岡 山 医 誌 (1993) 105, 353∼364
肺癌 の び まん性 肺線維 化病態 に関す る研 究
第2編
肺 癌 に お け る 末 梢 血 イ ン タ ー ロ イ キ ン2レ
セ プ タ ー の 検 討
岡 山大学 医学 部 第二 内科学 教 室(指 導:木 村郁 郎教授)
柴
山
卓
夫
(平成5年1月13日
受稿)
Key words: Lung cancer, Soluble interleukin-2 receptor, Interleukin-2 receptor positive lymphocyte, Response to recombinant human interleukin-2,
Interstitial pneumonia 緒 言 Interleukin-2 (IL-2)は リン パ 球 の 分 化,活 性 化 に お い て 中 心 的 な役 割 を担 っ て い るサ イ ト カ イ ン で あ り1),細 胞 表 面 上 に 存 在 す るIL-2 receptor (IL-2R)を 介 し て そ の 機 能 を発 揮 す る こ とが 知 られ て い る2).この レセ プ ター に は 抗Tac 抗 体 で 認 識 さ れ るIL-2Rα chain (IL-2Rα)3) と後 に 報 告 さ れ たIL-2Rβ chain (IL-2Rβ)4) が あ り,さ ら に,IL-2Rα の 一 部 は 可 溶 型IL-2R (soluble IL-型IL-2R: sIL-2R)と して 存 在 す る こ とが 知 ら れ て い る5).こ れ ま で に 成 人T細 胞 白 血 病(ATL),悪 性 リ ンパ 腫 な ど種 々 の 悪 性 腫 瘍 患 者 に お い て 血 清 中sIL-2Rの 高 値 が 報 告 さ れ て お り,宿 主 免 疫 能 との 関 わ りが 検 討 さ れ て い る6).一 方,特 発 性 間 質 性 肺 炎(Idiopathic inter stitial pneumonia: IIP)7)8),サ ル コ イ ドー シ
ス9)10)や膠 原 病 肺7)11)などの 間 質 性 肺 疾 患 に お い て の 高 値 も報 告 さ れ て い る.第1編 で 述 べ た 如 く,肺 癌 患 者 にIIP様 の び ま ん 性 間 質 性 陰 影 が 多 く認 め られ,肺 癌 の 発 生 との 関 連 が 示 唆 さ れ て お り,木 村12)は こ の よ うな び ま ん性 間 質 性 陰 影 を伴 う肺 癌 症 例 の 肺 局 所 リ ン パ 球 にIL-2Rα mRNAの 過 剰 発 現 を認 め,び まん 性 間 質 性 陰 影 の 形 成 の 原 因 の 一 つ と して い る.今 回著 者 は 肺 癌 患 者 の 血 清 中sIL-2R,末 梢 血 単 核 球 の
recomobinant human IL-2 (rhIL-2)反 応 能, IL-2Rを 含 め た リンパ 球 表 面 マ ー カー を測 定 し, 肺 癌 に お け るIL-2/IL-2R系 を介 す る宿 主 免 疫 能 を検 討 す る と と もに び ま ん 性 間 質 性 陰 影 との 関 連 に つ い て も解 析 を加 え た. 対 象 対 象 は 病 理 組 織 学 的 に 診 断 さ れ た未 治 療 肺 癌 患 者101例 で あ る(Table 1).男 性84例,女 性17 例 で,年 齢 は25歳 か ら83歳,中 央 値64歳 で あ っ
Table 1 Characteristics of patients
た.組 織 型 は 扁 平 上 皮 癌22例,腺 癌33例,大 細 胞 癌10例,小 細 胞 癌36例 で あ り,病 期 は Ⅰ期10 例,Ⅱ 期5例,Ⅲ 期46例,Ⅳ 期40例 で あ っ た. ま た 対 照 と し て 健 康 人28例(男 性21例,女 性7 例,年 齢 は24歳 か ら76歳,中 央 値49歳)に つ い て も 検 討 を 行 っ た. 方 法 1. 血 清sIL-2Rの 測 定 sIL-2RはCELL-FREE L-2レ セ プ タ ー キ ッ ト(T-cell Science)を 用 い,ELISA法 に て 測 定 し た.す な わ ち,マ ウ ス 抗IL-2R抗 体(抗 Tac抗 体)で コ ー テ ィ ン グ し た マ イ ク ロ ブ レ ー ト に 被 検 血 清 あ る い は 標 準 溶 液 を 分 注 し,ペ ル オ キ シ ダ ー ゼ 標 識 マ ウ ス 抗IL-2R抗 体 を 添 加 後, 37℃ で2時 間 反 応 さ せ た.o-phenylene diamine を 添 加 後,492nmで 吸 光 度 を 測 定 し,標 準 溶 液 を 用 い て 作 成 し た 標 準 曲 線 よ り被 検 血 清 のsIL -2R濃 度 を 求 め た . 2. 末 梢 血 単 核 球 のrhIL-2反 応 能 の 測 定11) ヘ パ リ ン 加 末 梢 血10mlを 等 量 の 生 理 食 塩 水 と 混 和 し,Histopaque 1077 (Sigma)用 い た 比 重 遠 沈 分 離 法(450g, 30分)に よ り 単 核 球 層 を 分 離 し,1%fetal calf serum (FCS)加RPMI 1640に て1×106/mlに 調 整 後,96穴 マ イ ク ロ プ レ ー ト(Coster)に100μlず つ 分 注 し た.さ ら に1%FCS加RPMI 1640に て200U/mlに 調 製 し たrhIL-2(シ オ ノ ギS-6820)を100μlず つ 添 加 し,37℃ で24時 間 培 養 し た.0.2μCi/well (7.4kBq/well)の3H-Thymidine (3H-TdR) を 加 え,24時 間 培 養 後 β 線 量 を 測 定 し,IL-2非 添 加 対 照 と の 比 を 求 めStimulation Index (S.I.) と し た.
3. フ ロ ー サ イ ト メ ト リ ー に よ る リ ン パ 球 表 面 IL-2Rと リ ン パ 球 サ ブ セ ッ トの 解 析 EDTA-2Na加 末 梢 血3mlをlysing solution (半 井)に て 溶 血 後,0.1% sodium azideと0.1 % bovine serum albuminを 加 え た リ ン 酸 緩 衝 液(PBA) 1.5mlに 浮 遊 さ せ,100μlず つ 分 注 後 単 ク ロ ー ン 抗 体20μlを 加 え て,4℃ に て30分 間 反 応 さ せ た.単 ク ロ ー ン 抗 体 と し て は,Simu ltest Leuco GATE (FITC標 識 抗HLe-1+
Phycoerythrin: PE標 識 抗Leu-M3, Becton
Dickinson Immunocytometry Systems), Con trol (FITC標 識 抗IgG1+PE標 識 抗IgG 2a, Becton Dickinson Immunocytometry Sys
tems), T/B細 胞 テ ス ト(FITC標 識 抗Leu-4: CD3+PE標 識 抗Leu-12: CD19, Becton Dickinson Immunocytometry Systems),
FITC標 識 抗Leu-4: CD3+PE標 識 抗HLA-DR (Becton Dickinson Immunocytometry Systems), TH/TSテ ス ト(FITC標 識 抗Leu
-3a: CD4+PE標 識 抗Leu-2a: CD8 , Becton Dickinson Immunocytometry Sys tems), FITC標 識 抗Leu-7: CD57 (Becton Dickinson Immunocytometry Systems), PE
標 識 抗Leu-11c: CD16 (Becton Dickinson Immunocytometry Systems),な ら び にFITC 標 識 抗IL-2レ セ プ タ ー: CD25 (Becton Dick inson Immunocytometry Systems), PE標 識 抗Leu-3a: CD4 (Becton Dickinson Im munocytometry Systems)を 使 用 し た.反 応 終
Table 2 Characteristics of interstitial shadows on chest X-ray films
*: Pattern of shadow was assessed accord
ing to the classification
of interstitial
shadows by Dr. Nobechi. Some patients
showed two or three patterns
of inter
stitial shadows, which were totaled sepa
rately.
**:
Lung field was separated into three parts,
1/3; one-third of total lung field from the
bottom,
2/3; two-thirds, and 3/3; total
肺 癌 に お け る イ ン タ ロ イ キ シ ン2レ セ プ ター の 検 討355 了 後2回 洗 浄 し,250μlのPBAに 浮 遊 させ,
FACS can (Becton Dickinson)を 用 い,2-color analysis法 に て 解 析 し た. 4. び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 解 析 第1編 に 述 べ た 如 く,び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 評 価 は 胸 部 単 純X線 写 真 を用 い,厚 生 省 間 質 性 肺 疾 患 調 査 研 究 班 の 野 辺 地 分 類13)に従 い,Ⅰ. 粒 状 影(微 細 粒 状 及 び 小 粒 状,粗 大 粒 状,雲 紫 状),Ⅱ.粒 状 輪 状 影(粒 状 網 状),Ⅲ.多 発 輪 状 影(小 輪 状,粗 大 輪 状),Ⅳ.肺 野 の 縮 少 (横 隔 膜 挙 上,葉 間 の 変 位)に 区分 し,陰 影 の 広 が り に つ い て は 下 肺 野 の み1/3,下 肺 野 中 肺 野 2/3,全 肺 野3/3と して3段 階 に 区分 した. 結 果 1. 肺 癌 症 例 に 随 伴 す る び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 検 討 野 辺 地 分 類 に 基 づ い て び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 性 状 お よ び 広 が り をTable 2に 示 す.対 象 と し た 肺 癌 症 例101例 中 び まん 性 間 質 性 陰 影 は随 伴 群 (LC+IP群)46例,非 随 伴 群(LC群)51例, 評 価 不 能4例 で あ っ た.陰 影 の 性 状 分 類 に つ い て は,同 一 症 例 に お い て 複 数 の 陰 影 が しば しば 認 め ら れ,陰 影 の 頻 度 は 重 複 し た 数 字 に な っ て い る.陰 影 の 性 状 はI.粒 状 影7例,II.粒 状 輪 状 影45例,III.多 発 輪 状 影16例,IV.肺 野 の 縮 小4例 で あ っ た.び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 広 が りは 陰 影 の 性 状 に 関 わ り な く最 も広 い も の を 取 り上 げ 検 討 し た.下 か ら1/3ま で が8例,2/3 ま で が29例,3/3ま で は9例 で あ っ た. 2. 肺 癌 患 者 に お け る 血 清sIL-2R値,末 梢 血 単 核 球 のrhIL-2反 応 能,末 梢 血CD25陽 性 リン パ 球,お よ び 各 種 リン パ 球 サ ブ セ ッ トの 検 討. 肺 癌 患 者101例 の う ち血 清slL-2R値 は101例 全 例 で,末 梢 血 単 核 球 のrhIL-2反 応 能 は24例, リ ンパ 球 表 面 マ ー カ ー は55例 で 測 定 可 能 で あ っ た(Table 3).肺 癌 患 者 のsIL-2R値 は,686± 383IU/mlと,健 康 人 対 照 の381±129IU/mlに 比 べ 有 意 に 高 値(p<0.01)で あ っ た が,末 梢 血 単 核 球 のrhIL-2反 応 能 は 肺 癌 患 者 でS. I. 2.7±1.3と 健 康 人 対 照 のS. I. 2.9±1.4に 比 べ や や 低 値 の 傾 向 で あ っ た.末 梢 血 中 のIL-2R陽 性 リ ン パ 球 で あ るCD25陽 性 リン パ 球 比 率 も 21.7±9.1%と 健 康 人 対 照 の18.0±5.0%に 比 べ 有 意 に 高 値(p<0 .05)で あ り,CD25陽 性 リ
Table 3 Comparison of serum sIL-2R, response of monouclear cells to rhIL-2, percentage of CD25 - positive lymphocytes and lymphocyte surface marker in patients with lung cancer and healthy controls
ンパ 球 の うち で はCD4陽 性 リ ンパ 球 の み が 有 意 に 増 加 し て い た(p<0.05) .一 方,Bリ ン パ 球 で あ るCD19陽 性 リ ンパ 球 は9.9±5.0%と 健 康 人 対 照 の12.9±5.0%に 比 べ 有 意 に 低 く(p< 0.05),逆 にNK活 性 の 指 標 と な るCD16お よ びCD57陽 性 リ ン パ 球 は35.5±10.4%と 健 康 人 対 照 の29.3±9.6%に 対 し有 意 に 高 値(p<0.05) で あ っ た.CD3, CD4, CD8, CD3+HLA
Table 4 Comparison of serum sIL-2R, response of mononuclear cells to rhIL-2, percentage of CD25 - positive lymphocytes and lymphocyte surface marker in patients with lung cancer, according to clinical stage
*: Numbers in parentheses represent number of patients. **: p<0.01 compared to stage I
Table 5 Comparison of serum sIL-2R, response of mononuclear cells to rhIL-2, percentage of CD25 - positive lymphocytes and lymphocyte surface marker in patients with lung cancer, according
to histology
肺 癌 に お け る イ ン タ ロ イ キ シ ン2レ セ プ タ ー の 検 討357 -DRな ど に 陽 性 の リン パ 球,CD4/CD8比 に は 差 を認 め な か っ た. 3. 臨 床 病 期 別 の 検 討 Table 4に 示 す ご と く,血 清sIL-2R値 は Ⅰ 期539±222U/ml,Ⅱ 期685±398U/ml,Ⅲ 期 686±354U/ml,Ⅳ 期723±443U/mlで あ り,末 梢 血CD25陽 性 リ ン パ 球 比 率 は Ⅰ期16.4±5.6 %,Ⅱ 期21.2±5.2%,Ⅲ 期21.4±8.1%,Ⅳ 期 24.7±11.1%で あ っ た.従 っ て,病 期 の 進 展 と と もsIL-2RとCD25陽 性 リ ン パ 球 が 共 に 高 値 と な る 傾 向 で あ っ た.逆 に 末 梢 血 単 核 球 のrhIL-2反 応 能 は Ⅰお よ び Ⅱ 期S. I. 3.1±2.2,Ⅲ 期 S. I. 2.7±1.1,Ⅳ 期S. I. 2.9±1.3と 病 期 の 進 行 に 伴 い 低 下 す る 傾 向 を 認 め た.ま たCD16お よ びCD57陽 性 リ ン パ 球 に つ い て も Ⅰ期45.3± 12.9%,Ⅱ 期33.0±6.6%,Ⅲ 期32.7±9.4%, Ⅳ 期35.2±9.0%と 病 期 の 進 展 と と も に 低 値 と な り,Ⅲ 期,Ⅳ 期 で は Ⅰ期 に 比 し 有 意 に 低 値(p< 0.01)で あ っ た.し か し な が ら 他 の 表 面 マ ー カ
Fig. 1 Correlation between percentage of CD25 -positive lymphocytes and serum slL-2R in lung cancer. No significant correla
tion is observed.
Fig. 2 Correlation between percentage of CD25 -positive lymphocytes and responsive ness to IL-2 in lung cancer patients. No significant correlation is observed.
Fig. 3 Correlation between percentage of CD25
-positive lymphocytes and percentage of
CD16 and/or CD57-positive lymphocytes
in lung cancer patients. A statistically
significant
negative
correlation
(p<
0.01) is observed between percentage of
CD25-positive lymphocytes and percent
age
of CD16 and/or
CD57-positive
lymphocytes.
Table 6 Comparison of serum sIL-2R and percentage of CD25-positive lymphocytes in patients with lung cancer, according to interstitial shadow on chest X-ray films
LC: lung cancer patients without interstitial shadows on chest X-ray films. LC+IP: lung cancer patients with interstitial shadows on chest X-ray films.
*: Numbers in parentheses represent number of patients. **: p<0.01 compared to healthy control
ー に は 一 定 の 傾 向 を 認 め な か っ た, 4. 肺 癌 の 組 織 型 別 の 検 討 血 清sIL-2R値 とCD16お よびCD57陽 性 リ ン パ 球 は,非 小 細 胞 癌 が 小 細 胞 癌 よ り も高 値 を 呈 す る傾 向 を 認 め た(Table 5).し か し なが ら CD25陽 性 リ ン パ球,rhIL-2反 応 能 な ど そ の 他 の 検 討 項 目 は 組 織 型 との 関 連 を 認 め な か つ た.
Fig. 4 Serum levels of sIL-2R in lung cancer
patients with and without
interstitial
shadows (IP) on chest X-ray films, and
healthy controls. Patients with lung can
cer show a significantly higher serum
sIL-2R level. No significant difference is
seen between patients with and without
IP.
5. 肺 癌 に お け る 各 パ ラ メー ター 間 の 相 関 肺 癌 症 例 に お い て,血 清sIL-2R値,末 梢 血 単 核 球 のrhIL-2反 応 能,お よ び 末 梢 血CD25 陽 性 リン パ 球 につ い て 相 互 の 相 関 を検 討 し た. 血 清sIL-2R値 はCD25陽 性 リン パ 球 の 増 加 と は 相 関 せ ず(Fig. 1),ま たrhIL-2反 応 能 とCD 25リ ン パ 球 との 相 関 も認 め ら れ な か っ た(Fig. 2).し か し な が ら末 梢 血CD25陽 性 リ ンパ 球 と CD16お よ びCD57陽 性 リン パ 球 の 間 に はr= 0.456 (p<0.01)と 負 の 相 関 が 示 され た(Fig. 3). 6. 肺 癌 に 随 伴 す る び ま ん 性 間 質 性 陰 影 とIL-2Rの 検 討 1) び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 有 無 と の 関 連 (Table 6) 血 清sIL-2R値 はLC+IP群695±391U/ml, LC群681±390U/mlと 有 意 差 は な か つ た(Fig. 4).末 梢 血CD25陽 性 リ ン パ 球 比 率 はLC+IP 群22.9±12.1%, LC群20.0±6.1%で,LC+IP 群 が や や 高 値 で あ っ た が 有 意 差 は 認 め なか っ た. 2) び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 性 状 と の 関 連 (Table 7) 陰 影 の 性 状 分 類 につ い て は,同 一 症 例 に お い て 複 数 の 陰 影 が しば しば 認 め られ た た め,野 辺 地 分 類 に 従 っ て,胸 部X線 上 線 維 化 の 程 度 が 軽 微 で あ る Ⅰ.(粒 状 影),Ⅱ.(粒 状 輪 状 影)群 と, 明 らか な 線 維 化 病 変 と 認 め る Ⅲ.(多 発 輪 状 影), Ⅳ.(肺 野 の 縮 小)群 の2群 に分 け,血 清sIL-2R値,末 梢 血CD25陽 性 リ ン パ 球 比 率 に つ い て 比 較 検 討 した.血 清sIL-2R値 は Ⅰ,Ⅱ 群632±Table 7 Comparison of serum sIL-2R and percentage of CD25-positive lymphocytes in patients with lung cancer, according to pattern of interstitial shadows
IP: interstitial shadow on chest X-ray. The pattern of interstitial shadows was assessed according to the classification by Dr. Nobechi.
*: Numbers in parentheses represent number of patients.
肺 癌 に お け る イ ン タ ロ イ キ シ ン2レ セ プ ター の 検 討359 383U/ml, Ⅲ, Ⅳ 群815±391U/mlで あ り,線 維 化 の 進 行 し た Ⅲ, Ⅳ 群 で 高 値 の 傾 向 を 示 し た (Fig. 5).ま た 末 梢 血CD25陽 性 リ ン パ 球 比 率 は Ⅰ, Ⅱ 群28.2±10.3%, Ⅳ 群17.7±12.0%と, Ⅰ, Ⅱ 群 が 高 値 で あ っ た. 3) び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 分 布 と の 関 連 (Table 8) 肺 癌 に 随 伴 す る び まん 性 間 質 性 陰 影 を陰 影 の 性 状 に 関 りな く,最 も広 い 分 布 を 示 した 陰 影 を 下 よ り1/3ま で の 群(1/3群),2/3ま で の 群(2/ 3群),3/3ま で の 群(3/3群)に 分 類 し比 較 検 討 し た.血 清sIL-2R値 は1/3群591±252U/ml, 2/3群669±340U/ml, 3/3群875±594U/mlと,陰 影 の 広 が りに と も な い 高 値 を示 し た(Fig. 6). 一 方,末 梢 血CD25陽 性 リ ン パ 球 比 率 は1/3群
Fig. 5 Serum levels of sIL-2R in lung cancer patients in group I+II of interstitial
shadows, in group III+IV, and in healthy controls. Patients in group I+II show
a high serum sIL-2R level, furthermore patients in group III+IV show a higher
serum sIL-2R level.
Fig. 6 Serum levels of sIL-2R in lung cancer patients with varying distribution of
interstitial shadows and healthy control. Serum sIL-2R level increased according to distribution of the interstitial shadows.
Table 8 Comparison of serum sIL-2R and percentage of CD25-positive lymphocytes in patients with lung cancer, according to distribution of interstitial shadows
Distibution:
lung field was separated into three parts, 1/3; one-third of total lung field from the bottom,
2/3; two-thirds, 3/3; total lung field.
*: Numbers in parentheses represent number of patients.
29.9±12.1%, 2/3群19.5±9.5%, 3/3群25.3± 18.3%で あ り,一 定 の 傾 向 を認 め な か っ た . 考 察 癌 患 者 に お け るIL-2に つ い て は,リ ンパ 球 のIL-2産 生 能 の 低 下14),血 清 中IL-2抑 制 因 子 の 存 在 と リン パ 球 のrhIL-2に 対 す る 反 応 性 の 低 下15)な どが 既 に 認 め られ て お り,ま た ヒ ト肺 癌 細 胞 株 に よ るIL-2抑 制 因 子 の 産 生16),肺 小 細 胞 癌 患 者 に お け るIL-2産 生 能 の 低 下17)な ど が 報 告 さ れ る な ど,肺 癌 患 者 に お け るIL-2お よ びIL-2Rを 中 心 とす る免 疫 異 常 の 存 在 が 推 察 さ れ て い る. 血 清sIL-2Rは 成 人T細 胞 白 血 病(ATL), AIDS,サ ル コ イ ドー シ ス な どで 高 値 を示 し,そ の 活 動 性 の 指 標 と な る こ とが 報 告 され て い る9). ま た種 々 の 固 形 腫 瘍 や 肺 癌 患 者 に お い て もsIL -2Rの 血 清 中 高 値 が 報 告 され て い るが6),sIL-2 Rの 生 物 活 性 や 臨 床 的 意 義 に つ い て は,ほ とん ど解 明 さ れ て い な い.今 回 の 検 討 で は,肺 癌 患 者 で は 血 清sIL-2R値 が 有 意 に 増 加 して お り, しか も病 期 の 進 展 と と もに 上 昇 す る傾 向 が 認 め ら れ,肺 癌 患 者 の 免 疫 異 常 状 態 を 反 映 し て い る こ とが 推 察 さ れ た.Rubinら18)はsIL-2Rが 細 胞 表 面 のIL-2Rと 競 合 し,IL-2RとIL-2と の 結 合 を 阻 害 す る こ とに よ りIL-2依 存 性 細 胞 性 免 疫 反 応 をdown regulateし,過 剰 のsIL-2R が 免 疫 機 能 の 抑 制 を 示 す 可 能 性 を示 唆 して い る. 実 際 に,血 清sIL-2R値 と癌 組 織 周 囲 の 浸 潤IL -2R陽 性 リン パ 球 の 割 合 が 逆 相 関 す る19),血 清 中 のsIL-2Rが 高 値 の 癌 患 者 で は 血 清 中IL-2 が 低 値 で あ る20)などの 報 告 が あ る.今 回検 討 した, rhIL-2に 対 す る肺 癌 症 例 の 末 梢 血 リンパ 球 の 反 応 性 は,CD25陽 性 リ ン パ 球 の 増 加 に もか か わ ら ず 低 下 す る傾 向 を示 し,病 期 の 進 展 に と も な い 高 値 と な るsIL-2Rに 相 反 して,そ の 反 応 性 は 低 下 す る こ とが 示 され た.従 っ て,肺 癌 に お け る 免 疫 異 常 と して,血 清 中 高 値 とな るsIL-2Rに よ りIL-2依 存 性 リン パ 球 機 能 が 抑 制 さ れ て い る 可 能 性 が 示 され た. 一 方,リ ン パ 球 表 面 マ ー カ ー の 解 析 か ら は, 肺 癌 患 者 で は 健 康 人 に 比 べCD25陽 性 リ ンパ 球 やNK活 性 を 示 すCD16お よ びCD57陽 性 リ ン パ 球 の 有 意 の 増 加 は認 め られ たが,リ ン パ 球 の 活 性 化 を表 すHLA-DR陽 性 リン パ 球 やCD4/ CD8比 な ど に 変 動 は 認 め られ ず,逆 にCD19で 認 識 され るBリ ンパ 球 比 率 の 低 下 が 認 め られ た. し か も病 期 の 進 行 に伴 いCD25陽 性 リ ンパ 球 に は 増 加 傾 向 が 認 め ら れ た が,逆 に 増 加 し て い た NK活 性 を示 す リ ンパ 球 に は 有 意 な 減 少 が 認 め ら れ,こ の 両 者 間 に は 負 の相 関 が 示 さ れ た.IL -2Rに はIL-2Rα とIL-2Rβ が 存 在 し抗Tac 抗 体 で あ るCD25に て 認 識 さ れ る の はIL-2Rα の み で あ る.IL-2のaffinityは こ れ ち の レ セ プ
ター に よ っ て 異 な り,IL-2Rα とIL-2Rβ の 二 量 体 に お い てhigh affinityと な り5),IL-2の
シ グ ナ ル の 細 胞 内 へ の 伝 達 に はIL-2Rβ が 強 く 関 与 し て い る と報 告 さ れ て い る21).CD4陽 性 リ ンパ 球 の 活 性 化 状 態 に つ い て はIL-2Rβ の 発 現 に よ り把 握 さ れ る とさ れ て い るが22),今 回 は そ の あ た りの検 討 は 行 って い な い.そ こ で,増 加 し て い るCD25陽 性 リンパ 球 と そ の 活 性 化 に よ る IL-2の シ グ ナ ル 伝 達 の 状 態 を と ら え る た め に rhIL-2反 応 能 を 測 定 し た.肺 癌 症 例 に お け る 反 応 能 は 健 康 人 対 照 に 比 べ て,低 値 の 傾 向 で あ り, さ らに 病 期 の 進 行 に 伴 うrhIL-2反 応 能 の低 下 傾 向 が 認 め ら れ る な ど,CD25陽 性 リンパ 球 の 増 加 が 必 ず し も 反 映 さ れ る成 績 で は な か っ た.従 っ て,こ の 増 加 し て い るCD4陽 性,CD25陽 性 リン パ 球 で はIL-2の シ グ ナ ル 伝 達 が 正 常 に 行 わ れ て い な い と推 論 で き よ う.こ の こ と は既 に 報 告 の あ るIL-2産 生 能 の 低 下 と と も に17),オ ー トク ラ イ ンや パ ラ ク ラ イ ン に よ り分 化 増 殖 す るIL-2お よ びIL-2R系 の 異 常 の 存 在 を裏 付 け る もの で あ り,肺 癌 に お け る 細 胞 性 免 疫 能 異 常 の 一 因 とな っ て い る 可 能 性 が 推 察 さ れ た. 第1編 で 述 べ た 如 く,肺 癌 に は び ま ん 性 間 質 性 陰 影 が 比 較 的 高 率 に 認 め られ,こ れ ら の 線 維 化 病 態 と肺 癌 の 発 生 との 関 連 が 推 察 さ れ て い る. ま た,肺 癌 で 認 め られ る び ま ん 性 間 質 性 陰影 の 形 成 に は 肺 局 所 リ ン パ 球 に お け るIL-2Rα mRNAの 発 現 の 関 与 が 報 告 さ れ て い る12).そ こ で,肺 癌 に伴 う び ま ん 性 間 質 性 陰 影 とIL-2Rの 関 係 を検 討 した と こ ろ,血 清sIL-2R値 は び ま ん 性 間 質 性 陰 影 随 伴 群 で 非 随 伴 群 に 比 べ,や や 高 値 の 傾 向 を 示 した.さ らに,線 維 化 の 進 行 の
肺 癌 に お け る イ ン タ ロ イ キ シ ン2レ セ プ タ ー の 検 討361 強 い 群 で は 弱 い 群 に 比 べ て 高 値 で,ま た 陰 影 の 広 が り と共 に 高 値 と な る傾 向 が 示 さ れ た.IIPや 間 質 性 肺 病 変 を伴 う膠 原 病 に お い て も血 清sIL -2R値 は 高 値 で,血 清sIL-2R値 が 間 質 性 肺 病 変 の 活 動 性 を 示 して い る と の 報 告 もあ り7),肺癌 に お け る 血 清sIL-2R値 の 高 値 に こ れ ら び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 存 在 が 関 与 す る可 能 性 が 示 唆 さ れ た.し か し な が ら,肺 癌 に お い て は,病 期 の 進 展 に よ っ て も血 清sIL-2R値 が 高 値 とな る傾 向 を 認 め た た め,病 期 と陰 影 の 性 状 お よ び 広 が り との 関 連 を 検 討 した.そ の 成 績 で は 有 意 な 関 連 は 認 め ら れ ず,び ま ん 性 間 質 性 陰 影 随 伴 群 に お け る,血 清sIL-2R値 の 変 化 に は,び ま ん性 間 質 性 陰 影 の 性 状 お よ び 広 が りに よ る影 響 が 大 き く,病 期 の 影 響 は 乏 し い と考 え られ た.さ ら に,同 時 に 測 定 した 末 梢 血 中 リン パ 球 のIL-2R (CD25)は 血 清sIL-2R値 と は相 関 せ ず,び ま ん 性 間 質 性 陰 影 と の 関 係 も 認 め られ な か っ た. び まん 性 間 質 性 肺 病 変 局 所 リン パ球 に お け るIL -2Rα mRNAの 発 現 増 強 の 報 告 と も考 え併せ る と12),血 清 中 のsIL-2Rが 末 梢 血 中 の リ ンパ 球 よ りむ し ろ肺 病 変 局 所 で 産 生 さ れ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た. IL-2お よ びIL-2R系 の 異 常 に つ い て は HTLV-Iキ ャ リア ー やATLに お い てsIL-2R に よ る免 疫 抑 制 が 指 摘 され て い る23).一方,木 村 ら は 既 に び ま ん性 間 質 性 陰 影 を と もな っ た 肺 癌 症 例 にHTLV-Iの 関 与 を認 め24),HTLV-I関 連 肺 癌(HTLV-I associated lung cancer: HALC)を 報 告 して い る.こ のHALCの 検 討 に お い てHTLV-Iの 感 染 に よ りIL-2Rで 代 表 さ れ るTリ ンパ 球 機 能 の 異 常 が 惹 起 さ れ,こ の 免 疫 異 常 状 態 が び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 形 成 と 肺 癌 の 発 生 に 関 わ っ て い る 可 能 性 を示 して い る. 免 疫 異 常 と発 癌 に 関 し て は,肺 癌 の 合 併 が 高 頻 度 に 認 め られ る石 綿 肺 患 者 でsIL-2Rの 高 値 と 病 期 の 進 行 に と も な うNK活 性 低 下,さ らに 肺 癌 合 併 例 に お け る著 明 なNK活 性 の低 下 が 報 告 され て い る25).またsIL-2Rが 高 値 を示 すAIDS26) やIIP27),サ ル コ イ ドー シ ス28)にお い て も高 率 の 癌 の 合 併 が 報 告 さ れ て お り,こ れ らのsIL-2R高 値 を示 す 疾 患 に お け る 発 癌 に は,sIL-2Rに 関 連 す る細 胞 性 免 疫 異 常 を 背 景 と して い る可 能 性 が 窺 わ れ る.今 回 の 検 討 で示 さ れ た 如 く肺 線 維 化 病 変 の 形 成 と共 に 肺 癌 の 発 生 にIL-2お よ びIL -2R系 の 異 常 が 関 与 して い る こ とが示 唆 され た. 結 論 肺 癌 患 者 に お い て 血 清 中sIL-2R,末 梢 血 単 核 球 のrhIL-2反 応 能,CD25陽 性 リン パ 球 比 率, リン パ 球 サ ブ セ ッ トの 定 量 を行 い,組 織 型,病 期,び ま ん 性 間 質 性 陰 影 と の 関 連 で検 討 し た. 1. 肺 癌 患 者 に お け る血 清 中sIL-2R, CD25 陽 性 リン パ 球 比 率 は 健 康 人 対 照 と比 べ 高 値 を示 し た が,rhIL-2反 応 能 は 健 康 人 対 照 と 比 べ や や 低 値 で あ っ た. 2. 各 種 パ ラ メー ター は 肺 癌 の 組 織 型 とは 関 連 を 認 め な か っ た.血 清 中sIL-2R, CD25陽 性 リン パ 球 比率 は病 期 の 進 行 と と もに 高 値 とな る 傾 向 に あ っ た が,rhIL-2反 応 能,CD16お よ び CD57陽 性 リンパ 球 比 率 は低 値 とな る傾 向 が 示 さ れ た. 3. 血 清 中sIL-2R,末 梢 血 単 核 球 のrhIL-2 反 応 能,CD25陽 性 リン パ 球 比 率 との 間 に 関 連 は 認 め られ な か っ た が,CD25陽 性 リ ン パ球 比率 と CD16お よ びCD57陽 性 リンパ 球 比 率 の 間 に 負 の 相 関 を認 め た. 4. び ま ん 性 間 質 性 陰 影 の 有 無 に お い て は 血 清 中sIL-2Rに 差 は 認 め られ な か っ たが,び ま ん 性 間 質 性 陰 影 を伴 う肺 癌 患 者 で は,陰 影 の 進 行,広 が り と と も に 血 清 中sIL-2Rは 高 値 と な っ た. 従 っ て,肺 癌 患 者 に お い て はIL-2お よ びIL -2R系 の 関 与 す る免 疫 異 常 の 存 在 が 推 察 され, び ま ん 性 間 質 性 陰 影 を 伴 う こ とに よ りそ の 免 疫 異 常 は よ り著 明 と な る こ とか ら,肺 線 維 化 病 態 と肺 癌 の 密 接 な 関 連 が 示 唆 さ れ た. 稿 を終 え るに あ た り,終 始 ご指 導 御校 閲 を賜 っ た 恩 師 木村 郁 郎 教授 に深 甚 の 意 を表 す る と共 に直 接 ご 指 導 頂 い た 多 田慎 也 講 師,大 熨泰 亮 助教 授 に深 謝致 します. (本文 の要 旨は 第31回 日本肺 癌 学 会総 会 に お いて発 表 した.)
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