博士(農学)三田村理恵子 学位 論文題名
Estrogen 欠乏動物の難消化性糖類摂取による カルシウム吸収促進作用の解析
学位論文内容の要旨
骨 粗 鬆 症 は 日 本 に お い て 約1,000万 人 の 罹 患 患 者 が 推 定 さ れ て お り 、 人 口 の 急 速 な 高齢 化 と と も に 、 そ の 数 は 今 後 さ ら に 増 加 する と 推 察さ れ て いる 。 骨 粗 鬆症 は 、 組 織 学 的に 骨 の 質 的 な 変 化 な し に 正 常 に 石 灰 化 さ れ た骨 の 量 が減 少 し た病 態 と 定義 さ れ てお り 、 骨量 の 減 少 は 骨 の カ 学 的 な 脆 弱 性 を も た ら し 骨 折 増 加 の 要 因 と な る 。 骨 粗 鬆 症 が 閉 経 後 の 女 性 に 多 く 見 ら れ る こ と か ら 、estrogen欠 乏 が閉 経 後 骨粗 鬆 症 の 重要 な 因 子で あ る と考 え ら れて い る 。 ま た 骨 粗 鬆 症 の 臨 床 は す で に 発 生 し た 骨 折 の 治 療 で は な く 、 そ の 防 止 が 主 目 的 と な っ て お り 、21世 紀 の 国 民 健 康 づ く り 運 動 「 健 康 日 本21」 ( 厚 生 労 働 省 推 進 ) に お い て も 、 骨 粗 鬆 症 は 生 活 習 慣 病 の 中 で も 特 に 食 生 活 と の 関 連 が 深 い と さ れ 、 骨 粗 鬆 症 に 対 す る 栄 養 素 レ ベ ル の り ス ク フ ァ ク タ ー と し て カ ル シ ウ ム(Ca)摂 取 不 足 が 取 り 上 げ ら れ て い る 。 本 研 究 は 、 骨 粗 鬆 症 の 予 防 に な り うる 機 能 成分 を 探 索す る こ と を目 ・ 的 とし て 、 骨粗 鬆 症 の 予 防 や 治 療 薬 の 開 発 に 用 い ら れ る 代 表 的 な モ デ ル 動 物 で あ る 卵 巣 摘 出(OVX)ラ ッ ト を 用 い て 研 究 を 行 っ た 。 難 消 化 性 糖 類 と は、 ヒ ト の消 化 酵 素で 消 化 さ れな い 食 品成 分 で あり 、 近 年 で は 、 難 消 化 性 糖 類 の ヒ ト の 健 康 に 対 す る 有 効 性 が 解 明 さ れ て い る 。 そ こ で 種 々 の 難 消 化 性 糖 類 摂 取 に よ るCa吸 収 促 進 作 用 の 評 価 を 行 い 、 な か で も 強 いCa吸 収 促 進 作 用 が 示 された難消化性二糖類difructose anhydride III (DFAIH,di‑D‑fructofuranosyl1,2 :2,3 anhydride) に 関 し て は 、Ca吸 収 促 進 作 用 部 位 の 検 討 、 長 期 摂 取 に よ る 骨 代 謝 へ の 影 響 、 ビ タ ミ ンDと estrogen欠乏の相互作用を解析した。
1. 飼 料 中 の Caレ ベ ル が estrogen欠 乏 ラ ッ ト の Ca吸 収 に 与 え る 影 響 Caレベルが異なる4種の飼料(1.0,2.0,3.0,4.0gCa/kg diet)を、OVXと擬手術(Sham) ラットに摂食させ、Ca吸収に与える影響を検討した。その結果2.0g、3.0gCa/kg diet摂取 群 でOVXラ ッ トの 正味Ca吸収 率はShamラッ トに比 べ低 下し 、OVXに よっ てCa吸 収低 下を起こすかどうかは、飼料中のCaレベルに依存することが明らかになった。また正味 Ca吸収量と骨重量、骨ミネラル含有量の変化が3.0gと4.0gのCa/kg diet食群間で見られ なかったことから、3.0gCa/kg dietレベルがラットのCa最小必要量であると評価し、この レ ベ ル で は OVXに よ るCa吸 収 率 の 低 下 が 最 大 に な る こ と を 明 ら か に し た 。 2.種々の難消化性糖類摂取によるCa吸収促進作用の解析
骨 粗鬆 症の 予防 になりうる機能成分を探索することを目的として、OVXラットにDFAIII、 難消化性オリゴ糖であるraffinose、そして水溶性大豆食物繊維(WSSFwater‑soluble soybean fiber)を 摂取 させ 、Ca吸収 促進 作用を 評価 した 。その結果、これらすべての難消化性糖類 摂 取 はOVXラ ッ ト に み ら れ るCa吸 収 障 害 を 回 復さ せ た 。 特 にDFAIIIは1.5%と いう 低レ ベ ル で もCa吸 収 を促進 させ るこ とが 示さ れ、 強いCa吸 収促 進作 用を 持つ ことが 明ら かに なった。
3. DFAIII摂 取 に よ る Ca吸 収 促 進 作 用 に 及 ば す 小 腸 ・ 大 腸 部 位 の 寄 与 in vitro,in situの研究で、DFAIIIは小腸と大腸の双方でCa吸収を促進していることが示 され てい るが 、加vivoでは 確認 されていない。また、estrogen欠乏状態でのCa吸収促進作 用機 序に 関し ても 、詳 細な 解析 は行なわれていない。そこで、広範囲大腸切除手術を行な っ たOVXラ ッ ト を 用 い て 、 小 腸 、 大 腸 に お け るDFAIII摂 取 に よ るCa吸 収 促 進 作 用 機 序 の 検 討を 行な った 。そ の結 果DFAIII摂取 によ るCa吸 収促 進作 用に は大 腸が 関与 して いる こ と が示 され 、さ らに 小腸 でもDFAIII摂 取に よるCa吸収 促進 作用 は発 揮さ れて いる が、
加vivoでは小腸transit timeの短縮によりその作用は減弱されていることが明らかになった。
4.DFAIIIの長 期摂 取に よるCa吸収 及び 骨代 謝の 促進
OVXによ る骨 強度 の低 下や骨 量減 少に 対し 、DFAIIIが有 効に作用するかどうかは不明な 点 も 多 く あ る 。 そ こ で 、OVXラ ッ トに おけ るCa吸収 と骨代 謝の 関係 を明 らか にす るこ と を 目 的 と し 、OVXラ ッ ト のCa吸 収 不 全 を 誘 導 し た 後 、2ケ月 間 とい う長 期間 にわ たっ て DFAIIIを摂 取さ せ、 骨代 謝に 及ばす影響を検討した。その結果、DFAIIIの長期摂取は、骨 中 ミ ネ ラ ル と コ ラ ー ゲ ン の 濃 度を 増加 させ 、OVXに よる骨 量減 少を 完全 に回 復さ せた 。 DFAIII摂取 によ るCa吸収 促進 作用がこれらの有益な影響に関係していることが示された。
5.DFAIII摂 取 に よ るCa吸 収 促 進 作 用 に 及 ば すestrogenと ビ タ ミ ンD欠 乏 の 影 響 高 齢 者 に 見 ら れ る ビ タ ミ ンD (VD)欠 乏 に よ るCa吸 収障 害 に 着 目 し た 。VDがCa吸 収 に 及ぼ す作 用と して 、活 性型VDであ る1,25(OH)2D3が 消化 管で のCa能動 輸送 に関 与して い るこ と、 さら に1,25(OH)2D3はタイトジャンクションの化学的構造を変化させることに よ り、 上皮 細胞 間輸 送に よるCa吸収 を促 進さ せる こと が報 告さ れて いる 。DFAIIIはCaの 上 皮細 胞間 輸送 を促 進す ること が明 らか にな って いる が、VDに は上 記の よう に上 皮細胞 問 輸送 へも 作用 して いる ことか ら、DFAIIIが 能動 輸送 と上 皮細 胞間 輸送 のCa吸収 が抑制 さ れ て い る 条 件 で 、Ca吸 収 を 促 進 す る か どう か は 明 ら か で はな い。 そこ で、VDま たは estrogen欠 乏 、 さ ら にVDとestrogenの双 方が 欠乏 した 状態 で、DFAHI摂取 によ るCa吸収 と 骨ミ ネラ ル含 量の 変化 を評価 した 。そ の結 果、DFAIIIの 摂取 はestrogen欠 乏に よるCa 吸 収障 害を 完全 に回 復さ せたが 、VD欠乏 によ るCa吸収 障害 は、 部分 的な 回復 にと どまっ た 。VD欠乏 によ って タイ トジャ ンク ショ ンが 関与 する 上皮 細胞 聞輸 送で のCa吸収 が低下 し た 状 態 で は 、 DFAIIIに よ る 促 進 作 用 が 弱 ま っ た も の と 思 わ れ る 。 総 括 す る と 、DFAIII、ra伍nose、WSSF摂 取はestmgen欠 乏に よるCa吸 収障 害を 回復 さ
せた。特にDFAIIIは小腸と大腸の両方でCa吸収を促進した。長期にわたるDFAIIIの摂取 はestrogenによる骨量減少を完全に回復させ、さらにVD欠乏によるCa吸収障害に対して もDFAIIIの有効性が示された。本研究で得られた基礎データは、骨粗鬆症の予防・治療用 の食品素材開発のために提供できるものと思われる。DFAIIIに関しては、ヒトでの有効性 が確認され、サプリメントとしてすでに商品化されている。raffinoseやWSSFについても、
今後より詳細な作用機構の解析とともに、ヒトでの有効性の確認がなされることを期待す る。
学位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授 原 教 授 浅 教 授 松 助 教 授 石
博 野 行 蔵 井 博 和 塚 敏
学 位 論 文 題 名
Estrogen 欠 乏動物の 難消化 性糖類摂 取によ る カ ルシウ ム吸収促進作用の解析
本 論 文 は 、121頁 か ら な る和 論 文 で あ り 、 図20と 表38を 含 み 、 参 考 論文5編が 添え られ ている。
骨粗 鬆症 は日 本に おい て約1,000万人の罹患患者が推定されており、人口の急速な高齢 化 とと もに 、そ の数 は今 後さ らに 増加すると推察されている。骨粗鬆症が閉経後の女性に 多 く見 られ るこ とか ら、estrogen欠乏が閉経後骨粗鬆症の重要な因子であると考えられて い る。 また 骨粗 鬆症 の臨 床は すで に発生した骨折の治療ではなく、その防止が主目的とな っ て お り 、骨 粗鬆 症に 対す る栄 養素 レベ ルのり スク ファ クタ ーと して カル シウ ム(Ca)摂 取 不足 が取 り上 げら れて いる 。そ こで本研究では、骨粗鬆症の予防になりうる機能成分を 探 索す るこ とを 目的 とし て、 骨粗 鬆症の予防や治療薬の開発に用いられる代表的なモデル 動 物 で あ る 卵 巣 摘 出(OVX)ラ ッ ト を 用 い て、種 々の 難消 化性 糖類 摂取 によ るCa吸収 促進 作 用 の 評 価を 行い 、な かで も強 いCa吸収 促進作 用が 示さ れた 難消 化性 ニ糖 類difructose anhydride III (DFAIII,di―D―fructofuranosyl1,2 :2,3 anhydride)に関しては、Ca 吸 収促 進作 用部 位の 検討 、長 期摂 取に よる 骨代 謝への 影響 、ビ タミンDとestrogen欠乏の 相互作用を解析し、以下のような結果を得ている。
1.飼料生Q血ヒ釡坐がestrogen筮垂乏2とQ幺吸躯!三豊圭歪髮饗
Caレベルが異なる4種の飼料(1. 0,2.O,3.O,4.OgCa/kg diet)を、OVXと擬手術(Sham) ラ ット に摂 食さ せ、Ca吸 収に与える影響を検討した。その結果2.Og、3.OgCa/kg diet摂 取 群 でOVXラ ッ ト の 正 味Ca吸 収 率 はShamラ ッ ト に 比 ベ 低 下 し、OVXに よるCa吸 収率 の低 下は、飼料中のCaレベルに依存することを確認した。
2.種窒Q難消iヒ性糖類擾亟!三よ歪g!吸躯促進佐目cD鰹柢
骨粗鬆症の予防になりうる機能成分を探索することを目的として、OVXラットにDFAIII、 難消化性オリゴ糖であるraffinose、そして水溶性大豆食物繊維(WSSF,water‑soluble soybean fiber)を摂取させ、Ca吸収促進作用を評価した。その結果、これらすべての難 消化性糖類摂取fま OvxラットにみられるCa吸収障害を回復させた。特にDFAIIIは1.5%と いう低レベルでもCa吸収を促進させることが示され、強いCa吸収促進作用を持っことが 明らかになった。
3.DFAIII擾 璽i三 よ 歪g! 吸 腿 促 進 佐 周 ! 三 盈t墨 士4ニ 腿 : 太 腸 部 僮cD壷 生 血ぬtr0,in situの研究で、 DFAIIIは小腸と大腸の双方でCa吸収を促進していること が示されているが、ねぬvoでは確認されていない。また、estrogen欠乏状態でのCa吸収 促進作用機序に関しても、詳細な解析は行なわれていない。そこで、広範囲大腸切除手術 を行なったOVXラットを用いて、小腸、大腸におけるDFAIII摂取によるCa吸収促進作用 機序の検討を行なった。その結果、DFAIIIは小腸と大腸の双方でCa吸収を促進させるこ とを確認した。
4.DFAIIIQ長期擾亟!三よ釜g!吸腿盈埜畳岱誼Q促進
OvXラットにおけるCa吸収と骨代謝の関係を明らかにすることを目的とし、長期間にわ たってDFAIIIを摂取させ骨代謝に及ばす影響を検討した結果、DFAIIIの長期摂取は、骨 中ミネラルとコラーゲンの濃度を増加させ、OVXによる骨量減少を完全に回復させること を明らかにした。
5.DFAIII擾 亟i三よ 歪g! 吸 躯促進佐日 !三及lif士estrogenと埜窒ミZQ筮垂Q影 饗 高齢者に見られるビタミンD (VD)欠乏によるCa吸収障害に着目し、VDまたはestrogen 欠乏、さ らにVDとestrogenの双方が欠乏した状態でのDFAIII摂取によるCa吸収促進作 用を評価した。その結果、DFAIIIの摂取はestrogen欠乏によるCa吸収障害を完全に回復 さ せ 、 VD欠 乏 に よ る Ca吸 収 障 害 は 部 分 的 に 回 復 さ せ る こ と が 示 さ れ た 。
本論文は、難消化性オリゴ糖であるDFAIII、raffinose、およぴ大豆水溶性繊維の摂取 がestrogen欠乏によるCa吸収障害を回復させることを明らかにした。さらにDFAIIIは小 腸と大腸の双方でCa吸収を促進させ、estrogen欠乏による骨量減少を完全に回復させる こと、またVD欠乏によるCa吸収障害に対しても有効であることを明らかにした。これら の結果は、骨粗鬆症の予防、治療用の食品素材開発のために提供できる基礎データであり、
高く評価できる。
よって、審査員一同は、三田村理恵子が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を 有するものと認めた。