博 士 ( 工 学 ) 上 村 理
学 位 論 文 題 名
低加速電子ビームによる電子回折イメージング 学位論文内容の要旨
原子 スケールの構造と物性・生 体機能をどの特性が密接に関連した材料はさまざま教分野に見ら れる。例えば,ナノチューブやフラーレンを始めとするカーポンナノ材料は,半導体素子や燃料電池 のみ顔らず,多彩を産業応用に向けた研究開発が進められている。これらの材料は,電気特性や半導 体動作 特性をどの物理的性質が結 晶構造と密接に関係しており,原子レベルでの局所構造解析が重 要である。また,タンパク質教どの生体分子やそれに特異的に反応する化学物質は,創薬のターゲッ トとし て盛んに構造解析が進めら れている。すをわちこのような材料では,構造がわかれば性質を 知ることができる。そのため構造解析は,産業応用において,材料の製造工程や生成過程,新薬の探 索をど で重要顔役割を担っている 。
電子 顕微鏡は原子スケールの構 造解析を行うための主要顔基幹技術のーつである。しかし,炭素 を主体とする軽元素で構成されているカーポンナノ材料,有機高分子,生体分子顔どにおいては,電 子ビー ム照射によるダメージを受 けやすぃことと,散乱断面積が小さいことに伴う低コントラスト とが課題であり,高分解能観察が困難に教っている。例えば,通常原子レベルの構造観察に用いられ る透過 電子顕微鏡(TEM: Transnussion electron microscope)では,照射ビームのエネルギーが高い ことにより,原子を弾き飛ばすことによる損傷(ノックオンダメージ)を与えやすく,観察が短時間 に限定 される極どの問題がある。また走査電子顕微鏡(SEM: Scanning electron microscope)次どの 低加速 (数十kV)電子ピームでは, ノックオンダメージは与え にくいがレンズ収差により原子レベ ルの分 解能を得ることが困難であ る。
一方 ,反復位相回復法をもとに した回折イメージングと呼ばれる新た顔イメージング手法が近年 注目されている。これは,試料の回折パターンを取得し,その強度分布から計算機処理で位相を再生 し実像を再構成する手法でっレンズ収差による分解能制限を回避し,原理的には波長程度の分解能が 期待で きる技術である。また回折 パターンから反復計算により実像を再構成するため,再構成には 結晶のようを周期構造が仮定されず,単一分子叔ど,非周期構造の再構成も可能である。この手法は X線に よる実証例が数々出され,顕 微技術のブレークスルーと して期待できる技術である。ところ が,電 子顕微鏡での検証例は,X線 に比べると少をいのが現状 である。
このよう教背景のもとに本研究では,回折イメージングを低エネルギー(低加速)電子ビームに適 用し、 低ダメージで高分解能をイ メージング法の研究開発を行った。本研究では.低加速電子ピー ムでの 回折イメージングの実証, および走査電子顕微鏡をべースとした専用装置の開発を行うこと を目的 とした。
本論 文は全10章から構成される 。
第1章で は, 低 加速 電子ピームでの高分解能 解析が求められる背景と本研 究の目的を述べる。
第2章では,回折イメージングの 概要を解説する。回折イメ ージングの原理と歴史を概説し,反 一655―
復位 相回復法の概要を述べる 。さらに,これを基本とし たPtychography誼どの位相回 復法をまと める。
第3章では,電子ビームに よりもたらされる試料損傷 を概説する。弾性散乱により生ずるノック オンダメージと非弾性散乱 の影響に関して説明する。
第4章 で は, 本研 究 で主 に扱 う試 料で あ るカ ーポ ンナ ノ チュ ープ(CNT)の 構造 およ び 回折 パ ターンに関して説明する。CNTの構造を定義するカイラ リティに関して説明し,回折パターンの特 徴,回折パターンからのカ イラリティ導出方法に関して述べる。また,多層カーポンナノチューブ (MWCNT)に おけ るequatorial lineの強 度分 布の 特 徴に 関し て, 解析 結 果を 含め て説 明 する 。 第5章では,プロトタイプ 実験機を用いた低加速電子回折イメージング検証結果に関して述べる。
第4章 で 示 し たMWCNTの 特 徴 的 構 造 を 再 構 成 す る た め に , 細 く 孤 立 し たMWCNTをTEM観 察 により同定し,プロトタイ プ実験機に導入して得た加速 電圧20 kVにおける回折パターンからの再 構成結果(分解能0.34 nm)を説明する。
第6章では,第.5章に示 したプロトタイプ実験機における課題を解消するために,走査電子顕微 鏡をべースとした電子回折 顕微鏡の試作に関して説明す る。また,この装置を用いて得た10 kVに おける0.34 nm解像結果に関 して説明する。
第7章では,第6章の結果か らさらに分解能を向上させ ,原子分解能を得るための投 影光学系の 設計及び評価結果に関して 説明する。
第8章 では ,第7章 で行 った 高分 解 能化 装置 を用 い, 単 層カ ーポ ンナ ノチ ュープ(SWCNT)を試 料として得た原子構造観察 結果に関して述べる。ノイズや′ヾックグラウンドを削除した加速電圧 30 kVの回折パターンから得 た,分解能0.12 nmの再構成結果を示す。また,得られた再構成像の強 度 で は , 孤 立 し た 炭 素 原 子 と 二 個 の 原 子 の 重 顔 り と の 区 別 が で き る こ と を 説 明 す る 。 第9章では,回折イメージ ングを実用化する上で,高 分解能化とともに重要と考えられる再構成 領 域 の サ イ ズ に 関 し て ,Mg0微 粒 子 を 用 い た 形 状 再 構 成 に よ る 評 価 結 果 を 述 べ る 。 第10章では,本研究で得 られた成果のまとめを述べる
本研究では,低加速電子ピームでの回折イメージングを実証し,走査電子顕微鏡をべースとした専 用装置の試作を行い,原子 分解能を達成することで,低加速電子回折イメージングの有効性を示し た。今後,従来では解析困 難であった軽元素を主体としたソフトマターの原子スケール構造解明や 物 理 的 性質 の 機構 解明 に適 用 され ,応 用物 理学 の 基礎 と応 用に 貢献 す るこ とが 期待 さ れる 。
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学位論文審査の要旨 主査 教 授 郷原 一壽 副査 教 授 石政 勉 副査 教 授 折原 宏 副査 准教授 柴山環樹
学 位 論 文 題 名
低加速電子ビームによる電子回折イメージング
原 子スケールの構造と物性・ 生体機能教どの特性が密接に関連した材料はさまざまを分野に見ら れる 。例えば、ナノチュープや フラーレンを始めとするカーポンナノ材料は、半導体素子や燃料電 池の み款らず、多彩を産業応用 に向けた研究開発が進められている。これらの材料は、電気特性や 半導 体動作特性教どの物理的性 質が結晶構造と密接に関係し ており、原子レベルでの局 所構造解 析が 重要である。また、タンパ ク質誼どの生体分子やそれに特異的に反応する化学物質は、創薬の ター ゲットとして盛んに構造解 析が進められている。すをわちこのようを材料では、構造がわかれ ぱ性 質を知ることができる。そ のため構造解析は、産業応用 において、材料の製造工程 や生成過 程、 新薬の探索顔どで重要を役 割を担っている。
電 子顕微鏡は原子スケールの 構造解析を行うための主要を基幹技術のーつである。しかし、炭素 を主 体とする軽元素で構成され ているカーポンナノ材料、有機高分子、生体分子塩どにおいては、
電子 ピーム照射によるダメージ を受けやすいことと、散乱断面積が小さいことに伴う低コントラス トと が課題であり、高分解能観 察が困難に教っている。例えば、通常原子レベルの構造観察に用い られ る透過電子顕微鏡(TEM: Transmission electron microscope)では、照射ビームのエネルギーが 高いことにより、原子を弾き飛ばすことによる損傷(ノックオンダメージ)を与えやすく、観察が短 時間 に限定される塩どの問題がある。また走査電子顕微鏡(SEM: Scanning electron microscope)を どの 低加速(数十kV)電子ピーム では、ノックオンダメージ は与えにくいがレンズ収差により原子 レベ ルの分解能を得ることが困 難である。
一 方、反復位相回復法をもと にした回折イメージングと呼ばれる新た教イメージング手法が近年 注目 されている。これは、試料 の回折パターンを取得し、その強度分布から計算機処理で位相を再 生し 実像を再構成する手法で、 レンズ収差による分解能制限を回避し、原理的には波長程度の分解 能が 期待できる技術である。ま た回折パターンから反復計算により実像を再構成するため、再構成 には 結晶のよう教周期構造が仮 定されず、単一分子教ど、非周期構造の再構成も可能である。この 手法 はX線による実証例が数々出 され、顕微技術のブレーク スルーとして期待できる技術である。
と こ ろ が 、 電 子 顕 微 鏡 で の 検 証 例 は 、X線 に 比 べ る と 少 を い の が 現 状 で あ る 。 このようを背景のもとに本研究では、回折イメージングを低エネルギー(低加速)電子ビームに適 用し 、低ダメージで高分解能を イメージング法の研究開発を行った。本研究では、低加速電子ビー
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ムでの回折イメージングの実証、および走査電子顕微鏡をべースとした専用装置の開発を行うこと を目的とした。
本論文は全10章から構成される。
第1章では、低加速電子ピームでの高分解能解析が求められる背景と本研究の目的を述べる。
第2章では、回折イメージングの概要を解説する。回折イメージングの原理と歴史を概説し、反 復位相回復法の概要を述べる。さらに、これを基本としたPtychography顔どの位相回復法をまと める。
第3章では、電子ビームによりもたらされる試料損傷を概説する。弾性散乱により生ずるノック オンダメージと非弾性散乱の影響に関して説明する。
第4章では、本研究で主に扱う試料であるカーボンナノチューブ(CNT)の構造および回折パ ターンに関して説明する。CNTの構造を定義するカイラリティに関して説明し、回折パターンの 特徴、回折パターンからのカイラリティ導出方法に関して述べる。また、多層カーポンナノチュー プ(MWCNT)におけるequatorial lineの強度分布の特徴に関して、解析結果を含めて説明する。
第5章では、プロトタイプ実験機を用いた低加速電子回折イメージング検証結果に関して述べ る。 第4章で示し たMWCNTの特徴的 構造を 再構成す るために 、細く 孤立したMW.CNTをTEM 観察により同定し、プロトタイプ実験機に導入して得た加速電圧20 kVにおける回折パターンから の再構成結果(分解能0.34 nm)を説明する。
第6章では、第5章に示したプロトタイプ実験機における課題を解消するために、走査電子顕微 鏡をべースとした電子回折顕微鏡の試作に関して説明する。また、この装置を用いて得た10 kVに おける0.34 nm解像結果に関して説明する。
第7章では、第6章の結果からさらに分解能を向上させ、原子分解能を得るための投影光学系の 設計及び評価結果に関して説明する。
第8章では、第7章で行った高分解能化装置を用い、単層カーポンナノチュープ(SWCNT)を試 料として得た原子構造観察結果に関して述べる。ノイズやバックグラウンドを削除した加速電圧 30 kVの回折パターンから得た、分解能0.12 nmの再構成結果を示す。また、得られた再構成像の 強度 では、 孤立した 炭素原 子と二個 の原子 の重をり との区別 ができることを説明する。
第9章では、回折イメージングを実用化する上で、高分解能化とともに重要と考えられる再構成 領 域 の サ イ ズ に 関 し て 、Mg0微 粒 子を 用 い た形 状 再 構成 に よ る 評価 結 果 を述 べ る 。 第10章では、本研究で得られた成果のまとめを述べる。
これを要するに、本研究では低加速電子ピームでの回折イメージングに対して新たを知見を得た ものであり、応用物理学に対して貢献するところ大教るものがある。よって著者は、北海道大学博 士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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