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密教文化 Vol. 1964 No. 69-70 009村田 昇「北村透谷の仏教 P132-151」

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密 教 文 化

念 死 文 学 透 谷 は い つ も 念 死 し て い た よ う で あ る。 念 生 に よ り て 念 死 し、 念 死 に よ っ て 念 生 し た。 ﹁ 蓬 莱 曲 ﹂ に わ れ 来 り し と こ ろ 知 ら ず、 行 く と こ ろ を も 知 ら ぬ な り、 風 は 北 よ り 来 れ ど、 其 の 行 く と こ ろ 南 な る に あ ら ず、 北 に 帰 る 可 き 為 な り。 わ れ も 亦 行 く と こ ろ あ る に 似 た れ ど、 ま こ と は 元 に 帰 る の み。 ( 二 勧 三 場 ) 時 の 源 な る 死 の 坑 よ、 人 生 の 凡 て の 業 根 を 焼 尽 し て、 人 き つ な を 善 な ら し む る と 聞 け る 死 の 坑 よ !、 吾 人 の 限 な き 情 緒 を く ら や み 断 切 り て、 黒 暗 の う ち に 入 ら し む る と 言 う な る 死 の 坑 よ、 び よ う ど う 善 悪 の 岐 を 躇 み た が へ し も 路 み 守 り し も、 一 様 並 等 に 安 寂 な る 眠 に 就 か し む る と 聞 け る 死 の 坑 よ ⋮ ( 二 勧 四 場 ) 来 れ 死、 来 れ 死、 こ の 崖 を 舞 ひ 下 ら で も、 わ が 最 後 の 力、 世 に 充 つ る 精 気 の 力 と 相 協 ひ て わ が 死 を 鼓 す に 難 き こ と や あ る。 ( 三 勧 二 場 ) 死 こ そ 物 の 終 り な れ、 死 し て 消 ゆ る こ そ、 死 す れ ば こ そ、 い の ち 復 た 他 の 生 涯 に も 入 る ら め。 ( 全 ) と あ る の は、 厭 離 機 土、 欣 求 浄 土 と い う 浄 土 浪 漫 の 詩 曲 で あ っ て、 彼 が 念 生 念 死 の 究 極 で あ る。 彼 の 仏 教 的 作 品 ﹁ 欄 縷 舞 ﹂ の 醐 腰 も、 ラ テ ン 語 で メ メ ン ト モ リ と 呼 ば れ、 死 を 憶 起 す る も の と さ れ た が、 仏 教 で も 亦 然 り で あ る。 彼 は 明 治 二 十 七 年 五 月 十 六 日 芝 公 園 の 自 宅 の 庭 で 総 死 し た。 ﹁ 白 昼 の よ う な 明 る か っ た 月 の 光 の 静 け さ が、 青 木 ( 透 谷 ) の 魂 を 誘 っ た ﹂ ( 藤 村 の ﹁ 春 ﹂ ) の で あ る。 彼 の 帰 依 処 は 既 成 の 神 仏 で は な く、 大 自 然 で あ っ た。 彼 の 死 は 大 自 然 へ の 帰 一 で あ っ た。 古 今 東 西 の 文 豪 が 傑 作 で 念 死 し な い も の は 少

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-132-い。 文 学 は 生 命 の 尊 重 と 愛 の 表 現 で あ る が、 そ の 為 に は 必 ず 念 死 せ ね ば な ら ぬ。 透 谷 の 文 学 は、 念 死 文 学 で あ る。 念 死 的 浪 漫 文 学 で あ る。 透 谷 は い つ も、 い つ ど こ で 死 な う か と 念 い つ め て い た よ う で あ る が、 信 仰 浅 く、 生 命 の 尊 さ を し り え な か っ た 為 自 殺 し た。 自 殺 の 直 接 原 因 は、 家 庭 経 済 苦 と い う 現 実 に 敗 北 し た と 考 え る こ と が 至 当 と 思 う。 透 谷 の 私 淑 し た 西 行 も、 希 望 通 り 如 月 の 月 光 に 照 ら さ れ て 死 ん だ。 密 教 月 輪 観 法 の 往 生 で あ る。 藤 村 の ﹁ 春 ﹂ に は 透 谷 の 死 が 描 か れ て あ る。 ( 註 ) 龍 樹 の 大 智 度 論 巻 二 十 二 に 念 死 を 説 く。 浪 漫 主 義 透 谷 が 恋 愛 結 婚 し た 石 坂 ナ ミ 宛 の 透 谷 書 簡 ( 全 集 巻 三、 一 六 〇 頁 ) が、 藤 村 の ﹁ 春 ﹂ に 引 か れ て あ る。 こ れ は こ れ 三 個 浪 漫 的 熱 狂 苦 悩 の 自 叙 伝 で あ る。 彼 の 一 生 と 倶 に 文 学 も 亦 浪 漫 的 で あ っ た。 抑 々 浪 漫 主 義 は 十 八 世 紀 末 か ら 十 九 世 紀 の 初 に か け て 文 芸 ・ 思 想 ・ 芸 術 一 般 に 亘 っ て 欧 州 全 般 を 風 靡 し た 運 動 で あ る。 こ れ が 内 容 に つ い て、 斎 藤 勇 博 士 の ﹁ 英 文 学 史 ﹂ ( 昭 和 四 年 ) に は、 一 超 自 然 に 対 す る 悲 調 二 時 間 上 空 間 上 遼 遠 な る も の に 対 す る あ こ が れ 1 中 世 趣 味 2 異 国 悲 調 三 自 然 に 対 す る 熱 愛 四 革 命 的 精 神 五 美 に 対 す る 熱 愛 吉 江 喬 松 博 士 の ﹁ 世 界 文 学 大 辞 典 ﹂ ( 昭 和 + 二 年 ) に は、 一 自 由 へ の 欲 求 二 自 然 美 に 対 す る 憧 憬 三 宗 教 的 ・ 中 世 的 要 素 の 復 活 エ キ ゾ テ イ ス ム 四 異 国 悲 緒 五 唯 美 的 傾 向 ( 主 観 的 感 傷 的 理 想 主 義 ) 六 ユ ト ピ ア 思 想 ・ 情 感 的 社 会 主 義 七 情 緒 的 擬 人-恋 愛 ( プ ラ ト ニ ッ ク 恋 愛 ) 八 詩 歌 ( 表 現 形 態 ) 村 田 良 策 氏 の ﹁ 日 本 文 学 大 辞 典 ﹂ ( 昭 和 九 年 ) に は、 一 主 観 的 世 界 把 握 二 空 想 的 で あ り 感 情 的 で あ る こ と 三 個 性 的 で あ り、 自 由 を 尊 重 す る こ と の た め に、 所 謂 伝 統 的 形 式 的 破 壊 が 行 わ れ る こ と 四 即 ち 表 現 の 形 式 的 明 朗 よ り も 感 傷 の 横 溢 五 象 徴 的 で あ り 神 秘 的 で あ る こ と 六 好 奇 的 で あ り 異 国 情 緒 を 好 む こ と 七 無 意 志 的 憧 憬 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 と あ る。 こ れ に よ っ て 浪 漫 主 義 が 宗 教 殊 に キ リ ス ト 教 又 は 浄 土 教 と 共 通 点 の 勘 く な い こ と が し ら れ る。 即 ち 透 谷 の 生 涯 並 に 文 芸 に お い て も 之 が 証 せ ら れ て い る。 透 谷 が 絶 対 的 永 遠 を 発 見 し た も の、 即 ち 浪 漫 の 対 象 と な し た も の は、 心 霊 界、 新 し い 神 と 神 の 国、 恋、 大 自 然、 中 世 的 風 雅 で あ っ た。 人 間 の 楽 天 的 幸 福 は、 理 想 と 現 実 の 調 和 に あ る が、 透 谷 を 先 駆 と す る 日 本 浪 漫 主 義 は、 想 界 に の み 調 和 あ り と し て 熱 情 を 傾 け、 現 実 を 無 価 値 と し て 否 定 厭 世 し た。 透 谷 の 敗 北 的 悲 劇 は、 余 り に も 自 我 の 主 張 に 独 走 し て、 周 囲 の 現 実 と 妥 協 し え な か っ た 処 に あ っ た。 人 は 理 想 あ る が 故 に 貴 か る べ し。 も し 実 在 の 仮 偽 な る 境 遇 に 満 足 し う る 事 を 得 る も の な ら ば、 吾 人 は 人 間 の 霊 な る 価 値 を 知 る に 苦 し む な り。 理 想 な く し て は 希 望 も あ る ま じ、 希 望 な く て は 生 命 も あ る ま じ、 唯 だ 理 想 あ る の み に て は 何 の 善 き を 見 ず、 吾 人 は 理 想 を 抱 く と 共 に、 理 想 の 終 極 ま で 貫 き 到 ら ん 事 を 望 む べ き な り。 ( 一 種 の 嬢 夷 思 想 ・ 全 集 巻 一、 三 四 〇 頁 ) こ れ は 冷 静 な 論 理 で あ る が、 こ れ が 詩 人 的 熱 狂 と 変 っ た 為 に、 人 生 の 破 綻 が 生 じ た。 浪 漫 主 義 の 特 性 で あ る 無 限 追 求 は、 よ し 現 実 に 破 れ た 者 と 錐 も、 宗 教 に よ っ て 満 す こ と が で き る。 現 実 に 破 れ た 透 谷 は、 熱 狂 的 に 宗 教 を 信 仰 し た。 但 し 彼 の 詩 人 的 純 情 と、 英 米 文 学 や キ リ ス ト 教 か ら 得 た 近 代 的 自 我 の 自 覚 は、 既 成 宗 教 の も つ 封 建 性 と 非 近 代 性 に つ い て は、 厳 し く 排 斥 し た。 つ ら く 思 ふ に、 寂 滅 為 楽 の 幽 妙 な る 仏 味 と 宗 教 的 虚 無 思 想 が 吾 人 の 中 に 存 し て、 吾 人 の 生 霊 を 支 配 せ し 事 久 し、 貴 族 的 思 想 の 族 長 制 度 と 印 度 教 と の 父 母 よ り 生 れ て、 堅 く 其 地 歩 を 占 め、 以 て 平 的 的 共 和 思 想 の 発 達 を 妨 げ 居 た る 事 も 既 に 久 し、 空 漠 た る 大 空 を 理 想 と す る 想 像 に 富 め る 哲 学 者 は 多 け れ ど、 最 後 の 円 満 な る 大 理 想 境 に 思 ひ を 馳 す る 者 は あ ら ず、 何 事 も 消 極 的 に 退 縮 し て、 人 生 の 霊 現 な る 実 存 を 証 す る こ と な く、 徒 ら に 虚 無 標 澱 の 来 世 を 頼 む、 斯 の 如 く に し て 活 気 な き 国 民 と な り、 萎 縮 し や す き 民 と な り て、 今 日 の 形 勢 に は 推 し 及 び ぬ。 わ れ ら が 尤 も 悲 し く 思 ふ は、 一 国 の 脊 髄 た る 宗 教 の 力 の 虚 飾 に 流 れ、 儀 式 に 落 ち、 活 き た る 実 際 的 能 力 を 消 耗 し 去 り た る 事 な り ⋮ ⋮ 到 底 人 間 を 仮 偽 の 虚 栄 世 界、 貧 欲 世 界、 迷 盲 世 界 よ り 救 ひ 出 し て、 実 在 の 荘 厳 な る 円 満 境 に 引 誘 す る の 望 み な し。 而 し て 一 種 の 撰 夷

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-134-論 者 は 此 有 様 を 以 て 上 々 な る 社 界 の 組 織 と 認 め、 永 遠 に の ぞ み を か く べ き 邦 家 ぞ と 信 ず ( 一 種 の 穣 夷 思 想 ・ 全 集 巻 一、 三 三 八 頁 ) 彼 の 周 辺 の 仏 教 が 退 嬰 的、 形 式 的、 封 建 的 で、 哲 学 に 偏 し、 大 乗 的 信 仰 諦 念 な く 現 実 を 善 導 す る 能 力 な き を 憤 っ て い る の で あ る。 キ リ ス ト 教 に つ い て も、 教 義 は 信 仰 し た が、 教 会 や 宣 教 師 に つ い て は 今 の 世 の 所 謂 基 督 教 会 な る も の を 見 る に、 朝 に 入 り た る も の 夕 に 出 で、 出 没 常 な く、 去 就 定 り な し。 ⋮ ⋮ 何 ぞ 自 ら の 心 宮 を 軽 ん ず る の 甚 し き。 洗 礼 を 絶 す は 悪 き こ と に あ ら ず、 然 れ ど も 其 を 以 て 基 督 の 弟 子 と な る に 欠 く べ か ら ざ る の 大 礼 と な す は 非 な り。 心 を 以 て 基 督 に 冥 交 す る 時、 彼 は 無 上 の 栄 あ る 基 督 の 弟 子 な り。 ⋮ ⋮ 祈 祷 の 教 会 を か し ま し う す る は、 尤 も 好 ま し か ら ぬ こ と な れ、 我 は 凡 て の 教 会 の 黙 了 せ ん 時、 大 活 気 の 炎 上 す べ き を 信 ず。 ( 各 人 心 宮 内 の 秘 宮 ・ 全 集 巻 二、 一 一 -一 二 頁 ) と 激 し く 批 判 し て い る。 要 す る に 仏 教 耶 教 に 鎌 り な か っ た 彼 は、 形 式 や 因 習 に 執 わ れ ぬ 彼 独 自 の 新 宗 教 と も い う べ き も の を 工 夫 し て い る。 そ れ は 宗 教 的 散 文 詩 と も い う べ き ﹁ 各 人 心 宮 内 の 秘 宮 ﹂ ﹁ 他 界 に 対 す る 観 念 ﹂ ﹁ 心 池 蓮 ﹂ ﹁ 内 部 生 命 論 ﹂ ﹁ 万 物 の 声 と 自 然 ﹂ ﹁ 心 の 経 験 ﹂ 等 の 評 論 で し ら れ る。 彼 の 文 学 観 も こ れ に 縁 起 し、 浪 漫 主 義 の 持 質 も 亦 こ こ に 胚 胎 し て い る。 彼 ( 尊 徳 ) が 懐 抱 せ し 信 仰 は 蓋 し 経 典 の 文 学 を 通 じ て 来 ら ず、 ⋮ ⋮ 釈 氏 を 説 か ず、 神 道 を 談 ぜ ざ る 尊 徳 翁 は、 賢 く 天 地 の 善 美、、 人 心 の 調 和、 進 み て は 人 界 に 天 国 を 来 す る 極 意 を 自 信 し た り し 人 な り ( 全 集 巻 一、 二 五 二 頁 ) の 如 き も、 新 宗 教 の 価 値 を 信 じ た 文 で あ る。 而 し て か か る 無 教 会 主 義 的 新 宗 教 は、 米 国 の 哲 人 エ マ ー ス ン ( 一 八 〇 三 -八 二 ) 並 に 内 村 鑑 三 ( 一 八 六 一-一 九 三 〇 ) の 影 響 に よ る 処 が 少 く な い と 思 わ れ る。 無 教 会 傾 向 の 新 宗 教 は、 明 治 啓 蒙 思 想 の 一 特 質 で、 福 沢 輸 吉 に も 現 わ れ て い る。 透 谷 は 浪 漫 的 な る が 故 に 宗 教 を 求 め、 宗 教 を 信 じ て 愈 々 浪 漫 的 に 現 実 の 矛 盾 を 感 じ 深 刻 な 厭 世、 虚 無、 無 常 観 に 陥 り、 生 涯 を 悲 劇 的 に し た。 浪 漫 主 義 の 神 秘 主 義 的 擬 似 宗 教 性 が 真 実 の 宗 教 的 信 仰 の 代 り に 現 れ た と も い う べ き で あ る。 こ れ は 透 谷 の み な ら ず 当 時 の 智 識 青 年 一 般 の 現 象 で あ っ た。 透 谷 は 入 界 を ﹁ 燭 縷 の 舞 ﹂ 一 秋 の 蝶 ﹂ ﹁ 露 ﹂ を 以 て 象 徴 し、 又 牢 獄 な 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 り と 観 じ た。 幸 福 な る 生 涯 に は、 熱 意 な る 者 少 し。 熱 意 は 不 幸 の 友 な り。 熱 意 は 悲 哀 の 隣. な り。 ⋮ ⋮ 熱 意 あ る が 故 に 執 着 あ り、 執 着 あ る が 故 に、 困 難 あ り、 又 不 幸 あ り。 ⋮ ⋮ 熱 意 は ト ラ ・ ゼ ヂ ー の 要 素 に し て、 而 し て 悲 哀 の 物 に 対 す る 快 感 の 要 素 の ) な り。 人 生 に 熱 意 あ る は、 即 ち 戯 曲 に ト ラ ゼ ヂ ー あ る 所 以 な り。 熱 意、 之 れ 詩 人 が 討 究 す べ き 一 題 目 に あ ら ず や ( 熱 意・ 全 集 巻 二、 二 五 五-二 五 九 頁 ) こ の 文 芸 観 は 悲 哀 を 中 ・心 に し、 悲 哀 は 人 間 愛 と 宗 教 的 厭 世 観 に 因 っ て い る。 宗 教 的 文 芸 論 か く て 彼 の 文 芸 は、 宗 教 と 密 合 し て い る。 詩 人 哲 学 者 の 為 す と こ ろ 豊 に 神 の 業 を 奪 ふ も の な ら ん や、 彼 等 は 内 部 の 生 命 を 観 察 す る 者 に あ ら ず し て 何 ぞ や。 ⋮ ⋮ 生 命 ⋮ 此 語 の 中 に い か ば か り 深 奥 な る 意 味 を 含 む よ。 宗 教 の 泉 源 は 愛 に あ り、 ( 内 部 生 命 論 ・ 全 集 巻 二、 二 四 五 -二 四 六 頁 ) 文 学 は 人 間 と 無 限 と を 研 究 す る ) 種 の 事 業 な り。 ( 明 治 文 学 管 見・ 全 集 巻 二、 一 六 三 頁 ) 大 な る 詩 人 に は 必 ず 一 種 の 信 仰 あ り、 必 ず 一 種 の 宗 教 あ り、 必 ず 一 種 の 神 学 あ り、 ホ ー マ ー に 於 て 希 臓 古 神 の 精 を 見 る、 シ ヱ ー キ ス ピ ー ア に 於 て 英 国 中 古 の 信 仰 を 見 る、 西 行 に 於 て 西 行 の 宗 教 あ り、 芭 蕉 に 於 て 芭 蕉 の 宗 教 あ り、 唯 だ 俗 眼 を 以 て 之 を 視 る こ と 能 は ざ る は、 凡 て の 儀 式 と 凡 て の 形 式 と を 離 れ て 立 て る 宗 教 あ れ ば な り。 彼 等 の 宗 教 的 観 念 は 具 躰 的 な る を 得 ざ る も、 之 を 以 て 宗 教 な し と 言 ふ ば、 宗 教 の 何 物 た る を 知 ら ざ る 論 者 の 見 な り。 人 類 に 対 す る 濃 厚 な る 同 情 は、 以 て 宗 教 の 一 部 分 と 名 つ く 可 か ら ざ る か。 人 類 の 為 に 沈 痛 な る 批 判 を 下 し て 反 省 を 促 が す は、 以 て 宗 教 の 一 部 と 名 く 可 か ら ざ る か。 ( 情 熱 ・ 全 集 巻 二、 二 九 九 頁 ) 透 谷 は 詩 人 の 特 性 は、 優 と 聖 と 美 と を 具 備 せ る 人 間 愛 の 情 熱 で あ り、 之 は 宗 教 に よ っ て 養 わ れ る と し た。 そ の 宗 教 た る や 既 成 宗 教 に 囚 わ れ ぬ 独 自 の も の で あ っ た。 そ れ が 教 祖 風 な 圧 制 的 独 断 が 少 な か っ た の は、 啓 蒙 期 の 新 人 ら し く 東 西 の 思 想、 文 芸 並 に 新 時 代 の 科 学 の 教 養 を も っ て い、 且 は ﹁ 透 谷 は、 キ リ ス ト 教 に よ っ て 目 を さ ま し た が、 仏 教 を も う 少 し 極 め た い と 言 っ て い た。 そ の 仏 教 を 極 め ず に 死 ん で し ま っ た ﹂ ( 井 上 康 文 ﹁ 北 村 透 谷 と 島 崎 藤 村 ﹂ 愛 請 九 ノ ニ、 昭 和 九 ・ 二、 笹 淵 友 一、 ﹁ 文 学 界 ﹂ と そ の 時 代 上 一 五 四 頁 引 用 ) の 如 く で あ れ ば、 仏 教 的 体 験 が 未 熟 で あ っ た か ら で あ る。 仏 教 の

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-136-未 得 度 は 聴 て 自 殺 の 一 因 と も な っ た と 考 え ら れ る。 こ の こ と を 敢 て こ こ に 言 う の は、 芥 川 龍 之 介、 太 宰 治 の 如 き キ リ ス ト 教 信 者 が、 自 殺 天 折 し て い る が、 仏 教 を 信 じ た 日 本 の 文 芸 人 の 一 生 の 行 実 は 概 ね 柔 軟 と 強 靱 の 調 和 に あ っ た か ら で あ る。 こ の こ と を 独 断 と す る 人 も あ ろ う か ら、 章 を 改 め て 弁 説 す る。 透 谷 は 文 芸 に よ り 宗 教 的 人 間 の 形 成 を 企 て、 宗 教 的 憧 憬 を 文 芸 に 表 現 し た。 而 し て 彼 の 宗 教 は、 批 判 的 に キ 教 と 仏 教 を 受 容 し、 こ れ と 彼 の 個 性 と 教 養 を 融 合 さ せ た 透 谷 宗 と も い う べ き も の で あ っ た。 か か る 一 人 一 宗 と も い う べ き 無 教 会 性 自 由 宗 教 思 想 は、 彼 が 一 致 点 あ る が 故 に 尊 敬 し た 西 行、 芭 蕉、 尊 徳、 カ ー ラ イ ル、 エ マ ー ス ン に あ り、 彼 以 後 に お い て 鑑 三、 藤 村、 実 篤、 西 田 天 香、 同 幾 太 郎、 田 辺 元、 高 橋 里 美 等 に 現 れ た。 そ の 他 現 代 の 新 人 生 を 創 造 思 索 し て み せ た 多 く の 文 人、 哲 人 は、 概 ね 然 り で あ っ た。 透 谷 の 言 を 侯 つ 迄 も な く、 人 類 の 進 化 を 助 け る 傑 れ た 文 芸 で、 宗 教 性 を 包 摂 し な い も の は な い。 透 谷 は 文 芸 と 宗 教 の 相 違 に つ い て は、 次 の 如 く 明 晰 に 判 断 し て い る。 文 芸 は 宗 教 若 く は 哲 学 の 如 く 正 面 よ り 生 命 を 説 く を 要 せ ざ る な り。 又 能 は ざ る な り。 文 芸 は 思 想 と 文 芸 と を 抱 合 し た る 者 に し て、 思 想 あ り と も 美 術 な く ん ば 既 に 文 芸 に あ ら ず。 美 術 あ り と も 思 想 な く ん ば 既 に 文 芸 に あ ら ず。 華 文 妙 辞 の み に て は 文 芸 の 上 乗 に 達 し 難 く、 左 り と て 思 想 の み に て は 決 し て 文 芸 と い う こ と 能 は ざ る な り。 ( 内 部 生 命 論 ・ 全 集 巻 二、 二 四 一 頁 ) 透 谷 と 西 行 透 谷 が 古 典 的 詩 人 の 中 で、 特 に 西 行 と 芭 蕉 に 私 淑 し た の は、 人 生 観、 厭 世 観、 自 然 観、 風 流、 浪 漫 的 詩 情 に 相 通 ず る も の が あ っ た か ら で あ る。 西 行 に つ い て は、 和 文 学 史 ( 全 集 巻 二、 一 〇 九 ) 人 生 に 相 渉 と は 何 の 謂 ぞ ( 同、 一 一 七 ) が あ り、 日 記 に は ﹁ 西 行 伝 ﹂ を 草 し ﹁ 西 行 の 復 生 ﹂ と い う 作 品 の 構 想 が あ っ た と あ る。 ( 全 集 巻 三、 一 = 二 九 ) そ の 中、 端 的 な 西 行 観 は、 次 の 文 で あ る。 乱 離 常 な く、 世 の 人 の あ は れ の こ る か た な く 見 つ く し て、 深 く 無 常 を 感 得 し た る 西 上 人 が、 諮 然 と し て 眼 を 開 き、 大 喝 一 声 身 を 分 け て と、 う た ひ た る は ま こ と 故 あ る こ と に て ⋮ ⋮ 栄 枯 盛 衰 の 外 に 出 で、 ひ た す ら 天 地 の ま こ と に 身 を 委 ぬ る 身 に 取 り て、 花 の 散 る こ と、 月 の く も る こ と、 こ れ ば か り は い か に 悲 し か る ら む。 ⋮ ⋮ 無 常 元 よ り 仏 教 想 に て は 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 大 な る 真 理 な れ ば、 花 に 対 し て 無 常 を 悟 る は、 西 上 人 の 本 領 と も 言 う べ し。 ⋮ ひ と り 無 常 を 悟 る の み に あ ら で、 無 常 に 対 し て 惜 ま る る 心、 こ の 心 ぞ 彼 を し て 宗 教 家 た ら し め ず 詩 人 た ら し め た る な り。 ( 対 花 小 録 ・ 全 集 巻 二、 一 九 二 -四 頁 ) 吾 人 が 折 々 西 行 芭 蕉 の 名 を 引 き 出 す を 怪 し み た る は 御 尤 な り。 然 れ ど も い か に せ ん 吾 人 は 真 正 の 意 味 に 於 て、 日 本 の 詩 人 ( 過 去 の、 即 ち 仏 教 的 日 本 の ) と し て は 先 ず 指 を 彼 等 に 屈 す る 者 な り。 ( 賎 事 楽 弁 ・ 全 集 巻 二、 二 三 六 頁 ) 西 行 が 歌 道 と 仏 道 を 一 如 に 観 た こ と は、 西 行 法 師 遁 世 の 後、 天 台、 真 言 大 事 を 伝 へ て 侍 り け る を、 吉 水 の 慈 鎮 和 尚 伝 ふ べ き 由、 仰 せ ら れ け れ ば、 先 づ 和 歌 を 御 稽 古 候 へ。 和 歌 を 御 心 得 な く ば、 真 宗 の 大 事 は 御 心 得 候 は じ ( 沙 石 集 ) 和 歌 は 常 に 心 澄 む 故 に、 悪 念 な く し て、 後 世 を 思 ふ も そ の 心 を す す む る 也 ( 西 行 談 抄 ) 西 行 法 師 常 に 来 り て 物 語 し て 日 く、 こ の 歌 即 ち こ れ 如 来 の 真 の 形 体 な り。 さ れ ば 一 首 よ み 出 で て は、 一 体 の 仏 像 を 造 る 思 ひ を な し、 一 句 を 思 ひ つ づ け て は 秘 密 の 真 言 を 唱 ふ る に 同 じ ( 明 恵 上 人 伝 記 ) と あ る。 西 行 の 厭 世 観、 自 然 観 が 透 谷 の 心 を 鞭 ち 育 て た の で あ る。 中 世 的 様 式 の 復 活 で あ る。 西 行 は 高 野 山 に 因 縁 深 き ﹁真 言 ﹂ の 行 者 で あ っ た。 透 谷 と 芭 蕉 透 谷 は 芭 蕉 に つ い て は、 次 の 如 く 讃 え て い る。 わ が 美 文 学 は 宗 教 と の 縁 甚 だ 深 か ら ず。 別 し て 徳 川 民 の 美 文 学 を 以 て 然 り と す。 俳 道 の 達 士 桃 青 翁 を 除 く の 外、 玄 奥 な る 宗 教 の 趣 味 を 知 り た る 者 あ ら ず。 ( 処 女 の 純 潔 を 論 ず ・ 全 集 巻 二、 二 五 頁 ) ﹁ 松 島 に 於 て 芭 蕉 翁 を 読 む ﹂ ( 全 集 巻 三、 二 九 三 -三 〇 〇 頁 ) は、 ﹁ 奥 の 細 道 ﹂ の 旅 で 松 島 に 遊 ん だ 芭 蕉 が、 そ の 絶 景 に 魅 せ ら れ て 一 句 を な さ な か っ た 心 境 を 推 量 し て 書 い た も の で、 い は ば 芭 蕉 に 代 っ て 弁 解 し た よ う な も の で あ る。 一 句 を 成 さ ず 西 帰 せ し 蕉 翁 の 無 言 を 読 む の 楽 み に 耽 り た り。 ⋮⋮冥 交 契 合 の 長 短 は、 霊 韻 を 享 く る の 多 少 は、 後 に 産 出 す べ き 詩 歌 の 霊 不 霊 な り。 冥 交 契 合 の 長 き 時 は、 自 ら 山 川 草 木 の 中 に 己 れ と 同 様 の 生 命 を 認 め 来 っ て、 一 条 の 万 有 的 精 神 を 遠 暢 し て、 唯 一 の 裡 に 円 成 せ る 真 実 を 認 め、 わ れ 彼 れ が 一 部 分 か、 彼 れ わ れ が 一 部 分 か と 疑 ふ 迄 に 風 光 の

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-138-中 に 己 れ を 籍 入 し 得 る な り。 こ の 時 に 当 っ て 句 を 求 む る も 得 べ か ら ず。 こ の 宗 教 的 自 然 観、 詩 入 的 自 然 観 は、 芭 蕉 文 芸 の 内 部 生 命 で あ っ て、 ﹁ 語 録 ﹂ の 随 処 に み ら れ る。 而 し て 芭 蕉 は 仏 頂 禅 師 の 鉗 鎚 を 受 け、 そ の 禅 的 文 芸 観 は、 昨 日 の 発 句 は 今 日 の 辞 世、 今 日 の 発 句 は 明 日 の 辞 世、 我 生 涯 云 捨 し 句 々、 一 句 と し て 辞 世 な ら ざ る は な し。 ⋮ ⋮ 諸 法 従 来 常 示 寂 滅 相、 こ れ は 是 釈 尊 の 辞 世 に し て、 一 代 の 仏 教 此 二 句 よ り 外 は な し。 古 池 や 蛙 飛 び 込 む 水 の 音、 此 句 に 我 一 風 を 興 せ し よ り 初 て 辞 世 な り。 其 後 百 千 の 句 を 吐 に 此 意 な ら ざ る は な し。 ( 花 屋 日 記 ) で あ る。 次 に 透 谷 の 仏 教 思 想 を 考 究 し て み る。 彼 が 二 十 二 才 の 時、 心 血 を 注 い だ 劇 ﹁ 蓬 莱 曲 ﹂ ﹁ 蓬 莱 曲 別 篇 ﹂ に は、 浄 土 教 思 想 が 貫 徹 し て い る。 曲 中 の 柳 田 素 雄 に 西 行 法 師 の 悌 が あ る の も、 西 行 が 浄 土 信 者 で あ っ た か ら で あ る。 曲 中 の 仏 教 語 彙 を 拾 っ て み る と、 大 魔 王、 鬼 王、 小 鬼、 青 鬼、 浮 世、 彼 岸、 法 の 華、 無 情、 無 常、 菩 提 所、 彼 の 世、 真 理 の 光、 在 家、 出 家、 鬼 神、 空 蝉、 悪 魔、 露、 魂 碗、 仏、 仏 壇、 八 界、 極 楽、 地 獄、 、 業 根、 安 寂、 紅 蓮、 大 紅 蓮、 浄 園、 浄 地、 如 法 闇 夜、 修 行、 三 界 諸 天、 鉄 囲、 金 剛、 須 弥、 幻 現 二 界 無 辺 無 涯 無 方 の 仏 法、 燭 骸、 白 鬼、 黒 鬼、 赤 鬼、 永 劫、 真 如、 明 相、 無 明 相、 奈 落、 蓮 華、 浄 土 の 快 楽、 慈 航 湖、 西 の 国、 梵 音、 救 誓 が あ る。 蓬 莱 曲 は 序 破 急 三 勧 七 場 よ り な っ て い て、 第 三 勧 に は、 ﹁ 清 き い さ ぎ よ き 蓮 華 の 上 に 汝 を 携 へ て 浄 土 の 快 楽 永 か ら ん と 思 ひ し こ と は い つ は り な る か も 実 に い つ は り な る か な。 わ が 埋 も る 可 き 世 の 奥 な る 地 獄 の 地 に、 汝 が 通 ふ 道 あ る や い か に、 疑 は し。 死 こ そ 物 の 終 り な れ 死 し て 消 ゆ る こ そ 死 す れ ば こ そ 復 た 他 の 生 涯 に も 入 る ら め。 ﹂ と 浪 漫 的 懐 疑 信 仰 を い っ て い る。 ﹁ 別 篇 ﹂ の 結 び に は ﹁ 悟 れ ! 悟 れ ! 夢 よ り 醒 る も の 祝 へ ! 祝 へ ! 世 よ り 帰 る も の 楽 し き 西 に 疾 く 急 げ ! 彼 の 岸 に 疾 く 上 れ 魔 は こ れ よ り 汝 が を と つ い つ れ 敵 な ら ず ! 露 姫 よ 一 昨 日 は 恋 の 暗 路 の 侶 連 昨 日 は 世 の 苦 悩 の 安 慰 者 昨 夜 は 変 り て 眠 を 擬 す 者 な り し を 忽 ち 今 朝 は 救 誓 の 慈 航 の 友 日 輪 霞 の 彼 方 に 立 登 り ぬ る に た め ら は じ 遅 れ ん 疾 く 彼 の 岸 に 到 ら ん 彼 の 岸 よ 彼 の 岸 よ 楽 し き と こ ろ は 彼 岸 よ 恨 な く 憂 な く 辛 な き は 彼 岸 よ 実 に ⋮ ⋮ 友 を 追 ひ 分 け 来 し 雲 は 消 行 き て 尽 き ぬ や ど り に 帰 る 雁 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 金。 ﹂ こ れ は 聖 聚 来 迎 を 想 は せ せ る 徹 底 し た 彼 岸 思 想 で あ る。 但 し こ れ は 美 的 思 想 と し て 享 受 し て い る の で、 真 実 の 信 仰 で あ っ た ら、 自 殺 は し な い。 慈 航 と は 仏 が 慈 悲 心 を 以 て 衆 生 を 済 度 す る こ と を 舟 に 愉 え た も の で ﹁ 柳 宗 元 送 二 溶 上 人 一序 ﹂ に 墓 二 慈 航 一 望 二 彼 岸 一 者 蓋 千 百 計。 ﹁ 万 善 同 帰 集 ﹂ の 梁 の 昭 明 太 子 法 会 詩 に、 駕 二 般 若 之 慈 航 一 越 二 三 有 之 苦 津 一 と あ る。 透 谷 の 浪 漫 思 想 を 最 も 満 足 さ せ た も の は、 浄 土 彼 岸 の 思 想 で あ っ た。 こ の 思 想 は 真 言 宗 か ら 学 ん だ と 思 は れ る。 禅 に も 超 現 実 な 幽 幻 思 想 が あ り、 透 谷 の 私 淑 し た 芭 蕉、 エ マ ー ス ン に も 禅 思 想 が あ っ た が、 透 谷 も 坐 禅 こ そ せ ざ れ、 ﹁ 日 本 を 呼 び て 坐 禅 国 と い ふ も の あ り、 禅 は 実 に 日 本 に 於 て 哲 学 上、 文 学 上、 宗 教 上 の 最 大 要 素 な り。 ﹂ ( 文 界 近 況 坐 禅 国 ) と 論 ひ、 ﹁ 黙 の 一 字 ﹂ ( 全 集 巻 三、 二 六 五 頁 ) の 文 章 も あ り ﹁ 静 ﹂ を 好 ん だ 文 句 も 勘 く な い。 但 し 東 洋 的 無 に 達 す る に は 年 若 く、 浪 漫 的 飛 躍 は 脚 下 顧 照 の 躬 行 を 体 得 さ せ な か っ た。 こ れ も 自 殺 の 一 原 因 と な っ た。 透 谷 は エ マ ー ス ン よ り 禅 的 思 想 を 学 ん で い る。 エ マ ー ス ン は、 欧 州 語 に 訳 さ れ た イ ン ド 思 想 の 本 を 読 ん で 禅 的 思 想 を 学 ん だ。 弘 法 大 師 と 透 谷 透 谷 の 日 誌 ( 全 集 巻 三、 二 六 五 頁 ) に、 九 月、 ﹁ 性 霊 集 ﹂ 第 四、 四 十 八 禅 経 日 仏 以 四 随 説 法 随 楽 随 宜 随 治 随 義、 仏 苑 日 積 恩 為 愛 積 愛 為 仁 と あ っ て、 透 谷 が ﹁ 性 霊 集 ﹂ を 読 ん だ こ と に な る が、 こ の 文 句 に は 性 霊 集 に は な く、 運 激 の ﹁ 遍 照 発 揮 性 霊 集 便 蒙 ﹂ 第 四 ( 真 言 宗 全 書 一 二 九 -一 三 〇 頁 ) に、 摩 詞 止 観 二 引 ガ 禅 経 一ヲ 日 仏 以 四 随 説 法 随 楽 随 宜 随 治 随 義 ナ リ。 ( 一 二 九 頁 ) と あ る。 即 ち こ の 語 は 摩 詞 止 観 巻 第 一 上 ( 国 訳 一 切 経、 和 漢 撰 述 四 六、 諸 宗 部 三 ) に 出 て い る。 性 霊 集 便 蒙 に は、 説 苑 日 と あ る か ら、 仏 苑 と 透 谷 の 書 い た の は 誤 り で あ る。 説 苑 二 十 巻 は、 漢 の 劉 向 の 撰。 君 道 ・ 臣 術 等 二 十 篇 に 分 た れ て あ る。 註 運 散 新 義 真 言 宗。 西 都 智 積 院 第 七 世。 大 に 学 風 を 振 興 す。 元 腺 六 年 八 十 歳 寂。 透 谷 が 日 記 に か い て 読 ん だ と 思 は れ る 右 の 性 霊 集 の 文 に つ き 笠 淵 友 一 博 士 の 名 著 ﹁ 文 学 界 ﹂ と そ の 時 代 上 一 五 五 頁 に は、 そ の 出 曲 が 明 か に さ れ て い な い。 私 は 高 野 山 大 学 名 誉 教 授 大 山 公 淳 師 よ り 教 え ら れ た。 ﹁ 性 霊 集 ﹂ 巻 一 遊 レ 山 慕 レ 仙 詩 弁 序 に は、 蓬 莱 と い ふ 語 も あ り、 透 谷 の ﹁ 蓬 莱 曲 ﹂ や ﹁ 富 嶽 の 精 神 を 思 ふ ﹂ に 含 む 山 霊 崇 拝 と 無 関 係 で な い。 透 谷 は ﹁ 性 霊 集 ﹂ の み な ら ず ﹁ 文 鏡 秘 府 ・ 論 ﹂ ﹁ 即 身 成 仏 義 ﹂ ﹁ 声 字 実 相 義 ﹂ ﹁ 十 住 心 論 ﹂ 等 の 弘 法 の

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-140-著 述 を 読 ん だ と 思 は れ る。 と い う 所 以 は、 透 谷 の ㍗ 内 部 生 命 論 ﹂ ﹁ 各 人 心 宮 内 の 秘 宮 ﹂ ﹁ 心 地 蓮 ﹂ ﹁万 物 の 声 と 詩 人 ﹂ を 始 め 全 集 を 貫 く 山 霊 信 仰、 科 学 的 自 然 観 宇 宙 観、 唯 心 論、 万 物 声 字 観、 人 間 盛 衰 栄 枯 万 法 流 転 の 無 常 思 想、 恋 愛 論 等 に み ら る る 人 間 性 肯 定 が、 表 現 こ そ 異 な れ 弘 法 の 思 想 と 微 妙 に 一 致 し て い る か ら で あ る。 そ れ は 透 谷 が 影 響 を う け た エ マ ー ス ン と も 一 致 し て い る。 ﹁ 弘 法 は 日 本 第 一 級 の 宗 教 詩 人 で あ る。、 君 こ れ を 一 読 せ よ ﹂ と、 誰 か 透 谷 に 勧 め た 者 が あ っ た の で あ ろ う。 論 よ り 証 拠 弘 法 に 類 似 す る 透 谷 の 文 の 断 片 次 の 如 し。 心 に 宮 あ り、 宮 奥 に 他 の 秘 宮 あ り、 そ の 第 一 の 宮 に ば 人 の 来 り 観 る 事 を 許 せ ど も、 そ の 秘 宮 に は 各 人 之 に は、 鍮 し て 容 易 に 人 を 近 か し め ず。 そ の 第 一 の 宮 に 於 て 人 は 其 処 世 の 道 を 講 じ、 其 希 望 其 生 命 の 表 向 を な せ ど、 第 二 の 秘 宮 は 常 に 沈 冥 に し て 無 言、 蓋 世 の 大 詩 人 を も 之 に 突 入 す る を 得 せ し め ず。 ⋮ ⋮ 人 須 ら く 心 の 奥 の 秘 宮 を 重 ん ず べ し。 之 を 照 ら か に す べ し。 之 を 直 く す べ し。 之 を 白 か ら し む べ し。 之 を 公 け な ら し む べ し。 大 罪 大 悪 の 消 ゆ る は 此 奥 に あ り。 大 仁 大 略 の 発 す る は 此 奥 に あ り、 秘 事 秘 密 の 天 に 通 ず る は こ の 奥 に あ り、 沈 黙 無 言 の 大 雄 弁 も 此 奥 に あ り、 然 り 永 遠 の 生 命 の 存 す る も こ の 奥 に あ り ⋮ こ の 奥 こ そ 人 生 の 最 大 至 重 の も の な れ。 ( 各 人 心 宮 内 の 秘 宮 ・ 全 集 巻 三 ・ 九 頁 ) 弘 法 全 集 か ら こ れ と 共 通 の 思 想 を 探 し て 次 の 文 を 抄 出 す る。 秘 中 之 秘 覚 中 之 覚。 降 野 不 レ 知 二 自 宝 一狂 迷 謂 レ 覚 非 レ 愚 而 何。 ⋮ ⋮ 金 剛 一 宮 排 二 内 庫 一而 授 レ 宝。 楽 不 楽 得 不 得 自 心 能 為。 非 レ 寄 非 レ 社 我 心 自 証 而 己。 求 仏 薩 垣 不 レ 可 レ 不 知。 ( 秘 蔵 宝 鍮 巻 上 ・ 弘 法 大 師 全 集 第 一 輯、 四 一 九 頁 ) 透 谷 の ﹁ 心 宮 ﹂ ﹁ 恋 愛 は 人 生 の 秘 鍮 な り ﹂ と の あ の 頃 の 文 筆 家、 別 し て 仏 教 通 の 露 伴 さ へ も 使 は ぬ 語 や、 多 く 使 っ た 秘 の 語 は、 弘 法 か ら 学 び 誇 り と し て 使 っ た と 思 は れ る。 ﹁ 心 池 蓮 ﹂ の 語 も ﹁ 秘 蔵 記 ﹂ ( 弘 法 全 集 第 二 輯 ) の 心 蓮 華 か ら 暗 示 さ れ た の で は な い か。 万 物 自 ら 声 あ り。 万 物 自 ら 声 あ れ ば 自 ら 又 た 楽 調 あ り。 自 然 は 常 動 な り。 須 聖 も 寂 静 あ る こ と な し。 自 然 は 常 為 な り。 須 夏 も 無 為 あ る こ と な し。 そ の 変、 そ の 動、 そ の 為、 各 自 一 個 の 定 法 の 上 に 立 て り。 人 間 の 最 奥 な る と こ ろ、 之 を 人 間 の 空 と 言 ひ、 造 化 の 最 奥 な る と こ ろ、 之 を 造 化 の 霊 と い ふ。 造 化 の 最 奥-造 化 の 霊-そ こ に 大 平 等 の 理 あ る な り。 そ こ に 天 地 立 妙 の 調 和 あ る な り。 無 絃 の 大 琴 懸 け て 宇 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 宙 の 中 央 に あ り。 万 物 の 情、 万 物 の 心、 悉 く こ の 大 琴 に 触 れ ざ る は な く。 ( 万 物 の 声 と 詩 人 ・ 全 集 巻 二、 三 一 二 頁 ) こ れ と 共 通 す る は、 ノ ニ ス レ バ ク テ フ ト ハ ス ル ニ ハ チ 内 外 風 気 綾 発 必 響 名 日 レ 声 也。 響 必 由 レ 声 声 則 響 之 本 也。 ヲ コ テ カ ラ ス ス ル ヲ ノ ヲ メ ブ ト ニ リ ニ ス ヲ 声 発 不 レ 虚 必 表 二 物 名 一 号 日 レ 字 也。 五 大 皆 有 レ 響 十 界 旦 ハ ニ 言 語 一 ク ナ リ ハ レ ナ リ 六 塵 悉 文 字 法 身 是 実 柑 ( 声 字 実 相 義 ・ 全 集 巻 一、 五 二 = 頁 ) で あ る。 人 間 の 心 中 に 大 文 章 あ り。 筆 を 把 り 机 に 対 す る 時 に 於 て よ り も、 静 黙 冥 坐 す る 時 に 於 て、 燦 燗 た る 光 妙 あ る 事 多 し。 心 中 の 文 章 よ り 心 外 の 文 章 を 綴 る は 善 し。 心 外 の 文 章 を 以 て 心 中 の 文 章 を 装 は ん と す る は、 文 字 の 賊 な る べ し。 ( 山 庵 雑 記 ・ 全 集 巻 二、 一 二 七 頁 ) か か る 透 谷 の 文 学 観 は、 弘 法 の ﹁ 文 鏡 秘 府 論 ﹂ に 共 通 す る 処 が 多 い。 そ の 照 応 す る 文 例 を こ こ に あ げ る こ と は 略 ず る が、 弘 法 も 文 章 の 語 を 用 い て い る。 そ の 他 透 谷 の 好 色 劣 視 は、 弘 法 の ﹁ 三 教 指 揮 ・ 仮 名 乞 児 論 ﹂ ﹁ 玉 造 小 町 壮 衰 書 ﹂ ﹁ 九 相 詩 ﹂ に 関 係 が あ る。 透 谷 は 政 治 や 文 学 や 宗 教 に よ っ て は 救 い を 得 る こ と が で き ず、 晩 年 に 至 っ て 辛 う じ て 大 自 然 へ の 帰 一 を 信 ず る 忙 及 ん で 安 定 し 允 よ う で あ る。 ( 坂 本 浩、 北 村 透 谷、 二 二 二 頁 ) 大 自 然 帰 一 は エ マ ー ソ ン か ら 学 ぶ と 共 に、 弘 法 か ら も 学 ん だ と 思 ふ。 弘 法 も 室 戸 岬 の 広 大 な 自 然 に 立 っ て、 決 心 的 苦 悶 苦 行 の 結 果 浬 般 木 を 得 た。 契 沖 も 亦 室 生 寺 に お じ て 自 然 の 神 秘 に 感 激 し て 死 を 計 っ た。 透 谷 も 亦 月 光 に 照 ら さ れ つ つ 自 殺 し た。 大 日 経、 金 剛 頂 経、 蘇 悉 地 経 に み ら れ る 真 言 の 月 輪 観 の 影 響 が 考 え ら れ る。 自 然 へ の 帰 命 で あ る。 現 実 の 人 間 関 係 を 疎 か に し て、 非 現 実 の 神 仏 に 親 近 す る こ と は、 浪 漫 主 義 の も つ 危 険 性 で あ る が、 透 谷 の 悲 劇 的 一 生 も 原 因 は こ こ に あ っ た。 即 事 而 真 ・ 俗 中 之 真 と 称 し て 諸 宗 中 最 も 現 実 の 人 間 性 を 重 ん じ、 芸 術 科 学 を も 積 極 的 に 包 摂 し て 自 由 な の が 真 言 密 教 で あ る。 故 に 弘 法、 契 沖、 透 谷 は、 そ の 与 え ら れ た 時 機 に、 真 言 密 教 の 信 念 に よ っ て、 文 芸 復 興 の 任 務 を 進 め た。 恋 愛 と い う 人 間 性 の 肯 定 も、 文 芸 復 興 の 内 容 で あ る が、 透 谷 は 恋 愛 の 宗 教 的 価 値 を 主 張 し て い る。 こ れ は 真 言 の 愛 敬 法 と 一 致 す る も の が あ る。 透 谷 に 出 発 し た 近 代 の 恋 愛 観 を 考 察 す る 為 に、 国 文 学 者 は 理 趣 経 を 必 読 す べ き で あ る。 註 以 上 の 始 き 真 言 宗 の 知 識 を、 透 谷 は ど こ で 学 ん だ か と い う こ と は 吾 々 の 知 り た い こ と で あ る。 神 奈 川 県 足 柄 下 郡 橘 町 前 川 三 八 三 瑞 宝 山 長 泉 寺 ( 臨 済 宗 ・ 建 長 寺 派 ・ 現 住 職 川 松 秀 雄 氏 ・ 小 学 校 教 員 ) は、 透 谷 の 祖 先 墳 墓 の 地、 明 治 二 十 六 年 八 月 三 十 日 よ

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-142-り 家 族 と 共 に 暫 く 滞 在 し て ﹁ エ マ ソ ン ﹂ を 脱 稿 し ( 全 集 巻 三、 二 六 九 頁 )、 藤 村 等 友 人 の 訪 問 を う け た 寺 で あ る が ( 小 説 ﹁ 春 ﹂ ) 真 言 宗 で は な く て も、 真 言 宗 関 係 の 典 籍 が あ っ て、 そ れ を 透 谷 が み た か も し れ ぬ。 透 谷 関 係 の 資 料 は 何 も 現 存 し て い な い。 以 上 の よ う な 事 情 を 知 り 得 る ま で は、 川 松 秀 雄 氏、 下 関 石 田 賢 応 師、 清 成 智 納 氏、 神 奈 川 県 広 本 賢 斎 師、 高 野 山 中 野 義 照 学 長、 橘 川 教 育 長 田 代 信 二 氏 に お 手 数 を か け た。 山 嶽 信 仰 透 谷 は シ ナ 神 倦 思 想 に よ る 山 嶽 信 仰 を も っ た。 そ れ は 富 士 山 信 仰 か ら 縁 起 し た。 生 誕 と 同 時 に 朝 夕 富 嶽 の 秀 麗 を 仰 い で 生 長 し た 透 谷 に、 富 嶽 信 仰 あ る は 当 然 で あ り、 吾 人 は 人 間 が 自 然 よ り 受 け る 感 化 の 広 大 な る に 感 動 さ せ ら れ る の で あ る。 透 谷 の 浪 漫 思 想 も 宗 教 的 自 然 観 も 富 嶽 仰 望 の 恩 恵 で あ る と 信 じ ら れ る。 シ ナ の 瑛 椰 代 酔 編、 列 子、 史 記 等 々 に み ら れ る 蓬 莱 と は、 東 海 の 東 に 在 る 倦 人 の 住 む 倦 山 で あ る。 透 谷 が 山 嶽 信 仰 に よ っ て 指 し た ﹁蓬 莱 曲 ﹂ 中 の 蓬 莱 山 と は、 彼 に よ れ ば 富 十 山 で あ る。 広 文 庫 を み る と、 本 朝 地 理 志 略、 和 漫 三 才 図 絵、 異 称 日 本 伝 に、 名 二 富 士 山 一亦 名 二 蓬 莱 一と あ る。 室 鳩 巣 の 富 十 嶽 詩 に、 上 帝 高 居 白 玉 台、 千 秋 積 雪 擁 蓬 莱 金 鶏 嘲 握 人 簑 夜 海 底 紅 輪 飛 朝 来 と あ る。 富 士 山 崇 拝 者 に よ り 組 織 さ れ た る 講 社 に 富 士 講 な る も の が あ り、 そ の 始 め は 室 町 時 代 で 千 数 派 に 分 れ、 俗 に 富 士 八 百 八 請 と ま で 呼 ば れ た が、 神 仏 分 離 以 降 組 織 を 改 め 扶 桑 教 に 属 し た。 透 谷 の 心 宮 内 の 浪 漫 が 富 士 山 と い ふ 外 な る 大 自 然 の 景 観 に よ っ て 酒 養 さ れ、 富 士 山 は 詩 人 に 讃 え ら れ て、 弥 々 崇 高 な る 威 風 を 発 揮 し た の で あ る。 即 ち 日 く、 蓬 莱 山 は 大 東 に 詩 の 精 を 送 発 す る 千 古 不 変 の 泉 源 を 置 け り。 田 夫 も 之 に 対 し て は イ ン ス ピ レ ィ シ ョ ン を 感 じ、 学 童 も 之 に 対 し て 詩 人 と な る。 余 も 亦 た 彼 等 と 同 じ く 蓬 莱 嶽 に 対 す る 詩 人 と な れ る こ と 久 し。 回 顧 す れ ば 十 有 六 歳 の 夏 な り し、 孤 笏 其 絶 嶺 に 登 り た り し 時 に、 余 は 始 め て 世 に 鬼 神 あ る 者 の 存 す る を 信 ぜ ん と せ し 事 あ り し。 ( 蓬 莱 曲 序 ) ﹁蓬 莱 曲 ﹂ の 露 姫 は、 透 谷 独 自 の 女 性 観、 恋 愛 観 が 象 徴 さ れ て あ る が、 そ の 概 念 内 容 に 神 倦 思 想 の 仙 女 が あ る こ と が 認 め ら れ る。 神 倦 思 想 に は 老 荘 思 想 が 擁 せ ら れ て あ る。 富 十 山 と 仙 女 と の 関 係 は、 古 く よ り 語 り 伝 え ら れ た こ と が、 林 道 春 の ﹁ 本 期 神 社 考 ﹂ 巻 五 に み ら れ る。 所 謂 羽 衣 伝 説 で あ っ て、 こ れ に は 仏 教 文 芸 も 加 っ て い る。 こ の 伝 説 の 流 を 汲 む も の が 、 竹 取 物 語 ・ 謡 曲 ﹁ 羽 衣 ﹂ で あ る。 透 谷 は 謡 曲 を 読 ん だ こ と、 ﹁ 羽 衣 ﹂ を 読 ん だ こ と を 日 記 に か い て い る。 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 ﹁富 士 山 ﹂ や ﹁ 山 姥 ﹂ を 読 ん だ と は 日 記 に み え ぬ が、 こ の 二 曲 と ﹁ 羽 衣 ﹂ か ら 得 た と 思 わ れ る 思 考 が、 蓬 莱 曲 に み ら れ る。 ﹁ 富 士 山 ﹂ に は 真 言 密 教 と 浄 土 教 の 来 迎 思 想 と 神 倦 思 想 と 山 嶽 信 仰 が 渾 一 し て い る。 ﹁ 山 姥 ﹂ に は 山 嶽 信 仰 と 禅 が 融 合 し て い る。 浄 土 三 部 経 の 一 つ 阿 弥 陀 経 に は、 ﹁ 彼 ( 極 楽 ) 国 常 有 種 種 奇 妙 雑 色 之 鳥、 白 鵠 孔 雀 鵬 鵡 舎 利、 迦 陵 頻 伽 共 命 之 鳥、 見 諸 衆 鳥、 昼 夜 六 時 出 和 雅 音、 其 音 演 暢 云 々 ﹂ と あ る 楽 天 的 な 迦 陵 頻 伽 は、 ﹁ 羽 衣 ﹂ に は み ら れ る が ﹁ 蓬 莱 曲 ﹂ に は み ら れ ぬ。 ﹁蓬 莱 曲 の 別 篇 の 柳 田 素 雄 が、 死 し て 後 露 姫 と 手 を 携 え て 救 誓 の 船 に 乗 り、 恨 み も 憂 さ も 辛 さ も な き 彼 岸 を め ざ し て 慈 航 湖 を 渡 る 結 末 の 構 想 は、 ﹁ 羽 衣 ﹂ ﹁富 士 山 ﹂ は 勿 論 殆 ん ど の 謡 曲 結 末 の 構 想 で あ る。 透 谷 は ﹁蓬 莱 曲 別 篇 ﹂ ( 未 定 稿 ) の 序 文 に、 ﹁ 蓬 莱 曲 は 初 め 両 篇 に 別 ち て 世 に 出 で ん と 企 て ら れ た り。 即 ち 素 雄 が 山 頂 に 死 す る 迄 を 第 一 篇 と し、 慈 航 湖 を 過 ぎ て 彼 岸 に 達 す る よ り 尚 其 後 を 綴 り て 後 篇 を 成 さ ん 云 々 ﹂ と の べ た が、 第 一 篇 は 複 式 能 の 中 入 ま で、 後 篇 は 中 入 後 を 模 し た と 思 わ れ る。 第 一 篇 は 厭 離 械 土、 後 篇 は 欣 求 浄 土 を 現 わ し て い る。 ﹁ 蓬 莱 曲 ﹂ を 始 め 透 谷 の 文 章 に は 全 般 的 に 真 言 宗 と 浄 土 思 想 が 渾 一 し て い る。 こ れ を 理 論 づ け る も の が、 金 岡 秀 友 氏 の 左 の 説 で あ る。 日 本 は 浄 土 教 の 興 起 に よ り 信 は 疑 い も な く、 仏 教 々 理 と 実 践 の 中 心 課 題 と な り、 そ の 後 久 し く 密 教 と し て も そ の 影 響 か ら 自 由 で は あ り 得 な か っ た か ら で あ る。 そ の 影 響 の も と に、 わ れ わ れ は 長 い ﹁ 真 言 帰 浄 者 ﹂ の 系 譜 を も ち、 ま た ﹁真 言 念 仏 ﹂ の 人 々 を も っ た の で あ る が ⋮⋮そ し て こ の よ う な 浄 土 教 的 信 の 影 響 は、 ひ と り 真 言 宗 ・ 華 厳 宗 の 人 々 の 上 に 止 ら ず、 中 世 か ら 近 世 を 縦 断 し て 各 宗 の 上 に 働 い た で あ ろ う 云 々 ( 日 本 仏 教 学 会 編 ・ 仏 教 に お け る 信 の 問 題 七 二-七 三 頁 ) 抑 々 山 嶽 信 仰 と 禅 と 老 荘 と は、 シ ナ の 古 へ か ら 長 い 歴 史 の ま に ま に 融 合 し て き た が、 透 谷 の 思 想 に も、 ﹁ 道 は 虚 な り。 然 れ ど も そ の 人 に 入 る や 実 な り。 虚 を 仮 り て 実 を 成 す は、 至 人 の 行 あ る 所 以 な り。 ( ﹁ 黙 ﹂ の 一 字 ・ 全 集 巻 二、 五 五 頁 ) ﹁老 荘 の 心 を 以 て 太 虚 と な し ﹂ ( 各 人 心 宮 内 の 秘 宮 ・ 全 集 巻 二、 七 頁 ) 等 と、 老 荘 思 想 が 含 ま れ て い る。 彼 の 楽 天 主 義 と 風 流 に、 老 荘 の 影 響 が 考 え ら れ る。 露 伴 と 透 谷 透 谷 は 露 伴 の 作 品 か ら 多 く の 仏 教 を 学 ん だ。 例 え ば 次 の 如 き ﹁ 風 流 仏 ﹂ の 恋 愛 神 聖 や 来 迎 信 仰 が、 ﹁ 蓬 莱 曲 し

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-144-に 影 響 し て い る こ と を 否 む こ と は で き ぬ。 恋 に 必 ず、 必 ず 感 応 あ り て、 一 念 の 誠 御 心 に 協 ひ、 珠 運 は 自 が 帰 依 仏 の 来 迎 に 辱 な く も 趣 ひ と ら れ て、 お 辰 と 共 に 手 ホ ワ イ ト ロ ロ ズ を 携 へ 肩 を 験 べ 悠 々 と 雲 の 上 に 行 し 後 に は、 白 薇 薔 香 薫 じ て 吉 兵 衛 を 初 め 一 村 の 老 幼 目 出 度 と さ ざ め く 声 は 天 鼓 を 撃 つ 如 く、 七 蔵 が ゆ が み た る 耳 を 貫 け ば、 是 も 我 慢 の 角 を 落 し て 黒 山 の 鬼 窟 を 出、 発 心 勇 ま し く 田 原 と 共 に 左 右 の 御 前 立 と な り ぬ。 透 谷 は 又、 わ れ は ﹁ 風 流 仏 ﹂ 及 び ﹁ 一 口 剣 ﹂ を 愛 読 す。 常 に 謂 へ ら く、 此 二 書 こ そ 露 伴 の 作 と し て 不 朽 な る 可 け れ。 何 が 故 に 二 書 を 愛 読 す る、 日 く 一 種 の 沈 痛 深 刻 な る 哲 理 の 其 中 に 存 す る あ る を 見 れ ば な り。 ⋮ ⋮ わ れ 理 想 詩 人 な る 露 伴 が-其 奇 想 を 養 ひ、 其 哲 理 を 練 り、 あ は れ 大 光 明 を 発 ち て、 凡 悩 の 衆 生 を 済 度 せ ら れ ん 事 を 願 ふ て 止 ま ざ る な り。 ( ﹁ 伽 羅 枕 ﹂ 及 び ﹁ 新 葉 末 集 ﹂ ・ 全 集 巻 一、 二 七 九 頁 ) ﹁ 我 牢 獄 ﹂ ( 明 治 二 十 五 年 六 月、 ﹁ 白 表 ・ 女 学 雑 誌 ﹂ 三 二 〇 号 発 表 ) は、 露 伴 の ﹁ 風 流 悟 ﹂ ( 明 治 二 十 四 年 八 月 発 表 ) か ら 多 く を 学 ん で い る。 ﹁ 風 流 悟 ﹂ の 主 人 公 は、 位 階、 爵 禄、 門 閥、 容 貌、 言 語、 衣 服、 金 銭、 肉 体 の 繋 縛 か ら 解 脱 し て い る が、 ﹁ 我 牢 獄 ﹂ の 主 人 公 は、 我 は 如 何 に 禅 僧 の 如 く に 悟 っ て の け ん と 試 む る と も、 我 が 心 宮 を 観 ず る こ と 甚 深 な れ ば な る ほ ど、 我 は 到 底 悟 っ て の け る こ と 能 は ざ る を 知 る、 風 流 の 道 も 我 を 誘 惑 す る 事 こ そ あ れ、 我 を し て 心 魂 を 委 ね て、 趣 味 と 称 す る 魔 力 に 妖 魅 せ ら る る に 甘 ぜ ん ぜ ず。 と 厭 世 し て い る。 透 谷 の 一 生 は、 心 の 牢 獄 か ら 遂 に 解 脱 し 得 な か っ た。 こ の 苦 悶 を 慰 め た も の が 恋 愛 で あ っ た。 ﹁ ﹁ 風 流 悟 ﹂ に 於 て 其 ( 女 性 よ り ) 解 脱 を 説 き た る 所、 余 の 尤 も 服 す る 所 な り ﹂ ( 厭 世 詩 家 と 女 性 ) と 心 服 し つ つ、 ﹁ 想 世 界 と 実 世 界 と の 争 戦 よ り 想 世 界 の 敗 将 を し て 立 籠 ら し む る 方 域 と な る は、 即 ち 恋 愛 な り。 此 恋 愛 あ れ ば こ そ、 理 性 あ る 人 間 は 悉 く 悩 死 せ ざ る な れ、 此 恋 愛 あ れ ば こ そ、 実 世 界 に 乗 入 る 欲 望 を 惹 起 す る な れ。 ﹂ ( 右 同 ) と い う。 苦 悩 の 牢 獄 で あ る 実 世 界 に 愛 執 ( 透 谷 は こ れ を 情 熱 と い ふ ) し、 奮 起 せ し め る も の は、 恋 愛 で あ る と い ふ。 而 し て、 ﹁ 物 類 相 愛 の 妙 理 を 観 ぜ し め、 人 類 相 互 の 関 係 を 悟 ら し む る も の、 宗 教 の 力 に あ ら ず し て 何 ぞ ノ フ ル や。 弦 に 宗 教 あ り、 而 し て 後 に 高 尚 な る 情 熱 あ り、 宗 教 的 本 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 能 を 離 れ ざ る 情 熱 が 美 術 の 上 に 異 妙 の エ ボ ル ー シ ョ ン を 与 ふ る 力、 豊 軽 ん ず べ け ん や ( 情 熱 ) を 考 察 す れ ば、 宗 教 は 愛 を 否 定 す る ど こ ろ か、 高 尚 な 愛、 人 倫 社 会 の 紐 帯 な る 愛、 非 社 会 的 な 閉 さ れ た る 心 を 開 く 愛、 積 極 的 無 限 の 人 間 愛 は、 神 の 心 を 体 得 す る 宗 教 に 因 る も の と す る。 即 ち 恋 愛 を 宗 教 的 に 高 め て い る。 こ れ は キ リ ス ト 教 や 西 洋 哲 学、 文 芸 か ら 学 ん だ も の で あ っ て、 仏 教 は 恋 愛 を 否 定 す る も の と し て、 つ ね 女 性 を 冷 罵 す る 事、 東 西 厭 世 家 の 常 な り。 繹 氏 も 力 を 籠 め て 女 人 を 罵 り、 沙 翁 も 往 々 女 人 に 関 し て 鎌 ら ぬ 語 気 を 吐 け り。 ( 厭 世 詩 家 と 女 性 ・ 全 集 巻 一、 二 五 七 頁 ) 顧 み て 明 治 の 作 家 を 屈 ふ る に、 真 に 情 熱 の 趣 を 具 ふ る も の 果 し て 之 を 求 め 得 べ き や。 露 伴 に 於 て 多 少 は 之 を 見 る。 然 れ ど も 彼 の 情 熱 は 彼 の 信 仰 ( 宗 教 ? ) に よ り て 幾 分 か 常 に 冷 却 せ ら れ つ つ あ る な り。 彼 は 情 熱 を 余 り あ る 程 に 持 ち な が ら、 一 種 の 寂 滅 的 思 想 を 以 て 之 を 減 殿 し つ つ あ る な り。 彼 が ト ラ ゼ ヂ ー の 大 作 を 成 さ ざ る は、 他 に も 原 因 あ る べ け れ ど、 主 と し て 此 理 あ れ ば な る べ し ( 情 熱 ・ 全 集 巻 二、 三 〇 一 頁 ) ( 一 ) 釈 氏 を し て 惑 哉 肉 眼 吾 今 観 之、 従 頭 至 足 無 一 好 也 と 罵 り Y 又 た、 其 内 甚 臭 機、 外 為 厳 飾 容、 加 又 含 毒 蟄 劇 如 蛇 与 ( 二 ) 龍 と 叫 び、 更 に 又 た、 婦 人 非 常 為、 如 灯 焔 不 停、 彼 則 是 常 ( 三 ) 怨 猶 如 画 石 文 云 々 等 の 語 を 発 せ し め、 東 洋 の 厭 世 教 を し て 長 く 女 性 を 冷 遇 す る の 積 弊 を 起 さ し め た り ( 厭 世 詩 家 と 女 性 ・ 全 集 巻 一、 二 六 三 頁 ) と い わ し め た。 愛 着 を 煩 悩 と し て 恐 れ 逃 避 厭 世 を 浬 葉 と す る は、 小 乗 仏 教 の こ と で、 大 乗 に 於 て は 不 断 煩 悩 得 浬 般 木 分 ( 曇 轡 往 生 浄 土 論 注 ) 婬 欲 是 道 ( 龍 樹、 大 智 度 論 ) 大 悲 と 般 若 に 輔 翼 せ ら れ て 未 来 際 を 窮 め て 有 情 を 利 楽 す る も、 そ の 用 常 に 寂 な る 無 住 処 浬 葉 ( 護 法 寺 ・ 成 唯 識 論 ) 以 二 大 慈 悲 一 観 二 察 一 切 苦 悩 衆 生 一示 二 応 化 身 一 廻 二 入 生 死 園 煩 悩 林 中 一 遊 二 戯 神 通 一至 教 化 地 一 ( 世 親 ・ 浄 土 論 ) 親 驚 の 還 相 廻 向 論 ( 教 行 信 証 ) 等 の 浬 葉 観 が あ る。 透 谷 は 大 乗 妙 境 に 至 り え な か っ た。 露 伴 は こ の 無 住 浬 契 の 大 悲 を 体 解 し て 毒 朱 唇 ( 明 治 二 十 三 年 ) を 書 き 透 谷 の 如 く 小 乗 的 浬 葉 の 信 仰 を 啓 蒙 し た。 透 谷 は 露 伴 の 仏 教 小 説 の 深 さ を 了 解 し え な か っ た。 透 谷 は ﹁ 若 し 日 本 の 固 有 の 宗 教 を 解 新 し て 情 熱 と 相 関 す る と こ ろ を 発 見 す る を 得 ば、 文 学 史 上 に 愉 快 な る 研 究 な る べ け れ ど、 之 れ 余 が 今 日 の 業 に あ ら ず、 柳 か 記 し て 識 者 に 問 ふ の み ( 情 熱 ・ 全 集 巻 二、 三 〇 二 頁 )

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-146-と 誌 し た。 私 は 透 谷 に 代 っ て 研 究 し た 一 部 を 次 に 抄 し て、 透 谷 の 霊 に 捧 げ る。 日 本 固 有 の 宗 教 を、 古 神 道 と す れ ば、 そ の 神 典 ﹁ 古 事 記 ﹂ ﹁ 日 本 書 紀 ﹂ に は、 人 間 自 然 の 性 欲、 恋 愛 を 尊 重 し て い る。 日 本 固 有 の 宗 教 を、 仏 教 に 摂 取 す れ ば 愛 欲 に 即 し て 崇 高 な 浬 葉 を 行 道 し た 親 鷺 の 在 家 仏 教 が あ る。 親 轡 教 を 信 じ た 富 士 谷 御 杖 ( 一 七 六 八 -一 八 二 三 ) に は 私 心 至 極 す れ ば 誠 の た つ も よ き も の、 愚 か な る も 至 極 す れ ば 信 ふ か き も の に て 候 へ ば、 な ま 悪 行 な ま 賢 き そ ま こ と の 悪 行 不 実 も の と は 申 す べ け れ。 こ の 故 に 昔 よ り 恋 の 歌 は 多 き に て 候。 ( 歌 道 非 唯 抄 ・ 全 集 巻 二、 一 七 八 ) 恋 の 歌 よ む は 一 向 心 和 み が た き 時 の、 せ め て の わ ざ な れ ば、 好 色 は 道 に 背 き、 恋 の 歌 は 道 の 正 当 な り。 ( 真 言 弁 ・ 全 集 巻 二、 二 〇 〇 頁 ) と、 恋 歌 に 倫 理 的、 仏 道 的 価 値 を 認 あ た。 親 鷺 の 師 と 伝 へ ら れ る 慈 鎮 は 深 き 山 に 入 り つ つ 仏 道 を 思 惟 し 侍 る 中 に、 初 に 申 し へ る 理 に 任 せ て、 大 和 歌 の こ と を 思 ふ に、 恋 の 歌 と て よ め る 事 こ そ 真 に 浮 世 を 離 れ ぬ た め し に は、 皆 思 ひ な れ た る こ と に て い侍 る め れ と 思 ひ 学 び て、 さ れ ば こ れ に 寄 せ て こ そ は 厭 離 の 心 を も 顕 は さ む と て、 百 歌 に 数 へ た し て い そ ぢ に 使 ひ 侍 り ぬ。 ( 拾 玉 集 巻 五 ) と い う。 こ の 文 を 省 察 し て み る と、 恋 愛 と 宗 教 的 情 操 と は 融 通 し て い る こ と に な る。 俊 成 が、 ﹁ 恋 せ ず ば 人 は 心 も な か ら ま し も の の あ は れ は こ れ よ り そ し る ﹂ ( 長 秋 詠 藻 ) と 歌 う た 人 心 と は、 も の の あ は れ を し る 心 即 ち 三 悪 道 な ら ぬ 人 倫 愛 の 道、 更 に 欣 求 浄 土 の 心 へ の 芽 で あ る と 歌 っ て い る。 菊 地 寛 の ﹁ 好 色 成 道 ﹂ と い う 小 説 の 典 拠 今 昔 物 語 第 十 七 巻 第 三 十 三 語 も、 こ れ と 類 似 し て い る。 こ の よ う に 調 べ て み る と、 透 谷 が キ リ ス ト 教 に あ っ て 仏 教 に は な い と し た も の が、 仏 教 に も 決 し て 少 く な い の で あ る。 透 谷 が 感 化 を 受 け た エ マ ー ス ン は、 詩 を 作 ら せ る も の は 想 像 力 な り と し、 世 界 の 宗 教 は、 少 数 の 想 像 力 豊 か な 人 々 が 発 し た 叫 び で あ り、 詩 人 は 世 界 を 明 確 に 表 現 し、 心 に 秘 め た 知 的 直 観 力 に よ っ て、 象 徴 に 新 し い 力 を 沖 ぐ、 健 康 聰 明 に 秘 密 を 見 抜 き 人 間 と し て 根 本 的 な も の を 椿 っ。 ( 日 本 教 文 社 版 全 集 5 ) に よ れ ば ﹁ 毒 朱 含 ﹂ が 語 る 如 く、 釈 迦 は 大 詩 人 で あ り、 経 典 は 目 に 見 え る も の を 仮 っ て、 目 に 見 え ぬ も の を 象 徴 し て い る 宇 宙 詩、 観 念 詩 で あ る。 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 参 考 和 辻 哲 郎 博 士 は、 法 華 経 は 文 芸 と 哲 学 の 合 の 子 で あ る と い う。 ( 雑 誌 ﹁ 心 ﹂ 昭 和 三 十 二 年 六 月 号 法 華 経 の 考 察 ) 透 谷 が こ う ゆ う 処 迄 仏 教 を 研 究 し え な か っ た こ と は 残 念 で あ る。 透 谷 の 詩 ﹁ 欄 縷 舞 ﹂ ( 殻 後 文 学 界 一 七 号 掲 載 ) は、 露 伴 の ﹁ 対 燭 縷 ﹂ の 感 化 を 受 け、 謡 曲 ﹁ 小 町 ﹂ を 醗 案 し て、 恋 愛 罪 悪 観、 仏 教 的 諦 悟 ( 羅 漢 集 ) 浪 漫 的 怪 異 を 歌 っ て い る。 ﹁ 対 悶 縷 ﹂ に は、 倶 舎 論、 智 度 論、 摩 詞 止 観 の 不 浄 観 が 典 拠 と さ れ て い る。 ﹁ 他 界 に 対 す る 観 念 ﹂ は、 浪 漫 主 義 文 学 論 で あ る が、 こ こ で 仏 教 渡 来 し て 浪 漫 思 念 は 発 達 せ し も、 仏 法 の 心 外 無 別 法、 輪 廻、 無 常、 寂 滅、 殊 に 禅 学 は、 人 間 の 思 慕、 幽 奥 な る 観 念 を 遮 断 し た と し た。 つ ま り 透 谷 の 浪 漫 美 は、 煩 悩、 悲 劇、 空 想、 神 仙、 怪 異 に あ っ た。 故 に 露 伴 の も つ 情 熱 は、 明 治 作 家 中 第 一 級 の も の で あ る け れ ど も、 寂 滅 思 想 に よ っ て 減 殺 さ れ て い る。 こ れ は ﹁ 風 流 仏 ﹂ ﹁ 風 流 悟 ﹂ の 悟 道 風 流 を 讃 え た こ と と は 矛 盾 し て い る。 結 局 透 谷 の 理 想 の 文 芸 は、 人 間 の 愛 情 が 神 聖 な 諦 悟 に 即 転 す る と こ ろ に あ っ た。 こ れ は 恋 愛 観 と も 軌 一 す る。 透 谷 の 仏 教 思 想 は 要 之 未 徹 見 で あ っ た が、 宗 教 的 本 能 は 人 心 の 最 奥 を 貫 き て、 純 乎 た る 高 等 進 化 を す べ て の 観 念 に 施 す も の な り。 あ は れ む べ き 利 己 の 精 神 に よ っ て 愉 生 す る 人 間 を 覚 醒 し て、 物 類 相 愛 の 妙 理 を 観 ぜ し め、 人 類 相 互 の 関 係 を 悟 ら し む る も の、 宗 教 の 力 に あ ら ず し て 何 ぞ や。 藪 に 宗 教 あ り、 而 し て 後 に 高 尚 な る 情 熱 あ り、 宗 教 的 本 能 を 離 れ ざ る 情 熱 が 美 術 の 上 に、 里 ハ妙 の エ ボ ル ー シ ョ ン を 与 う る の 力、 量 軽 ん ず べ け ん や ( 情 熱 ・ 全 集 巻 二、 三 〇 〇 頁 ) の 言 は、 正 に 仏 教 の 神 髄 に 触 れ、 彼 の 道 徳、 文 芸 の 哲 理 と な っ た も の で あ る。 欧 米 先 進 国 の 近 代 思 想 を 育 成 し た の は、 キ リ ス ト 教 で あ り、 近 代 思 想 を 日 本 に 齎 し た も の も キ リ ス ト 教 で あ っ た。 仏 僧 神 道 を 批 判 し 近 代 性 を 撰 択 し て 示 し た も の も キ リ ス ト 教 で あ っ た。 人 間 改 良 に は 宗 教 と 倫 理 と 芸 術 が 協 力 せ ね ば な ら ぬ と 教 え た め も キ リ ス ト 教 で あ っ た。 日 本 近 代 感 情 革 命 即 ち 明 治 の 文 芸 復 興 も、 明 治 七 年 植 村 正, 久 が 訳 し た ﹁新 撰 讃 美 歌﹂ に 始 る。 透 谷 は キ リ ス ト 教 に 結 縁 し て 近 代 的 自 覚 を 深 め、 仏 儒 並 に 元 禄 文 学 を 批 判 し た。 透 谷 が 仏 教 を 深 信 し え な か っ た の は、 近 代 思 想 に 背 く も の が あ っ

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-148-た か ら で あ る。 抑 仏 教 は 永 遠 に 新 し い 人 間 像 を 理 想 と す る も の で あ る が、 透 谷 頃 の 日 本 仏 教 は 封 建 的 で あ り、 透 谷 以 後 今 日 迄 キ リ ス ト 教 の 刺 戟 を う け つ つ も、 尚 本 質 を 発 揮 し え な い。 衰 微 の 原 因 は こ こ に あ る。 透 谷 が、 ﹁ 仏 教 的 厭 世 詩 家 の 観 た る 造 化 は、 悉 く 無 常 的 厭 世 的 な り。 ⋮ ⋮ 基 督 教 は 一 命 を 救 う る 有 理 的 楽 天 的 宗 教、 仏 教 は 不 生 命 思 想 の 宗 教 ﹂ ( 内 部 生 命 論 ) ﹁ 徳 川 氏 の 前 に は 文 学 は 仏 門 の 手 に 属 し た り。 而 し て 仏 門 の 人 間 を 離 れ た り し は、 常 時 の 文 学 の 人 間 を 離 れ た る 大 原 因 と な り て 居 た り き ﹂ ( 明 治 文 学 管 見 ) と、 仏 教 の 反 近 代 性 を 指 摘 し て い る。 か く 指 摘 さ れ る 程、 日 本 仏 教 は 昔 か ら 本 質 を 誤 解 さ れ る 場 合 が 多 い か っ た。 透 谷 は 仏 教 を 全 面 的 に 斥 け た の で は な い。 仏 教 に 代 表 す る 欧 米 思 想 を 調 和 さ せ る こ と を 理 想 と し た。 彼 が 信 仰 し た ク ェ ー カ リ ズ ム は、 そ の 理 想 を 叶 え て い る も の で あ り、 彼 の 崇 敬 し た エ マ ー ス ン は、 ク ェ ー カ ー を 信 じ た。 透 谷 が ﹁ エ マ ー ス ン ﹂ を 起 稿 し 脱 稿 し た の は、 明 治 廿 六 年 廿 四 歳 の 時 で、 翌 年 自 殺 し て い る。 彼 が エ マ ー ス ン を い つ 頃 か ら 読 ん だ か は 不 明 で あ る が、 彼 が 既 往 の 文 章 に は、 エ マ ー ス ン の 宗 教 的 自 然 観、 恋 愛 観、 報 償 思 想 ( 因 果 応 報 ) 平 和、 心 霊、 唯 心、 寂 静、 調 和、 無 教 会 主 義 等 の 思 想 並 に 信 仰 と 共 通 点 が 多 い。 彼 は エ マ ー ス ン の 楽 天 主 義 に 共 鳴 し た が 民 友 社 よ り 貰 う た 稿 料 の 安 き を 悲 観 し た ご と が 直 接 の 原 因 と な っ て 自 殺 し た と 考 え ら れ る。 註 (一)(二)(三) は、 弘 法 大 師 全 集、 真 言 宗 全 書、 大 智 度 論 を 閲 し て み あ た ら ず。 大 山 公 淳 法 印、 梅 原 真 隆 勧 学 に 訊 せ し も、 未 だ 出 拠 不 明。 学 界 の 協 力 に よ り 考 証 す べ き で あ る。 恋 愛 論 清 純 な 恋 急 の 讃 美 と 女 性 崇 拝 は、 浪 漫 主 義 文 学 の 特 性 で あ る が、 日 本 近 代 浪 漫 主 義 も そ の 例 外 で は な か っ た。 そ の 浪 漫 的 情 炎 に 点 火 し た の は 透 谷 で あ っ た。 抑 も 恋 愛 は 凡 て の 愛 情 の 初 め な り。 親 子 の 愛 よ り 朋 友 の 愛 に 至 ま で、 凡 そ 愛 情 の 名 を 荷 ふ べ き 者 に し て 恋 愛 根 基 よ り 起 ら ざ る も の は な し。 進 ん で 上 天 に 達 す べ き 浄 愛 ま で も こ の 恋 愛 と 関 連 す る こ と 多 く、 人 間 の 運 命 の 主 要 な る 部 分 ま で も こ の 男 女 の 恋 愛 に 因 縁 す る こ と 少 な か う ず。 (﹁ 歌 念 仏 ﹂ を 読 み て ・ 全 集 巻 一、 三 四 九 ) 右 に よ れ ば 倫 理、 宗 教 の 根 元 も 恋 愛 に あ り と し た。 ﹁ 恋 愛 は 人 生 の 秘 鋪 な り ﹂ ( 厭 世 詩 歌 と 宗 教 ・ 全 集 巻 一、 二 五 四 ) と い う 所 以 で あ る。 凡 そ 自 然 な る も の は 神 聖 で あ る。 男 女 間 の 恋 で あ る 恋 愛 は 自 然 で あ っ て 神 聖 で あ る。 仏 教 は 自 然 法 爾 を 畢 寛 依 と す る。 こ こ で 仏 教 と 恋 愛 が 共 通 す る。 そ の 例 は 史 上 に 多 い 北 村 透 谷 の 仏 教

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密 教 文 化 が、 こ こ に 一, 二 の 例 を あ げ る。 仏 菩 薩 ノ 類 ハ 心 ヲ イ タ シ テ 見 ン ト 願 バ バ、 其 人 ノ 前 ニ ア ラ バ レ ン ト 誓 給 ヘ リ。 ⋮ ⋮ 妻 子 ヲ 恋 ガ 如 ク 恋 タ テ マ ツ リ、 名 利 ヲ 思 ガ 如 ク 行 バ バ、 顕 レ 給 ハ ン 事 カ タ カ ラ ズ。 ( 発 心 集 巻 五 ) ( 参 学 者 は ) 先 づ 只 欣 求 の 志 し の 切 な る べ き な り。 讐 へ ば 重 ぎ 宝 を ぬ す ま ん と 思 ひ、 強 き 敵 を う た ん と 思 ひ、 高 き 色 に あ は ん と 思 ふ 心 あ ら ん 人 は、 行 往 坐 臥 こ と に ふ れ お り に 随 て、 種 々 の 事 は か は り 来 る と も、 其 れ に 随 て 隙 を 求 め、 心 を 懸 く る な り。 こ の 心 あ な が ち に 切 な る も の、 と げ ず と 去 ふ こ と な き な り。 ( 正 法 眼 蔵 随 間 記 第 二 ) 仏 が 女 人 と 変 相 し た も の に 男 が 恋 愛 し た 話 は、 今 昔 巻 十 七 の 第 三 十 三 語 で、 叡 山 の 若 僧 が、 学 問 の 成 就 を 虚 空 蔵 菩 薩 に 祈 つ て い る と、 美 し い 女 と 化 身 し、 愛 欲 を 機 縁 と し て、 そ の 祈 り の 目 的 を 達 せ さ る 話 で、 菊 池 寛 の ﹃ 新 今 昔 物 語 ﹄ の ﹁ 好 色 成 道 ﹂ の 種 本 で あ る。 親 鶯 の 一 生 も 亦 好 色 成 道 で あ る。 即 ち 覚 如 の ﹃ 御 伝 紗 ﹄ に、 ﹁ 建 仁 三 年 辛 酉 四 月 五 日 夜 寅 時、 聖 人 夢 想 の 告 ま し ま し き。 彼 ﹃ 記 ﹄ に い わ く、 六 角 堂 の 救 世 菩 薩、 顔 容 端 厳 の 聖 僧 の 形 を 示 現 し て、 白 柄 の 袈 裟 を 着 服 せ し め、 広 大 の 白 蓮 華 に 端 坐 し て、 善 信 に 告 命 し て の た ま わ く、 行 者 宿 報 設 女 犯、 我 成 玉 女 身 被 犯、 一 生 之 間 能 荘 厳、 臨 終 引 導 生 極 楽 ﹂ に よ れ ば、 救 世 ( 観 音 ) 菩 薩 の 化 身 で あ る 玉 女 は、 親 鷺 の 恋 愛 結 婚 の 相 手 で あ る 恵 信 尼 で あ る。 親 鷺 は 妻 を 観 音 の 化 身 と し て 敬 愛 し た の で あ る が、 恵 信 尼 も 亦 夫 を 観 音 の 化 身 と 信 じ て 敬 愛 し た こ と が ﹁ 恵 信 尼 消 息 ﹂ に み ら れ る。 吾 々 は 右 の 諸 例 で 美 と 信、 美 と 聖 と が 相 即 不 離 で あ る こ と を 確 認 す る こ と が で き る。 藤 俊 成 が、 ﹁ 恋 ひ せ ず ば 人 は 心 も な か ら ま し も の の あ は れ は こ れ よ り そ し る ﹂ ( 長 秋 詠 藻 ) を よ ん だ 心 と は、 美 と 信 と 聖 の 蔵 識 で あ る。 王 朝 の 美 意 識 で あ る ﹁ も の の あ は れ ﹂ は、 恋 愛 の あ は れ、 仏 を 恋 う あ は れ、 群 生 悲 憐 の あ は れ を 蔵 め て い る。 感 情 を 重 ん ず る よ り し て 文 芸 が 重 ん ぜ ら れ る。 透 谷 は 恋 愛 感 情 を 極 め て 重 ん じ 宗 教 的 神 聖 視 し た。 透 谷 は 元 禄 時 代 を 論 じ、 遊 廓 も 儒 教 も 仏 教 も 恋 愛 を 不 自 然 に あ り と し た。 不 自 然 な る 恋 愛 に、 好 色 の み に て 精 神 愛 ( ま こ と ) な き も の と、 精 神 愛 の み に て 好 色 な き も の の 二 種 あ り と し た。 透 谷 の 恋 愛 は 後 者 で あ っ た。 こ れ を 不 自 然 と 見 ざ る 処 に、 彼 の 不 調 和 な 生 が あ っ た。 勿 論 性 愛 も 精 神 愛 も 自 然 で あ る。 精 神 愛 と 離 れ た 性 愛 は 俗 で あ る。 両 性 間 の 恋

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-150-愛 に お い て、 性 愛 を 離 れ た 精 神 愛 の み で あ る こ と は 考 え ら れ な い。 透 谷 の 処 女 崇 拝、 恋 愛 神 聖 観 ( 処 女 の 純 潔 を 論 ず、 全 集 巻 二、 二 五 頁 ) が、 キ リ ス ト 教 よ り 得 た こ と は 定 説 と な っ て い る が、 仏 教 の 観 音 信 仰 や 神 仙 思 想 の 仙 女 か ら も 学 ん だ と 考 え ら れ る。 透 谷 が 何 故 に か か る 恋 愛 観 を も つ に 至 っ た か と い う に、 少 年 時 代 放 蕩 好 色 に 飽 き、 又 社 会 運 動 に 絶 望 し て 石 塚 ナ ミ 子 に 逢 い、 彼 女 の キ リ ス ト 信 者 と し て の 精 神 美、 肉 体 美 に 感 動 し て 繊 悔 し 且 は 心 の 傷 を 慰 め え た 処 に あ る。 即 ち ナ ミ 子 に よ っ て 霊 性 を 自 覚 し え た。 ナ ミ 子 は 彼 の 観 世 音 で あ り ベ ア ト リ チ エ で あ っ た。 彼 は こ こ を 起 点 と し て 益 々 キ リ ス ト 信 仰 を 深 め、 泰 西 近 代 の 文 物 思 想 に 接 し、 こ れ ら の 教 養 に 拠 り、 日 本 古 今 の 文 化 を 批 判 し た。 彼 の 処 女 崇 拝 は 吾 々 も 承 認 で き る が、 ナ ミ 子 と 結 婚 し た こ と は 更 に 祝 福 す べ き こ と で あ る。 結 婚 は 性 愛 と 精 神 愛 の 自 然 な 結 合 で あ っ て 神 聖 で あ る。 吾 々 は こ の 結 婚 神 聖 観 を 奉 ず る が 故 に、 離 婚 後 の 透 谷 が 遊 廓 に 好 色 し、 妻 子 を 遺 し て 自 殺 し た こ と を 憎 む。 透 谷 は 結 婚 に よ っ て も 自 己 を 幸 福 に な し え な か っ た。 自 由 そ れ は い つ の 時 代 い か な る 国 の い か な る 階 級 の 人 々 も 求 め て い る 幸 福 の 内 容 で あ る。 透 谷 の 浪 漫 主 義 も 亦 人 間 性 の 解 放 自 由 で あ っ た。 生 死 の 解 脱 を 説 く 仏 教 は 絶 対 の 自 由 を 説 い て い る の で あ る。 尤 も 現 実 な る も 仏 教、 尤 も 現 実 に 執 せ ず 離 る る も 仏 教。 こ れ を 霊 力 と い う。 現 実 を 離 れ て 自 由 な る は 逃 避 小 乗 で あ り、 現 実 中 に あ り て 自 由 な る を 真 の 自 由 と す る。 空 は 現 実 を 達 観 す る 余 裕 あ る が 故 に 現 実 を 正 見 す る。 文 学 が 人 間 を 愛 す る 為 に は、 人 間 を 知 ら ね ば な ら ぬ。 知 る 為 に は 正 見 せ ね ば な ら ぬ。 近 代 で も 傑 作 と さ れ る 殆 ん ど は、 宗 教 信 者 の 手 に な っ た の は、 人 生 を 解 脱 し て 自 由 を 得 て い る か ら で あ る。 但 し そ の 宗 教 も 宗 義 や 教 会 を 固 執 せ ず 自 由 で あ っ た。 新 人 生 を 創 造 す る 作 家 と し て は、 か く あ ら ざ る を 得 な い の で あ る。 透 谷 も 亦 然 り で、 キ リ ス ト 教 と 仏 教 を 信 じ つ つ も 批 判 的 で あ っ た。 こ こ に 彼 の 人 生 の 破 綻 の 原 因 が あ っ た。 こ れ を 証 す る も の は、 彼 の 人 生 牢 獄 観 で あ る。 即 ち 聖 な る 霊 魂 は、 肉 体 的 官 能 や 恋 愛 の 牢 獄 中 に 苦 悶 す る と い う 人 生 観 が、 熱 意 ( 全 集 巻 二、 二 五 五 頁 ) 我 牢 獄 ( 全 集 巻 二、 三 五 一 頁 ) に み ら れ る。 透 谷 が 処 女 の 純 潔 を 讃 え て、 精 神 愛 と 性 愛 の 自 然 洪 爾 ( 調 和 ) で あ る 結 婚 後、 尚 遊 廓 に 戯 れ 恋 愛 牢 獄 観 を も つ と い う こ と は、 宗 教 的 諦 悟 の 不 徹 底 を 語 る も の で、 そ れ は 亦 夕 学 論 の 未 熟 を 語 る こ と で も あ っ た。 ( 以 上 ) 北 村 透 谷 の 仏 教

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