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農協の存在意義と意思決定・ガバナンス構造の研究

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農協の存在意義と意思決定・ガバナンス構造の研究

著者

小賀坂 行也

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第19307号

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農協の存在意義と意思決定・ガバナンス構造の研究

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目 次

第1章 序論 ... 1 第1節 戦後のわが国社会経済の変貌と農協の変質 ... 1 第2節 今日の農協改革論議にみる農協問題の所在 ... 3 第3節 本論文の構成 ... 5 第2章 先行研究の整理と研究課題の設定 ... 8 第1節 はじめに ... 8 第2節 戦後のわが国農協論の論点整理 ... 9 第3節 これからの農協の存在意義 ... 11 第4節 小括 ... 13 第3章 農協の存在意義と意思決定:仙台農協の取組を事例に ... 15 第1節 はじめに ... 15 第2節 事例1:東日本大震災からの営農再開支援と JA 出資法人の取組 ... 16 補 節 事例2:津波被災地の食料供給と取引構造の変化に果たす農協の役割 ... 25 第3節 事例3:株式会社ジェイエイ仙台の設立 ... 34 第4節 事例4:仙台農協中期計画策定の取組... 35 第5節 小括 ... 37 第4章 理事会制度と経営管理委員会制度の比較分析 ... 48 第1節 はじめに ... 48 第2節 経営管理委員会制度の背景と農協法の改正 ... 49 第3節 理事会と経営管理委員会の制度的特徴 ... 52 第4節 理事会と経営管理委員会の運営実態と経営効率 ... 54 第5節 小括 ... 56 第5章 農協のガバナンス構造と適切な運営体制... 65 第1節 はじめに ... 65 第2節 調査対象農協の概要 ... 66 補 節 農協のガバナンス体制に関する調査結果... 68 第3節 とぴあ浜松農協と越智今治農協の比較検討 ... 70 第4節 仙台農協と越智今治農協の比較検討 ... 73 第5節 小括 ... 75 第6章 結論 ... 82 第1節 地域農業を基盤とする農協の再確認 ... 82 第2節 主体性ある農協のガバナンスに向けて ... 83 第3節 政策的含意 ... 84 引用および参考文献... 85

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1 第1章 序論 第1節 戦後のわが国社会経済の変貌と農協の変質 農業協同組合(以下「農協」)は、戦後の 1947 年に農業協同組合法が施行されて発足した。 農協法が制定された当時と現在では、農協を取り巻く環境は大きく変化している。 制定当時と現在の状況について、表 1 に示す。 食料の需給状況についてみると、制定当時は戦後で食料不足基調であったために、米では 国が全量を買い入れる食糧管理制度があった。野菜等については、市場で公平に分配されて いた。しかし、現在では、食料は過剰基調となっており、消費者・実需者のニーズに対応しなけ れば有利に販売できない状況になっている。特に米については、1995 年に同制度が廃止され、 米の価格が低下し、小規模では稲作経営が継続できなくなってきている。 農業者の状況については、制定当時は戦後の GHQ による農地解放の直後であり、各農家 の経営規模は 1ha 弱程度で経営規模は均質であった。一方で、現在では、大規模な担い手農 業者と小規模な兼業農家に二極化している。担い手農業者は農業生産の中核を担うが、農地の 管理は地権者も含めて地域全体で担っていかなければ地域農業の継続は望めない状況でもあ る。 農協の組合員には、農業に従事する正組合員と農業には従事しないが農協の提供するサー ビスを利用する地域住民である准組合員が存在する。1960 年には、正組合員が 578 万人、准 組合員が 75 万人だったが、現在はそれぞれ 430 万人、620 万人となっている。農業後継者が 不足しているために正組合員は 2 割程度減少しているが、70 歳以上の正組合員が 4 割超を占 めており高齢化も顕著になっている。准組合員については、8 倍以上も増加しており、正組合員 数を逆転している。この数字からも分かるように、農協が農業者だけの組織でなく、地域住民も 対象にした地域組合としての性格が濃くなっていることが分かる。農協数については、1960 年 には 12,050 組合あり、各地域に存在していたが、近年では農協再編が進み、広域で合併して いるために、現在では 657 組合と少なくなってきている。 組合員の営農を支える農協の主要な事業は営農経済事業であり、その重要性は設立当時と 変わりはないが、取扱高の減少や商系との競争によって収益性は低下してきている。以下で総 合農協統計表のデータを用いて説明する。 組合員が生産した農産物を販売する販売品販売高については、1993 年には 5.9 兆円の実 績があったが、2016 年には 4.6 兆円まで減少しており、20 年間で 1 兆円以上も取扱高が減少 したことになる。近年は自己改革の取り組みによって持ち直す傾向も見られる一方で、米の取扱 高は米の消費量が年々減少していることもあり、逓減が続いている状況である。購買品について は、一貫して減少傾向が続いており、1993 年には 5.2 兆円あった実績が 2016 年には 2.4 兆円 と半分以下に激減している。商系との競争が激化しており、回復の兆しは見込めないのが現状 である(図 1-1)。 これまで農協経営を支えてきたのは信用事業及び共済事業である。貯金残高は増加傾向に あり、1993 年の 65 兆円から 2016 年には 98 兆円と 1.5 倍にまで増えている。一方で、長期共 済の保有高は民間保険業者との競争によって減少傾向にあり、1998 年の 391 兆円から 2016 年には 267 兆円まで減少した(図 1-2)。

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2 農協では信用事業と共済事業の収益で営農指導事業の赤字を補っている収支構造をとって いるが、昨今の金融をめぐる環境が厳しくなっており、信用・共済事業の収益性が低下している ことから農協経営自体が厳しい状況に陥っている。農協の農業関連の取扱量が減少してきてい るなかで、信用・共済事業を中心に収益を確保しながら管理費の削減を進めて事業利益を確保 してきている。こうした厳しい環境において、農協経営の持続性を高めるためにはガバナンスが より重要になっている。

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3 第2節 今日の農協改革論議にみる農協問題の所在 農協を取り巻く環境の変化に加えて、国からの要請もある。 これまで政府は規制改革推進会議において、成長戦略として農協改革が協議されてきた。そ の経緯について、以下で説明する。 2013 年 11 月には、規制改革会議農業ワーキング・グループにおいて、「今後の農業改革の 方向について」のなかで、農協は少数の担い手組合員と多数の兼業組合員、准組合員・非農業 者の増加、信用事業の拡大等の状況が見られるなど農協法の制定当時に想定された姿とは大 きく異なる形態に変容を遂げたために、それぞれの組合が個々の農業者の所得増大に傾注で きるよう、コンプライアンスの充実など組織運営のガバナンスについての見直しを図るとともに、 行政的役割の負担軽減や他の団体とのイコール・フッティングを促進するなど、農政における農 業協同組合の位置付け、事業・組織の在り方、今後の役割について見直しを図るべきと提言さ れた。 2014 年 5 月には、同グループから、「農業改革に関する意見」のなかで、農協の見直しとして 中央会制度の廃止、全農の株式会社化、単協の専門化・健全化の推進、理事会の見直し、組織 形態の弾力化、組合員の在り方、他団体とのイコール・フッティングが提言された。ここでの理事 会の見直しの内容は、ガバナンス構造ではなく、理事の過半は、認定農業者及び地域内外問わ ず民間経営経験があり実績を十分有する者とし、若い世代や女性の登用にも戦略的に取り組み、 理事の多様性を確保するという理事会を構成する人材に関するものである。 2014 年 6 月には、農林水産業・地域の活力創造本部において、「農林水産業・地域の活力 創造プラン」の改定が本部決定された。このなかで、農協改革として、単位農協は、農産物の有 利販売と生産資材の有利調達に最重点を置いて事業運営を行う必要があると整理され、5 年間 を農協改革集中推進期間とし、自己改革を実行するよう強く要請されている。 その内容を踏まえて、同月に規制改革実施計画が閣議決定され、地域の農協が主役となり、 それぞれの独自性を発揮して農業の成長産業化に全力投入できるように、抜本的に見直し、今 後5年間を農協改革集中推進期間とし、農協は、重大な危機感をもって、以下の方針に即した 自己改革を実行するよう強く要請された。具体的には、中央会制度から新たな制度への移行、 全農等の事業・組織の見直し、単協の活性化・健全化の推進、理事会の見直し、組織形態の弾 力化、組合員の在り方、他団体とのイコール・フッティングが個別措置として記載された。 2016 年 4 月には、改正農協法が施行され、中央会制度の廃止、農協への公認会計士監査 の義務付け、理事の過半数を認定農業者や農産物販売等のプロとするというガバナンスの見直 し、農協は農業者の所得の増大を目的とし、的確な事業活動で利益を上げて、農業者等への還 元に充てるという組織目的の明確化、農業者への事業利用強制の禁止、株式会社や生協等へ 組織変更が可能といった内容が盛り込まれ、准組合員の事業利用規制について、正・准組合員 の利用実態と自己改革の実施状況を 5 年間調査し検討することも附則に加えられた。 2019 年 5 月末をもって 5 年間の農協改革集中推進期間が終了し、規制改革会議の第 5 次 答申では農協の自己改革が進められ、一定の進捗が見られたと評価されたが、終了後も自己改 革の更なる進捗が期待されている。 このような変化のなかで、農協の存在意義はどこにあるのであろうか。これまでに説明してきた ように、農協を取り巻く環境は劇的な変化を遂げてきており、設立当時の均質な組合員から大規

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4 模経営者、兼業農家、土地持ち非農家等の多様な組合員へと変わってきた。一方で、農村の都 市化とともに地域住民である准組合員が増加してきており、信用・共済店舗、直売所や生活事業 等の農協事業の利用を通じて地域社会への果たす役割も大きくなっている。そのなかには、小 学生を中心とした子ども世代だけでなく、親である大人の世代に対しても農業体験や料理教室、 または学校給食等を通じて地域農業の役割や食と農のつながりを伝えるという食農教育活動も 含まれる。こうした活動が必要になってきたのは、農村と都市が遠くなっているからであり、農協 には農村と都市、農業と食を結ぶ大事な役割を担っている。 しかし、国や社会的な要請として、農協改革を迫られるというのは、その求められている役割 が十分に発揮されていないからであろう。多様化する組合員のなかで、誰をターゲットとしている のか、増え続ける准組合員への対応等の課題に対して曖昧なままになっており、明確な対応策 を定められていないのは事実である。 農業者が高齢化し兼業農家が組合員の太宗を占めている現状において、農協の基盤である 地域農業の将来展望とは、認定農業者のみならず高齢専業農家や兼業農家、自給的農家など の多様な農業者を育成し、地域住民の理解を得ながら、地域農業を維持発展させていくことに 他ならない。もちろん昨今の厳しい農業情勢のなかで農協は、競争力のある認定農業者や農業 法人を支援する営農経済事業を行っていくことも必要ではあるが、彼らは組合員の一部に過ぎ ず、組合員一人一票という平等の議決権のもとで、競争力の強化や効率の追求は決して容易な ことではない。 また、近年の厳しい金融環境のもとで農協経営の収益構造は大きく変貌してきており、従来の 信用事業と共済事業で獲得した収益で営農経済事業を運営する構図が成立し難くなっている。 このため 1990 年代以降に農協の再編が加速度的に進み、県域規模での広域合併をする事例 も増えてきている。一般的に、組織規模が大きくなるに伴い組織の意思決定が円滑でなくなるこ とはよく観察されることであるが、後述するように農協も例外ではない。 このように今日の農協は多様な組合員を抱えながらミッションの遂行に必要な収益の確保が求 められており、そこでは農協のトップマネジメントや意思決定が重要性を増すとともに、どのような ガバナンス構造が適切なのかが問われている。

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5 第3節 本論文の構成 本研究では、次章以降で農協の存在意義やあるべきガバナンス構造について、個別事例や 統計を用いながら考察を行う。 第2章では、先行研究の整理と研究課題の設定を行う。これまでに、多くの研究者によって 様々な観点から農協研究が行われてきており、その内容の論点整理を行う。また、地域協同組 合論のなかでは、農協の存在意義に関する議論がされており、その論点とされていることの整理 を行いながら本研究の課題を設定する。 第3章では、農協の存在意義と意思決定について、仙台農協の取組を事例として考察を行う。 仙台農協は、2011 年に発生した東日本大震災の復旧・復興対応をしており、非常事態における 地域農業や食料供給に対する取組について検証する。また、2018 年 4 月に子会社を設立し事 業を分割しているが、その内容からは、都市農協として多くの准組合員・利用者を抱えるなかで 子会社を設立した経緯や理由を把握する。そして、仙台農協では、第 4 次中期経営計画の時期 に、農協経営に対してトップダウンだけではなく、ボトムアップとして職員の意思を反映する仕組 みがあった。その取組についても考察を行うことで、農協経営の意思決定に必要となるガバナン ス構造を模索する。 第4章では、農協の経営ガバナンス構造として、理事会制度と経営管理委員会制度の 2 つを 比較し分析を行う。経営管理委員会制度は、従来の理事会の問題点を解消するために新たに できた制度だが、総合農協統計表を用いて、その運営実態はどうなっているのかを把握する。 第5章では、第4章で分析した理事会制度と経営管理委員会制度について、それぞれの制度 で運営している農協の個別事例をもとに、それぞれの長所と短所について分析を行う。理事会 制度の事例は仙台農協とし、経営管理委員会制度については、静岡県のとぴあ浜松農協及び 愛媛県の越智今治農協とする。両制度の分析を行う前に、補節として、仙台農協が実施した貯 金残高が 1,500~3,000 億円規模の農協に対するガバナンス体制に関するアンケート調査につ いて、その回収結果を分析し農協の実態の把握を試みる。 最後に、第6章では、それまでに考察してきた内容を踏まえて、農協の存在意義とあるべきガ バナンスについて提言するとともに政策的含意を示唆し、本研究の総括を行う。

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6 表 1 農協を取り巻く環境の変化 出所:農林水産省及び総合農協統計表 農協法制定当時 現 在 不足基調 過剰基調 ・米は国が全量買い入れる食管制度 ・消費者・実需者のニーズに対応しなけ れば有利に販売できない ・野菜等は市場で公平に分配 大規模な担い手農業者と小規模な兼業農家に 階層分化 ・担い手農業者を含めた農業者のニーズ に対応しなければ地域農業は発展しない ・担い手農業者にメリットがあれば、農 業者全体にメリットがあるはず 正組合員の状況 5,780千人(1960年) 4,304千人(2017年) 准組合員の状況 756千人(1960年) 6,206千人(2017年) 農協の数 12,050組合(1960年) 657組合(2017年) 食料の需給状況 農業者の状況 農地解放直後で、各農家の 経営規模は均質(1ha弱)

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図 1-1 農協の販売及び購買取扱高の年次推移 出所:総合農協統計表

図 1-2 農協の貯金残高・長期共済保有高の年次推移 出所:総合農協統計表

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8 第2章 先行研究の整理と研究課題の設定 第1節 はじめに 本章では、農協の先行研究の整理と研究課題の設定を行う。 第2節では、これまでの農協に関する先行研究について、農協や組合員の状況の推移と比較 しながら、戦後から現在に至るまでの論点を整理する。 また、第3節では、これからの農協の存在意義について、1970 年代から論点となってきた地 域協同組合論の主張を整理するともに、これまでのガバンナンスに関する研究を整理することで、 本研究での課題設定を行うこととする。

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9 第2節 戦後のわが国農協論の論点整理 本節では、戦後の農協に関する既存研究の論点を整理する。図 2 では、戦後から現在に至る までの農協数、正・准組合員数と農協研究の論点の推移を示す。 戦後の農協研究の分析については、清水(2007)が詳しい。清水(2007)は協同組合論 について、戦後から 1970 年までは農協のあり方や今後の方向に関する議論がされて、1970 年 代より協同組合論は多様な展開を示すようになり、1980 年代から計量経済学的分析が行われる ようになったと指摘している。 1955 年には、多くの研究者が参加した協同組合研究会が発足し、農協のあり方、今後の方向 について論争・研究が行われた。この時期は、多くの研究がマルクス経済学の枠組みで進めら れている。近藤(1962)は独占資本と農協の関係を解明して当時の農協、特に全国連のあり方 を批判し、農協内部からの民主的改革を主張した。この時期は、協同組合は商業利潤を節約す ることで産業資本に奉仕することを本質とする「近藤理論」が一人勝ちとなったとされている(註 1)。それに対して、美土路(1956)は、近藤の協同組合論を批判し、農協は「商業利潤の節約」 だけではとらえきれない組織であるとした。伊東(1960)は、農協には資本的側面としての客観 的側面と組織的側面としての主体的側面の 2 面があるとして近藤を批判し、商業利潤の排除は 産業資本に貢献する面を持ちながらも、農協の組合員にも利益をもたらす側面があることを指摘 し、協同組合運動は社会的経済的弱者としての組合員の自己防衛運動である。その自己防衛 運動は、独占資本段階においては、単なる商業利潤排除からもっとつき進んで、独占資本の生 産、流通の収奪からの抵抗運動となると位置づけた。三輪(1969)は、協同組合が商業資本で あるにしても、協同組合は他の商業資本より流通費用を低くすることができ、それによって得られ た商業利潤を組合員に分配することができると主張した。 このように、戦後から 1970 年までは、均質な組合員が多く農協は職能組合としての機能があ ったことを背景として、マルクス経済的研究が中心になっていたと思われる。 1970 年代になると、准組合員が増加していき、職能組合から地域協同組合としての機能を発 揮するようになり、協同組合組合論は多様な展開を示すようになる。竹内ら(1986)は、農協の 現実から出発して農協の問題を多面的に解明するアプローチを行った。石見(1977)は、協同 組合論は新しい時代にふさわしい理論展開が必要であるとし、協同組合運動は分権型の自主 管理とエコロジーの特徴を持った新しい時代に入ったと主張した。また、詳細は次節で扱うが、 1970 年代前半からは、地域協同組合論が議論され始めるようになった。 そして、1980 年代になると、協同組合に関する計量経済学的分析が行われるようになり、長 谷部(1997)が農協の生産性や範囲の経済に関する研究成果をまとめている。 1988 年 12 月に開催された第 18 回全国農協大会では、「21 世紀を展望する農協の基本戦 略」が決議され、21 世紀には全国の農協数を 1,000 にするという構想が打ち出されたことから、 1990年代からは農協合併が進んでいくことになる。北川(1990)は、農協合併を、合併助成法制 定を境にして 5 つの時期に区分し、時代背景と関連付けて分析しているが、最終の第 5 期にあ たるのがこの 1990 年代になる。この時期の合併では、市町村を跨ぐような広域合併が多くなっ ており、岩元(2001)は広域合併により組織整備が進むと組織効率は良くなるが、組合員サービ スは悪くなるという問題は当面続くと指摘している。 2000 年代になると、農産物直売所の増加に伴い、直売所間だけでなくスーパーとの競合が

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10 課題として挙げられるようになる(註 2)。2005 年には全国直売所研究会が発足する等、直売所 に関する研究が多くなってくる。香月(2009)は、大規模直売所では食料品スーパーに匹敵する 販売効率を達成しており、流通コストの低減や出荷規格の緩和に伴う商品化率の向上等から生 産者、消費者にメリットが見込めると地域に経済効果をもたらすと提言している。 このように、農協研究はその時の社会的な背景によって、多くの論点が議論されている。 (註 1)太田原(2013)、「戦後農協理論の二つの潮流」、農業協同組合新聞 (註 2)吉田ら(2018)、「経験価値からみた農産物直売所のマーケティング戦略に関する一考察 ―JA 仙台直売所「たなばたけ」を事例として―」、農村経済研究 35(2)、p64 より引用

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11 第3節 これからの農協の存在意義 1970 年代前半には「農協はたんなる農民のために農民の組織であることから抜け出て、農民 を含む地域住民のための協同組合に転化すべし」という地域協同組合化論と、それに対して「地 域協同組合化は農民の利益を損なう」という立場からの反論があって論争となった(註 3)。地域 協同組合化の論点が出てくるのは、正組合員である農業者が減少していくのに対して、准組合 員である地域住民の数が増加していき、農業協同組合が農業者のための組織であるか問われ るようになったためである。 大田原(2007)は、「農業協同組合法第 1 条に問題の焦点があり、この法律は、農業者の協 同組織の発達を促進することにより、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向 上を図り、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とすると定められている。こうした問題の 根拠は、農協を組織している組合員の変化にある。非農業者勢力の排除のために地域協同組 合とするのではなく、兼業農家を主体とした職能組合として、主業農家とともに地域の農地と農 業を守るために共通の課題に取り組むことが効率的である」としている。大田原(2014)は、「准 組合員問題では、農業基盤を失った農協については周辺の農村部の農協との合併を進め、農 協らしさを取り戻したうえで、都市農業の持続発展や都市生活者の環境づくりなど都市に立地す る農協としての独自の課題に正面から取り組むことが解決法であると提言している。また、農協 の生活関連事業には組合員・地域住民のライフラインとなっている」と指摘している。 石田(2008)は、「これからの農協は引き続き「農」という職能性を身につけていくのがよく、国 民への安全・安心・安定的な食料供給を果たすことを共通の理念として、農業生産に広い意味 で参画する人たちによって構成される協同組合と考えればよいのではないか」と提言している。 このように、兼業農家を主体に職能組合とするべきという考え方がある。 一方で、田代(2007b)は、「協同組合は、矛盾的統合体であり、時々の歴史的状況下で矛盾 をどう統合していくかしか残る道はない。制度としての農業協同組合と実体としての地域協同組 合。この制度と実体の乖離が極限化したのが今日の農協の姿である。しかし、准組合員の増加、 生活関連事業の株式会社化、一般企業とのイコール・フッティング等により、制度の地域協同組 合化、准組合員の正組合員化が求められている」としている。田代(2009)は、「地域協同組合 といっても生協化するというわけではない。生活協同、生活事業を十分に位置づけつつも地域 住民全体の関心でもある農にかかわるミッションを追求する農的地域協同組合でなければ、都 市農業も含めて農業が存在する地域になることの意味はない。問題は地域住民を正組合員とし て広範に迎え入れつつ農的要素をいかに保つかである」と指摘している。 また、北川(2007)は、「これからの農協の「かたち」を展望するためには、農協が協同組合と しての顔をどの部分に求め、それをいかにして育んでいくのかという視点が不可欠であり、農を 軸とした地域協同組合として進めていくべきである。農業が成り立つ基盤は地域にあるために、 担い手やプロ農業者を中心に対象を限定するのではなく、地域社会とのかかわりを重視した協 同組合として、より多くの多様な農家、一般の地域住民や地域の外から当該地域を応援する人 も想定するべき」と提言している。 川村(2014)は、「現在の農協の様々な制度は、高度経済成長期を経て低成長期にかかった 1980 年代頃までの比較的均質的な農業・農家・農村の構造に適合していた。しかし、それ以降 の異質化が進んだ農業・農家・農村の構造には必ずしも適合していない。多様化した農業・農

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12 家・農村という現実においては、農協は「職能組合」と「地域協同組合」の両方の役割を期待され ていると考えるべきであろう。立地条件等による違いはもちろんあるので、どちらかを選ぶことは 必要であろうが、それは農協が主体的に決めるべきことであると考える。地域における農協の役 割は、基本的には事業を通じての貢献である。農産物の販売等の事業を通じて付加価値=所 得を形成していくこと。そのことによって地域社会の経済的な存立基盤を維持していける」として いる。しかし地域協同組合論争のころに比べて、一層の異質化が進んだ現在の農業・農家・農 村を考えると、現状の枠組みを超える検討を必要とする考えも十分に成り立つのではないかとも 指摘している。 以上から「農」的な地域協同組合として、地域住民も含めて農業に関わっていくべきという考え 方も示されている。 その他にも、農協に対して批判的な主張や農業の変化とともに農協自体の変化を求める考え 方を主張する者もいる。 このように、今後の農協は、これまでどおりに兼業農家も含めた農業者を主体とするので良い という主張や、制度上も地域協同組合化して、地域住民も正組合員として意思反映させていくべ きだという主張がある。これまでの農協を取り巻く環境の変化や現状を踏まえると、地域住民も含 めた地域協同組合として社会的な責務を果たしていくという方向性が正しいと考えるが、そのな かでも農業協同組合として持続可能な地域農業を実現していくには、兼業農家も含めた多様な 担い手に対して、様々な農業支援のアプローチをしていく必要があるだろう。それこそがこれか らの農協の存在意義として考えられる。こういう組織を実現していくには、農協経営の持続性が 求められトップマネジメントや意思決定がより需要になってくる。 農協ガバナンスに関する研究について、瀬津(2007)は、「トップマネジメント体制強化に向 けて、法制度上は所有と経営の分離を前提としており、専門経営者による経営が合理的であり理 想的だが、協同組合の組織特性により明確に整理できずに問題となっている側面を指摘してい る。専門経営者としての学経理事登用・確立にも必ずしも成功せず、実務精通者登用という制度 見直しのなかで、実務精通者の概念がきわめて不明確で、抽象的であるために経営者問題を 複雑にしている。経営管理委員会制度については、問題点が多く導入農協は少なく、学経理事 によるトップマネジメント体制の確立を直ちに保証するものではない」としている。 高田(2006)はガバナンスとマネジメントを分離しそれぞれ強化していくために、常勤理事会 の強化、あるいは経営管理委員会制度を導入していくことだとしている。福田(2018)は 2008 年 から 2013 年にかけて、経営管理委員会など「会社化」に関する諸制度が農協に浸透し、それを 使いこなせるようになったことを背景として収益性を伸ばしたと指摘している。 しかし、最近では経営管理委員会制度から理事会制度へ戻したという農協も出てきており、必 ずしも経営管理委員会制度がうまくいっていないのが現状である。これまでの意思決定やガバ ンナンスに関する研究は、個別事例に基づいた十分な議論がされていない。従来の理事会制 度と経営管理委員会制度を導入している農協のそれぞれの特徴を把握することによってそれぞ れの特色が明らかになると考える。 したがって、本研究では、個別事例を用いながら、これからの農協の存在意義を明らかにする とともに、農協経営を持続できるような主体性のあるガバナンス体制についての考察を行うことと する。 (註 3)河村(2014)「農協の農村コミュニティでの役割」、『農協の未来』、p145 より引用

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13 第4節 小括 戦後からの農協研究に関する論点を整理したが、その時代の農協を取り巻く問題に対する 様々な論点があるなかで、本研究では、地域協同組合論、いわば農協の存在意義とガバナンス について焦点を当てることとした。 農協の存在意義の所在について、地域協同組合論争からは、准組合員ではなく兼業も含め た正組合員にこそあるという主張や准組合員も農業に関わってもらい、「農」的地域協同組合と するべきという主張がある。本研究では、農協の存在意義は地域農業にあると考えて今後の分 析を行う。 また、農協が存在意義を発揮するには、主体性のあるガバナンスや意思決定が求められるた めに、併せて農協経営のガバナンス体制に関する分析を行い、あるべきガバナンス体制につい て、次章以降で農協の個別事例をもとにしながら考察する。

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14 図 2 戦後の農協と組合員の推移と農協研究 出所:総合農協統計表をもとに筆者作成 地域協同組合論 計量経済学的分析 農協合併に関する研究 直売所に関する研究 マルクス経済学 的研究 低成長期 安定成長期 高度成長期 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 1960 1970 1980 1990 1995 2000 2005 2010 2015 正組合員 准組合員 組合員計 農協

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15 第3章 農協の存在意義と意思決定:仙台農協の取組を事例に 第1節 はじめに 本章では、農協の存在意義と意思決定を把握するために、仙台農協の 4 つの取組を事例と して考察する。 第2節では、東日本大震災という非常事態に、農協として、農業者である正組合員や地域住 民である准組合員、利用者に対して、どのような意思決定を行い、存在意義を発揮したのかを考 察する。また、震災復興の過程で、担い手である集落営農組織の支援として JA 出資法人の方 針を打ち出しており、この取組から地域農業に対する存在意義を把握する。なお、事例 1 と事例 2 については、それぞれ 2012 年、2013 年に執筆したものであり、復旧・復興が進んだ現在と は当時の見通しが異なることに留意頂きたい。 第3節では、仙台農協が 100%出資する子会社法人の取組から、農協の地域に対する存在 意義とその意思決定について考察する。 そして、第4節では、仙台農協の第4次中期計画の取組事例をもとにして、職員の意見を農協 経営に反映するというボトムアップの体制について考察する。 最後に、第5節では、農協の存在意義と意思決定についての小括を行い、本章のまとめを行う。

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16 第2節 事例1:東日本大震災からの営農再開支援と JA 出資法人の取組 第1項 問題の所在 1) 仙台東部地域の農業者が抱える営農問題 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災において、宮城県沿岸部を中心に大津波が襲 い、仙台東部地域の農地、農業用機械施設などに甚大な被害を及ぼした。具体的には、仙台東 部地域にある耕地面積 2、300ha(水田 2、100ha、畑 200ha)のうち、その 8 割にあたる 1、 800ha(水田 1600ha、畑 200ha)が津波の浸水を受け、大量の瓦礫やヘドロなどの堆積土砂が 流入した。その被害面積は、仙台市の耕地面積 5、670ha から見て 3 割にも及んでいる。また、 約 2、400 台の田植機・トラクターや約 100、000 ㎡のパイプハウス・温室などが、津波により流 失・損壊している。当該地域は海抜ゼロメートル地帯も含んでおり、ポンプアップによる強制的な 排水機能を担っていた排水機場 4 機が全て壊滅してしまい、早期の営農再開は難しい状況に ある。 こうした状況のなかで、仙台市、仙台農協及び仙台東土地改良区は、震災から 1 か月が経過 した 2011 年 4 月 5 日に、農業関連情報の共有化や行動の迅速化を目的として仙台東部地区 農業災害復興連絡会(以下、「復興連絡会」)を設置し、災害情報の周知、除塩活動、被災農家 の意向調査、復興計画の策定などを行ってきた。震災発生から早い時期にこうした関係団体を 横断した組織を立ち上げたことは、先進的な取り組みであると言えよう。 他方、仙台市は、2011 年 11 月に被災した仙台東部エリアを『農と食のフロンティアゾーン』と する震災復興計画を策定した。その目的は、農地の集約・高度利用や法人化などによる農業経 営の見直し、市場競争力のある作物への転換や6次産業化の促進などである。2012 年 3 月に は『農と食のフロンティア推進特区』が復興庁により認可されているが、これは税制優遇のみの 措置であり、農地法の規制緩和などは盛り込まれていない。なお、この地域は、国による直轄事 業として排水機場の応急復旧と大規模区画整備事業が行われることになっている。これに関連 して工藤(2011)は、震災復興に農地信託制度を活用し多様な農業者が担い手となるテナントビ ル型農場制農業の創設を提言している。 また、2011 年 12 月 7 日に可決された東日本大震災復興特別区域法では、宅地・農地一体 整備事業が創設され、土地区画整理事業と農業基盤整備事業が一体的に実施できるようになっ た。しかし、集団移転候補地は示されているものの集団移転の具体的な場所までは決定してお らず、復興連絡会で実施した個別面談や地区説明会のなかで、農業者から「宅地が決まらない と農業のことを考えられない」「農地の近くに宅地を整備して欲しい」といった要望が出されてい る。さらに、これまで西日本を中心に各県から営農が再開できるまで一時的に移住を受け入れて 就農を支援するといった申し出があり、仙台農協・行政及び農業関連団体は窓口として担い手 を中心に広く希望者を募ってきたが、仙台東部地域において実際にその支援を受けた農業者 はいない。同様に、仙台農協においても被災した農業者に対して山間地域の農地や平野部の 農業施設などの斡旋を行ったが、その利用はごく少数にとどまっている。 このことからもわかるように、仙台東部地域(六郷、七郷、高砂)で営農を続ける意向を示す農 業者の多くは、居住地と農地との物理的な距離に抵抗を示している。それと同時に居住と営農 の一体的な復興を早急に進めていかなければ、農業者の営農意欲を削ぐばかりか離農が増え

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17 ることになり、本格的な営農再開は一層困難になると思われる。 2) 課題の設定 仙台東部地域では、震災以前から地域農業における担い手の高齢化が問題となっていた。 それが震災を期に加速したといっても過言ではない。復旧までに時間がかかると高齢の担い手 はリタイヤせざるを得ないし、青年部に代表される若手の農業者は雇用機会を求めて離農してし まい、地域農業の崩壊へとつながりかねない。こうした問題に歯止めを掛けるために小賀坂 (2011b)は、仙台農協管内における震災の被害状況と被災した農業者に対する意向調査の中 間結果から、地域ごとの農業復興プランを描くには農業者の意向を十分にくみ上げることが重要 であると整理している。 これまで宮城県の稲作経営は集落営農を基本として進んできたが、その実体は個別経営体 の寄せ集め的組織に止まっているものが少なくない。そのため農地の集約化が進まず効率的な 稲作経営が実現できていなかった。しかし、今回の震災によって、農業機械を流失・損壊した農 業者が数多くいる。そのなかで、小規模な個別経営が再び多額の投資をして農業機械を取得し、 営農を再開するのは困難である。これについて渋谷ら(2011)は、福島県相馬市の水稲農家を 対象とした調査結果と小賀坂(2011a)の仙台市の調査結果を比較し、小規模な個別経営の営 農意欲減退や農業機械の損壊により水田農業を継続できない農地が生まれることで大規模稲 作経営が出現する可能性があることを指摘した。また、山田ら(2011)は、被災した兼業農家の 多い集落で、他集落の専業的担い手や農外企業への農地管理委託が進むことを示している。 確かに渋谷ら(2011)や山田ら(2011)が指摘するように、被災地域においては今後、農地集積 が進み、集落営農組織や大規模経営体が地域農業の中核となり、農業復興が円滑に進んでい く可能性がある。 しかし、震災復興においては何よりも被災した農業者の営農意向が重要である。何故ならば、 刻々と変化する意向と農地の所有権との調整が不可欠となるからである。このため、営農を再開 するために、震災により被災した農業者がどのような支援を必要としているかを把握し、その支 援ニーズに対して迅速かつ的確な対応をすることが地域農業の再建には極めて重要である。そ れにも関わらず、これまでに津波被災からの農業復興に対する支援ニーズを把握した研究はな い。その理由としては、住宅を失った農業者が親戚宅や避難所などに移動しているため意向調 査が十分にできなかったことなどがあげられる。しかし、仙台東部地区では、復興連絡会により 被災直後に 600 近いサンプルで意向調査が実施されている。小賀坂(2011a)はこの調査デー タを用いて全体の特徴を示したが、支援ニーズの把握まではできなかった。 そこで本節では、営農再開に対して意欲的な農業者の傾向を明らかにするとともに、震災前と 同様に農業経営を継続するために必要な支援ニーズの把握を試み、今後の政策的課題を検討 する。

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18 第2項 データ及び分析方法 1)データ 渋谷ら(2011)は、被災地では市内外への避難や被災現場の片づけなどで昼夜問わず所在 がつかみにくいことや、公的機関が関与する組織的な悉皆調査を短期間で実施することが望ま しいと指摘している。そこで本節では、前述したとおり行政が参加している復興連絡会が実施し た被災農業者への営農意向調査をデータとして用いる。また、復興連絡会では、2011 年 4 月 30 日から 7 月 31 日の 3 か月間に被災した農業者を対象に個別面談による営農意向に関する 質問紙調査を行っている(註 1)。 実施したヒアリングの主な調査項目は、1.今後の営農について(①継続したい(・拡大・現状 維持・縮小)、②やめたい、③わからない)、2.営農を継続していく場合の営農方法について (水田及び畑)(①個別営農、②集落営農、③その他)、3.東部有料道路から東側の農地の利 用方法について(①大規模区画の再圃場整備、②現状と同じ規模に復元、③農地以外に活用、 ④所有していない)、4.今後の住まいについて(①前と同じ場所、②個別移転、③集落ごと移 転)、5.相談・要望事項(自由意見)である。また、被災農業者ごとの経営面積は営農計画書(水 田台帳)のデータと突合することで分析を行う。 2)分析方法 本節では営農意向調査結果に基づき、次の 4 つの回答者属性が営農再開への意向に影響 を与えることを仮定した。 年齢については、営農再開するには農業機械や農業施設などの多額な資本投入が必要であ り、ローンの返済などに長い年月が必要であることから、年齢が若いほど営農継続の意向が強く なると考えられる。また、経営規模に関しては、経営面積が大きくなるほど営農継続意向が強い と考え、さらに、仙台東部地区は六郷、七郷及び高砂の 3 地区があるが、農業の特色や圃場整 備の状況などが異なるため地区によって営農意向に差異が生じるものと考えた。そして、今後の 居住意向に関しては、農業生産は生活と密接に結びついており、集落という単位が不可欠であ ることから、被災前の居住地に継続して住みたいという意向のある農業者は営農継続意向が強 いと想定した。 分析手法は、回答者属性(年齢、経営規模、地区、居住意向)と営農意向(拡大、現状維持、 縮小、やめたい、分からない・無回答)のクロス集計を行い、営農意向ごとの回答傾向を把握す る。しかしこれだけでは被災者個々の支援ニーズを十分に把握することができない。これに関し て、磯島(2009)は選択肢式のアンケート調査の多変量解析に加えて、定性データを定量的に 分析するテキストマイニング法を適用している。本節においても、これに倣い個別の文章データ を数値化して定量的な分析を行うために、テキストマイニング法を適用する。

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19 第3項 分析結果及び考察 1)地域の特徴と回答者属性 被災した仙台東部地域には大きく分けて 3 つの地区(六郷、七郷、高砂)が存在するが、それ ぞれの地区で特徴が異なっている。水田の形状や農業の特徴から六郷地区と他の地区(七郷、 高砂)という分け方ができる。六郷地区は水田の圃場整備を実施していないために 10a 区画と 小さくなっている一方で、2010 年度の共販実績が 1。8 億円と大きく、園芸作物が中心の農村地 区である。また、七郷地区及び高砂地区は圃場整備を実施し水田の形状が 30a 区画となってい るが、共販の取扱高は少なく、稲作が中心の地区である。この地区は仙台市の都市部に隣接し ており不動産収入が多いのも特徴である(表 3-1)。 最終的には表 3-2 のとおり 585 戸(全体の約 62%)の意向を確認することができたが、被害 が甚大で所在のつかめない農業者は面談が困難なため全戸の意向把握までは至っておらず、 こうした農業者の意向を把握することが今後の課題として残されることとなった。なお、今回面談 を行った 585 戸には、入り作農家は含まれているが、それはごく少数である。用いた調査データ の回答者全体の多くは自宅も津波で流失した農業者であり、平均すると津波で被災した水田面 積が耕作面積の 8 割を超えている。 2)営農意向と各項目におけるクロス集計による分析 ここでは営農意向と各質問項目におけるクロス集計による分析を行う。まず年齢別について見 ると、若い年代では高齢世代と比較して規模拡大意向が多いことがわかる(表3-3)。統計的に有 意ではないが 20~40 代と 50 代では「規模拡大」の意向が多くなっている。その一方で「縮小」 「やめたい」と回答した農業者は、統計的に有意ではないが、年齢が高くなるにつれてその割合 は多くなっている。このことから年齢が若い方が比較的営農再開に対して意欲的であることが確 認された。 次に、経営規模に関しては、経営規模が大きい農業者は規模拡大を望んでいることがわかる。 具体的には、3~5ha と 5ha 以上経営している回答者層は規模拡大の意向が多くなっている。ま た、1~2ha や 1ha 未満の回答者層は「縮小」、または「やめたい」という回答が多くなっている。 このことから経営規模が大きい農業者の方が営農再開に対して意欲的であることがわかった。 地区別について見てみると、六郷地区では統計的には有意ではないが、「縮小」と回答してい る農業者が多くなっている。六郷地区は水田が 10a 区画と未整備であり水稲よりも園芸作物の 生産が盛んな地域であることが理由として考えられる。また、七郷地区では、「拡大」と「やめたい」 という回答が多くなっており、現状維持が少なくなっている。これに対して、高砂地区では「現状 維持」が他の地区よりも多くなっている。七郷地区と高砂地区はこれまでに基盤整備を行い 30a 区画の圃場になっており、六郷地区に比べると水田の盛んな地域になっていることや高砂地区 ではパイプライン整備がされていることが考えられるが、これだけではこの傾向の理由を十分に は説明できず他の分析が必要である。 最後に今後の居住意向について見ると、『震災前と同じ場所に住みたい』と回答している農業者 は、農業経営を「現状維持」と回答している。一方で、『個別移転』や『集団移転』を希望している 農業者のなかに、「やめたい」、「分からない」という回答が多い。要するに、当該地域において 農業生産と住居は密接に結びついているため、今後離農を考えている場合や、農業を継続する

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20 か決めかねている場合には『個別移転』や『集団移転』を回答していることが考えられる。なお、 特筆すべき点は、今後も震災復興へ向けて農業を継続したい農業者は震災前と同じ場所に住 みたいという意向が確認できたことである。 3)テキストデータマイニングによる分析 前述したように、クロス集計による分析のみでは被災者個々の支援ニーズの把握が十分では ないため、テキストデータマイニングによる文章データの分析を行い、具体的な支援ニーズの把 握を試みる。使用した文章デ-タは、復興連絡会が実施した仙台東部地区の被災農業者 585 戸を対象にヒアリングした自由意見である。回答した農業者 585 戸の対象のなかから、無回答を 除外した 413 戸の文章デ-タを作成し、分析の対象とした。 まず、震災に対する感性的反応の全体的な回答傾向を把握するため、印象やイメージを表わ す形容詞に着目した形態素解析を実施し、抽出数による傾向を比較した。利用した分析ソフトは、 R2.13.2 で RMeCab パッケージを用いた。なお、キ-ワ-ド設定に関しては、例えば「早い」「早 め」「早期」及び「早急」を『早い』に、「欲しい」「ほしい」を『欲しい』に、「機械」「農機具」を『機械』 として統合集計するなどの操作をした上で分析を行った。表 3-4 は、被災農業者 585 戸の形態 素解析結果である。これを見ると、最も頻度の多かったのが「欲しい」であり、35。4%の農業者が この言葉を使用している。続いて「早い」、「農地」、「復旧」という言葉が登場している。 表 3-5 に形態素解析により算出した名詞及び形容詞の頻度表の上位 4 つの単語を含む自由 意見を内容別に分類して示した。『欲しい』について見ると、農地復旧に関するものが 50 件と最 も多い。次に、住居の線引きに関するものが 27 件で、自分の住居区域が危険区域に該当せず 既存の場所で農業を再開できるかを気にしていることがわかる。なお、『欲しい』が使われている 該当文章は、「住居の線引きをはっきりしてほしい」「大規模農業がやれる復興ビジョンが欲しい」 「現金収入が必要で自宅周りを回復すべく、作業を始めた。しかし、機械などがなく、後押しして もらえる助成がほしい」「大きく水田を集積しており、地代の支払いが大変なので、今年は減免し てほしい」「専業農家が守られるような施策をしてほしい」などといった内容であった。 『早い』については、『欲しい』と同様に、農地復旧に関するものが 66 件と最も多く、次いで住 居の線引きに関するものが 29 件となっている。これらの該当文章を見ると、『早い』では、「家建 設地の早急な線引きが必要。それがないと農業どころの話ではない」「畑は、用水がいらない分 水路整備をしなくても回復が早いのではないかと考えている」「市に対して義援金の配分を早く してほしい」であった。 『農地』では、農地復旧に関するものが 124 件と太宗を占めている。該当文書は、「農地の復 元を早急にしてほしい」「離農する人が出てくるので農地を引き受ける事を考えるが、機械が無 いので始められない」「農地を一旦国で買い上げ、集団で農業を」などであった。 『復旧』では農地に関するものが 129 件と大半を占めており、排水機場に関するものが 6 件で あった。該当文章は「生活再建には、一日も早い農地の復旧が不可欠です。排水機場の建設が 急務で、大規模農業にふさわしい農地づくりを全部国(行政)の負担で施行し、次世代が仕事と 環境づくりの両面で楽しく暮らせる集落(町)づくりを希望します」などといった内容であった。 ①地区別の分析 六郷、七郷、高砂の 3 地区別に自由意見を分類し、名詞及び形容詞の頻度表を作成したの

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21 が表 3-6 である。地区別に見ても、「欲しい」「早い」「農地」「復旧」という言葉が上位になることは 変わらない。しかし、「生活」という言葉が六郷地区だけで 33 戸(13。7%)となっており、七郷地 区の 8 戸(4。8%)、高砂地区の 12 戸(6。7%)に対して統計的に有意な差がある(5%水準)。 「排水」という言葉に関しては、七郷地区では上位 10 位に出てこないが 10 戸(6。1%)、高砂地 区では 21 戸(11。7%)であるが、六郷地区は 5 戸(2。1%)となっており、統計的に有意な差が ある(5%水準)。「畑」という名詞の頻度にも地区間で差がある。六郷地区では 26 戸(10。8%)、 七郷地区では 26 戸(15。9%)、高砂地区では 2 戸(1。1%)となっており、統計的に有意な差が ある(5%水準)。 次に、『生活』に該当する文章に着目すると、「生活再建等を早めに示して欲しい(収入の道を 探して欲しい。)」「野菜農家 5 名生活資金がまずは必要」「国の基本方針で、危険区域を設定し てもらい住宅は高台に集団移転し、その後の宅地、農地は大規模基盤整備を国の金額投資で してもらい、その実施主体は、農業法人、農業実践組合に担わせる。その間の生活費、再生産 費の補助金を出してもらいたい」などといった生活資金や生活支援に関する意見が 29 件と多く 出されている。なお、六郷地区が他の地区に比べて生活に対する要望が多くなっている理由と して、この地域では他の地域と比較して農業が盛んであり不動産などの農外収入が少ないため に生活資金へのニーズが多いことが考えられる(註 2)。 高砂地区のみに出現した『排水』に該当する文章に着目すると、「一年でも早い排水機場の整 備をお願い致します。元の仙台平野の中で営農をしたい」「畦畔、用水掘りが泥で埋まってしま い、排水が不能となっております。畦畔、用排水の整備をして欲しいです」「早く排水できるように してほしい」といった排水機場の早急な復旧や排水路の堆積土砂の撤去に対する要望が多い。 この理由としては、六郷・七郷に出現する『畑』を含む回答からも見られるように、水田と比較する と畑は機械がなくても手作業でできることに加えてそれほど排水が必要ではないこと、そして六 郷地区では 10a 区画のままであることや稲作よりも畑作が盛んな地域であることから、水田に不 可欠な排水に対する要望が少なかったのではないかと考えることができる。 ②営農意向別の分析 営農意向を『規模拡大』、『現状維持』、『縮小』、『やめたい』、『分からない・無回答』の 5 つに 分けて、名詞及び形容詞の頻度表を作成したのが表 3-7 である。営農意向別に見ても、やはり 「欲しい」、「早い」、 「農地」、「復旧」という言葉が上位になることは変わらないことがわかる。し かし、規模拡大と回答した農業者は、「機械」という言葉が 15 戸(31。9%)であるが、現状維持が 29 戸(8。1%)、縮小が 3 戸(6。0%)、やめたいが 5 戸(7。6%)、及び分からない・無回答が回 答なしとなっており、他に比べて割合が多くなっている。なお、これらについては、サンプル数が 少ないために比率の差の検定は行っていない。さらに、『機械』が使われている該当文章を確認 すると、「農業機械を手に入れたいが無料で使えるものがあるとありがたい」「個人で機械装備は 考えられない。集団での取得に対して支援が必要」「農業機械を買い揃えたばかりで返済が大 変」「機械を個人的に購入整備すると大変、JA や市で助成してほしい」「農家が購入しなくても 済むように JA で機械のリースをして欲しい。」であった。 この結果から、規模拡大意向のある農業者は農業機械の取得に関するニーズが多いことがわ かるが、現状維持と回答した農業者でも機械支援の要望が 29 件出されており機械支援へのニ ーズは少なくない。

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22 第4項 結論 本節では、農業者の営農再開に対する意向の傾向と復興に向けた必要な支援ニーズを明ら かにするために、回答者属性と営農意向のクロス集計及び自由意見のテキストデータマイニン グによる分析を行った。そこからは当初想定したとおり、『年齢が若く』『規模拡大を望み』『震災 前と同じ場所に住みたい』と回答した農業者が営農再開に対して比較的強い意欲があることが 確認された。さらに、具体的な支援ニーズとしては、農地の早期復旧、居住区域の線引き、農業 機械の取得支援などが明らかになった。 今後地元では圃場整備や営農再開へ向けた営農体制などの話し合いが行われることになる が、圃場整備であれば農地の所有者、営農体制に関しては実行組合の役員がその中心になる と考えられ、地元の復興プランは 60 代、70 代の比較的年配の農業者によって議論されることに なる。しかし、震災復興には 5 年から 10 年という長い時間がかかるので、今後の担い手となる青 年部に代表される 30 代、40 代の若手農業者が復興プランの検討に加わることができるようにし なければならない。 営農継続を望む農業者の多くは震災前と同じ場所への居住意向を示しているが、仙台市で は海岸沿いの集落については移転対象地区として設定する方針であり、職住一体の復興は困 難である。したがって、集団移転先が明らかになった時点で再度、営農意向調査を実施して復 興プランを改めて作らざるを得ない。そして、農業機械の再取得は、集落営農による営農再開を 望む場合には国の補助事業である東日本大震災生産対策交付金を活用することはできるが、 1/2 の補助残に関しては自己資金を調達しなければならず、流失・損壊した農業機械との二重ロ ーンを抱えることになる。こうした状況下で、営農再開を希望する個別経営の場合には現時点で 活用できる補助事業がない。そのため、行政や JA は農地の復旧だけでなく、農業機械の再取 得に関する支援も検討しなければならない。 以上のように、本節では、意向調査の分析により被災農業者の具体的な支援ニーズを把握す るとともに、現時点で活用できる国や行政、農業団体などの支援メニューとそれらニーズを照らし 合わせたときに農協として支援しなければいけない、例えば個別経営での営農再開を望む農業 者に対して負担の少ない農業機械のリースを行うなどの支援メニューを明確にすることができた。 なお、震災のような非常事態には、時間の経過とともに刻々と状況が変わることに伴い被災農 業者の意向も変わることが考えられる。これに関連して、現在、国(東北農政局)が圃場整備事業 の参加の可否とともに被災農業者の営農意向のアンケートを実施している。被災農業者の意向 変化については、今後の課題としたい。 最後に、本節では意向調査の結果の他に水田台帳のデータを用いたが、非常事態において 的確な対応策を検討するために常日頃から農業者に関するデータベースを整備しておくことも 肝要であることを付記しておく。

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23 (註 1)実施期間が 3 か月と長期にわたっているのは、農業者の安否確認や営農・生活の相談に 応じて少しでも不安を解消してもらうことを目的として対面ヒアリング方式を採用したことや、避難 している農業者の行方をつかむことに時間がかかったためである。また、調査設計時点は、震災 直後ということもあり、データ回収のしやすさという観点から耕作者に限定して調査を行った。土 地持ち非農家に対する意向調査を行うことも必要であるが、それは今後の課題とさせていただき たい。なお、7 月には所在がつかめなかった一部の農業者に対するアンケート調査を実施して おり、50 サンプルほど含まれている。 (註 2)仙台農協の組合員の不動産所有に関する内部データに基づいているが、個人情報保護 法との兼ね合いからデータは非公表とせざるを得ない。

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24 第5項 仙台農協の JA 出資法人に関する取組 前項までは、東日本大震災からの営農再開支援に関する事例を説明してきたが、本項では、 農協が農業生産法人に出資する JA 出資法人の取組について考察する。 仙台農協では、地域農業ビジョンとして 2004 年に策定した「JA 仙台 21 世紀水田農業チャレ ンジプラン」があり、地域の農地を集約しテナントビルのように用途に応じて担い手に貸し出すと いうテナントビル型農場制農業を標榜してきた。国の経営安定対策においては、認定農業者の 他に地域の集団転作組織を担い手組織として位置づけて法人化を目指して取組を進めてきた。 そのなかで、農協が出資する農業法人である JA 出資法人について、2012 年 11 月から職員 によるプロジェクトチームをつくり検討を行ってきた。プロジェクトでは、震災復興に向けて法人 化する集落営農組織が出てくることを想定し、その集落営農組織の法人化の際に農協が一部出 資して法人の経営を支援する方針を策定した。また、高齢化等により担い手不在が顕在化して きた地域については、農協が主体となる子会社型の法人の必要性をまとめた。その内容を 2013 年 2 月に役員協議会に提案しい理事会での承認を得た。理事会の承認後に、「JA 仙台の出資 による農業法人支援方針」を設定し、2013 年 6 月の総代会において可決承認されると同時に、 井土生産組合への出資(加入)も承認された。 この方針は、集落営農組織が法人化する際に、仙台農協も構成員として出資(加入)し、集落 営農法人の経営支援を行うものである。主な支援の内容としては、専属部署を設置して記帳代 行及び会計支援を行うことであり、2019 年 12 月末で、15 法人(子会社である JA 仙台集落営 農ネットワークを除く)に出資している(表 3-8)。 また、同プロジェクトでは、中山間地の組合員に対して、今後の農業経営に関する意向調査を 実施した。この調査では、5 年先、10 年先の農業経営意向と望ましい委託先についてアンケー トを実施した。その結果によると、5 年後には 7 割程度の農家が継続しているが、10 年後には 3 割に満たない程度まで農家が減少し、地域農業の弱体化は避けられない見通しがあることが明 らかになった。そして、年々増加している作付けできない農地については、生産委託先として農 協を希望している回答が多く上げられた。 こうした結果を踏まえて、2018 年 10 月には、集落営農組織が法人化できない地域や担い手 が不在になる地域に対して、受け皿となる農業法人を設立し、集落営農組織のネットワークを構 築するとともに、不耕作や耕作放棄地等の増加抑制、新規就農者育成支援を行なうこととした。 仙台農協が子会社として設立した株式会社 JA 仙台集落営農ネットワークである。本法人は、 2019 年 12 月現在で対象地区を多賀城のみとしているが、今後地域の要望に応じて対象を拡 大していくことになる。また、今後は新規就農者の育成支援も行っていく予定である。

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25 補 節 事例2:津波被災地の食料供給と取引構造の変化に果たす農協の役割 第1項 はじめに 本節を執筆した 2013 年 12 月は、宮城県の被災地では、多くの課題を抱えながらも営農再開 が本格化してきた時期である。一方で、集団移転が進まずに仮設住宅や民間借上住宅での生 活を余儀なくされている被災者も多く残されており、生活面も含めた復旧には依然として時間が かかる状況でもあった。 こうしたなかで、農産物市場流通に目を向けてみると、営農活動を休止している間に、他産地 に市場シェアを奪われているという例も多くあり、被災地では営農再開後の市場シェアの奪回と いう課題も抱えていることになる。 そこで、本節は震災が農産物流通にどのような問題を生じさせたのかを明らかにする。まずは、 震災直後の食料供給の状況を把握し、今後の災害に対して備えるべき対応策を明示する。次に、 農産物市場構造の変化を把握することで、被災地が抱えている営農再開後の農産物販売にお ける課題を提示する。 農産物流通には多くの取引形態があるが、市場シェアを大きく占めている農協が関わってい る事例に限定することとする。農協の販売経路と言っても、単協が運営している直売所を通じた 直接販売、野菜や果物といった園芸作物を中心に取引している市場を経由する共同販売(以下、 「共販」)、米・麦・大豆等については全国農業協同組合連合会(以下、「全農」)による系統販売 と多岐にわたっている。 そのなかで、震災直後の食料供給の状況については、仙台農協の農産物直売所高砂店を事 例とする。この直売所は、人口 100 万人を抱える仙台市に所在し、そこに農産物を出荷する生 産者の多くは津波で被災した仙台東部地域の農業者である。「食と農の発信基地」として地域住 民に安全・安心な農産物を提供してきた直売所の震災直後の状況を分析する。 そして、震災前後の取引構造の変化については、宮城県における主要な農産物である米とい ちごに限定して分析する。 表 3-9 に見られるように、宮城県は「ひとめぼれ」や「ササニシキ」に代表される米の産地であ るが、津波被災によって 10,000ha を超える水田が作付け不能になっており、米は生産現場で は震災の影響が最も大きい品目である。宮城県における米の取引は、全農を通じた系統販売の ウエイトが大きいために、全農宮城県本部に対してヒアリング調査を行い分析する。また、米は生 産調整が行われており、作付けできなかった生産数量目標は県内及び県外で調整された。その 状況については、宮城県農業協同組合中央会へのヒアリング調査を通じて把握する。 続いて、いちごは宮城県が東北一の産地であり、主要な産地である山元町・亘理町が津波被 災によって壊滅的な被害を受けている。いちごについても、卸売市場の統計資料や全農の調査 を通じて市場シェアの変化を把握し課題を明らかにする。

図 1-1   農協の販売及び購買取扱高の年次推移 出所:総合農協統計表
図 3-1  仙台東部地域の復旧スケジュール
図 3-3   札幌市中央卸売市場におけるいちごの年度別市場シェア 出所:札幌市「札幌市中央卸売市場年報」
図 3-5   株式会社ジェイエイ仙台の機構図 出所:仙台農協資料
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