1 矢野による卒試解説解答シリーズ 7 皮膚科・問題と解答解説 平成22(’10)年度問題 1. 通常,皮膚に存在しないとされるのはどれか.一つ選べ. a. Ⅰ型コラーゲン b. Ⅱ型コラーゲン c. Ⅲ型コラーゲン d. Ⅳ型コラーゲン e. Ⅴ型コラーゲン 解説: Ⅰ,ⅢおよびⅤ型コラーゲンは間質組織に広く分布する線維性コラーゲンである.膠原線維を 作るのがⅠ型コラーゲン,細網線維を作るのがⅢ型コラーゲンである. Ⅰ型コラーゲン以外は太い線維を作らず,組織学 などで見慣れた右写真のようなエオジンによく染ま ったピンク色の線維はⅠ型コラーゲンの束である (図中に見える核は線維を賛成する線維芽細胞). 一方,Ⅳ型コラーゲンは基底膜の骨格を形成する. Ⅴ型はⅠ型,Ⅲ型コラーゲンが含まれる組織に一 緒に少量含まれるが,上のⅣ型コラーゲンとⅠ型コ ラーゲンを結びつける役割をしており,少量といっても極めて重要である.Ehlersエ ー ラ ス-Danlosダ ン ロ ス症候群 古典型1はこのⅤ型コラーゲンの異常である.皮膚の過伸展・脆弱性が強く,軽度の外傷で皮下出 血,皮膚裂傷を反復し瘢痕を形成しやすい. 以上より,コラーゲンはⅠ・Ⅲの間質組織とⅣの基底膜,それらを結び付けるⅤをセットで考 える.残りのⅡ型コラーゲンは硝子軟骨などに細線維として存在し,通常皮膚には存在しない. 解答:b 2. 皮膚の水分保持能力に最も関与している物質はどれか.一つ選べ. a. コラーゲン b. ラミニン c. エラスチン d. アルブミン酸 e. ヒアルロン酸 解説: 水分保持に働くのは,真皮の細胞や線維の間を埋める基質である.基質は糖蛋白やプロテオグ リカンから成る. 糖蛋白は2~15%の糖を含んだ分子量 15 万~25 万の物質で水分を保持したり,コラーゲンや エラスチンと結合して線維を安定化したりする. プロテオグリカンは,軸蛋白にムコ多糖(グリコサミノグリカン)が多数結合した巨大分子で, 真皮の代表的グリコサミノグリカンは,水分保持に関与するヒアルロン酸と線維の支持や他の基 1 かつての分類の,症状の強いⅠ型,弱いⅡ型を合わせて言うものである.なお,Ⅲ型コラーゲンの異常で起きるのがエーラス・ ダンロス症候群血管型(Ⅳ型)である.血管型は最も重症で予後不良で,皮膚の過伸展は軽度ながら,大動脈,消化管,妊娠中 の子宮が突然破裂し,突然死をきたす.
2 質の保持に働くデルマタン硫酸である. なお,a.のコラーゲンは前問参照,b.のラミニンは基底膜の主成分である2.c.のエラスチンは 弾性線維の主成分である.d.のアルブミン酸は卵白などから抽出され化粧品中の保湿剤に用いら れる. 解答:e 3. 正しい文書を一つ選べ. a. ヒト頭毛の成長期は数か月である. b. ヒト頭毛のうち成長期毛はその約 9 割を占めている. c. 毛組織の幹細胞は毛乳頭部に存在する. d. 1 日の脱毛数が 20 から 30 本をこえる場合を病的脱毛という. e. ヒトでは全ての毛包が共通した毛周期を持つ. 解答: a. 誤りである.頭髪は毛周期と呼ばれる一定の周期をもって発育し,成長期(数年)→退行期(数 週間)→休止期(数ヶ月)の順に移行して,次の新生毛が同じ場所に生じると脱落する. その期間の長さの比に一致するが,成長期の頭髪が8 割以上,退行 期の頭髪が1~2%,休止期の毛髪が 10%である. b. 正しい,上記の通りである.1 ヶ月もす れば髪全体が伸びた感じがして美容院に 行きたくなる感覚の通りで,ほとんどの髪 は伸びている. c. 誤りである.毛組織の幹細胞で ある毛母細胞は毛乳頭(左写真の うち右の毛球横断面の中心部)で はなく,それを取り囲む一列の細 胞(図中赤矢頭)で,この毛母細 胞から毛や内毛根鞘細胞が発生 し,ともに上方に発育していく. d. 誤りである.健常者でも 1 日に 100 本前後の毛が脱落する3. 脱毛は上記の通り休止期の後に起きるわけだが,何らかの原因でこの休止期の頭髪の比率が増 加し抜け毛が異常に増える状態を休止期脱毛という.妊娠中はこの休止期への移行が抑制される ためにその反動で出産4 ヶ月後付近で抜け毛が増え,休止期脱毛の代表格とされる. e. 誤りである.もしそうだとしたらある時期には全く髪の毛が伸びなくなり,一斉に抜け落ちる 時を迎えることになるがそんなことはない.毛髪は銘々の毛周期に従っている4. 解説:b 2 激しい糸球体腎炎(半月体形成性腎炎)と肺出血をきたす Goodpasture 症候群で生じている抗糸球体基底膜抗体は多くがⅣ 型コラーゲンを標的にしているが,このラミニンを標的にするものもある. 3 頭髪は全体で約 10 万本存在しているといわれる. 4 動物のいわゆる冬毛など,毛全体がほぼ共通した毛周期を持つことで機能を果たしている場合もある.
3 4. 誤った文章を一つ選べ. a. アポクリン汗腺は腋窩,外陰部に存在する. b. アポクリン汗腺は思春期に発達する. c. アポクリン汗腺の導管は直接表皮に開口する. d. アポクリン汗腺から分泌される汗は無臭である. e. 外耳道腺はアポクリン汗腺である. 解説: a. 正しい.アポクリン汗腺は腋窩部,外耳道,乳輪,肛門周囲に多く分布している.アポクリン 汗腺の分泌部では,管腔に面した細胞質の一部が隆起して細胞から切り離される分泌形式,すな わちアポクリン分泌(離出分泌)が行われるのでこの名がある. b. 正しい.アポクリン汗腺は出生後に一時退化し,思春期以降に再発達する.その時期が示唆す る通り,性ホルモンの影響で発達する. c. 誤りである.アポクリン汗腺の腺体が皮膚の真皮 内に存在し毛包上部に開口する.対するエクリン汗 腺5(全身に分布する一般的な汗腺)は右写真のよ うに表皮を貫いてそこに直接開口する. d. 正しい.アポクリン汗腺は臭いの原因と言われる が,分泌される汗自体は無臭で,体表で細菌による 分解を受けて臭いを帯びる. e. a.で上述の通り,外耳道腺はアポクリン腺である. 解答:c 5. 苔癬化をきたすのはどれか,一つ選べ. a. 尋常性乾癬 b. 毛孔性苔癬 c. 放射線皮膚炎 d. 慢性湿疹 e. ステロイド皮膚症 解説: 苔癬化とは,皮膚疾患の慢性経過で皮膚が肥 厚・硬化し,皮溝や皮丘がはっきり形成される こと6で,d.の慢性湿疹7,アトピー性皮膚炎, Vidal ヴィダール 苔癬(慢性単純性苔癬)などでみられる. 左写真は多形慢性痒疹8の所見で丘疹だけでな く皮膚の肥厚すなわち苔癬化がみられている. 5 エクリン汗腺はアセチルコリン作動性である.一方,アポクリン腺はアドレナリン作動性で情緒刺激で発刊するとされる. 6 これに対し,「苔癬」は,帽針頭大から米粒大のほぼ同じ大きさの丘疹が多数集簇または散在性に存在し,他の発疹に変じず その状態が続くもの,が定義であり,苔癬化とは別概念である. 7 湿疹は皮膚炎の同義語で,原因によって細かく分類される.この意味では,続くアトピー性皮膚炎もヴィダール苔癬も“慢性 湿疹”の一つなのだが,一般に慢性湿疹(急性/亜急性湿疹も)は原因が明らかでない場合の便宜上の診断名として使用される. 8 中年以降の側腹部から腰殿部などに好発し,硬い充実性の丘疹が多発し,同時に浸潤,肥厚した苔癬化局面が混在する.痒み が強く,掻いてしまうために中央がびらん・湿潤化し慢性に経過する.
4 a. 尋常性乾癬では,皮疹は銀白色の鱗屑を伴う境界鮮明な大小のわずかに浸潤を触れる鮮紅色紅 斑である.苔癬化ではない. b. 毛孔性苔癬は苔癬化ではなく苔癬(下の脚注 6 参照)が見られる. c. 高線量の放射線に曝露されると灼熱感・掻痒を伴う紅斑,浮腫,水疱,びらんなどの強い炎症 反応が起こり,数週~数ヶ月後に色素沈着,瘢痕,脱毛を残して治癒する.これが急性放射線皮 膚炎で,この後,数ヶ月~数年して過角化や難治性潰瘍で発症し,皮膚癌の母地となるのが慢性 放射線皮膚炎である. e. ステロイド皮膚症はステロイドの内服・外用の副作用が皮膚に表れた場合を総称するものであ るが,代表的なものとして酒さ様し ゅ さ よ う皮膚炎がある.ステロイド外用薬を顔面に長期使用することで, 酒さ9に類似した紅色丘疹,びまん性潮紅,ざ瘡(にきび)が発生するものである. 解答:d 6. アトピー性皮膚炎について正しいのはどれか. a. 病変部から表皮ブドウ球菌が高率に検出される. b. 眼合併症として網膜剥離がある. c. 血清中の LDH 上昇は皮膚病変の範囲や病勢に相関しない. d. イソジン消毒療法が適応になる. e. 血清 IgE 値は常に高値を示す. 解説: アトピー性皮膚炎は,①そう痒,②左右対側性の,急性と慢性の混在した湿疹病変,③慢性・ 反復性の経過の 3 項目を満たす(症状の軽重は問わない)皮膚疾患で,患者さんの多くはアトピ ー素因(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎の家族歴・既往歴,または, IgE 抗体を作りやすい体質のこと)を有する. a. 誤りである. 上の診断基準にある通り,アトピー性皮膚炎は感染症ではない.しかし,患者さんの皮膚から は(病原性の弱い表皮ブドウ球菌ではなく)黄色ブドウ球菌が高率に検出され,伝染性膿痂疹(い わゆるとびひ)合併例ではポビドンヨード(イソジン®)による局所消毒を行い,抗菌薬の軟膏 を用いる. なお,アトピー性皮膚炎に関連した感染症として,これに単純ヘルペスウイルスの感染がかぶ るカポジ水痘様発疹症がある.まるで水痘のように,紅斑を伴う小水疱が集簇あるいは播種状に 急速に顔面から全身に広がる. b. 正しい.ただし,アトピー性皮膚炎の原病態に網膜剥離が含まれるのではなく,そう痒のため に眼周囲を何度も強く掻いてしまう物理的な刺激が網膜剥離の原因と言われている.ともあれ, 眼周囲に病変を認めるアトピー性皮膚炎の患者さんでは網膜剥離発症の可能性を考慮し適宜眼 科コンサルトが必要である. c. 誤りである.LDH は掻破による皮膚由来であり(掻くことで皮膚組織が壊れて酵素が血中に 9「酒さ」(いわゆる赤ら顔)は中高年の顔面にびまん性発赤と血管拡張をきたす慢性炎症性疾患であり,ざ瘡様の丘疹,膿疱を 混じる.内分泌異常が原因とも言われる.
5 入る),罹患面積が広いと血中で高くなる. d. 誤りである.イソジン消毒療法は,黄色ブドウ球菌が増悪因子になっているのでこれを殺菌す ればアトピー性皮膚炎自体の症状が改善するのではという考えから一部で行われているもので ある.医療機関で行われることもあるので民間療法と言い切れないが,ポビドンヨード自体に皮 膚刺激性があり,広範囲に行うことは勧められない. e. 誤りである.本症の 70‐80%で血清 IgE の上昇がみられる.同じく好酸球の増多も高率にみ られる.が,逆に言うと「常に」みられるわけではなく,高 IgE 血症はあくまで診断の参考項 目に過ぎない. 解答:b 7. 蕁麻疹について正しいものはどれか,一つ選べ. a. 基本的な病態は表皮の浮腫である. b. IgE RAST 検査は原因同定に有用である. c. 副腎皮質ステロイドを内服投与することが第一選択である. d. 食物依存性運動誘発性の場合は小麦の関与が多い. e. Ⅲ型アレルギー反応,つまり補体の活性化が病変部では証明されている. 解説: 蕁じん麻ま疹しんは,皮膚に突然,強い痒みとともに紅斑を伴う膨疹が多発するもので,通常は数時間以 内に痕を残さず消退する.皮膚肥満細胞の活性化とそれに伴い放出される種々のケミカルメディ エーター(ヒスタミンに限らずロイコトリエン,ニューロペプチド,サイトカインなど)により 生じた真皮乳頭層および乳頭下層の一過性浮腫がその病態である. a. 誤りである.表皮の浮腫は湿疹(皮膚炎)の基本病態である.蕁麻疹は表皮ではなく真皮の病 変である.皮膚に塗った薬は普通は真皮まで届かないので,治療薬は内服薬が基本になる. b. 誤りである.IgE を介するⅠ型アレルギーで起こる蕁麻疹は全体の約 1 割に過ぎず,原因は感 染,機械的刺激,発汗,自己免疫性など多岐に渡る.特定の食物,動物,環境などと関連して症 状が現れる場合以外はIgE RAST で原因を同定することは難しい. c. 誤りである.蕁麻疹の第一選択薬は経口抗ヒスタミン薬(ヒスタミン H1 受容体拮抗薬,フェ キソフェナジン(アレグラ®)・オロパタジン(アレロック®)など)である.難治例ではステロ イド内服を行う場合もある. d. 正しい.食物依存性運動誘発性の蕁麻疹は食物依存性運動誘発アナフィラキシーの一環として 生じる.これは食事摂取のみでは症状は認めないが,小麦製品や甲殻類といった特定の食物摂取 後の激しい運動によって全身性蕁麻疹,呼吸困難,意識障害,血圧低下などのアナフィラキシー 症状が出現するものである.発症が非常に急激かつ進行性であるため極めて迅速な対応(気道確 保,血管確保→ボスミン®)が要求される.特異的 IgE 抗体による即時型反応であり,原因食物 の除去と食後3 時間以内の運動制限の徹底指導が必要である. e. Ⅲ型アレルギーは免疫複合体(抗原と抗体の凝集体)が組織に沈着し,これが補体を活性化し てC5a などのアナフィラトキシンが放出され,血管透過性の亢進,好中球・単球・リンパ球・ 肥満細胞の遊走および活性化が起こり,組織傷害が生じるものである.よって,問題文の前半(Ⅲ
6 型アレルギー=補体の活性化)は正しいが,これは蕁麻疹の基礎病態ではない10. 解答:d 8. ラテックスアレルギーについて誤りはどれか,一つ選べ. a. ゴム製品に含まれるゴム蛋白によるアレルギーである. b. 医療従事者に頻度が高い. c. アナフィラキシーショックには至らない. d. ラテックス製品からの抽出液によるプリックテストが診断に有用である. e. クリ,バナナ,アボガドなどの摂取には注意する. 解説: a. 正しい.ラテックスはここでは天然ゴムのことで,それに含まれる蛋白(主要アレルゲン蛋白 はヘベインb)に対するアレルギーである. b. 正しい.ラテックスアレルギーのハイリスクグループとして,①これらの製品を職業上使用す ることの多い医療従事者・清掃業者・理容師美容師など,②幼児期より手術やカテーテル操作を 受けることの多い二分脊椎・先天奇形の患者,③バリア機能が弱く IgE 産生能の高いアトピー 患者,が挙げられる. 一般人口での発症率は 0.8‐1.0%であるが,医療従事者では 5‐15%に上る.②の先天奇形の 患者さんでは6 割にも上り,注意が必要である. c. 誤りである.確かに臨床症状の多くは接触蕁麻疹11であるが,重篤な症例ではアナフィラキシ ーショックを生じ,死亡例もある. d. 正しい.プリックテスト12は感度特異度に優れているとされているが,本症につき標準化され たアレルゲン溶液はなく,ラテックス手袋を細く切って生理食塩水に浸したものを希釈して使用 している.ラテックス特異的IgE については血液検査キット(ImmunoCAP®)があるが,偽陰 性が20%あり,確実な病歴があればこれで陰性でも診断することになる. e. 正しい.ラテックスアレルギー患者の 50%にバナナ,アボガド,クリ,キウイなどのフルーツ アレルギー(口や周囲がかゆくなる口腔アレルギー症候群やアナフィラキシー)を合併し,ラテ ックス・フルーツ症候群と呼ばれる13.両アレルゲンの間に交差反応性があるからである. 解答:c 9. 多形滲出性紅斑の主要な三つの原因とはどれか. (1) 薬剤 (2) 全身性エリテマトーデス (3) 内蔵悪性腫瘍 (4) 単純性疱疹 (5) 肺炎マイコプラズマ 10 Ⅲ型アレルギーの代表格はウマ血清投与後の血清病である.他にも,全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの膠原病, 糸球体腎炎,過敏性肺炎の病態に関与する. 11 原因物質が経皮的に吸収されて生じる蕁麻疹のこと. 12 prick(刺す)の名前の通り,被検者正常皮膚にアレルゲン(疑い)溶液を滴下して針で軽く刺し,15 分後の膨疹反応を観 察するものである. 13 麻酔科の術前診察でフルーツアレルギーがないかを聞くのは,マスクなどゴム製品を強く押し当てるためラテックスアレル ギーのハイリスクがないかを予め確かめるためである.
7
a. (1), (2), (3) b.(1), (2), (5) c.(1), (4), (5) d.(2), (3), (4) e.(3), (4), (5)
解説:
多形滲出性紅斑(EM, Erythema multiforme)には軽症型 (EM minor)と重症型(EM major)に分けられる. 軽症型は,四肢伸側・顔面を好発部位とし,類円形から環 状を呈する浮腫性紅斑(左写真)が左右対称性に多発する. 単純ヘルペスウイルス(4),肺炎マイコプラズマ(5),溶連菌(上 気道感染)などの感染や,薬剤(1)との関連が知られている. 重症型は薬剤との関連が濃厚に認められ,発熱・粘膜症状 を伴い,皮疹は浮腫・浸潤が軽症型よりむしろ弱い暗赤色紅 斑で,病理組織学的に表皮細胞の壊死が強く認められる14. 解答:c 10. 54 歳女性.約 1 ヶ月前から特に誘因なく,咽頭痛と 39℃台の発熱と紅斑が出現した.紅斑は 数時間で消失し,それに伴い解熱するが,翌日繰り返す.血液検査上,白血球上昇とCRP の高 値,軽度肝機能障害を認めた.抗核抗体やリウマトイド因子は陰性であった.次のうちより最も 考えられる疾患はどれか. a. 全身性エリテマトーデス b. ベーチェット病 c. スイート病 d. 木村氏病 e. 成人スティル病 解説: a. 全身性エリテマトーデス(SLE)は妊娠可能年齢の女性 に好発する代表的自己免疫疾患である. 発熱,関節炎,腎障害(ループス腎炎),漿膜炎,中枢神 経症状(SLE 脳症)と症状は多岐に渡り組み合わせも多彩 である15.皮疹に関して言えば,まず蝶形紅斑(右写真) の診断的価値が高い(5~7 割で出現).ディスコイド疹(円 板状ループス),手掌や爪周囲の紅斑,網状青色皮斑も認 められ16,皮疹は日光・紫外線に対して光線過敏性を示す. b. Behçetベー チェッ ト病診断基準における主症状17は,①口腔粘膜の再 14 別の疾患とみなす意見もあるが,この重症型から Stevens-Johnson 症候群(SJS)に移行したり,さらに重症化すると中毒
性表皮壊死症(TEN:toxic epidermal necrolysis)に移行することがあると言われる.
なお,SJS と TEN は同一病態で,表皮剥離の体表面積割合が 10%未満を SJS,30%以上を TEN,その間を overlap SJS/TEN と呼んでいる. SJS では高熱と同時に皮疹が現れ,初めは多形紅斑だが次第に癒合し,不規則な輪状の紅斑となる.次第に滲出傾向となり, 水疱や膿疱を形成しながら全身に広がる.粘膜症状(口腔,口唇,眼瞼,腟などにびらんや潰瘍)も現れ,眼症状として結膜の 充血,膿性の眼脂,偽膜形成などがみられ,失明の原因となる. 15 この多彩さゆえ,SLE の診断にはアメリカリウマチ学会の分類基準が用いられるものの,SLE の診断に必要十分条件は存在 しない.症状と検査所見からの臨床的判断である. 16 皮膚科領域の症状として他に,皮膚血管炎による梗塞,頭髪の大量脱毛がみられることがある. 17 副症状には変形や硬直を伴わない関節炎,精巣上体炎,回盲部潰瘍で代表される消化器病変,血管病変,中等度以上の神経
8 発性アフタ性潰瘍,②皮膚症状(結節性紅斑様皮疹(右写真)・ 皮下の血栓性静脈炎・毛包炎様皮疹ざ瘡様皮疹)③眼症状(虹 彩毛様体炎・網膜ぶどう膜炎),④外陰部潰瘍の4 つである18. 男女比はほぼ等しく,30 歳代に発症のピークがある. c. Sweetス イ ー ト(報告者の人名)病は,発熱と末梢血好中球増多を伴い, 急性発症する有痛性の隆起性紅斑(顔面・頚部・四肢)を特徴 とする疾患で,中年女子に好発する.約半数で咽頭痛などの上 気道感染が皮膚症状の前駆症状として認められ,39℃前後の高 熱をみる.また,末梢血中の好中球を主体とする白血球増多が 著しく,通常15,000/mm3前後である.血清CRP 上昇,血沈亢 進も60‐70%の症例で認められる. 口腔内アフタや陰部潰瘍を認める症例があり,ベーチェット病 との鑑別が問題となる疾患でもある. d. 木村病は好酸球性リンパ濾胞様構造増生性肉芽腫のことで,リンパ濾胞過形成と好酸球の浸潤 を伴った炎症性肉芽腫が,耳下腺下部や顎下部,四肢などの軟部組織に無痛性の皮下腫瘤を形成 するものである.少年期から青年期の男子に多い.何らかの外的刺激に対する反応性の病変(な ので自然治癒もある)だが,原因はわかっていない. e. 成人発症Stillスティル病は,若年性特発性関節炎(若年性関節リウマチ)の全身型(Still 病)が,16 歳以降に発症した疾患とされる. 診断基準の大項目(つまり典型的症状)は, ①1 週間以上持続する発熱(39℃以上の弛張 熱),②2 週間以上持続する関節痛,③定型的 サーモンピンク皮疹(左写真),④白血球増加 で,まずこのうち 2 項目を認めなくてはなら ない.さらに,咽頭痛19,リンパ節腫脹,脾腫, 肝機能異常,リウマトイド因子陰性および抗 核抗体陰性の小項目も合わせた中から 3 項目 を満たせば診断できる20. さて,選択肢にある疾患を一通り見たが,本症例で咽頭痛(小項目),39℃以上の弛張熱(大項 目),紅斑(小項目),白血球増加(大項目),肝機能異常(小項目),リウマトイド因子陰性およ び抗核抗体陰性(小項目)と揃い,診断基準を満たすのは成人Still 病である ― もとより問題文 の情報で他の選択肢を完全に否定できるわけではない(皮膚科の試験なのに紅斑の部位や性状が 書いていない点は評価できない). 解答:e 病変がある.主症状4 つを全て満たすものを完全型,満たさないが副症状と合わせて診断するものを不完全型と呼ぶ. ベーチェット病には他にも疑い例や特殊病型が存在するが,本疾患に限らず,実際の患者さんをみることのない試験において 難診断例を持ち出す意味はないので,症例問題は診断力をみているのではなく診断基準の知識を問うていると考えた方がよい. 18 T 細胞の過敏反応性による好中球の異常活性化がこれら症状の基礎病態である. 19 この咽頭痛を 60~70%に認める点は小児の Still 病と異なると言われる. 20 正常上限の 5 倍以上という血清フェリチン値著増も特徴的所見である.また,診断の際,感染症,悪性腫瘍,その他の膠原 病を除外する.
9 11. 28 歳男性.幼児期には,蚊に刺されると発熱や関節痛が生じ,刺されたところは皮膚が潰瘍 になった.1 年前から,全身倦怠感,微熱や体重減少があり,1 週間前から高熱が続いた.全身 のリンパ節腫脹や肝機能障害も存在した.末梢血液には異型リンパ球は無く,肝炎ウイルス抗 原・抗体は陰性であったが,Epstein-Barr ウイルス抗体価がやや上昇していた.次のうちより 最も考えられる疾患はどれか. a. 全身性エリテマトーデス b. 成人 T 細胞性リンパ腫 c. リンパ腫関連血球貪食症候群 d. アレルギー性肉芽腫性血管炎 e. ウェジナー肉芽腫症 解説: 慢性活動性EB ウイルス感染症患者の蚊ぶん刺しアレルギーはよく知られている.通常の蚊刺反応(い わゆる虫刺されの痒み)もアレルギー機序によるが,この場合には蚊刺により発熱,リンパ節腫 脹,肝脾腫など全身症状を伴い,刺咬部は血疱,潰瘍形成し重症化する. 一般に蚊刺アレルギーは幼少期に発症し,血球貪食症候群や白血病などを併発し予後不良のた め,見逃せない徴候である. 血球貪食症候群(HPS, hemophagocytic syndrome)21は,ウイルス感染症や悪性リンパ腫で異 常活性化したリンパ球がサイトカインを産生し,それによって異常活性化したマクロファージが 骨髄をはじめとした網内系で血球を貪食する疾患である. 発熱,リンパ節腫脹,肝脾腫,汎血球減少,凝固異常,肝機能障害,高 LDH 血症,高フェリ チン血症,血中可溶性IL-2 受容体レベル上昇など,多彩な臨床症状および検査値異常を呈する. 本問では他の疾患と迷うことはなく c.の血球貪食症候群を選べるが,ここでは末梢血に異型リ ンパ球を認めていないこともありEB ウイルス感染症の急性期22ではなく,このウイルスが種々の 程度で関与するとされる悪性リンパ腫の病態を経てこの血球貪食症候群を発症したリンパ腫関連 血球貪食症候群と考える.予後不良で,通常の化学療法よりも強力な化学療法や造血幹細胞移植 を含む治療を行う. 解答:c 12. 40 歳男性.前腕の結節性紅斑を疑い,実施した生検部位の局所麻酔注射部位に一致して小膿 疱がみられた.次のうちより最も考えられる疾患はどれか. a. 全身性エリテマトーデス b. ベーチェット病 c. シェーグレン症候群 d. 混合性結合組織病 e. デゴス病 解説: 結節性紅斑は,多くが上気道感染症状に引き続いて皮下硬結を両下腿伸側に多発性に生じるも ので,若い女性に好発する.硬結には発赤と局所熱感を伴い圧痛が著明であるが,潰瘍化は稀で, 約6 週間以内に自然軽快する.症例写真(次ページ冒頭右)の通りBehçetベー チェッ ト病などによる症候性の 21 特に小児科領域で,血球貪食性リンパ組織球症(HLH, Hemophagocytic lymphohistiocytosis)とも呼ばれる. 22 EBV や HIV 感染の急性期では末梢血中に異型リンパ球の増加をみる.
10 紅斑(8 ページ冒頭右に写真)とそっくりだが,この場合は紅斑が 比較的小さいとされ,また,ベーチェット病では特異性の高い針反 応23がみられるので鑑別できる.本問で問われているのもここで, 答えはb.のベーチェット病である. 選択肢a.と b.は問 10 で総論的に既に見た. c. Sjögrenシ ェ ー グ レ ン症候群は涙腺,唾液腺をはじめとする外分泌腺にリンパ 球が浸潤する慢性炎症性疾患である.女性に好発し,発症年齢は 40~50 歳代をピークとする. 腺性症状として,乾燥性角結膜炎,唾液腺分泌低下はよく知られ るが,5 割に萎縮性胃炎(50%)があることも知っておきたい. 腺外症状として,関節炎(30~50%),全身性リンパ節腫大(30%), Raynaudレ イ ノ ー現象(20~30%),発熱(10~30%),環状紅斑(20%),末梢神経障害(5~20%)が みられる. 予後は良好で,症状が軽いと診断されていない事例も多く,実際には頻度が高いので積極的に 疑いたい.
d. 混合性結合組織病(MCTD, mixed connective tissue disease)は,全身性エリテマトーデス, 強皮症および多発性筋炎などの臨床像を合わせ持つ疾患で,高力価の抗U1-RNP 抗体を特徴と し,肺高血圧症を高率に合併する24.レイノー現象と指・手背の腫脹の二つがよくみられる症状 である. e. Degosデ ゴ ス病は悪性萎縮性丘疹症のことで,皮膚の萎縮性丘疹に続き,消化器の多発性潰瘍や穿孔, 中枢神経系の出血や梗塞を症状とする.微小血管の内皮の肥厚による閉塞性血栓血管炎が基礎病 態である. 解答:b 13. アナフィラクトイド紫斑病(アレルギー性紫斑病)について誤りはどれか,一つ選べ. a. 感冒様症状が先行することがある. b. 紫斑は palpable purpura である. c. 真皮の病理組織では核破壊を伴った多核白血球の浸潤が細小血管周囲に見られる. d. 真皮の細小血管壁に IgG の沈着が認められる. e. 適切な治療がされないと腎不全に至ることがある. 解説: アナフィラクトイド紫斑病(アレルギー性紫斑病)は,Schönleinシ ェ ー ン ラ イ ン-Henochヘ ノ ッ ホ紫斑病と呼ばれるこ とが多い.小児に多い25全身の毛細・細小血管の過敏性血管炎であり,上気道炎に続発して,① 皮膚症状(両側の下腿伸側,上腿屈側,殿部などの紫斑)(100%),②関節症状(特に膝関節や踝 23 亢進した皮膚の被刺激性を反映する反応で,無菌の注射針を前腕部の皮膚に刺入し,24~48 時間後に同部の発赤・膿疱の形 成を認めるものである.同様の背景から,皮膚の傷や虫刺されも容易に化膿する. 24 これに対し,抗 U1-RNP 抗体が陰性で,2 つ以上の膠原病の特徴的臨床像や免疫学的所見を有して各診断基準を満たす場合 は,独立した疾患概念を立てず重複症候群と総称する. 25 平均発症年齢は 6 歳で,10 歳未満が 90%を占めるので,実質的に小児科疾患である.
11 関節の有痛性の腫脹)(約75%),③腹部症状(腹痛,下血,血便)(50‐75%)の三主徴を呈す る26. 大半の症例は自然軽快するが,約30%の症例に半年以内の再燃を認める.また,腎炎(紫斑病 性腎炎)の合併が40‐50%に認められ,その 9 割は紫斑出現後 1 か月以内に生じる.この腎炎の 重症度が長期予後を左右する. a. 正しい.感冒様症状が先行する「ことがある」 というより,むしろその場合が多い. b. 正しい.Palpable purpura は血管炎で見ら れる触知可能紫斑のことで,右写真のような 外見を呈し,軽度に盛り上がり浸潤を触れる27 紫斑である. c. 正しい.紫斑のうち 5mm 以下の小さいもの を点状出血,それ以上の大きいものを斑状出 血というが,これらは真皮内出血のため,硝 子圧28で退色しない.この出血部位を病理学的に見ると,真皮上層の血管壁にフィブリノイド変 性を伴う白血球破砕性29血管炎の像がみられ(左下写真の矢印部位),蛍光抗体法で検出すると 血管壁周囲にIgA の沈着を認めることもわかっている. d. 誤りである.上記の通り,沈着を認めるのは IgA である.腎炎ではこれと同じ変化で腎臓が侵 され,メサンギウム領域への IgA の沈着を主体 とするメサンギウム増殖性糸球体腎炎の像を呈 する点で紫斑病性腎炎は IgA 腎症とまとめて扱 われるのであった. e. 正しい.小児では 10 年の経過で約 10%が腎 不全に進行するとされるので,ステロイド,免疫 抑制剤による適切な治療が欠かせない. 解答:d 14. 18 歳女性.生理痛がひどく,市販の痛み止めを内服したところ,口囲にかゆみを伴う,うず ら卵大の紅斑を生じた.紅斑は褐色の色素沈着を残して治癒した.以前も,近医にて痛み止めを 処方され内服したところ,同じ部位に紅斑と水疱が生じたことがある.次のうちより最も考えら れる疾患はどれか. a. 全身性エリテマトーデス b. シェーグレン症候群 c. 薬剤誘発性エリテマトーデス 26 75‐90%の例で皮膚症状が先行するので,その徴候は見逃せず,こうして皮膚科疾患としても取り上げられているわけだが, 逆に見ると10‐25%は関節症状・腹部症状が先行するわけでこれらの鑑別疾患として覚えておかなくてはならない.本疾患の ために腸重積症を生じることもあるけれども,本疾患による先行した腹部症状は(ただの)腸重積症と誤診されやすい. 27 炎症部位における好中球の浸潤による血管壁の肥厚や血液の漏出の結果をマクロに触知していると考えられる. 28 無色透明なガラスかプラスチック製の板を皮疹部に押し当てる検査法で,充血やうっ血による紅斑は退色するが,色素沈着 や紫斑は退色しないので鑑別ができる. 29 細動静脈周囲に白血球の核破片(核塵)が存在する.
12 d. 尋常性乾癬 e. 固定薬疹 解説: 本資料でここまでに触れられていないc.と e.を確認する. c. 薬剤誘発性エリテマトーデスは薬剤性ループス様症候群とも呼ばれ,ヒドララジン(降圧薬) やプロカインアミド(抗不整脈薬)などの薬剤,あるいは抗 TNF 薬使用中の患者に全身性エ リテマトーデス(SLE)様の症状をきたすものである.通常は原因薬剤の投与中止によって症状 は軽快する. ここで見られている「口囲にかゆみを伴う,うずら卵大の紅斑」は SLE に特徴的な症状では ない. e. 固定薬疹は,特定の薬剤を内服するたびに同一 部位に皮疹を繰り返す薬疹の特殊型である.薬剤 を内服していない時には円形の色素斑(右写真) だけを認めるが(問題文の「褐色の色素沈着を残 して治癒」に相当),原因薬内服後数時間以内に, 色素斑に一致して熱感,そう痒感を伴う紅斑を認 め,時に水疱となるものである.口囲,口唇,外 陰部,手指,足背などに生じやすい. 解答:e 15. 紅皮症の原因疾患になりうるのはどれか. (1) 薬疹 (2) 尋常性乾癬 (3) 蕁麻疹 (4) 麻疹 (5) 悪性リンパ腫 a. (1), (2), (3) b.(1), (2), (5) c.(1), (4), (5) d.(2), (3), (4) e.(3), (4), (5) 解説: 紅皮症は,剥脱性皮膚炎とも呼ばれ,全身の 皮膚が潮紅し落屑を伴って持続する状態を言 い(落葉状天疱瘡を原疾患とした紅皮症の症例 は左写真),この定義の通り,単一の疾患では なくて症状の名前である. 明らかにならない場合も多いが原因となる 疾患が背景にあり,炎症性の原疾患に続発する 場合(湿疹・アトピー性皮膚炎など皮膚炎群, 乾癬・毛孔性紅色粃糠疹など炎症性角化症,薬 疹,落葉状天疱瘡・類天疱瘡など水疱症,疥癬・白癬・カンジダ・麻疹・風疹など感染症による) と,腫瘍性疾患に続発する場合(皮膚悪性リンパ腫(菌状息肉症,Sézary 症候群),白血病,内
13 臓悪性腫瘍に伴うデルマドローム30などによる)とに大別される. 紅皮症が重症化し脱水,低アルブミン血症,(主に黄色ブドウ球菌による)感染症がある場合に はそれらに対処するが,治療は原疾患に対して行うので,鑑別を行う上で原因となりうる上記の 疾患を覚えておかなくてはならない. 薬疹(1),尋常性乾癬(2),麻疹(4),悪性リンパ腫(5)はいずれも上に挙がっているが,蕁麻疹(3) は原因にならない.なお,これだと b.と c.がともに解答になってしまうが,薬剤性/感染性/腫 瘍性紅皮症は紅皮症のうちある程度の割合を占めるのに対し(なので湿疹性紅皮症含め名称化し ている),麻疹によるものは「あり得る」という頻度なので,(1),(2),(5)を指摘する b.が正解とし て設定されたのであろう. 解答:b 16. 薬疹について正しいのはどれか. (1) 発熱や白血球増多を伴わない. (2) 漢方薬でも生じる. (3) 同じ薬剤でも患者により病型は異なる. (4) Stevens-Johnson 症候群では失明することがある. (5) 内服誘発試験は外来検査で簡便に行える. a. (1), (2), (3) b.(1), (2), (5) c.(1), (4), (5) d.(2), (3), (4) e.(3), (4), (5) 解説: 薬疹とは内服,吸 入,注射などの薬剤 投与により生じる皮 疹および粘膜疹であ る.アレルギー機序 によるものと非アレ ルギー機序(多くは 薬理作用に起因)に よるものとがある. 薬疹には様々な病型 があるが,その病型 と原因薬剤との間には上表のようにある程度の対応傾向があるので症状と薬剤歴とがこの傾向に 一致すればより強く薬疹を疑うことになる. 重症薬疹として, ・重篤な粘膜障害や表皮剥離をきたすStevens-Johnson 症候群(SJS),中毒性表皮壊死症(TEN), ・抗けいれん薬などの薬剤摂取後に紅皮症,肝障害,末梢血異常(白血球増多,好酸球増多,異 30 内臓悪性腫瘍に伴う皮膚病変のことで,胃腺癌に伴う悪性型黒色表皮腫(表皮の乳頭状隆起,角質増殖,黒褐色色素沈着を きたす疾患で,悪性黒色腫とは全く別物),Hodgkin リンパ腫に伴う後天性魚鱗癬(四肢を中心に,乾燥したうろこ状の鱗屑を 付着する)などがよく知られる. 病型 原因薬 播種状紅斑丘疹型 抗菌薬,中枢神経薬,消炎鎮痛薬,造影剤,抗リウマチ 薬,チオプロニン 多形紅斑型 造影剤,抗てんかん薬,ペニシリン,メシル酸イマチニブ 蕁麻疹型/血管浮腫型 抗菌薬,アスピリン,消炎鎮痛薬,造影剤,ACE阻害薬 固定疹型 アリルイソプロピルアセチル尿素,メフェナム酸,エテンザ ミド,アセトアミノフェン,塩酸ミノサイクリン 苔癬型 シンナリジン,チオプロニン,カプトプリル,ピリチオキシ ン,シアナミド,金製剤,エタンブトール 光線過敏型 ニューキノロン系抗菌薬,ピロキシカム,アフロクァタン, サイアザイド系利尿薬,メチクラン,テガフール 急性汎発性発疹性膿疱症 抗菌薬,抗真菌薬,アセトアミノフェン,カルバマゼピン 薬剤性過敏症症候群 カルバマゼピン,フェノバルビタール,フェニトイン,ゾニサ ミド,塩酸メキシレチン,アロプリノール,ジアフェニルスル ホン,サラゾスルファピリジン Stevens-Jhonson症候群 /中毒性表皮壊死症 中枢神経薬,抗菌薬,アセトアミノフェン,消炎鎮痛薬,ア ロプリノール 薬疹の病型と主な原因薬剤
14
型リンパ球増多),リンパ節腫大を生じ,経過中にヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の再活性化 を伴う薬剤性過敏症症候群(DIHS:drug-induced hypersensitivity syndrome),
・ 全 身 の 紅 斑 上 に 膿 疱 を 生 じ る 急 性 汎 発 性 発 疹 性 膿 疱 症 (AGEP : acute generalized exanthematous pustulosis) は覚えておく. a. 誤りである.薬疹と言われるように皮膚症状が表れる31のはもちろんだが,全身所見としてし ばしば,発熱,リンパ節腫脹,喘息,浮腫,関節腫脹などを認める.また,白血球(特に好酸球) の増加を認める場合が多い. b. 正しい.あらゆる薬剤がアレルゲンとなりうることと,薬疹には薬剤の特異な薬理作用によら ずアレルギー機序によるものがあることとを考え合わせれば,漢方薬も例外でないことはすぐに 判断できる. c. 正しい.脚注 31 の「薬疹はあらゆる発疹型をとる」という格言は,種々の薬剤が特有の発疹 の原因となるのを合わせて言っているのではなく,一つの薬剤も人によって種々の病型をとる結 果である.ただし,冒頭で触れたように,皮疹の型と原因薬剤にはある程度の対応傾向はあり鑑 別に役立つ. d. 正しい.Stevens-Johnson 症候群は皮膚粘膜眼症候群とも呼ばれる通り,眼症状として結膜の 充血,膿性の眼脂,偽膜形成などがみられ,失明の原因となりうるので速やかな眼科コンサルト が必要である. e. 誤りである.被疑薬の再投与試験は薬疹の確定診断と原因薬剤の同定の上で最も信頼性が高い 検査ではあるが,重症薬疹では死亡することすらあり,安全性の点でどの症例でも簡単に実施で きるものではない.外来での簡便な実施など論外である. 解答:d 17. 乾癬について正しいものを一つ選べ. a. 女性に圧倒的に多い. b. HLA 抗原で最も強い関連が認められるのは B51 である. c. Kogoj 海綿状膿疱は真皮内に見られる尋常性乾癬における組織像である. d. 角層下に Munro 微小潰瘍をみる. e. 合併症として強直性脊椎炎が多い. 解説: 乾癬は慢性の炎症性角化性疾患である。 真皮上層の炎症性リンパ球浸潤と表皮増殖 を示し,右写真のように,厚い銀白色の鱗 屑をつけた境界のはっきりした紅斑性局面 が四肢伸側,頭部,体幹に対側性に多発す 31「薬疹の皮膚症状は,炎症皮膚疾患のすべての発疹型を網羅する」と言われる通りで,(上述のように原因薬剤と発疹型との 関連はあるが)こういう発疹型だから薬疹という判断はできない.
15 る32.臨床的に,尋常性乾癬,関節炎を伴う関節症性乾癬,紅皮症を呈する乾癬性紅皮症,発熱 そのほかの全身症状を伴い全身性の紅斑の上に無数の膿疱をきたす汎発性膿疱性乾癬33,小児に 多い(急性)滴状乾癬34とに分類される. a. 誤りである.男女比は 2:1 で男性に多く,発症年齢は男性では 20 歳代,女性では 10 歳代の 小児と40 歳代にピークがある.乾癬は白人には 1~2%と多い疾患だが,日本では 0.1%前後と 比較的少ない.家族内発症は約5%である. b. 誤りである.乾癬は第 6 染色体上の HLA-Cw6 との関連が広く確認されており35,一方,日本 人のCw6 の遺伝子頻度が 0.1%と低いのでこれが日本での発症頻度の低さに関連していると言 われる. HLA-B51 との関連が言われるのはベーチェット病である. c. 誤りである.Kogojコ ゴ イ海綿状膿疱は,好中球の浸潤により表皮細胞が破壊され,その細胞膜が残 って網状となったものである.つまり真皮でなく表皮の症状である. また,このような特徴的な無菌性膿疱を形成する炎症性皮膚疾患の一つとして36,(尋常性乾癬 ではなく)膿疱性乾癬を挙げることができる. d. 正しい.Munroム ン ロ ー微小潰瘍は,尋常性乾癬の病変部で認められる典型的な病理所見で,真皮乳頭 内にある拡張した毛細血管から表皮に向けて好中球が放出され,これが角層下に集まり微小膿瘍 を形成したものである. e. 誤りである. 乾癬の約 1%に当たる汎発性膿疱性乾癬には強直性脊椎炎をはじめとするリウマトイド因子37 陰性関節炎が合併することがある.また,リウマトイド因子陰性関節炎という総称(乾癬性も含 まれる)に表れている通り,関節症性乾癬による脊椎関節症が強直性脊椎炎によく似た所見を示 すこともある.38 けれども,そもそも乾癬の 9 割は関節症状を伴わない皮疹のみの尋常性乾癬が占め,「合併症 として強直性脊椎炎が多い」という言い方は正確でない. 解答:d 18. 乾癬の治療に用いられないものはどれか,一つ選べ. a. 副腎皮質ステロイド軟膏 b. ビタミン D3 軟膏 c. エトレチナート内服 d. シクロスポリン軟膏 e. PUVA 32 写真を見ての通り所見が強いので,患者さんや周囲の方は伝う染つることを気にされる.感染性の疾患ではなく伝染らないこと の説明が欠かせない. 33 局在性膿疱性乾癬もあり,その場合は治療は尋常性乾癬に準じる. 34 小児,若年者で,上気道の連鎖球菌感染症に続発して小型の乾癬皮疹がほぼ全身に急性に生じるのを特徴とする.2~3 か月 の自然経過で治癒することが多いが,中には通常の乾癬に移行するものもある. 35 もっとも,Cw6 以外にも Cw7,Cw1-Bw46 も有意差を示し,Cw6 が原因なのではなく C 遺伝子座近傍に乾癬関連遺伝子が あることが関連の背景と考えられている. 36 他には,稽留性肢端皮膚炎,疱疹状膿痂疹,ライター症候群,急性汎発性発疹性膿疱症などがある. 37 なお,関節症性乾癬は原則としてリウマトイド因子陰性であり,陽性の場合は関節リウマチの合併を疑う. 38 ただし,強直性脊椎炎では脊椎関節症がほぼ必発であるのに対し乾癬性関節炎ではわずか 20%であること,また,強直性脊 椎炎では90%が HLA-B27 陽性であるが乾癬は関連がないことなどから,疾患としては別物である.
16
解説:
前問でみた乾癬に対する根治療法は存在しないので,対症療法を行う.
まず皮膚症状に対して,活性型ビタミンD3 製剤(a)を用いる(難治性病変や,かゆみを伴う病 変には,症状,部位に応じてステロイド(b)を併用する).外用療法にて改善が得られない症例, 広範な皮膚病変を認める症例では,PUVA 療法39(e),ナローバンド UVB などの紫外線療法も併
用する. 内服薬としては,かゆみに対して対症的に抗アレルギー薬,外用治療に抵抗する難治例,重症 例ではシクロスポリン(ネオーラル®)内服,エトレチナート40(c),メトトレキサート(リウマト レックス®)が用いられてきたが,近年,抗 TNF 抗体41,抗IL-12/23 p40 抗体(ウステキヌマ ブ)など,サイトカインをターゲットとした治療法が難治例に著効するケースがあり期待されて いる. 一方,d.のシクロスポリン軟・膏・は乾癬に対して外用で局所的に使用しても効果がなかったとす る報告が軟膏自体が試験使用中の頃から相次ぎ,用いられていない. 解答:d 19. 胸鎖関節炎を合併しやすい疾患はどれか,一つ選べ. a. 線状皮膚炎 b. 扁平苔癬 c. 掌蹠膿疱症 d. ヘイリー・ヘイリー病 e. 膿疱性乾癬 解説: 胸鎖関節の炎症性疾患としては,胸肋鎖骨肥厚症(多巣性骨髄炎による骨増殖症)が多く,そ の他に変形性関節症,関節リウマチ,化膿性関節炎を鑑別に考える. a. 線状皮膚炎は梅雨から夏に発生するアオバアリガタハネカクシというアリに似た昆虫の毒液 による接触皮膚炎で,毒液に触れた皮膚にそう痒,灼熱感,疼痛を伴う線状の皮膚炎を生じる. b. 扁平苔癬は痒みを伴う径数 mm 大の紫紅色-紅褐色の扁平隆起性丘疹が手背,亀頭,口腔粘膜, 爪甲に散在性,時に融合あるいは環状を呈して出現する疾患である.ウイルス,薬剤,接触抗原 などが表皮で抗原として提示され,これを認識する T 細胞が産生され発症すると考えられ,ス テロイド外用・内服で治療する. c. 掌しょう蹠せき膿疱症は手掌と足底に無菌性膿疱を生 じ(右写真),増悪と軽快を繰り返して慢性に 経過する疾患で,病巣感染や金属アレルギー が誘因で生じているケースでは原因金属の除 去を含め歯科治療で軽快することがあるので 39 光感作物質であるソラレンと長波長紫外線(UVA)を用いる治療法である.紫外線療法には他に,311±2nm 領域の中波長 紫外線(UVB)によるナローバンド UVB 療法がある. 40 エトレチナートは汎発性膿疱性乾癬に対しては第一選択になる薬だが,催奇形性があるので妊婦,妊娠の可能性のある女性 には禁忌,内服中止後女性は2 年,男性は 6 か月の避妊が必要である. 41 インフリキシマブ(レミケード®)やアダリムマブ(ヒュミラ®)があり,関節リウマチの治療に革命をもたらしたことは周 知だが,他にもこの乾癬やベーチェット病,クローン病,川崎病といった免疫異常が病態に関与する疾患の治療に応用されてい る.
17 歯性病巣感染症としてよく知られる. 乾癬に似た鱗屑をつける紅斑局面が四肢にみられたり,爪の小陥凹,混濁,肥厚がみられるこ とがあることから,本症を膿疱性乾癬の手掌・足底限局型とする考えがある.また,本問で題材 となったように,しばしば胸肋鎖骨肥厚症を合併して前胸部痛を訴える. d. ヘイリー‐ヘイリー病は,思春期以後に腋窩,鼠径部などの間擦部位を中心に環状の小水疱, 膿疱,びらん性紅斑局面を生じる優性遺伝性疾患である.角化細胞内のゴルジ装置のカルシウム ポンプ蛋白の遺伝子ATP2C1 の異常で生じる,表皮細胞間接着異常が原因である42. e. 膿疱性乾癬は既に見たとおりで,乾癬の病型の一つで汎発型では全身性の紅斑の上に無数の膿 疱(Kogoj 海綿状膿疱)をきたす.強直性脊椎炎を含むリウマトイド因子陰性関節炎を合併する こともあるが胸鎖関節炎が特徴的に見られるものではない. 解答:c 20. 尋常性天疱瘡と最も関連の深いものを一つ選べ. a. 口腔粘膜病変 b. 表皮下水疱 c. 基底膜部の IgG の沈着 d. ヘミデスモゾーム e. ケラチン遺伝子の異常 解説: 天疱瘡は,表皮細胞膜表面蛋白に対する IgG 自己抗 体により表皮内・水疱形成が誘導される自己免疫性水疱 性疾患である.自己抗体の標的は細胞間接着装置である デスモソームの構成膜蛋白であるデスモグレイン(Dsg) である. 天疱瘡は臨床型から尋常性天疱瘡と落葉状天疱瘡に 大別される.尋常性天疱瘡はさらに,粘膜優位型(疼痛 を伴う難治性のびらん,潰瘍の口腔所見(a)は右写真上) (抗Dsg3 IgG)と皮膚にも症状の出る粘膜皮膚型(皮 膚所見は右写真下)(抗Dsg3 IgG+抗 Dsg1 IgG)に分 けられる.落葉状天疱瘡(抗Dsg1 IgG)は粘膜症状が なく,頭部,顔面,胸,背などのいわゆる脂漏部位に薄 い鱗屑,痂皮を伴った紅斑,水疱をみる. 天疱瘡で侵される細胞間接着装置であるデスモソーム に対して,上皮細胞と基底膜やその下部の結合組織との 機械的な結合装置がヘミデスモソーム(d)であった.こ のヘミデスモソームの構成蛋白である180kD 類天疱瘡 抗原を標的にする自己抗体が生じ,その存在部位である 基底膜部に沈着を認める(c)のは水疱性類天疱瘡である. 42 この結果,まるで天疱瘡のように表皮基底層直上に棘融解性裂隙を認めるが,抗表皮細胞膜自己抗体(天疱瘡抗体)は検出 されない.
18 類天疱瘡では大小の緊満性の水疱(左写真 の左下)を全身の皮膚や口腔粘膜に形成し, 病理組織学的に表皮下基底膜直上に裂隙 (左写真中矢印)を生じる―基底膜より上 の構造は残っているので緊満に耐える. これに対し,天疱瘡では容易に破れる弛緩 性の水疱でびらんが主体であり,病理組織 学的に表皮内・での棘融解(細胞間の接着離 開)形成を認める.表皮下水疱(b)ではなく 表皮内水疱である. 抗体の標的部位を症状の上でも病理像の上でも自然な予想通りに反映していると言える. 以上の通りで,天疱瘡は(類天疱瘡も)自己抗体による疾患であり,e.のケラチン遺伝子の異 常による疾患ではない. 解答:a 21. 類天疱瘡と最も関連の深いものを一つ選べ. a. デスモグレイン 1 b. デスモグレイン 3 c. デスモゾーム d. 高齢者に多い e. 棘融解性水疱 解説: 「関連の深いものを一つ選べ」ということは残りは関連が浅いということで,選択肢は一つを除 いてすっかり天疱瘡のキーワードとなっている(前問では逆にb~d が類天疱瘡のキーワードだっ たように双方の鑑別が問われやすい). 天疱瘡で生じる自己抗体の標的が細胞間接着 装置であるデスモゾーム(c)のタンパク,デスモ グレイン1(a)とデスモグレイン 3(b)であり,こ のために表皮内の角化細胞間の接着性が失われ (棘融解),水疱内に遊離した有棘細胞を認める 棘融解性水疱(e)(右写真)を生じる.写真中に ある“層の裂け目”位置の類天疱瘡の場合(ペ ージ上写真)との違いを目に焼き付けよう. 天疱瘡では一見正常な部位も抗体でやられて いることに変わりがないので,圧力をかけると表皮が剥離してびらんを呈し,Nikolskyニ コ ル ス キ ー現象と呼 ばれる. さて,話を類天疱瘡に戻すと,類天疱瘡の臨床病型は極めて多彩ながら(妊娠性疱疹,瘢痕性 類天疱瘡 etc...),その中で一番多く,それのみならず自己免疫性水疱症のなかでは最も頻度が高 く,代表格と言える水疱性類天疱瘡について言えば,特に高齢者に多く発症する(d). 類天疱瘡も天疱瘡もステロイドにより治療するが,類天疱瘡は天疱瘡に比べると治療に対する 反応性はよい.
19 解答:d 22. ケラチン遺伝子の点突然変異が原因で発症すると考えられている疾患はどれか,一つ選べ. a. 水疱型魚鱗癬様紅皮症 b. ダリエー病 c. 伴性劣性魚鱗癬 d. 尋常性魚鱗癬 e. 汗孔角化症 解説: 選択肢に「魚鱗癬」という言葉が目立つが,その魚鱗癬とは, 角化の障害の結果,広範囲の皮膚が魚のウロコ様の外観(いわ ゆるサメ肌)を呈する状態である. 角化とは基底細胞層で分裂した表皮細胞が角質細胞になる過 程のことで,ケラチン線維,ケラトヒアリン顆粒,層板顆粒と いった構成要素が秩序立って発現する.逆にこれらに異常があ れば角化異常が生じるので,その一つである魚鱗癬とケラチン 遺伝子の異常が結び付いているケースがあるのは半ば当然のこ とである. そのケラチン線維の異常としては,単純型先天性表皮水疱症 (ケブネル症候群)(ケラチン5 ないし 14 の遺伝子異常),水疱 型魚鱗癬様紅皮症(a)(ケラチン 1 または 10 の遺伝子異常)(重症魚鱗癬の一例として上写真)が ある.ケラトヒアリン顆粒の減少が見られる尋常性魚鱗癬(d)はフィラグリン遺伝子の変異による 43.また,道化師様魚鱗癬の原因異常は層板顆粒のlipid transporter(ABCA12)にあることが同 定されている. 伴性遺伝性魚鱗癬(c)(通常男児にのみ生じる)の原因はステロイ ドスルファターゼ欠損(軽症魚鱗癬の一例として左写真44),非水疱 型魚鱗癬様紅皮症と葉状魚鱗癬はトランスグルタミナーゼ 1 欠損に よる. b.のDarierダ リ エ ー病は細胞内カルシウムポンプの異常(カルシウム ATP アーゼの遺伝子の一つであるSERCA2 をコードする ATP2A2 の遺伝 子変異)によるが,魚鱗癬ではなく,頭部,前胸部,背部,腋窩,鼠 径部など脂漏部位を中心に硬い角化物をつけた疣状の小結節が集簇 して多発するものである. e.の汗孔角化症も,常染色体優性遺伝性の,汗孔を中心にした角化異 常を示す疾患である.辺縁の堤防状に隆起した部分にcornoidコ ー ノ イ ド lamellaラ メ ラ といわれる限局した異常角化を認める皮疹(右写真)がみられる. 解答:a 43 尋常性魚鱗癬はフィラグリン遺伝子の変異によるが,この変異はアトピー性皮膚炎の重要な発症準備因子であり,実際,尋 常性魚鱗癬とアトピー性皮膚炎は合併して生じる. 44 この伴性遺伝性魚鱗癬と尋常性魚鱗癬は比較的よくみられ,どちらも似たような所見だが,尋常性魚鱗癬の方が色が薄く, 亀甲が小さい.なお,これら以外の魚鱗癬を示す疾患は頻度としてはまれである.
20 23. 誤った組み合わせはどれか,一つ選べ. a. LDL レセプター欠損 ― 腱黄色腫 b. ‐ガラクトシダーゼ A 欠損 ― ファブリー病 c. 亜鉛欠乏 ― 腸性肢端皮膚炎 d. ステロイドサルファターゼ欠損― 伴性遺伝性魚鱗癬 e. スフィンゴミエリナーゼ欠損 ― レックリングハウゼン病 解説: a. 正しい. 腱黄色腫はアキレス腱,手足ないし膝の腱がコレステロールによって棍棒状に肥厚するもので ある.皮膚は外見上黄色は示さない.種々の原因45によるⅡ型高リポタンパク血症(LDL,VLDL が増加)や家族性高コレステロール血症に特徴的である. うち,家族性高コレステロール血症は,LDL 受容体の欠損(ホモ接合体)または半欠損(ヘテ ロ接合体)によるから,組み合わせは正しい. b. 正しい. Fabryフ ァ ブ リ ー病は伴性劣性遺伝する脂質蓄積症の一種で,皮膚,心血管系46,腎,眼球などにPAS 陽 性物質であるセラミドトリヘキソシドが蓄積するものである.糖脂質の -ガラクトシル結合を加 水分解する働きのある -ガラクトシダーゼ A の欠損により生じる. 皮疹は 10 歳以下の早期から出現する点状の黒色ないし暗赤色の発疹で,殿部,臍部,背部, 陰嚢などに好発し左右対称である. 欠損酵素である -ガラクトシダーゼ A を補う酵素補充療法を行う. c. 正しい.腸性肢端皮膚炎は,常染色体劣性遺伝性に消化管からの亜鉛の吸収障害に基づく亜鉛 欠乏症が生じるもので,症状としては後天的な亜鉛欠乏症47と同じく,眼瞼,口囲,鼻孔,耳周 囲,肛門部などの開口部および四肢末端に,境界明瞭で,ときに水疱,びらん,痂皮を伴う皮膚 炎をみる. d. 正しい.伴性遺伝生魚鱗癬は前問で扱った.ステロイドスルファターゼの欠損による. e. 誤りである. 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症はすなわちNiemannニ ー マ ン-Pickピ ッ ク病A 型と B 型であり,網内系の 組織にさまざまな程度のスフィンゴミエリン,コレステロール,糖脂質などが蓄積する疾患であ る.酵素活性が5%以下だと重度の肝脾腫,リンパ節腫大,哺乳障害,精神発達遅滞,けいれん などを示し,通常5 歳までに死亡する A 型となる.B 型は幼児期に肝脾腫で気づかれることが 多く,症例によりばらつきがあるが,神経症状として精神発達遅滞,失調を呈する. 一方,(vonフ ォ ン・)Recklinghausenレ ッ ク リ ン グ ハ ウ ゼ ン病は神経線維腫症Ⅰ型のことで,その原因遺伝子は17 番染色 体に位置し,Ras タンパクを負に制御して癌抑制機能を有する遺伝子産物ニューロフィブロミン をコードするNF1 である. 45 甲状腺機能低下症,ネフローゼ症候群,急性間欠性ポルフィリン血症,閉塞性肝疾患,マクログロブリン血症,などが基礎 疾患となりうる. 46 全身症状を欠き,心筋肥大のみを示す亜型である心 Fabry 病が存在し,特定心筋症(原因または全身性疾患との関連が明ら かな心筋疾患)の一つである. 47 高カロリー輸液,低亜鉛ミルク・低亜鉛の母乳,吸収不全,肝障害などにより生じる.
21 神経線維腫症Ⅰ型の主な症状は,皮膚のカフェオレ 斑(斑の最大径が思春期前では5mm,思春期以降で は15mm を超えるものが 6 個以上)と皮膚の神経線 維腫48(2 つ以上の神経線維腫または 1 つの叢状神経 線維腫)であり,いずれにも増大・増加傾向を認め る. 左の症例写真では,カフェオレ斑(図中矢印)とと もに小豆大以下の色素斑である小レックリングハウ ゼン斑も認められている. 解答:e 24. 自然消退傾向を示さないものを一つ選べ. a. 蒙古斑 b. サーモンパッチ c. 太田母斑 d. 苺状血管腫 e. black heel 解説: a. 蒙古斑は胎児期の真皮メラノサイトが出生後も残存するもので,有色人種にはほぼ 100%認め られる. 乳幼児の特に尾仙骨部や下背などの体幹背側面にみられる青色斑を通常型蒙古斑と呼び,これ に対して四肢末梢,顔面,体幹腹側面などに生じるものは異所性蒙古斑と呼ぶ. 生後 2 歳頃までは青色調は増加するが,その後退色し始め,10 歳ごろまでには一般に消失する. 異所性蒙古斑は退色が遅れる傾向があり,成人になっても残るような持続性蒙古斑にはレーザー 治療の適応がある. b. サーモンパッチは前額部,眉間部などの顔面正中部に生じる49, 境界のやや不鮮明な淡紅色~紫紅色の斑である.新生児の 2,3 割にみられるとされるが,その大半は2 年以内に消失する. c. 太田母斑は,女性に多い,顔面の三叉神経第一~二枝領域を中 心にみられる通常は片側性の青色斑である(症例写真は右).皮 膚のみならず眼(眼球メラノーシス),鼓膜,鼻粘膜,咽頭後壁, 口蓋などにも色素斑がみられることがある.自然消退せず,むし ろ漸次濃度が増して明瞭化していくので,皮膚の色素斑について はレーザー治療を行う. d. 苺状血管腫はおおむね生後 1 週間ぐらいでわずかな紅斑として発症後,生後 3~4 か月ごろま で色調の増強,拡大,隆起などが続き(症例写真は次ページ冒頭左),1 歳過ぎごろから自然消 退傾向を示す.生後1 か月以内で色素レーザー照射を開始すると色調,増殖の抑制が期待でき, 遅れて開始した場合でも自然消失までの期間の短縮が期待できる.このため,視野にかかってい 48 末梢神経や脊髄神経根の,神経内膜や上膜を形成する線維芽細胞や神経周膜を形成する神経周膜細胞から発生する腫瘍のこ とをいう. 49 項部や後頭部の紅斑は新生児の 80%以上にみられ,Unnaウ ン ナ母斑と呼ばれる.自然消退傾向を有するが,約半数は終生残存す る.
22 て視性刺激遮断弱視の原因になるような以前からの積極治 療対象でなくとも,積極的に治療するようになっている. e. Black heel は激しい運動をする思春期男子にみられる,踵の 底部または縁にみられる小黒色斑で,角層内への出血である から自然に治癒する. これ自体は他愛も無いものだが,足底はメラノーマの好発部 位であるため,これとの鑑別が問題となるので所見として取 り上げられている.メラノーマのような辺縁や濃淡の不整は みられない. 解答:c 25. 4 歳女児.鼻部,頬部を中心に融合傾向のない蝋(ろう)様小結節を多数認める.てんかんの ため治療中である.最も考えられる疾患を一つ選べ. a. 結節性硬化症 b. 基底細胞母斑症候群 c. 色素失調症 d. スタージ・ウェーバー症候群 e. カサバッハ・メリット症候群 解説: 皮膚症状と神経症状を同時に認めていることから,神経皮膚症候群に属する一連の疾患が疑わ れる. a. 結節性硬化症(Bournevilleブ ル ヌ ヴ ィ ー ユ-Pringleプ リ ン グ ル病)は,てんかん,知能低下,顔面脂腺腫(問題文の言う 蝋様小結節だが,融合傾向を示すこともある)を古典的三主徴とする神経皮膚症候群で,tuberin (Rap1-GAP 機能により癌抑制遺伝子として働く)をコードする TSC2 か,tuberin と協働して 癌抑制に働くとされるhamartin をコードする TSC1 の異常が原因である.腎血管筋脂肪腫や肺 リンパ脈管筋腫症(LAMラ ム, Lymphangioleiomyomatosis)50を合併しうる. b. 基底細胞母斑症候群は種々の外・中胚葉器官の異常をきたす常染色体優性遺伝性症候群で,多 発性基底細胞癌(基底細胞癌の所見は右写真)51,エナメ ル上皮腫52,掌蹠の小陥凹などの皮膚症状や種々な骨の異 常などが出現する.脳腫瘍,脳膜石灰化がみられることも ある. 原因遺伝子は 9 番染色体の遺伝子,シグナル伝達物質 sonic hedghog の 膜 レ セ プ タ ー PTCH2 を コ ー ド す る patched であることがわかっている.この遺伝子の変異は 孤発性の基底細胞癌でもみられる.
50 LAM は言わば“非喫煙の若年女性に生じる COPD”で,異常増殖した LAM 細胞が肺の肺胞壁,細気管支を侵し,多数の嚢
胞を形成して,重症例では呼吸不全となる病態である.原因遺伝子が結節性硬化症と同じTSC であり,孤発性にも生じるが, 結節性硬化症の成人女性の3,4 割に合併して発症する. 51 高齢者に発生頻度が高く,全領域の悪性腫瘍の中で最も多い腫瘍である.局所破壊性が強いが,転移能は極めて低い.外見 上は,表面平滑で,半透明の膜で被われたような光沢感がある.蛇行状に走行する毛細血管拡張も特徴である.組織学的には, 表皮・皮膚付属器の基底細胞に類似するが,毛包由来の癌と言われている. 52 下顎臼歯部から角部に,発育緩慢な,多胞性,時に単胞性の骨吸収像を示す胞巣を作るエナメル上皮由来の腫瘍である.