( 東 女 医 大 誌 第53巻 第3
号 )
頁 273‑277 昭和58年3月 43
特別掲載
ト リ レ ン ・ ジ イ ソ シ ア ネ ー ト の
皮膚感作性に関する実験的研究
東京f;f医 科 大 学 第 二 衛 生 学 教 室 ( 主 任 石津澄子教授〕
大 津 友 子 ・ 教 授 石 津 澄 子
( 受 付 昭 和57年12月23日〉
Experimental Study on Skin Sensitization with Tolylene Diisocyanate Tomoko OHSA W A, and Sumiko ISHlZU
Department of Pub1ic Health (Director: Prof. Sumiko ISHIZU) Tokyo Women's Medical College
Tolylene diisocyanate (TDI) is known to be a hapten to cause hypersensitivity in workers of th巴
polyurethane industry.
Immunochemically, the antigenic determinant group for TDI is considered to be the tolyl group. The two isocyanate (‑NCO) groups of TDI are highly reactive and are believed to conjugate with the carrier protem.
The present study compared the skin‑sensitizing ability of three (0‑, m‑, p‑) tolyl isocyanat巴(TI)isomers with TDI in mice, in order to investigate whether the two isocyanate groups are both necessary or one of them plays the dominant part in skin sensitization with TDI.
All three TI isomers r巴sult巴dto have skin‑sensitizing ability, though in a weaker degree compared to that of TDI. However, there was no significant difference among the three isomers.
Thes巴resultssuggest that the presence of one isocyanate group is enough to caUSe skin sensitization, despite of its position on the benzene ring.
はじめに
トリレン・ジイソシアネート(以下TDIと略〉
は,ポリウレタンの原料として最も多用されてい るイソシアネート化合物の1つであるが,取り扱 う作業者に感作性の生体障害が発生することから 関係産業の労働衛生上の問題となっていたlト3)
当教室では従来から TDIの感作性に関し,マウ スを用いてアレルギ一性接触皮膚炎の実験を中心 に検討してきた4)
一般に,アレノレギー性接触皮膚炎発生の機序は,
原因となる低分子化合物のハプテンが皮膚に接触
‑273
し,皮膚を通過する聞に表皮成分(細胞膜成分〉
と結合してハプテン担体結合物を形成して完全抗 原となり5),この中の抗原決定基に対応して抗体 がつくられるといわれる6) たとえば,アレルギー 性接触皮膚炎のモデル実験にしばしば使われるジ ニトロクロルベンゼン(以下DNCBと略〉の作用 についてみると,この物質は,ジニトロフルオロ ベンゼンや,ジニトロベンゼ、ンスルホン酸ナトリ ウムなどと同様に, 2,4‑ジニトロフェニル基が抗 原決定基で,クロルを放し,生体内蛋自のアミノ 酸(リジンのふN H2基〉と結合することが確認さ
44
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NO l‑chloro‑2,4‑dinitrobenzene(DNCB)
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れている7)8) C図1).
そこで,
T D I
塗布の場合を考えてみると,この 物質の生体内への吸収・代謝・排世などがまだ充 分に究明されていないので, どのような形でハプ テンとして働くのかは明らかではないが,構造式 から推測して,最も化学的に反応性に富むのはイソシアネート
C ‑NCO)
基と思われ,この基が生 体内成分と反応,結合することは容易に想像され る.従って,抗原決定基として残る部分は,おそ らくトリル基で、あろうと思われる9) 但し,T D I
に はイソシアネート基がオルト位とパラ位に2つ存 在し,完全抗原を形成して感作性を発揮するため に,イソシアネート基が2つ必要であるか否かが 問題となっていた.そこでこの疑問を解く lつの方法として,イソ シアネート基がIつしか配位されていない, トリ ルイソシアネートを選び 3種の異性体について 皮膚感作性の有無を実験的に検討してみたのであ
る〔図2入
実験方法 1.実験動物
10~11週齢の BALB/c 雄性マウス(体重 26~33 g)を計80匹使用し,下記のごとき実験感作群4群
とコントロール群4群とを構成した.
第
1
群TDI
感 作 群加 ︒
山
附
打 倒
︽
M Y
附
p ‑Tolyll8ocyanate
( p‑TI)
d i c o
o ∞ m o
‑‑TTooll(m‑TI) yyllll88ooccyyaannaattee
( O‑TI) 図
2 T D I
とT I
の3
種の異性体第
2
群TDI
コントロール群第3群
m ‑
トリルイソシアネートC m ‑ T I
と略) 感 作 群第
4
群m ‑ T I
コントロール群第
5
群p ‑
トリルイソシアネー卜C p ‑ T I
と略〉感 作 群
第
6
群m ‑ T I
コントロール群第
7
群 0‑トリルイソシアネートC o ‑ T I
と略〉感 作 群
第
8
群o ‑ T I
コントロール群2 .
感 作 方 法T D I
および3種のT I
をそれぞれオリーブ油に5%
に溶解し,あらかじめ抜毛した各感作群マウス の背部皮膚に1回30μlずつ,連日 5回塗布感作を 行なった.各コントロール群には,同量のオリーブ油のみを塗布した.
3.チャレンジ方法
5回目の塗布感作後4日目に各群それぞれ,被 験物質の 1%オリーブ油溶液を耳介の表裏に塗布
し,アレルギ一反応の惹起の有無を観察した.
4 .
耳介腫脹率の測定感作成立の指標としてチャレンジ前と後の各マ ウス耳介の厚さの腫脹の度合を測定した.測定に はdialthickness gaugeを用いて,チャレンジ前 と後3,24, 48時間の厚さを測り,前値 C
=
100)274
に対する腫脹率を算出した.
5.主要臓器および耳介の病理組織学的検索 チャレンジ後48時間に耳介の厚さ測定ののち,
マウスは直ちに剖検し,心 ・肺・肝・腎・牌・胸 腺を摘出,重量測定後,ホルマリン固定, パラフィ
ン包埋,へマトキシリ ン・エオジン重染色を行な い,検鏡した.なお,耳介を適当の大きさに切り 取り,各臓器と同様の方法で病理組織標本を作成,
検鏡した.
実験結果 1.耳介腫脹率の比較
図Hこ示すごとく,チャレンジ後48時間の耳介 腫脹率は, TDIに比し,程度はやや弱いが, TIの 3異性体とも,皮膚感作性を有していた.チャレ ンジ後24時間の時点では, TDI 222%に対し, m‑
TI 198%, p‑TI 192%, o‑TI 185%を示していた が, 48時間経過すると,腫脹率はそれぞれ減少し
2.4‑Toly崎 冊 (TDI) m‑TolyNa
∞
yanatep‑TOlyl
・ ∞
ya闇te o ‑TolyUaocyanate45
た.そしてその時の減少率は, 24時間後に比べ,
TDIでは16%しか減少しなかったが, TIでは3 異種とも, 26‑31%の減少を示した.
また3異性体間では,m‑TI群が最も高い腫脹 率を示し,次にp‑体 0‑体の順となっていた.
2.主要臓器の病理学的所見
心・肺・腎には各群とも, コントロール群に比 べ特記すべき変化はみられなかった.
TDI感作群のマウスでは,従来の実験結果か ら,胸腺の萎縮や牌臓の腫大が注目されていた が4) TIの3異性体を塗布した場合にも, TDIと 同様の傾向がみられた(図4).
3.耳介の病理組織学的所見
TIの低濃度溶液を塗布チャレンジして惹起し た耳介の二次性皮膚炎の特徴は, TDI皮膚炎のそ れと同様で、あった.すなわち,写真1のm‑TIコン トロール群の耳介に比し,写真2のm‑TI感作群
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図3 TDIとTIの3異性体による感作マウスの耳介腫脹率の比較(チャレンジ後48 時間〉
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CONn夜)L TDI m‑胃
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図4 TDIとTIによる感作マウスの胸腺および牌臓の重量変化
‑275ー
写真1 m‑TIコントロール群マウスの耳介 (X33)
写真2 m‑TI感作群マウスの耳介 (X33)
写真3 m‑TI感作群マウスの耳介 (X66) 基底層に及ぶ細胞浸潤,毛包を中心とした液状変性,
表皮細胞聞の離関がみられる.
の耳介は高度に腫脹し,組織学的にも血管拡張や 多型の細胞浸潤,真皮浮腫,表皮細胞の疎融解な どアレルギー性皮膚炎の特徴を示していた(写真
3 ).
考 察
以上の実験結果を総括すると,TIの3異性体と も,
T D I
に比べると,感作性はやや弱L、が,マウ スに遅延型の皮膚アレルギーを成立させ得たとい える.一般に,ベンゼン環に2つの置換基がついてい る場合,パラ位とオルト位の基の反応性を比較す ると,オルト位にある基は,第1番目の位置に大 きな原子団がつく場合には,立体障害を受けやす いために,パラ位にある基より反応性が低いと言 われている10)
従って,
T D I
の場合,イソシアネート基が2
っとも反応してそれぞれ皮膚感作に関与するとして も,主として生体内で早く反応するのは,パラ位 のイソシアネート基であろうと推測される.とす れば, TIの3異性体の中では,p‑TIの感作性が最 も高いのではなし、かと予測されたが,現実にはm・
TIが平均値としては最も高い腫脹率を示した.し かし,24時間後の腫脹率では3種聞の差も小さく,
また48時間後ではパラツキも大きいので 3種聞 を比較してみると,有意差は認められなかった.
以上の結果から,この3種の異性体の抗体産生 におよぼす構造上の影響の差異,おるいはイソシ アネート基と蛋白との反応性には,それ程大きな 違いはないのではないかと想定された.
かつてStevensがモルモットを使って100種以 上の化学薬品の皮膚感作性を検討した実験で,イ ソシアネート化合物5種について記載している が,
T D I
などイソシアネート基を2
つ持つジイソ シアネート化合物の方が, 1つしか持たないo‑TI などモノイソシアネート化合物より,やや強い皮 膚反応を示したといわれる11)また,
K a r o l
らは,TDI
そのものをハプテンとして抗原を作製しようとすると
2
つのイソシア ネート基が蛋白と反応して架橋してしまうため に,おそらく抗原決定基がうまく露出せず,完全 抗原がっくりにくいことから, p‑TIを用いて抗原 をつくり,T D I
に感作された作業者血中のt o l y l ‑
specific IgE抗体の検出に成功している12)そして
K a r o l
らはその後も, 0・T I
,m ‑ T I
を用いて同様にT D I
哨息の症状のある作業者血中の抗体を検出‑276
している.しかし,モルモットを感作(吸入・塗 布・腹腔内注射〉して行なったゲ、ル拡散法による 抗体検出では,
T D I
をハプテンとした場合に最も 反応が強くみられ,o ‑ T I
,p ‑ T I
の場合は反応がみ られたが,m ‑ T I
では反応が弱し、例があったと報 告している川.今回われわれの実験結果およびこれらの過去の 文献的記載から考えると,
T I
も,1
つのイソシア ネート基が生体成分と反応して抗原となり感作性 を有するが,やはりTDI
の方が感作性が強いこと が立証されている.従って,TDI
の1
つのイソシ アネート基は,T I
の場合と同様の反応を起こし 他の 1つも蛋白との結合を強くするなど,感作性 を強めるような何らかの反応に関与しているのかも知れない.
結 語
T D I
の有する2
つ の イ ソ シ ア ネ ー ト 基 が 感 作 性に関してどのように関与しているか検討するた めに,イソシアネート基を1つしか特たないトリ ルイソシアネートの3異性体の皮膚感作性を検討 した.その結果3
異性体とも,T D I
よりは感作 性がやや弱かったが,やはり感作性を持つことを 確認した.しかし 3異性体間では有意差はみら れなかった.以上のことより,イソシアネート基は1つでも,
またベンゼ、ン環のどの位置 (0‑,m‑, p‑)につし、て いても,皮膚感作性を有することが明らかとなっ
Tこ
なお本研究の要旨は,東京女子医科大学会 第46回 総会において発表した.
‑277
47
文 献
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巴xperimentalesur quelques cas d'intoxication par le Desmodur T (diisocyanate de toluylさne 1‑2‑4 et 1‑2‑6). Arch Mal Prof Med Trav 12 191‑200 (1951)
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