1・ll皿共に延長してv・ た。R。VR及びRv1が高かったが右室の肥大があ った為ではなかろうか,Tfimの陰性は右肥大型を (4) 意味すると云われるが本例では肢誘導に於てSI
が深くRは1<H<皿でTは逆に1>H>皿の順
をなして右回大型を示した他,T皿が軽度ではあ るが陰性であった。胸部誘導ではTVt v6迄も陰 性であって,ここ}cも右肥大型を示されたものと 思われる。 一483一62 脳膿瘍壁の顕微鏡図
纏臨
戦、
懇
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c)騰肺循環時間の遅延は肺動脈弁狭窄の為で あったと思われ,騰耳循環時間がそれよりも更に 遅延していた事はファロー氏四徴症と異るところ であった。 d)雑音の最:強部が第皿肋間腔であった 然も斯程の狭窄があったにも拘わらす鋭利で無か った。 e)本例は乳児期にはチアノーゼや授乳時呼吸 困難等に気付かす,歩行開始後チアノーゼ,呼吸 困難等が気付かれ,た。末梢血液像は他のチアノー ゼ常在性心異常と同様に赤血球増加,血色素過多, 高値のヘマトクリットを示した。 カテーテルやアンギオは病状の関係で施行し得な かったので考察を行い得ない。 2,涜瘤性心内膜炎:と脳膿瘍に就て 脳膿瘍の由来を考えるに入院前敗血症や化膿性 疾患を疑わしめる既往症もなく,剖検上灘に感染 巣を発見し得なV・ので血液の停留し勝な前房に何 時か細菌性感染を受けて心内膜炎を併発し,一血栓 の移動によって脳に達したものでは無いかと一応 考えて見たが,此の心内膜炎は表在性の軽度の心 内膜炎であり且つ組織学的に細菌を認め得なV・事 から考えれば,細菌性心内膜炎:から栓塞によって 脳膿瘍を発現したと老える事は妥当ではなV・様で ある。寧ろ由来不明の脳膿瘍が先天性心異常児に 併発し,それによって全身の亜急性感染状態を惹 起し,その反応として欝」血及び圧力の高き前房面 の三尖弁に涜瘤性心内膜炎を生じたものと考える べきでは無V・かとの執刀者今井教授の説に同意す る。 3,脳膿瘍と現症状との関係 病理所見より考えれば脳膿瘍の発生は慨に無症 状の頃と考えられる。或程度増大した時殊rc 一部 に軟化部を生じた時発熱,痙攣,嘔吐,頭痛等の 症状を発現したものではないか,叉髄液が圧の高 いのみで変化なく,白1血球増加も軽度であった事 は未だ破壊に至らなかった為かと考えられる。脳 膿瘍の位置が右半球中心廻転附近の白質内にあっ た事は,左顔面の播搦,左腕麻痺:及下肢の腱反射 冗進,足腫搦出現を理解し得るものであった。 結 び 6年10カ月のチアノ・一腰著明なる先天性心臓異 常児(女児)が突然高熱痙攣を主訴として入院し, 聴て左頬部の播i搦,左半腕の麻痺,左下肢の腱反 射充進と共に嘔吐頭痛頻発したので,先天性心異 常に心内膜炎を併発して:更に栓塞を惹起したもの かと臨床上考えて治療したが,遂に入院28日にし て死亡した。剖検の結果心房中隔部分的欠損を伴 った肺動脈弁口狭窄で,三尖弁の形は正常である が弁の心房側に疵瘤性心内膜炎があり,猶右脳半 球中心廻転附近の白質内に鶏卵大の膿瘍あり,そ の中に葡萄球菌を認めた。以上の剖検に基いて臨 床症状及所見の検討を試みた。 稿を終るに臨み,終始御懇篤なる御指導御校閲を賜 った磯田教授,並びに病理解剖に当って御指導頂いた 今井教授に,叉眼科の加藤教授に深謝の意を表す。猶 心電図に関して御教示御援助を賜った広沢助教授並に 藤本助手の御厚意を謝す。引用文献
1,近藤,植山:東京女子医大誌25(5)(昭30)2, Abbott : Nelson’s Textbook of pediatrics p
1030
3,沢田:児科診療16(2)
4,上田,樫田,木村:臨床心電図学
5,山内,吉田,下準:小児科臨床8(1)(1955)