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テーラワーダ仏教の僧衣の色 (フォトエッセイ)

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テーラワーダ仏教の僧衣の色 (フォトエッセイ)

著者 加賀美 充洋

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 アジ研ワールド・トレンド

巻 175

ページ 32‑35

発行年 2010‑04

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00046458

(2)

  バンコクに住んで二年半が過ぎたが︑最 近はメコン河周辺の国を訪れることが多

い︒そこで気づいたのが仏像の顔と僧侶の

着ている僧衣の色が各国とも微妙に違うこ

とである︒筆者は︑五戒︵①生類を殺さな

い︑②盗みをしない︑③みだらなことをし

ない︑④うそをつかない︑⑤酒を飲まない︶

も守れないし︑とても敬虔な仏教徒とはい

えないが︑旅人としてその違いにふと気づ

いたのである︒仏像の顔は︑ミャンマーが

やさしい顔︑タイはちょっときつめの顔

そしてラオスがどことなくユーモラスな顔

である︒僧衣は︑ミャンマーが赤黒い色

タイが黄色︑ラオスは鮮やかなオレンジ色︑

カンボジアは朱色が多いといったところで

あろうか︒

  仏像はいろいろな種類の仏像があり︑そ

の顔は︑彫り師の個性や材料またできた年

代にも影響されるので違っていて当たり前

かもしれない︒例えば同じミャンマーでも

荘厳で非常に気品に満ちた像︵写真

1︶も

あれば︑大仰で福々しい像︵写真

2︶もあ

る︒またラオスはどことなくユーモラスで

ある︵写真

3︶︒見ていて楽しいのである︒

一方︑僧衣の色はなぜ違うのであろうか︒

  仏教は仏陀によって紀元前五世紀ごろで

き︑仏陀入滅後一〇〇年ぐらいたちテーラ

ワーダ︵上座部︶を含む部派仏教が成立

それは今のスリランカや東南アジアに伝わ

る南伝仏教となった︒一方︑部派仏教の保

守化︑形骸化に対して仏陀入滅後五〇〇年

位たち改革派が現れ︑後に中国や日本に伝

わり大乗仏教と呼ばれることになった︒こ

テーラワーダ仏教の 僧衣の色

写真1 ミャンマー: ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダにおける見目麗しい仏像

写真・文

加賀美充洋

Mitsuhiro Kagami

■ フォトエッセイ ■

■ フォトエッセイ ■

(3)

バンコク プノンペン

ビェンチャン ルアンプラバン マンダレー

パガン

ヤンゴン

カンボジア タ   イ ラオス

中  国 中  国

ベトナム ミャンマー

  

  

  

のように部派仏教の方が古いし︑元の仏陀

の教えに近いものと言える︒なお部派仏教

は改革派から小乗仏教といわれるがこれは

大乗仏教の︵衆生を乗せる︶大きな乗物に

対して小さくて劣った乗物を指し︑蔑称な

ので使わない方が良いらしい︒

  さて僧衣はもともとどんなものであった

のか︒仏陀は出家した後︑その衣は人々か

ら喜捨されたぼろ切れをパッチワークして

着ていたようだ︒弟子たちが増えてきた段

階で仏陀も衣装について統一した方がよい

ということで︑人々がゴミとして捨てた布

を用いてそれを洗濯し︑野菜・植物ないし

香辛料︵ウコン︑クミン︑パプリカ︑サフ

ラン等︶で染色して僧衣とした︒僧衣の代

名詞となった﹁サフラン・ローブ﹂はここ

から来ている︵ “The Buddha’s Robe”, buddhism.about.comおよび“The Monastic Robes’, buddhanet.net参照︶︒

  タイのテーラワーダ仏教の出家僧につい

ては︑憲法というべき守らなければいけな

い二二七戒がある︵石井米雄﹃タイ仏教入

門﹄めこん︑二〇〇六年︶︒そのなかのエ

チケット集に服装に関する作法がある︵同

六五〜六六頁︶︒僧侶の着る衣は三衣ある︒

腰から足首にかけて着る﹁下衣︵パーリ語

でアンタラワーサカ︶﹂︑身体全体をおおう

﹁上衣︵ウッタラーサンガ︶﹂︑そして肩か

らかける﹁大衣︵サンガーティ︶﹂である︒

大衣は寒い時などに覆うものであるが︑今

では儀式などの時に左肩に乗せる装飾と

なっている︒一般に寺院内では右肩を出し

ていてもよいが︑外出の際は肩を出しては

写真4 ミャンマー:ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダにいた青年僧

写真2

ミャンマー:マンダレー北部のインワ にあるローカタラピェ・パゴダにある 総大理石の仏像

写真3 ラオス:ビエンチャンのルアン・パゴダで鎮座する仏像

(4)

いけないことになっている︒またこれ以外

に作業などの時に着るチョッキ︵アングサ

と呼ばれる︶がある︒これは左肩からかけ

て右の脇の下で留めるだけのものである︒

  さて僧衣の色であるが︑日本におけるタ

イの碩学︑野中耕一氏によると︑色にも取

り決めがあるとのことだ︒ラーマ五世の異

母弟で︑偉大なる仏教学者のワチラヤーン

親王の編集された仏教辞典に次のように出

ている︒﹁六種のもので染めるように言わ

れている︒①根︑②樹木︑③樹皮︑④木の

葉︑⑤花︑⑥果実︒染められた衣の色は三

蔵には書かれていない︒色についても明記

されていない︒カーサヤ色とだけ書かれて

いる︒︵これはシクシン科のヒルギモドキ

という木の液で渋色と訳される︶しかし

次の色は禁じられている︒藍色︑黄色︑赤

色︑赤紫

︑橙色

︑桃色

︑黒色⁝

⁝しかし

保証されているのは赤色の混じった黄色

またはくすんだ黄色である

︒ジャックフ

ルーツ︵仏教用語では波羅蜜を当てる︶の

心材はグラックと言い︑黄色で煮汁は染料

にする︒﹂こうしてみるとどうも渋柿色と

いうか赤黒い色が僧衣の正式な色らしい︒

メコン河流域を旅していると

︑我々が 失ったものに会えるので心が和む

︒特に

ミャンマーやラオスは優しい人々や美しい

風景が多い︒ミャンマーはユネスコの世界

遺産級の遺跡がたくさんある︒中でもバガ

ンの仏塔群は秀逸である︒この流域は本当

にテーラワーダ仏教が生活に根ざしてい

る︒さて僧衣の色であるが︑ミャンマーの

僧は渋柿色を着ている︵写真

4と 5︶︒ミャ

写真5  ミャンマー:ヤンゴン、池の魚に餌をやる成年と 子供の僧侶

写真6  タイ:トンローの駅前で托鉢する僧侶

写真7  タイ:サケット寺院に早朝托鉢からお供を連れて戻ってきた僧侶 写真8  ラオス:ルアンプラバンにあるマク・モー寺院の昼下がり

(5)

ンマーはまだ近代化こそ遅れているが しっかりと仏陀の伝統を守っているよう

だ︒タイは︑規則のように大体において黄

色系統が多いように見受ける

︵ 写真 6と

7︶︒またラオスは鮮やかなオレンジ色で

ある︵写真

8と

9︶︒またここではアング

サと呼ばれる作業衣をきている僧にも出

会った︵写真

10︶︒そしてカンボジアは明

るい朱色である︵写真

11︶︒しかし︑ミャ

ンマー以外でもたまに赤黒い僧衣を纏った

僧侶を見かけることもあるし︑タイでもオ

レンジ色の僧衣を見かけるので真相はわか

らない︒テーラワーダ僧に階級みたいなも

のがあってそれにより着る僧衣の色が違う

とは思えない︵日本では最上位が紫色と聞

く︶︒考えられるのは︑僧衣の布は元々在

家の人々のお布施︑喜捨が基本なので︑在

家の人は僧衣の色なんて決まっているとは

知らずにそれらしい色の布を僧侶にあげて

いるうちに微妙に色が違ってきたのであろ

う︒だがこれはあくまで筆者の想像なので︑

どなたか知っている方がいたら教えていた

だければ幸甚である︒最後に︑筆者と高僧

のツーショットを掲げておく

︵写真

12︶

二二七戒を守る出家僧の表情はなかなか味

わい深い︒なおテーラワーダ仏教の真髄に

ついてさらに知りたい方は︑ポー・オー

パユットー著︑野中耕一翻訳﹃テーラワー

ダ仏教の実践―ブッダの教える自己開発﹄

︵サンガ社︑二〇〇七年︶をお勧めする︒

︵かがみ みつひろ/バンコク研究センター所長

写真9 ラオス:ビエンチャンのシムアン寺院において弟子を連れた高僧 写真10 ラオス:ビエンチャン、作業のためチョッキを着た青年僧

写真11 カンボジア:プノンペン、サラワン寺院の青年僧、右肩に入墨がある 写真12 タイ:ツーショット(聖・俗の対比)

参照

関連したドキュメント

といったAMr*"""erⅣfg"'sDreα

(13 ページ 「Position(位置)」 参照)。また、「リファレンス」の章を参照してくだ さい。(85 ページ 「水平軸」

90年代に入ってから,クラブをめぐって新たな動きがみられるようになっている。それは,従来の

仏像に対する知識は、これまでの学校教育では必

(4) 現地参加者からの質問は、従来通り講演会場内設置のマイクを使用した音声による質問となり ます。WEB 参加者からの質問は、Zoom

彩度(P.100) 色の鮮やかさを 0 から 14 程度までの数値で表したもの。色味の

用できます (Figure 2 および 60 参照 ) 。この回路は優れ た効率を示します (Figure 58 および 59 参照 ) 。そのよ うなアプリケーションの代表例として、 Vbulk

増田・前掲注 1)9 頁以下、28