(東京女医大誌第28巻第1号頁23−27昭和33年1月半
濾紙クロマトグラフ法による尿申馬尿酸の定量
東京女子医科大学 中央検査室臨床化学部(主任松村義寛教授) 宮 ミヤ 川 カワ 啓 ケイ (受付昭和32年10月18.日) 緒 言 馬尿酸合成試験は有力な肝機能検査法として広 く一般に行われている方法の一つである。これに は,尿中馬尿酸を正確に定量することが前提とな る。従来の定量法には,尿を強酸性となして馬尿 酸を析出させ,沈渣の重量を測るか,または沈渣 を水にとかして溶液とした後,アルカリ滴定によ り定量するQuick1)の法と,次亜臭素酸塩により 呈色せしめた後,比色するAllot門門2),ニトロ 化に次でジアゾ化して呈色せしめた後,比色する Dickens&Pearson5)氏の法が報告されている。 これら諸法の中,Quickの方法は最もよく用いら れているが,難溶性有機酸の滴定であるから必ず しも馬尿酸に特異的な方法でなく,且つ馬尿酸析 出は尿中に溶存している尿酸,クレアチニン,尿 素,第二燐酸ソーダなどの影響をうけて沈澱が 完全でなく過少の値を与える傾向があり,特に胆 汁酸により著しく減少することが今西4)により指 摘きれている。更に同氏は,Dickens Pearsonの 比色法では,ベンゾイールーβ一アラニン,ベンゾ イールーPl 一丁ウリンも馬尿酸と同程度に発色す ることを述べている。一方Gaffney, Schreier,Differante5)ら, Haberland, Bruns, Altman6)ら は,馬尿酸が無水酢酸及びp一ジメチルアミノベ ンズアルデヒド(以下P−DBAと略す)と特異的 に反応して榿色のアズラクトンを生じ,このアズ ラクトンに濾紙クロマトグラフ法を施行すると一 定のRf値0.81を示すことを報告しているので, 著者はこれを定量法へ応用したところ1G∼1SOμg の馬尿酸を含む尿(O. 01ml)について好結果を得 た。更に豚腎から調製したヒストチーム標品を用 いて,このアズラクトン形成は馬尿酸に特異的で あることを確認し得た。 1)試料 ① 検体 健康人及びパラァミノサノレチル酸剤(PAS)投与 患者(109/日)の早朝空腹尿,Quick8)の様式により 採取した健康人,及び肝疾患患者の尿を用いた。いず れも蛋白反応はスルフォサリチル酸試験陰性,糖反応 はベネジク]・氏試験陰性であった。
②試薬
展開剤として,n一ブタノール:氷酢酸:水=4:1:1 発色剤として,ベンゾー7レで再結晶したp一ジメチル アミノベンズアフレデヒド4gを無水酢酸96m1に溶解 し,約10mgの酢酸ナ>iJウム結晶を加えたもの。 次亜臭素酸試薬は,KBr 509を蒸溜水85 mlに溶 解し,これに臭素8.5mlを加えた液(A液)と,10 NNaOH(B液)を言容嘉禾目する。 ③ ヒストチーム Somorodinzew7)の方法に準じて調製した。即ち屠 殺場より購入した新鮮な豚腎の被膜,血管を除去し O. 9%食塩水で洗った後,この2709を低温室にて, ウォーリング・ブレンダーを用いて磨砕し,これに無 水アルコール2.71を加え11時間振鐵後,24時間放 置する。次で濾過し,沈渣を除湿器内で乾燥後,この 22.319を東洋円筒濾紙No.84に入れ, Soxlet装置 で24時間==・一テル抽出を行う。抽出後,除湿器内で乾 燥させ,乳鉢で細粉としたものをヒスFチーム標晶と して用いた。この酵素標品1gは新鮮組織5.6gに相 当し,本標晶5.09mgは,37QC, pH 7. 6の条件下で 1・24mgの馬尿酸を50時間で27.6%,170時間で54.0 %分解することができた。 2)方法 ① 濾紙ク・マトグラフ法Kei MIYA’ jAWA: (Tokyo Women’s Medical College, The University Hospital, Clinical Laboratory) Quantitative microdetermination of urinary hippuric acid by paper chrom.atographic method.
検体O. 005・一〇. 01 m1 ,を毛細管ピペットで東洋癒紙 No.50(2×40 cm)に一端より5cm離れたところに つける。乾燥後,展開剤を用いて一次元上昇法により 8−10時間展開した。 ② スポッ〉の検出 展開後濾紙を室温で乾燥させ,発色剤を噴霧して 100。C乾燥器内で3分間加熱する。 ③スポットの溶出及び比色 燈色に発色したスポットの部分を,2×2cm大に切 りとり,水浴上にて2mlつつ4回メタノー7レ溶出を 行い,溶出液を目盛付試験管に入れ全量が10m1にな るようにメタノールを加えて,光路長50mmのキュ ベットに入れ,島津製AKA光電比色計によりS43フ ィルターを用いて吸光度を測定した。 ④ 酵素処理 100 ml三角フラスコに0.1∼0.5gの馬尿酸を含む 検体・・m1,・ス・チーム灘・・∼・.・諾・H 7.6燐酸緩衝液5ml, Dレオーノレ2mlを入れ,パラ フィンで封じ37。C恒温槽内で60時間反応させる。 反応前,後の反応液について濾紙クロマトグラフ法を 行い,スポットの検出を行う。 ⑤ 次亜臭素酸法 尿を5−10倍稀釈後,稀釈液5mlに次亜臭i素酸試 薬12m1を加え煮沸水浴中で5分反応させる。次で3 分間流水中で冷却後,6mlのアミルアルコールを加 え,30秒間振蛋させると着色物質がアミルアフレコつレ 部に移行する。これを日立分光光度計E P U−2型,10 mmキュベット,波長400 mμ,スリツb幅O. 36 mm において吸光度を測定した。 実験結果 1) 馬尿酸の標準曲線
馬尿酸984mgを0.5NNaOH 10.9mlに溶
解し蒸溜水を加えて全量を100m1とする。この 溶液より,10∼180μ9馬尿酸に相当する量をと り,濾紙クロマトグラフ法を行い,発色剤を噴霧 後,1000C乾燥器内で3分加熱すると榿色のスポ ットを検出した。Rf値は0.82∼0. 85であった。 このスポット部のメタノール溶出液の吸光度を測 定して,馬尿酸の標準曲線を画くと第1図のごと く10∼150μ9にては原点を通る直線となった。 なおこのメタノール溶出液の吸収スペクトルを日 立分光光度計EPU−tt型を用いて測定すると第2 図のごとく,波長462mμ部に可視部極大吸収を 示した。 2) 馬尿酸の回収試験 プールした健康者早朝空腹尿1GOm1にそれぞ O,6靴
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iiii’ o 20 4a− 60 8ク 100 /20 /40 160 180’rm一一一堰?HipFurlc acid A2; 第1図 馬尿酸の標準曲線 (ブイ1≦臨mS43) tctb
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一一一一一一一一一 Wave iengllt 第2図濾紙クロマトグラフ法によるメタノーフレ 溶出液の吸収スベクト7レ (1=10mln濃度=4. 36×104M) れ馬尿酸合成試験の際に遭遇する量の馬尿酸を添 加して回収試験を行うと,第1表に示すごとく, 91.8∼100.8%の回収率が認められた。 3) 次亜臭素酸法との比較PAS投与患者の早朝空腹尿3検体につき,濾
紙クTI]マトグラフ法及び次亜臭素酸法による回収 試験を行い比較してみた。第2表のごとくおのお の2回の測定値につき調べてみると,濾紙クロマ トグラフ法では93.4∼102.0%の回収率を示した のに,次亜臭素酸法では90. 7∼109.0%の回収率 を示したが,前者に比してバラツキが大きかっ た。この際,次亜臭素酸法を用いると,PAS投 与患者原尿は馬尿酸以外の次亜臭素酸試薬と反応 呈色物質を含むことが認められ,その量は68mg/ d1,105 mg/dl,87 mg/d1であった。濾紙クロマNo. 第1表 馬尿酸回収試験(1) (検体=O. Ol m1) 1 2 3 4 5 6 7 原尿100mI への馬尿測定値 酸添加量 (吸光度) g.lg)g)L 942 847 754 471 189 100 O. 310 0. 281 0. 250 0. 169 0. 073 0. 053 0. 018 理論値 (吸光度) O. 318 0. 288 0. 258 0. 168 0. 078 0. 050 回収率 (%) 97. 4 97. 4 96. 8 100. 8 91.8 100. e 誤差i (0.5) 第2表 馬尿酸回収試験(H) 一2. 6 −2.6 1 1 一3.2 11 十〇.8 1 一8.2 0
穫1馬尿酸恢亜真’難法!蓼璽ロマトグ‘
R+値汨フ
0,【02噛 ソ3。4。.5α6.。.7。,8四の原尿
○ ⑫ ノ 切原尿寸馬職 o o 雄ヒストチ無理 0 ⑳の原尿
o ⑳ 2 わ〕原尿嘱尿酸 ○ ⑳ 廉ヒストチ払麺 ○ ⑳の原尿、
o ⑫ 3 b源尿+馬尿酸 ○ の わ祉ストチ議理 Q ⑳簿1面懸礪
回収率「測定値 (%)i (mg) 回収率 (%) i 1 302 111t}4T4 i’o’一.i−Upmts io2.o 326 i io7.g 1 302 1 ioo.o 2 1 299 271 90.7 1 279 L 93.4 273 gl.4 1 2s3 [ g4.6 3 280 279 gg.6 1 274 1 g7.g 271 g6.s 1 273 1 gzs *PAS投与患者尿 トグラフ法を用いた場合は,かかることを見出さ なかった。 4) ヒストチーム標晶による馬尿酸スポットの 同定 ① 健康謡言:一 プールした健康者早朝空腹尿0.01m1につき濾紙 クロマトグラフ法を行っても,スポットはなんら 検出されなかった。ついでこの尿10m1に馬尿酸 401ng,1NNaOH O.5mlを加えたもの0.01 mユ につき同様に,濾紙クロマトグラフ法を行うと, 馬尿酸に相当する部位に,Rf値0.82−0.85の榿 色のスポットを認めた。つぎに,10Gm1淫雨付 三角フラスコ内に尿10ml,馬尿酸4⑪ mg,1N N・・H・・.・ml,器鍛緩鰍(・H・7・・)・m・, ヒストチーム標品0.59,トルオール2m1を加え 混和後,パラフィンで栓部を封じ37。C恒温槽内で60時間反応させた後,5%昇等5mlを添加
し煮沸後,濾過する。その濾液0.02m1について 濾紙クロマトグラフ法を行い,スポット検出を行 ったが,榿色のスポットは全く消失していた。 来RAS投与患者尿(q叫職しに相当} ● ネ登色スポット ⑫ 薄紫色又ポリト 第3図 PAS投与患者尿の馬尿酸添加試験に 於ける濾紙クPマトグラフ②PAS投与患者早朝空腹尿について①に準
じて濾紙クPマトグラフ法を行ってみた。第3図 に示すCとく原尿ではRf値0.81−O. 83を有す る極く薄い紫色のスポットが僅微ながら認められ た。原尿に馬尿酸を添加すると,この薄紫色のス ポットに加うるにRf値0. 82−O.85の榿色スポ ットが判然と検出された。更にヒストチーム標品 と反応後の尿では,①と同様榿色スポットのみ消 失が見られ,薄紫色のスポットは観察された。こ れにより心血スポットの消失は,ヒストチームに より馬尿酸が分解消失した結果に由来することが 確認された。 5)馬尿酸以外の2.3の物質とp−DBA試薬と の反応。 馬尿酸と類似構造を有するPASに,上記の濾 紙クロマトグラフ法を行うと667mg/dl(O. 05N :NaOH溶液にしてある)0.01 mlを用いた揚合, 極く薄い帯紫桃色のスポットが検出されRf値は 0.81∼0.83であった。このスポット部のメタノー ル溶出液の吸光度を測定したが,第2回のごとく 462mμ部では,等モル濃度の馬尿酸の示す吸光 度の4.8%に過ぎなかった。L一システィン, L一 シスチン,タウリン,L一トリプトファン, L一チ ロジン,グリシン,L一メチオニン,安息香酸に ついて,各15C−250 mg/(Uの濃度のもの0.01 mlを用いて,濾紙クロマトググラフ法を行った が,いずれの場合もスポットは検出されなかっ た。 6) 臨床例への応用 正常人及び肝疾患患者各5例について,肝機能 検査としての馬尿酸添加試験を行った。Quick 8)の様式に従って,安息香酸ソーダ液を肘静脈内に 注射し,1時間後の尿を採集して,尿中馬尿酸量 を濾紙クロマトグラフ法及び同時に次亜臭素酸法 により測定すると第3表のごとくなった。概して 濾紙クロマトグラフ法では次亜臭素酸法に比して 低い値が認められた。 考 察 馬尿酸溶液につき,既述の濾紙クロマトグラフ 法を施行すると,標準曲線は第1図に見られるよ うに,10∼150μgでは原点を通る直線となり, 160∼180μgでは直線勾配の低下が見られた。そ れゆえ10∼150μ9では定量可能である。且つ人 尿を用いて馬尿酸回収試験を行うと,第1表のe 第3表 正常人及び肝疾患患者に於ける 馬尿酸合成試験
…, ….田光量(m・椴亜壁…
;:戦縫亜臭護…盤一
言 常 人 a b c d e肝If
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患 i 者j
I 957 929 818 S28 S58 869 819 822 856 940 964 1132 1122 1118 823 1058 1085 1155 1126 830 109. 6 95. 8 102. 8 100. 8 100. 8 499 562 496 1015 913 521 610 500 1057 954 104. 4 108. 6 100. 8 104. 1 104. 5 とく,47.1∼94.2μ9では,96.8∼100.8%という 比較的良好な回収率が認められるから,40∼150 μgの馬尿酸を含有するような尿量を使用すれば, より正確な尿中馬尿酸定量が可能であると思われ る。通常,尿0。01mlを用いればよいであろう。 また本法において,馬尿酸との反応の特異性を調 べてみると,健康人でもPAS投与患者尿の場合 も,同様な出色のスポットを生じ,且つこのスポッ トは馬尿酸水溶液の場合と同じRf値0.82∼0.85 を示す。さらにこれらの尿にヒトチーム標品を加 え一定時間反応させた後に,濾紙クロマトグラフ 法を行うと,七色のスポットのみが全く消失する から,本反応は馬尿酸に高度の特異性を有するも のといえる。 次にPAS投与患者尿では, Rf値O. 81∼0.83 の微かな薄紫色のスポットが認められるが,この 部分を馬尿酸に由来する榿色のスポットと共に切 り取り,メタノール溶出を行っても,S43ブイル ターを用いた場合,溶出液の吸光度に全く影響を 及ぼさないから,PAS投与を休止せずに肝機能 検査をすることが可能である。 本定量法を他の方法と比較してみると,従来の Quickの方法は,尿に強酸を添加して尿中馬尿酸 を析出させ,これを重量法または滴定法へともっ て行くためにに必ずしも馬尿酸のみに特異な反応 とはいえない。今西氏4)は,牛胆汁のごとき表面 活性作用を有する物質を多量に含有するものを少 量添加しても著しく馬尿酸析出阻害するし,馬尿酸350mgに牛胆汁10mg,50mg,100mgを添加
すると,それぞれ,303mg,210 mg,178 mgの 測定値を示し,24∼49%の馬尿酸析出阻害がみら れ,且つ,胆汁成分其他のステロイド系化合物が尿 中に排泄されるのは周知の事実であり,殊に肝機 能の異常な場合は,その排泄状況も著しく変化す ることは当然であるから,このような場合Quick の方法で行うのは当を得ないことを指摘してい る。同氏は更に,尿中に存在する尿酸,クレアチ ニン,コレステリン,尿素,第二燐酸ソーダ,塩化 カルシウムなどの物質によっても馬尿酸析出を可 成り阻害すると述べている。 次亜臭素酸法の揚合はQuickの法によるよう な障害がなく,回収率が高いことを報告している が,今回の実験によると,PAS投与患者尿中に は,68mg/dl,105 mg/d1,87 mg/d1のごとく次 亜臭素酸試薬と反応する物質が溶存しているか ら,一応PAS投一与を休止してから肝機能検査を 行うべきであろう。濾紙クロマトグラフ法を用い れば,以一とのごとき不便な点が認められないか ら,展開に長時間を要する点,発色剤噴霧の揚合 に細かい霧が均一に濾紙上に分布するように細心 の注意を払うべき点を老慮しても本法はO. Olml のような少量の尿で比較的簡便に,正確に馬尿酸 を定:聡し得る良い方法であるといえよう。 総 括 1)濾紙クロマトグラフ法による尿中馬尿酸定 量は,10∼150μ9にては定量可能である。 2) この濾紙クロマトグラフ法が馬尿酸に高度 な特異性を有することを,豚腎ヒストチーム標品 を用いて証明した。 3) PAS投与患者尿にっき本定量を行うとRf値0.81∼0,83の薄紫色のヌポ.ットが認めら れたが,馬尿酸値には影響を及ぼさなかった。 4)2,3の臨床例へ応用した結果を述べた。 爾本論交要冒は,第22回東京女子医科大学々会(昭 和31年10月21日)において報告した。 終りに臨み種々御懇篤なる御指導を賜った松村教授 に深詫射を捧げる。 丈 献
1) Quick, A.J.: Am. J. Med. Soc.,185, 630(1933)
2)1)eysso皿, G.&AIIiot,]M.:Bull. Soc. Chim. Biol. 29, 423 (1927)
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5)Gaff皿ey, G.W., Schreier, K:.,1)ifferante,
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