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(ラットにおける肺泡沫細胞の発生機序に関する研究)

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Academic year: 2021

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博 士 ( 獣 医 学 ) 渋 谷 一 兀

学 位 論 文 題 名

Studies on the Genesis of Pulmonary Foam Cells in the Rats

(ラットにおける肺泡沫細胞の発生機序に関する研究)

学位論文内容の要旨

  毒性試験は,薬物あるいは農薬等の新しく開発された化学物質の安全性を評価するために実施 されてきたと同時に,それら化学物質のヒト及び動物に及ぼす毒性を確認し,理解し,制御し,

規定することに多大に貢献してきた。毒性試験において,ラットをはじめとする実験動物は,試 験物質の効力及び安全性を評価するために必要な生物学的デ一夕を提供するのに非常に重要な役 割を演じてきた。これら実験動物の基礎的な生物学的データの集積は,試験物質の正確な安全性 評価を得るために欠くことができない。特に,毒性病理学の分野において,実験動物の自然発生 病変の病理発生を理解することは重要である。

  ラットの肺には泡沫細胞の集積がしばしば観察されるため,毒性試験においては薬物誘発性の 変化との鑑別が試験物質の安全性評価において重要である。ラットにおけるこれら肺泡沫細胞 (PFCs)は,炎症 ,ある種の薬物投与,あるいは高脂肪含有飼料の給与によって誘発される一 方で,組織学的に特別な病変が証明されないラットの肺にも観察されてきた。これら自然発生 PFCsがいかなる感染因子とも関係していないこと及び老齢ラットに比較的頻繁に出現すること が述べられてき た。しかしながら,自然発生PFCsの発生機序にはいまだ不明な点が多い。本 研究は,現在,毒性試験において最も汎用されているFischer344(F344)ラットの生物学的特 徴をさらに明らかにするため,F 344ラットにおける自然発生PFCsの病理学的特徴及びその発 生機序を検討した。

  第1章においては,毒性試験の実施に適合したバリア一・システム環境下の動物飼育施設内で 飼育されたF 344ラットに自然発生したPFCsの発生率,発生状況,及び病変の特徴を明らかに した。組織学的に,PFCsは微小空胞を充満する豊富な弱好酸性の細胞質と比較的小型の核をもつ ていた。組織化学的に,PFCsの細胞質内の微小空胞には,コレステ口一ル及び種々の月旨質が証 明され,酸性ホスファターゼ陽性を示した。PFCsの集積は,組織学的には雄ラット494匹中53

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匹(10.7%)に,雌ラット495匹中44匹(8.9%)に認められた。PFCsはその出現以外に病変が 証明されない肺に比ベ,吸引性肺炎,肺原発腫瘍及びりンパ肉腫の転移を示す肺において有意に 高い頻度で発生した。PFCsは組織学的に52週齢から観察され,その後加齢に伴って発生率を増 加する傾向 を示し,その程度も重度となった。PFCsの発生率は120から140週齢の間で最高値 (28.8%)に達した。血漿中の総コレステ口一ル値は,雌雄ラットとも加齢に伴って増加した。

  以上のように,F 344ラットにおいて自然発生したPFCsの発生率と程度は,加齢に伴って増 強することが示唆された。また,PFCsは他に病変を持たない肺に比べて,炎症性あるいは腫瘍 性病変を伴う肺において有意に高い発生率で出現した。この結果は,それらの病変に起因する肺 組織の損傷が,内因性の脂質の放出をきたし,PFCsが集積することを示すものと考えられた。

PFCsの細胞質内にはコレステロ―ルをはじめ種々の脂質の存在が証明され,検索したラットの 血漿中総コレステ口ール値は加齢に伴って増加した。このことから,加齢に伴う血漿中コレステ 口一ル濃度の上昇が,PFCsの発生率及びその集積の程度の増強に関係していると考えられた。

  第2章に おいては,PFCsの発生に及ぼすコレステ口一ル投与及び加齢の影響を検討した。F 344雌雄ラ ッ卜に,1000mg/kg/dayのコ レステ口ールを6週齢から10週齢まであるいは33週齢 から37週齢までの30日間経口投与した。対照群には,同様の方法で媒体のみを投与した。投与群 及び対照群の雌雄ラットにおいて,37週齢時における血漿中のロリポ蛋白,総コレステロール,

リン酸質,トリグリセリド及びカルシウムの濃度は10週齢時に比べ高値を示し,これは加齢に関 係した生理的変動と考えられた。投与群におけるpリポ蛋白及びトルグリセリド濃度は,10及び 37週齢時において対照群よりも有意に高いか,高い傾向を示した。投与群の雄ラットは37週齢時 に最高のロ リポ蛋白濃度を示し,これ は同群におけるPFCsの最高発 生率と相関した。PFCs は,中性脂肪及びコレステ口一ルを含む多数の微細空胞を細胞質に充満しており,免疫組織化学 的に単球/マクロファージ由来であることが証明された。中等度に腫大し,泡沫状の細胞質をも つマク口ファージが肺の血管周囲結合組織に観察された。

  以上の結果から,PFCsの自然発生には加齢に伴う血漿中ロリポ蛋白濃度の増加が関与し,コ レステロール投与によルロリポ蛋白濃度の増強効果が,PFCsの出現率をより高めたと考えられ た。肺胞マク口ファージは,血液単球に由来することが知られている。本研究において肺の血管 周囲に出現 した泡沫化マクロファージはPFCs発生の初期段階を示すものと考えられ,ラツト

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出現する組織学的病変のーっと考えられた。

  第3章では,高脂肪含有飼料の給与によってF 344ラットに実験的に発症させた高ロリポ蛋白 血症下において,血中脂質,特にロリポ蛋白濃度の変動に対する血液単球及び肺胞マク口ファー ジの泡沫化とPFCs発生の関 連性を検索した。高脂肪含 有飼料を4,8及び12週間給与したF3 44ラットでは,血漿中ロリポ蛋白濃度及び血清の電気泳動法によるロリポ蛋白分画が著明に増加 し,給与12週後の動物から分離した低比重リポ蛋白及び超低比重リポ蛋自分画における脂質含量 も有意に高い値を示し,高ロリポ蛋白血症が誘発されていることが証明された。これら高ロリポ 蛋白血症ラットでは,血液単球増多症が観察され,泡沫化単球が血液中に高率に出現し,給与期 間の延長に伴ってそれらの出現率が増加した。肺洗浄細胞中の肺胞マクロファージにおいても,

PFCsが高率に観察され,給与期間の延長に伴ってその出現率及び程度が増強し,肺泡沫化単球 の出現率の変動とよく相関した。組織学的に,PFCsは全ての処理群のラットに観察され,その 集積の程度は給与期間の延長に伴って増強した。泡沫化単球か小血管内に頻繁に観察され血管周 囲結合組織内には泡沫化マク口ファージが高率に観察された。高脂肪含有飼料を4週間給与した 後ラテックス粒子を静脈内に注入したラットでは,ラテックスを貪食した血液単球の出現率は対 照群と大差なかったが,ラテックス含有泡沫化単球の出現率は注入後の期間の延長に伴って有意 に 増 加 し , 同 時 に ラ テ ッ ク ス 含 有PFCsの 出 現 率 の 増 加 と よ く 相 関 し た 。   以上のことから,高ロリポ蛋白血症ラットにおいて,血液単球が血中の過剰な脂質(ロリポ蛋 白)を摂取して泡沫化単球 となり,高率に肺ヘ移行してPFCsとして出現することが示唆され た。

  以上,F 344ラットにおける自然発生PFCsの生物学的特徴及び病理発生にっいては今後さら に研究を重ね明らかにされなければならないが,発生機序の基礎的知見は,ヒトにおける粥状動 脈硬化症の病理発生との類似点が多く,今後ヒトの疾患モデルとしての有用性が期待される。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授   板 教授   波 教授   杉 教授   佐

倉智敏 岡茂郎 村   誠 藤文昭

  ラ ッ ト の 肺に は 泡 沫 細 胞(PFC)が し ば し ば 観 察さ れ る た め, 日常の 実験, とり わけ毒 性試 験の安 全性評 価に際 し, その出 現の意 義づけ が重要 であ る。そ こで申 請者は ,現 在,毒 性試験に 最 も 汎 用 さ れ て い るFischer344(F344)ラ ッ トを 用 い ,PFCの 発 生 状 況, 形 態 学 的 特徴 , 発 生機序 にっい て研究 し, 本論文 をまと めた。 本論文 は英 文88頁か らなり,3章で構成されている。

  第1章 でtま , バ リ アー ・ シ ス テ ム 環境 下 で 飼 育 したF 344ラ ッ ト に 自然 発 生 し たPFCの 組織 学的 な 発 生 状 況と 形 態 学 的 特徴 を 明 ら か に した 。PFCは 多 数 の 微小空 胞を有 する弱 好酸 性の細 胞質 に 富 み , 比較 的 小 型 の 核を 持 っ て い た 。組 織 化 学 的 にPFCの細胞 質の微 小空胞 は, コレス テ口 一 ル 及 び 種々 の 脂 質 を 有し , 酸 性 ホス ファタ ーゼ陽 性を示 した 。PFCの集積 は,雄 ラット4 94匹 中53匹 (10.7% ) に , 雌 ラッ ト495匹 中44匹(8.9% )に 認 め ら れ た。PFCは 合併 病変 を持 たなぃ 肺に比 べ,吸 引性 肺炎, 肺原発 腫瘍及 びりン パ肉 腫の転 移を示 す肺に おい て有意 に高い頻 度で 発 生 し た 。PFCの 集 積は52週 齢か ら 観 察 さ れ ,そ の 後 加 齢に 伴って 発生率 の増 加と程 度の 重度 化 傾 向 を 示し た 。 血 漿 中の 総 コ レ ステ 口ール 値は, 雌雄ラ ット と加齢 に伴っ て増加 した。

  以 上 の 成 績か ら ,F 344ラ ッ トに お け るPFCの 集 積 は ,加 齢 に 伴 っ て増 大 す る ほ か, 炎症性 ある い は 腫 瘍 性肺 病 変 に 起 因す る 肺 組 織 の 損傷 が 内 因 性 の脂 質 の放出 をきた し,PFCを 集積さ せる も の と 考 えら れ た 。 ま た, 加 齢 に 伴 う 血漿 中 コ レ ス テ口 ー ル濃度 の上昇 が,PFCの 発生率 及びそ の集積 の程度 の増 大に関 係して いると 考えら れた 。

  第2章 では ,PFCの発 生 に 及 ぼ すコ レ ス テ 口 ール 投 与 及 び 加 齢の 影 響 を 検 討し た 。F344雌雄 ラ ッ ト に ,1000mg/kg/dayの コ レ ス テロ ー ル を30日 間 (6週 齢か ら10週 齢ま で と33週齢 か ら3 7週 齢 ま で ) 経口 投 与した 。対照 群には ,同 様の方 法で媒 体のみ を投 与した 。投与 群及び 対照群 におい て,37週 齢時 におけ る血漿 中のロ リポ 蛋白, 脂質及 びカル シウム の濃 度が10週 齢時に比ベ

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発 生率 と 相 関 し た 。PFCは 免疫 組 織 化 学 的に 単 球 / マ ク口フ ァージ 由来 である ことが 証明さ れ た。 中等度 に腫大 し,泡 沫状の 細胞 質を持 つマク 口ファ ージ が肺の 血管周 囲結合 組織に観察され た。

  以 上 の 結 果 から ,PFCの自 然 発 生 に は加 齢 に 伴 う 血漿 中ロ ルポ蛋 白濃度 の増加 が関与 し, ロ リ ポ蛋 白 濃 度 の 増 大はPFCの出 現 率 を よ り高 め る と 考 えられ た。肺 の血 管周囲 にnj現し た泡 沫 化 マク 口 フ ァ ー ジ はPFC発 生の 初 期 段 階 を示 す も の と 考えら れ,ラ ット におい て過剰 な脂質 が 血 液中 で 単 球 に 摂 取さ れ ,PFCと し て 肺 から 排 泄 さ れ るとい う考え を裏 付ける 所見と みなさ れ る。

  第3章で は,F 344ラッ トに 高脂肪 含有飼 料を給 与し発 症さ せた高 ロリポ 蛋白血 症下において,

血 中脂 質 , 特 に ロ リポ 蛋 白 濃 度 の変 動 に 対 す る単 球 の 泡沫化 とPFC発生 の関連 性を検 索した 。 高 脂肪 含 有 飼 料 を4,8及 び12週 間給 与した ラット では, 血清 のりポ 蛋白電 気泳動 法によ るロ リ ポ蛋 白分画 が著明 に増加 した。 また ,給与12週後の 動物 から分 離した 低比重 ¢リ ポ蛋白及び超低 比重 リポ蛋 白分画 におけ る脂質 含有 量も有 意に高 い値を 示し ,高ロ リポ蛋 白血症 が誘発された。

これ ら高ロ リポ蛋 白血症 ラット では ,単球 増多症 が観察 され ,泡沫 化単球 が血液 中に高率に出現 し ,給 与 期 間 の 延 長に 伴 っ て そ れら の 出 現 率 は増 加 し た。組 織学 的に,PFCは 全ての 処置群 の ラッ トに観 察され ,その 集積の 程度 は給与 期間の 延長に 伴っ て増大 した。 また, 泡沫化単球が肺 小血 管内に 頻繁に 観察さ れ,血 管周 囲結合組織内には泡沫化マク口ファージが高率に観察された。

高 脂肪 含 有 飼料を4週 間給与 した後 ラテッ クス粒 子を 静脈内 に注入 したラ ット では, ラテッ クス 含 有泡 沫 化 単 球 の 出現 率 が 注 入後 の期間 の延長 に伴 って有 意に増 加し, 同時 にラテ ックス 含有 PFCの 出現 率の増 加とよ く相関 した 。

  以上 の成績 から, 高ロ リポ蛋 白血症 ラット におい て, 単球が 血中の 過剰な 脂質 (ロリポ蛋白)

を 摂 取 し て泡 沫 化 単 球 とな り , 高 率 に 肺へ 移 行 し てPFCと し て出 現 す る こ と が示 唆 さ れ た 。   以 上 の よ う に, 申 請 者 はF 344ラッ ト に お け る 自然 発 生PFCの 加 齢 に 伴う 発 生状況 と病態 を 明 らか に し , 実 験 的研 究 に よ りPFCの 病 理発 生 を 示 唆 した。 これら の知 見は, ラット の肺の 病 理変 化の評 価に大 きく貢 献する とと もに, 単球の 泡沫化 が重 要な初 期変化 と考え られているヒト 粥状 動脈硬 化症の 発生機 序の解 明の モデル 動物と もなり 得る もので ある。 よって 審査員一同は,

渋 谷 一 元 氏 が 博 士 ( 獣 医 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

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